説明

水なし平版印刷インキ組成物

【課題】
本発明は、湿し水を必要としない水なし平版印刷における印刷の高速化、使用用紙の低級化に対応するため、紙剥け耐性や着肉性の向上を行い、かつ地汚れ耐性に優れた水なし平版インキ組成物を提供するものである。
【解決手段】
顔料を5〜30重量%、バインダー樹脂を20〜50重量%、α−オレフィンを1〜40重量%、アミン化合物を0.1〜10重量%及び溶剤を20〜70重量%含有することを特徴とする水なし平版印刷用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿し水を必要としない水なし平版印刷において、印刷の高速化、用紙の低級化に対応するため、紙剥け耐性や着肉性の向上を行い、かつ地汚れ耐性に優れた水なし平版インキ組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の印刷の主流をなす平版印刷は非画線部に湿し水を供給し、これによるインキ反発性を利用し画線を形成する。しかしこの平版印刷では印刷品質のバラツキの原因が湿し水に起因するところが大きく、それを制御するために多大な設備、消耗材、時間や熟練した技術が必要となっている。
近年この湿し水に関わる問題を解決する方法として水なし平版印刷法が提案され、特に湿し水に替わってインキ反発性を示すことを目的として非画線部にシリコーンゴムを設けて印刷する方法が実用化されている。このような水なし平版印刷において従来の油性インキを用いて印刷すると非画線部での充分なインキ反発性が得られず、地汚れが発生して好ましくないことが知られている。この水なし印刷における地汚れという現象は印刷中に印刷機の駆動部やローラーの摩擦に起因する温度上昇と、湿し水を用いないことから水の蒸発による版面の冷却効果がなくなることによる版面温度の上昇により、インキ自体の凝集力が低下してしまい、本来インキを反発すべき非画線部にインキが付着することを言う。
【0003】
この水なし印刷特有の問題を解決するために、バインダー樹脂としてシリコーン変性樹脂を使用する、またはインキ組成物としてシリコーンオイルを添加する方法が過去行われている(特開平02−22369号、特開昭59−147072号公報、特開昭50−71410号公報、特開昭48−4107号公報)。シリコーンオイルを添加すると地汚れ耐性は向上するが、後加工性に難点があることや、オフ輪印刷の乾燥機中で揮発したシリコーンオイルが、触媒脱臭装置の触媒毒になることから適用が制限されていた。そこで、特開平06−157960号公報では、インキ組成物に粉末状シリカを含有させ、増粘剤として有機金属ゲル化剤を使用する手法が開示しているが、粉末シリカが版面を傷つける恐れがあるために長時間の印刷には懸念が持たれる。
【0004】
また、シリコーンオイルはインキ成分と相溶性が悪く分離しやすいために、印刷機上での安定性が劣る場合があり、ローラー間の転移不良を生じることもある。特開平10−292145公報、特開2002−97398号公報では、インキと相溶性の良いオルガノポリシロキサンを選択し、特定のロジン変性フェノール樹脂を含有するインキ組成物を発明し、インキと版の付着エネルギーを下げることで地汚れ耐性を向上する手法を開示しているが、低粘度のインキ組成物であるため充分な地汚れ耐性が得られないという問題がある。
【0005】
それ以外のインキと版の付着エネルギーを下げる発明として、環化ゴム及びα−オレフィン、α−オレフィンポリマーを使用する手法(特開2005−126579号公報、特開2005−290083号公報)や、パーフルオロポリエーテルを使用する(特開2006−298948号公報)手法が開示しているが、環化ゴム及びパーフルオロポリエーテルは高価なためコストアップにつながる。
【0006】
また、水なし平版印刷インキのバインダー樹脂の発明も進められ、特開平05−279613号公報では、樹脂を高分子化しインキ凝集力を高め地汚れ耐性を向上する手法を開示しているが、インキタックが高いために紙面強度の弱い低級紙への印刷には適さない。また、バインダー樹脂の合成時に、フェノール樹脂の分子鎖伸長剤として多価カルボン酸やアミン化合物を使用する手法(特開平02−206662号公報、特開昭63−191871号公報)を開示している。
水なし平版印刷は近年めざましい普及を遂げているが、印刷の高速化が進んでいることや低級紙の使用が増えていることから、紙剥け耐性を付与するためのインキの低タック化や、紙への着肉性を向上させる必要がある。また更用紙においても水なし印刷が行われようとしているため、現状インキよりも低タックで、着肉の良いインキが求められている。紙剥け耐性や着肉性を向上させるためにはインキ中の溶剤量を増やせば良いが、その弊害として粘度も低下し地汚れ耐性が劣化する。地汚れ耐性に優れ、低タックで着肉性が良好なインキを設計することが難しい課題となっている。
【特許文献1】特開平02−22369号公報
【特許文献2】特開昭59−147072号公報
【特許文献3】特開昭50−71410号公報
【特許文献4】特開昭48−4107号公報
【特許文献5】特開平06−157960号公報
【特許文献6】特開平10−292145号公報
【特許文献7】特開2002−97398号公報
【特許文献8】特開2005−126579号公報
【特許文献9】特開2005−290083号公報
【特許文献10】特開2006−298948号公報
【特許文献11】特開平05−279613号公報
【特許文献12】特開平02−206662号公報
【特許文献13】特開昭63−191871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は紙むけ耐性、着肉性、転移性の向上を行い、かつ地汚れ耐性に優れた水なし平版印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、顔料、ロジン変性フェノール、溶剤及びアミン化合物とを含有させた水なし平版印刷インキは、アミン化合物の添加によりインキの増粘を図り、低タックかつ高粘度のインキを調製することができ、α−オレフィンの作用によりインキと版の剥離効果を促進する。それにより流動性、着肉性、地汚れ耐性、紙剥け耐性に優れたインキを提供し、低級紙への印刷を可能にするものである。
【0009】
すなわち、本発明は、顔料を5〜30重量%、バインダー樹脂を20〜50重量%、α−オレフィンを1〜40重量%、アミン化合物を0.1〜10重量%及び溶剤を20〜70重量%含有することを特徴とする水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0010】
また、本発明は、オルガノポリシロキサンをさらに含有することを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、バインダー樹脂が、α−オレフィンポリマーであることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0012】
また、本発明は、バインダー樹脂の重量平均分子量が、10,000〜400,000であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、バインダー樹脂が、ノルマルヘプタントレランス1ml〜40mlのロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0014】
また、本発明は、α−オレフィンが、12〜18の炭素数であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0015】
さらに、本発明は、アミン化合物が、単量体または炭素数6〜60の酸とアミンとからなる分子量が500〜20,000のポリアミド化合物であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0016】
また、本発明は、溶剤が、石油系溶剤、鉱物油、植物油、植物油エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0017】
さらに、本発明は、溶剤が、大豆油、ヤシ油、アマニ油、菜種油からなる群から選ばれる少なくとも一種の植物油を含むことを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0018】
また、本発明は、浸透乾燥型であることを特徴とする上記の水なし平版印刷用インキ組成物に関するものである。
【0019】
さらに、本発明は、上記の水なし平版印刷用インキを非塗工紙または微塗工紙に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、地汚れ耐性及び印刷適性に優れ、低級用紙への印刷を可能にする水なし平版印刷インキを得ることができる。すなわち、本発明のアミン化合物の添加量を調節することで、インキ性状(タック・フロー・粘度)のコントロールが可能となり、印刷環境・印刷用紙に合わせた水なし平版印刷インキを調製することができる。また、インキの高粘度化、α−オレフィンの効果により地汚れ耐性にも優れた印刷インキを得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明において使用される顔料としては、一般的な無機顔料及び有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラ等を示すことができる。有機顔料としては、アゾ系として、C系(βナフトール系)、2B系及び6B系(βオキシナフトエ系)等の溶性アゾ顔料、βナフトール系、βオキシナフトエ酸アニリド系、モノアゾイエロー系、ジスアゾイエロー系、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、アセト酢酸アリリド系等の縮合アゾ顔料、フタロシアニン系として、銅フタロシアニン(αブルー、βブルー、εブルー)、塩素、臭素等のハロゲン化銅フタロシアン、金属フリーのフタロシアニン顔料、多環顔料としてペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系顔料等を挙げることができる。
【0023】
本発明に使用されるバインダー樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、α−オレフィンポリマー等を任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
本発明に使用されるロジン変性フェノール樹脂としては、特に制約はなくロジンとしてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が代表的に使用できる。フェノール樹脂としてはノボラック型、レゾール型、ノボラック−レゾール複合型のフェノール樹脂が使用できる。ポリオールとしてはグリセリン、ペンタエリスリトール等が代表的に使用できる。ロジン変性フェノール樹脂の製法としてはこれらの樹脂原料の投入順、反応触媒、性状としては分子量、溶解性など特に制限はないが、25℃での樹脂粘度が18〜50Pa・sであることが好ましい。尚ここで樹脂粘度とは樹脂/アマニ油=1/2の重量比の混合物を180〜200℃で加熱攪拌溶解して得たワニスのコーンプレート型粘度計による25℃での粘度とする。樹脂粘度が18Pa・s未満であるとインキとしての凝集力が不十分であり地汚れ耐性が劣り、50Pa・sを超えるとインキとした場合流動性が劣化し好ましくない。
【0025】
本発明におけるノルマルヘプタントレランスは、ビーカーに樹脂1gを秤量し、トルエン9gに常温で溶解させ、ノルマルヘプタンをビュレットにて滴下していき、溶液が白濁しビーカー下の新聞紙活字が判定出来なくなるまでのノルマルヘプタン滴下量を測定することによって得られる。本発明に用いるロジン変性フェノール樹脂は、ノルマルヘプタントレランスが1ml〜40mlが好ましく、さらに好ましくはノルマルヘプタントレランスが5ml〜35mlが良い。ノルマルヘプタントレランスが1ml以下だとインキの流動性が悪くなり着肉が悪化し、40ml以上だと粘弾性が強くなり地汚れ性が悪化する。
【0026】
本発明に使用されるロジン変性マレイン酸樹脂としては、好ましくは重量平均分子量が5,000〜250,000のものである。重量平均分子量が250,000を超えると製造時のトラブルが生じ易いなどの問題がある。なお、ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価と水酸基価の値が高すぎると、得られる印刷インキの耐水性が低下してオフセット印刷では汚れなどのトラブルを生じる傾向があり、また、酸価と水酸基価の値が低すぎると、反応していないゲル化剤が残存し、得られるオフセット印刷インキ組成物の経時安定性が悪くなる傾向があるので、適切な酸価と水酸基価の値を有するロジン変性マレイン酸樹脂を選び、ゲル化剤の使用量を調整することが好ましい。
【0027】
本発明に使用される石油樹脂はインデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルブテン、イソプレン、ペンテン、シクロペンテン、ペンタジエン等を成分とする二重結合を有する石油樹脂が例示できる。二重結合を有する石油樹脂としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンを原料とするDCPD系石油樹脂;ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等のC系石油樹脂;インデン、メチルインデン、ビニルトルエン、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン等を原料とするC系石油樹脂、前記DCPD系とC系原料からなる共重合石油樹脂、前記DCPD系とC系原料からなる共重合石油樹脂、前記C系とC系原料からなる共重合石油樹脂、前記DCPD系とC系とC系原料からなる共重合石油樹脂などがあげられ、無触媒あるいはフリーデルクラフツ型触媒(カチオン重合)などを用いて製造される。特に、極性基付与が容易であり、所望の軟化点に調整し易いため、DCPD系石油樹脂、DCPC系とC系原料からなる共重合石油樹脂、DCPD系とC系原料からなる共重合石油樹脂、DCPD系とC系とC系原料からなる共重合石油樹脂が好ましい。
【0028】
本発明に使用されるアルキッド樹脂は、多塩基酸とポリオールと油脂からなる油変性アルキッド樹脂が好ましい。
【0029】
本発明に使用されるα−オレフィンポリマーの重量平均分子量(ゲルパーミネーションクロマトグラフィーのポリスチレン換算値)は1,000〜30,000であり、好ましくは4,000〜25,000、さらに好ましくは10,000〜20,000である。
また25℃での粘度(東京計器製B型粘度計、型式BL3)は300〜4,000mPa・sであるが、好ましくは500〜3,500mPa・s、さらに好ましくは1,000〜3,000mPa・sである。重量平均分子量が1000未満、若しくは粘度が300mPa・s未満だと充分な地汚れ耐性が得られず、重量平均分子量が30,000を超過する、若しくは粘度が4,000mPa・sを上回るとインキの保存安定性、着肉性が悪くなる。
【0030】
本発明における水なし平版印刷用インキは、枚葉印刷用インキ、ヒートセットオフ輪印刷用インキ、ノンヒートセットオフ輪印刷用インキ等のどれでも良いが、好ましくはヒートセットオフ輪印刷用インキ、ノンヒートセットオフ輪インキ、もしくは新聞印刷用インキであるのがよい。枚用印刷物は特色のドライ重ね刷り、オーバープリントニスや水性ニス掛け、ラミネートフィルム貼り等の後加工がある場合が多くあり、α−オレフィンポリマーを添加したインキで印刷した印刷物は後刷りのインキやニスをはじく場合があるために注意が必要である。
【0031】
上記固体樹脂(ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド及び石油樹脂等)は植物油類又は鉱物油類が単独または2種類以上の組み合わせの溶剤と場合によってはアルミニウムキレート化合物のようなゲル化剤を添加して、190℃程度で溶解してワニス化したものを使用する。固体樹脂の添加量は印刷インキ組成物の全量に対して20重量%〜50重量%である。
【0032】
本発明に使用される植物油類とは植物油並びに植物油由来の化合物であり、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセライドと、それらのトリグリセライドから飽和または不飽和アルコールとをエステル反応させてなる脂肪酸モノエステルが挙げられる。
【0033】
植物油として代表的ものは、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油等が挙げられる。
【0034】
本発明に使用される植物油エステルとしては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油、菜種油等の植物油由来の脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、モノアルキルエステル化合物が挙げられ、モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基は、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキル基が例示できる。これら脂肪酸モノエステルは、単独で、または2種以上を組合わせて使用でき、本発明においては、植物油成分として、植物油、脂肪酸エステルをそれぞれ単独で用いてもよく、両者を併用しても良い。溶剤の添加量としては、インキ中10〜50重量%が好ましい。
【0035】
本発明に使用される鉱物油類は芳香族炭化水素の含有量が1重量%以下の原油由来の溶剤(石油系溶剤)である。この石油系溶剤はアニリン点が65〜110℃、好ましくは75〜95℃及び沸点が230℃以上の石油溶剤が適当である。アニリン点が75℃未満の場合には樹脂を溶解させる能力が高すぎるためインキの粘度が低くなりすぎ地汚れ耐性が充分でなくなる。また95℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しいため、インキの流動性が劣り、その結果光沢、着肉性が悪い印刷物しか得ることができず好ましくない。沸点が230℃未満の場合には印刷機上でのインキ中溶剤の蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、ローラーや版、ブランケットへのインキの堆積が起こり易くなるため好ましくない。
【0036】
本発明に使用されるα−オレフィンは、炭素数12〜18である直鎖又は分岐構造を有し、その添加量は1〜40重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜20重量%である。添加量が1重量%未満だと充分な地汚れ耐性が得られず、40重量%を超えるとローラーにインキが付着しなくなり印刷適性が損なわれる。
【0037】
本発明に使用されるオルガノポリシロキサンは、粘度が50〜10,000cStの範囲が好ましく、より好ましくは50〜3,000cSt、更に好ましくは100〜1,000cStの範囲がよい。オルガノポリシロキサンの粘度が、50cStに満たない場合には、低分子のオルガノポリシロキサンが多く存在するため揮発成分量が多くなり印刷機上での安定性が良くなく、またヒートセット型のオフ輪インキに使用した場合には印刷機の乾燥機の触媒脱臭装置に悪影響を及ぼすために好ましくない。一方10,000cStを超える粘度の場合にはインキとの混合性が劣るので、機上安定性が悪くなり、また地汚れ耐性も悪くなり好ましくない。またオルガノポリシロキサンの分子量は3,000〜60,000の範囲がよく、3,000に満たない分子量のオルガノポリシロキサンは揮発性が大きいので好ましくなく従って含まれてはならず、また60,000を超える分子量である場合にはインキとの混合性が悪くなりローラー間での転移性が劣り印刷機上での安定性が悪くなるために好ましくない。
【0038】
上記オルガノポリシロキサンは常温で液状であることが必要であり、種類はジメチルポリシロキサンの他、メチルハイドロジェン、メチルフェニル、カルボキシル変性、エポキシ変性、アルコール変性、脂肪酸変性、ポリエーテル変性、アルキル変性、アミノ変性等のオルガノポリシロキサンが使用できるが、特に好ましくはジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、アルコール変性ポリシロキサンが地汚れ耐性において良好な性状を示すので好ましい。
【0039】
上記オルガノポリシロキサンのインキ中への含有量は0.1〜7重量%の範囲であり、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは0.5〜3重量%である。含有量が0.1重量%未満では地汚れ耐性が不足するために好ましくなく、また7重量%を超える場合には印刷機のローラー間での転移性が劣化するばかりでなく着肉性も著しく悪くなるために好ましくない。本発明のオルガノポリシロキサンを水なし平版インキ中に所定量含有させることにより、水なし平版の非画線部からのインキの剥離性が非常に良好になり、インキとしての地汚れ耐性が向上するばかりでなく、インキ転移性、着肉性の劣化も少ないので好適である。
【0040】
本発明に使用されるアミン化合物は、分子中に活性水素を含有するアミン化合物を0.1〜10重量%含有することを特徴とする水なし平版印刷用インキ組成物により達成される。本発明において用いられる活性水素を含有するアミン化合物としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、エタノールアミン、アリルアミン等のモノアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ビスヒドロキシジエチレントリアミンなどのポリアミンやアミンアダクト等が有効に使用できる。
また、アミン誘導体としてのアミド化合物としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イタコン酸、カプリル酸、グリコール酸、アクリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等のモノカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、ダイマー酸等の有機ジカルボン酸、トリメリット酸等の有機トリカルボン酸、3,9-ビス(2カルボキシアルキル)2,4,8,10-テトラオキサスピロウンデカン等の有機カルボン酸と前記のアミン、ジアミン、ポリアミン等との縮合物が挙げられる。
【0041】
本発明に使用されるアミン化合物は、上述のような構造組成のものであるが、取扱い安全性等を考慮するとポリアミド樹脂が好ましく、樹脂、溶剤との相溶性の点から炭素数6〜60の酸とポリアミンからなるポリアミド樹脂が特に好ましく用いられる。上記ポリアミド樹脂の分子量としては500〜20,000の範囲が好ましく、より好ましくは500〜10,000の範囲である。
【0042】
本発明に使用されるアミン化合物の添加量としては、0.1〜10重量%の範囲を選択する必要がある。添加量が0.1重量%未満では増粘効果や地汚れ耐性向上効果が小さく、10重量%を越える場合にはインキの転移性に問題が生じる。
【0043】
本発明に使用されるアミン化合物は、単独、2種以上併用の場合も有効であり、かつアミン化合物を反応性のない溶剤、樹脂等で希釈しても有効に使用することができる。
上記アミン化合物は、添加量に応じてインキ粘度は増加し、植物油及び鉱物油等で希釈することで低タック化を達成するものである。目標タック、粘度に応じてアミン化合物の添加量を調節し、高粘度かつ低タックの水なし平版印刷インキを得ることができる。
本発明においては、顔料をワニスに分散させる際に有機ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、シリカ等の体質顔料を添加することも可能である。
【0044】
本発明に使用される他の助剤としては、分散剤、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦剤(ワックス)等の添加剤を適宜用いることができる
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるもではない。なお、以下の例中、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「重量部」「重量%」を示す。
【0046】
〔フェノール樹脂製造例〕
撹拌機、水分離器付還流冷却器、温度計付き4つ口フラスコにpーオクチルフェノール720部、pードデシルフェノール375部、パラホルムアルデヒド290部、キシレン800部からなる混合物を加熱溶解後、48%水酸化ナトリウム水溶液80部を添加し、80〜90℃で5時間反応させる。反応後6N塩酸125部、水道水200部を加えて撹拌静置し、上澄み層を取り出し水洗して不揮発分63%のレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液約2100部を得て、これをAレゾール液とした。
【0047】
〔ロジン変性フェノール樹脂製造例〕
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付きの4つ口フラスコにガムロジン600部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、200℃で加熱溶解し、Aレゾール液770部を120〜200℃で反応後、グリセリン67部を仕込み、250〜260℃で、酸価25以下になるまでエステル化して、分子量80,000、白濁温度90℃、樹脂粘度160ポイズのロジン変性フェノール樹脂Aを得た。(白濁温度は新日本石油(株)製AFソルベント6の10%希釈状態のものをNOVOCONTROL社製、CHEMOTRONICにて測定。樹脂粘度は、樹脂/アマニ油=1/2の重量比の混合物を180〜200℃で加熱撹拌溶解して得たワニスのコーンプレート型粘度計による25℃での粘度値である。)
【0048】
〔ワニス製造例〕
表1に示した処方により、以下のワニス製造例1〜5のワニスA、B、C、D、Eを得た。
【0049】
〔ワニス製造例1〕
ロジン変性フェノール樹脂A(ノルマルヘプタントレランス30ml) 42部、亜麻仁油15部、AFソルベント5(新日本石油(株)製)42.5部、アルミニウムキレート(川研ファインケミカル製、ALCH)0.5部を190℃で1時間加熱撹拌してワニスAを得た。
【0050】
〔ワニス製造例2〕
ロジン変性フェノール樹脂A 42部、亜麻仁油15部、ダイアレン168(三菱化学(株)製)10部、AFソルベント532.5部、アルミニウムキレート(ALCH)0.5部を190℃で1時間加熱撹拌してワニスBを得た。
【0051】
〔ワニス製造例3〕
ロジン変性フェノール樹脂A 42部、亜麻仁油15部、ダイアレン168(α−オレフィン、C16〜C18)20部、AFソルベント522.5部、アルミニウムキレート(ALCH) 0.5部を190℃で1時間加熱撹拌してワニスCを得た。
【0052】
〔ワニス製造例4〕
ロジン変性フェノール樹脂B(荒川化学工業(株)製、重量平均分子量80,000、酸価20、軟化点180℃)45部、亜麻仁油30部、大豆油14.5部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10部、アルミニウムキレート(ALCH)0.5部を190℃で1時間加熱撹拌してワニスDを得た。
【0053】
〔ワニス製造例5〕
ロジン変性フェノール樹脂B(ノルマルヘプタントレランス 20ml) 45部、亜麻仁油20部、ダイアレン168 10部、大豆油14.5部、大豆油脂肪酸ブチルエステル10部、アルミニウムキレート(ALCH)0.5部を190℃で1時間加熱撹拌してワニスEを得た。
【0054】
【表1】

【0055】
〔インキ作製例〕
リオノールブルーFG7330(東洋インキ製造(株)製)、ワニスA〜E、シリコーンオイルA(東芝シリコーン(株)製ジメチルポリシロキサン、100cSt、分子量6600)、シリコーンオイルB(東芝シリコーン(株)製ジメチルポリシロキサン、6000cSt、分子量51000)、ポリアミドA(ダイマー酸とジエチレントリアミンの縮合物、分子量3000)、α−オレフィンポリマーA(東洋ペトロライト(株)製、バイパー825、Mw=10000、1350mPa・s)、α−オレフィンポリマーB(東洋ペトロライト(株)製試作サンプル、Mw=24000、3300mPa・s)、大豆油、AFソルベント5を表2の配合で常法に従い三本ロールを用いて、粘度値が80Pa・s〜82Pa・sになる様にインキを作成し、実施例1〜10及び比較例1〜2とした。
【0056】
【表2】

【0057】
(印刷試験評価)
実施例1〜10及び比較例1〜2のインキを、(株)小森コーポレーション製リスロン40枚葉印刷機にて、東レ株式会社製水なし平版TAP−HG2を用い、印刷用紙をアート紙あるいは更紙とし、水なし印刷を10000rphで行った。そのときの地汚れ温度、着肉性の評価を行い、印刷用紙をアート紙としたときの結果を表3に示す。また、印刷用紙を更紙としたときの結果を表4に示す。
【0058】
地汚れ温度とは、印刷時の版面温度を変えていった時に非画線部の汚れが印刷紙面に出
始める温度を指す。
【0059】
着肉性は、同じキー開度、同じ温度で印刷した時のベタ部の状態を濃度計並びに目視評価で確認。5段階評価にて評点をつけた。(点数が大きいほど良い。)
【0060】
【表3】

印刷用紙<アート紙>

【0061】
【表4】

印刷用紙<更紙>

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は水なし平版印刷において、顔料、バインダー樹脂、溶剤成分として植物油類又は鉱物油類からなる水なし平版印刷インキにおいてα−オレフィン及びアミン化合物をインキ組成物にすることにより、従来の水なし平版インキに比べ紙むけ耐性、着肉性及び地汚れ耐性に優れた水なし平版印刷インキを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を5〜30重量%、バインダー樹脂を20〜50重量%、α−オレフィンを1〜40重量%、アミン化合物を0.1〜10重量%及び溶剤を20〜70重量%含有することを特徴とする水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項2】
オルガノポリシロキサンをさらに含有することを特徴とする請求項1記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂が、α−オレフィンポリマーであることを特徴とする請求項1または2記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項4】
バインダー樹脂の重量平均分子量が、10,000〜400,000であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項5】
バインダー樹脂が、ノルマルヘプタントレランス1ml〜40mlのロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項6】
α−オレフィンが、12〜18の炭素数であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項7】
アミン化合物が、単量体または炭素数6〜60の酸とアミンとからなる分子量が500〜20,000のポリアミド化合物であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項8】
溶剤が、石油系溶剤、鉱物油、植物油、植物油エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項9】
溶剤が、大豆油、ヤシ油、アマニ油、菜種油からなる群から選ばれる少なくとも一種の植物油を含むことを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項10】
浸透乾燥型であることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の水なし平版印刷用インキ組成物。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか記載の水なし平版印刷用インキを非塗工紙または微塗工紙に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2008−179691(P2008−179691A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13698(P2007−13698)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】