説明

水上構造物及びその構築方法

【課題】 高品質の防食を容易に形成できる水上構造物を提供する。
【解決手段】 水上に配置されるベース部11aに杭体12,13が挿入される外挿管11b,11cが取り付けられたジャケット部11と、そのジャケット部11を支持させる水中に打設された杭体12,13とを有する水上構造物10である。
そして、斜杭12の外周面の一部には防食層14が形成されており、外挿管11bの内周面には周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材15,・・・が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上に構築する人工地盤や桟橋などの水上構造物及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図5に示すような支持杭4,・・・で支持される水上構造物2が知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
この水上構造物2は、水面1下の水底地盤に間隔を置いて複数の支持杭4,・・・を立設し、その支持杭4,・・・に上部工3を装着することによって構築される。
【0004】
また、支持杭4,・・・の水面1付近は、水面1の上下動によって乾湿が繰り返されて腐食し易いので丁重に防食工が施される。さらに、上部工3と支持杭4,・・・の接合部にも防食工が施される。
【0005】
この防食工は、上部工3と支持杭4,・・・を接合した後に、水面1上及び水中作業によって防食カバー5,・・・を支持杭4,・・・に取り付けることによっておこなう。
【特許文献1】特開2001−288724号公報(図1、0002段落乃至0016段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来の水上構造物2は、防食カバー5の取り付けを、上部工3と支持杭4,・・・を接合した後に水面1上及び水中作業によっておこなうことになるので、施工環境が悪い上に、上部工3の接合作業後に防食をおこなうことになるので工期が長くなる原因になる。
【0007】
また、水中作業では高品質の防食を均一におこなうことが難しくなるため、品質が低下する部分が発生することを考慮して、一定の品質を確保するために防食を過剰におこなうことになる。
【0008】
そこで、本発明は、高品質の防食を容易に形成できる水上構造物及びその構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、水上に配置されるベース部に杭体が挿入される外挿管が取り付けられたジャケット部と、そのジャケット部を支持させる水中に打設された杭体とを有する水上構造物であって、前記杭体の外周面の一部には防食層が形成されており、一部又は全部の前記外挿管の内周面には周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材が取り付けられた水上構造物であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載のものは、前記弾性緩衝材は、板状の取付部と断面視台形状に成形された弾性スペーサとからなり、該弾性スペーサは前記外挿管の上方に向けて先細りとなるように取り付けられた請求項1に記載の水上構造物であることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、水上に配置されるベース部に杭体が挿入される外挿管が取り付けられたジャケット部と、そのジャケット部を支持させる水中に打設された杭体とを有する水上構造物の構築方法において、前記ベース部に対して斜めに取り付けられた外挿管の内周面には周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材を取り付けておき、水中に立設された鉛直杭に前記ジャケット部を支持させて、前記外挿管に外周面の一部に防食層が形成された杭体を挿入する水上構造物の構築方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された請求項1の発明は、前記ジャケット部を支持させる前記杭体の外周面の一部には防食層が形成されており、その杭体を挿入させる前記外挿管の内周面には、周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材が取り付けられている。
【0013】
このため、前記杭体の外周面に防食層を形成した後に前記外挿管に挿入しても前記防食層を傷つけることがないので、作業環境の良い陸上で高品質に施工された防食層を備えた杭体を容易に設置することができる。
【0014】
また、請求項2に記載のものは、前記弾性緩衝材は、板状の取付部と断面視台形状に成形された弾性スペーサとからなり、その弾性スペーサは前記外挿管の上方に向けて先細りするように取り付けられる。
【0015】
このため、前記外挿管の内周面に前記取付部を介して前記弾性緩衝材を容易に取り付けることができる上に、前記弾性スペーサが上方に向けて先細りとなるように取り付けられているため、容易に前記杭体を前記外挿管に挿入することができる。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記弾性緩衝材を取り付けた外挿管に、外周面の一部に防食層が形成された杭体を挿入することによって水上構造物を構築する。
【0017】
このため、作業環境の良い陸上で高品質に施工された防食層を備えた杭体を前記ジャケット部に挿入することで、容易に高品質に防食された水上構造物を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
なお、前記従来例と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0020】
図1及び図2は、本実施の形態による水上構造物10の全体構成及び詳細構成を示した図である。
【0021】
まず、図2を基にして全体構成から説明すると、このような本実施の形態の水上構造物10は、水面1下の水底地盤に立設された複数の杭体としての斜杭12及び鉛直杭13と、その斜杭12及び鉛直杭13に支持されるジャケット部11とから構成される。
【0022】
このジャケット部11は、上面が桟橋の床面又は桁部等として使用されるベース部11aと、そのベース部11aに取り付けられる外挿管11b,11cとによって構成される。
【0023】
この外挿管11b,11cには、ベース部11aに斜めに取り付けられる外挿管11bと、鉛直に取り付けられる外挿管11cとがあり、斜めに取り付けられた外挿管11bには斜杭12が挿入され、鉛直に取り付けられた外挿管11cには鉛直杭13が挿入される。
【0024】
この外挿管11b,11cは、両端が開口された貫通管であって、その内周面には斜杭12又は鉛直杭13との結合力を高めるための溝部16,・・・が刻設されている。
【0025】
すなわち、斜杭12又は鉛直杭13と外挿管11b,11cは、その間隙に充填されるモルタル等の充填材によって結合されるので、溝部16,・・・によって摩擦抵抗を大きくすることで結合力を高めることができる。
【0026】
さらに、外挿管11bの内周面には、図3に示すように周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材15,・・・が取り付けられている。図3は、外挿管11bの上縁及び下縁付近の内周面に、30度又は60度間隔でそれぞれ8箇所ずつ弾性緩衝材15,・・・を取り付けた例を示したものである。
【0027】
この弾性緩衝材15は、斜杭12の荷重の作用する割合の多い下面側及び上面側に多く配置されるのが好ましい。
【0028】
そして、この弾性緩衝材15は、図3,4に示すように取り付け用の座面を形成する板状の取付部15bと、この取付部15bに固定される弾性スペーサ15aとによって構成される。
【0029】
この弾性スペーサ15aは、取り付け時に上方に向けられる側が先細りするように天然ゴムを断面視台形状に成形したものである。例えば、底辺が200mm、上辺が80mm、高さが50mmの台形が100mmの奥行きを有するように成形される。この弾性スペーサ15aの表面には、潤滑剤としてワセリン等を塗布するのが好ましい。
【0030】
また、外挿管11b,11cに挿入される斜杭12及び鉛直杭13の外周面には防食層14を形成する。この防食層14は、エポキシ樹脂材、ペトロラタム系防食材をプラスチック製又はチタン製の保護カバーで保護したもの、繊維強化ポリエステル又はガラス繊維強化ウレタンエラストマーの保護層を積層したもの、モルタル、ポリエチレン樹脂材などによって形成される。
【0031】
このような防食層14は、干満帯や飛沫帯等の乾湿を繰り返し、腐食しやすい部分を、他の部分よりも丁重に防食するために形成される。
【0032】
次に、本実施の形態の水上構造物10の構築方法について説明すると共に、その作用について説明する。
【0033】
まず、陸上の作業ヤード又は工場で、ジャケット部11を製作する。このジャケット部11のベース部11aは、鋼管、形鋼、鋼板などを組み合わせて例えばトラス構造に形成する。
【0034】
このベース部11aには、図2に示すように間隔をおいて複数の外挿管11b,11c,・・・を取り付ける。また、斜めに取り付ける外挿管11b,・・・の内周面には、取付部15bの外周を半分程度溶接することによって弾性緩衝材15,・・・を固定する(図3参照)。
【0035】
さらに、鋼管によって構成される斜杭12及び鉛直杭13の外周面には、水中に打設する前に作業ヤードにおいて防食層14を形成しておく。
【0036】
そして、杭打ち船によって所定の間隔をおいて水面1下に鉛直杭13,・・・を打設する。この鉛直杭13,・・・は、下端は水底地盤に埋設され、上端は水面1より上方に突出される。
【0037】
この突出した鉛直杭13,・・・に、クレーン船で吊り上げたジャケット部11の鉛直に取り付けた外挿管11c,・・・を挿入し、鉛直杭13,・・・と外挿管11cの間隙に充填材を充填することによって両者を接合する。
【0038】
これによってジャケット部11は、鉛直杭13,・・・によって一時的に支持されることになる。この仮支持されたジャケット部11には、斜めに向けた外挿管11b,・・・が取り付けられており、この外挿管11b,・・・をガイドにして斜杭12,・・・を打設する。
【0039】
この斜杭12を打設する際には、クレーン船で斜めに吊り上げられた斜杭12の下端を外挿管11bの上部開口部から挿入して打設することになるが、斜めに吊るされた斜杭12は状態が不安定である上に、斜めであるため外挿管11bとの位置合わせが難しいので、外挿管11bの内周面に接触させることなく斜杭12を打設することは従来の技術では困難であった。
【0040】
しかし、本実施の形態の外挿管11bの内周面には、弾性緩衝材15,・・・が取り付けられており、図1に示すように、斜杭12の挿入時には斜杭12の外周面と外挿管11bの内周面の間には弾性緩衝材15,・・・が介在されるため、防食層14が外挿管11bの内周面に接触して損傷することがない。
【0041】
このようにして残りの斜杭12,・・・を打設することで水上構造物10は構築される。
【0042】
以上に示したように、本実施の形態の水上構造物10の構築方法によれば、ジャケット部11を支持させるために打設される斜杭12の外周面には予め防食層14が形成されており、その斜杭12を挿入させる外挿管11bの内周面には、周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材15,・・・が取り付けられている。
【0043】
このため、作業環境の良い陸上の作業ヤード等で高品質に防食された防食層14を備えた斜杭12を、外挿管11bをガイドにして挿入するだけで容易に設置することができる。そして、このように斜杭12を打設することで高品質に防食された水上構造物10を容易に構築することができる。
【0044】
また、この弾性緩衝材15は、板状の取付部15bと断面視台形状に成形された弾性スペーサ15aとからなり、その弾性スペーサ15aは外挿管11bの上方に向けて先細りするように取り付けられる。
【0045】
このため、外挿管11bの内周面に取付部15bを介して弾性緩衝材15を容易に取り付けることができる。また、弾性スペーサ15aが上方に向けて先細りとなるように取り付けられているため、容易に斜杭12を挿入することができる。
【0046】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0047】
例えば、前記実施の形態では、斜杭12を挿入する外挿管11bの内周面に弾性緩衝材15を取り付けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ジャケット部11を水面1上に配置した後に外挿管11cをガイドにして一部の鉛直杭13を打設する場合は、その外挿管11cにも弾性緩衝材15を取り付ける。
【0048】
また、前記実施の形態では、弾性スペーサ15aとして天然ゴムを使用したが、これに限定されるものではなく、合成ゴムやポリウレタン合成樹脂等の合成樹脂材料を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の最良の実施の形態の水上構造物の構成の詳細を説明する説明図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態の水上構造物の全体構成を説明する説明図である。
【図3】ジャケット部に取り付けられる外挿管の斜視図である。
【図4】(a)は弾性緩衝材の構成を説明する正面図、(b)は弾性緩衝材の構成を説明する側面図である。
【図5】従来例の水上構造物の全体構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 水面
10 水上構造物
11 ジャケット部
11a ベース部
11b,11c 外挿管
12 斜杭(杭体)
13 鉛直杭(杭体)
14 防食層
15 弾性緩衝材
15a 弾性スペーサ
15b 取付部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に配置されるベース部に杭体が挿入される外挿管が取り付けられたジャケット部と、そのジャケット部を支持させる水中に打設された杭体とを有する水上構造物であって、
前記杭体の外周面の一部には防食層が形成されており、一部又は全部の前記外挿管の内周面には周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材が取り付けられたことを特徴とする水上構造物。
【請求項2】
前記弾性緩衝材は、板状の取付部と断面視台形状に成形された弾性スペーサとからなり、該弾性スペーサは前記外挿管の上方に向けて先細りとなるように取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の水上構造物。
【請求項3】
水上に配置されるベース部に杭体が挿入される外挿管が取り付けられたジャケット部と、そのジャケット部を支持させる水中に打設された杭体とを有する水上構造物の構築方法において、
前記ベース部に対して斜めに取り付けられた外挿管の内周面には周方向及び延伸方向に間隔をおいて弾性緩衝材を取り付けておき、水中に立設された鉛直杭に前記ジャケット部を支持させて、前記外挿管に外周面の一部に防食層が形成された杭体を挿入することを特徴とする水上構造物の構築方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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