説明

水のエネルギを電力に変換する方法及び装置

【課題】従来水の流れの中では一般にはフラッタ現象は生起しないと考えられていた。それを利用して水のエネルギを電力に変換する方法及び装置を提供する。
【解決手段】水の流れに浸漬させた翼(01)にフラッタ現象を生起させること、そのフラッタ現象を構成する翼(01)の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換すること、且つ前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を、前記往復並進運動を円盤(14)の往復回転運動に変換させ、その回転慣性モーメントによって行なう。そのために、前記翼(01)を往復並進運動可能に、板ばね(05,05)によって弾性的に支持すると共に、前記翼の往復並進運動を、ボールねじ軸(11)を介して前記円盤(14)の往復回転運動に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常フラッタ現象は空気の流れの中の物体に生ずるものと考えられているが、それを水の流れの中で生起させ、その水のエネルギを電力に変換する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネ・地球温暖化抑制を狙っての風車による発電は世界の各地で普及し、それが景観の一部となっている場所も多く、極めて一般的で、今後もさらに増えると推定される。しかしながら我が国では一般的な設計風速である風速10〜15m/sの風が吹く場所・頻度は共に少ないと言う問題点がある。また,発電量は風速の3乗に比例するため、風速が低くなると発電量が急激に落ちるという問題点もある.
【0003】
また、低速でも発電可能に、風の流れを絞り、局所的に風速を上げようと、風の方向に沿って縮小又は拡大する中空の集風筒体を設ける試みもなされているが(例えば非特許文献1)、その効果は期待した程大きくなく、小規模のものであればともかく、大規模のものとなると、その筒体の設置に難が生じる。なお、1基当たりの発電量を大きくしようとして翼を長くしているが、そうすればする程周速が増大し、騒音が増すと言う問題点もある。
【非特許文献1】大屋裕二,「風レンズ効果を利用した風力発電について」,A&Aセミナー,May,2001
【0004】
それに対して航空機の翼や吊り橋等で起こる破壊的な自励振動であるフラッタ現象を逆に有効利用して電力を得る試みが幾つかなされており、風車の放射状の翼に比較して、長方形翼を列状に配列することによって、風のエネルギを有効に利用することが出来、発電効率が高くなると言う利点がある(例えば非特許文献2乃至4)。なお上記破壊的な自励振動の事例として、1940年に米国ワシントン州で起こったタコマ橋の崩壊は、数々の記録が残されており、あまりにも有名である。
【0005】
このフラッタ現象による翼の動きは、
(1)翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)
(2)翼が流れを横切るように動く往復並進運動
の重ね合わせであって、(1),(2)の動きは,ほぼ90度位相がずれていて、その結果,翼は魚がくねって泳ぐように運動する。なお、発電は上記動きのうちの(2)の動きを利用して行なう。
【0006】
【非特許文献2】Duncan,J.W.,「The Fundumentals of Flutter」,R&M No.2417,Nov.1948
【非特許文献3】Mckinney,W. and DeLaurier,J.,「The Wingmill: An Oscillating Wing Windmill」,Journal of Energy,Vol.5,No.2,March-April 1981
【非特許文献4】磯貝紘二etal.,「CFDを用いたフラッタ発電の概念設計」,航空宇宙技術研究所特別資料57号
【0007】
それに対して水力、すなわち水の運動エネルギを利用する水車の歴史は古く、そのうちダムによって蓄えられた水の位置のエネルギを運動エネルギに変えて発電する水力発電は世界各地で普及していることは周知の通りである。その他にダムは治水・農地への潅水・飲料水・工業水等に極めて多くの利益をもたらしておりながら、そのダム建設による自然破壊、地域消失による、一部かも知れないが、地域産業・住民の生活阻害、貯水の酸素不足による藻の異常発生、水質の悪化等の数々の弊害も指摘されている。
【0008】
それに対して我が国では流速が比較的速い中小の河川が多いことから、潜在的には、上記ダムによらず、上述の弊害も殆どない、水の流れ(運動エネルギ)を直に利用する中小規模の水力利用、特に発電への根強い期待が存在する。しかしながら、水の流れによるフラッタ現象が自然現象として生起することがなかったためか、また、フラッタ現象についての負のイメージが強かったためか、空気の800倍の比重を持ち、風速の約1/10の流速で発電が可能であって、空気に比較して有利であるにも拘わらず、それを有効に利用しようとする発想は今日まで全く見られなかった。
【0009】
その水によるフラッタ現象を生起させるためには、詳細は省略するが、翼の質量として、理論的に、それが晒される流体の仮想質量(翼弦を直径とする円柱の質量)の10倍程度以上が必要である。例えば前述の磯貝の風力発電例における翼の質量は233kgであるのに対して、水を用いると180t以上の質量が必要であり、従ってそのままでは水の流れによる水力発電は実現不可能であることは明らかであり、何らかの手段によって質量を増加する機構が必要である。
【0010】
並進運動に対する質量付加機構としては、並進運動を回転動に変換して円盤等の回転体を回転させ,円盤等の回転体の回転慣性モーメントを利用する方法が知られている。この方法を応用して,免震対象構造物の上下振動に関与する慣性質量を増加させて、免震対象構造物の上下振動を長周期化することで、上下方向の免震効果を得る上下免震装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−44748号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のことから本発明は、上記した従来技術の欠点を除く為に、翼に対するフラッタ現象を水の流れの中でも生起させるために必要な質量付加を、上記円盤を含む回転体の回転慣性モーメントによって行なうことを特徴とする、水のエネルギを電力に変換する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための第1の発明の水のエネルギを電力に変換する方法は、水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させること、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換すること、且つ前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を、前記往復並進運動を回転体の往復回転運動に変換させ、その回転慣性モーメントによって行なうことを特徴とするものである。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の構成に加え、前記翼を往復並進運動可能に、板ばねによって弾性的に支持することを特徴とするものである。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明の構成に加え、前記翼の往復並進運動を、ボールねじを介して前記回転体の往復回転運動に変換することを特徴とするものである。
なお、ここでボールねじとは、雄ねじ部分を構成するボールねじ軸とそれが螺着される雌ねじ部分との組み合わせのことである。
【0015】
第4の発明は、第1乃至第3の発明の構成のいずれかに加え、前記フラッタ現象を構成する翼振動のうち、その翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)をモータによって強制的に起こさせることを特徴とする。
【0016】
第5の発明は、第1乃至第4の発明の構成のいずれかに加え、前記翼の断面形状が前後対称であり、ピッチング運動(往復回転運動)の中心が翼弦中央であることを特徴とする。
【0017】
第6の発明の水のエネルギを電力に変換する装置は、水の流れに浸漬させ、フラッタ現象を生起させる翼と,そのフラッタ:現象に基づく翼の振動のうち、水の流れを横切るように動く往復並進運動に連動して往復回転運動する回転体と,を備えており、且つその回転体は、その慣性モーメントによって、前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を確保可能なものであることを特徴とするものである。
【0018】
第7の発明は、第6の発明の構成に加え、前記翼を往復並進運動可能に、前記翼に連動して往復並進運動する往復並進部材を弾性支持する等長一対の平行な板ばねを備えていることを特徴とするものである。
【0019】
第8の発明は、第6又は第7の発明の構成に加え、前記翼の往復並進運動を前記回転体の往復回転運動に変換するボールねじを備えていることを特徴とするものである。
【0020】
第9の発明は、第6乃至第8の発明の構成のいずれかに加え、前記フラッタ現象を構成する翼振動のうち、その翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)を強制的に起こさせるモータを備えていることを特徴とする。
【0021】
第10の発明は、第6乃至第9の発明の構成のいずれかに加え、翼断面形状が前後対称であり、ピッチング運動(往復回転運動)の中心が翼弦中央である翼を備えていることを特徴とする。
【0022】
第1の発明によれば、回転体によって極めて容易に質量付加することが出来、通常は生起しない、水の流れに浸漬させた翼に対してフラッタ現象を生起させることが出来、それによって翼が受けた水のエネルギを電力に容易に変換することが可能になる。
【0023】
第2の発明によれば、第1の発明の作用効果に加えて、板ばねによって、電力に変換される翼の往復並進運動の振動数を所定の振動数にすることが出来ると共に、その往復並進運動を殆ど摩擦ロスなしに案内することが出来る。
【0024】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の作用効果に加えて、ボールねじのリードを変化させるだけで殆ど摩擦ロスなしに質量付加効果を容易に調整可能である。
【0025】
第4の発明によれば、第1乃至第3の発明のいずれかの作用効果に加えて、モータによって加える僅かな電力によって翼のフラッタ現象を安定に生起させることが出来る。
【0026】
第5の発明によれば、第1乃至第4の発明のいずれかの作用効果に加えて、水の流れの方向が逆転する場合においても、翼のフラッタ現象を安定に生起させることが出来る。
【0027】
第6の発明によれば、回転体によって、通常は生起しない、水の流れに浸漬させた翼に対してフラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加が容易に可能であり、そのフラッタ現象を利用して水のエネルギを電力に容易に変換することが可能になる。
【0028】
第7の発明によれば、第6の発明の作用効果に加えて、板ばねは、電力に変換される翼の往復並進運動の振動数を所定の振動数にするための復元力を与えると共に、その往復並進運動を殆ど摩擦ロスなしに案内する。
【0029】
第8の発明によれば、第6又は第7の発明の作用効果に加えて、ボールねじは、そのリードを変化させるだけで回転体の質量付加効果を容易に調整可能である。
【0030】
第9の発明によれば、第6乃至第8の発明のいずれかの作用効果に加えて、翼を往復回転運動させるモータは、僅かな電力を消費するだけで、その翼のフラッタ現象を安定に生起させる。
【0031】
第10の発明によれば、第6乃至第9の発明のいずれかの作用効果に加えて、水の流れの方向が逆転する場合においても、翼あるいは装置全体の向きを変えることなく翼のフラッタ現象が安定に生起する。
【発明の効果】
【0032】
従来の風力発電やダム等による水力発電に代わって、各地に多数散在し、数kWの発電が可能で、従来全く利用されていない小河川の水の流れの中に、本発明の装置が設置されることによって、分散電源としてかなりの量の電力が提供されることになり、省エネは勿論、地球を温暖化すると言われる炭酸ガスの発生抑制に貢献すると期待される。
【0033】
また、第10の発明によれば、水の流れの方向が逆転する潮流などに対しても、翼あるいは装置全体の向きを変えることなく発電することが可能となるため、潮流を利用した発電への利用も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【0035】
図においては、01は水の流れに浸漬し、フラッタ現象を生起させる翼であって、翼弦長が略水の流れに沿って延び、且つ翼幅が水深(上下)方向に延びるよう、その姿勢が設定されている。なお、フラッタ現象によるこの翼01の動きは、
(1)翼01が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させる往復回転運動(ピッチング運動)
(2)翼01が流れを横切るように動く往復並進運動
の重ね合わせたものであって、(1),(2)の動きは,ほぼ90度位相がずれていて、そのとき翼01は魚が身体をくねらせて泳ぐように挙動を示す。さらに本発明の発電は,上記動きのうちの(2)の動きを利用したものである。
【0036】
上記翼01は、水の流れの中でフラッタ現象生起可能に以下のように支持されている。すなわち、02はその翼01の上端に垂設され、上下方向に伸びる軸であって、前記翼01がその軸02の周りに往復回転運動(ピッチング)可能に上下2個の軸受け03,03によって支承されている。
【0037】
次に04は前記翼01と連動して前記往復並進運動する、棒状往復並進部材であって、水の流れを横切るように配置されると共に、前記翼01を、前記軸受け03,03及びその軸受け03,03を固定する、垂直平板状の軸固定座(符号省略)を介して支持している。
【0038】
05,05は前記往復並進部材04を直接、弾性的に支持する等長一対の平行な板ばねであって、前記往復並進部材04が前記翼01に連動して、摩擦損失なく、所望の振動数で往復並進運動することが可能に設定されていて、前記翼01を間に挟むよう、それぞれ長手方向を水の流れに平行、且つその幅部分を鉛直、前記軸02に平行に配置されると共に、その各々の先端には前記往復並進部材04が結合され、その各々の基端は架構06に固定されている。その作用効果については後述する。
【0039】
以上の構成のままで前記翼01にフラッタ現象さえ生起すれば、その往復並進運動を発電に変換することが出来るが、実際そのままでは質量不足でフラッタ現象が生起しないため、本発明では、以下の質量付加機構10を付加し、必要な質量を確保している。
【0040】
すなわち、11は前記往復並進部材04に平行に配置されたボールねじ軸、すなわちボールねじの雄ねじ部分であって、前記往復並進部材04と連動して往復並進する雌ねじ部12に螺着されており、それによって前記翼01の往復回転運動は、前記往復並進部材04,雌ねじ部12を介してボールねじ軸11の往復回転運動に円滑に変換される。なお、13はボールねじ軸11の先端非ねじ部分(符号省略)を支承する軸受けである。
【0041】
次に14はそのボールねじ軸11に直結された円盤であって、その径,質量,前記ボールねじ軸11のリードを任意に設定することによって、前記翼01の仮想質量をフラッタ現象生起に必要な値以上に増大することが出来る。さらに、この円盤14は、円形の板に限定されるものでなく、円筒その他の回転体であればよく、すぐ後で述べる発電機20のロータによってその少なくとも一部を代替可能である。その発電機20はボールねじ軸11の先端側、軸上に配置されており、図では隠れて見えないが、前記ボールねじ軸11の先端に直結されたロータ、それを囲むステータ(いずれも図示省略)が内蔵されている。
【0042】
以上の構成に加えて、水の流れに浸漬された前記翼01に、所望の振動数の往復回転運動(ピッチング運動)を起こさせるための復元力を持つ、少なくとも一つの「ねじりばね」を介在させることによって、一つの弾性支持系を構成し、それと前記板ばね05,05を含む往復並進運動に対応する、もう一つの弾性支持系と組み合わせ、その翼01に対して水の流れの中でフラッタ現象を起こさせ、発電することも可能である。
【0043】
しかしながらフラッタ現象をより安定して起こさせるために、ここではさらに次の構成を採用した。すなわち、前記「ねじりばね」に替えて、前記軸02にモータ30を直結し、その軸02を介して前記翼01を任意の周期,任意の角度、強制的に往復回転運動(ピッチング運動)を生起させるようにした。なお、この翼01を往復回転運動(ピッチング運動)させるための電力は、本装置の発電量の約10%程度である。
【0044】
また、前記翼01の翼断面形状を前後対称にして、前記往復回転運動(ピッチング運動)の中心を翼弦中央にすることで、水の流れの方向が逆転する場合においても、その翼01に対してフラッタ現象を安定に生起させることができる。
【0045】
ここで上記装置の計画設計に当って用いた手法の一部を説明すると、それの発電効率や発電量が最大になるよう、前記翼01の質量,重心(図示省略)と軸02の位置,及び前記質量付加機構10による付加質量,翼01の並進振動とピッチング振動の振動数比等のパラメータは、水の流れの非定常水力にポテンシャル理論を用いた解析やナビエストークス方程式の数値解析等を行って設定したが、その詳細は省略する。
【0046】
本装置の作用効果について説明する。先ず前記板ばね05,05を含む、前記翼01の往復並進運動に対応する弾性支持系について説明する。水の流れとは無関係に、前記翼01又は往復並進部材04に何らかの手段により、その往復並進部材04をその長手方向に並進させると、その方向に、前記板ばね05,05が湾曲する。
【0047】
その湾曲した板ばね05,05は、それを湾曲させていた力が消失すると、その質量とばね定数とに基づく固有周期(振動数)で、その先端に結合された前記往復並進部材04、それと一体に連動する翼01と共に左右に自由振動するが、その運動は、主として板ばね05,05の湾曲に伴って生じる(極めて僅かな)損失によって徐々に減衰し、停止する。
【0048】
すなわち、この板ばね05,05を含む弾性支持系には、翼01の往復並進運動の振動数を所望の振動数にするための復元力を与える機能と,前記往復並進運動を摩擦損失なく、極めて少ない減衰で行なわせるガイド機能とがあって、いずれの機能も本装置作動に極めて有効に作用する。
【0049】
つぎに前記質量付加機構10について説明する。その質量付加機構10による質量付加は、次式のように表わされる。
【数1】



【0050】
例えば前記翼01として、翼弦長400mm、翼幅1500mmの翼を用いた場合、フラッタ現象を生起させるためには翼質量を3000kg程度にする必要がある。前記質量付加機構10を構成する円盤14として、例えば質量0.7kg、半径150mmの円盤を用いて、ボールねじのリードを10mmとして(1)式を用いると、質量付加は3100kgになり、フラッタ現象を生起させるために必要な3000kgとほぼ等しくなる。
【0051】
すなわち、本装置によれば、翼弦長400mm、翼幅1500mmの翼では実現困難と思われる質量3000kgにする代わりに、0.7kgの円盤を用いることによって、水の流れでフラッタ現象が生起する。
【0052】
次に本装置の運転について説明すると、前記翼01を水の流れに浸漬し、その水の流速に応じ、それぞれ適正な最大迎え角,周期になるよう、前記モータ30を駆動し、軸02を介して、強制的に往復回転運動(ピッチング運動)させる。それに伴い、前記往復並進部材04等を介して前記板ばね05,05に弾性的に支持された翼01に、安定してフラッタ現象が生起する。
【0053】
繰り返しになるが、それは
(1)翼01が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させる往復回転運動(ピッチング運動)
(2)翼01が流れを横切るように動く往復並進運動
の重ね合わせたものであって、(1),(2)の動きは,ほぼ90度位相がずれていて、そのとき翼01は魚がくねって泳ぐような挙動を示す。なお、本発明では,上記動きのうちの(2)の動きを発電に利用するものである。
【0054】
以上のようにして、従来予想もされていなかった水の流れの中で前記翼01にフラッタ現象が生起し、その翼01の往復並進運動が、それと連動する前記往復並進部材04、雌ねじ部12を介して、前記ボールねじ軸11、ロータの往復回転運動に円滑に変換され、それによって最終的に発電機20が駆動され、高い効率で電力に変換される。
【0055】
また、既存のプロペラを用いた水力発電は、プロペラが流水を横切る円形断面の流水のエネルギを利用するのに対し、本装置では前記翼01が往復並進運動をする矩形断面の流水のエネルギを利用するため、利用できる流水のエネルギが増加し、発電量を増やすことが可能となる。
【0056】
さらに、本装置では前記翼01およびその翼を支持する軸02の一部分を除いた他の装置部品・機器は空中にあり防水仕様は不要であるため、信頼性が増し、また保守管理が容易となり、かつ低コストで本装置を提供することが可能となる。
【0057】
また、水没箇所が前期翼01およびその翼を支持する軸02の一部分だけであるため、水没部品が多い既存のプロペラを用いた水力発電に比べ、水流に含まれるごみが引掛り発電効率が低下する危険性を低減することができる。
【0058】
従来の風力発電やダム等による水力発電に代わって、各地に多数散在し、数kWの発電が可能で、従来全く利用されていない小河川の水の流れの中に、本発明の装置が設置されることによって、分散電源としてかなりの量の電力が提供されることになり、省エネは勿論、地球を温暖化すると言われる炭酸ガスの発生抑制に貢献すると期待される。
【0059】
また、前記翼01の翼断面形状を前後対称にして、前記往復回転運動(ピッチング運動)の中心を翼弦中央にすることによって、水の流れの方向が逆転する潮流などに対しても、その翼01あるいは本装置全体の向きを変えることなく、その翼01に対してフラッタ現象を安定に生起させ、発電することが可能となるため、本発明の装置は潮流を利用した発電への利用も期待される。
【0060】
ここで参考に本発明の基礎となった実験装置とそれによる実験結果について図2、図3に基づいて説明する。図3は図2の写真を示す。
【0061】
図2、図3において図1と同種の大半の部材については、図1における符号をそのまま使用しており、その説明を省略する。ここに40は一種の発電機の働きをする電磁ダンパーであって、磁場を横切って運動する電気良導体中に電流(渦電流)を生じさせ、その際電気良導体の運動への抵抗によって発生電力を測定しようするものである。さらに詳細に説明すれば、41は断面コの字状の永久磁石、42はその永久磁石41の磁極間を運動する帯状金属片であって、棒状往復並進部材04に連動して往復並進するようそれの一端に固定されている。なお、43は前記抵抗を測定するロードセルである。また、図において、44は円盤14による付加質量付加を確認するためのロードセルであって、詳細説明は省略する。
【0062】
1)実験条件:
翼仕様:
翼弦長: 100mm
翼幅 : 300mm
翼型 :NACA0015
往復並進運動部分:
固有振動数 : 5.7rad/s(0.907Hz)
質量 : 23.6kg(内 16.3kgを質量付加機構で付加)
ピッチング振動数 : 6.0rad/s(0.955Hz)
水の流速: 1m/s
【0063】
2)実験結果:
水の流れによって理論通りにフラッタ現象が生起した。
往復並進運動振幅: 53mm
発電効率: 37.2%
発電量 : 4.4W
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】全体構造をしめす斜視図である。
【図2】実験装置を示す斜視図である。
【図3】図2の写真である。
【符号の説明】
【0065】
01 翼
02 軸
03 軸受け
04 棒状往復並進部材
05 板ばね
06 架構
10 質量付加機構
11 ボールねじ軸
12 雌ねじ部
13 軸受け
14 円盤
20 発電機
30 モータ
40 電磁ダンパー
41 永久磁石
42 帯状金属片
43,44 ロードセル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させること、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換すること、且つ前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を、前記往復並進運動を回転体の往復回転運動に変換させ、その回転慣性モーメントによって行なうことを特徴とする水のエネルギを電力に変換する方法。
【請求項2】
前記翼を往復並進運動可能に、板ばねによって弾性的に支持することを特徴とする請求項1に記載の水のエネルギを電力に変換する方法。
【請求項3】
前記翼の往復並進運動を、ボールねじを介して前記回転体の往復回転運動に変換することを特徴とする請求項1又は2に記載の水のエネルギを電力に変換する方法。
【請求項4】
前記フラッタ現象を構成する翼振動のうち、その翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)をモータによって強制的に起こさせることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水のエネルギを電力に変換する方法。
【請求項5】
前記翼の断面形状が前後対称であり、ピッチング運動(往復回転運動)の中心が翼弦中央であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水のエネルギを電力に変換する方法。
【請求項6】
水の流れに浸漬させ、フラッタ現象を生起させる翼と,そのフラッタ現象に基づく翼の振動のうち、水の流れを横切るように動く往復並進運動に連動して往復回転運動する回転体と,を備えており、且つその回転体は、その慣性モーメントによって、前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を確保可能なものであることを特徴とする水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項7】
前記翼を往復並進運動可能に、前記翼に連動して往復並進運動する往復並進部材を弾性支持する等長一対の平行な板ばねを備えていることを特徴とする請求項6に記載の水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項8】
前記翼の往復並進運動を前記回転体の往復回転運動に変換するボールねじを備えていることを特徴とする請求項6又は7に記載の水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項9】
前記フラッタ現象を構成する翼振動のうち、その翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)を強制的に起こさせるモータを備えていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項10】
翼断面形状が前後対称であり、ピッチング運動(往復回転運動)の中心が翼弦中央である翼を備えていることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の水のエネルギを電力に変換する装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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