説明

気相中でのイソシアネートの製造方法

本発明は、気相中で第一級アミンとホスゲンとを反応させることによるイソシアネートの製造方法に関する。この方法では、アミンを気化し、過熱し、滞留時間0.01秒超および圧力損失1〜500mbarで反応器に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中でのアミンおよびホスゲンからのイソシアネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート、特にジイソシアネートは、大量に製造され、ポリウレタンを製造するための出発物質として主に使用されている。イソシアネートは通常、相応のアミンとホスゲンとの反応によって製造される。アミンとホスゲンとの反応は、液相において、気相において、または噴霧により調製したアミン霧化物のホスゲン化によって実施することができる。
【0003】
本発明はもっぱら気相におけるホスゲン化に関する。
【0004】
この方法は、少なくとも反応成分であるアミン、イソシアネートおよびホスゲン、しかしながら好ましくは出発物質、生成物および反応中間体の全てが選択した反応条件下で気体状になるよう反応条件を選択することを特徴とする。気相ホスゲン化の利点は、とりわけ、減少したホスゲンホールドアップ、ホスゲン化することが困難な中間生成物の回避、増加した反応収率である。
【0005】
気相におけるジアミンとホスゲンとの反応によるジイソシアネートの様々な製造方法は、先行技術から知られている。
【0006】
EP 289 840 B1は、気相において相応のジアミンをホスゲン化することによる脂肪族ジイソシアネートの製造方法であって、場合により不活性ガスまたは不活性溶媒蒸気で希釈されていてよい蒸気ジアミン、およびホスゲンを200〜600℃の温度に互いに別々に加熱し、200〜600℃の温度に加熱した反応空間で連続的に互いに反応させる方法を初めて開示するものである。同公報において、反応空間への供給路内の絶対圧力は200〜3000mbarであり、反応空間からの出口での絶対圧力は150〜2000mbarである。同明細書は、ジアミンの気化を実施する圧力およびジアミンを反応空間に供給する時間を開示していない。
【0007】
EP 593 334 B1は、気相における芳香族ジイソシアネートの製造方法を初めて開示するものである。同発明によれば、ホスゲン化反応を実施する反応器において有効な温度は250〜500℃である。同公報における反応体の予備加熱温度は、ホスゲン化の実施に必要な温度と同程度の温度である。反応器内の圧力は通常0.5〜1.5barである。ジアミンの気化を実施する圧力およびジアミンを反応空間に供給する時間に関する情報は与えられていない。
【0008】
EP 570 799 B1は、気相における相応のジアミンとホスゲンとの反応による芳香族ジイソシアネートの製造方法であって、ジアミンの沸点より高温で、平均滞留時間0.5秒〜5秒で、ホスゲンとジアミンを反応させることを特徴とする方法を開示している。このため、場合により不活性ガスまたは不活性溶媒蒸気で希釈されていてよい蒸気ジアミン、およびホスゲンを、200〜600℃の温度に別々に加熱し、連続的に混合する。同公報における絶対圧力は、反応空間への供給路において200〜3000mbar、反応器の凝縮段階の下流において150〜2000mbarであり、同明細書の教示によれば、この圧力差を維持することにより、反応器内で流れに方向を持たせることを確実にする。同明細書は、アミンの気化を実施する圧力を開示していない。
【0009】
ホスゲンおよびジアミンの反応の反応空間における全体圧力について、WO 2008/055898 A1は、0.1〜20bar未満、好ましくは0.5〜15bar、特に好ましくは0.7〜10barの絶対圧力範囲を開示している。同公報において、混合装置のすぐ上流の圧力は、反応器内の上記圧力より高い。混合装置の選択に応じて、この圧力は低下する。供給路内の圧力は、反応空間内の圧力より、好ましくは20〜2000mbar、特に好ましくは30〜1000mbar高い。同明細書は、アミンの気化を実施する圧力を開示していない。
【0010】
反応条件に加えて、気相におけるホスゲンとの反応に使用されるアミンの気化の種類および様式もまた、開示されている方法の主題である。
【0011】
上記先行技術によれば、気相ホスゲン化のために、0.1〜20bar未満の圧力を有する反応空間にホスゲンと共に導入する前に、出発アミンを気化し、200〜600℃の温度に加熱する。先行技術に開示されている反応条件は、広範囲にわたっており、出発アミンを気化する条件の具体的示唆は与えられていない。なぜなら、特に、記載されている範囲からの組み合わせの全てがアミンの気化に適しているわけではなく、気相ホスゲン化に適した多数のアミンは例えば200℃、20barで気化しないからである。
【0012】
出発アミンを気化する条件の個々の示唆は、アミンの熱への暴露および気化アミン流における液滴含量に関する。
【0013】
EP 1 754 698 A1は、特定の気化器技術を用いることによる、気相ホスゲン化に使用されるアミンの熱への暴露を対象としている。EP 1 754 698 A1の教示によれば、第一に、使用アミンとホスゲンとの反応のための反応器内で観察される堆積物は、反応中の使用アミンの分解によって生じる。第二に、気化および過熱における長い滞留時間により、使用アミンが部分的に分解し、アンモニアが分離する。脂肪族アミンを使用した場合に特に観察される、気化中のアンモニア分離を伴ったこの部分的分解は、収率を下げるだけでなく、続くホスゲン化反応において下流の管路および装置内に塩化アンモニウム堆積物を生じる。装置は比較的頻繁に清浄化しなければならず、対応して生産ロスを生じる。技術的解決法として、同明細書は、気化に特定のミリ熱交換器またはマイクロ熱交換器を用いて脂肪族アミンを過熱することによる、気化中のアンモニア分離の抑制を開示している。同明細書は、開示されている非常に大きい体積比表面積を有する熱交換器を用いることにより、低減されたフィルム厚さの故に、気化装置におけるアミンの熱への暴露を低減できることを開示している。この装置では、500〜2500mbarの圧力下で各々の場合において、0.001〜60秒または0.0001〜10秒の滞留時間で各々の場合において、アミンの加熱、気化および過熱を実施することができる。同明細書は、個々の装置の滞留時間を記載しているにすぎないので、ジアミンの過熱の基準および蒸気ジアミンを反応空間に供給する時間の基準は言及されていない。
【0014】
EP 1 754 698 A1に開示されているマイクロ熱交換器の欠点は、非常に小さいチャンネルである。そのため、工業的方法では常に存在する非常に少量の固体は早くも閉塞をもたらし、従って気化器の実用寿命を短くする。更に、気化不可能成分は気化器表面に固体残留物として必然的に堆積し、従って、熱交換器に損傷を与え、最終的には気化器の閉塞をもたらすので、アミンは気化不可能成分を含有してはならないが、このことは、アミンのために開示されている全体気化の欠点である。しかしながら、所要の品質でアミンを供給することは、工業的方法において非常に複雑であり、費用を要する。従って、反応器の実用寿命は、同明細書の教示によって向上するが、気化器システムの実用寿命は、著しく損なわれる。そのため、生産設備の全体実用寿命は有利には向上しない。
【0015】
気化によって得た流れを評価するため、当業者は一般に、蒸気と気体を区別する。これに関連して、当業者は更に、沸点と露点を区別する。液体は、沸点まで加熱し、気化に必要とされるエネルギーを更に供給することによって気化し始める。液体上方に蒸気相が生じ、蒸気相は液体と平衡状態になる。沸騰している液体の上方に生じた蒸気相は、露点で、すなわち蒸気の凝縮が開始する温度で、液体を生じる。例えば冷所が存在したり、蒸気温度が僅かでも下がったりすると、蒸気は凝縮される。従って、当業者にとって、蒸気流とは、例えば熱橋または不完全な断熱の故に工業規模では完全には回避できないような温度の僅かな低下によって早くも凝縮し、その結果、液相が生じることを特徴とするものである。
【0016】
一方、気体は、気体の冷却時、初期には、気体温度が露点を下回らず、従って凝縮および液相生成が起こらず、気体温度が単に低下することを特徴とする。気体温度が露点を下回って初めて、凝縮が開始し、液相が生じ、蒸気領域に達する。
【0017】
工業的な気化装置では、一般に当てはまる気液平衡に加えて、気化する物質の作用によって液体から液滴が分裂する、すなわち液滴が運ばれ、その結果、同様に付加的に蒸気相中に存在するという影響も存在する。運ばれた液滴は一般に、1000μmまでの寸法を有する。従って、この影響の故に、露点より高温の気相は、液滴を含有することもできる。これは特に、例えば流下膜式気化器の底部でまたはボイラー気化器内での核沸騰の際に、閉じた液膜が上方に移動する場合に観察される。
【0018】
蒸気ジアミン流中の滴含量は既に、先行技術の主題となってきた。EP 1 935 876 A1には、蒸気アミンは未気化アミン液滴を本質的に含有しない、すなわちアミンの総重量に基づいて最大0.5重量%のアミン、特に最大0.05重量%のアミンが未気化液滴として存在し、アミンの残余は蒸気として存在することが記載されている。EP 1 935 876 A1の教示によれば、蒸気アミンが未気化アミン液滴を含有しないことが特に好ましい。EP 1 935 876 A1には、反応器への流入前に本質的に滴を含有しない蒸気ジアミン流が生成されることにより、反応器の運転時間が著しく増加することが記載されている。同明細書の教示によれば、これは、気化システムと過熱システムの間に滴分離装置を組み込むことによって、および/または滴分離装置の機能を有する気化装置によって達成することができる。適当な滴分離装置は、例えば"Droplet Separation", A. Buerkholz, VCH Verlagsgesellschaft, Weinheim - New York - Basle - Cambridge, 1989に記載されている。EP 1 935 876 A1は、特に好ましいものとして低い圧力損失を生じる滴分離装置に言及している。従って同明細書は当業者に、気相反応の長い有効期間を達成するためには、アミンを気化し、続いて可能な限り低い圧力損失で滴を分離し、蒸気アミン流を得ることを教示する。
【0019】
しかしながら、滴分離装置の圧力損失は体積流量に伴って急増するので、開示されている方法は特に、大きい工業規模での気相ホスゲン化の実施には不利である。更に、分離度、すなわち滴分離装置によって分離される液滴含量は、同じ圧力損失下では、低い体積流量の場合より、高い体積流量の場合により低減する。従って、EP 1 935 876 Aの教示によれば、大規模な工業的方法には、滴分離装置に起因する圧力損失を最小化するために、分離度の低い滴分離装置を使用しなければならない。従って、蒸気流は、もはや滴不含有ではなく、気相反応の有効期間についての既知の欠点を伴う。すなわち、同公報の教示によれば、必要な滴不含有アミン流を生じるためには、分離度の高い滴分離装置を使用しなければならないが、そのような滴分離装置は高い圧力損失をもたらす。
【0020】
しかしながら、EP 1 754 698 B1によれば、蒸気アミン流の増大した圧力損失は、大規模な工業的方法において不利である。なぜなら、気化器内の圧力増大により沸点が上昇し、気化に必要な温度の上昇によりジアミンから分離されるアンモニア量が増加し得、塩化アンモニウムの生成により気相反応器がブロックされ、従って気相反応の有効期間が短縮されるからである。
【0021】
更に、高い圧力差は滴含有蒸気ジアミン流のガス速度を高めるので、高い圧力損失は不利である。結果として管路に摩耗をもたらす場合があるので、液滴含有気体流の高いガス速度は不利である。
【0022】
従って気相ホスゲン化の先行技術から当業者は、ジアミンの気化により、このように滴の有利な不存在を達成するために圧力損失をもたらす滴分離装置を介して導かなければならない滴含有蒸気流が生じるので、同時に、圧力損失に関する欠点(ジアミンの沸点上昇、管路内の摩耗)について技術的解決策を見出す必要があるという一般的な教示を推測する。
【0023】
大きい工業規模で実際に方法を実施する際、先行技術によれば、アミン気化と反応の間の高い圧力損失を代償としなければ本質的に滴不含有のアミン流を生成することができない。その結果、気相反応の有効期間についての先行技術の悪影響がもたらされることを回避できない。なぜなら、反応器とアミン気化の間の高い圧力損失は高い気化圧力を意味し、従って、上昇した気化温度を意味するからである。これまで開示されてきた明細書はいずれも、そのような問題に関連しておらず、従って、その解決策を先行技術から推測することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】EP 289 840 B1
【特許文献2】EP 593 334 B1
【特許文献3】EP 570 799 B1
【特許文献4】WO 2008/055898 A1
【特許文献5】EP 1 754 698 A1
【特許文献6】EP 1 935 876 A1
【特許文献7】EP 1 754 698 B1
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】"Droplet Separation", A. Buerkholz, VCH Verlagsgesellschaft, Weinheim - New York - Basle - Cambridge, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、本発明の目的は、気相ホスゲン化によるイソシアネートの大規模な工業的製造方法であって、反応器に導入されるアミン流が最大限まで滴不含有であると同時に、アミン気化と反応器の間の圧力差が小さいことを特徴とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
意外なことに、大きい工業規模における気相ホスゲン化に有利なジアミン流中滴の不存在は、気化器内の圧力が反応器内の圧力より最大500mbarしか高くないと同時に、反応器への入口でジアミン流が露点より少なくとも10℃高い温度を有するよう、気化器から流出するジアミン流が0.01秒超の平均滞留時間で反応のための反応器に供給される場合に達成されることが見出された。
【0028】
気化器と反応器の間の圧力損失の限定は、可能な滴分離装置の選択を制限するが、低いジアミン沸点および遅いガス速度の利点をもたらす。本発明の方法の1つの可能な態様では、滴分離装置の使用を完全に省くことができる。
【0029】
滴分離の関連した制限は、本発明の新規な方法に基づいて受け入れられる。
【0030】
意外なことに、圧力損失をもたらす滴分離装置によって、ジアミン流からの液滴分離を実施する必要がないか、或いは完全には実施する必要がないことが見出された。それどころか、滞留時間と、反応器への流入前のジアミン流の露点を超える温度上昇とが、気化後の蒸気流中に存在する液滴が反応器への流入時までには完全に気化されるのに十分であるならば、反応器の長い実用寿命は、高い圧力損失をもたらす完全な滴分離を伴わずに達成することができる。従って、本発明は、最大限まで滴不含有であるアミン流を反応器に流通させ、更に、反応器とアミン気化の間の低い圧力差に基づいて、低いアミン沸点温度が得られる方法を提供する。従って、本発明は、低いアミン沸点および最大限まで滴不含有である反応器へのアミン流の両方が、気相反応の長い運転時間に必要とされるという課題を解決する。
【0031】
従って、本発明は、
a)第一級アミンを気化器で気化し、
b)工程a)で得た気化アミンが気化器から流出し、反応器へ供給路を介して導かれ、反応器に導入される、
気相における第一級アミンとホスゲンとの反応によるイソシアネートの製造方法であって、
c)工程a)で得た気化アミンが、反応器への流入直前に供給路において、露点より少なくとも10℃高い温度を有するよう、気化アミンを反応器への供給路において過熱し、
d)工程b)の気化アミンの滞留時間が0.01秒超であり、
e)気化器からの出口と反応器への入口の間の供給路にわたって、圧力差が1〜500mbarである
ことを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の好ましい態様では、気相ホスゲン化のために、ジアミンを少なくとも1つの気化器内で気化し、200〜600℃、好ましくは200〜500℃、特に好ましくは250〜450℃の温度に加熱し、場合により不活性ガス(例えばN、HeまたはAr)または不活性溶媒(例えば、場合によりハロゲン置換されていてよい芳香族炭化水素、例としてクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン)蒸気で希釈した状態で、反応空間に供給する。
【0033】
基本的に、所望の適当な気化器を、アミン気化のための気化器として使用することができる。場合によりポンプ循環を伴ってよい、管束熱交換器、平板熱交換器または流下薄膜型気化器を好ましく使用することができる。WO 2005/016512 AまたはDE 10 2005 036870 A1 に記載されているようなマイクロ熱交換器またはマイクロ気化器を使用することもできる。
【0034】
流下薄膜型気化器を介して高い循環生産量で少ない作業内容がもたらされる、気化システムを使用することが好ましい。ジアミンの熱への暴露を最少化するため、上記したような気化操作は、場合により、不活性ガスおよび/または不活性溶媒蒸気の供給によって支援することができる。
【0035】
本発明の方法では、気化および過熱の両方を一段階で実施することができるが、それぞれ独立した段階で実施することもできる。第一の過熱器、または必要に応じて唯一の過熱器の後に、滴分離装置を介して、特に5〜550μm、好ましくは10〜100μmの滴直径限界を有する滴分離装置を介して、蒸気ジアミン流を流通させることができる。別の態様として、気化器の後に、滴分離装置を介して、特に5〜550μm、好ましくは10〜100μmの滴直径限界を有する滴分離装置を介して、蒸気ジアミン流を流通させることもできる。気化器からの出口と反応器への入口の間の圧力損失が1〜500mbarとなるよう、滴分離装置は低い圧力損失、しかしながら最大の圧力損失を有することが好ましい。
【0036】
本発明によれば、反応器への流入直前に気体が露点より少なくとも10℃、好ましくは少なくとも15℃、特に好ましくは少なくとも25℃高い温度を有するよう、気化後、気化から得た蒸気流を反応器への供給路において過熱する。このように過熱されるジアミン流に、分離されなかった液滴を輸送することによって、液滴は、周囲の高温気体からエネルギーを吸収し、気化する。過熱の種類は本発明にとって本質的なものではない。過熱は、例えば管束熱交換器または加熱管路のような装置によって実施することができる。特定の態様では、気化アミンをジアミンの露点より少なくとも10℃、好ましくは15℃、特に好ましくは25℃高い温度に過熱する過熱器は、滴分離装置としても機能する。特定の態様では、この過熱器は、滴分離装置の一定の排液を確実にするために排液路を有する。
【0037】
工程a)の気化を、0.1〜20barの絶対圧力下で実施することが好ましい。
【0038】
気化器を離れてから反応器に流入するまでの平均滞留時間は、0.01秒超、好ましくは0.1秒超、特に好ましくは0.5秒超である。一般に、反応器への流入前の滞留時間は60秒以下である。本発明では、技術的手法、例えば、放射損失を回避するための適切な断熱、或いは熱媒油、燃焼ガスまたは電気の付随加熱による管路の付随加熱により、反応器への流入時に、露点まで本発明の温度限界を下回って気体が冷えることを防ぐ。
【0039】
意外なことに、反応への参加前に露点より少なくとも10℃、好ましくは少なくとも15℃、特に好ましくは少なくとも25℃高い温度に気体を過熱することと、気化から得られ、なお液滴を含有する流れにおける0.01秒超、好ましくは0.03秒超、特に好ましくは0.08秒超の滞留時間とを組み合わせることによって、先行技術では滴不含有アミン気体流を得るために必要とされていた圧力損失をもたらす滴分離装置を使用せずに、最大限まで滴不含有である反応器へのアミン気体流が得られることが見出された。
【0040】
本発明の方法によって、反応器への入口とアミン気化の間の圧力差を500mbar以下に限定することができる。一般に、気体の適当な流速を得るために、1mbar超、好ましくは10mbar超、特に好ましくは20mbar超の圧力差が必要である。好適には、反応器への入口とアミン気化の間の圧力差は450mbar以下、特に好ましくは400mbar以下である。
【0041】
このことは、アミン気化の圧力が反応器への入口での圧力より500mbarを超えない範囲で高いことを意味する。結果として、アミンの沸点は低いままであり、先行技術に記載されている上昇した沸点でのアミン分解の不利益を回避することができる。従って、小さい圧力差は、気相反応の有効期間に良い影響を与える。
【0042】
工程b)における供給路内での滞留時間および過熱についての上記必要条件を満たすことによって、低い圧力損失で、従って反応器への流入前の低い気化温度で、本質的に滴不含有の蒸気ジアミン流が得られ、結果として、反応器の運転時間は著しく増大する。出発アミンの本質的に滴不含有の蒸気流とは、蒸気アミンが本質的に未気化アミン液滴を含有しない、換言すれば、アミンの総重量に基づいて最大0.5重量%のアミン、特に好ましくは最大0.05重量%のアミンが未気化液滴として存在し、アミンの残余が蒸気として存在することを意味すると理解される。蒸気アミンが未気化アミン液滴を含有しないことが特に好ましい。
【0043】
蒸気ジアミン流を生成するための気化器および/または過熱器並びに気相反応器までの管路は、所望の金属材料、例えば、鋼、高級鋼、チタン、ハステロイ、インコネルまたは他の金属合金で製造される。ニッケル含量の低い金属材料を使用することが好ましい。更に、得られる凝縮物が気化器内を逆流できるよう、管路がその長さ全体にわたって、しかしながら少なくとも部分的に、気化器の底部に向かって傾斜を有することが好ましい。
【0044】
存在する液滴が、所定の滞留時間および温度で高温気体流によって本質的に気化されるよう、気化器または過熱器の後にジアミン流が既に滴寸法分布を有するならば、滴分離器を完全に省くことさえ可能である。このことは、気化器と反応器の間の圧力損失を低下する効果を付加的にもたらす。
【0045】
第一級アミンとホスゲンとの本発明の反応は、反応器内で実施する。反応器は少なくとも1つの反応空間を有する。気層反応は高速であるため、本発明の方法では混合および反応を空間的にとうてい分離できないので、反応空間とは、反応体および中間生成物の混合および反応を実施する空間を意味すると理解される。反応器とは、反応空間を有する技術的装置を意味すると理解される。本発明において反応器は、複数の反応空間を有することもできる。
【0046】
本発明の方法には、基本的に、あらゆる反応空間および反応器形状を使用することができる。
【0047】
本発明の方法の別の好ましい態様では、反応器は、反応体の混合後に80%、好ましくは90%、特に好ましくは99%、とりわけ好ましくは99.5%のアミン基のイソシアネート基への転化が達成される反応空間の後に、一定および/または広がった流通断面積を有する回転対称反応空間を有する。
【0048】
本発明の方法には、基本的に、気相ホスゲン化の手順を適用することができる。EP 1935 876 A1に記載されている断熱的方法が好ましい。しかしながら、記載した方法に等温的方法を適用することもできる。
【0049】
イソシアネートを生じるアミン基とホスゲンとの反応について選択される滞留時間は、使用アミンの種類、出発温度、適切な場合には反応空間における断熱的温度上昇、使用アミンとホスゲンとのモル比、少なくとも1種の不活性物質の種類および量、並びに選択した反応圧力に応じて、0.05〜15秒である。
【0050】
本発明の方法では、反応させるアミン基に対して過剰のホスゲンを使用することが有利である。1.1:1〜20:1、好ましくは1.2:1〜5:1のホスゲンのアミン基に対するモル比が存在することが好ましい。200〜600℃の温度にホスゲンを加熱し、場合により不活性ガス(例えばN、HeまたはAr)または不活性溶媒(例えばハロゲン置換されているかまたはされていない芳香族炭化水素、例としてクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン)蒸気で希釈した状態で、反応空間に供給する。
【0051】
反応空間でホスゲン化反応を実施した後、少なくとも1種のイソシアネート、ホスゲン、場合により不活性物質および塩化水素を好ましくは含んでなる気相反応混合物が、生じたイソシアネートを含有しないことが好適である。これは、例えば、別の気相ホスゲン化(EP 0 749 958 A1)で既に推奨されているように、反応空間を連続的に離れた反応混合物を、不活性溶媒中で凝縮に付すことによって実施することができる。
【0052】
しかしながら、本発明の方法で使用する反応空間が、対応するイソシアネートを生成するための使用アミンとホスゲンとの反応を停止するために、1つ以上の適当な液体流(急冷液)が噴霧される領域を少なくとも1つ有する手法によって、凝縮を実施することが好ましい。このようにして、EP 1 403 248 A1に記載されているように、冷表面を使用せず、迅速に気体混合物を冷却できる。
【0053】
本発明の方法の特に好ましい態様では、例えばEP 1 403 248 A1に開示されているように、少なくとも1つの領域(冷却領域)は急冷段階と統合される。とりわけ好適な態様では、複数の冷却領域を使用する。これらの少なくとも2つの冷却領域を、急冷段階と統合および操作することが好ましい。この設計および操作については、EP 1 935 875 A1に開示されている。
【0054】
反応器の少なくとも1つの冷却領域と急冷段階との統合連結に代えて、EP1 935 875 A1に開示されているように、複数の反応器の冷却領域と急冷段階との対応した統合連結も可能である。しかしながら、少なくとも1つの冷却領域を有する反応器と急冷段階との統合連結が好ましい。
【0055】
凝縮または急冷段階を離れた気体混合物が、適当な洗浄液を有する下流のガス洗浄器において残留イソシアネートを含有しなくなり、自体既知の方法で過剰ホスゲンを含有しなくなることが好ましい。これは、冷却トラップ、不活性溶媒(例えばクロロベンゼンまたはジクロロベンゼン)における吸収、または活性炭への吸着および加水分解によって実施することができる。ホスゲン回収段階を流通する塩化水素ガスは、ホスゲン合成に必要な塩素の回収のために、自体既知の方法で再循環させることができる。次いで、気体への使用後に得た洗浄液は、反応空間の対応領域において気体混合物を冷却するための急冷液として、好ましくは少なくとも部分的に使用される。
【0056】
続いて、凝縮または蒸留による急冷段階からの溶液または混合物を後処理することによって、イソシアネートを純粋な状態で調製することが好ましい。
【0057】
本発明の方法では、分解を本質的に伴わずに気相に転化できる第一級芳香族アミン、特にジアミンを使用することが好ましい。
【0058】
好ましい脂肪族または脂環式ジアミンの例は、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン(HDA)、1,11−ジアミノウンデカン、1−アミノ−3,5,5−トリメチル−3−アミノメチルシクロヘキサン(IPDA)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンまたは4,4’−ジアミノジシクロヘキシル−2,2−プロパンである。しかしながら、もっぱら脂肪族的または脂環式的に結合したアミノ基を有する上記タイプのジアミンが特に好ましく、その例は、イソホロンジアミン(IPDA)、ヘキサメチレンジアミン(HDA)またはビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン(PACM 20)である。
【0059】
好ましい芳香族ジアミンの例は、トルイレンジアミン(TDA)、特に2,4−TDAおよび2,6−TDAおよびそれらの混合物、ジアミノベンゼン、ナフチルジアミン(NDA)および2,2’−メチレンジフェニルジアミン(MDA)、2,4’−メチレンジフェニルジアミンまたは4,4’−メチレンジフェニルジアミンまたはそれらの異性体混合物である。トルイレンジアミン(TDA)、特に2,4−TDAおよび2,6−TDAおよびそれらの混合物がとりわけ好ましい。80/20および65/35の異性体比を有する2,4−/2,6−TDA異性体混合物がとりわけ好ましい。
【実施例】
【0060】
A.本発明の実施例
2,500k/hのTDA流を315℃の温度で気化し、530μmの滴直径限界を有する滴分離装置を介して導き、反応器に供給した。滴分離装置からの流出時、流れは10重量%の未気化液滴を含有していた。気化からの流出後に流れが過熱され、その流れが反応器への流入時に露点より15℃高い温度に加熱されるように、反応器への供給路は存在していた。反応器への供給路における気体の滞留時間は4.1秒であった。ここで初期に存在する液滴は蒸発するので、反応器への流れは本質的に滴不含有であった。気化と反応器への入口の間の圧力差は500mbar未満であった。
【0061】
B.本発明の実施例
2,500k/hのTDA流を315℃の温度で気化し、100μmの滴直径限界を有する滴分離装置を介して導き、反応器に供給した。滴分離装置からの流出時、流れは10重量%の未気化液滴をなお含有していた。気化からの流出後に流れが過熱され、その流れが反応器への流入時に露点より15℃高い温度に加熱されるように、反応器への供給路は存在していた。反応器への供給路における気体の滞留時間は0.7秒であった。ここで初期に存在する液滴は蒸発するので、反応器への流れは本質的に滴不含有であった。気化と反応器への入口の間の圧力差は500mbar未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第一級アミンを気化器で気化し、
b)工程a)で得た気化アミンが気化器から流出し、反応器へ供給路を介して導かれ、反応器に導入される、
気相における第一級アミンとホスゲンとの反応によるイソシアネートの製造方法であって、
c)工程a)で得た気化アミンが、反応器への流入直前に供給路において、露点より少なくとも10℃高い温度を有するよう、気化アミンを反応器への供給路において過熱し、
d)工程b)の気化アミンの滞留時間が0.01秒超であり、
e)気化器からの出口と反応器への入口の間の供給路にわたって、圧力差が1〜500mbarである
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
使用するアミンが、トルイレンジアミン、フェニルジアミン、ナフチルジアミン、メチレンジフェニルジアミン、ヘキサメチレンジアミンおよび/またはイソホロンジアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)において、供給路内の気化アミンが、反応器への流入直前に露点より少なくとも15℃高い温度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、気化アミンの滞留時間が0.1秒超である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において、供給路に滴分離装置を配置しない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程b)において、供給路に5〜550μmの滴直径限界を有する滴分離装置を配置する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
滴分離装置は、液体を連続的または定期的に除去できる排液路を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アミンの気化を、不活性ガスの存在下および/または不活性溶媒蒸気の存在下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程a)の気化を、0.1〜20barの絶対圧力下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程b)において供給路に後加熱器を配置し、気化アミンを200〜600℃の温度に加熱する、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−533525(P2012−533525A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519914(P2012−519914)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004109
【国際公開番号】WO2011/006609
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】