説明

水中モータ用電線

【課題】絶縁被覆層と保護層との密着性(水封止性)を維持し水トリーの発生を防止しつつ、保護層の剥ぎ取り性を改善し、コイル形成時の作業性を向上させた水中モータ用電線を提供する。
【解決手段】導体2の外周に導体遮蔽層3が形成され、導体遮蔽層3の外周に絶縁被覆層4が形成され、絶縁被覆層4の外周に保護層5が押出被覆されてなる水中モータ用電線1において、保護層5は、ポリウレタンエラストマーを主体とする材料からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で使用される水中モータのコイルなどに用いられる水中モータ用電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中モータのコイル(巻線)などには、導体の外周に絶縁被覆層が形成された水中モータ用電線が用いられる。水中モータ用電線は、その名称が示すように、水中にて使用することを目的とする電線である。
【0003】
従来、水中モータ用電線は、導体の外周に銅イオンの析出・拡散を防止する導体遮蔽層を形成し、その導体遮蔽層の外周に絶縁被覆層、さらにその絶縁被覆層の外周に絶縁被覆層の外傷を防止する保護層(ジャケット)を形成して構成される。保護層は、耐摩耗性、押出特性などからポリアミド樹脂からなるものが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この保護層と絶縁被覆層との界面に間隙が存在し、その間隙に水が浸透すると、水トリーが発生しやすくなる。そのため、絶縁被覆層と保護層との密着性は良いほうが望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−256312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水中モータ用電線を成型し、水中モータを作製する際には、保護層の一部を剥離する必要があり、この剥離工程は、水中モータに用いられる電線に特有に設けられる工程である。しかし、従来の水中モータ用電線では、保護層被覆時の熱により、絶縁被覆層と保護層が融着してしまい、保護層が絶縁被覆層から剥ぎ取りづらいという課題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、絶縁被覆層と保護層との密着性(水封止性)を維持し水トリーの発生を防止しつつ、保護層の剥ぎ取り性を改善し、コイル形成時の作業性を向上させた水中モータ用電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、導体の外周に導体遮蔽層が形成され、該導体遮蔽層の外周に絶縁被覆層が形成され、該絶縁被覆層の外周に保護層が押出被覆されてなる水中モータ用電線において、前記保護層は、ポリウレタンエラストマーを主体とする材料からなる水中モータ用電線である。
【0009】
請求項2の発明は、前記絶縁被覆層が、ポリオレフィン類を主体とする材料からなる請求項1記載の水中モータ用電線である。
【0010】
請求項3の発明は、前記ポリウレタンエラストマーがポリエーテル系である請求項1又は2に記載の水中モータ用電線である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁被覆層と保護層との密着性(水封止性)を維持し水トリーの発生を防止しつつ、保護層の剥ぎ取り性を改善し、コイル形成時の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態を示す水中モータ用電線を示す断面図である。
【図2】実施例における剥離強度の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る水中モータ用電線を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態に係る水中モータ用電線1は、銅線からなる導体2の外周に導体遮蔽層3が形成され、導体遮蔽層3の外周にポリオレフィン類(ポリオレフィン系樹脂)を主体とする絶縁被覆層4が形成され、絶縁被覆層4の外周に保護層5が押出被覆されてなる。
【0016】
導体遮蔽層3は、導体2から絶縁被覆層4へ銅イオンが析出・拡散をするのを防止するための層である。導体2から絶縁被覆層4へ銅イオンが析出・拡散すると、その銅イオンを起因とする水トリーが絶縁被覆層4中に発生し、この水トリーがコイルの絶縁性能を劣化させ、最終的に絶縁破壊を生じてしまう虞がある。このような現象を防止するために、本実施の形態では、導体2と絶縁被覆層4との間に導体遮蔽層3を形成している。導体遮蔽層3は、エポキシエナメルやポリイミド系エナメル、ポリアミドイミド系エナメル、ポリエステルイミド系エナメルなどのエナメル層や、ポリエチレンやエチレン共重合体などの樹脂にカーボンブラックなどの導電性付与剤を配合した半導体層で構成することができる。
【0017】
絶縁被覆層4は、絶縁性、機械的特性に優れたポリオレフィン系樹脂を主成分とする材料からなるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン類が望ましく、ポリエチレン類としては、イオン重合法で重合されたポリエチレン、ラジカル重合法で重合されたポリエチレン、又はこれらイオン重合ポリエチレンとラジカル重合ポリエチレンとを混合したポリエチレンを主体とする高分子材料などを用いることができる。また、これらポリエチレンの他、エチレンエチルアクリレート共重合体やエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメタクリレート共重合体などのエチレン共重合体、プロピレンとエチレン共重合体、ポリオレフィンに無水マレイン酸やエポキシなどを含む官能基をグラフトしたものを一種、又は2種以上含んだものでもよい。さらに、これらのポリエチレン類を架橋してなるものでもよい。また、上記ポリエチレン類に、酸化防止剤や架橋剤などの添加剤を配合していてもよい。
【0018】
保護層5は、絶縁被覆層4の外傷を防止するための層であり、ポリウレタンエラストマーを主体とする材料からなる。
【0019】
特に、この熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、エーテル系若しくはポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるとなおよい。この理由は、エーテル系及びポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、エステル系(アジペート系、ラクトン系など)の熱可塑性ポリウレタンエラストマーに比べ耐水性(耐加水分解性)に優れているためであり、実使用環境下において、加水分解された保護層5の一部が絶縁被覆層4から剥離し、周囲の水中に拡散してしまう可能性を低減するためである。なお、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた際の押出温度は180〜240℃である。
【0020】
このように、水中モータ用電線1において、絶縁被覆層4と接する保護層5を、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主体とする材料を用いて形成することにより、例えば、絶縁被覆層4を形成する材料として、ポリオレフィン系樹脂を用いた場合、ポリオレフィン類分子と保護層5を形成する材料とが絡みにくくなり、保護層5の押出被覆時における絶縁被覆層4と保護層5との融着を防止することができる。これは、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの押出時の溶融粘度が1000Pa・s程度と高いためである。
【0021】
また、保護層5の押出被覆後の冷却により、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが収縮し、絶縁被覆層4と保護層5とは密着するため、界面に間隙は発生しない。
【0022】
さらに、本実施の形態で保護層5の材料として用いた熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、弾性率が低く、引っ張りによる変形率が高く、且つ引張破断強度が高いという特徴を有する。そのため、保護層5の剥ぎ取りの際に、保護層5を水中モータ用電線1の長手方向に伸張すると、保護層5よりも弾性率の高い絶縁被覆層4は、保護層5の変形に追従できず、結果として絶縁被覆層4と保護層5との界面にずれによる間隙が形成され、両者を容易に剥離することができる。
【0023】
よって、本実施の形態に係る水中モータ用電線1によれば、絶縁被覆層4と保護層5との密着性(水封止性)を維持し水トリーの発生を防止しつつ、保護層5の剥ぎ取り性を改善し、コイル形成時の作業性を向上させることができる。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例1〜6、比較例1,2を以下に述べる。
【0025】
実施例1〜6、比較例1,2の配合組成と評価結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例1〜3、比較例1,2)
外径約4.5mmの銅線からなる導体の外周にエポキシ樹脂を主体とする塗料を繰返し塗布し、焼付けて厚さ約0.06mmの導体遮蔽層を形成した。この導体遮蔽層の外周に、表1に示す配合組成の絶縁被覆層を1.5mmの厚さで押出被覆し、70℃の飽和水蒸気に12時間晒し、絶縁被覆層を架橋した。
【0028】
その後、保護層として表1に示す熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主体とする樹脂及び従来技術である比較例のナイロンを主体とする樹脂を厚さ0.2mmで押出被覆することで、各水中モータ用電線を完成させた。
【0029】
(実施例4〜6)
外径約4.5mmの銅線からなる導体の外周にエチレンエチルアクリレート共重合体100質量部に対して導電性付与剤としてカーボンブラックを65質量部配合してなる半導体材料を厚さ0.3mmで、表1に示す配合組成の絶縁被覆層を1.2mmの厚さで同時に押出被覆し、70℃の飽和水蒸気に12時間晒し、絶縁被覆層を架橋した。
【0030】
その後、保護層として表1に示す本発明に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主体とする樹脂を厚さ0.2mmで押出被覆することで、各水中モータ用電線を完成させた。
【0031】
(評価方法及び評価結果)
表1の下段に示した評価内容は、実施例1〜6、及び比較例1,2に係る各水中モータ用電線のサンプルに対する特性試験結果をまとめたものである。
【0032】
保護層の剥ぎ取り性評価は、図2に示すように、完成した各水中モータ用電線を10cmの長さに切断し、その先端から保護層100に、水中モータ用電線の長手方向に切り込みを5mmの間隔で平行に2本入れ、絶縁被覆層101から幅5mmの保護層100を剥離した際の剥離強度を評価した。より具体的には、水中モータ用電線の保護層100の一部をある程度剥がしておき、これをサンプルとして、サンプルの末端を下部で固定し、ロードセル(荷重測定器)の取り付けられた治具に剥がしてある保護層100を挟み、上方向に引きはがす際にロードセルに加わる荷重を測定し、このときの測定値の最大値を剥離した保護層100の幅で割った値を剥離強度とした。
【0033】
表1では剥離強度が10N以下のものは良と判断し○印を、10Nより大きいものは不良と判断し×印を記入した。
【0034】
また、実施例1〜6及び比較例1,2の各水中モータ用電線をそれぞれ、巻線形成時の最小曲げ半径(r=約15mm)で2.5回巻きしたサンプルを各々10個作製し、水トリー特性の評価に用いた。
【0035】
水トリー特性の評価は、各サンプル5個を90℃の温水に浸漬し、導体と温水との間に50Hzで3kVの交流電流を500日間印加して行った。500日後、絶縁被覆層の断面を薄くスライスしてメチレンブルー水溶液で煮沸染色し、光学顕微鏡を用いて水トリーの長さを計測し、200μm以上の水トリーの発生個数を計数した。
【0036】
発生個数が1.0×103(個/mm3)以上であれば不良と判断して表1中に×印を記入し、発生個数が1.0×102(個/mm3)より多く1.0×103(個/mm3)より少ないときは良と判断して表1中に△印を記入し、発生個数が1.0×102(個/mm3)以下であれば優良と判断して表1中に○印を記入した。
【0037】
温水浸漬時の保護層加水分解物の拡散状況は、上記水トリー特性の評価後のサンプルにおいて、保護層分解物が絶縁被覆層から剥離していないものを優良と判断して表1中に○印を記入し、保護層分解物が絶縁被覆層から剥がれかかっているが水中には拡散していないものを良と判断し表1中に△印を記入し、保護層分解物が絶縁被覆層から剥離し水中に拡散しているものを不良と判断し表1中に×印を記入した。
【0038】
表1の評価欄に示したように、熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成した実施例1〜6は、保護層をポリアミド樹脂で形成した比較例1,2と比べ、保護層の剥ぎ取り性が優れている。
【0039】
また、実施例1〜6は、従来技術である比較例1と同等の水トリー特性を有している。
【0040】
さらに、保護層をエーテル系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成した実施例2,5及びポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成した実施例3,6は、温水浸漬による保護層加水分解物の発生がなくなお良い。
【0041】
以上より、本発明の構成とすることにより、絶縁被覆層と保護層との間の密着性(水封止性)を維持し水トリーの発生を防止しつつ、保護層の剥ぎ取り性を改善し、コイル形成時の作業性を向上した水中モータ用電線を得られることが証明された。
【符号の説明】
【0042】
1 水中モータ用電線
2 導体
3 導体遮蔽層
4 絶縁被覆層
5 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に導体遮蔽層が形成され、該導体遮蔽層の外周に絶縁被覆層が形成され、該絶縁被覆層の外周に保護層が押出被覆されてなる水中モータ用電線において、
前記保護層は、ポリウレタンエラストマーを主体とする材料からなることを特徴とする水中モータ用電線。
【請求項2】
前記絶縁被覆層が、ポリオレフィン類を主体とする材料からなることを特徴とする請求項1記載の水中モータ用電線。
【請求項3】
前記ポリウレタンエラストマーがポリエーテル系であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中モータ用電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate