説明

水中の炭酸カルシウムを濃縮する方法での遊離分散剤の量を減少させるためのリン酸の使用

【課題】炭酸カルシウムの水性分散液および懸濁液中の遊離分散剤の含有量を減らす方法。
【解決手段】少なくとも一種のアクリル分散剤の存在下で、炭酸カルシウムの水性分散液および懸濁液を濃縮する方法において、遊離分散剤の含有量を減少させる試薬としてリン酸を使用して、水溶相中の炭酸カルシウム粒子表面に吸着されないアクリル分散剤の画分を減少させる。本発明の他の対象は、遊離分散剤含有量が減少した炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の炭酸カルシウムを濃縮する方法での遊離分散剤の量を減少させるためのリン酸の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムの輸送は、ポンプで容易にハンドリングするために、粉末よりも主として水性懸濁液または分散液の形で行なわれる。この場合、当業者の目的の一つは媒体の粘性を増加させず(すなわち、水性懸濁液または分散液の固体含有率を高く維持したまま)に、できるだけ多量の無機材料を移送することである。この固体含有率は分散液または懸濁液の全重量に対する無機材料の乾燥重量(extrait sec)に対応する。この固体含有率の増加は濃縮相(機械的手段および/または熱的手段を用いて水を蒸着することに対応)を経て行なわれる。炭酸カルシウムの場合、この濃縮階段で固体含有率を50%以上、最終固体含有率で60%以上、場合によっては70%以上、例えば72%以上にすることができる。
【0003】
従って、媒体の粘性を大きく増加させずに、水中の高濃度の炭酸カルシウム粒子を安定させるために、分散剤を加える必要がある。この分散剤は古くから知られており、大抵はアクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーから成る。
【0004】
上記濃縮階段でアクリル系分散剤を加えると、それが炭酸カルシウムの表面で一定量吸着され、無機粒子が静電的機構によって安定化する。アクリル系分散剤の組成を考慮すると、一般に全体が吸着されることはなく、一定量のアクリル系分散剤は水相のまま残る。これは、「遊離分散剤、despersant libre」とよばれている。この遊離分散剤の部分(画分)が紙用コーテング剤(炭酸カルシウムの主用途の一つ)の製造での主たる問題:アート紙の印刷適性の劣化の原因になる。
【0005】
すなわち、濃縮された炭酸カルシウムの水性分散液や懸濁液がコーテング剤の製造に直接後に使われ、このコーテング剤は後で紙シート上へ被覆される。この水溶性コーテング剤中に炭酸カルシウムの表面上に吸着されていない遊離分散剤の画分が存在する。コーテング剤を紙シート上に塗布した後、コーテング剤は乾燥階段へ送られる。親水性である遊離分散剤は水に随伴してコーテング剤のコアからアート紙表面上へ移行する。この現象でアート紙の表面エネルギーが一部変化し、アート紙の印刷適性が劣化する。この作用を制限するために当業者は炭酸カルシウムの水性分散液および懸濁液中に含まれる遊離分散剤の量を最少にする努力を続けている。
【0006】
本発明者は、上記の問題を解決するために、リン酸溶液を使用することで、十分な粘度を与えた状態で、炭酸カルシウムの水性分散液および懸濁液の濃度をアクリル系分散剤の存在下で50%以下から少なくとも60%以上へ濃縮できるということを見出した。すなわち、リン酸を含まない同じ分散液または懸濁液と固体含有率および粘度を少なくとも等しくした場合、水相中の遊離したアクリル系分散剤の画分が大幅に減少するということを見出した。これによって紙の印刷適性が改善される。
【0007】
これまで、当業者はこの化合物(リン酸)を無機材料の水性懸濁液の一般に単なる緩衝剤としてしか使用しておらず、我々が知る限り、炭酸カルシウムの濃縮水性分散液および懸濁液中に含まれる遊離分散剤の量を減少させるためにリン酸が使用できるということは完全に新規なことであり、発明である。
【0008】
いわゆる「耐酸性」の炭酸カルシウム粒子を製造するための方法は極めて多数存在する。一般には、無機材料を含んだ水溶媒質中へリン酸キレート剤と弱酸、一般には燐酸とを加える。この方法は多数の特許や文献に記載されている(特許文献1〜4、非特許文献1参照)。ここではリン酸の機能はpHを安定させることであることが記載されている。
【0009】
さらに、化学的観点から、リン酸(H3P04)と濃縮された燐酸化合物(シクロホスフェート、ポリリン酸塩、分岐した無機リン酸塩または過リン酸塩(非特許文献2参照)を含む)とを混同してはならない。これらの化合物は互いに複数のリン酸塩分子が縮合して生じた分子で、最もよく知られているのはトリポリリン酸塩(TPP)、ピロリン酸塩およびヘキサメタリン酸塩(HMP)である。
【0010】
上記の化学的な違いの他に、水溶媒質中で炭酸カルシウムを製造するための種々の方法では、リン酸と縮合したリン酸塩化合物とは明確に区別されてきた。これまでは、上記文献に示すように、前者は主として炭酸カルシウムを含む水性分散液および懸濁液のpH安定剤として知られ、後者は以下の文献に示すようにアクリル剤と一緒に無機材料の分散剤として知られていた。
【0011】
最近では、水中に炭酸カルシウムを分散させるために、アクリル分散剤と縮合したホスフェートまたはその塩をベースにした他の分散剤との種々の組合せが用いられている。その例はピロリン酸ナトリウムと(メタ)アクリル酸のホモポリマー(特許文献5)、ヘキサメタリン酸ナトリウム塩と(メタ)アクリル酸のホモポリマー(特許文献6)、ピロリン酸ナトリウムおよびソジウム縮合リン酸塩とポリアクリル酸ナトリウム(特許文献7)である。これらの文献で水溶性の縮合リン酸化合物は水中の炭酸カルシウムの安定剤として寄与するアクリル重合体と一緒に分散剤として使用されており、媒体の粘度はほとんど変らない。
【0012】
これらの縮合リン酸化合物はアクリル分散剤と一緒に使用した場合、使用するアクリル重合体の量を減少できるということは明らかで、第2の分散剤(リン酸塩)は第1の分散剤(アクリル)の量を単に減少させるために加えると理解できる。これは特許文献8、9の対象で、この特許ではヘキサメタリン酸ナトリウム塩タイプの水溶性縮合リン酸塩化合物とアクリル/アクリルアミドコポリマーとを組合せており、特許文献9ではアニオン分散剤と縮合リン酸塩分散剤、例えばトリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムとを組合せている。
【0013】
これら2つの文献ではいくつかのことを特定しておくことが重要である。第一に、これらの特許にはリン酸は含まれない。特許文献9の著者はリン酸はpHを制御するための薬剤として使うことができることを示している([020])。これはこの化合物の古くから公知の用途である。従って、この文献の著者は特許請求の範囲に記載の縮合リン酸塩分散剤と区別している。次に、これらの2つの文献の出願人は、テスト溶液の好ましい化合物の一つとしてアクリル分散剤と一緒に水溶性縮合リン酸塩化合物のヘキサメタリン酸ナトリウム塩との組合せを選択している。このテストは上記水溶性縮合リン酸化合物が存在する場合、遊離分散剤の量が多量であることを証明している。このことは、これら文献に記載の溶液では遊離分散剤のレベルを減らすという技術的問題が解決できないことを示している。
【0014】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明者は炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液中にリン酸を導入して接触させると、無機粒子に対する強い反応性が生じ、リン酸との反応で炭酸カルシウムの表面が変化し、高エネルギーサイトが生成し、無機表面が変化して(メタ)アクリル酸のホモポリマーおよび/またはコポリマーがより良く吸着されると考える。従って、未吸着のアクリル分散剤(従って、水溶相中にフリーが形で存在する)の量は減少する。
【0015】
我々が知る限り、本発明と同じ技術的課題を解決するための文献は一つだけであり、特許性を判断する上での最も近い先行技術となるのは特許文献10(欧州特許第EP 1 347 835号公報)である。この文献では部分的に酸性化した(メタ)アクリル酸のホモおよびコポリマーを用い、一官能剤および二官能剤によって中和度を最適化する。しかし、この特許の解決策は中和のために(メタ)アクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーを使用することに制限される。それに対して本発明は任意のアクリル重合体にその中和状態とは無関係に適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第US 5 043 017号明細書
【特許文献2】米国特許第US 5 156 719号明細書
【特許文献3】国際特許第WO 98/29601号公報
【特許文献4】国際特許第WO 97/41302号公報
【特許文献5】米国特許第US 3 661 610号明細書
【特許文献6】日本国特許第JP 62-279834号公報
【特許文献7】中国特許第CN 1884085号公報
【特許文献8】欧州特許第EP 0 839 956号公報
【特許文献9】国際特許第WO 2006/081501号公報
【特許文献10】欧州特許第EP 1 347 835号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】"Neutral groundwood papers: practical and chemical aspects" (International Paper and Coatings Chemistry Symposium, 5th, Montreal, QC, Canada, 16-19 June, 2003, Publisher: Pulp and Paper Technical Association of Canada, Montreal, Quebec)
【非特許文献2】"The Chemical Structure and Properties of Condensed Inorganic PHospHates" (The Biochemistry of Inorganic PolypHospHates, I.S. Kulaev, V.M. Vagabov, T.V. Kulakovskaya, 2004 John Wiley & Sons, Ltd ISBN 0-470-85810-9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者は、上記の問題を解決するために、リン酸溶液を使用することで、十分な粘度を与えた状態で、炭酸カルシウムの水性分散液および懸濁液の濃度をアクリル系分散剤の存在下で50%以下から少なくとも60%以上へ濃縮できるということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の対象は、少なくとも一種のアクリル分散剤の存在下で炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液を濃縮する方法において、遊離分散剤の量を減らすための薬剤としてのリン酸の使用にある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
炭酸カルシウムの乾燥重量に対するリン酸の乾燥重量は0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%である。
炭酸カルシウムの乾燥重量に対するアクリル分散剤の乾燥重量は0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%でしある。
アクリル分散剤およびリン酸は濃縮階段の前および/または濃縮階段中に炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液中に加えられる。
例えば、リン酸は炭酸カルシウムを水性溶媒中で粉砕する間に加えることができる。この階段は濃縮階段の前に行なう。
リン酸はアクリル分散剤の添加の前および/またはそれと同時に炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液に加ることができる。
アクリル分散剤は(メタ)アクリル酸の少なくとも一種のホモポリマーおよび/または(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの少なくとも一種のコポリマーから成ることができる。
炭酸カルシウムは天然または合成の炭酸カルシウムおよびこれらの混合物の中から選択でき、好ましくは天然炭酸カルシウム、特に好ましくは大理石、チョーク、石灰岩、方解石およびこれらの混合物の中から選択される天然炭酸カルシウムである。
水性分散液または懸濁液の炭酸カルシウム含有量は乾燥重量で全重量の50%以下であり、濃縮後の炭酸カルシウムの最終含有量は乾燥重量で全重量の60%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは72%である。
【0021】
第1変形例では、炭酸カルシウムの水性懸濁液の濃縮方法で、予め、粉砕剤を使用しない粉砕を行なったものの炭酸カルシウムの初期含有量は乾燥重量で全重量の30%以下である。
【0022】
第2変形例では、炭酸カルシウムの水性懸濁液の濃縮方法で、予め、粉砕剤を使用して粉砕を行なったものの炭酸カルシウムの初期含有量は乾燥重量で全重量の50%以下かつ30%以上である。
【0023】
炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の濃縮は機械的手段および/または熱的手段で実行されるが、部分的に水を除去することができ、媒体中の炭酸カルシウムの濃度を増加させることができる他の任意の方法を当業者は使用できる。
【0024】
本発明の第2の対象は、TOC法で測定した遊離分散剤のレベルが40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは12%以下であることを特徴とする少なくとも一種のアクリル分散剤と、遊離分散剤の量を減少させる薬剤としてのリン酸とを含む炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液にある。
【0025】
TOC法の詳細はテストの導入部で説明する。
【0026】
この炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の特徴は炭酸カルシウムの乾燥重量に対してリン酸を乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%含む点にある。
【0027】
この炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の特徴は炭酸カルシウムの乾燥重量に対してアクリル分散剤を乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%含む点にある。
【0028】
この炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の特徴はアクリル分散剤が(メタ)アクリル酸の少なくとも一種のホモポリマーおよび/または(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの少なくとも一種のコポリマー成る点にある。
【0029】
この炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の特徴は炭酸カルシウムが天然または合成の炭酸カルシウムおよびこれらの混合物、好ましくは天然の炭酸カルシウムの中から選択され、さらに好ましくは大理石、チョーク、石灰岩、方解石およびこれらの混合物の中から選択される天然の炭酸カルシウムである点にある。
【0030】
この炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の特徴は炭酸カルシウムの含有量が、乾燥重量で全重量の60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは72%以上である点にある。
【実施例】
【0031】
以下の全てのテストにおいて、炭酸カルシウムの分散液および懸濁液の水相中に含まれるアクリル分散剤の量および遊離分散剤の量は以下で説明する「TOC法」として公知の方法で測定する。
【0032】
先ず最初にTOC1値を求める。このTOC1値は炭酸カルシウムを含まないアクリル重合体の水溶液で測定する。アクリル重合体の濃度は炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の濃縮実験用に選択したものと同じである。
炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の濃縮後のアクリルポリマーの量を、上記炭酸カルシウムの分散液または懸濁液を濾過した後に、同じTOCメータを用いて測定してTOC2を得る。
【0033】
濃縮後の炭酸カルシウムの水溶性分散液または懸濁液中に含まれる遊離分散剤の量は下記の関係で与えられる:

【0034】
実際には、最初に、テストされる炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液を直径90mmの紙濾過器(Whatman #50)と金属篩とを備えたBAROIDTM社のフイルタープレス「API FluiD1oss Measurement」を用いて濾過する。
【0035】
濾過は100psi(7バール)の圧力下で行う。得られた濾液を気孔率が0.45μmのMillipore(登録商標)濾過器で再度濾過し、得られた水をSHIMADZUTM社の熱TOC-メータ:TOC-VCSHを使用して分析し、カリウムフタレート水和溶液で較正した。
【0036】
実施例1
この実施例は、ノルウェー産大理石である天然炭酸カルシウムの水性懸濁液での遊離分散剤の量を減少させる薬剤としての、本発明によるリン酸の使用を示す例である。この実施例では下記のアクリル分散剤D1を使用した例を示す:
(1)アクリル酸のホモポリマー、
(2)カルボキシル・サイトのモル重量の70%は水酸化ナトリウムで中和され、カルボキシルサイトのモル重量の30%はライムで中和される。
(3)重量平均分子量は5500グラム/モルである(下記特許文献11に記載の方法で測定)。
【特許文献11】国際特許第WO 2007/069037号公報
【0037】
この実施例は当業者に公知の分散剤を用いない粉砕階段からの炭酸カルシウムの初期懸濁液での本発明の例を示す。炭酸カルシウムの初期含有量は乾燥重量で全重量の15%で、直径が1μm以下および2μm以下の粒子の重量(MICROMERITICSTM社のSedigrapH 5100で測定)はそれぞれ73%および96%である。当業者は特許文献12によって標準的な粉砕状態を特定できる。
【特許文献12】欧州特許第EP 1 294 476号公報
【0038】
各テスト1〜3では0.5KWattの電力を有するホットプレートを使用して炭酸カルシウムの水性懸濁液を濃縮した。
【0039】
テスト番号1
このテスト1は従来法を示し、濃度階段前に懸濁液中に分散剤D1を乾燥重量で0.5%を加えた。
【0040】
テスト番号2
このテスト2も従来法を示し、濃度階段前に乾燥重量で0.5%の分散剤D1と、乾燥重量で0.5%の水溶性縮合リン酸塩分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウム塩(特許文献8、9で好ましいとされた化合物)とを使用した。ヘキサメタリン酸ナトリウム塩を最初に導入し、次に分散剤D1を入れた。
【0041】
テスト番号3
このテスト3は本発明を示し、乾燥重量で0.5%の分散剤D1と、乾燥重量で0.5%のリン酸とを使用した。最初にリン酸を導入し、次に分散剤D1を入れた(両方とも濃縮階段前)。
各テストでBrookfield(登録商標)粘度を毎分10回転、100回転数(μ10およびμ100と略記)で各懸濁液の最終乾燥固体含有率と、遊離分散剤の百分比とを決定した([表1]参照)。
【0042】
【表1】

【0043】
テスト番号1では炭酸カルシウムの水性懸濁液の固体含有率は62%以上には上らない。また、μ10およびμ100のBrookfield(登録商標)粘度は非常に高く、これは対応する懸濁液がかなり粘性があり、取扱いが難しいことを示している。
【0044】
テスト番号2では炭酸カルシウムの水性懸濁液の固体含有率は67%以上の値になり、粘度値も非常に低くなり、従って、許容可能である。しかし、水相中の遊離分散剤の量が大きく増加しているので、この炭酸カルシウム水性懸濁液を使用して紙を被覆した紙コーテング紙は印刷適性が低下する。
【0045】
テスト番号3では固体含有率(最高値)と粘度(最低値)の両方に関して最高値が得られる。しかも、遊離分散剤の量は従来法のテストと比較して著しく減っている。この場合、最終用途のアート紙の印刷適性の低下はない。
【0046】
実施例2
この実施例は、ノルウェー産大理石である天然炭酸カルシウムの水性懸濁液で、発明に従ってアクリル分散剤の量を減少させる薬剤としてリン酸を使用した例を示す。この実施例では下記のアクリル分散剤D2を使用する:
【0047】
(1)アクリル酸のホモポリマー
(2)水酸化ナトリウムで完全に中和されている。
(3)重量平均分子量は11,000グラム/モル(特許文献11に記載の方法で測定)。
【0048】
この実施例は分散剤なしで粉砕した粉砕階段からの炭酸カルシウムの懸濁液での本発明の当業者に公知の変形例を示す。炭酸カルシウムの初期含有量は乾燥重量で全重量の25%で、MICROMERITICSTM社のSedigrapHTM 5100で測定した直径が1μm以下および2μm以下の粒子はそれぞれ62%および92.5%である。
【0049】
各テスト4〜6では炭酸カルシウムの水性懸濁液を0.5KWattの電力を有するホットプレートを使用して濃縮した。
【0050】
テスト番号4
このテストは従来法を示し、濃度階段前に懸濁液中に分散剤D2を乾燥重量で0.30%加えた。
【0051】
テスト番号5
このテスト5は従来例を示し、乾燥重量で0.30%の分散剤D2と、乾燥重量で0.1%の水溶性縮合リン酸塩分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウム塩とを使用した(特許文献8、9で好ましいとされた化合物)とを使用した。これらの2つの化合物は濃縮階段前に同時に加えた。
【0052】
テスト番号6
このテストは本発明を示し、乾燥重量で0.30%の分散剤D2と、乾燥重量で0.1%のリン酸とを使用し、濃縮階段前にこれらの2つの化合物を懸濁液に同時に加えた。
各テストでBrookfield(登録商標)粘度を毎分10回転、100回転数(μ10およびμ100と略記)で各懸濁液の最終乾燥固体含有率と、遊離分散剤の百分比とを決定した([表2]参照)。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例1と同様に、リン酸を使用したときに最高の結果が得られる。
テスト番号6で最高の固体含有率と最低の粘度が得られ、遊離分散剤のレベルも最小になる。ヘキサメタリン酸ナトリウム塩でこの比率が増加することも証明されるが、本発明ではそうでないことをも示している。
【0055】
実施例3
この実施例は、ノルウエイ産大理石である天然炭酸カルシウムの水性懸濁液の濃縮時に、発明による遊離分散剤の量を減らす薬剤としてのリン酸の使用を示す。
【0056】
この実施例では下記のアクリル分散剤D3を使用した例を示す:
(1)アクリル酸と無水マレイン酸(重量比70/30)のコポリマー、
(2)水酸化ナトリウムで完全に中和されている、
(3)重量平均分子量は15,600グラム/モル(特許文献11に記載の方法で測定)。
【0057】
この実施例は、分散剤なしで粉砕する粉砕階段に由来する、炭酸カルシウムの初期懸濁液を用いた当業者に公知の方法での本発明の変形例を示す。炭酸カルシウムの初期含有量は乾燥重量で全重量の15%で、MICROMERITICSTM社のSedigrapHTM 5100で測定した直径が1μm以下および2μm以下の粒子はそれぞれ73%および96%である。
各テスト7,8では炭酸カルシウムの水性懸濁液をEPCONTM蒸発器を使用して濃縮した。
【0058】
テスト番号7
このテストは従来法を示し、濃度階段前に懸濁液中に分散剤D3を乾燥重量で0.6%加えた。
【0059】
テスト番号8
このテスト8は本発明で、乾燥重量で0.6%の分散剤D3と、乾燥重量で0.26%のリン酸とを使用した。これらの2つの化合物は濃縮階段前に同時に加えた。
各テストでBrookfield(登録商標)粘度を毎分10回転、100回転数(μ10およびμ100と略記)で各懸濁液の最終乾燥固体含有率と、遊離分散剤の百分比とを決定した([表3]参照)。
【0060】
【表3】

【0061】
テスト番号8ではリン酸の使用で固体含有率が増加し、懸濁液の粘度が低下し、また、水相中の遊離アクリル分散剤のレベルが著しく低下することが分かる。
【0062】
実施例5
この実施例はイタリア産大理石である天然炭酸カルシウムの水性懸濁液で、遊離分散剤の量を減少させる薬剤として本発明のリン酸を使用した例を示す。
【0063】
この実施例では最終濃縮階段時に下記のアクリル分散剤D4を使用した例を示す:
(1)アクリル酸のホモポリマー、
(2)カルボキシルサイトのモル重量で45%が水酸化ナトリウムで中和され、残りは非中和の形のままである。
(3)重量平均分子量は10,000グラム/モル(特許文献11に記載の方法で測定)。
【0064】
この実施例は、分散剤の存在下で粉砕する粉砕階段に由来する、炭酸カルシウムの初期懸濁液を用いた当業者に公知の方法での本発明の変形例を示す。粉砕の最初の階段から生じる炭酸カルシウムの初期含有量は、分子量が9,000g/モルに等しいアクリル酸のホモポリマーである粉砕助剤が乾燥重量で0.35%(炭酸カルシウムの乾燥重量に対して)存在する状態で得られたもので、中和されたカルボキシルサイトのモル重量による百分比は水酸化ナトリウムで50%、石灰で15%、水酸化マグネシウムで15%である(従って、非中和のカルボキシルサイトのモル重量は20%)。この懸濁液の炭酸カルシウムの含有量は乾燥重量で全重量の35%であり、MICROMERITICSTM社のSedigrapHTM 5100で測定した直径が1μm以下の粒子は85.5%である。
各テスト9、10では炭酸カルシウムの水性懸濁液を0.5KWattの電力を有するホットプレートを使用して濃縮した。
【0065】
テスト番号9
このテスト番号9は従来法の例を示し、分散剤D4を乾燥重量で0.42%、水溶性縮合リン酸塩分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウム塩(特許文献8、9で好ましいとされた化合物)を乾燥重量で0.18%使用した。ヘキサメタリン酸ナトリウム塩とD4をこの順番で加えた。
【0066】
テスト番号10
このテスト番号10は本発明を示し、分散剤D4を乾燥重量で0.42%、リン酸を乾燥重量で0.18%使用した。リン酸とD4は濃縮階段中にこの順番で加えた。
各テストでBrookfield(登録商標)粘度を毎分10回転、100回転数(μ10およびμ100と略記)で各懸濁液の最終乾燥固体含有率と、遊離分散剤の百分比とを決定した([表4]参照)。
【0067】
【表4】

【0068】
最高の結果はテスト番号10で得られ、乾燥固体含有率が最高で、粘度は最低で、遊離分散剤の量は大幅に低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のアクリル分散剤の存在下で炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液を濃縮する方法において、遊離分散剤の量を減らすための薬剤としてのリン酸の使用。
【請求項2】
炭酸カルシウムの乾燥重量に対して乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%のリン酸の使用する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
炭酸カルシウムの乾燥重量に対して乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%のアクリル分散剤を使用する請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
濃度階段前および/または濃度階段中に、アクリル分散剤とリン酸とを炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液中に加える請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
リン酸をアクリル分散剤より前、および/または、それと同時に炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液に加える請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
アクリル分散剤が少なくとも一種の(メタ)アクリル酸のホモポリマーおよび/または(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの少なくとも一種のコポリマーからなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
炭酸カルシウムが天然炭酸カルシウム、合成炭酸カルシウムおよびこれの混合物の中から選択され、好ましくは天然炭酸カルシウム、特に好ましくは大理石、チョーク、石灰岩、方解石およびこれらの混合物の中から選択される天然炭酸カルシウムである請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
水性分散液または懸濁液の炭酸カルシウムの初期含有量が、乾燥重量で、全重量の50%以下であり、濃縮後の炭酸カルシウムの最終含有量が、乾燥重量で、全重量の60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは72%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
炭酸カルシウムの水性懸濁液を濃縮する方法で、予め、粉砕剤を使用せずに粉砕して、炭酸カルシウムの初期含有量が乾燥重量が全重量の30%以下のものを得る請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
炭酸カルシウムの水性懸濁液を濃縮する方法で、予め、粉砕剤を使用して粉砕して、炭酸カルシウムの初期含有量が乾燥重量が全重量の50%以下かつ30%以上のものを得る請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液の濃度を機械的手段および/または熱的手段で実行する請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
少なくとも一種のアクリル分散剤と、リン酸から成る遊離分散剤の量を減らすための薬剤とを含む、炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液において、TOC法で測定した遊離分散剤のレベルが40%以下、好ましくは30%、さらに好ましくは12%であることを特徴とする炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。
【請求項13】
炭酸カルシウムの乾燥重量に対して、リン酸を乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%含む請求項12に記載の炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。
【請求項14】
炭酸カルシウムの乾燥重量に対して、アクリル分散剤を乾燥重量で0.05%〜1%、好ましくは0.1%〜0.6%含む請求項12または13に記載の炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。
【請求項15】
アクリル分散剤が、(メタ)アクリル酸の少なくとも一種のホモポリマーおよび/または(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの少なくとも一種のコポリマーから成る請求項12〜14のいずれか一項に記載の炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。
【請求項16】
炭酸カルシウムが天然または合成の炭酸カルシウムおよびこれの混合物の中から選択され、好ましくは天然の炭酸カルシウムであり、特に好ましくは大理石、チョーク、石灰岩、方解石およびこれらの混合物の中から選択される天然の炭酸カルシウムである請求項12〜15のいずれか一項に記載の炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。
【請求項17】
炭酸カルシウムの含有量が、乾燥重量で、全重量の60%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは72%である請求項12〜16のいずれか一項に記載の炭酸カルシウムの水性分散液または懸濁液。

【公表番号】特表2010−540223(P2010−540223A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526385(P2010−526385)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002040
【国際公開番号】WO2009/040616
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(398051154)コアテツクス・エス・アー・エス (35)
【Fターム(参考)】