説明

水の流れを逸らすための装置を船尾に備える船

その装置は、第一面と称される水没させられた下面(2)を有し、その船の船体底部(FC)の後方に向かう延長線上に全体的に適合され、一方、この底部(FC)に接する一般面(Δ)に対し角度(α)を形成する複数の逸らし部材(1)を含み、それら逸らし部材がその船体に連結され、その船尾の幅の全体又はほぼ全体に亘って隣り合うように並置され、制御手段(4)がその角度(α)を変えるために一方向又は他方向にそれを旋回させることができ、それら手段が保護ケース内に部分的に収容される、という事実によって特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その船尾に水の流れを逸らすための装置を備える船に関する。
【0002】
より詳しくは、特にクルーズ船のような大規模で大きなトン数を有する船であり、その移動速度が、軽量で高速なボートの移動速度に対して比較的限られた船であり、その速度が、例えば、巡航速度で10〜25ノットの間(約18〜45km/hの間)であり、そのフルード数が0.28を超えないものであるところの船に関する。
【背景技術】
【0003】
この種の船におけるその船体の底部の、後部側面又は半円形に曲がった部分との接続領域において、水位線の下に位置付けられるくさび形状の逸らし部材をその船の船体に装備することが知られている。
【0004】
一般に“トリムウェッジ”という表現で表されるこの種の逸らし部材の機能は、その船尾において、その船体の下を通る、相対運動する水の流れを下方及び後方に逸らすことであり、それは、所与の速度での推進に必要な燃料の消費を低減させることによって、相関的に、その船の出力を増大させる結果となる。
【0005】
この種の逸らし部材は、例えば、米国特許第6038995号明細書に記載されている。
【0006】
公知の逸らし部材の欠点の一つは、それらの効率、特に、与えられたパワーゲインに関する効率が、その船の速度ばかりでなく、(その船荷及び/又は航海条件に依存し得る)その船のトリムに依存するという点にある。
【0007】
それ故に、特定の所与のトリム及び速度条件の下で最大限の効率を確保するために決定される、その逸らし部材を構成するその“ウェッジ”の大きさ及び角度は、他の条件の下では必ずしも最適なものではない。
【0008】
小型の高速モーターボートであり、そのボートの推進手段の両側に配置される二つの旋回するフロート体をその後端に備えた小型の高速モーターボートは、国際公開第98/24684号パンフレットから既に公知である。
【0009】
これらのフロート体は、そのボートが低速で移動する場合に、そのボートの後部を上昇させてそのボートをしゃがみ込ませ(プレーンモードへの移行)、それによってそのボートの前部にあるショルダー波を減少させるべく、下方に展開される。
【0010】
高速では、そのフロート体は、反対に、引っ込められた位置にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6038995号明細書
【特許文献2】国際公開第98/24684号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、その船体のこの種の配置は、しゃがみ込むことがない大規模で大きなトン数を有する船に適用することができない。更に、それは、その船の後部における波の再循環を防止できないが、この現象は、(その推進手段のブレードの近くにおける流れのより大きな摩擦及び乱れを通じて)その船の推進エネルギーの損失の原因となる。
【0013】
更に、この種のフロート体は、後方からやってくるうねりがその後部カウンターの下に自由に侵入できるので、それら二つのフロート体の間に延びるそのボートの中央領域において、後部スラミングの問題を解決することができない。
【0014】
本発明は、上述の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
それ故に、本発明の対象は、特にクルーズ船のような大規模で大きなトン数を有する船であって、第一面と称される水面下の下面を有する複数の逸らし部材であり、その船体の底部のその後方への延長線上に全体的に適合し、一方で、この底部に接する一般面に対して角度を形成し、それら逸らし部材のそれぞれがその船体に連結されるところの複数の逸らし部材と、その角度を変更させるために一方向又は他方向にそれを旋回させることを可能にする制御手段とを有する、水の流れを逸らすための装置をその船尾に備える船である。
【0016】
本発明に従って、一方では、それら逸らし部材は、同じようなものであり、その船尾の幅の全体又はほぼ全体に亘ってそれらが横方向に並んで延在するように並置され、それらのそれぞれがケースで構成され、他方では、それら逸らし部材のそれぞれの旋回を制御するためのその手段は、少なくとも一つの液圧ジャッキを含み、そのボディが、その船体の構造と一体である保護ケース内に収容され、且つ、そのロッドが、その船体の後部とそのケースとの間に挿入され、このジャッキがうねりや波からかくまわれるように、それがその旋回を制御する。
【0017】
このようにして、その角度の値は、アドホックの操縦部材を作動させることによって自主的に、或いは、特にその船の速度やトリムといった特定のパラメータに従って自動的に、変更され得る。
【0018】
更に、その船尾の幅の全体或いはほぼ全体に亘るそれら逸らし部材の配置は、その船の後部における波を穏やかにすることができ、また、エネルギー浪費の原因となるその波の再循環現象を回避することができる。
【0019】
更に、本発明の実現可能で追加的ないくらかの特徴に従って:
―ケースのそれぞれは、それぞれ上方及び前方に向かう複数の壁によってその頂部が閉じられ、二面角を形成し、そして、複数の垂直な側壁によってその両側が閉じられ、その液圧ジャッキは、その液圧ジャッキがその二面角の上部における比較的閉ざされた空間に隔離されるように、その船の船尾の構造とこの二面角の角度のある領域との間に挿入され;
―その制御手段は、その一般面に対して上方且つ後方に傾けられたその第一面の配置に対応する負の値と、この一般面に対して下方且つ後方に傾けられたこの第一面の配置に対応する正の値との間にある範囲内で、その角度を変化させられ;
―その制御手段は、同調して動作する液圧ジャッキのセットを含み;
―それら液圧ジャッキは、操縦部材を作動させることによって自主的に制御され;
―それら液圧ジャッキは、その船の速度及び/又はトリムによって支配されるシャトル弁によって制御され;
―ケース状のそれら逸らし部材のそれぞれは、後ろ面であり、また、少なくとも部分的に水没させられ、後方のうねりによるスラミングに対抗するほぼ垂直な壁を形成すべく前述の角度を増大させることによって下げられ得る第二面を有し;
―その第一面は、実質的に平坦であり;
―その第一面は、下方に開く鈍角の二面角を形成する実質的に平坦な前部小平面及び後部小平面の二つで構成され;
―その第二面は、実質的に平坦であり;
―その第二面は、後方に開く鈍角の二面角を形成する実質的に平坦な上部小平面及び下部小平面の二つで構成され;
―それら逸らし部材のセットは、共通の旋回軸を有し;
―それら逸らし部材のセットの旋回は、その旋回制御手段を用いて、同じ角度に亘って、一緒に行われ;
―様々な逸らし部材の旋回は、その旋回制御手段を用いて、様々な角度の値で、区別された態様で行われ;
―後方から来るうねりや波の攻撃からその逸らし部材及びその液圧ジャッキを保護できるシールドとしての役割を果たすスポイラをその船尾に備える。
【0020】
上述の“共通の旋回軸”という表現は、必ずしも、一つの共用されるシャフトを参照するものではなく、この共通の軸が、別々ではあるが同軸である複数のシャフト部分の形をとりうる点に留意すべきである。
【0021】
本発明の他の特徴及び有利点は、本発明の好適な実施例の一つの以下の説明を読むことによって明らかとなる。
【0022】
この説明は、添付図面を参照しながら行われる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を構成する装置の第一実施例の、その逸らし部材が引っ込められた非作動位置にある、概略側面図(スターボード側)である。
【図2】図1の図に類似する、その逸らし部材が下方に曲げられた作動位置にあることを示す図である。
【図3】本発明に従った装置であって、四つの並置された逸らし部材であり、そのうちの二つが片側図で見えており、それら逸らし部材が引っ込められた非作動位置にあるものとして示されるところの逸らし部材を含む装置を備える船の船尾の半弓(half-bow)(ポート側)の後部の概略端面図である。
【図4】図3の図に類似する、下方に曲げられた動作位置にあるそれら並置された逸らし部材を示す図である。
【図5】図4に類似するが、逸らし部材が様々な角度位置に位置付けられている図である。
【図6】“水の逸らし”機能に適合させられた逸らし部材の角度位置を示す、図1及び図2に類似する図である。
【図7】“アンチ・スラミング”機能に適合させられた逸らし部材の角度位置を示す、図1及び図2に類似する図である。
【図8】本発明に従った装置であって、五つの並置された逸らし部材であり、引っ込められた非作動位置にあり、それら逸らし部材のうちのいくつかがその他の逸らし部材の連結軸とは異なる連結軸を有することが示されるところの逸らし部材を含む装置を備える船の船尾の弓の後部の概略端面図である。
【図9】その装置の第二実施例を示す図1に類似する図である。
【図10】その装置の第二実施例を示す図2に類似する図である。
【図11】その装置の第三実施例を示す図1に類似する図である。
【図12】その装置の第三実施例を示す図2に類似する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1及び図2を参照すると、参照符号1は、例えばクルーズ船のような大規模で大きなトン数を有する船の後部に配置される逸らし部材を指す。
【0025】
参照符号FCは、比較的平坦な船体底部を指し、参照符号QUは、竜骨(キール)の後部を指し、参照符号TAは、船尾の後部テーブルを指す。
【0026】
その船の前部は、これらの図の右側に位置する。
【0027】
参照符号Δは、図1及び図2に対応する垂直切断面のレベルにおいて船体底部FCが全体的に適合する面に対応する。
【0028】
逸らし部材1は、原則的に、機能的な面2、3の形をとる二つの壁を含む。
【0029】
第一面2は、(図3で見られる、その僅かな横断カーブを除き)ほぼ平坦であり、下方に回転させられる。
【0030】
単なる情報として、図1の参照符号Lで表されるその長さ方向の寸法は、約4〜5メートルの間である。
【0031】
第二面3は、後方に回転させられる。それは、上部小平面3a及び下部小平面3bの二つの小平面で構成され、それら二つの小平面は、水平な横方向のエッジを有する二面角を形成し、その頂角は、例えば、およそ160°の大きな値を有する、後方に向かって開く鈍角である。小平面3bは、小平面3aよりもずっと大きな高さに亘って延びる。
【0032】
面2及び小平面3bはまた、実質的に、水平な横方向のエッジを有する二面角の形状であるが、その頂角は、前方及び上方に向かって開く鋭角である。情報として、その値は、およそ70°である。
【0033】
逸らし部材1は、中空のケースであり、それぞれ上方及び前方に向かう壁6及び7によってその上部が閉じられており、それらはまた、上方及び前方に開く鈍角を有する二面角を形成する。そのケースは、その側部が(図では見えない)垂直の側壁群によって閉じられている。
【0034】
そのケースを構成する種々の壁は、例えば、互いに溶接されたステンレス鋼板である。そのケースは、流体力学的ストレスに適切に耐え、且つ変形を抑えるために、リブやパーティションのような内部フレーム(図示せず。)によって補強され得る。
【0035】
そのケースは、密封され、且つ、空気で満たされている。
【0036】
このように、そのケースは、ほぼL字状の輪郭を有し、且つ、本発明の重要な特徴に従って、それは、その水平部分の端部で、水平な横方向の軸を有するシャフト5の回りで、前部の方に連結される。
【0037】
このシャフトは、その船体と一体になっている。
【0038】
逸らし部材1の旋回は、少なくとも一つの液圧ジャッキ4であり、有利的には、合同で且つ同調して動作する一セットの(例えば、三つの)平行な液圧ジャッキ(図ではそれらのうちの一つのみが見えている。)を用いて実現される。
【0039】
それらは、例えば、複動式のジャッキであってもよく、そのボディ42は、ヒンジ接続部40を介して、その船の船尾構造と一体になっており、また、そのロッド41は、ヒンジ接続部8を介して、逸らし部材のケース1と一体になっている。図示された実施例では、この接続部8は、壁6及び7の角度のある接続領域に配置されている。
【0040】
部分的で概略的な図3の断面図で示されるように、接続部40は、有利的には、その船の船尾構造における二つの縦方向の垂直なブラケットGの間に取り付けられる水平で横方向のトラニオンで構成される。
【0041】
ジャッキ4が引っ込められた場合、面2は、実質的に、その船体底部の延長にある上述の面Δに適合する。そして、当業者は、ジャッキ4が、その船体の後部とそのケースの壁6及び7によって形成される二面角の上部との間にある、比較的閉じられた空間内に隔離されることが分かるであろう。そして、それらは、うねりや波による衝撃からかくまわれ保護される。
【0042】
更に、ジャッキ4のそれぞれは、有利的には、その船体構造と一体化されてその後ろに配置される保護ケース43内に収容される。このケース43は、例えば、一対のブラケットGによって範囲が決められる。
【0043】
それらが延ばされた場合、面2は、面Δに対し鋭角αを形成し、この角度の値は、シリンダロッド41の延長度合いによって決まる。
【0044】
逸らし部材1が動作位置(図2)からそのアイドル位置(図1)の方に動かされると、壁6及び7によって範囲が決められた二面角の凹部に入っていた水が、傾斜姿勢を取る壁6に沿って前方に自由に流れ得る点に留意すべきである。
【0045】
図3を参照すると、その船体の幅の全て或いはほぼ全てに亘って横方向に並んで延びる、複数の並置された同じような逸らし部材を含む装置が示されている。
【0046】
より正確には、その船は、四つの逸らし部材を備え、それらは、その船の中央の縦方向の垂直面PVLの両側に対称に配置された二対に分配される。
【0047】
図示された実施例では、その船尾における比較的狭い中央領域ZPCが、逸らし部材のないまま、維持されている。
【0048】
この領域のそれぞれの側には、二つの並置された逸らし部材1A及び1Bが取り付けられ、それらの構造は、前述の逸らし部材1のものと同様である。それらの下縁は、その船体底部とその逸らし部材の下面との間の連続性の消失がなくなるように或いは実質的になくなるように、実質的にその船体底部の下縁の輪郭に対応する輪郭で描かれる。
【0049】
参照符号W1−W2は、ここでは、二つのケース1A及び1Bによって共用される水平な横方向の連結軸(図1及び2ではシャフト5の形をとる軸)を指す。
【0050】
ケースのそれぞれは、その長さに亘って一定の間隔で割り振られる三つのジャッキ4のセットを用いて作動させられる。
【0051】
(同じ逸らし部材に割り当てられる)同じセットにおけるそれら三つのジャッキは、同程度の伸長又は収縮で同調して動作するように制御される。
【0052】
図4は、二つのケース1A、1Bの旋回角度(及び、この図で見られる、それらの下方への相関的な移動)が同じになるよう、二セットのジャッキが同調して動作する状況を示す。
【0053】
図5は、二つのケース1A、1Bの旋回角度が異なり、二セットのジャッキが個別に操縦される異なる状況を示す。この場合では、1’Bで指定される外側の逸らし部材を下げるための移動が、1’Aで指定される内側の逸らし部材を下げるための移動より大きい。その反対もまた起こり得る。
【0054】
図6及び7を参照して、後ろ波の平滑化、又は“アンチ−スラミング”機能のそれぞれを確かなものとするためにこれら逸らし装置がどのように用いられるかについて説明する。
【0055】
水位線は、参照符号Nを有する。
【0056】
図6は、通常の航海の状況を示し、その船の進行は、矢印Aによって表される。
【0057】
ジャッキ4の伸長度合いは、逸らし部材の面2と面Δとで形成される角度α1が比較的小さいもの(例えば、約3°である。)となるように、控えめなものとなっている。
【0058】
その面2の傾斜の結果として、進行中の船体の下を通る水の流れiは、矢印jで表されるように、下方且つ後方に逸らされ、その後部での波の再循環の防止をもたらし、推進のために生み出される力の増大をもたらし、そして、相関的に、所与の速度における燃料消費の低減をもたらす。
【0059】
しかしながら、所与の速度(例えば、23ノットである。)に対する最適な角度値α1が別の速度(例えば、18ノットである。)に対しては望ましくないものとなり得ることが観測された。
【0060】
他のパラメータ、特に、(航海条件ばかりでなくその船荷にも依存し得る)その船のトリム、風や海流の向き、及びうねりは、この所与の角度α1に対するその装置の効率に悪影響を及ぼし得る。
【0061】
こういうわけで、本発明のおかげで、角度αを継続的に最適化すべくその船に備えられた逸らし部材の一部又は全部の角度位置を変えるために液圧ジャッキ4を一方向又は他方向に作動させることによって、この角度を変えることが可能となる。
【0062】
逸らし部材のそれぞれは、シャトル弁を用いて適切な位置で維持され得る。
【0063】
ジャッキは、手動で制御されてもよく、或いは、好適には、考慮されなければならない関連パラメータ(特に、速度及びトリムである。)に関する、アドホックセンサからの信号を受信する計算・制御ユニットを介して自動的に制御されてもよい。このユニットは、その装置の効果を最適化するために、それらジャッキをリアルタイムで作動させる。
【0064】
情報として、実現される角度αの値の範囲は、0〜6°の間である。
【0065】
実際には、その船が低速で動く場合、その後部での波の再循環現象は、無視できるものであり、この場合、ジャッキ4は、逸らし部材1がそのアイドル位置(図1)となるように、作動させられる(引っ込められる)。
【0066】
反対に、その船が高速(例えば、長さ300メートルの船で15ノット(27km/h)以上)で動く場合、ジャッキ4は、作動させられる(下方に展開される。(図2参照。))。この姿勢において、それらは、その後部での波の再循環の防止、渦の制限、及びその船の推進力の損失の回避を可能にする。
【0067】
図7は、アンチスラミングの状態を示し、矢印Hは、後方のうねり(rear surge)を表す。
【0068】
停船させられた(例えば、入港させられた)或いは、低速で航海している大型船がその後方からのうねりにさらされた場合、このうねりによって生じる水の流れが、その船体底部と船尾の弓型との接合領域において、その後部カウンターの下に侵入するのが一般的である。
【0069】
通常“スラミング”と呼ばれるこの現象において、その水の衝撃は、その船の構造全体に拡がる望ましくないぐらつきや振動を引き起こす垂直成分を伴う強烈なショックを引き起こすおそれがあり、乗客の不快の原因、及び、その構造における機械保全に対する刺激となる。
【0070】
本発明は、この問題の解決をも可能にする。
【0071】
この目的のため、ジャッキ4は、前述の角度α(図7ではα2で表される。)が、逸らし部材1の後面3がほぼ垂直な姿勢で直立となるような値を有するように、大きく、もっと言えば、完全に伸ばされる。
【0072】
図示された実施例では、角度α2の値は、この場合、20°付近である。
【0073】
この種の状態では、図7を見ることで容易に理解できるように、うねりHは、その船体底部FCに対する衝撃を創出すべく前述の船尾の“カウンター”の下に侵入することはできない。
【0074】
そのうねりに起因する波状の水の流れは、逸らし部材1の後背面3によって遮断される。
【0075】
このアンチ・スラミングの姿勢における、その装置におけるジャッキ4のセットの作動、又はそれらの一部のみの作動は、大気条件に応じて自主的に制御され、或いは、好適には、そのうねりの方向及び大きさの検出によって自動的に制御され得る。
【0076】
図8で示される実施例において、その船の船尾は、中央面PVLに対して左右対称に配置される、横方向の寸法(幅)“x”を持つ中央の一つ1Xと、幅“y”を持つ内側部の二つ1Y及び1Y’と、幅“z”(x>y>z)を持つ外側部の二つ1Z及び1Z’とからなる五つの逸らし部材のセットを備える。
【0077】
逸らし部材1X、1Y、及び1Y’は、単一の連結軸V1−V2を備える。
【0078】
一方、逸らし部材1Z及び1Z’の連結軸W1−W2及びW’1−W’2は、互いに同軸であり、V1−V2に対し高さ方向にオフセットされており、後者よりも上に位置する。
【0079】
この配置は、個別であるか或いはグループで一緒にされるかといった逸らし部材の制御ばかりでなく、(個別的となる或いは集合的となる)逸らし部材の数、それらの幅、それらの旋回軸の位置に関する複数の取り得る配置が存在することを示す。
【0080】
図1及び2で示された実施例の変形である、図9及び10、並びに図11及び12で示される第二及び第三の実施例では、既に説明されたものと同じである或いは類似する要素を示すために、同じ参照符号が用いられた。
【0081】
図9及び10の逸らし部材1は、下方に開く鈍角を持つ二面角を形成する二つの隣接する前部小平面2a及び後部小平面2bで構成される第一面2を有する。第二面3は、平坦である。
【0082】
従って、この逸らし部材1が図9のようなアイドル位置をとる場合、小平面2bは、船体底部FCの面に対し、ゼロではない正の角度αを形成する。
【0083】
この角度は、ジャッキ4の伸長に応じて、増大する(図10の角度α’>α0)。
【0084】
この実施例において、当業者は:
a)逸らし部材1の旋回軸5が、この部材の前端部に対して、上方にオフセットされ、
b)船尾テーブルTAの基部が、突出ラグ又はスポイラBEによって延ばされ、逸らし部材1がそのアイドル位置をとる場合に、第二面3がその延長線上において見出される、ことにも気付くであろう。
【0085】
図11及び12の逸らし部材1は、底部に向かって開く鈍角の二面角を形成する二つの連続的な前部小平面2a及び後部小平面2bで構成される第一面2を有する。第二面3は、湾曲しており、実質的に、後方を向く凸状部を有する、シャフト5を中心とする円筒の弧の形状である。
【0086】
この逸らし部材1が図11で示されるそのアイドル位置をとる場合、小平面2bは、船体底部FCの面に対して(負の値ではあるが)ゼロではない角度α’を形成する。
【0087】
この角度は、ジャッキ4の伸長に応じて、正の値となって増大する(図12参照。)。
【0088】
この実施例では、船尾テーブルTAの基部も、突出スポイラBEによって延長されている。ここでは、後者の部分は、保護シールド9の形をとり、アイドル位置において、その内側に逸らし部材1の上部が収容される。この目的のため、このシールド9は、凹状の輪郭の内面90を有し、その湾曲部は、第二面3の湾曲部に適合される。
【0089】
このシールド9は、後方からのうねりや波による攻撃から逸らし部材1及びジャッキ4を保護する。
【0090】
図9〜12と共に説明された様々な実施例において、当業者は、ジャッキ4も保護ケース43に収容されることに気付くであろう。
【0091】
その船が逸らし部材ケースのセットを備える場合、側部ケース群を下げることが、有利的なアンチ・ローリング効果を得ることを可能にする点に留意すべきである。
【0092】
伝統的に、この種の船は、効果的なアンチ・ローリングのための安定化ボードを備えている。しかしながら、これらのボードは、その船の前方への動きに対する抵抗をもたらす比較的大きな抵抗(drag)を有する。
【0093】
穏やかな海の場合、これらのボードを引っ込め、そして、それらの代わりにアンチ・ローリング機能を果たすが前方への動きに対する抵抗を低減させる側部逸らし部材ケースを下降させることは、興味深いものとなり得る。実際には、それらケースの傾斜は、主に、抵抗(drag)のほとんどない揚力(lift)をもたらす。
【0094】
当然のことながら、大きなローリングを発生させる荒れた海の場合には、それらボードは、単独で、或いはそれら側部逸らし部材と共に、継続的に作動させられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にクルーズ船のような大規模で大きなトン数を有する船であり、第一面と称される水面下の下面を有する複数の逸らし部材であり、その船体底部のその後方への延長線上に全体的に適合し、一方で、この底部に接する一般面に対して角度を形成し、それら逸らし部材のそれぞれがその船体に連結されるところの逸らし部材と、前記角度を変更させるために一方向又は他方向にそれを旋回させることを可能にする制御手段とを有する、水の流れを逸らすための装置をその船尾に備える船であって、
一方では、それら逸らし部材は、同じようなものであり、前記船尾の幅の全体又はほぼ全体に亘ってそれらが横方向に並んで延在するように並置され、それら逸らし部材のそれぞれがケースで構成され、
他方では、前記逸らし部材のそれぞれの旋回を制御するための前記手段は、少なくとも一つの液圧ジャッキを含み、そのボディが、前記船体の構造と一体である保護ケース内に収容され、且つ、そのロッドが、前記逸らし部材と一体であり、それは、このジャッキがうねりや波からかくまわれるように、その旋回を制御する、
という事実によって特徴づけられる船。
【請求項2】
前記逸らし部材のそれぞれは、それぞれ上方及び前方に向かい二面角を形成する複数の壁によってその頂部が閉じられ、そして、複数の垂直な側壁によってその側部が閉じられ、前記液圧ジャッキのロッドは、該液圧ジャッキが前記二面角の上部における比較的閉ざされた空間に隔離されるように、この二面角の角度のある領域に接続される、
という事実によって特徴付けられる請求項1に記載の船。
【請求項3】
前記制御手段は、前記一般面に対して上方且つ後方に傾けられた前記第一面の配置に対応する負の値と、この一般面に対して下方且つ後方に傾けられたこの第一面の配置に対応する正の値との間にある範囲で、前記角度を変化させられる、
という事実によって特徴付けられる請求項1又は2に記載の船。
【請求項4】
前記制御手段は、同調して動作する液圧ジャッキのセットを含む、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至3の何れか一項に記載の船。
【請求項5】
前記液圧ジャッキは、操縦部材を作動させることによって自主的に制御される、
という事実によって特徴付けられる請求項4に記載の船。
【請求項6】
前記液圧ジャッキは、当該船の速度及び/又はトリムによって支配されるシャトル弁によって制御される、
という事実によって特徴付けられる請求項4に記載の船。
【請求項7】
ケース状の前記逸らし部材のそれぞれは、後ろ面であり、また、少なくとも部分的に水没させられ、後方のうねりによるスラミングに対抗するほぼ垂直な壁を形成すべく前記角度を増大させることによって下げられ得る第二面を有する、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至6の何れか一項に記載の船。
【請求項8】
前記第一面は、実質的に平坦である、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至7の何れか一項に記載の船。
【請求項9】
前記第一面は、下方に開く鈍角の二面角を形成する実質的に平坦な前部小平面及び後部小平面の二つで構成される、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至7の何れか一項に記載の船。
【請求項10】
前記第二面は、実質的に平坦である、
という事実によって特徴付けられる請求項7に記載の船。
【請求項11】
前記第二面は、後方に開く鈍角の二面角を形成する実質的に平坦な上部小平面及び下部小平面の二つで構成される、
という事実によって特徴付けられる請求項7に記載の船。
【請求項12】
前記逸らし部材のセットは、共通の旋回軸を有する、
という事実によって特徴付けられる請求項11に記載の船。
【請求項13】
前記複数の逸らし部材の全ての旋回は、前記旋回制御手段を用いて、同じ角度にわたって、一緒に行われる、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至12の何れか一項に記載の船。
【請求項14】
様々な前記複数の逸らし部材の旋回は、前記旋回制御手段を用いて、様々な角度の値で、区別された態様で行われる、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至12の何れか一項に記載の船。
【請求項15】
後方から来るうねりや波の攻撃から前記逸らし部材及び前記液圧ジャッキを保護できるシールドとしての役割を果たすスポイラをその船尾に備える、
という事実によって特徴付けられる請求項1乃至14の何れか一項に記載の船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−527254(P2011−527254A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517114(P2011−517114)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058442
【国際公開番号】WO2010/003905
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(510031464)エス テ イクス フランス ソシエテ アノニム (7)