説明

気泡除去装置

【課題】比較的広範囲に亘って輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去することのできる気泡除去装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る気泡除去装置では、輸液チューブを挟持した状態で振動させることにより、前記輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去する気泡除去装置において、前記振動を発生させる振動生成手段と、前記輸液チューブに接触させるローラと、同ローラを駆動するモータと、を備え、前記振動生成手段にて発生させた振動を前記輸液チューブに伝達させつつ、前記モータによって前記ローラを回転させることにより、前記輸液チューブに沿って移動しながら除泡することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡除去装置に関し、より具体的には、輸液装置を用いて患者の体内に輸液剤を注入する際に、輸液チューブの内壁に気泡が付着するのを予防したり、付着した気泡を除去する自走振動式の気泡除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体液の補給や電解質バランスの補正、栄養補給などを目的として、水分や薬液、栄養素などの輸液剤を、血管を介して非経口的に投与する輸液が行われている。
【0003】
このとき、輸液剤の温度が変化すると、輸液剤に溶け込んでいる気体の溶解度が低下してしまい、この気体が気泡となって輸液チューブの内壁に付着することがある。
【0004】
このようにして発生した気泡は、時間の経過と共にそのサイズが大きくなるため、そのまま放置しておくと、輸液チューブの内壁から剥がれて輸液剤と共に患者の血管に注入されるおそれがあり、極めて危険である。
【0005】
そこで、輸液チューブの所定位置を挟持させ、別途設けられた気泡検出センサによって気泡が検出された時には、挟持部位に振動を付与して除泡する据え置き型の輸液装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このような輸液装置によれば、輸液チューブの内壁に付着した気泡を自動的に除去することができ、医療従事者の労力を軽減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−305141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の据え置き型の輸液装置では、振動が伝搬する範囲が非常に狭く、広範囲に亘って気泡の除去を行うことができなかった。
【0009】
すなわち、輸液チューブは可撓性を有することから、挟持位置から離れるに従って振動が減衰し易く、輸液装置から離れた部分に付着した気泡を除去することは困難であった。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、比較的広範囲に亘って輸液チューブの内壁に気泡が付着するのを予防したり、付着した気泡を除去することのできる気泡除去装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る本発明では、輸液チューブを挟持した状態で振動させることにより、前記輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去する気泡除去装置において、前記振動を発生させる振動生成手段と、前記輸液チューブに接触させるローラと、同ローラを駆動するモータと、を備え、前記振動生成手段にて発生させた振動を、前記ローラを介して前記輸液チューブに伝達させつつ、前記モータによって前記ローラを回転させることにより、前記輸液チューブに沿って移動しながら除泡することとした。
【0012】
また、請求項2に係る本発明では、請求項1に記載の気泡除去装置において、前記輸液チューブ上の障害物を検知して前記モータの軸の回転方向を逆転させることにより、前記移動の方向を反転させる往復移動手段を備えることに特徴を有する。
【0013】
また、請求項3に係る本発明では、請求項1又は請求項2に記載の気泡除去装置において、前記輸液チューブを挿通させる挿通孔を備え、同挿通孔の内壁面には、前記ローラを露出させていることに特徴を有する。
【0014】
また、請求項4に係る本発明では、請求項3に記載の気泡除去装置において、前記ローラの露出部位に対向する挿通孔の内壁面には、従動ローラを露出させていることに特徴を有する。
【0015】
また、請求項5に係る本発明では、請求項4に記載の気泡除去装置において、前記挿通孔の内壁面における前記従動ローラの露出位置は、前記ローラの露出部位の正面対向位置から輸液チューブの伸延方向にオフセットした位置としたことに特徴を有する。
【0016】
また、請求項6に係る本発明では、請求項4又は請求項5に記載の気泡除去装置において、前記ローラ及び前記従動ローラは、その表面を軸側に向けて湾曲させた凹状周面部を備えることに特徴を有する。
【0017】
また、請求項7に係る本発明では、請求項6に記載の気泡除去装置において、前記凹状周面部は、挟持される輸液チューブの周面の曲率以下の曲率で湾曲させていることに特徴を有する。
【0018】
また、請求項8に係る本発明では、請求項1〜7いずれか1項に記載の気泡除去装置において、前記振動の前記輸液チューブへの伝達は、前記ローラを介して行うことに特徴を有する。
【0019】
また、請求項9に係る本発明では、請求項1〜8いずれか1項に記載の気泡除去装置において、前記挿通孔に沿って縦割とした第1分割体と第2分割体とが、前記輸液チューブの挿通方向に平行な軸を介して回動自在に連結されており、前記挿通孔から輸液チューブを取り外し可能な開状態と、前記挿通孔の内壁面に露出させたローラの周面で輸液チューブを挟持する閉状態とに変位可能としたことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る本発明では、前記振動を発生させる振動生成手段と、輸液チューブに接触させるローラと、同ローラを駆動するモータと、を備え、振動生成手段にて発生させた振動を、ローラを介して輸液チューブに伝達させつつ、モータによってローラを回転させることにより、輸液チューブに沿って移動しながら除泡することとしたため、比較的広範囲に亘って輸液チューブの内壁に気泡が付着するのを予防したり、付着した気泡を除去することができる。
【0021】
また、請求項2に係る本発明では、前記輸液チューブ上の障害物を検知して前記モータの軸の回転方向を逆転させることにより、前記移動の方向を反転させる往復移動手段を備えることとしたため、輸液チューブの内壁に付着した気泡を自動的に繰り返し除去することができる。
【0022】
また、請求項3に係る本発明では、前記輸液チューブを挿通させる挿通孔を備え、同挿通孔の内壁面には、前記ローラを露出させていることとしたため、輸液チューブを挟持した状態で、気泡除去装置を輸液チューブに沿って移動させることができる。
【0023】
また、請求項4に係る本発明では、前記ローラの露出部位に対向する挿通孔の内壁面には、従動ローラを露出させていることとしたため、輸液チューブに沿って移動する際の摩擦抵抗を可及的低減することができる。
【0024】
また、請求項5に係る本発明では、前記挿通孔の内壁面における前記従動ローラの露出位置は、前記ローラの露出部位の正面対向位置から輸液チューブの伸延方向にオフセットした位置としたため、輸液チューブの過度な狭窄を防止しつつ、気泡除去装置に輸液チューブをしっかりと挟持させることができる。
【0025】
また、請求項6に係る本発明では、前記ローラ及び前記従動ローラは、その表面を軸側に向けて湾曲させた凹状周面部を備えることとしたため、より広い面積で輸液チューブを挟持しつつ、気泡除去装置に輸液チューブをしっかりと挟持させることができる。
【0026】
また、請求項7に係る本発明では、前記凹状周面部は、挟持される輸液チューブの周面の曲率以下の曲率で湾曲させているため、凹状周面部に輸液チューブをフィットさせることができ、ローラの輸液チューブに対する滑りに由来する駆動ロスを可及的減少することができる。
【0027】
また、請求項8に係る本発明では、前記振動の前記輸液チューブへの伝達は、前記ローラを介して行うこととしたため、気泡除去装置の輸液チューブに対する摩擦抵抗を低減しつつ、確実に振動を輸液チューブに対して付与することができる。
【0028】
また、請求項9に係る本発明では、前記挿通孔に沿って縦割とした第1分割体と第2分割体とが、前記輸液チューブの挿通方向に平行な軸を介して回動自在に連結されており、前記挿通孔から輸液チューブを取り外し可能な開状態と、前記挿通孔の内壁面に露出させたローラの周面で輸液チューブを挟持する閉状態とに変位可能としたため、輸液チューブに対して気泡除去装置を容易に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】患者に輸液を行うための点滴装置を示した説明図である。
【図2】本実施形態に係る気泡除去装置の外観を示した説明図である。
【図3】気泡除去装置の断面を示した説明図である。
【図4】気泡除去装置の断面を示した説明図である。
【図5】気泡除去装置の断面を示した説明図である。
【図6】気泡除去装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図7】制御部が実行するメインフローを示した説明図である。
【図8】メインフローから分岐する状態チェック処理のフローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、輸液チューブを挟持した状態で振動させることにより、前記輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去する気泡除去装置において、前記振動を発生させる振動生成手段と、前記輸液チューブに接触させるローラと、同ローラを駆動するモータと、を備え、前記振動生成手段にて発生させた振動を前記輸液チューブに伝達させつつ、前記モータによって前記ローラを回転させることにより、前記輸液チューブに沿って移動しながら除泡する気泡除去装置を提供するものである。
【0031】
ここで、振動生成手段により生成される振動は、輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去可能な振動であって、輸液を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。
【0032】
このような振動生成手段であって好適なものを例示すると、例えば、振動モータによる振動や、超音波振動を挙げることができる。振動モータによって振動を発生させることとすれば、振動生成手段を比較的安価とすることができる。また、超音波によって振動を発生させることとした場合、例えば、輸液チューブの壁面に対して直交する方向へ数十kHzの超音波を発生させることにより、輸液チューブの内壁面に付着した気泡を効率よく除去することができる。
【0033】
また、輸液チューブに接触させるローラは、同ローラを駆動するモータ(以下、駆動モータともいう。)に連結されており、駆動モータを稼働させることにより、ローラに回転力を付与するよう構成している。以下、このようにモータに連結されているローラを駆動ローラともいう。
【0034】
駆動モータと駆動ローラとの連結は、駆動モータのモータ軸上に駆動ローラを同軸状に設けて連動連結しても良く、また、ギア等を介して動力を伝達するよう構成しても良い。これらの連結は、形成する気泡除去装置の形状に合わせて、適宜レイアウトすることができる。
【0035】
これらの構成を備えることにより、本実施形態に係る気泡除去装置では、振動生成手段にて生成した振動を輸液チューブに伝達させて気泡を除去しながら、輸液チューブに沿って移動させるよう構成している。したがって、比較的広範囲に亘って輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去することができる。
【0036】
なおこの際、気泡除去装置の移動速度を適宜変更可能に構成しても良い。例えば、比較的粘性の高い輸液剤を用いて輸液を行っている場合には、輸液チューブの内壁に付着した気泡が除泡されにくい場合がある。そこで、気泡除去装置の輸液チューブに対する移動速度を適宜変更可能に構成し、例えば移動速度を遅く設定することにより、気泡に対して十分な時間振動を与えることができ、除泡を確実に行わせることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る気泡除去装置は、輸液チューブ上の所定区間内を往復するように構成しても良い。
【0038】
このような構成としては、例えば、輸液チューブ上の障害物を検知して駆動モータの軸の回転方向を逆転させることにより、移動の方向を反転させる往復移動手段を備えることで実現させることも可能である。
【0039】
ここで障害物とは、輸液チューブ上に存在し、気泡除去装置の進行を妨げる物体を意味するものであり、医療従事者等によって意図的に設けられた物や、非意図的に存在するものを含む。
【0040】
このような障害物のうち、意図的に設けられたものを例示するならば、例えば、輸液装置を構成するドロップチェンバや、輸液ポンプを挙げることができる。
【0041】
すなわち、本実施形態に係る気泡除去装置は、輸液チューブ上をドロップチェンバと輸液ポンプとの間で往復動作するようにしても良い。なお、この例示は、本実施形態に係る気泡除去装置の往復位置を限定するものではなく、例えば、輸液バッグとドロップチェンバとの間での気泡除去装置の使用を妨げないのは勿論である。
【0042】
往復移動手段は、これらの障害物を検知して駆動モータのモータ軸の回転方向を逆転させて、気泡除去装置の進行方向を反転させる。
【0043】
障害物の検知は、特に限定されるものではない。例えば、障害物との当接や、障害物の接近を検出可能なセンサにより行うようにしても良い。
【0044】
また、駆動モータの負荷状態を制御部により監視して、障害物により進行が妨げられていると判断した場合には、駆動モータのモータ軸の回転方向を逆転させるよう構成しても良い。
【0045】
このように構成することにより、輸液チューブの内壁に付着した気泡を自動的に繰り返し除去することができる。
【0046】
なお、往復の回数は1回(1往復)であっても良く、また、複数回行うようにしても良い。これらは予め設定されていても良く、また、医療従事者等が適宜決定した往復回数を設定可能に構成しても良い。
【0047】
また、往復動作は、連続して行うようにしても良く、間欠的に行うようにしても良い。間欠的に行う場合には、適宜インターバル時間(待機時間)を設定可能とすることで、効率的に除泡を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る気泡除去装置は、輸液チューブを挿通させる挿通孔を備え、同挿通孔の内壁面には、駆動ローラを露出させるのが好ましい。このような構成とすることにより、輸液チューブをしっかりと挟持した状態で、気泡除去装置を輸液チューブに沿って移動させることが可能となる。
【0049】
また、挿通孔には、駆動ローラの他に、駆動モータに連結されていない従動ローラを露出させるよう構成しても良い。従動ローラは、駆動ローラの露出部位に対向する挿通孔の内壁面に露出させるのが良い。
【0050】
また、特に従動ローラは、駆動ローラの露出部位の正面対向位置から輸液チューブの伸延方向にオフセットした位置とするのがより好ましい。このような構成とすることにより、輸液チューブの狭窄を防止しつつ、輸液チューブを気泡除去装置にしっかりと挟持させることができる。
【0051】
このとき、従動ローラは1つであっても良いが、2つ以上設けるのがより好ましい。特に、駆動ローラの露出部位の正面対向位置から輸液チューブの伸延方向にオフセットした上下2箇所に、それぞれ従動ローラを挿通孔の内方へ向けて露出させるように配置することで、輸液チューブを三点で挟持することができ、気泡除去装置の輸液チューブへの装着をより確実なものとすることができる。
【0052】
このように、駆動ローラ及び従動ローラは、それぞれ輸液チューブに接触させて用いられるものであるが、ここで駆動ローラ及び/又は従動ローラは、その表面を軸側に向けて湾曲させた凹状周面部を備えるようにしても良い。換言すれば、駆動ローラ及び/又は従動ローラは、外観視略鼓状に形成しても良い。
【0053】
このように、ローラの表面に凹状周面部を備えることで、ローラを輸液チューブにフィットさせて、輸液チューブの狭窄を防止しながらも、十分な挟持面積を確保することができる。
【0054】
このとき、凹状周面部は、挟持される輸液チューブの周面の曲率以下の曲率で湾曲させるのが好ましい。
【0055】
輸液チューブは、ローラにより挟持されると、その接触部位が偏平状に変形して、断面視略楕円形となる。それゆえ、凹状周面部を挟持される輸液チューブの周面の曲率以下の曲率としておくことにより、挟持した際に輸液チューブに対してローラをより密着させることができる。
【0056】
ところで、前述したように本実施形態に係る気泡除去装置は、振動生成手段にて発生させた振動を輸液チューブに伝達させて除泡するものであるが、この振動の輸液チューブへの伝達は、駆動ローラ及び/または従動ローラを介して行うこととしても良い。
【0057】
勿論、別途設けた振動伝達体や、振動生成手段そのものを輸液チューブに接触させて、駆動ローラ及び/または従動ローラを介することなく、振動生成手段にて発生させた振動を輸液チューブに伝達するように構成しても良いが、輸液チューブと気泡除去装置との間の接触箇所は、気泡除去装置の移動の際に発生する抵抗の観点から考えると、できるだけ減らした方が好ましいといえる。
【0058】
その点、振動の輸液チューブへの伝達を、駆動ローラ及び/または従動ローラを介して行うこととすれば、輸液チューブとの接触箇所を新たに増やすことなく、輸液チューブに対して振動を効率的に伝達することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る気泡除去装置は、輸液チューブに対してクランプ状に取り付ける構造としても良い。
【0060】
具体的には、挿通孔に沿って縦割とした第1分割体と第2分割体とが、輸液チューブの挿通方向に平行な軸を介して回動自在に連結されており、挿通孔から輸液チューブを取り外し可能な開状態と、挿通孔の内壁面に露出させた駆動ローラ及び/又は従動ローラの周面で輸液チューブを挟持する閉状態とに変位可能に構成しても良い。
【0061】
このような構成とすることにより、開状態とした気泡除去装置を輸液チューブにクランプさせて容易に取付でき、また、輸液チューブに取り付けられた状態にある気泡除去装置を開状態とすることで、容易に取り外すことができる。
【0062】
上述してきたように、本実施形態に係る気泡除去装置によれば、上記各構成を備えることにより、輸液バッグから供給される輸液剤を案内するための輸液チューブに簡易的に装着でき、自動でチューブ表面を移動しつつ輸液チューブを振動させ、輸液チューブ内小気泡の輸液剤内遊離後の気泡をドロップチェンバへ一定方向に振動させながら移動させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る気泡除去装置によれば、あらゆる種類の輸液チューブに装着可能となる。しかも、小気泡付着発生を予防的に阻止し、あるいは、発生している小気泡を本装置の振動体移動と共に輸液チューブの内壁面から遊離した気泡はその浮力によりドロップチェンバ(点滴筒)等に追い込み自動的に除去されることとなる。
【0064】
また、輸液チューブを移動する際に、輸液装置からドロップチェンバ方向に移動する場合のみ装置本体が振動するよう構成することで、生体側への小気泡の流入を防止することも可能である。
【0065】
このような構成により、輸液チューブが振動発生手段により振動しても、輸液剤を生体へ安全に注入可能で、輸液装置内の気泡センサで気泡が検知されることが無い。
【0066】
また、振動生成手段が備えられた気泡除去装置が輸液チューブ上を自動的に移動することにより、輸液チューブの壁面に振動を付与し、内壁面の気泡の付着予防と、付着した小気泡を遊離させるようにすることで、気泡が拡大し遊離した気泡が輸液ポンプ内の気泡センサで感知されて輸液ポンプ駆動停止状態となることを防止できるとともに、医療従事者等による繁雑な輸液チューブ内の手作業による気泡除去が不要となり、病院内の省力化を図ることもできる。
【0067】
以下、本実施形態に係る気泡除去装置について、図面を参照しながら更に具体的に説明する。
【0068】
図1は、患者Pに輸液を行うための点滴装置1を示した説明図である。図1に示すように、点滴装置1は、輸液剤2が収容された輸液バッグ3と、輸液バッグ3を吊下して患者Pよりも高所に保持する点滴スタンド4と、輸液バッグ3内の輸液剤2を患者Pに導入するための輸液流路部5とで構成されている。
【0069】
輸液バッグ3は、可撓性を有する樹脂袋内に、患者Pに血管を介して導入するための輸液剤2が無菌的に収容されたものであり、点滴スタンド4に係止するための環状の吊下部3aが上部に備えられている。また、下部には輸液流路部5を接続するための流路取付部3bが形成されている。
【0070】
点滴スタンド4は、上下方向に伸延する支柱4aが備えられており、その頂部には水平方向に伸延する支持棹4bが配設されている。この支持棹4bの両端には、先端をループ状に形成してなるフック4cが備えられており、輸液バッグ3の吊下部3aをこのフック4cに係合させることにより、点滴スタンド4に輸液バッグ3を吊下可能に構成している。
【0071】
輸液流路部5は、ドロップチェンバ6と、接続チューブ7と、輸液チューブ8と、輸液ポンプ9と翼状針10とで構成している。
【0072】
ドロップチェンバ6は、輸液バッグ3より供給される輸液剤2の流下緩衝手段として輸液流路上に設けられている。このドロップチェンバ6は、その内部に輸液剤2を滴下させて、患者Pへの輸液剤2の導入量を目視確認できるよう構成している。
【0073】
また、ドロップチェンバ6は、貯留する輸液剤2の量を適宜調整して、その内部に上部空間6aを形成して使用するものであり、この上部空間6aは、輸液流路中に発生した気泡を逃がす部位としても機能する。
【0074】
接続チューブ7は、輸液バッグ3内の輸液剤2をドロップチェンバ6へ導いて滴下するための接続具であり、一端が輸液バッグ3の流路取付部3bに接続され、他端がドロップチェンバ6の上部に接続されている。
【0075】
輸液チューブ8は、合成樹脂で形成された可撓性を有する管状の部材であり、一端にドロップチェンバ6を接続し、他端に翼状針10を接続した状態で、ドロップチェンバ6の下部に貯留された輸液剤2を患者Pに導入する流路として機能する。
【0076】
輸液ポンプ9は、患者Pへの輸液剤2の送給を行うポンプである。本実施形態では、この輸液ポンプは一例としてフィンガー式のポンプを用いているが、一般に輸液用途に用いられるポンプであればこれに限定されるものではなく、例えば、ローラ式(ペリスタ型)のものを使用しても良い。
【0077】
翼状針10は、輸液チューブ8にて流下する輸液剤2を患者Pの血管内へ導入するための注射針10aと、この注射針10aの両脇に体表に固定しやすくするための翼部10bとが備えられた針である。本実施形態では、患者Pの腕にテープ11を用いて固定している。
【0078】
このような構成を備える点滴装置1で患者に対して輸液剤2を導入するようにしている。なお、以下の説明において、輸液流路の患者P側を下流、輸液バッグ3側を上流という。
【0079】
そして、本実施形態に係る気泡除去装置Aは、その装着の一例として、輸液ポンプ9とドロップチェンバ6との間の輸液チューブ8上に装着されており、輸液ポンプ9とドロップチェンバ6との間を往復移動しながら、輸液チューブ8の内壁に発生して付着した気泡を除去し、ドロップチェンバ6の上部空間6aに逃がすようにしている。また、同区間において、微小な気泡が付着してこれが大きくなるのを予防するようにしている。
【0080】
図2は本実施形態に係る気泡除去装置Aの外観を示した説明図である。図2(a)は正面上部からの斜視図であり、図2(b)は背面下部からの斜視図である。
【0081】
本実施形態に係る気泡除去装置Aは、略矩形箱状の外観を有しており、それぞれの角部を丸めて引っかかりを無くした形状としている。
【0082】
気泡除去装置Aは、その上面部20から下面部21にかけて貫通する輸液チューブ8を挿通するための挿通孔22を備えている。
【0083】
また、気泡除去装置Aは、挿通孔22に沿って縦割り状に2つの分割体によって構成されている。具体的には、図2(a)に示す左半部を形成する第1分割体23と、右半部を構成する第2分割体24とで構成されている。
【0084】
第1分割体23と第2分割体24とは、挿通孔22に平行(輸液チューブ8の挿通方向に平行)に背面部25に設けられた枢軸部12を介して互いに回動自在に連結されており、輸液チューブ8に対して気泡除去装置Aをクランプ状に取付可能に構成している。
【0085】
より具体的に説明すると、図3及び図4に示すように、第1分割体23の第2分割体24と対向する面には、輸液チューブ8の挿通方向に沿って断面視略半円形の挿通孔形成溝25aが形成されている。また、第2分割体24の第1分割体23と対向する面には、挿通孔形成溝25aと同様に、輸液チューブ8の挿通方向に沿って断面視略半円形の挿通孔形成溝25bが形成されている。これらの挿通孔形成溝25a,25bには、後述の駆動ローラ32及び従動ローラ33を挿通孔22の内方に向けてその内壁面よりも突出させた状態で露出させており、挿通孔22内に挿通させた輸液チューブ8を挟持可能としている。なお、図3に示すように、本明細書において挿通孔22の内壁面に露出させた駆動ローラ32や従動ローラ33の周面により輸液チューブ8を挟持する気泡除去装置Aの状態を閉状態といい、図4に示すように挿通孔22から輸液チューブ8を取り外し可能な状態を開状態という。
【0086】
そして、挿通孔形成溝25aと挿通孔形成溝25bとで輸液チューブ8を囲いつつ閉状態とすることにより、気泡除去装置Aの挿通孔22に輸液チューブ8が挿通された状態となるよう構成している。すなわち、前述の挿通孔22の内壁面は、これらの挿通孔形成溝25aと挿通孔形成溝25bとが組み合わされて形成される。なお、第1分割体23と第2分割体24とは枢軸部12を介して電気的にも接続されている。すなわち、後に詳述するが、第1分割体23内に設けられている各種電機部品と、第2分割体内に設けられている各種電機部品は電気的に接続された状態である。これは例えば、枢軸部12においてフレキシブルケーブル等を介して行われる。
【0087】
また、気泡除去装置Aの前面部26には、気泡除去装置Aの状態を医療従事者等の使用者に対して報知するための状態表示部27が備えられている。
【0088】
状態表示部27には、気泡除去装置Aが正常に稼働していることを報知するための正常ランプL1と、気泡除去装置Aが異常状態にあることを報知するための異常ランプL2と、気泡除去装置Aを駆動するための電源が不足していることを報知するための要充電ランプL3とが配置されている。これらの各ランプL1〜L3は、後述の制御部40にそれぞれ電気的に接続されており、制御部40の制御によって点灯又は消灯する。
【0089】
また、気泡除去装置Aの上面部20には、挿通孔22の周縁部に沿って上面部20に近接する障害物を検知するための上部近接センサ28が配設されている。
【0090】
この上部近接センサ28は、後述の制御部40に電気的に接続されており、障害物の上面部20への接近を検知すると、障害物接近信号を制御部40へ送信する。本実施形態では、気泡除去装置Aは輸液ポンプ9とドロップチェンバ6との間を往復移動させることとしているため、上部近接センサ28は上流側のドロップチェンバ6を障害物として検知する。
【0091】
また、気泡除去装置Aの下面部21にも、上面部20と同様に、挿通孔22の周縁部に沿って下面部21に近接する障害物を検知するための下部近接センサ29が配設されている。この下部近接センサ29も上部近接センサ28と同様、後述の制御部40に電気的に接続されている。本実施形態では、下部近接センサ29は下流側の輸液ポンプ9を障害物として検知する。
【0092】
なお、これらの上部近接センサ28や下部近接センサ29は、障害物の接近を検出することが可能なセンサであれば特に限定されるものではなく、例えば、超音波によって障害物の接近を検出するものや、出射した光の反射角度によって障害物の接近を検出するものを利用することができる。
【0093】
また、気泡除去装置Aの背面部25には、主電源スイッチ30が設けられており、ユーザにより、気泡除去装置Aの電源のON/OFFが行われるよう構成している。
【0094】
次に、気泡除去装置Aの内部構成を中心に、図3〜図6を参照しながら説明する。図3及び図4は挿通孔22の伸延方向に対して垂直に交わる断面を示した説明図であり、図5は挿通孔22の伸延方向に沿う断面を示した説明図である。図3及び図5は輸液チューブ8を挟持した状態を示しており、図4は輸液チューブ8から取り外された状態を示している。また、図6は気泡除去装置Aの電気的構成を示したブロック図である。
【0095】
図3及び図4に示すように、気泡除去装置Aの内部には、制御基板36と、駆動モータ31と、駆動ローラ32と、従動ローラ33と、振動モータ34と、電源部35とが設けられている。
【0096】
制御基板36は、図6に示すように、駆動モータ31、振動モータ34、電源部35、上下近接センサ28,29、ランプL1〜L3、主電源スイッチ30とそれぞれ電気的に接続されており、各種信号の送受信や送給電力の調整等を行う制御部40が電気回路によって形成されている。
【0097】
また、制御基板36には、図4〜図5中における具体的な図示は省略するが、複数の異常検出センサ群37が接続されている。この異常検出センサ群37は、例えば、駆動モータ31の過負荷状態を検出したり、振動モータ34の振動状態を検知したり、駆動ローラ32の回転を検出したり、従動ローラ33の回転を検出するようそれぞれの機器に配設されており、それぞれの機器の異常状態を検出した際には、制御部40へ異常信号を送信するよう構成している。
【0098】
駆動モータ31は、駆動ローラ32を駆動するための動力を生起するためのモータであり、電源部35からの電力を用いて稼働する。また、駆動モータ31は、制御部40の制御により、気泡除去装置Aを輸液チューブ8に取り付けた際に輸液チューブ8上を上流方向へ移動させる正転と、下流方向へ移動させる逆転とに駆動モータ軸31aの回転方向を切替可能としている。
【0099】
駆動ローラ32は、駆動モータ31にて生起した動力により回転するローラであり、駆動モータ31に連動連結されている。
【0100】
具体的には、図3及び図4に示すように、駆動ローラ32は、第1分割体23の前面部26と背面部25とに設けられた軸受部41に駆動ローラ軸32aを軸架して回転自在な状態で配設するとともに、駆動ローラ軸32aに同軸状に設けた従動プーリ32bと、駆動モータ軸31aに同軸状に設けられた駆動プーリ31bとの間に駆動ベルト42を掛け回して、駆動モータ31により生起された動力を伝達しつつ回転駆動可能に構成している。なお、本実施形態では、駆動モータ31で生起した動力を駆動ローラ32に伝達するに際し、駆動ベルト42を用いることとしたが、これに限定されるものではなく、各プーリ31b,32bに代えてギア同士を噛合させて伝達するように構成しても良く、また、ギアボックス等を介設して変速可能に構成しても良い。
【0101】
また、図3に示すように駆動ローラ32は、輸液チューブ8を挿通させる挿通孔22の内壁面に突出させた状態で露出させて配置している。
【0102】
このような構成とすることにより、挿通孔22に挿通した輸液チューブ8に駆動ローラ32を密着させることができ、輸液チューブ8との間の滑りを防止しつつ、気泡除去装置Aを輸液チューブ8に沿って移動させることができる。
【0103】
また、駆動ローラ32の表面は、図3及び図4に示すように、両端から中央部にかけて縮径させて、その表面に凹状周面部43を形成している。換言すれば、駆動ローラ32には、表面を軸側に向けて所定の曲率で湾曲させてなる凹状周面部43を備えている。したがって、より広い面積で輸液チューブ8を挟持しつつ、気泡除去装置Aに輸液チューブ8をしっかりと挟持させることができる。
【0104】
また、上記所定の曲率は、使用する輸液チューブ8の周まわりの曲率よりも同じか小さい曲率としている。それゆえ、凹状周面部43に輸液チューブ8をフィットさせることができ、駆動ローラ32の輸液チューブ8に対する滑りに由来する駆動ロスを可及的減少することができる。
【0105】
従動ローラ33は、図3に示すように、回転自在に配置されたローラであり、前述の駆動ローラ32とともに、挿通孔22に挿通した輸液チューブ8を挟持しつつ、気泡除去装置Aの移動時の摩擦を低減する役割を有するものである。なお、本実施形態に係る気泡除去装置Aでは、図5に示すように、この従動ローラ33を上下に2つ設けている。
【0106】
具体的には、従動ローラ33は、第2分割体24の前面部26と背面部25とに設けられた軸受部41に従動ローラ軸33aを軸架して回転自在な状態で配設されている。
【0107】
従動ローラ33もまた、前述の駆動ローラ32と同様に、挿通孔22の内壁面に、挿通孔22の内方へ向けて突出させた状態で露出させて配設している。
【0108】
この従動ローラ33を露出させる挿通孔22の内壁面における位置は、図3及び図4からもわかるように、駆動ローラ32の露出部位に対向する位置としている。
【0109】
しかも、本実施形態では、図5からもわかるように、駆動ローラ32の露出部位の正面対向位置Mから輸液チューブ8の伸延方向に、長さLだけオフセットした位置に従動ローラ33を露出させている。
【0110】
このような構成とすることにより、駆動ローラ32による輸液チューブ8の挟持位置と、従動ローラ33による輸液チューブ8の挟持位置とを互い違いとすることができ、輸液チューブ8の過度な狭窄を防止しつつ、気泡除去装置Aに輸液チューブ8をしっかりと挟持させることができる。
【0111】
また、従動ローラ33も駆動ローラ32と同様に、その表面に凹状周面部43が形成されている。これにより、輸液チューブ8に対する従動ローラ33の追従を良好とすることができ、輸液チューブ8をしっかりと挟持することができる。なお、駆動ローラ32及び従動ローラ33の表面、特に凹状周面部43は、輸液チューブ8の表面を滑らないように圧迫しながら回転させるため、シリコン樹脂やゴム等により弾性コーティングを施している。
【0112】
振動モータ34は、図示しない振動モータ軸に、錘が偏心させた状態で固定されており、通電によって振動モータ軸を回動させることにより、振動を発生する振動生成手段として機能するものである。
【0113】
この振動モータ34にて発生させた振動は、輸液チューブ8に接触させる駆動ローラ32及び従動ローラ33を介して伝達されるよう構成している。
【0114】
電源部35は、気泡除去装置Aに備えられた各機器類に電力を供給するための部位である。この電源部35には、図示しないバッテリが収容されており、このバッテリから所定の電圧で電力が供給される。なお、電源部35のバッテリは、各機器類に電力供給が可能であれば、特に限定されるものではない。たとえば、使い切りの電池であってもよく、また、充電可能な電池であっても良い。また、充電可能な電池を採用した場合、その充電の方式についても公知の方法を採用することができ、たとえば、別途設けられたコネクタを介して気泡除去装置Aの外部から電力を供給するよう構成しても良く、また、電磁誘導等によって間接的にバッテリに充電を行うようにしても良い。
【0115】
また、気泡除去装置Aの前面部26には、閉状態を保つためのロック機構38が設けられている(図3及び図4参照。)。本実施形態では、ロック機構38では、第1分割体23と第2分割体24とにそれぞれ磁石38a,38bが互いに引き合うように配設されており、これらを突き合わせることで、閉状態を保つようにしている。また、これらの磁力に抗して枢軸部12を中心に第1分割体23及び第2分割体24を回動することにより、開状態とすることができる。なお、ロック機構38は、開状態に変位可能に閉状態を保つことができる機構であれば特に限定されるものではなく、例えば、第1分割体23及び第2分割体24のいずれか一方に設けたフックを、いずれか他方に設けた係合片に係合させることで閉状態を保つように構成しても良い。
【0116】
つぎに、制御部40が実行する処理について図7及び図8を参照しながら説明する。図7は制御部40が実行するメインフローを示した説明図であり、図8はメインフローから分岐する状態チェック処理のフローを示した説明図である。
【0117】
医療従事者等により、気泡除去装置Aの背面部25に備えられた主電源スイッチ30がON動作されると、制御部40は、まず初期設定を行う(ステップS10)。
【0118】
ここでは、異常検出センサ群37から送信される信号を参照し、異常の有無が判断される。また、ROMにあらかじめ記憶されている基準電圧値の読み込みを行うとともに、電源部35の電圧値と比較して基準電圧値以上の値であるか否かについて判断を行う。これらの判断において、異常が検出されず、電源部35から基準電圧値以上の電圧が得られていると判断されると、制御部40は正常ランプL1を点灯させる。
【0119】
次に、制御部40は、所定時間待機するインターバル処理を実行する(ステップS11)。本ステップは、気泡除去装置Aの稼動を断続的に行う際に待機時間を稼ぐための処理である。たとえば、ROMやRAM等にあらかじめこのインターバル時間を5分に設定しておけば、5分毎に気泡除去装置Aが移動を開始することとなる。なお、気泡除去装置Aが電源投入直後の状態にある場合は、本ステップを数秒で抜けて次ステップを実行するよう構成してもよい。また、本実施形態に係る気泡除去装置Aでは、ROM又はRAM内に記憶させたプログラムをCPUが実行することによりソフトウエア的にインターバル処理を実行することとしたが、これに限定されるものではない。気泡除去装置Aの自走移動の時間間隔は、例えば、制御基板36上に別途設けた時間設定回路等によりハードウェア的に実現させても良い。この際、インターバル時間については、ユーザが所望する時間に適宜設定可能としても良い。
【0120】
次に、制御部40は、駆動モータ31及び振動モータ34を稼動させる(ステップS12)。この処理により、気泡除去装置Aは、輸液チューブ8上で上流方向へ向けて移動を開始するとともに、輸液チューブ8に対して振動を付与して脱泡を開始する。
【0121】
次に制御部40は、気泡除去装置Aに備えられた各機器類の状態をチェックする状態チェック処理を実行する(ステップS13)。この状態チェック処理については、後に図8を参照しながら詳説する。
【0122】
次に制御部40は、上部近接センサが障害物を検知したか否かについて判断を行う(ステップS14)。ここで障害物が検知されていないと判断した場合(ステップS14:No)には、制御部40は再びステップS13に処理を移す。一方、障害物が検知されたと判断した場合(ステップS14:Yes)には、制御部40は処理をステップS15へ移す。
【0123】
ステップS15において制御部40は、振動モータ34の停止処理を行う。この処理により振動モータ34は振動の発生を止め、輸液チューブ8の気泡除去が行われない状態となる。なお、本実施形態では、上流方向に気泡除去装置Aが移動している際に気泡の除去を行い、下流方向に移動する際には気泡の除去を行わないようにしている。これは、下流側へ移動する復路の場合は、一度往路にて気泡の除去を行ったルートを再度通るため、気泡は既に除去されていることから、振動モータ34を停止させて、気泡除去装置Aの電力消費量を可及的抑えるためである。
【0124】
次に制御部40は、駆動モータ31を逆転稼動させる処理を行う(ステップS16)。この処理により、気泡除去装置Aは、輸液チューブ8上で下流方向へ向けて移動を開始する。すなわち、気泡除去装置Aの上流方向への移動中に、上部近接センサ28によってドロップチェンバ6が検出されると、駆動モータ31の駆動モータ軸31aの回転方向を逆転させて、気泡除去装置Aを下流方向へ移動させる。
【0125】
次に制御部40は、再び状態チェック処理を行う(ステップS17)。この状態チェック処理についても、前述のステップS13と同様であり、後に図8を参照しながら詳説する。
【0126】
次に制御部40は下部近接センサ29が障害物を検知したか否かについて判断を行う(ステップS18)。ここで、障害物が検知されていないと判断した場合(ステップS18:No)には、制御部40は、処理を再びステップS17へ戻す。一方、障害物が検知されたと判断した場合(ステップS18:Yes)には、制御部40は処理をステップS19に移す。
【0127】
ステップS19において制御部40は、駆動モータ31を停止させる。これにより、気泡除去装置Aは、輸液チューブ8上で停止することとなる。本ステップS19を終えると制御部40は、処理を再びステップS11へ移すこととなる。
【0128】
次に、メインフローのステップS13及びステップS17にて実行される状態チェック処理について図8を参照しながら説明する。
【0129】
状態チェック処理において制御部40は、ROMに記憶されている基準電圧値の読み込みを行うとともに、電源部35の電圧値を参照し、電源電圧値が基準電圧値以下であるか否かについて判断を行う(ステップS21)。
【0130】
ここで電源電圧値が基準電圧値以下ではないと判断、換言すれば、電源電圧値は基準電圧値を上回っていると判断した場合(ステップS21:No)には、制御部40は処理をステップS24へ移す。一方、電源電圧値が基準電圧値以下であると判断した場合(ステップS21:Yes)には、制御部40は処理をステップS22へ移す。
【0131】
ステップS22において制御部40は、正常ランプL1の消灯を行い、次いで、要充電ランプL3の点灯を行う(ステップS23)。これらの処理により、医療従事者等のユーザに対して、気泡除去装置Aの電源部35が充電が必要な状態にあることを報知するようにしている。本ステップS23を終えた制御部40は、処理をステップS24へ移す。
【0132】
ステップS24において制御部40は、異常検出センサ群37からの信号を参照し、異常状態が発生しているか否かについて判断を行う。ここで異常状態が発生していないと判断された場合(ステップS24:No)には、分岐前のアドレスに処理を戻す。一方、異常状態が発生したと判断された場合(ステップS24:Yes)には、制御部40は処理をステップS25へ移す。
【0133】
ステップS25において制御部40は、正常ランプL1の消灯を行い、次いで、異常ランプL2の点灯を行う(ステップS26)。これらの処理により、医療従事者等のユーザに対して、気泡除去装置Aに異常が発生したことを報知するようにしている。本ステップS26を終えた制御部40は、分岐前のアドレスに処理を戻す。
【0134】
次に、本実施形態に係る気泡除去装置Aの使用方法及び動作について説明する。
【0135】
まず、気泡除去装置Aを輸液ポンプ9とドロップチェンバ6との間の輸液チューブ8に装着する。このとき、輸液チューブ8への装着位置は、できるだけ下流側(輸液ポンプ9に近い位置)に装着する。
【0136】
具体的な装着方法としては、気泡除去装置Aを開状態となし、挿通孔形成溝25a,25bのいずれかに沿わせて輸液チューブ8を載置し、閉状態とすることで、挿通孔22の内壁面に露出させた各ローラの周面で輸液チューブ8をしっかりと挟持させる。
【0137】
次に、主電源スイッチ30をON動作する。これにより気泡除去装置Aの起動が行われる。またここで、仕様や必要に応じて、図示しない指示入力手段によりインターバル時間の調整や、移動速度の調整を行っても良い。
【0138】
次に、初動インターバル時間の経過後、自動的に気泡除去装置Aは上流方向へ向けて輸液チューブ8上での往路移動を開始する。また、これと同時に、振動モータ34で発生させた振動を輸液チューブ8に付与し、輸液チューブ8の内壁に付着した気泡の除去を行う。
【0139】
次に、気泡除去装置Aが輸液チューブ8を振動させながらドロップチェンバ6に達すると、上部近接センサ28がドロップチェンバ6を感知して、駆動モータ31の駆動モータ軸31aの回転が逆転する。
【0140】
この動作により、気泡除去装置Aは下流方向へ向けて復路移動を開始する。また、振動モータ34が停止され、輸液チューブ8の脱泡動作が停止する。
【0141】
次に、気泡除去装置Aが輸液チューブ8の輸液ポンプ9に達すると、下部近接センサ29が輸液ポンプ9を感知して、駆動ローラ32に接続されている駆動モータ31の稼働を停止させる。
【0142】
その後、インターバル時間の作動設定時間間隔に応じて待機動作を行った後、気泡除去装置Aは再び自動で輸液チューブ8を移動しながら振動させて、その内壁面に付着した気泡を壁面から遊離させる動作を繰り返す。すなわち、気泡除去装置Aは、駆動モータ31の回転により一定方向移動しつつ、駆動ローラ32や従動ローラ33により輸液チューブ8を圧迫しながら移動して、輸液チューブ8に対して振動を付与しつつ脱泡を行う。
【0143】
気泡除去装置Aは、例えば、輸液剤2が無くなった時点で主電源スイッチ30をOFF動作することにより停止状態とする。そして、輸液チューブ8に装着されている閉状態の気泡除去装置Aを、開状態に変位させて取り外す。
【0144】
このようにして気泡除去装置Aが設定時間間隔で輸液チューブ8を振動させながら移動することで、輸液チューブ8の内壁に発生した気泡を小さなうちに除去して、大きな気泡が発生してしまうことを予防的に防止することができる。また、気泡が輸液チューブ8内に発生した場合においても、効率よく輸液チューブ8の内壁から遊離させて上流側(ドロップチェンバ6側)に気泡を移動させることができる。
【0145】
また、本実施形態に係る気泡除去装置Aは、輸液チューブ8の種類や、輸液ポンプ9の種類に関係なく輸液チューブ8にセット可能であり、輸液チューブ8内の気泡の発生の原因となる輸液剤2の種類や室内温度、輸液剤2内の混合された気体の量を考慮して作動させることが可能であり、輸液チューブ8内での気泡の拡大によるライン表面からの気泡遊離による輸液ポンプ9内の気泡センサで気泡が感知されることでの輸液ポンプ駆動停止状態となることが防げる。
【0146】
上述してきたように、本実施形態に係る気泡除去装置Aによれば、輸液チューブ8を挟持した状態で振動させることにより、前記輸液チューブ8の内壁に付着した気泡を除去する気泡除去装置において、前記振動を発生させる振動生成手段(たとえば、振動モータ34)と、前記輸液チューブ8に接触させるローラ(たとえば、駆動ローラ32)と、同ローラを駆動するモータ(たとえば、駆動モータ31)と、を備え、前記振動生成手段にて発生させた振動を前記輸液チューブ8に伝達させつつ、前記モータによって前記ローラを回転させることにより、前記輸液チューブに沿って移動しながら除泡することとしたため、比較的広範囲に亘って輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去することができる。
【0147】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0148】
たとえば、本実施形態に係る気泡除去装置Aでは、振動生成手段として振動モータ34を用いることとしたが、これに限定されるものではなく、たとえば超音波振動素子を用いた振動や電磁ソレノイドの振動運動を用いて輸液チューブの局所的振動を発生させるよう構成しても良い。このような構成とすることにより、気泡の発生予防と輸液チューブからの気泡の遊離をより容易に行うことができる。
【0149】
また、本実施形態に係る気泡除去装置Aでは、上下近接センサ28,29によって障害物が近接したことを検出するよう構成したが、これに限定されるものではなく、例えば、接触センサ等により障害物が当接したことを検出するように構成しても良い。
【0150】
また、本実施形態に係る気泡除去装置Aでは、筐体の外観形状を角を丸めた箱状としたがこれに限定されるものではなく、例えば筐体を球状や紡錘状として、周辺に配置されているベッドや医療器具等にできるだけ干渉しないよう構成しても良い。
【符号の説明】
【0151】
2 輸液剤
8 輸液チューブ
9 輸液ポンプ
12 枢軸部
22 挿通孔
23 第1分割体
24 第2分割体
28 上部近接センサ
29 下部近接センサ
31 駆動モータ
31a 駆動モータ軸
32 駆動ローラ
33 従動ローラ
34 振動モータ
35 電源部
40 制御部
43 凹状周面部
A 気泡除去装置
L 長さ
M 正面対向位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液チューブを挟持した状態で振動させることにより、前記輸液チューブの内壁に付着した気泡を除去する気泡除去装置において、
前記振動を発生させる振動生成手段と、
前記輸液チューブに接触させるローラと、
同ローラを駆動するモータと、を備え、
前記振動生成手段にて発生させた振動を前記輸液チューブに伝達させつつ、前記モータによって前記ローラを回転させることにより、前記輸液チューブに沿って移動しながら除泡することを特徴とする気泡除去装置。
【請求項2】
前記輸液チューブ上の障害物を検知して前記モータの軸の回転方向を逆転させることにより、前記移動の方向を反転させる往復移動手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の気泡除去装置。
【請求項3】
前記輸液チューブを挿通させる挿通孔を備え、同挿通孔の内壁面には、前記ローラを露出させていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の気泡除去装置。
【請求項4】
前記ローラの露出部位に対向する挿通孔の内壁面には、従動ローラを露出させていることを特徴とする請求項3に記載の気泡除去装置。
【請求項5】
前記挿通孔の内壁面における前記従動ローラの露出位置は、前記ローラの露出部位の正面対向位置から輸液チューブの伸延方向にオフセットした位置としたことを特徴とする請求項4に記載の気泡除去装置。
【請求項6】
前記ローラ及び前記従動ローラは、その表面を軸側に向けて湾曲させた凹状周面部を備えることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の気泡除去装置。
【請求項7】
前記凹状周面部は、挟持される輸液チューブの周面の曲率以下の曲率で湾曲させていることを特徴とする請求項6に記載の気泡除去装置。
【請求項8】
前記振動の前記輸液チューブへの伝達は、前記ローラ及び/または前記従動ローラを介して行うことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載の気泡除去装置。
【請求項9】
前記挿通孔に沿って縦割とした第1分割体と第2分割体とが、前記輸液チューブの挿通方向に平行な軸を介して回動自在に連結されており、前記挿通孔から輸液チューブを取り外し可能な開状態と、前記挿通孔の内壁面に露出させたローラの周面で輸液チューブを挟持する閉状態とに変位可能としたことを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載の気泡除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−249781(P2012−249781A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123963(P2011−123963)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【Fターム(参考)】