説明

気液分離エレメント

【課題】 気液分離エレメントとしての強度を十分に確保しつつ、不必要な加湿を行うことなく、汚染ガス除去を目的とした純水の利用効率を向上させる。
【解決手段】 多孔質膜1を介して気液接触を行うことにより非清浄空気A′中の汚染ガスGを液体(純水W)中に分離除去する気液分離エレメントにおいて、前記多孔質膜1の空気側に、補強用の保護シート3を貼設して、流速の遅い液側の境界部における流れが良くなって、液の流れの中心部と多孔質膜1の付近との溶存ガス濃度勾配が緩和されるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、気液分離エレメントに関し、さらに詳しくは多孔膜式気体浄化ユニット等において使用される気液分離エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、LCD基板や半導体ウエハ等のような基板に対して液処理や熱処理を行う場合、清浄空気中(即ち、クリーンルーム内)において行うこととなっており、クリーンルーム内の空気を気体浄化装置で清浄化した後クリーンルームに還流させることとなっている。
【0003】
上記した気体浄化装置として、例えばポリテトラフロロエチレン(以下、PTFEという)からなる多孔質膜を介して気液を接触させることにより、気体中の汚染物質を液体(例えば、純水)中に分離除去するようにした気液分離エレメントを備えたものが提案されているが、多孔質膜は、強度が低く、水圧により変形し易いところから、図6に示すように、多孔質膜1における水通路2側に補強用として保護シート3(例えば、不織布)を重ねて貼り付けたものが用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−97831号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている気液分離エレメントの場合、汚染ガスGを含んだ非清浄空気A′は、多孔質膜1と保護シート3を通過した後に水通路2内を流れる純水に溶解することとなるが、保護シート3が多孔質膜1における水通路2側に貼り付けられているため、保護シート3内において汚染ガスGが純水Wに溶け込むという現象が生ずるところから、汚染ガスGが溶け込んだ純水Wが水通路2の主流側に拡散しにくくなり、純水Wの利用効率を著しく減少させてしまうという問題があった。
【0006】
ちなみに、気液分離エレメントにおけるエレメント断面に対する溶存ガス濃度について調べたところ、図7の結果が得られた。これによっても、保護シート3が存在する部分における溶存ガス濃度が非常に高くなっている(即ち、汚染ガスGが溶け込んだ純水Wが水通路2の主流側に拡散しにくくなっている)ことが分かる。
【0007】
また、特許文献1に開示されている気液分離エレメントの場合、汚染ガスの除去が目的ではなく、加湿が目的であるため、不必要な加湿が行われるおそれがある。
【0008】
本願発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、気液分離エレメントとしての強度を十分に確保しつつ、不必要な加湿を行うことなく、汚染ガス除去を目的とした純水の利用効率を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明では、上記課題を解決するための第1の手段として、多孔質膜1を介して気液接触を行うことにより非清浄空気A′中の汚染ガスGを液体W中に分離除去する気液分離エレメントにおいて、前記多孔質膜1の空気側に、補強用の保護シート3を貼設している。
【0010】
上記のように構成したことにより、流速の遅い液側の境界部における流れが良くなるため、液の流れの中心部と多孔質膜1の付近との溶存ガス濃度勾配が緩和されることとなる(図4参照)。その結果、液の利用効率を向上させることができることとなり、液の循環量が少量で済むためランニングコストを低減できる。一方、空気側は流速が速いので、保護シート3による影響を受けにくいところから、汚染ガスGの液への溶解効率が低くなることはない。保護シート3により多孔質膜1が補強されることとなり、液圧による変形を防止することができるとともに、液側からの蒸気の発散(例えば、加湿)が抑制されるところから、不必要な加湿を抑えることができる。
【0011】
本願発明では、さらに、上記課題を解決するための第2の手段として、上記第1の手段を備えた気液分離エレメントにおいて、前記保護シート3を、不織布により構成することもでき、そのように構成した場合、多孔質膜1との貼設適性(即ち、溶着特性)が良好となり、製作が容易となる(換言すれば、製造コストを低減できる)。
【0012】
本願発明では、さらに、上記課題を解決するための第3の手段として、上記第1又は第2の手段を備えた気液分離エレメントにおいて、前記多孔質膜1を、ポリテトラフロロエチレンにより構成することもでき、そのように構成した場合、保護シート3を通過した汚染ガスGを含む非清浄空気Aの液側への分離効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の第1の手段によれば、多孔質膜1を介して気液接触を行うことにより非清浄空気A′中の汚染ガスGを液体W中に分離除去する気液分離エレメントにおいて、前記多孔質膜1の空気側に、補強用の保護シート3を貼設して、流速の遅い液側の境界部における流れが良くなって、液の流れの中心部と多孔質膜1の付近との溶存ガス濃度勾配が緩和されるようにしたので、液の利用効率を向上させることができることとなり、液の循環量が少量で済むためランニングコストを低減できるという効果がある。一方、空気側は流速が速いので、保護シート3による影響を受けにくいところから、汚染ガスGの液への溶解効率が低くなることはないという効果もある。また、保護シート3により多孔質膜1が補強されることとなり、液圧による変形を防止することができるとともに、液側からの蒸気の発散(例えば、加湿)が抑制されるところから、不必要な加湿を抑えることができるという効果もある。
【0014】
本願発明の第2の手段におけるように、上記第1の手段を備えた気液分離エレメントにおいて、前記保護シート3を、不織布により構成することもでき、そのように構成した場合、多孔質膜1との貼設適性(即ち、溶着特性)が良好となり、製作が容易となる(換言すれば、製造コストを低減できる)。
【0015】
本願発明の第3の手段におけるように、上記第1又は第2の手段を備えた気液分離エレメントにおいて、前記多孔質膜1を、ポリテトラフロロエチレンにより構成することもでき、そのように構成した場合、保護シート3を通過した汚染ガスGを含む非清浄空気Aの液側への分離効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して、本願発明の好適な実施の形態について説明する。
【0017】
本願発明の気液分離エレメントは、図1に示す気体浄化装置Zにおいて使用される。
【0018】
この気体浄化装置Zは、半導体ウエハの洗浄装置Xに付設されるものであり、該洗浄装置XからダクトD1を介して排出された非清浄空気W′を清浄化して得られた再生空気WをダクトD2を介して再び洗浄装置Xへ供給し得るように構成されている。符号Fは洗浄装置Xへの空気供給部となる天井部に配設された高性能フィルタを備えたファンフィルタユニットである。
【0019】
前記気体浄化装置Zは、多孔質膜1を介して気液接触を行うことにより非清浄空気W′中の汚染ガスGを液体W(本実施の形態においては、純水)中に分離除去する複数(例えば、4個)の気体浄化ユニットK,K・・を空気ミキシング領域を介して上下方向に配列して構成されている。符号Cは清浄空気Wを洗浄装置Xへ圧送するためのファンである。
【0020】
前記各気体浄化ユニットKは、例えば、図2に示すように、多孔質膜1,1・・(例えば、PTEF膜)からなる気液分離エレメントQ,Q・・を積層してなり、これらの気液分離エレメントQ,Q・・を介して純水Wと非清浄空気A′とが気液接触するように構成されている。前記各気液分離エレメントQは、例えば、樹脂材で一体形成された薄肉で且つ長矩形形状の枠状部材がなる支持枠11と、該支持枠11の中央部に形成された開口部12に張設された平面形状の多孔質膜1とからなっており、一対の気液分離エレメントQ,Qにより膜ユニットUが構成されることとなっている。そして、この膜ユニットUにおける膜エレメントQ,Q間には、水通路2が形成される一方、前記多孔質膜1と直交する方向に非清浄空気W′が流通する空気通路が形成されることとなっている。また、前記膜ユニットU,U間において多孔質膜1が張設されている部分には、スペーサ6,6・・により間隔保持された空間7が形成されることとなっている。符号8は純水Wの流通口、9は水入口、10は水出口である。
【0021】
上記構成の気体浄化ユニットKにおいては、下方の純水入口9から導入された純水は、膜ユニットUにより構成される水通路2を下方から上方に向かってジグザグに流れ、上方の水出口10から排出されるが、その過程において空気通路を流れる非清浄空気W′と気多孔質膜1,1・・を介して気液接触し、非清浄空気A′中の汚染ガスGが純水中に分離除去される。この時、水通路2の経路長さが長くなるため、純水の流れの進行とともにその流れ状態が次第に乱れて乱流状態となり、該水通路2の中央部分のみを流れる水量が減少するのに対応して、多孔質膜1の近傍を流れる水量が増加する。その結果、単位流量当たりの循環水量が同じとすると、純水と接触する多孔質膜1の面積が増加することとなり、それだけ非清浄空気A′中の汚染ガスGの純水への溶解作用が促進され、汚染ガス除去効率が向上する。
【0022】
なお、気液分離エレメントQとしては、上記構造の平膜式のものに限定されず、他の形式のものを採用することもできる。
【0023】
ところで、上記各多孔質膜1の空気側には、図3に示すように、補強用の保護シート3が貼設されている。
【0024】
前記多孔質膜1は、PTFEにより構成するのが保護シート3を通過した汚染ガスGを含む非清浄空気A′の純水側への分離効率を向上させる上で最も好ましいが、ポリエチレン、ポリプロピレン等の疎水性多孔質膜も使用できる。
【0025】
前記多孔質膜1としては、厚みが5〜100μmのものが使用できるが、強度・透過率から20〜50μmのものが最も好ましい。さらに、空隙率は60〜95%で、平均孔径は0.02〜1μmとするのが好ましい。
【0026】
また、前記保護シート3は、不織布により構成するのが多孔質膜1との貼設適性(即ち、溶着特性)の上で最も好ましく、不織布の材質としては、ポリエステル、ポリエチレン、その複合品(例えば、芯:ポリエステル、鞘:ポリエチレン)が好ましく、50〜1000μmの厚みのものが用いられるが、強度・透過率から100〜500μmが最も好ましい。さらに、空隙率は60〜95%で、平均孔径は0.1〜100μmとするのが好ましい。
【0027】
上記のように構成したことにより、流速の遅い純水W側(換言すれば、水通路2側)の境界部における流れが良くなる。つまり、多孔質膜1を通過した汚染ガスGは、すぐに水通路2を流れている純水Wに溶解することとなるのである。従って、純水Wの流れの中心部と多孔質膜1の付近との溶存ガス濃度勾配が緩和されることとなり(図4参照)、理論気液平衡濃度に近づけることができる。その結果、純水Wの利用効率を向上させることができることとなり、純水Wの循環量が少量で済むためランニングコストを低減できる。
【0028】
一方、空気側は流速が速いので、保護シート3による影響を受けにくいところから、汚染ガスGの液への溶解効率が低くなることはない。
【0029】
また、保護シート3により多孔質膜1が補強されることとなり、水圧による変形を防止することができるとともに、純水W側からの水蒸気の発散(例えば、加湿)が抑制されるところから、不必要な加湿を抑えることができる。
【0030】
ちなみに、保護シート3(不織布)の厚さに対する透湿能力の変化を調べたところ、図5に示す結果が得られた。
【0031】
これによれば、不織布の厚さや仕様を変えることにより、加湿を制御できることが分かる。
【0032】
本実施の形態では、気液分離エレメントQにおいて気液接触する液体として純水を用いているが、純水以外の液体を採用してもよい。
【0033】
上記各実施の形態においては、気体浄化装置Zが付設される装置Xを洗浄装置としているが、該装置Xは、洗浄装置に限らず、フォトレジスト塗布現像装置等の基板処理装置やミニエンバイロメント(EFEM)などとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明の実施の形態にかかる気液分離エレメントが使用される気体浄化装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本願発明の実施の形態にかかる気液分離エレメントが使用される気体浄化装置における気体浄化ユニットの断面図である。
【図3】本願発明の実施の形態にかかる気液分離エレメントの要部を示す拡大断面図である。
【図4】本願発明の実施の形態にかかる気液分離エレメントにおけるエレメント断面に対する溶存ガス濃度の変化を示す特性図である。
【図5】本願発明の実施の形態にかかる気液分離エレメントにおける不織布の厚さに対する透湿能力の変化を示す特性図である。
【図6】従来の気液分離エレメントの要部を示す拡大断面図である。
【図7】従来の気液分離エレメントにおけるエレメント断面に対する溶存ガス濃度の変化を示す特性図である。
【符号の説明】
【0035】
1は多孔質膜(PTFE膜)
2は液通路(水通路)
3は保護シート(不織布)
Gは汚染ガス
Aは空気
Wは液(純水)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜(1)を介して気液接触を行うことにより非清浄空気(A′)中の汚染ガス(G)を液体中に分離除去する気液分離エレメントであって、前記多孔質膜(1)の空気側には、補強用の保護シート(3)を貼設したことを特徴とする気液分離エレメント。
【請求項2】
前記保護シート(3)を、不織布により構成したことを特徴とする請求項1記載の気液分離エレメント。
【請求項3】
前記多孔質膜(1)を、ポリテトラフロロエチレンにより構成したことを特徴とする請求項1および2のいずれか一項記載の気液分離エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−192409(P2006−192409A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9297(P2005−9297)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】