説明

水中用送受波器及びその製造方法

【課題】 音響特性に影響が少なく、低コストで容易に製造できる水中用送受波器及びその製造方法を提供すること
【解決手段】 円筒型圧電振動子11と、円筒型圧電振動子11を保持するホルダ12と、円筒型圧電振動子11に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブル13から構成された振動子部17と、振動子部17を収納する樹脂ケース15と、振動子部17を覆う樹脂モールド材14とを備える水中用送受波器であって、樹脂ケース15に振動子部17を配線ケーブル13の一端が外部に露出するように収納し、樹脂モールド材14を注入してモールド成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中音響探信器として使用される水中用送受波器及びその製造方法に関し、特に低周波帯で使用される水中用送受波器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中で使用されるソナー等の水中音響探信器は、低周波の音響波が使用される。何故なら低周波の音響波は、高周波の音響波と比べて、水中における伝搬損失が小さく、到達距離が長いためである。この水中音響探信器として用いられる水中用送受波器は、圧電振動子にケーブルを配線し、圧電振動子とケーブルの一端をモールド材でモールド成形し、水密性が非常に高い構造を有している。
【0003】
従来、水中用送受波器には、目的に応じて無指向性が要求されるものも多く、無指向性の水中用送受波器の圧電振動子は円筒型のものを使用し、円筒状または円板状にモールド成形することが一般的である。円筒型圧電振動子が径拡がりモードで振動することによって、水中用送受波器の側面(外周面)が音響波放射面となり、この構造により無指向性が得られる。
【0004】
水中用送受波器の例として、特許文献1や特許文献2が提案されている。特許文献1では、熱可塑性樹脂を成形材料に用い射出成形を行う製造方法により、ハイドロホン本体およびケーブル導出部の外周に被覆体を形成した高水密性ハイドロホンが提案されている。特許文献2では、2個の円筒状圧電子をその対向する一端で環状ベースに取り付け、環状ベースをブーツ内の圧電子支持体に支持し、圧電支持体は圧電子を包囲する籠型のケースで構成し、ケースおよびブーツ内に液体を充填し、ブーツキャップを設けた構造が提案されている。
【0005】
また、圧電振動子をモールド成形する構造の例として、特許文献3が提案されている。特許文献3は、有底筒状ケースの底面内部に圧電素子を張り合わせてユニモルフ振動子を構成し、この振動体のケース外側面の振動面に被覆を施し、圧電素子の上面に発泡シリコン等からなる吸音材を載置して、その上からシリコン材等から成る封止剤を有底筒状ケース内部に充填する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−004400号公報
【特許文献2】特開平4−142485号公報
【特許文献3】特開2008−306315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、樹脂の硬化時間が速いことを利用し、熱可塑性樹脂を用いているが、低周波帯で使用する場合には音響特性に影響が大きく、目的とする性能を確保することが困難である。一方音響特性に影響の少ない熱硬化性樹脂を用いた場合、樹脂の硬化時間が遅く、金型が取り外せる状態の仮硬化まで半日程度かかり、完全硬化には1週間程度かかってしまう。製品を大量に生産するためにはその分金型を用意しなければならないため、非常に製造コストがかかってしまうという課題があった。
【0008】
また、特許文献2では、あらかじめ成形されたブーツに圧電子を入れるので金型の必要はないが、ブーツキャップの取り付け、及び水密のための接着に非常に工数がかかり、特許文献1と同様に製造コストがかかってしまう上、製造が困難であるという課題があった。
【0009】
さらに、特許文献3では、圧電素子を張り合わせた有底筒状ケース内部に封止剤を充填する構造であるが、振動する面が底面の一方向のみであった。有底筒状ケースは電気的接続をとるため導電性のアルミニウム材を使用しているので、無指向性の水中送受波器に応用する際に、有底筒状ケースの側面からの放射される音響特性が悪くなる問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、音響特性に影響が少なく、低コストで容易に製造できる水中用送受波器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、円筒型圧電振動子と、前記円筒型圧電振動子を保持するホルダと、前記円筒型圧電振動子に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブルから構成された振動子部と、前記振動子部を収納する樹脂ケースと、前記振動子部を覆う樹脂モールド材とを備える水中用送受波器において、前記振動子部を収納した前記樹脂ケースに、熱硬化性樹脂からなる樹脂モールド材を注入してモールド成形することにより、前記振動子部を覆うように前記樹脂モールド材が充填されていることを特徴とする水中用送受波器及びその製造方法である。
【0012】
本発明によれば、円筒型圧電振動子と、前記円筒型圧電振動子を保持するホルダと、前記円筒型圧電振動子に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブルから構成された振動子部と、前記振動子部を収納する樹脂ケースと、前記振動子部を覆う樹脂モールド材とを備える水中用送受波器であって、前記樹脂ケースには前記配線ケーブルの一端が外部に露出した前記振動子部が収納され、前記樹脂モールド材が充填されていることを特徴とする水中用送受波器が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記樹脂ケースは厚さが0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする上記の水中送受波器が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、円筒型圧電振動子と、前記円筒型圧電振動子を保持するホルダと、前記円筒型圧電振動子に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブルから構成された振動子部と、前記振動子部を収納する樹脂ケースと、前記振動子部を覆う樹脂モールド材とを備える水中用送受波器の製造方法であって、前記樹脂ケースに前記振動子部を前記配線ケーブルの一端が外部に露出するように収納し、前記樹脂モールド材を注入してモールド成形することを特徴とする水中用送受波器の製造方法が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記樹脂ケースは厚さが0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする上記の水中送受波器の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動子部を収納した樹脂ケースに熱硬化性樹脂からなる樹脂モールド材を注入してモールド成形することにより、音響特性に影響が少なく、低コストで容易に製造できる水中用送受波器及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の水中用送受波器を示す図。図1(a)は横断面図、図1(b)は縦断面図。
【図2】樹脂ケースの厚さを変化させたときの受波電圧感度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の水中用送受波器を示す図であり、図1(a)は横断面図、図1(b)は縦断面図である。なお、図1(a)において、配線ケーブルは省略している。図1に示すように、円筒型圧電振動子11はホルダ12に保持され、同時に円筒型圧電振動子11の内周面側には空気室16が形成される。この空気室16は音響特性に対して重要なものであり、効率良く音波を送受するために必要となる。
【0020】
円筒型圧電振動子11の一部には内周面側と外周面側にそれぞれ異極となるように配線ケーブル13が接続されている。これら円筒型圧電振動子11、ホルダ12、空気室16および配線ケーブル13をまとめて振動子部17とする。
【0021】
振動子部17は、配線ケーブルの一端が外部に露出するように樹脂ケース15に収納され、この樹脂ケース15に熱硬化性樹脂からなる樹脂モールド材14が充填されている。樹脂ケース15の厚さは、音響特性への影響を考慮し、0.1mm以上0.3mm以下が好ましい。
【0022】
また、樹脂ケース15の材質は、耐水圧性能、音響特性への影響、樹脂モールド材14との接着性、樹脂ケース形状への成形加工性を考慮し、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂から選択される。樹脂モールド材14は、音響特性に影響の少ない熱硬化性樹脂を使用し、特にポリウレタンが好ましい。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例について具体的に説明する。円筒型圧電振動子には、PZTからなる内径104mm、外径110mm、厚さ6mmの円筒状の圧電セラミックスを使用した。この円筒型圧電振動子を、アルミニウムからなるホルダで保持し、このとき円筒型圧電振動子の内周面側に空気室が形成されるように配置した。円筒型圧電振動子の内周面側と外周面側にそれぞれ異極となるように配線ケーブルを接続し、振動子部を作製した。
【0024】
樹脂ケースは、射出成形により作製し、その材質は塩化ビニル樹脂を使用した。樹脂ケースの形状は、直径120mm、高さ10mmの円板状とし、厚さを0.1mmから0.5mmのものをそれぞれ作製した。
【0025】
次に、樹脂ケースに振動子部を収納し、樹脂モールド材を注入してモールド成形を行った。このとき、配線ケーブルの一端は外部に露出させ、外部の装置との電気的接続がとれるようにした。樹脂モールド材はポリウレタンを使用し、自動機にて注型し、1週間放置して完全硬化させ、本発明の水中用送受波器を得た。0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmの厚さの樹脂ケースを10個ずつ準備し、それぞれについてモールド成形を行った。
【0026】
図2は、樹脂ケースの厚さを変化させたときの受波電圧感度を示す図である。本実施例では、音響特性の評価として、受波電圧感度を測定し、10個の平均値を算出した。この受波電圧感度が最大値から、1dB低下したとき、音響特性が悪くなると判断した。図2に示すとおり、厚さは0.2mmのときに最大値を示し、0.4mm以上になると、受波電圧感度が1dB以上低下し音響特性に影響があることがわかった。従って、樹脂ケースの厚さは0.3mm以下が好ましい。また、樹脂ケースの厚さが0.1mm未満では、樹脂ケースの成形が困難となるため、製造の容易さを考慮し0.1mm以上とする必要がある。
【0027】
以上説明したとおり、本発明によると、樹脂ケースに熱硬化性樹脂からなる樹脂モールド材を注入してモールド成形することにより、音響特性に影響が少なく、低コストで容易に製造できる水中用送受波器及びその製造方法を提供することが可能となった。
【符号の説明】
【0028】
11 円筒型圧電振動子
12 ホルダ
13 配線ケーブル
14 樹脂モールド材
15 樹脂ケース
16 空気室
17 振動子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型圧電振動子と、前記円筒型圧電振動子を保持するホルダと、前記円筒型圧電振動子に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブルから構成された振動子部と、前記振動子部を収納する樹脂ケースと、前記振動子部を覆う樹脂モールド材とを備える水中用送受波器であって、前記樹脂ケースには前記配線ケーブルの一端が外部に露出した前記振動子部が収納され、前記樹脂モールド材が充填されていることを特徴とする水中用送受波器。
【請求項2】
前記樹脂ケースは厚さが0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の水中送受波器。
【請求項3】
円筒型圧電振動子と、前記円筒型圧電振動子を保持するホルダと、前記円筒型圧電振動子に接続し、電気信号を与えるための配線ケーブルから構成された振動子部と、前記振動子部を収納する樹脂ケースと、前記振動子部を覆う樹脂モールド材とを備える水中用送受波器の製造方法であって、前記樹脂ケースに前記振動子部を前記配線ケーブルの一端が外部に露出するように収納し、前記樹脂モールド材を注入してモールド成形することを特徴とする水中用送受波器の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂ケースは厚さが0.1mm以上0.3mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の水中送受波器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate