水中堆積物流送用の吸引パイプ、水中堆積物の流送装置及びそれを用いた水中堆積物の流送方法
【課題】水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、水底に堆積した水中堆積物を効率良く安定的に他の領域に流送可能とする水中堆積物流送用の吸引パイプ、並びに該吸引パイプを用いた水中堆積物の流送装置及び流送方法を提供すること。
【解決手段】本発明の吸引パイプは、管本体50の一端が取水口2aとされ、他端が接続端51とされ、これら両端の中間部に折返し部52が形成され、この折返し部52の下部にシート部材53が密着され、シート部材53及び該シート部材53が密着される部分に、下部吸引孔54が連穿されるとともに、シート部材53より水面側の上方にあって折返し部52の先端52a部分にあたる管材の側部に、側部吸引孔55が穿設され、更に、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在する管材の延在部60の下部側に、その延在方向に複数の吸引補助孔61が並設されていることを特徴とする。
【解決手段】本発明の吸引パイプは、管本体50の一端が取水口2aとされ、他端が接続端51とされ、これら両端の中間部に折返し部52が形成され、この折返し部52の下部にシート部材53が密着され、シート部材53及び該シート部材53が密着される部分に、下部吸引孔54が連穿されるとともに、シート部材53より水面側の上方にあって折返し部52の先端52a部分にあたる管材の側部に、側部吸引孔55が穿設され、更に、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在する管材の延在部60の下部側に、その延在方向に複数の吸引補助孔61が並設されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して下流域などの他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプ、及びその吸引パイプを備えた水中堆積物の流送装置、並びにその流送装置を用いた水中堆積物の流送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダム、溜池、下水処理場などの貯水施設や、自然の河川、湖沼、池、又は運河などの閉鎖的な水域では、その水底に土砂などの堆積物が沈殿・堆積し、貯水機能の低下、船舶の運航などへの支障、水質・環境汚染などを引き起こすため、定期的に又は必要に応じて水底に溜まった堆積物を浚って除去する浚渫作業を行う必要がある。
【0003】
例えば、治水、利水、或いは発電を目的として河川を堰き止めたダムの貯水池では、上流域から河川により運ばれる土砂等がダムの底に堆積してゆき、ダムの有効貯水量が減少してしまうという問題が発生すると共に、下流域への土砂の供給が減り、下流域での河床低下や海岸浸食(砂浜痩せ)などの問題も発生する。
【0004】
このため、従来、台船などに設置されたクレーン等を用いて、バケットなどで堆積土砂等を浚って陸上に汲み上げ、トラックなどの陸上輸送手段で河川の当該ダムより下流域に移送して排出したり、他の場所に廃棄したりしていた。或いは、土砂交じりの泥土を吸引可能な浚渫ポンプで堆積土砂等を水と共に吸引して下流域に放出することも行われていた。しかし、これらの浚渫作業は、いずれも大掛かりな施設や動力が必要であり、交通の便の悪い山間部などでは、装置そのものを設置することが困難なことや、コストが掛かり過ぎるといった問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1には、水中の沈殿物、堆積物、又は集積物の中に、開口付きパイプを埋設し、上流端または上流部の開口部を水中に位置させることにより、上流端または上流部の水中にある開口から入った水が管路内を流れるに伴い生じる管路内の負圧により開口周囲の沈澱物、堆積物又は集積物を管内に吸引しながら出口へと送り出すようにする水中堆積物の流送方法、及びその装置等が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の水中堆積物の流送装置は、あまり大掛かりな施設や動力を必要としない点でメリットがあるが、開口付きパイプを水中の堆積物に埋設する必要があり、既存のダム等に適用することが難しいという問題があった。
【0007】
また、本願の出願人らが出願した特許文献2には、側面部に開口部を備えた可撓性の掃流管を堆積した土砂の上に開口部が塞がるように置き、この掃流管の基端部に吸引管を連結して先端開口から基端部に水流形成手段で水流を形成して開口部に面する堆積土砂を掃流しながら吸引輸送することで、この掃流管の先端開口を中心に形成される堆積土砂の円錐状の窪みにその可撓性で追随させ、先端の大きな沈み込みと周囲の土砂の崩れ落ちにより、2次元形状の掃流管で、円錐状の3次元的な広範囲に亘って排砂できるようにした水底堆積土砂の輸送方法及びその装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の水底堆積土砂の輸送方法及びその装置では、水位差を利用して経済的に堆積土砂の移送を行うことができるものの、(1)土砂吸引の進行につれ、堆積土砂等にすり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から土砂等が崩落して水の取り入れ口である先端開口が埋まってしまい、先端開口が閉塞して水流及び堆積土砂等の輸送がストップしてしまう。(2)シート状部材が大きいので、土砂吸引の進行につれ、シート状部材に浮き上がりや折れ曲がり、皺などが発生し、シート状部材と堆積土砂との間に空間ができ、その空間が水みちとなって、土砂等の吸引力が減少してしまう。(3)シート状部材の水中での展開が困難であるという問題点があった。
【0009】
このような問題点を解決するものとして、本願の出願人が出願した特許文献3には、効率良く大量に、水底に堆積した水中堆積物を他の領域に流送する水中堆積物の流送方法及び流送装置に用いられる吸引パイプが開示されている。この吸引パイプの概要を図1及び図2に示す。吸引パイプ100は、両端が開口した可撓性を有する管本体150から形成され、一端が水の取り入れ口である取水口102aとされ、他端が堆積物及び水を吐き出す吐出口を有する流送管102に対する接続端151とされる。管本体150は、前記両端の中間で折り返されて形成される。その折返し部152では、下部が切り欠かれており、この切り欠かれた部分にシート部材153が接着されている。また、シート部材153より上方であって折返し部152の先端部分にあたる管本体150の側面部分に管本体150内と連通する側部吸引孔155が穿設され、シート部材153には、管本体150内と連通する下部吸引口154が複数穿設されている。なお、取水口102aには、任意部材としてエルボー管157が接続され、このエルボー管157の取水口102と接続される側と反対側の開口端を取水口102a’として、該取水口102a’が上向きになるように配されている。
【0010】
このように構成される吸引パイプ100によれば、水中堆積物の吸引の進行につれ、すり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から堆積物が崩落して、吸引パイプ100の先端に位置する側部吸引孔155から一度に高濃度の堆積物を吸引して詰まってしまったような場合でも、取水口102a(102a’)からの取水により、吸引パイプ100の管内の水流がストップせず、すり鉢状の窪みの中心部分が水底に到達するまで、堆積物を吸引することが可能とされる。また、すり鉢状の窪みの形成過程において、窪みの表面形状がなだらかな形状でなくなっても、その表面形状の変化に追随可能なシート部材で覆って、その覆った範囲の水中堆積物を吸引パイプの管内に発生する負圧で下部吸引孔154から効率良く吸引することが可能とされる。
しかしながら、この吸引パイプ100を用いた水中堆積物の移送においては、水中堆積物の堆積深さが比較的浅い場合には、側部吸引孔155及び下部吸引孔154から水中堆積物を効率良く吸引することが可能であるものの、水中堆積物の堆積深さが深くなると、水中堆積物の吸引が困難となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−294677号公報
【特許文献2】特開2006−214092号公報
【特許文献3】特開2010−144359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、大掛かりな施設や動力を必要とせず、単純な構造により実現可能であり、設置が容易なうえ経済的であり、天候に左右されず、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、水底に堆積した水中堆積物を効率良く安定的に他の領域に流送可能とする水中堆積物流送用の吸引パイプ、並びに該吸引パイプを用いた水中堆積物の流送装置及び流送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、以下の知見が得られた。
先ず、水中堆積物の堆積深さが比較的深い状況を設定した模擬試験において、出願人が先に出願した特許文献3に開示される吸引パイプを用いて水中堆積物の流送を行うと、流送を開始後、形成されるすり鉢状の窪みが浅い初期の段階では、水中堆積物の流送が可能であるものの、吸引パイプの折返し部に穿設される側部吸引孔及び下部吸引孔から水中堆積物の吸引が進むにつれ、吸引パイプの折返し部側が水中堆積物の中に潜行し、その潜行深さが水中堆積物の表面からある程度深くなった段階に至ると、側部吸引孔及び下部吸引孔からの水中堆積物の吸引がなくなり、吸引パイプからは、取水口から取水される水のみが流送される状況となることが確認された。
そのため、すり鉢状の窪みが深くなるにつれ、水中堆積物の吸引がなくなる問題を新たな技術的課題として、これを解決するべく本発明者らが試行錯誤した結果、折返し部で折り返された吸引パイプのシート部材が接着された部分から取水口に向けて延在する延在部において、その延在方向の下部に複数の孔を並設すると、吸引パイプの折返し部側が水中堆積物の中に潜行し、すり鉢状の窪みが深く進行した段階に至っても、安定して水中堆積物を吸引可能であることの知見が得られた。
このような吸引が可能となる要因としては、必ずしも定かではないが、以下のように推察される。即ち、すり鉢状の窪みが深く進行した段階において、吸引パイプに設けられる吸引孔が水中堆積物中に深く潜行した位置における吸引孔だけであると、管材内に水流を形成する負圧は維持されるものの、吸引孔近傍において水中堆積物を吸引するだけの負圧がなくなり、取水口から取り入れられる水のみが流送される。そのため、水中堆積物の吸引過程において、水中堆積物に深く潜行しない位置に吸引孔が常に存在するよう、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の延在方向に複数の孔を並設すると、水中堆積物に深く潜行していない位置の孔の働きにより、管材内に水中堆積物を吸引する負圧が維持され、吸引パイプの先端側に設けられる側部吸引孔をはじめとする水中堆積物に潜行した位置の各孔からの水中堆積物の吸引が補助されることとなり、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、安定して水中堆積物の吸引・流送が可能になるものと推察される。
【0014】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプであって、両端が開口した可撓性を有する管材から形成され、該管材の一端が水の取り入れ口である取水口とされ、他端が前記水中堆積物及び前記水を吐き出す吐出口側の接続端とされ、前記両端の中間部には、前記管材を折返して固定した折返し部が形成され、この折返し部を含む前記管材の水底側に位置する下部にシート部材が密着されており、前記シート部材及び該シート部材が密着される部分の前記管材には、下部吸引孔が連穿されるとともに、前記シート部材より水面側の上方にあって前記折返し部の先端部分にあたる前記管材の側部には、側部吸引孔が穿設され、更に、前記シート部材が密着された部分から前記取水口に向けて延在する前記管材の延在部の下部側には、その延在方向に複数の吸引補助孔が並設されていることを特徴とする水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<2> 折返し部のある管材の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材が密着される前記<1>に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<3> 吸引補助孔の孔径が、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dである前記<1>から<2>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<4> 管材の延在部に吸引補助孔を並設する間隔が、管材の管径をdとしたとき、2d〜5dである前記<1>から<3>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<5> シート部材の外縁部には、その縁沿いに水中堆積物の表面形状の変化に追随可能な可撓性を有する錘が配設される前記<1>から<4>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<6> 折返し部の先端部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、2.5d以下である前記<1>から<5>に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<7> 折返し部の側面部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、1d〜3dであり、前記シート部材の前記管材の長手方向に沿った長さが、5d〜15dである前記<1>から<6>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<8> 水中堆積物の堆積深さを予め把握し、その深さ及び前記水中堆積物の水中安息角から吸引終了時に前記水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される前記最大形状の斜面長さに対し、延在部の管長が長く設定されるとともに、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔が並設される前記<1>から前記<7>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<9> 取水口に屈曲したエルボー管が接続され、該エルボー管の開口端が上向きに設置される前記<1>から<8>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<10> 閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送装置であって、前記<1>から<9>のいずれかに記載の吸引パイプと、該吸引パイプの管内に前記水中堆積物を吸引するための水流を発生させる水流発生手段と、を有することを特徴とする水中堆積物の流送装置。
<11> 前記<10>に記載の水中堆積物流送装置を用い、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送方法であって、吸引パイプを前記水中堆積物の上に設置し、水流発生手段で前記吸引パイプの管内に水流を発生させ、その水流で前記吸引パイプの管内を負圧にすることにより、下部吸引孔、側部吸引孔及び吸引補助孔から前記水と一緒に前記水中堆積物を吸引させ、その負圧で前記吸引パイプの折返し部を先端として前記水中堆積物に潜行させ、該先端を中心に前記水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成しながら前記水中堆積物を浚渫することを特徴とする水中堆積物の流送方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、大掛かりな施設や動力を必要とせず、単純な構造により実現可能であり、設置が容易なうえ経済的であり、天候に左右されず、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、水底に堆積した水中堆積物を効率良く安定的に他の領域に流送可能とする水中堆積物流送用の吸引パイプ、並びに該吸引パイプを用いた水中堆積物の流送装置及び流送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来例に係る吸引パイプの平面図である。
【図2】図1に示す吸引パイプの側面図である。
【図3】この発明の実施の形態に係る水中堆積物の流送装置の概略構成と、水中堆積物及び流送装置の作業開始前の状況を鉛直断面で表す説明図である。
【図4】図3に示す流送装置の作業中の状況を表す説明図である。
【図5】図3に示す流送装置の作業終了時の状況を表す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る吸引パイプの平面図である。
【図7】図6に示す吸引パイプの側面図である。
【図8】図6に示す吸引パイプの折返し部を主に示す拡大平面図である。
【図9】図8に示す折返し部の底面図である。
【図10】図6に示す折返し部のX−X線切断端面図である。
【図11】図6に示す折返し部の先端部分の側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る吸引パイプの平面図である。
【図13】図12に示す吸引パイプの側面図である。
【図14】比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験の実験結果を示すものであり、(a)は水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフ、(b)は(a)でプロットされる実験結果を数値として示す表である。
【図15】実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験の実験結果を示すものであり、(a)は水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフ、(b)は(a)でプロットされる実験結果を数値として示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
(水中堆積物の流送装置)
先ず、本発明に係る水中堆積物の流送装置の実施の形態について図3〜5を用いて説明する。図3〜5は、本発明に係る水中堆積物の流送装置の一実施の形態である流送装置の概略構成と、その浚渫作業の進行状況を鉛直断面で示す説明図であり、図3は、吸引開始前を、図4は、吸引作業中を、図5は、吸引終了時を示し、各図の(A)は、鉛直断面図、(B)は、平面図をそれぞれ示している。
【0019】
図中の符号Aは、閉鎖的な水域の一例として挙げるダム貯水池であり、符号Dは、そのダムを、符号Sは、水中堆積物を示し、符号1は、本発明に係る水中堆積物の流送装置の一実施の形態として例示する流送装置である。この流送装置1は、ダム貯水池Aから水中堆積物Sを水と一緒に吸引して下流域Bへ放出(排出)するための水中堆積物Sの移送経路である流送管2と、この流送管2の内部に水流を発生させる水流発生手段3と、流送管2から放出する水中堆積物S及び水の流量を制御する流量制御手段4とから主に構成され、ダム貯水池Aの底に堆積した水中堆積物Sを水と一緒に吸引して浚渫し、下流域Bに放出する機能を有した装置である。
【0020】
流送管2は、ダム貯水池A側の端部が取水口2aに、下流域B側の端部が吐出口2bとなっており、ダム貯水池Aから下流域Bに亘ってダムDを貫通して配管され、その取水口2a側(吸引側)の先端(図中のダム貯水池A側の端)部分が、本発明に係る後述の吸引パイプ5となっている。この流送管2の管材としては、高密度ポリエチレン管、塩化ビニル管などの樹脂製管や、鋼管、鋳鉄管、ステンレス管などの金属製管などを使用できるが、後述の水流発生手段3で発生させた水流による負圧を維持できるだけの水密性、気密性、及び耐圧性を有している管材であればよい。
なお、流送管2は、必ずしもダムDを貫通する必要はなく、ダムDの上端の上方に迂回するように配管されていても構わないが、サイホン現象を利用する場合には、取水口2aより所定の水頭圧が得られる分だけ上方に迂回して下流域B側へ配管される必要がある。
【0021】
水流発生手段3は、流送管2の途中に一般的な流体ポンプ30を備え、この流体ポンプ30でダム貯水池Aから水と水中堆積物Sを吸引してサイホン現象を誘引する初期水流を発生させ、一旦水流が流れ出した後は流体ポンプ30を停止して、流送管2の頂部を超えた水流が落下する水頭圧でダム貯水池Aから水を吸引し、水流が持続するようになっている。勿論、サイホン現象を利用するのではなく、流体ポンプ30の動力だけで水流を発生させてもよく、また、流体ポンプ30を設けず、流送管2の取水口2aが吐出口2bより高く、且つ、流送管2を直線的に配管して、取水口2aと吐出口2bとの水位差(高低差)を利用して水流が発生するようにしても構わない。即ち、水流発生手段3は、流送管2の管内に水流を発生させることができる構成であればよい。但し、流体ポンプ30を稼動するには動力(電力や軽油等を用いた発動機など)が必要であり、ランニングコストが嵩むため、本実施の形態のように、サイホン現象を利用することが好ましい。
【0022】
流量制御手段4は、吐出口2b付近に吐出ゲート40を有し、この吐出ゲート40を開閉することで流送管2の管内の有効開口面積を調整可能に構成されており、この吐出ゲート40の開閉を制御することで、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引量も調節することができ、完全に吐出ゲート40を閉じることで、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引も止めることができる。また、この吐出ゲート40は、吐出口2b付近(即ち、頂部から十分な距離を置いた下方)に設置されているので、この吐出ゲート40を再び開くだけで、流送管2の頂部から吐出ゲート40までに溜まっていた水が落下して、その水頭圧で吸引パイプ5からの水中堆積物Sの再吸引が可能である。つまり、吐出ゲート40を閉鎖して吐出ゲート40から流送管2の頂部まで一旦水を溜めることができれば、前記流体ポンプ30を作動させなくても、吸引パイプ5からの吸引を何時でも再開することができる。
なお、吐出ゲート40は、勿論、バルブなどの調整弁であってもよく、流送管2の管内の有効開口面積を調整可能な機構であればよい。
【0023】
(吸引パイプ)
次に、本発明に係る吸引パイプの一実施の形態について、図6〜図11を用いて説明する。図6は、本発明の一実施の形態に係る吸引パイプの平面図、図7は、図6に示す吸引パイプの側面図、図8は、図6に示す吸引パイプの折返し部を主に示す拡大平面図、図9は、図8に示す折返し部の底面図、図10は、図6に示す折返し部のX−X線切断端面図、図11は、図6に示す折返し部の先端部分の側面図である。
【0024】
図示する吸引パイプ5は、両端が開口した可撓性を有する管材を主材とする管本体50から主に構成され、一方の開口端が、取水口2aに、他方の開口端が、水流発生手段3や吐出口2bに続く接続端51となっている。また、取水口2aと接続端51との略中央に位置する中間部には、管本体50の管材を平面視でU字状又は馬蹄形状に折返して固定した折返し部52が形成され、この折返し部52を含む管本体50の水底側に位置する下部に沿ってシート部材53が密着されている。また、折返し部52で折返され、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在する管本体50の部分として、延在部60が形成されている。
なお、折返し部52の管材の折返し形状は、平面視で楕円形や円形であってもよく、取水口2aと連通した管材が折返し固定されていればよい。
【0025】
管本体50は、本実施の形態では、硬質高密度ポリエチレンの螺旋状の線材と、この線材間を繋ぐ軟質高密度ポリエチレンの膜とからなる蛇腹状のフレキシブル管から構成されているが、水流発生手段3で発生させた水流による負圧を維持できるだけの水密性、気密性、及び耐圧性と、浚渫作業の進行につれて変化する水中堆積物Sの後述の「すり鉢状」の窪みの深さや表面形状の変化(図3〜図5参照)に追随可能な可撓性を有している管材から構成されていればよい。なお、本実施の形態に係る管本体50の管径としては、実際の閉鎖水域に適用する場合には、200mm〜1,000mm程度のものを想定しているが、流送装置1を設置する閉鎖水域(例えば、ダム貯水池)の規模や、浚渫作業の期間などを考慮して適宜選択可能であることは云うまでもない。
【0026】
折返し部52では、図7,11に示すように、管本体50の下部にシート部材53が密着され、シート部材53と該シート部材53が密着された部分の管本体50に、図6,9に示すように、水中堆積物Sの吸引用の複数の下部吸引孔54が連穿されている。また、取水口2aに最も近い位置に設けられる下部吸引孔54に隣接して、折返し部52の先端52a側から取水口2a側に向けた位置に、下部吸引孔54’が下部吸引孔54と同様に連穿されている。また、図11に示すように、折返し部52の先端52aには、水中堆積物Sの吸引用の側部吸引孔55がシート部材53の水面側となる上方に穿設されている。本実施の形態の下部吸引孔54,54’としては、管材の管径をdとして、1/2dの大きさのものが7個(下部吸引孔54が5個、取水口2a側の下部吸引孔54’が2個)設けられ、側部吸引孔55としては、1/3dの大きさのものが1個設けられている。なお、本実施の形態では、管本体50の下部にシート部材53が形成されている例を示しているが、管本体50の管径dに応じて、管本体50と同材などの所定の強度や剛性を有した材料からなる底板を設けて補強し、その底板の外部からシート部材を密着してもよい。また、シート部材53と管本体50との密着方法としては、接着、熱溶着、超音波溶着等の固着方法など、一般的な密着方法を適用することができる。
【0027】
シート部材53は、柔軟性と不透水性を有するビニールシートなどの樹脂シートからなる。この柔軟性と不透水性を有することで、水中堆積物Sの吸引を開始して吸引パイプ5が水中堆積物Sに潜行するまでの吸引初期段階に、吸引作業の進行につれて変化する水中堆積物Sのすり鉢状の窪みSaの表面形状に追随し、水中堆積物Sとシート部材53との間に水みちができることを抑制することができる。
また、シート部材53は、管本体50の管径をdとして、図6〜8に示す管本体50の長手方向に沿った長さL1が5d〜15d、折返し部52の先端52aからの張出し長さL2が2.5d以下、図6,8に示す折返し部52の側面部分からの張出し長さL3が1d〜3dの大きさに設定されている。
L1及びL3の大きさとしては、模型実験等から管径dに対する水中堆積物Sの吸引量が最も多くなるように試行錯誤して設定されたものであり、シート部材53が水中堆積物Sの表面形状の変化に追随して吸引力を維持し続けることができるとともに、吸引パイプ5が水中堆積物Sに潜行する(潜り込む)のを妨げない最適な大きさとなっている。
また、L2が2.5d以下であると、シート部材53の折返し部52の先端52aからの張出し部分が、側部吸引孔55の吸引力で捲れ上がって側部吸引孔55を塞いでしまうおそれがなくなる。
また、L2としては、1/3d以下が特に好ましい。L2の長さが1/3dを超える場合、水中堆積物の堆積状況によっては、シート部材53の前記張出し部分が依然として側部吸引孔55を塞いでしまうおそれがあり、1/3d以下とすることで、より確実に側部吸引孔55の塞ぎ込みを抑制することができる。
なお、変形例として後述する、管本体50’の下部を切り欠いてシート部材53’を配する吸引パイプ5’(図12及び図13参照)においては、シート部材53’が管本体50’の下部に安定的に配されるため、L2の長さが1/3dを超える場合であっても、側部吸引孔55の塞ぎ込みを抑制することができる。
【0028】
このシート部材53の外縁部は、樹脂シートがその縁沿いに袋状に折返して固着されており、その袋状部分53aにチェーン材からなる錘56が内包されている。このため、ダム貯水池A(閉鎖的な水域)内を流れる水流や、吸引の際に吸引パイプ5の周りに発生する水流によりシート部材53が捲れ上がったり、皺などが発生したりすることがない。また、シート部材53は、水中堆積物Sの表面形状の変化に追随可能な柔軟性を有しているので、シート部材53と水中堆積物Sとの間に空間ができ、そこが水みちとなって吸引力が低下してしまうおそれが少なくなる。そのうえ、シート部材53の水中での展開も、錘56の重力により何ら労力を掛けることなく自然に展開することができる。
勿論、この錘56は、チェーン材に限られるものではなく、例えば、シート部材53の縁の周りに小さな所定間隔を空けて取り付けられたトビトビの錘などでもよく、水中堆積物Sの表面形状の変化に追随可能な可撓性を有し、シート部材53の縁を押えて下部吸引孔54の吸引力を密封できる錘であればよい。
【0029】
延在部60は、図6及び図7に示すように、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在し、図6の破線で示すように、その下部側の延在方向に複数の吸引補助孔61が並設されている。この吸引補助孔61は、水中堆積物Sの吸引作業中、吸引パイプ5が水中堆積物S中に潜行した際、側部吸引孔55をはじめとして潜行した位置に存在する各孔からの吸引を補助し、水中堆積物Sの堆積深さT1(図3〜5参照)が深い場合であっても、安定した水中堆積物の吸引・流送を可能とする。
なお、延在部60に対して吸引補助孔61を並設する箇所としては、下部側であれば特に制限はなく、具体的には、管状の延在部60を半割りしたときに、水底側であればよい。
【0030】
延在部60が配される、折返し部52の先端52aから取水口2a(2a’)までの管材の長さD1は、すり鉢状の窪みSaの最大形状の斜面長さD2(図5参照)よりも長く設定されており、延在部60には、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔61が並設されている。
このように延在部60を設定することで、水中堆積物Sの吸引作業の進行状況に応じて形状が変化するすり鉢状の窪みSaに対して、いずれかの吸引補助孔61が常に水中堆積物S中に潜り込まない位置に存在させることができ、潜行した位置に存在する各孔に対する水中堆積物Sの吸引補助を期待することができる。
また、延在部60の端部をなす取水口2aがすり鉢状の窪みSaより常に外に設置されていることとなり、崩落土砂等が詰まって吸引パイプ5の管内の水流がストップしてしますことを抑制することができる。
なお、D1は、以下の手順で設定することができる。先ず、水中堆積物Sの堆積深さT1をボーリング調査等で直接測定したり、土砂堆積の年平均の厚さなどから予測したりするなどして何らかの方法で予め把握しておく。水中堆積物Sの水中安息角θは、水中堆積物Sの組成などからある程度予測がつくので、図5に示すように、堆積深さT1と水中安息角θとから吸引終了時に形成されるすり鉢状の窪みSaの最大形状を割り出す。次に、そのすり鉢状の窪みSaの最大形状の斜面長さD2を算出する。そして、D1が斜面長さD2より長くなるよう設定する。
【0031】
吸引補助孔61の孔径φ(図6の拡大部参照)としては、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dの範囲とされることが好ましい。この孔径φが0.2d未満であると、潜行した位置に存在する各孔に対する水中堆積物Sの吸引補助が十分期待に期待できないことがあり、孔径φが0.7dを超えると、吸引パイプ61の強度が損なわれるおそれがある。
また、延在部60に吸引補助孔61を並設する間隔p(図6参照)としては、2d〜5dの範囲とされることが好ましい。即ち、吸引補助孔61は、延在部60の延在方向になるべく密に並設されることが好ましく、間隔pが5dを超えて疎になると、吸引作業が進行するにつれて、水中堆積物Sに潜り込まない位置に存在する数が少なくなり、十分な吸引補助の働きを確保できなくなることがあり、間隔pが2d未満で密に過ぎると、吸引パイプ61の強度が損なわれるおそれがある。
【0032】
吸引パイプ5は、図6,7に示すように、取水口2aの先に、屈曲したエルボー管57を接続し、図示しない台座などを取り付けて、このエルボー管57の開口端が上向きになるよう設置して、その開口端を取水口2a’とすることが好ましく、そうすることにより、水中堆積部Sに取水口2aが埋没して、一度に高濃度の土砂等を吸引し、吸引パイプ5の管内が詰まって水流がストップすることを抑制することができる。
【0033】
(変形例)
前記実施の形態の変形例として、吸引パイプの他の実施の形態を図12,13に示す。図12は、この実施の形態に係る吸引パイプの平面図であり、図13は、その側面図である。
この変形例に係る吸引パイプ5’では、折返し部52’のある管本体50’の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材53’が密着される構成とされる。
このように構成することで、吸引の初期段階において、すり鉢状の窪みSaの表面形状の変化に対し、安定した状態で追随し易くなるとともに、その後、折返し部52’のある先端側から吸引パイプ5’が水中堆積物Sに潜行し易くすることができる。
なお、これ以外の構成については、吸引パイプ50と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0034】
(水中堆積物の流送装置の動作及び水中堆積物の流送方法)
次に、流送装置1の動作及び水中堆積物の流送方法について、図3〜図5を用いて説明する。先ず、図3に示すように、流送管2の先端部分である吸引パイプ5をダム貯水池Aの底に溜まった水中堆積物Sの上に設置する。そして、水流発生手段3で吸引パイプ5(流送管2)の管内に水流を発生させる。水流が発生すると吸引パイプ5(流送管2)の管内は、周りと比べて負圧となるため、下部吸引孔54が穿設されているシート部材53が水中堆積物Sに吸い付きこれと密着して、水中堆積物Sの吸引が開始される。このとき、取水口2aからは、水流のもととなる清水(水中堆積物Sを含まないダム貯水池Aの水)を取水され、吐出口2bからは、水中堆積物Sと水との混合物を下流域Bへ排出される。
【0035】
次に、ある程度水中堆積物Sの浚渫が進行すると、図4に示すように、吸引パイプ5の先端が水中堆積物Sに潜行してゆき、側部吸引孔55からも水中堆積物Sの吸引が始まる。すると、水中堆積物Sの表面には、吸引パイプ5の先端を中心に水中堆積物Sが浚渫された残痕であるすり鉢状の窪みSaが形成されてゆき、その斜面上部からの水中堆積物Sの崩落と、側部吸引孔55をはじめとする各吸引孔からの水中堆積物Sの吸引を繰り返し、徐々にこのすり鉢状の窪みSaがすり鉢状に大きく成長してゆく。
この際、側部吸引孔55をはじめとする水中堆積物S中に潜行する位置における各吸引孔に対し、水中堆積物Sに深く潜行しない位置に吸引補助孔61が常に存在することで、水中堆積物Sに潜行する位置の各吸引孔による吸引が補助され、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引がストップすることなく、すり鉢状の窪みSaが成長してゆく。
【0036】
最終的には、図5に示すように、吸引パイプ5の先端がダム貯水池Aの底に達し、下部吸引孔54からの水中堆積物Sの吸引がストップし、最後に、水中堆積物Sに埋没・潜行していた側部吸引孔55が水中堆積物Sから姿を現し、完全に水中堆積物Sの吸引が終了する。なお、前述のように、この流送装置1は、流量制御手段4の吐出ゲート40を開閉するだけで、水中堆積物Sの吸引を何時でも停止することができるだけでなく、何時でも再開することができる。このため、台船などを出航させる必要がなく、ダム貯水池A(閉鎖的な水域)の天候や、波浪などの気象状況に影響されず何時でも安全、且つ、極めて容易に水中堆積物Sを下流域Bへ移送することができる。
【0037】
以上のように、本実施の形態に係る流送装置1によれば、水中堆積物Sの吸引の進行につれ、水中堆積物Sにすり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から水中堆積物Sが崩落して、吸引パイプ5の先端に位置する側部吸引孔55から一度に高濃度の水中堆積物Sを吸引して詰まってしまったような場合でも、取水口2a(2a’)から常に清水(水中堆積物Sを含まないダム貯水池Aの水)を取水可能なため、吸引パイプの管内の水流がストップしてしまうようなことがない。また、水中堆積物Sの堆積深さT1が深い場合であっても、水中堆積物Sに深く潜行しない位置に吸引補助孔61が常に存在することで、水中堆積物Sに潜行する位置の各吸引孔による吸引が補助され、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引がストップしてしまうことがない。このため、大掛かりな施設や動力を必要とせず継続して水中堆積物Sの浚渫作業を継続することができ、結果的に、水中堆積物Sの堆積深さT1が深い場合であっても、この水中堆積物Sを安定して効率良く、大量に移送等が可能である。また、単純な構造により実現しているので経済的で壊れ難く、そのうえ、吸引パイプ5を運搬して水中堆積物Sの上に設置するだけなので、極めて容易に設置することができる。このため、天候に左右されずに作業が可能であり、安全である。
【0038】
この発明の実施の形態を、閉鎖的な水域としてダムの貯水池を例に挙げて説明したが、本発明の適用範囲は、ダム貯水池に限られるものではなく、ダム、溜池、下水処理場などの貯水施設や、自然の河川、湖沼、池、又は運河など浚渫作業が必要な閉鎖的な水域には適用することができるものである。また、堆積物を下流域に流送・放出する場合で説明したが、流送とは、他の領域(他の水域や他の場所)に移送することだけでなく、廃棄する場合も含むものである。なお、実施の形態を説明するのに使用した、流送管(吸引パイプ以外の部分)の構成や、水流発生手段、流量制御手段などは、あくまでも好ましい一例を示すものであり、他の公知技術と置換可能である。その場合であっても、前記効果を奏することは明らかである。勿論、図面で示した各構成の形状や寸法等も、好ましい一例を示すものであり、その実施に際しては特許請求の範囲に記載した範囲内で、任意に設計変更・修正ができることは云うまでもない。
【実施例】
【0039】
(比較例)
本発明の実施例との比較を行うための比較例として、図1及び図2に示す吸引パイプ100と同様の構成からなる吸引パイプを作製した。
この吸引パイプにおいては、後述する水中堆積物の流送実験のために作製した水槽の大きさに合わせ、管材の管径を10cmとし、折返し部から吐出口側の接続端までの管材長さを4mとし、折返し部から取水口までの管材長さを4m弱とし、取水口に接続されるエルボー管の湾曲高さを底部から40cmとした。ここで、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の長さは、水中堆積物の堆積深さと水中堆積物の水中安息角に基づき、吸引終了時に水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される、該最大形状の斜面長さよりも長くなるように設定した。
なお、シート部材の大きさは、管材の長手方向における長さを1mとし、幅を60cmとした。また、この吸引パイプに穿設される側部吸引孔の孔径を33mm、下部吸引孔の孔径を45mmとした。
【0040】
<水中堆積物の流送実験>
閉鎖水域のモデルとして、実際の閉鎖水域から中規模程度に縮尺した模擬実験水槽を準備した。模擬実験水槽の大きさは、長さ7.5m、幅7.5m、深さ3.5mとした。
この模擬実験水槽に水と水中堆積物とを流し入れ、表面が略水平で、堆積深さが2mとなるように水中堆積物を調整し、水面高さが水中堆積物の表面に対し、1.3m程度高くなるように調整した。
また、この実験系では、模擬実験水槽の側面上部に流送管を貫通させ、その流送管の一端を吸引パイプの接続端と接続するため模擬実験水槽の内部に配置し、他端(吐出口)を吸引パイプから吸引される水中堆積物及び水を吐出すため模擬実験水槽の外部に配置し、同時に水位差(高低差)を利用して水流が形成されるように流送管の配管調整を行った。
【0041】
このような模擬実験水槽に対し、吸引パイプの一端(吐出口側)を流送管に接続し、吸引パイプの折返し部を有する側の先端を水中堆積物表面の中心位置に配置し、吸引パイプの他端(取水口)が水中に存するように配置して、比較例に係る吸引パイプを設置した。
この状態で流送管の吐出ゲートを開いて吸引パイプ及び流送管内に水流を形成させ、吸引パイプから流送管を介して模擬実験水槽内の水中堆積物を水とともに模擬実験水槽外に流送する水中堆積物の流送実験を行った。その結果を図14に示す。
【0042】
図14の(a)は、比較例における水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフである。なお、横断方向の距離は、模擬実験水槽の中心を基準(0cm)とした水中堆積物の横断方向との距離を表したものである。また、標高は、流送実験開始前の水中堆積物の堆積深さを基準(0cm)とした水中堆積物表面の高さ位置を表したものである。また、図14の(b)は、(a)でプロットされる実験結果を数値として示した表である。
この図14に示されるように、比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験においては、水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成するように水中堆積物を吸引・流送することができているものの、すり鉢状の窪みが最深部で標高−125.6cmにとどまり、水中堆積物の堆積深さである−200cmまで到達しない結果となった。
この実験では、吸引パイプの先端が模擬実験水槽の底面近くまで潜行していたことが確認され、その上方に60cm以上の水中堆積物が残存する状態であったが、すり鉢状の窪みが最深部で標高−125.6cmとなった時点で、水中堆積物の吸引が確認されなくなり、水のみの流送となることが確認された。
【0043】
(実施例)
比較例の吸引パイプにおいて、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の下部側に、その延在方向にかけて複数の吸引補助孔を並設したこと以外は、略同様の構成として、実施例に係る吸引パイプを作製した。なお、その他の相違点としてこの実施例に係る吸引パイプにおいては、折返し部を有する管材の下部を切り欠かずに、シート部材を密着させることとし、折返し部から取水口に向けて2つの下部吸引孔を増設した(図6参照)。
また、吸引パイプにおける管材の管径と、折返し部から取水口までの管材長さとの関係から、吸引補助孔の孔径を4.5cm(管材の管径(10cm)をdとして、0.45d)とし、吸引補助孔を設ける間隔を25cm(管材の管径(10cm)をdとして、2.5d)とし、更に、この間隔で10箇所に吸引補助孔を並設し、最も取水口に近い位置に穿設される吸引補助孔がすり鉢状の窪みの最大形状の斜面長さよりも長く設定された管材延在部の部分に穿設されるように設定した。
【0044】
<水中堆積物の流送実験>
模擬実験水槽に対し、比較例に係る吸引パイプと同様に実施例に係る吸引パイプを設置し、実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験を行った。その結果を図15に示す。
【0045】
図15の(a)は、実施例における水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフである。また、図15の(b)は、(a)でプロットされる実験結果を数値として示した表である。
この図15に示されるように、実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験においては、水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成するように水中堆積物を吸引・流送することができ、更に、すり鉢状の窪みが最深部で−195.0cmに到達し、水中堆積物の堆積深さである−200cmに略到達する結果となった。なお、すり鉢状の窪みが水中堆積物の堆積深さに到達しなかったのは、吸引パイプの先端側が模擬実験水槽の底面に到達したためであり、水中堆積物の堆積深さが−200cmを超える場合であっても、吸引パイプの先端が更に深い位置に潜行することで、その深さにおける水中堆積物の吸引・流送を十分期待することができる。
【0046】
(実験結果について)
これらの結果から、比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験と比べて実施例に係る吸引パイプを用いた水中体積物の流送実験の方が、より深い位置の水中堆積物を吸引・流送可能であることが確認され、吸引パイプに吸引補助孔を設けると、水中堆積物の堆積深さが深い閉鎖水域中の水中堆積物の吸引が困難となる問題を解決できることが明らかとなった。
このような結果が得られる要因としては、以下のように推察される。即ち、水中堆積物の吸引を開始し、すり鉢状の窪みが形成されるにつれ、折返し部のある先端側から吸引パイプが水中堆積物の中に潜行していくが、この場合に吸引パイプに設けられる吸引孔が水中堆積物中に深く潜行した位置における吸引孔だけであると、管材内に水流を形成する負圧は維持されるものの、吸引孔近傍において水中堆積物を吸引するだけの負圧がなくなり、取水口から取り入れられる水のみが流送される。そのため、水中堆積物の吸引過程において、水中堆積物に深く潜行しない位置に吸引孔が常に存在するよう、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の延在方向に複数の吸引補助孔を並設すると、水中堆積物に深く潜行していない位置の吸引補助孔の働きにより、管材内に水中堆積物を吸引する負圧が維持され、吸引パイプの先端側に設けられる側部吸引孔をはじめとする水中堆積物に潜行した位置の各孔からの水中堆積物の吸引が補助されることとなり、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、安定して水中堆積物の吸引・流送が可能になるものと推察される。
【符号の説明】
【0047】
1 流送装置
2,102 流送管
2a,2a’,102a,102a’ 取水口
2b 吐出口
3 水流発生手段
30 流体ポンプ
4 流量制御手段
40 吐出ゲート
5,5’,100 吸引パイプ
50,50’,150 管本体
51,151 接続端
52,52’,152 折返し部
52a 先端
53,53’,153 シート部材
54,54’,154 下部吸引孔
55,155 側部吸引孔
56 錘
57,157 エルボー管
60 延在部
61 吸引補助孔
S 水中堆積物
Sa すり鉢状の窪み
D ダム
A ダム貯水池(閉鎖的な水域)
B 下流域(他の領域)
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して下流域などの他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプ、及びその吸引パイプを備えた水中堆積物の流送装置、並びにその流送装置を用いた水中堆積物の流送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダム、溜池、下水処理場などの貯水施設や、自然の河川、湖沼、池、又は運河などの閉鎖的な水域では、その水底に土砂などの堆積物が沈殿・堆積し、貯水機能の低下、船舶の運航などへの支障、水質・環境汚染などを引き起こすため、定期的に又は必要に応じて水底に溜まった堆積物を浚って除去する浚渫作業を行う必要がある。
【0003】
例えば、治水、利水、或いは発電を目的として河川を堰き止めたダムの貯水池では、上流域から河川により運ばれる土砂等がダムの底に堆積してゆき、ダムの有効貯水量が減少してしまうという問題が発生すると共に、下流域への土砂の供給が減り、下流域での河床低下や海岸浸食(砂浜痩せ)などの問題も発生する。
【0004】
このため、従来、台船などに設置されたクレーン等を用いて、バケットなどで堆積土砂等を浚って陸上に汲み上げ、トラックなどの陸上輸送手段で河川の当該ダムより下流域に移送して排出したり、他の場所に廃棄したりしていた。或いは、土砂交じりの泥土を吸引可能な浚渫ポンプで堆積土砂等を水と共に吸引して下流域に放出することも行われていた。しかし、これらの浚渫作業は、いずれも大掛かりな施設や動力が必要であり、交通の便の悪い山間部などでは、装置そのものを設置することが困難なことや、コストが掛かり過ぎるといった問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1には、水中の沈殿物、堆積物、又は集積物の中に、開口付きパイプを埋設し、上流端または上流部の開口部を水中に位置させることにより、上流端または上流部の水中にある開口から入った水が管路内を流れるに伴い生じる管路内の負圧により開口周囲の沈澱物、堆積物又は集積物を管内に吸引しながら出口へと送り出すようにする水中堆積物の流送方法、及びその装置等が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の水中堆積物の流送装置は、あまり大掛かりな施設や動力を必要としない点でメリットがあるが、開口付きパイプを水中の堆積物に埋設する必要があり、既存のダム等に適用することが難しいという問題があった。
【0007】
また、本願の出願人らが出願した特許文献2には、側面部に開口部を備えた可撓性の掃流管を堆積した土砂の上に開口部が塞がるように置き、この掃流管の基端部に吸引管を連結して先端開口から基端部に水流形成手段で水流を形成して開口部に面する堆積土砂を掃流しながら吸引輸送することで、この掃流管の先端開口を中心に形成される堆積土砂の円錐状の窪みにその可撓性で追随させ、先端の大きな沈み込みと周囲の土砂の崩れ落ちにより、2次元形状の掃流管で、円錐状の3次元的な広範囲に亘って排砂できるようにした水底堆積土砂の輸送方法及びその装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の水底堆積土砂の輸送方法及びその装置では、水位差を利用して経済的に堆積土砂の移送を行うことができるものの、(1)土砂吸引の進行につれ、堆積土砂等にすり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から土砂等が崩落して水の取り入れ口である先端開口が埋まってしまい、先端開口が閉塞して水流及び堆積土砂等の輸送がストップしてしまう。(2)シート状部材が大きいので、土砂吸引の進行につれ、シート状部材に浮き上がりや折れ曲がり、皺などが発生し、シート状部材と堆積土砂との間に空間ができ、その空間が水みちとなって、土砂等の吸引力が減少してしまう。(3)シート状部材の水中での展開が困難であるという問題点があった。
【0009】
このような問題点を解決するものとして、本願の出願人が出願した特許文献3には、効率良く大量に、水底に堆積した水中堆積物を他の領域に流送する水中堆積物の流送方法及び流送装置に用いられる吸引パイプが開示されている。この吸引パイプの概要を図1及び図2に示す。吸引パイプ100は、両端が開口した可撓性を有する管本体150から形成され、一端が水の取り入れ口である取水口102aとされ、他端が堆積物及び水を吐き出す吐出口を有する流送管102に対する接続端151とされる。管本体150は、前記両端の中間で折り返されて形成される。その折返し部152では、下部が切り欠かれており、この切り欠かれた部分にシート部材153が接着されている。また、シート部材153より上方であって折返し部152の先端部分にあたる管本体150の側面部分に管本体150内と連通する側部吸引孔155が穿設され、シート部材153には、管本体150内と連通する下部吸引口154が複数穿設されている。なお、取水口102aには、任意部材としてエルボー管157が接続され、このエルボー管157の取水口102と接続される側と反対側の開口端を取水口102a’として、該取水口102a’が上向きになるように配されている。
【0010】
このように構成される吸引パイプ100によれば、水中堆積物の吸引の進行につれ、すり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から堆積物が崩落して、吸引パイプ100の先端に位置する側部吸引孔155から一度に高濃度の堆積物を吸引して詰まってしまったような場合でも、取水口102a(102a’)からの取水により、吸引パイプ100の管内の水流がストップせず、すり鉢状の窪みの中心部分が水底に到達するまで、堆積物を吸引することが可能とされる。また、すり鉢状の窪みの形成過程において、窪みの表面形状がなだらかな形状でなくなっても、その表面形状の変化に追随可能なシート部材で覆って、その覆った範囲の水中堆積物を吸引パイプの管内に発生する負圧で下部吸引孔154から効率良く吸引することが可能とされる。
しかしながら、この吸引パイプ100を用いた水中堆積物の移送においては、水中堆積物の堆積深さが比較的浅い場合には、側部吸引孔155及び下部吸引孔154から水中堆積物を効率良く吸引することが可能であるものの、水中堆積物の堆積深さが深くなると、水中堆積物の吸引が困難となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−294677号公報
【特許文献2】特開2006−214092号公報
【特許文献3】特開2010−144359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、大掛かりな施設や動力を必要とせず、単純な構造により実現可能であり、設置が容易なうえ経済的であり、天候に左右されず、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、水底に堆積した水中堆積物を効率良く安定的に他の領域に流送可能とする水中堆積物流送用の吸引パイプ、並びに該吸引パイプを用いた水中堆積物の流送装置及び流送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、以下の知見が得られた。
先ず、水中堆積物の堆積深さが比較的深い状況を設定した模擬試験において、出願人が先に出願した特許文献3に開示される吸引パイプを用いて水中堆積物の流送を行うと、流送を開始後、形成されるすり鉢状の窪みが浅い初期の段階では、水中堆積物の流送が可能であるものの、吸引パイプの折返し部に穿設される側部吸引孔及び下部吸引孔から水中堆積物の吸引が進むにつれ、吸引パイプの折返し部側が水中堆積物の中に潜行し、その潜行深さが水中堆積物の表面からある程度深くなった段階に至ると、側部吸引孔及び下部吸引孔からの水中堆積物の吸引がなくなり、吸引パイプからは、取水口から取水される水のみが流送される状況となることが確認された。
そのため、すり鉢状の窪みが深くなるにつれ、水中堆積物の吸引がなくなる問題を新たな技術的課題として、これを解決するべく本発明者らが試行錯誤した結果、折返し部で折り返された吸引パイプのシート部材が接着された部分から取水口に向けて延在する延在部において、その延在方向の下部に複数の孔を並設すると、吸引パイプの折返し部側が水中堆積物の中に潜行し、すり鉢状の窪みが深く進行した段階に至っても、安定して水中堆積物を吸引可能であることの知見が得られた。
このような吸引が可能となる要因としては、必ずしも定かではないが、以下のように推察される。即ち、すり鉢状の窪みが深く進行した段階において、吸引パイプに設けられる吸引孔が水中堆積物中に深く潜行した位置における吸引孔だけであると、管材内に水流を形成する負圧は維持されるものの、吸引孔近傍において水中堆積物を吸引するだけの負圧がなくなり、取水口から取り入れられる水のみが流送される。そのため、水中堆積物の吸引過程において、水中堆積物に深く潜行しない位置に吸引孔が常に存在するよう、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の延在方向に複数の孔を並設すると、水中堆積物に深く潜行していない位置の孔の働きにより、管材内に水中堆積物を吸引する負圧が維持され、吸引パイプの先端側に設けられる側部吸引孔をはじめとする水中堆積物に潜行した位置の各孔からの水中堆積物の吸引が補助されることとなり、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、安定して水中堆積物の吸引・流送が可能になるものと推察される。
【0014】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプであって、両端が開口した可撓性を有する管材から形成され、該管材の一端が水の取り入れ口である取水口とされ、他端が前記水中堆積物及び前記水を吐き出す吐出口側の接続端とされ、前記両端の中間部には、前記管材を折返して固定した折返し部が形成され、この折返し部を含む前記管材の水底側に位置する下部にシート部材が密着されており、前記シート部材及び該シート部材が密着される部分の前記管材には、下部吸引孔が連穿されるとともに、前記シート部材より水面側の上方にあって前記折返し部の先端部分にあたる前記管材の側部には、側部吸引孔が穿設され、更に、前記シート部材が密着された部分から前記取水口に向けて延在する前記管材の延在部の下部側には、その延在方向に複数の吸引補助孔が並設されていることを特徴とする水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<2> 折返し部のある管材の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材が密着される前記<1>に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<3> 吸引補助孔の孔径が、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dである前記<1>から<2>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<4> 管材の延在部に吸引補助孔を並設する間隔が、管材の管径をdとしたとき、2d〜5dである前記<1>から<3>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<5> シート部材の外縁部には、その縁沿いに水中堆積物の表面形状の変化に追随可能な可撓性を有する錘が配設される前記<1>から<4>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<6> 折返し部の先端部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、2.5d以下である前記<1>から<5>に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<7> 折返し部の側面部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、1d〜3dであり、前記シート部材の前記管材の長手方向に沿った長さが、5d〜15dである前記<1>から<6>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<8> 水中堆積物の堆積深さを予め把握し、その深さ及び前記水中堆積物の水中安息角から吸引終了時に前記水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される前記最大形状の斜面長さに対し、延在部の管長が長く設定されるとともに、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔が並設される前記<1>から前記<7>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<9> 取水口に屈曲したエルボー管が接続され、該エルボー管の開口端が上向きに設置される前記<1>から<8>のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
<10> 閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送装置であって、前記<1>から<9>のいずれかに記載の吸引パイプと、該吸引パイプの管内に前記水中堆積物を吸引するための水流を発生させる水流発生手段と、を有することを特徴とする水中堆積物の流送装置。
<11> 前記<10>に記載の水中堆積物流送装置を用い、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送方法であって、吸引パイプを前記水中堆積物の上に設置し、水流発生手段で前記吸引パイプの管内に水流を発生させ、その水流で前記吸引パイプの管内を負圧にすることにより、下部吸引孔、側部吸引孔及び吸引補助孔から前記水と一緒に前記水中堆積物を吸引させ、その負圧で前記吸引パイプの折返し部を先端として前記水中堆積物に潜行させ、該先端を中心に前記水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成しながら前記水中堆積物を浚渫することを特徴とする水中堆積物の流送方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、大掛かりな施設や動力を必要とせず、単純な構造により実現可能であり、設置が容易なうえ経済的であり、天候に左右されず、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、水底に堆積した水中堆積物を効率良く安定的に他の領域に流送可能とする水中堆積物流送用の吸引パイプ、並びに該吸引パイプを用いた水中堆積物の流送装置及び流送方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来例に係る吸引パイプの平面図である。
【図2】図1に示す吸引パイプの側面図である。
【図3】この発明の実施の形態に係る水中堆積物の流送装置の概略構成と、水中堆積物及び流送装置の作業開始前の状況を鉛直断面で表す説明図である。
【図4】図3に示す流送装置の作業中の状況を表す説明図である。
【図5】図3に示す流送装置の作業終了時の状況を表す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る吸引パイプの平面図である。
【図7】図6に示す吸引パイプの側面図である。
【図8】図6に示す吸引パイプの折返し部を主に示す拡大平面図である。
【図9】図8に示す折返し部の底面図である。
【図10】図6に示す折返し部のX−X線切断端面図である。
【図11】図6に示す折返し部の先端部分の側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る吸引パイプの平面図である。
【図13】図12に示す吸引パイプの側面図である。
【図14】比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験の実験結果を示すものであり、(a)は水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフ、(b)は(a)でプロットされる実験結果を数値として示す表である。
【図15】実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験の実験結果を示すものであり、(a)は水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフ、(b)は(a)でプロットされる実験結果を数値として示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
(水中堆積物の流送装置)
先ず、本発明に係る水中堆積物の流送装置の実施の形態について図3〜5を用いて説明する。図3〜5は、本発明に係る水中堆積物の流送装置の一実施の形態である流送装置の概略構成と、その浚渫作業の進行状況を鉛直断面で示す説明図であり、図3は、吸引開始前を、図4は、吸引作業中を、図5は、吸引終了時を示し、各図の(A)は、鉛直断面図、(B)は、平面図をそれぞれ示している。
【0019】
図中の符号Aは、閉鎖的な水域の一例として挙げるダム貯水池であり、符号Dは、そのダムを、符号Sは、水中堆積物を示し、符号1は、本発明に係る水中堆積物の流送装置の一実施の形態として例示する流送装置である。この流送装置1は、ダム貯水池Aから水中堆積物Sを水と一緒に吸引して下流域Bへ放出(排出)するための水中堆積物Sの移送経路である流送管2と、この流送管2の内部に水流を発生させる水流発生手段3と、流送管2から放出する水中堆積物S及び水の流量を制御する流量制御手段4とから主に構成され、ダム貯水池Aの底に堆積した水中堆積物Sを水と一緒に吸引して浚渫し、下流域Bに放出する機能を有した装置である。
【0020】
流送管2は、ダム貯水池A側の端部が取水口2aに、下流域B側の端部が吐出口2bとなっており、ダム貯水池Aから下流域Bに亘ってダムDを貫通して配管され、その取水口2a側(吸引側)の先端(図中のダム貯水池A側の端)部分が、本発明に係る後述の吸引パイプ5となっている。この流送管2の管材としては、高密度ポリエチレン管、塩化ビニル管などの樹脂製管や、鋼管、鋳鉄管、ステンレス管などの金属製管などを使用できるが、後述の水流発生手段3で発生させた水流による負圧を維持できるだけの水密性、気密性、及び耐圧性を有している管材であればよい。
なお、流送管2は、必ずしもダムDを貫通する必要はなく、ダムDの上端の上方に迂回するように配管されていても構わないが、サイホン現象を利用する場合には、取水口2aより所定の水頭圧が得られる分だけ上方に迂回して下流域B側へ配管される必要がある。
【0021】
水流発生手段3は、流送管2の途中に一般的な流体ポンプ30を備え、この流体ポンプ30でダム貯水池Aから水と水中堆積物Sを吸引してサイホン現象を誘引する初期水流を発生させ、一旦水流が流れ出した後は流体ポンプ30を停止して、流送管2の頂部を超えた水流が落下する水頭圧でダム貯水池Aから水を吸引し、水流が持続するようになっている。勿論、サイホン現象を利用するのではなく、流体ポンプ30の動力だけで水流を発生させてもよく、また、流体ポンプ30を設けず、流送管2の取水口2aが吐出口2bより高く、且つ、流送管2を直線的に配管して、取水口2aと吐出口2bとの水位差(高低差)を利用して水流が発生するようにしても構わない。即ち、水流発生手段3は、流送管2の管内に水流を発生させることができる構成であればよい。但し、流体ポンプ30を稼動するには動力(電力や軽油等を用いた発動機など)が必要であり、ランニングコストが嵩むため、本実施の形態のように、サイホン現象を利用することが好ましい。
【0022】
流量制御手段4は、吐出口2b付近に吐出ゲート40を有し、この吐出ゲート40を開閉することで流送管2の管内の有効開口面積を調整可能に構成されており、この吐出ゲート40の開閉を制御することで、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引量も調節することができ、完全に吐出ゲート40を閉じることで、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引も止めることができる。また、この吐出ゲート40は、吐出口2b付近(即ち、頂部から十分な距離を置いた下方)に設置されているので、この吐出ゲート40を再び開くだけで、流送管2の頂部から吐出ゲート40までに溜まっていた水が落下して、その水頭圧で吸引パイプ5からの水中堆積物Sの再吸引が可能である。つまり、吐出ゲート40を閉鎖して吐出ゲート40から流送管2の頂部まで一旦水を溜めることができれば、前記流体ポンプ30を作動させなくても、吸引パイプ5からの吸引を何時でも再開することができる。
なお、吐出ゲート40は、勿論、バルブなどの調整弁であってもよく、流送管2の管内の有効開口面積を調整可能な機構であればよい。
【0023】
(吸引パイプ)
次に、本発明に係る吸引パイプの一実施の形態について、図6〜図11を用いて説明する。図6は、本発明の一実施の形態に係る吸引パイプの平面図、図7は、図6に示す吸引パイプの側面図、図8は、図6に示す吸引パイプの折返し部を主に示す拡大平面図、図9は、図8に示す折返し部の底面図、図10は、図6に示す折返し部のX−X線切断端面図、図11は、図6に示す折返し部の先端部分の側面図である。
【0024】
図示する吸引パイプ5は、両端が開口した可撓性を有する管材を主材とする管本体50から主に構成され、一方の開口端が、取水口2aに、他方の開口端が、水流発生手段3や吐出口2bに続く接続端51となっている。また、取水口2aと接続端51との略中央に位置する中間部には、管本体50の管材を平面視でU字状又は馬蹄形状に折返して固定した折返し部52が形成され、この折返し部52を含む管本体50の水底側に位置する下部に沿ってシート部材53が密着されている。また、折返し部52で折返され、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在する管本体50の部分として、延在部60が形成されている。
なお、折返し部52の管材の折返し形状は、平面視で楕円形や円形であってもよく、取水口2aと連通した管材が折返し固定されていればよい。
【0025】
管本体50は、本実施の形態では、硬質高密度ポリエチレンの螺旋状の線材と、この線材間を繋ぐ軟質高密度ポリエチレンの膜とからなる蛇腹状のフレキシブル管から構成されているが、水流発生手段3で発生させた水流による負圧を維持できるだけの水密性、気密性、及び耐圧性と、浚渫作業の進行につれて変化する水中堆積物Sの後述の「すり鉢状」の窪みの深さや表面形状の変化(図3〜図5参照)に追随可能な可撓性を有している管材から構成されていればよい。なお、本実施の形態に係る管本体50の管径としては、実際の閉鎖水域に適用する場合には、200mm〜1,000mm程度のものを想定しているが、流送装置1を設置する閉鎖水域(例えば、ダム貯水池)の規模や、浚渫作業の期間などを考慮して適宜選択可能であることは云うまでもない。
【0026】
折返し部52では、図7,11に示すように、管本体50の下部にシート部材53が密着され、シート部材53と該シート部材53が密着された部分の管本体50に、図6,9に示すように、水中堆積物Sの吸引用の複数の下部吸引孔54が連穿されている。また、取水口2aに最も近い位置に設けられる下部吸引孔54に隣接して、折返し部52の先端52a側から取水口2a側に向けた位置に、下部吸引孔54’が下部吸引孔54と同様に連穿されている。また、図11に示すように、折返し部52の先端52aには、水中堆積物Sの吸引用の側部吸引孔55がシート部材53の水面側となる上方に穿設されている。本実施の形態の下部吸引孔54,54’としては、管材の管径をdとして、1/2dの大きさのものが7個(下部吸引孔54が5個、取水口2a側の下部吸引孔54’が2個)設けられ、側部吸引孔55としては、1/3dの大きさのものが1個設けられている。なお、本実施の形態では、管本体50の下部にシート部材53が形成されている例を示しているが、管本体50の管径dに応じて、管本体50と同材などの所定の強度や剛性を有した材料からなる底板を設けて補強し、その底板の外部からシート部材を密着してもよい。また、シート部材53と管本体50との密着方法としては、接着、熱溶着、超音波溶着等の固着方法など、一般的な密着方法を適用することができる。
【0027】
シート部材53は、柔軟性と不透水性を有するビニールシートなどの樹脂シートからなる。この柔軟性と不透水性を有することで、水中堆積物Sの吸引を開始して吸引パイプ5が水中堆積物Sに潜行するまでの吸引初期段階に、吸引作業の進行につれて変化する水中堆積物Sのすり鉢状の窪みSaの表面形状に追随し、水中堆積物Sとシート部材53との間に水みちができることを抑制することができる。
また、シート部材53は、管本体50の管径をdとして、図6〜8に示す管本体50の長手方向に沿った長さL1が5d〜15d、折返し部52の先端52aからの張出し長さL2が2.5d以下、図6,8に示す折返し部52の側面部分からの張出し長さL3が1d〜3dの大きさに設定されている。
L1及びL3の大きさとしては、模型実験等から管径dに対する水中堆積物Sの吸引量が最も多くなるように試行錯誤して設定されたものであり、シート部材53が水中堆積物Sの表面形状の変化に追随して吸引力を維持し続けることができるとともに、吸引パイプ5が水中堆積物Sに潜行する(潜り込む)のを妨げない最適な大きさとなっている。
また、L2が2.5d以下であると、シート部材53の折返し部52の先端52aからの張出し部分が、側部吸引孔55の吸引力で捲れ上がって側部吸引孔55を塞いでしまうおそれがなくなる。
また、L2としては、1/3d以下が特に好ましい。L2の長さが1/3dを超える場合、水中堆積物の堆積状況によっては、シート部材53の前記張出し部分が依然として側部吸引孔55を塞いでしまうおそれがあり、1/3d以下とすることで、より確実に側部吸引孔55の塞ぎ込みを抑制することができる。
なお、変形例として後述する、管本体50’の下部を切り欠いてシート部材53’を配する吸引パイプ5’(図12及び図13参照)においては、シート部材53’が管本体50’の下部に安定的に配されるため、L2の長さが1/3dを超える場合であっても、側部吸引孔55の塞ぎ込みを抑制することができる。
【0028】
このシート部材53の外縁部は、樹脂シートがその縁沿いに袋状に折返して固着されており、その袋状部分53aにチェーン材からなる錘56が内包されている。このため、ダム貯水池A(閉鎖的な水域)内を流れる水流や、吸引の際に吸引パイプ5の周りに発生する水流によりシート部材53が捲れ上がったり、皺などが発生したりすることがない。また、シート部材53は、水中堆積物Sの表面形状の変化に追随可能な柔軟性を有しているので、シート部材53と水中堆積物Sとの間に空間ができ、そこが水みちとなって吸引力が低下してしまうおそれが少なくなる。そのうえ、シート部材53の水中での展開も、錘56の重力により何ら労力を掛けることなく自然に展開することができる。
勿論、この錘56は、チェーン材に限られるものではなく、例えば、シート部材53の縁の周りに小さな所定間隔を空けて取り付けられたトビトビの錘などでもよく、水中堆積物Sの表面形状の変化に追随可能な可撓性を有し、シート部材53の縁を押えて下部吸引孔54の吸引力を密封できる錘であればよい。
【0029】
延在部60は、図6及び図7に示すように、シート部材53が密着された部分から取水口2aに向けて延在し、図6の破線で示すように、その下部側の延在方向に複数の吸引補助孔61が並設されている。この吸引補助孔61は、水中堆積物Sの吸引作業中、吸引パイプ5が水中堆積物S中に潜行した際、側部吸引孔55をはじめとして潜行した位置に存在する各孔からの吸引を補助し、水中堆積物Sの堆積深さT1(図3〜5参照)が深い場合であっても、安定した水中堆積物の吸引・流送を可能とする。
なお、延在部60に対して吸引補助孔61を並設する箇所としては、下部側であれば特に制限はなく、具体的には、管状の延在部60を半割りしたときに、水底側であればよい。
【0030】
延在部60が配される、折返し部52の先端52aから取水口2a(2a’)までの管材の長さD1は、すり鉢状の窪みSaの最大形状の斜面長さD2(図5参照)よりも長く設定されており、延在部60には、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔61が並設されている。
このように延在部60を設定することで、水中堆積物Sの吸引作業の進行状況に応じて形状が変化するすり鉢状の窪みSaに対して、いずれかの吸引補助孔61が常に水中堆積物S中に潜り込まない位置に存在させることができ、潜行した位置に存在する各孔に対する水中堆積物Sの吸引補助を期待することができる。
また、延在部60の端部をなす取水口2aがすり鉢状の窪みSaより常に外に設置されていることとなり、崩落土砂等が詰まって吸引パイプ5の管内の水流がストップしてしますことを抑制することができる。
なお、D1は、以下の手順で設定することができる。先ず、水中堆積物Sの堆積深さT1をボーリング調査等で直接測定したり、土砂堆積の年平均の厚さなどから予測したりするなどして何らかの方法で予め把握しておく。水中堆積物Sの水中安息角θは、水中堆積物Sの組成などからある程度予測がつくので、図5に示すように、堆積深さT1と水中安息角θとから吸引終了時に形成されるすり鉢状の窪みSaの最大形状を割り出す。次に、そのすり鉢状の窪みSaの最大形状の斜面長さD2を算出する。そして、D1が斜面長さD2より長くなるよう設定する。
【0031】
吸引補助孔61の孔径φ(図6の拡大部参照)としては、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dの範囲とされることが好ましい。この孔径φが0.2d未満であると、潜行した位置に存在する各孔に対する水中堆積物Sの吸引補助が十分期待に期待できないことがあり、孔径φが0.7dを超えると、吸引パイプ61の強度が損なわれるおそれがある。
また、延在部60に吸引補助孔61を並設する間隔p(図6参照)としては、2d〜5dの範囲とされることが好ましい。即ち、吸引補助孔61は、延在部60の延在方向になるべく密に並設されることが好ましく、間隔pが5dを超えて疎になると、吸引作業が進行するにつれて、水中堆積物Sに潜り込まない位置に存在する数が少なくなり、十分な吸引補助の働きを確保できなくなることがあり、間隔pが2d未満で密に過ぎると、吸引パイプ61の強度が損なわれるおそれがある。
【0032】
吸引パイプ5は、図6,7に示すように、取水口2aの先に、屈曲したエルボー管57を接続し、図示しない台座などを取り付けて、このエルボー管57の開口端が上向きになるよう設置して、その開口端を取水口2a’とすることが好ましく、そうすることにより、水中堆積部Sに取水口2aが埋没して、一度に高濃度の土砂等を吸引し、吸引パイプ5の管内が詰まって水流がストップすることを抑制することができる。
【0033】
(変形例)
前記実施の形態の変形例として、吸引パイプの他の実施の形態を図12,13に示す。図12は、この実施の形態に係る吸引パイプの平面図であり、図13は、その側面図である。
この変形例に係る吸引パイプ5’では、折返し部52’のある管本体50’の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材53’が密着される構成とされる。
このように構成することで、吸引の初期段階において、すり鉢状の窪みSaの表面形状の変化に対し、安定した状態で追随し易くなるとともに、その後、折返し部52’のある先端側から吸引パイプ5’が水中堆積物Sに潜行し易くすることができる。
なお、これ以外の構成については、吸引パイプ50と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0034】
(水中堆積物の流送装置の動作及び水中堆積物の流送方法)
次に、流送装置1の動作及び水中堆積物の流送方法について、図3〜図5を用いて説明する。先ず、図3に示すように、流送管2の先端部分である吸引パイプ5をダム貯水池Aの底に溜まった水中堆積物Sの上に設置する。そして、水流発生手段3で吸引パイプ5(流送管2)の管内に水流を発生させる。水流が発生すると吸引パイプ5(流送管2)の管内は、周りと比べて負圧となるため、下部吸引孔54が穿設されているシート部材53が水中堆積物Sに吸い付きこれと密着して、水中堆積物Sの吸引が開始される。このとき、取水口2aからは、水流のもととなる清水(水中堆積物Sを含まないダム貯水池Aの水)を取水され、吐出口2bからは、水中堆積物Sと水との混合物を下流域Bへ排出される。
【0035】
次に、ある程度水中堆積物Sの浚渫が進行すると、図4に示すように、吸引パイプ5の先端が水中堆積物Sに潜行してゆき、側部吸引孔55からも水中堆積物Sの吸引が始まる。すると、水中堆積物Sの表面には、吸引パイプ5の先端を中心に水中堆積物Sが浚渫された残痕であるすり鉢状の窪みSaが形成されてゆき、その斜面上部からの水中堆積物Sの崩落と、側部吸引孔55をはじめとする各吸引孔からの水中堆積物Sの吸引を繰り返し、徐々にこのすり鉢状の窪みSaがすり鉢状に大きく成長してゆく。
この際、側部吸引孔55をはじめとする水中堆積物S中に潜行する位置における各吸引孔に対し、水中堆積物Sに深く潜行しない位置に吸引補助孔61が常に存在することで、水中堆積物Sに潜行する位置の各吸引孔による吸引が補助され、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引がストップすることなく、すり鉢状の窪みSaが成長してゆく。
【0036】
最終的には、図5に示すように、吸引パイプ5の先端がダム貯水池Aの底に達し、下部吸引孔54からの水中堆積物Sの吸引がストップし、最後に、水中堆積物Sに埋没・潜行していた側部吸引孔55が水中堆積物Sから姿を現し、完全に水中堆積物Sの吸引が終了する。なお、前述のように、この流送装置1は、流量制御手段4の吐出ゲート40を開閉するだけで、水中堆積物Sの吸引を何時でも停止することができるだけでなく、何時でも再開することができる。このため、台船などを出航させる必要がなく、ダム貯水池A(閉鎖的な水域)の天候や、波浪などの気象状況に影響されず何時でも安全、且つ、極めて容易に水中堆積物Sを下流域Bへ移送することができる。
【0037】
以上のように、本実施の形態に係る流送装置1によれば、水中堆積物Sの吸引の進行につれ、水中堆積物Sにすり鉢状の窪みが形成され、この窪みの斜面から水中堆積物Sが崩落して、吸引パイプ5の先端に位置する側部吸引孔55から一度に高濃度の水中堆積物Sを吸引して詰まってしまったような場合でも、取水口2a(2a’)から常に清水(水中堆積物Sを含まないダム貯水池Aの水)を取水可能なため、吸引パイプの管内の水流がストップしてしまうようなことがない。また、水中堆積物Sの堆積深さT1が深い場合であっても、水中堆積物Sに深く潜行しない位置に吸引補助孔61が常に存在することで、水中堆積物Sに潜行する位置の各吸引孔による吸引が補助され、吸引パイプ5からの水中堆積物Sの吸引がストップしてしまうことがない。このため、大掛かりな施設や動力を必要とせず継続して水中堆積物Sの浚渫作業を継続することができ、結果的に、水中堆積物Sの堆積深さT1が深い場合であっても、この水中堆積物Sを安定して効率良く、大量に移送等が可能である。また、単純な構造により実現しているので経済的で壊れ難く、そのうえ、吸引パイプ5を運搬して水中堆積物Sの上に設置するだけなので、極めて容易に設置することができる。このため、天候に左右されずに作業が可能であり、安全である。
【0038】
この発明の実施の形態を、閉鎖的な水域としてダムの貯水池を例に挙げて説明したが、本発明の適用範囲は、ダム貯水池に限られるものではなく、ダム、溜池、下水処理場などの貯水施設や、自然の河川、湖沼、池、又は運河など浚渫作業が必要な閉鎖的な水域には適用することができるものである。また、堆積物を下流域に流送・放出する場合で説明したが、流送とは、他の領域(他の水域や他の場所)に移送することだけでなく、廃棄する場合も含むものである。なお、実施の形態を説明するのに使用した、流送管(吸引パイプ以外の部分)の構成や、水流発生手段、流量制御手段などは、あくまでも好ましい一例を示すものであり、他の公知技術と置換可能である。その場合であっても、前記効果を奏することは明らかである。勿論、図面で示した各構成の形状や寸法等も、好ましい一例を示すものであり、その実施に際しては特許請求の範囲に記載した範囲内で、任意に設計変更・修正ができることは云うまでもない。
【実施例】
【0039】
(比較例)
本発明の実施例との比較を行うための比較例として、図1及び図2に示す吸引パイプ100と同様の構成からなる吸引パイプを作製した。
この吸引パイプにおいては、後述する水中堆積物の流送実験のために作製した水槽の大きさに合わせ、管材の管径を10cmとし、折返し部から吐出口側の接続端までの管材長さを4mとし、折返し部から取水口までの管材長さを4m弱とし、取水口に接続されるエルボー管の湾曲高さを底部から40cmとした。ここで、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の長さは、水中堆積物の堆積深さと水中堆積物の水中安息角に基づき、吸引終了時に水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される、該最大形状の斜面長さよりも長くなるように設定した。
なお、シート部材の大きさは、管材の長手方向における長さを1mとし、幅を60cmとした。また、この吸引パイプに穿設される側部吸引孔の孔径を33mm、下部吸引孔の孔径を45mmとした。
【0040】
<水中堆積物の流送実験>
閉鎖水域のモデルとして、実際の閉鎖水域から中規模程度に縮尺した模擬実験水槽を準備した。模擬実験水槽の大きさは、長さ7.5m、幅7.5m、深さ3.5mとした。
この模擬実験水槽に水と水中堆積物とを流し入れ、表面が略水平で、堆積深さが2mとなるように水中堆積物を調整し、水面高さが水中堆積物の表面に対し、1.3m程度高くなるように調整した。
また、この実験系では、模擬実験水槽の側面上部に流送管を貫通させ、その流送管の一端を吸引パイプの接続端と接続するため模擬実験水槽の内部に配置し、他端(吐出口)を吸引パイプから吸引される水中堆積物及び水を吐出すため模擬実験水槽の外部に配置し、同時に水位差(高低差)を利用して水流が形成されるように流送管の配管調整を行った。
【0041】
このような模擬実験水槽に対し、吸引パイプの一端(吐出口側)を流送管に接続し、吸引パイプの折返し部を有する側の先端を水中堆積物表面の中心位置に配置し、吸引パイプの他端(取水口)が水中に存するように配置して、比較例に係る吸引パイプを設置した。
この状態で流送管の吐出ゲートを開いて吸引パイプ及び流送管内に水流を形成させ、吸引パイプから流送管を介して模擬実験水槽内の水中堆積物を水とともに模擬実験水槽外に流送する水中堆積物の流送実験を行った。その結果を図14に示す。
【0042】
図14の(a)は、比較例における水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフである。なお、横断方向の距離は、模擬実験水槽の中心を基準(0cm)とした水中堆積物の横断方向との距離を表したものである。また、標高は、流送実験開始前の水中堆積物の堆積深さを基準(0cm)とした水中堆積物表面の高さ位置を表したものである。また、図14の(b)は、(a)でプロットされる実験結果を数値として示した表である。
この図14に示されるように、比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験においては、水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成するように水中堆積物を吸引・流送することができているものの、すり鉢状の窪みが最深部で標高−125.6cmにとどまり、水中堆積物の堆積深さである−200cmまで到達しない結果となった。
この実験では、吸引パイプの先端が模擬実験水槽の底面近くまで潜行していたことが確認され、その上方に60cm以上の水中堆積物が残存する状態であったが、すり鉢状の窪みが最深部で標高−125.6cmとなった時点で、水中堆積物の吸引が確認されなくなり、水のみの流送となることが確認された。
【0043】
(実施例)
比較例の吸引パイプにおいて、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の下部側に、その延在方向にかけて複数の吸引補助孔を並設したこと以外は、略同様の構成として、実施例に係る吸引パイプを作製した。なお、その他の相違点としてこの実施例に係る吸引パイプにおいては、折返し部を有する管材の下部を切り欠かずに、シート部材を密着させることとし、折返し部から取水口に向けて2つの下部吸引孔を増設した(図6参照)。
また、吸引パイプにおける管材の管径と、折返し部から取水口までの管材長さとの関係から、吸引補助孔の孔径を4.5cm(管材の管径(10cm)をdとして、0.45d)とし、吸引補助孔を設ける間隔を25cm(管材の管径(10cm)をdとして、2.5d)とし、更に、この間隔で10箇所に吸引補助孔を並設し、最も取水口に近い位置に穿設される吸引補助孔がすり鉢状の窪みの最大形状の斜面長さよりも長く設定された管材延在部の部分に穿設されるように設定した。
【0044】
<水中堆積物の流送実験>
模擬実験水槽に対し、比較例に係る吸引パイプと同様に実施例に係る吸引パイプを設置し、実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験を行った。その結果を図15に示す。
【0045】
図15の(a)は、実施例における水中堆積物の流送実験終了時の水中堆積物の標高位置をその横断方向の距離に応じてプロットしたグラフである。また、図15の(b)は、(a)でプロットされる実験結果を数値として示した表である。
この図15に示されるように、実施例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験においては、水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成するように水中堆積物を吸引・流送することができ、更に、すり鉢状の窪みが最深部で−195.0cmに到達し、水中堆積物の堆積深さである−200cmに略到達する結果となった。なお、すり鉢状の窪みが水中堆積物の堆積深さに到達しなかったのは、吸引パイプの先端側が模擬実験水槽の底面に到達したためであり、水中堆積物の堆積深さが−200cmを超える場合であっても、吸引パイプの先端が更に深い位置に潜行することで、その深さにおける水中堆積物の吸引・流送を十分期待することができる。
【0046】
(実験結果について)
これらの結果から、比較例に係る吸引パイプを用いた水中堆積物の流送実験と比べて実施例に係る吸引パイプを用いた水中体積物の流送実験の方が、より深い位置の水中堆積物を吸引・流送可能であることが確認され、吸引パイプに吸引補助孔を設けると、水中堆積物の堆積深さが深い閉鎖水域中の水中堆積物の吸引が困難となる問題を解決できることが明らかとなった。
このような結果が得られる要因としては、以下のように推察される。即ち、水中堆積物の吸引を開始し、すり鉢状の窪みが形成されるにつれ、折返し部のある先端側から吸引パイプが水中堆積物の中に潜行していくが、この場合に吸引パイプに設けられる吸引孔が水中堆積物中に深く潜行した位置における吸引孔だけであると、管材内に水流を形成する負圧は維持されるものの、吸引孔近傍において水中堆積物を吸引するだけの負圧がなくなり、取水口から取り入れられる水のみが流送される。そのため、水中堆積物の吸引過程において、水中堆積物に深く潜行しない位置に吸引孔が常に存在するよう、シート部材が密着された部分から取水口に向けて延在する管材の延在部の延在方向に複数の吸引補助孔を並設すると、水中堆積物に深く潜行していない位置の吸引補助孔の働きにより、管材内に水中堆積物を吸引する負圧が維持され、吸引パイプの先端側に設けられる側部吸引孔をはじめとする水中堆積物に潜行した位置の各孔からの水中堆積物の吸引が補助されることとなり、水中堆積物の堆積深さが深い場合であっても、安定して水中堆積物の吸引・流送が可能になるものと推察される。
【符号の説明】
【0047】
1 流送装置
2,102 流送管
2a,2a’,102a,102a’ 取水口
2b 吐出口
3 水流発生手段
30 流体ポンプ
4 流量制御手段
40 吐出ゲート
5,5’,100 吸引パイプ
50,50’,150 管本体
51,151 接続端
52,52’,152 折返し部
52a 先端
53,53’,153 シート部材
54,54’,154 下部吸引孔
55,155 側部吸引孔
56 錘
57,157 エルボー管
60 延在部
61 吸引補助孔
S 水中堆積物
Sa すり鉢状の窪み
D ダム
A ダム貯水池(閉鎖的な水域)
B 下流域(他の領域)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプであって、
両端が開口した可撓性を有する管材から形成され、該管材の一端が水の取り入れ口である取水口とされ、他端が前記水中堆積物及び前記水を吐き出す吐出口側の接続端とされ、
前記両端の中間部には、前記管材を折返して固定した折返し部が形成され、この折返し部を含む前記管材の水底側に位置する下部にシート部材が密着されており、
前記シート部材及び該シート部材が密着される部分の前記管材には、下部吸引孔が連穿されるとともに、前記シート部材より水面側の上方にあって前記折返し部の先端部分にあたる前記管材の側部には、側部吸引孔が穿設され、
更に、前記シート部材が密着された部分から前記取水口に向けて延在する前記管材の延在部の下部側には、その延在方向に複数の吸引補助孔が並設されていることを特徴とする水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項2】
折返し部のある管材の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材が密着される請求項1に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項3】
吸引補助孔の孔径が、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dである請求項1から2のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項4】
管材の延在部に吸引補助孔を並設する間隔が、管材の管径をdとしたとき、2d〜5dである請求項1から3のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項5】
シート部材の外縁部には、その縁沿いに水中堆積物の表面形状の変化に追随可能な可撓性を有する錘が配設される請求項1から4のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項6】
折返し部の先端部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、2.5d以下である請求項1から5に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項7】
折返し部の側面部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、1d〜3dであり、前記シート部材の前記管材の長手方向に沿った長さが、5d〜15dである請求項1から6のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項8】
水中堆積物の堆積深さを予め把握し、その深さ及び前記水中堆積物の水中安息角から吸引終了時に前記水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される前記最大形状の斜面長さに対し、延在部の管長が長く設定されるとともに、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔が並設される請求項1から7のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項9】
取水口に屈曲したエルボー管が接続され、該エルボー管の開口端が上向きに設置される請求項1から8のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項10】
閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送装置であって、
請求項1から9のいずれかに記載の吸引パイプと、該吸引パイプの管内に前記水中堆積物を吸引するための水流を発生させる水流発生手段と、を有することを特徴とする水中堆積物の流送装置。
【請求項11】
請求項10に記載の水中堆積物流送装置を用い、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送方法であって、
吸引パイプを前記水中堆積物の上に設置し、水流発生手段で前記吸引パイプの管内に水流を発生させ、その水流で前記吸引パイプの管内を負圧にすることにより、下部吸引孔、側部吸引孔及び吸引補助孔から前記水と一緒に前記水中堆積物を吸引させ、その負圧で前記吸引パイプの折返し部を先端として前記水中堆積物に潜行させ、該先端を中心に前記水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成しながら前記水中堆積物を浚渫することを特徴とする水中堆積物の流送方法。
【請求項1】
閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送するための水中堆積物流送用の吸引パイプであって、
両端が開口した可撓性を有する管材から形成され、該管材の一端が水の取り入れ口である取水口とされ、他端が前記水中堆積物及び前記水を吐き出す吐出口側の接続端とされ、
前記両端の中間部には、前記管材を折返して固定した折返し部が形成され、この折返し部を含む前記管材の水底側に位置する下部にシート部材が密着されており、
前記シート部材及び該シート部材が密着される部分の前記管材には、下部吸引孔が連穿されるとともに、前記シート部材より水面側の上方にあって前記折返し部の先端部分にあたる前記管材の側部には、側部吸引孔が穿設され、
更に、前記シート部材が密着された部分から前記取水口に向けて延在する前記管材の延在部の下部側には、その延在方向に複数の吸引補助孔が並設されていることを特徴とする水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項2】
折返し部のある管材の下部が切り欠かれ、この切り欠かれた部分にシート部材が密着される請求項1に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項3】
吸引補助孔の孔径が、管材の管径をdとしたとき、0.2d〜0.7dである請求項1から2のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項4】
管材の延在部に吸引補助孔を並設する間隔が、管材の管径をdとしたとき、2d〜5dである請求項1から3のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項5】
シート部材の外縁部には、その縁沿いに水中堆積物の表面形状の変化に追随可能な可撓性を有する錘が配設される請求項1から4のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項6】
折返し部の先端部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、2.5d以下である請求項1から5に記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項7】
折返し部の側面部分からのシート部材の張出し長さが、管材の管径をdとしたとき、1d〜3dであり、前記シート部材の前記管材の長手方向に沿った長さが、5d〜15dである請求項1から6のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項8】
水中堆積物の堆積深さを予め把握し、その深さ及び前記水中堆積物の水中安息角から吸引終了時に前記水中堆積物に形成されるすり鉢状の窪みの最大形状を割り出して算出される前記最大形状の斜面長さに対し、延在部の管長が長く設定されるとともに、その長く設定された部分又はその部分の近傍まで吸引補助孔が並設される請求項1から7のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項9】
取水口に屈曲したエルボー管が接続され、該エルボー管の開口端が上向きに設置される請求項1から8のいずれかに記載の水中堆積物流送用の吸引パイプ。
【請求項10】
閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送装置であって、
請求項1から9のいずれかに記載の吸引パイプと、該吸引パイプの管内に前記水中堆積物を吸引するための水流を発生させる水流発生手段と、を有することを特徴とする水中堆積物の流送装置。
【請求項11】
請求項10に記載の水中堆積物流送装置を用い、閉鎖的な水域の水底に堆積した水中堆積物を水と一緒に吸引して他の領域に流送する水中堆積物の流送方法であって、
吸引パイプを前記水中堆積物の上に設置し、水流発生手段で前記吸引パイプの管内に水流を発生させ、その水流で前記吸引パイプの管内を負圧にすることにより、下部吸引孔、側部吸引孔及び吸引補助孔から前記水と一緒に前記水中堆積物を吸引させ、その負圧で前記吸引パイプの折返し部を先端として前記水中堆積物に潜行させ、該先端を中心に前記水中堆積物にすり鉢状の窪みを形成しながら前記水中堆積物を浚渫することを特徴とする水中堆積物の流送方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−197580(P2012−197580A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61393(P2011−61393)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【Fターム(参考)】
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