説明

水の硬度低下方法、水、水の味変化方法

【課題】 人工的な電気的・化学的エネルギーなどを使用することなく、水の硬度の低下を行うことができる水の硬度低下方法、その方法を用いて処理された水、および、大きなエネルギーを使用することなく、水の味を変化させることができる水の味変化方法を提供する。
【解決手段】 Ca2+濃度が1000mg/Lとなる塩化カルシウム溶液を生成し、この塩化カルシウム溶液100mlに半導体触媒50gを添加して接触させ、室温(22℃)にて静置したもの(A)と、上記塩化カルシウム溶液100mlに何も加えずに室温にて放置したもの(C)とを用意した。
これらサンプル(A)とサンプル(C)とのCa2+濃度の経時変化を測定すると、サンプル(A)Ca2+の濃度は、サンプル(C)のCa2+濃度よりも小さい値となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と触媒とを接触させることにより、水の硬度を低下させる水の硬度低下方法、その方法により処理された水、および、水の味を変化させる水の味変化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水は生活用水や工業用水、飲用水などとして利用されている。カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどが多く含まれる硬水を工業用水として用いると、スケールが発生し、装置の性能低下を引き起こすことがある。また、飲用水としては、ミネラルの摂取を目的として硬水が飲用される場合もあるものの、一般的には口当たりが悪く好まれない。
【0003】
このように、硬水は、そのままの利用が不適切なことが多いため、多くの場面で軟水化の処理が行われる。一般的に、軟水化は、蒸留、イオン交換等により実現されている。また、電界透析と炭酸カルシウム沈殿とを組み合わせた軟水化方法なども提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−317024号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蒸留により硬水からカルシウム等の金属イオン成分を分離する方法は、水の蒸発潜熱が大きいため、その蒸留のための必要なエネルギーが大きくなる。また、イオン交換法は、連続的に使用するためには使用済みのイオン交換体の再生処理が必要であり、その再生処理にはエネルギーが必要となる。電界透析についても電気エネルギーが必要となる。
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、人工的な電気的・化学的エネルギーなどを使用することなく、水の硬度の低下を行うことができる水の硬度低下方法、その方法を用いて処理された水、および、人工的な電気的・化学的エネルギーなどを使用することなく、水の味を変化させることができる水の味変化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した問題点を解決するためになされた請求項1記載の水の硬度低下方法は、水と触媒とを接触させることで前記水の硬度を低下させることを特徴とするものである。ここでいう触媒は、次の化学式にて示される。
【0007】
NaX3Al6(BO33Si1618(OHF)4
なお、上式中、XはMg,Fe,Li,Al,Mn,Caのいずれかである。
上記触媒は、反応させる物質(水や水に含有されている物質成分など)と接触させることで、そのときの物質に応じて、表1で表されるような物質のイオン化を促進し、各種イオンを発振放出するものである。
【0008】
【表1】

イオンは本質的には電子であり、炭酸核、硝酸核、酸素核などの微粒子を電子の運搬役として、水中の電子がカルシウム(Ca)イオンやマグネシウム(Mg)イオンに受け渡される。
【0009】
CaイオンやMgイオンが電子を受けるときの電子の移動を式(半反応式)で表すと
Ca2++2e-=Ca 、Mg2++2e-=Mg
となる。つまり、溶液中でイオン化していたCaイオンやMgイオンは電子を受け取って還元される。こうして、不溶性のCaやMgの塩が析出し、水中に溶存しているCaイオンやMgイオンが減少することとなる。
【0010】
よって、請求項1に記載の水の硬度低下方法であれば、水と触媒とを接触させるだけで、人工的な電気的・化学的エネルギーなどを使用することなく水の硬度を低下させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水の硬度低下方法であって、水と、前記触媒と、を接触させることで前記水のカルシウムイオン濃度を低下させることを特徴とする。
【0012】
このような水の硬度低下方法によると、水中に溶存しているCaイオンが触媒から電子を受け取ることで還元されて析出するため、水のCaイオン濃度を低下させることができ、水の硬度の低下を実現することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の水の硬度低下方法により処理された水である。
このような水であれば、処理前の水に比べて硬度が低下しているため、飲用水、生活用水などとして好適である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、水と触媒とを接触させることで前記水の味を変化させることを特徴とする水の味変化方法である。ここでいう触媒は、次の化学式にて示される。
NaX3Al6(BO33Si1618(OHF)4
なお、上式中、XはMg,Fe,Li,Al,Mn,Caのいずれかである。
【0015】
上記触媒は、反応させる物質(水や水に含有されている物質成分など)と接触させることで、そのときの物質に応じて、表1で表されるような物質のイオン化を促進し、各種イオンを発振放出する。それにより、(1)水の硬度低下、(2)水分子の集団(クラスター)の小型化、などが生じると考えられる。
【0016】
上記(1)は、上記請求項1と同様の理論により生じる。水は硬度が高い硬水であると、カルシウムやマグネシウムの味を強く感じ、口に残るような味や渋い味がするが、硬度を下げることで、そのような味を低減できる。
【0017】
また、上記(2)の詳細を説明する。水分子は一個で存在するのではなく、幾つかの水分子が一塊になって存在している。これらの集団(クラスター)は、大体が水分子5〜6個で一塊になっている。
【0018】
一個の水分子の酸素と水素との結合は共有結合であるが、水分子同士の間ではファン・デル・ワールス力と水素結合という二つの結合が存在し、これが水分子集団を形成している。それらの水分子に電子が作用すると、水分子同士を結び付けている電子に励起振動現象が起こり、水分子同士の結合が切れてより小さな水分子集団になる。
【0019】
水の集団が小さくなればそれだけ水分子の移動する速度が速くなり、マクロ的な水のまろやかさに変化がでるなどの効果を及ぼすこととなる。
このように、請求項4に記載の水の味変化方法であれば、人工的な電気的・化学的エネルギーなどを加えずとも、水の味を変化させることができる。なお、この水は、硬水特有の飲みにくさがなく、まろやかであるため、飲用水として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0021】
本実施例では、水と触媒とを接触させ、水に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の濃度変化を測定した。
まず、本実施例で用いる触媒(半導体触媒)を以下に示す。
[半導体触媒]
半導体触媒の化学式は以下に示すものである。
【0022】
NaX3Al6(BO33Si1618(OHF)4
X=Mg,Fe,Li,Al,Mn,Caなど
半導体触媒の成分含有率を表2に示す。
【0023】
【表2】

上記成分含有率は、原材料における質量%を示す。
【0024】
また、上記半導体触媒は、油、生活用水、大気中で表2に示す成分が溶出しないこと、酸性およびアルカリ性に対して安定していること、300度にて無機質成分が溶出しないこと、という条件を満たすものが好ましい。
【0025】
また、上記半導体触媒は、油、生活用水などと接触した際に、表1に示す各種イオンを発振放出するものであることが好ましい。ここでいう発振放出とは、油、生活用水に含有されている元素のイオン化を促進することであって、表1に示されるようなイオンが生成される(反応過程で一時的に生成されるものを含む)。
【0026】
上述した半導体触媒としては、例えば、「e-ストーン」の商品名にて販売されているもの(販売元:ハリーインク)を使用することができる。
(1)使用例1
ここでは、塩化カルシウム溶液に上記半導体触媒を接触させ、溶液中のCa2+の濃度変化を測定した。
(1−1)塩化カルシウム溶液の作製
精製水に塩化カルシウム2.769gを加え1000mlとし、Ca2+濃度が1000mg/Lとなる塩化カルシウム溶液を生成した。精製水および塩化カルシウムは下記のものを用いた。
精製水:トラスコ中山製、W−20
塩化カルシウム:米山薬品工業株式会社製、MBB640
(1−2)カルシウムイオン濃度変化の測定
下記サンプル(A)、(B)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。
(A)上記塩化カルシウム溶液100mlに半導体触媒50gを添加して接触させ、その状態で室温(22℃)にて静置したもの
(B)上記塩化カルシウム溶液100mlに半導体触媒50gを添加して接触させ、一度煮沸し、その後、半導体触媒が接触した状態で室温にて静置したもの
また、比較例として、半導体触媒を添加しない下記サンプル(C)、(D)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。
(C)上記塩化カルシウム溶液100mlを室温にて静置したもの
(D)上記塩化カルシウム溶液100mlを一度煮沸し、その後室温にて静置したもの
濃度測定には、pH/イオンメーター(株式会社堀場製作所製、F−24)と、カルシウムイオン選択電極(株式会社堀場製作所製、8203−11C)を使用した。各サンプルの濃度は1回/sにて600回測定し、その平均値をその時間における濃度とした。
【0027】
測定結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

また、時間―濃度比率を示すグラフを図1に示す。この図1は、上記(C)のサンプルにおけるCa2+濃度を100%として、相対的な濃度の変化を示すものである。図1から分かるように、120時間経過後のサンプル(A)、(B)におけるCa2+濃度はいずれもサンプル(C)、(D)の値を下回っており、半導体触媒を添加することで、水中のCa2+濃度が低下したことが分かる。
【0029】
なお、120時間経過後のサンプル(A)、(B)には、白色の固形物が析出していた。これは、水中のCa2+やMg2+が、還元され、CaCO3やMgOなどとして析出したものであると考えられる。
(2)使用例2
本使用例では、市販のミネラルウォータ(Contrex(登録商標)、カルシウム486mg/L)に上記半導体触媒を接触させ、溶液中のCa2+の濃度変化を確認した。
(2−1)カルシウムイオン濃度変化の測定
下記サンプル(E)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。また、比較例として、半導体触媒を添加しない下記サンプル(F)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。
(E)上記Contrex100mlに半導体触媒50gを添加して接触させ、その状態で室温(22℃)にて静置したもの
(F)上記Contrex100mlを室温にて静置したもの
濃度の測定は、上記使用例1と同様の手法を用いた。測定結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

また、時間―濃度比率を示すグラフを図2に示す。この図2は、上記(F)のサンプルにおけるCa2+濃度を100%として、相対的な濃度の変化を示すものである。図2から分かるように、120時間経過後のサンプル(E)におけるCa2+濃度はサンプル(F)の値を下回っており、半導体触媒を添加することで、水中のCa2+濃度が低下したことが分かる。
(3)使用例3
本使用例では、上記使用例2と同様のミネラルウォータに上記半導体触媒を接触させ、一部の操作を変更して溶液中のCa2+の濃度変化を確認した。
(3−1)カルシウムイオン濃度変化の測定
下記のサンプル(G)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。また、比較例として、半導体触媒を添加しない下記のサンプル(H)におけるCa2+濃度の経時変化を測定した。
(G)上記Contrex100mlに半導体触媒50gを添加して接触させ、一度煮沸し、その後、半導体触媒が接触した状態で室温にて静置したもの
(H)上記Contrex100mlを一度煮沸させ、その後室温にて静置したもの
濃度の測定は、上記使用例1と同様の手法を用いた。測定結果を表5に示す。
【0031】
【表5】

また、時間―濃度比率を示すグラフを図3に示す。この図3は、上記(H)のサンプルにおけるCa2+濃度を100%として、相対的な濃度の変化を示すものである。図3から分かるように、120時間経過後のサンプル(G)におけるCa2+濃度はサンプル(H)の値を下回っており、半導体触媒を添加することで、水中のCa2+濃度が低下したことが分かる。
(4)効果
上記使用例(1)〜(3)に示されるように、水と半導体触媒を接触させると、水中に含まれるCa2+の濃度を低下させることができた。この操作では、外部からの加熱や通電、および薬品の添加などを行っておらず、エネルギーを使用していない。このように、本発明の水の硬度低下方法を用いることで、エネルギーを使用せずに水の硬度を低下させることができた。
【0032】
なお、上述したCa2+濃度が低下する理由は、半導体触媒からCa2+に電子が受け渡され、Ca2+が還元し、塩として析出したためであると考えられる。これと同様の理由により、マグネシウムイオン濃度も低下していると考えられる。
【0033】
また、本発明の半導体触媒は、エネルギーを与えずとも半永久的にマイナスイオンを発振して電子をカルシウムイオン等に授け続けるため、半導体触媒の交換等を行わなくとも連続して水の硬度低下操作を行うことができる。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、市販のミネラルウォータに半導体触媒を接触させてミネラルウォータの味を変化させる処理を行った。そして、上記処理を行ったミネラルウォータと、それとは別に何らの処理も行わないミネラルウォータと、の2つのサンプルを用意し、それぞれのサンプルを試飲して比較し、味などの評価を行った。
【0035】
なお、半導体触媒は、実施例1と同様のものを用いた。
(1)サンプルの生成
本試験例では、ミネラルウォータとしてContrex(カルシウム486mg/L)を用い、下記のサンプル(I)、(J)を用意した。
(I)Contrex1500mlに上記半導体触媒100gを添加して接触させ、その状態で冷蔵庫内(5℃)にて24時間静置したもの
(J)未開封のContrex(5℃)
(2)味の評価
上記サンプル(I)、(J)それぞれを15人で試飲を行い、美味さ、硬度の高さを評価した。その結果および寸評を表6に示す。得点はそのサンプルを「美味い」または「硬い」と選んだ人数を示しており、両サンプルが同程度と回答した人の数は得点に加えていない。
【0036】
【表6】

(3)効果
15人中、15人が(I)、(J)の味に差があると判断したことから、上記処理により水の味を変化させることができたといえる。このように、上記方法を用いると、人工的な電気的・化学的エネルギーなどを加えずとも、水の味を変化させることができる。
【0037】
また、水の美味さに関しては(J)が美味いと判断する人がやや多く、水の硬度に関しては(I)の硬度が低いと判断する人が多かった。このことから、(I)の方が硬度の高さに伴うとげとげしさや、水の清涼感などが低減したと考えられる。本実施例の処理を行った水は、硬水などの刺激的な味覚を好む人の評価は高くないが、そのような刺激を好まない人には好適であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】カルシウムイオン濃度の経時変化を示すグラフ
【図2】カルシウムイオン濃度の経時変化を示すグラフ
【図3】カルシウムイオン濃度の経時変化を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、下記の化学式にて示される触媒と、を接触させることで前記水の硬度を低下させることを特徴とする水の硬度低下方法。
NaX3Al6(BO33Si1618(OHF)4
(式中、XはMg,Fe,Li,Al,Mn,Caのいずれか)
【請求項2】
水と、前記触媒と、を接触させることで前記水のカルシウムイオン濃度を低下させることを特徴とする請求項1に記載の水の硬度低下方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水の硬度低下方法により処理された水。
【請求項4】
水と、下記の化学式にて示される触媒と、を接触させることで前記水の味を変化させることを特徴とする水の味変化方法。
NaX3Al6(BO33Si1618(OHF)4
(式中、XはMg,Fe,Li,Al,Mn,Caのいずれか)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291766(P2009−291766A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150647(P2008−150647)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(307024233)エイム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】