説明

水冷式の冷却システム

【課題】配管内を循環する冷却水を介してエンジンの冷却を行う水冷式の冷却システムにおいて、システム構成部品の加水分解による劣化を抑制すること。
【解決手段】構成部品が、強化材で強化されているかもしくは強化されていないポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、冷却水が、水、グリコール類及び防錆剤を含み、そしてラジエータの内部の上方に位置する冷却水不含の空間が少なくとも、不活性ガスで充満されているように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水冷式の冷却システムに関する。さらに詳しく述べると、本発明は、自動車などのエンジンやその他の内燃機関等において燃焼や摩擦によって発生した過剰の熱を冷却するのに特に適した水冷式の冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、自動車、オートバイなどにおいて、エンジンで発生する過剰な熱を放散させるために空冷式あるいは水冷式の冷却システムが組み込まれている。例えば、水冷式の冷却システムは、一般的には多数のアルミニウム製フィン付細管を内部に組み込んだラジエータと冷却水が主体で構成されている。この構成で、ラジエータとエンジンのウォータージャケットを配管で接続し、両者間で冷却水を循環させることでエンジンの冷却を行っている。冷却水は、通常、水と、エチレングリコールと、防錆剤などから構成されるのが一般的で、必要に応じ、不凍液(AF)などを添加してもよい。冷却水は、ロングライフクーラント(LLC)と呼ばれることもある。
【0003】
かかる冷却システムにおいて、ラジエータ等のシステム構成部品は、強度等を確保しつつ、長期間にわたって安定に使用するため、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂やエンジニアリングプラスチックなどから製造されている。例えば、本発明者らは、良好な生産性、耐塩化カルシウム性、耐加水分解性、強靭性及び耐高温クリープ性を同時に達成するため、特定のポリアミド組成物から自動車用冷却システム構成部品を構成することを提案した(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載した通り、エンジンの冷却に用いられる冷却水の温度が上昇したとき、システム構成部品を形成するポリアミド組成物の加水分解に原因する材料の劣化速度が加速され、加えて、システム構成部品が高温の冷却水に長期にわたって暴露されたとき、部品のクリープなどの望ましくない変形が引き起こされる。特許文献1に記載の特定のポリアミド組成物では、高い強靭性、耐高温クリープ性が得られていることから、耐加水分解性も所望の程度まで改良されるに至っているものと考察される。
【0005】
しかしながら、本発明者らの最近の研究から、自動車の冷却システムにおいて、システム構成部品がポリアミド樹脂(PA、ガラス繊維等で強化されているものも含む)から構成されている場合に限らず、ポリアセタール樹脂(POM)、シリコーンゴム等の特定の材料から構成されているときも、それらの材料が冷却水と接触せしめられる結果、冷却水によって加水分解され、材料の劣化を引き起こし、システム構成部品の寿命が短縮され、短期における部品交換を余儀なくされる場合があるという事実が明らかになった。この問題は自動車業界において重要であり、強度等における所定の条件を満足させつつ、長期間にわたって安定に使用可能なシステム構成部品や長期間にわたって安定に使用可能な冷却システムを提供することが望ましい。
【0006】
本発明者らの知る限り、冷却水によって引き起こされる加水分解に原因する上記のような問題を十分に解決したシステム構成部品あるいは冷却システムは未だ提案されるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−261620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車の冷却システムやその他の冷却システムにおいて、システムを構成する装置、部品等(以下、「システム構成部品」という)がポリアミド樹脂(ガラス繊維等で強化されているものも含む)、ポリアセタール樹脂、シリコーンゴム等の特定の材料から構成されているとき、それらの材料が冷却水によって加水分解され、材料の劣化を引き起こし、システム構成部品の寿命が短縮され、短期における部品交換を余儀なくされることを防止することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、強度等における所定の条件を満足させつつ、システム構成部品を長期間にわたって安定に使用可能な冷却システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような材料の加水分解が、冷却システムにおいて高温での冷却水の体積膨張分を吸収するために存在させる空気層(含まれる酸素)によって、加速されるという事実を発見し、鋭意研究の結果、本発明を発明した。
【0010】
本発明は、冷却システムのシステム構成部品において、冷却水と接する部位に空気層があるとき、その空気層の空気を不活性ガスで置換し、冷却水と接する部位に不活性ガスを充満させることを特徴とする。
【0011】
したがって、本発明は、少なくともエンジン及びラジエータをシステム構成部品として備え、それらの構成部品間を冷却水用配管で接続して、配管内を循環する冷却水を介して前記エンジンの冷却を行う水冷式の冷却システムにおいて、
前記構成部品が、強化材で強化されているかもしくは強化されていないポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、
前記冷却水が、水、グリコール類及び防錆剤を含み、そして
少なくとも、前記ラジエータの内部の上方に位置する冷却水不含の空間が、不活性ガスで充満されていることを特徴とする水冷式の冷却システムにある。
【0012】
なお、以下の説明において、特に自動車の冷却システムを参照して本発明を説明するけれども、本発明の用途は、自動車の分野に限定されるものではなく、加水分解に原因した構成部品の劣化に悩まされているその他の分野においても本発明の冷却システムを有利に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、システム構成部品と空気層の酸素の接触が回避されるため、材料の加水分解を抑制し、システム構成部品の可使寿命を延長することができる。よって、本発明によれば、システム構成部品に本来求められている良好な生産性、耐塩化カルシウム性、耐加水分解性、強靭性及び耐高温クリープ性などの条件を満足させると同時に、加水分解による材料の劣化を抑制して、長期間にわたってシステム構成部品を安定に使用し、短期における部品交換の必要性を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による自動車エンジンの冷却システムの一例を示した系統図である。
【図2】評価試験に使用した試験装置の概略を示した模式図である。
【図3】ガラス繊維強化ポリアミド樹脂について、経過時間と引張り強度保持率の関係をプロットしたグラフである。
【図4】ポリアセタール樹脂について、経過時間と引張り強度保持率の関係をプロットしたグラフである。
【図5】ガラス繊維強化ポリアミド樹脂について、経過時間と破断伸び保持率の関係をプロットしたグラフである。
【図6】ポリアセタール樹脂について、経過時間と破断伸び保持率の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、自動車エンジンの冷却システムの一例を示した系統図である。以下、この図を参照しながら本発明の実施を具体的に説明する。
【0016】
冷却システム10は、それが自動車エンジン冷却用であるとき、図示されるように、エンジン(E/G)1の周囲に配置された、ラジエータ2、リザーブタンク3、ヒータコア4、ウォータバルブ(W/V)5、ウォータポンプ(W/P)6、サーモスタット(T/S)7等のシステム構成部品をもって構成される。なお、図示しないが、蓄熱タンク、冷却ファン等のその他の構成部品が備わっていてもよい。それぞれのシステム構成部品は、冷却水Wを循環させるため、冷却水導管(配管)で接続されている。例えば、エンジン1のウオータージャケットにラジエータ2が接続され、冷却水Wの循環によりエンジン1の冷却が行われる。なお、図示の冷却システムは一例であり、本発明の範囲内でシステム構成部品及び配管系統を任意に変更することができる。
【0017】
それぞれのシステム構成部品は、概略、次のような働きを奏することができる。ラジエータには、エンジンの冷却に供された加熱された冷却液を所定の温度まで冷却する機能がある。リザーブタンクには、冷却水の循環や頻繁な加圧、減圧に対応するため、冷却水を溜め置き、必要に応じて供給したり、ラジエータ内の冷却液の圧力が上昇したときに冷却液を受け入れたりする機能がある。ヒータコアは、冷却水の熱を暖房用として使用するものである。ウォータバルブには、必要に応じて冷却水の供給路を開閉する機能がある。エンジンに取り付けられたウォータポンプには、冷却水を送り出し、冷却システム内を循環させる機能がある。サーモスタットには、エンジンの温度を好適に保つため、冷却水の温度に応じて弁(バルブ)の開弁、閉弁を行い、冷却水の循環を制御するという機能がある。
【0018】
自動車の冷却システムでは、通常、冷却水Wが配管を含めてすべてのシステム構成部品に満たされた状態において、リザーブタンク内やラジエータタンク内、具体的にはリザーブタンクやラジエータタンクの上方に空気の層が存在している。リザーブタンクやラジエータタンクは、冷却システムにおいて通常系内の最も高い位置にあるため、空気層はリザーブタンク又はラジエータタンクの上部に留まるからである。空気の層は、上記したように、高温での冷却水の体積膨張分を吸収するために冷却水の供給後に冷却システムに意図的に導入された空気の層である。
【0019】
本発明では、リザーブタンク内やラジエータタンク内の空気の層を排除することで、具体的には、空気の層を不活性ガスで駆出することで目的を達成している。図1の例では、図示されるように、リザーブタンク3の上部に形成された空間に不活性ガスGを充満させることで目的を達成している。なお、必要に応じて、冷却水の体積膨張分を吸収するために最初に空気を導入する工程を省略して、すなわち、最初に空気を意図的に導入する工程を省略して、冷却システムに不活性ガスを直接的に導入した場合にも、高温での冷却水の体積膨張分を吸収する作用を十分に達成しうるということが判明している。
【0020】
本発明は、冷却システムにおいて、高温での冷却水の体積膨張分を吸収することを目的として、系内に意図的にあるいは場合によって自然に導入された空気の層(特にシステム構成部材と接触している空気)を不活性ガスで置換すること、さもなければ、空気の層の形成を省略して、最初から不活性ガスの層を形成することを特徴とする。不活性ガスで置換を行う領域あるいは不活性ガスの層を形成する領域は、通常、上記したようなリザーブタンクやラジエータタンクの上方の空気が存在する領域であるけれども、場合によってはその他の領域においても同時にあるいは段階的に空気層の空気を不活性ガスで置換するなどしてもよい。また、本発明の実施に当たっては、リザーブタンクなどの部位に追加して、それらの部位を接続する冷却水の通路(配管)においても、もしも空気層が存在しているならば、それらの空気層の空気も不活性ガスで置換するなどしてもよい。例えば、冷却水を充填する際に系内に空気層が残る可能性があるからであり、この場合は、いったん冷却水を循環させてから、空気を不活性ガスで置換することが推奨される。
【0021】
本発明の実施において、冷却システムのシステム構成部品、すなわち、エンジン、ラジエータ、リザーブタンク、ヒータコア、ウォータバルブ、ウォータポンプ、サーモスタット、配管等は、少なくともリザーブタンク又はラジエータタンクの少なくとも一部分(全体であってもよい)がポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シリコーンゴム等、加水分解を起こし得る材料から形成されているという条件を除いて、通常、この技術分野で一般的な慣用の材料から一般的な構成で形成することができ、また、したがって、システム構成部品の構成及び材料についての一般的な説明は、ここでは省略することにする。例えば、ラジエータは、先に参照した特開2008−261620号公報において図1及び図2を参照して説明したような構成及び材料を有していてもよい。参考のために付記すると、ラジエータは、例えばアルミニウム、銅等の金属材料から形成され、これに樹脂製のラジエータタンクが備わっている。また、配管系については、例えばヒーターホース、ラジエータホースなどのホース関係には例えばEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等のゴム材料が使用され、また、ヒーターパイプ等のパイプ類には例えばアルミニウム等の金属材料が使用される。
【0022】
ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、シリコーンゴム等、加水分解を起こし得る材料は、さらに詳しくは、次のような材料を包含する。ポリアミド樹脂は、例えばポリアミド6、ポリアミド66等のポリアミド樹脂そのものでもよく、さもなければ、炭素繊維、ガラス繊維、タルク、炭化カルシウム等の強化材を配合することで強化されたものであってもよい。強化材は、任意の形状及びサイズで使用することができるけれども、通常、平均繊維径が約5〜15μmである繊維の形状、あるいは粉末又は粒子の形状であることが好ましい。また、コストが上昇するけれども、アラミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックであってもよい。さらに、先に参照した特開2008−261620号公報において提案されているような、ポリアミド6,10と、ガラス繊維と、銅と、少なくとも1種の核剤(例えば、カーボンブラック、タルク等)とを含むポリアミド組成物であってもよい。ポリアセタール樹脂も、強化もしくは非強化のいずれであってもよい。シリコーンゴムは、必要に応じて、ゴムの形態でなくて、樹脂の形態(シリコーン樹脂)であってもよい。また、これらの材料は、2種類以上の材料が組み合わさった複合材料や、積層材料などの形態をとってもよい。
【0023】
エンジンの冷却に用いられる冷却水は、この技術分野において一般的に用いられている慣用の冷却水であることができ、通常、その組成や成分比が限定されることはない。冷却水は、通常、水、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類及び防錆剤から構成される。ここで、寒冷地での凍結防止のためにエチレングリコールなどが使われ、防錆のために各種添加剤が添加されている。冷却水(LLC)の組成や成分比は、LLCメーカのノウハウとなっており、それらの詳細は不明である。冷却水は、冷却液と呼ばれることもあれば、LLC(ロングライフクーラント)と呼ばれることもある。また、最近の冷却水は、メンテナンスフリーのタイプが多く、劣化などが原因で途中で交換する手間を必要としない。
【0024】
上記したように、冷却水の体積膨張分を吸収するため、システム構成部品と冷却水とが接触せしめられる部位において空気の層が形成されている。空気の層の形成は、充填する冷却水の量を空気層が形成されるように調整して行ってもよく、さもなければ、冷却水の充填が完了した後、所定の容積をもって空気の層が形成されるように、例えばリザーブタンクやラジエータタンクのキャップを開けて、その開口部から空気を吹き込んでもよい。また、必要に応じて、空気の導入を省略して、タンクの開口部などから不活性ガスを直接的に導入してもよい。
【0025】
上記のようにして空気層を形成したとき、空気層の酸素がシステム構成部品の材料に作用して、その材料の望ましくない加水分解を促進させる。ここで、「加水分解」とは、アミド結合やエステル結合のように脱水縮合反応で形成される官能基に対して水が付加反応して結合を切ることを意味する。詳細なメカニズムは不明であるけれども、酸素が存在した状況下の方が加水分解が促進されるという実験結果がすでに判明している。また、加水分解が発生すると材料の分子量が低下し、内圧などの応力によって構成部品にクラックが発生して破断に至ることがある。
【0026】
本発明では、上記したようにして空気層の酸素がシステム構成部品の材料の加水分解を引き起こすのを抑制するため、空気層の空気を不活性ガスにより置換するか、さもなければ、冷却水を充填後のシステム構成部品に不活性ガスを導入して不活性ガスの層を形成する。ここで使用する不活性ガスは、特に限定されないけれども、価格や入手の容易性などから、窒素ガスを使用することが推奨される。その他の不活性ガスとしては、例えばヘリウムガス、アルゴンガスなどを挙げることができる。また、不活性ガスは、通常、単独で使用されるけれども、必要に応じて、2種類以上の不活性ガスを任意の比率で混合して使用してもよい。また、空気層は、含まれる空気の全体を不活性ガスで置換しないで、効果を期待できる量の不活性ガスを導入することで、空気の部分置換を行ってもよい。
【0027】
不活性ガスによる置換は、冷却システムの構成(システム構成部品の種類、冷却水の循環経路、等のファクタ)に応じていろいろな手法によって行うことができる。一般的には、リザーブタンクキャップやラジエータキャップから空気を抜いて、冷却水(LLC)を冷却システムに導入し、充填する。LLCの充填を完了した後、不活性ガス(例えば、窒素ガス)を充填する。さもなければ、従来通りのLLCの充填作業後に再度、空気を抜いて不活性ガスを充填する。別法によれば、空気よりも重い不活性ガスを充填して空気を追い出す方法も採用可能である。
【0028】
再び図1を参照して、自動車エンジン1の冷却システム10の使用をより具体的に説明する。リザーブタンク3はポリプロピレン樹脂(PP)から、ラジエータ2のラジエータタンクはポリアミド樹脂(PA66)から、ウォータポンプ6はポリフタルアミド樹脂(PPA)から、ヒータコア4、配管(冷却水の循環通路)はアルミニウムから、ウォータバルブ5はポリアミド樹脂(PA66)とポリアセタール樹脂(POM)から、それぞれ形成されている。冷却水(LLC)Wは、50%の水と、50%のエチレングリコールと、少量の防錆剤とからなる。
【0029】
図示の冷却システム10を使用して、リザーブタンク3のキャップを開けて、冷却システム内に予め存在する空気を真空ポンプ(図示せず)で抜き取る。次いで、リザーブタンク3の開口部から冷却水Wを充填する。リザーブタンク3は、温度変化によって生じる冷却水容積の変化を吸収するためのタンクで、冷却水の温度が上昇して水の体積が膨張すると、体積膨張に相当する分の冷却水がリザーブタンク3へ送り込まれる。一方、冷却水の温度が低くなれば、リザーブタンクの水がラジエータに戻って、冷却水のムダな流出を防ぎ一定量を満たすように構成されている。したがって,このような方式にすれば、長時間にわたって、冷却水を補充するという手間を省くことができる。
【0030】
リザーブタンク3に冷却水Wを充填したとき、リザーブタンク3の上方に空間(空気層)が形成される。本発明では、この空気層の空気を再度真空ポンプで吸引し、図示されるように不活性ガスGで置換する。ここで使用する不活性ガスは、窒素ガスであり、ガスボンベ(図示せず)から供給される。冷却システム10の冷却水循環系統の空間(空気)が不活性ガスGで置換された結果、システム構成部品がポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂などから形成されているときであっても、それらの樹脂が加水分解を受けて劣化するという不具合が抑制される。
【0031】
冷却水Wの供給、循環等は、次のようにして行われる。エンジン周りの水温が上昇すると、サーモスタット7が開いて、ラジエータ2に冷却水Wが導入される。ラジエータ2の熱交換器(図示せず)で冷却水Wが冷却されると、適温に冷却された冷却水Wが再びエンジン周りに戻される。この冷却水Wでエンジン1を冷却し、エンジンのオーバーヒートを防止する。
【0032】
一方、エンジン周りの高温の冷却水は、ラジエータ2に循環される以外に、図中矢印で示されるように、ヒータコア4の方にも循環せしめられる。この循環系統では、ウォータバルブ5を開くことによってヒータコア4に高温の冷却水を導入するので、空気を温めるのに高温の冷却水を利用することができる。
【0033】
以上、特に自動車エンジンの冷却システムを参照して本発明を説明した。しかしながら、本発明は、冷却システムにおいて、システム構成部品がポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、システム内に冷却水が循環せしめられるとき、循環経路に存在する空気層に原因してシステム構成部品の加水分解による劣化が促進されるようなその他の現場においても、有利に適用することができる。例えば、自動車以外のエンジン、例えばオートバイのエンジン、その他の内燃機関などを一例として挙げることができる。また、冷却システムではないけれども、本発明と同様にシステム構成部品がポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、システム内の加熱媒体循環経路に空気層が存在し得るその他の現場、例えば住宅の床暖房システムなどにおいても本発明を有利に活用することができるであろう。暖房システムにおいて、ラジエータは暖房装置として機能することができる。
【実施例】
【0034】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0035】
実施例1
図1に示す構成をもった冷却システムを作製した。リザーブタンクはポリプロピレン樹脂から、ラジエータタンクはポリアミド樹脂から、ウォータポンプはポリフタルアミド樹脂から、ヒータコア、配管はアルミニウムから、ウォータバルブはポリアミド樹脂とポリアセタール樹脂から、それぞれ形成した。
【0036】
冷却システムの各構成部品を配管で接続した後、リザーブタンクのキャップを開けて、冷却システム内の空気を真空ポンプで抜き取った。次いで、リザーブタンクに冷却水を充填した。冷却水は、50%の水と、50%のエチレングリコールと、少量の防錆剤とからなった。
【0037】
次いで、リザーブタンクに冷却水を充填したときにリザーブタンクの上方に形成された空気層の空気を窒素ガスで置換するため、空気層の空気を真空ポンプで吸引した。空気の吸引に当たっては、冷却水が同時に吸引されてしまわないよう、吸引時の圧力に注意を払った。空気層の吸引が完了した後、冷却システム内に作られた空間に不活性ガス(窒素ガス)を導入した。
【0038】
また、冷却水の温度が上昇して水の体積が膨張したときには、体積膨張に相当する分の冷却水をリザーブタンク3へ送り込み、一方、冷却水の温度が低くなったときには、リザーブタンクの冷却水をラジエータに戻した。また、エンジン周りの水温が上昇したとき、サーモスタットの働きでラジエータに冷却水を導入した。次いで、ラジエータで冷却水を冷却した後、適温に冷却された冷却水を再びエンジン周りに戻した。この冷却水でエンジンを冷却し、エンジンのオーバーヒートを防止した。さらに、エンジン周りの高温の冷却水は、ラジエータに循環される以外に、ヒータコアの方にも循環せしめた。すなわち、ウォータバルブを開くことによってヒータコアに高温の冷却水を導入し、暖房装置で空気を温めるのにこの高温の冷却水を利用した。
【0039】
本例では、冷却システムの冷却水循環系統の空間に存在する空気をシステム構成部品の加水分解を促進させない不活性ガス(窒素)に置き換えることにより、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂から形成される構成部品の劣化を抑制することができ、長期間にわたってそれぞれの構成部品を交換することなく使用できた。
【0040】
実施例2(試験例)
本例では、図2に模式的に示す試験装置を使用して、冷却水の通路の空気層を酸素ガスから形成した場合(従来の空気層に対応)と酸素ガスを窒素ガスに置換した場合(本発明に対応)とを対比して、本発明の冷却システムが優れた効果を奏することを確証した。
【0041】
ステンレス鋼(SUS)製の圧力容器1用意し、その内部に冷却水Wを収容した。ここで使用した冷却水は、実施例1で使用したものと同じく、50%の水と、50%のエチレングリコールと、少量の防錆剤とからなった。空気層(気相)Gと冷却水(液相)Wの比が1:2となるように冷却水を圧力容器に加えた。また、試験の都度、合計6本の試験片を圧力容器の冷却水に浸漬した。ここで使用した試験片は、ダンベル状であり、そのサイズは、全長150mm×全幅20mm(試験部:長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)であった。また、試験片の材料は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂(PA66GF25;66重量%ポリアミド樹脂及び25重量%ガラス繊維)とポリアセタール樹脂(POM)の2種類であった。
【0042】
最初に、圧力容器21に付属のホース21aに真空ポンプ22を接続し、真空ポンプ22により圧力容器1の内部を真空引きした。ここで、あまり真空に引きすぎると冷却水Wが真空ポンプ22内に入ってきてしまうため、レギュレータ24の針が動かなくなった段階で真空引きを停止した。
【0043】
次いで、圧力容器1に酸素ボンベ23のホース23aをレギュレータ24を介して接続し、圧力容器1に酸素ガスGを導入して試験を実施した。ここで、圧力容器内に導入した酸素ガスは、わずかにのみ加圧した。酸素ガスの導入後、圧力容器のバルブを開いて加圧分(余分)の酸素を排出した後、圧力容器を120℃の高温槽に入れ、異なる時間(250時間、500時間)放置し、各時間後、機械的特性を測定した。試験項目は、材料の加水分解による劣化を容易に判定し得るものとして、引張り強度保持率(%)及び破断伸び保持率(%)の2つの機械的特性であった。引張り強度保持率(%)及び破断伸び保持率(%)の測定は、ISO試験法527−1及びISO527−2に準拠して、市販のインストロン試験機を使用して実施した。得られた評価結果を下記の図3〜図6に示す。
【0044】
上記のようにして酸素ガスを用いた試験を実施した後、同様の条件下で窒素ガスを用いた試験を実施した。得られた評価結果を図3〜図6に示す。これらの図において、図3は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂について、経過時間と引張り強度保持率の関係をプロットしたグラフ、図4は、ポリアセタール樹脂について、経過時間と引張り強度保持率の関係をプロットしたグラフ、図5は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂について、経過時間と破断伸び保持率の関係をプロットしたグラフ、図6は、ポリアセタール樹脂について、経過時間と破断伸び保持率の関係をプロットしたグラフである。いずれのグラフにも、酸素ガス中で試験を行った場合と、窒素ガス中で試験を行った場合とが示されている。
【0045】
図3〜図6に記載の評価結果から、本発明によれば、加水分解が抑制されたこと、換言すると、材料の劣化が抑制されたことに起因して、優れた引っ張り強度保持率及び破断伸び保持率が得られたことが明らかである。すなわち、加水分解が発生すると材料(樹脂)の劣化が引き起こされ、樹脂の分子量が低下して引張強度や破断伸びの低下を余儀なくされる。そのため、保持率が優れているということは、加水分解が抑制されていることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明による冷却システムは、自動車エンジンの冷却をはじめとして、構成部品がポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、空気の存在により構成部品の劣化が引き起こされる各種の冷却システムにおいて有利に利用することができ、構成部品を長期間にわたって安定に、交換することなく使用することができ、コストダウンも図ることができる。また、本発明の冷却システムの技術思想は、ラジエータを構成部品として備えた暖房システムにも応用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジン
2 ラジエータ
3 リザーブタンク
4 ヒータコア
10 冷却システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエンジン及びラジエータをシステム構成部品として備え、それらの構成部品間を冷却水用配管で接続して、配管内を循環する冷却水を介して前記エンジンの冷却を行う水冷式の冷却システムにおいて、
前記構成部品が、強化材で強化されているかもしくは強化されていないポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムからなり、
前記冷却水が、水、グリコール類及び防錆剤を含み、そして
前記ラジエータの内部の上方に位置する冷却水不含の空間が少なくとも、不活性ガスで充満されていることを特徴とする水冷式の冷却システム。
【請求項2】
前記ラジエータの内部の前記空間において、その空間が空気の層で占有されているとき、前記空気の層が前記不活性ガスで置換されていることを特徴とする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却システム。
【請求項4】
自動車エンジンの冷却に使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項5】
構成部品がリザーブタンク及び/又はラジエータタンクであり、該構成部品の少なくとも一部が前記ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂又はシリコーンゴムから形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−91730(P2012−91730A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242184(P2010−242184)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】