説明

水処理用フィルター

【課題】汚染物質および濁度成分の除去性能に優れ、かつ濁度成分による目詰まりが生じにくい水処理用フィルターを提供すること。
【解決手段】本発明は、メルトブロー不織布と多孔質体との積層構造を有する水処理用フィルターを提供し、該水処理用フィルターは、処理される水が、該メルトブロー不織布を通過した後、該多孔質体を通過するように、該メルトブロー不織布と該多孔質体とが積層されており、該メルトブロー不織布は、該メルトブロー不織布に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、90%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有し、該メルトブロー不織布の厚みは0.5mm〜3.0mmであり、そして該多孔質体は、活性炭および樹脂を含む混合物を固化することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水などに含まれている汚染物質(トリハロメタンなどの低分子有機化合物、塩素など)および濁度成分を除去する水処理フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
水道水などの飲料水は、殺菌を目的として一定濃度以上の遊離塩素を含有させることが義務付けられている。しかし、この遊離塩素は、細菌類を死滅させるだけではなく、水道水の原水中に存在するフミン酸(フミン質)などの天然有機化合物と反応して、発がん性を有するトリハロメタンなどの低分子有機塩素化合物を生成する。さらに、飲料水には、水の濁りの原因となる濁度成分も含まれている。
【0003】
汚染物質(トリハロメタンなどの低分子有機化合物、塩素など)を除去するため、一般的に、活性炭を用いた水処理用フィルターが使用されている。
【0004】
一方、濁度成分を除去するため、一般的に、中空糸膜フィルターが使用されている。
【0005】
中空糸膜フィルターは、目詰まりが生じにくく濁度成分を効率よく除去するという特徴を有している。しかし、中空糸膜フィルターを使用する場合、一般的に、フィルター部は活性炭層と中空糸膜との二層構造を有し、フィルター全体が大きくなるという問題がある。
【0006】
これらの活性炭フィルターおよび中空糸膜フィルターを組み合わせて使用すると、装置が複雑になり、コストも高くなる。そこで、汚染物質の除去および濁度成分の除去の両方の性能を同時に満足する水処理用フィルターが求められている。このような水処理用フィルターとして、活性炭の粒子を熱溶融性の高分子バインダーで接着して固化した活性炭成型フィルターが検討されている(特許文献1〜3)。
【0007】
特許文献1には、活性炭およびイオンを吸着する無機複合体を、高分子量多孔質ポリマーで固化した多孔質体で形成された水処理用フィルターが記載されている。この無機複合体は、平均粒子径が5〜40μmの平均粒子径を有する粒子と40μmを超え200μm以下の平均粒子径を有する粒子とを、1:1〜1:7の質量比で混合して得られる混合物であることが記載されている。このように、無機複合体の粒子径を限定することで、良好な浄水性能を有する水処理用フィルターが得られることが記載されている。
【0008】
特許文献2には、活性炭とポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーとを含む活性炭フィルターが記載されている。このポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーは、メルトフローインデックス(MFI190/15)が1.2〜10g/分であり、数平均分子量と重量平均分子量との比(Mw/Mn)が3〜30であり、嵩密度が0.05〜0.5g/cmであり、そして粒子径が5〜300μmであることが記載されている。このようなポリエチレンホモポリマーおよびポリエチレンコポリマーは、メルトフローインデックスが比較的小さい(流動性が低い)ので、活性炭が本来有する多孔性であるという性質を失わない、すなわち、活性炭の表面がポリマーによってコーティングされにくく、活性炭が有する細孔が閉塞されにくいことが記載されている。
【0009】
特許文献3には、活性炭粒子100質量部の表面に、中心粒子径1μm以上30μm以下のポリオレフィン樹脂またはポリアミド樹脂の微粒子2質量部以上40質量部以下で薄いコート層を形成した後、加圧成型して得られる活性炭吸着材を、浄水材(フィルター)として使用できることが記載されている。
【0010】
特許文献1〜3に記載される活性炭の粒子を熱溶融性のバインダーで固化した活性炭フィルターは、水中に溶存するトリハロメタンなどの汚染物質の除去性能を向上させるために、緻密な構造、すなわち活性炭粒子の比表面積が大きな構造にする必要がある。このような構造を有する活性炭フィルターは、水と活性炭との接触効率が高く、汚染物質の除去性能が高くなる。
【0011】
しかし、上記のような構造を有する活性炭フィルターは、濁度成分を含む水を通過させた場合、濁度成分による目詰まりが生じやすい。
【0012】
したがって、汚染物質および濁度成分の除去性能に優れ、かつ濁度成分による目詰まりが生じにくい水処理用フィルターが求められている。
【特許文献1】特開2002−273417号公報
【特許文献2】特表2002−525400号公報
【特許文献3】特公平7−90168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、汚染物質(特に、トリハロメタン)および濁度成分の除去性能に優れ、かつ濁度成分による目詰まりが生じにくい水処理用フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、メルトブロー不織布と多孔質体との積層構造を有する水処理用フィルターを提供し、該水処理用フィルターは、処理される水が、該メルトブロー不織布を通過した後、該多孔質体を通過するように、該メルトブロー不織布と該多孔質体とが積層されており、該メルトブロー不織布は、該メルトブロー不織布に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、90%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有し、該メルトブロー不織布の厚みは0.5mm〜3.0mmであり、そして該多孔質体は、活性炭および樹脂を含む混合物を固化することにより得られる。
【0015】
1つの実施態様では、上記メルトブロー不織布は、該メルトブロー不織布に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を3m/分の風速で通過させた場合に、98%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有する。
【0016】
1つの実施態様では、上記メルトブロー不織布は、エレクトレット化されている。
【0017】
1つの実施態様では、上記エレクトレット化は、コロナ放電、グロー放電、またはアーク放電によって行われる。
【0018】
1つの実施態様では、トリハロメタンと濁度成分とを含む水を通過させたときに、該トリハロメタンが80%以上除去された積算通水量は8000L以上であり、かつ水の流速が初期の流速の50%となった時点における積算通水量は6500L以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、汚染物質(特に、トリハロメタン)および濁度成分の除去性能に優れ、かつ濁度成分による目詰まりが生じにくい水処理用フィルターを提供し得る。したがって、水処理用フィルターの交換期間を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図を参照して本発明の水処理用フィルターを説明する。
【0021】
図1は、本発明の水処理用フィルターの構造の一例を示す断面図である。この水処理用フィルター1は、外部から内部に向けて、不織布8、メルトブロー不織布2、多孔質体3、および筒体4でなる層を順次有する円筒形状であり、さらに、これらを固定するための上面キャップ5および下面キャップ6を有する。筒体4の内部孔は中心孔7であり、これは通水孔として機能する。なお、図1には、メルトブロー不織布2の外側に不織布8を備えているが、不織布8は、必ずしも設けなくてもよい。
【0022】
メルトブロー不織布2は、主として水中の固形分(濁度成分)を除去する目的に使用される。メルトブロー不織布2の原料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも、融点が低いため、加熱成型温度を低く設定することができ、かつ操作性、コスト面など製造上有利という点で、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。メルトブロー不織布2の厚みは0.5mm〜3.0mm、好ましくは1.5mm〜2.8mmである。メルトブロー不織布2の厚みが0.5mm未満の場合、効率よく濁度成分を除去できないことがある。一方、メルトブロー不織布2の厚みが3.0mmを超える場合、不織布が目詰まりを起こしやすくなる。
【0023】
本発明の水処理用フィルターに用いられるメルトブロー不織布2は、該メルトブロー不織布2に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、90%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有する。「0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子」とは、一般的な大気塵(大きさ0.3μm)を想定している。ポリスチレン粒子捕集効率の測定は、JIS K 0901に準じて行われる。
【0024】
好ましくは、メルトブロー不織布2は、該メルトブロー不織布2に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を、3m/分の風速で通過させた場合に、98%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有する。このようなポリスチレン粒子捕集効率を有するメルトブロー不織布2を使用すると、より微細な固形分(濁度成分)を除去することが可能である。
【0025】
さらに、メルトブロー不織布2は、エレクトレット化されていることが好ましい。エレクトレット化は、コロナ放電、グロー放電、アーク放電などによって行われる。
【0026】
エレクトレット化されたメルトブロー不織布2は、不織布表面のエネルギーが高くなって活性化された状態(ラジカルなどが発生した状態)になる。したがって、より多くの微細な固形分を吸着するため、メルトブロー不織布2のポリスチレン粒子捕集効率が向上する(すなわち、水中に存在する固形分(濁度成分)が吸着されやすくなる)。さらに、不織布表面がラジカル状態になるため、不織布表面の炭素が空気中の酸素と反応して生成するカルボニル基などの極性基が導入され、濡れ性が向上し、濁度成分の吸着性が向上する。
【0027】
本発明の水処理用フィルターに用いられる多孔質体3は、活性炭、樹脂、および必要に応じてイオン交換体を含む混合物を固化することにより得られる。固化は、この混合物中に含まれる樹脂が加熱により溶融し、活性炭の粒子同士、あるいは活性炭の粒子とイオン交換体の粒子とを接着させることによって行われる。
【0028】
多孔質体3に含まれる活性炭の炭素質材料としては、例えば、果実殻(ヤシ殻、クルミ殻など)、木材、鋸屑、木炭、果実種子、パルプ製造副生成物、リグニン、廃糖蜜などの植物系材料;泥炭、草炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣などの鉱物系材料;フェノール樹脂、サラン樹脂、アクリル樹脂などの合成系材料;再生繊維(レーヨンなど)などの繊維系材料が挙げられる。これらの中でも、吸着性能および浄水器用途の点から、植物系の活性炭が好ましく、ヤシ殻活性炭がより好ましい。
【0029】
炭素質材料を炭化する条件は、特に限定されず、例えば、粒状の炭素質材料の場合は、回分式ロータリーキルンに少量の不活性ガスを流しながら300℃以上の温度で処理するなどの条件を採用することができる。
【0030】
活性炭は、一般的な活性炭の製法で得られ、特に限定されない。通常、本発明に用いられる活性炭は、炭素質材料を充分に炭化した後、ガス賦活、薬剤賦活などの方法で賦活することにより製造される。例えば、ガス賦活法において使用されるガスとしては、水蒸気、炭酸ガス、酸素、LPG燃焼排ガス、またはこれらの混合ガスなどを挙げることができる。安全性および反応性を考慮すると、水蒸気含有ガス(水蒸気を10〜50容量%含有するガス)が好ましい。
【0031】
賦活温度は、通常700℃〜1100℃、好ましくは800℃〜1000℃である。しかし、賦活温度、時間、および昇温速度は、特に限定されず、選択する炭素質材料の種類、形状、サイズなどにより異なる。賦活により得られる活性炭は、そのまま使用され得るが、実用上は、酸洗浄、水洗浄などにより、付着成分を除去することが好ましい。
【0032】
活性炭の形状は、特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状など任意の状態であり得る。粉末状または粒状の活性炭を使用する場合、作業性、水との接触効率、通水抵抗などの点から、35μm〜2.8mm(350メッシュ〜7メッシュ)の平均粒径を有する活性炭が好ましい。
【0033】
繊維状の活性炭を使用する場合、成型性の点から、好ましくは0.1mm〜3mm程度に切断して使用される。さらに、繊維状の活性炭を使用する場合、遊離塩素の除去性能の点から、ヨウ素吸着量が1200〜3000mg/gの活性炭を使用することが好ましい。
【0034】
多孔質体3に含まれる樹脂は、活性炭を固着させるためのバインダーとして使用される。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンアクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、メソフェーズピッチ、親水性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂など)などが挙げられる。
【0036】
熱硬化性樹脂としては、フラン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0037】
多孔質体3に含まれ得るイオン交換体としては、無機イオン交換体およびイオン交換樹脂が挙げられる。活性炭、イオン交換体、および樹脂を含む混合物の固化時の温度が100℃以上である場合、耐熱性を有する無機系イオン交換体を使用することが好ましい。無機系イオン交換体としては、ゼオライト(例えば、アルミノシリケートなど)、チタノシリケート、二酸化チタン、二酸化ケイ素、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。これらの中でも、特に、イオン交換容量が大きく、重金属に対して選択性が高いチタノシリケートおよびアルミノシリケートが好ましい。チタノシリケートを使用する場合、非晶質チタノシリケートがより好ましい。さらに、銀などの抗菌性物質を担持するイオン交換体(例えば、銀担持ゼオライトなど)を用いると、抗菌性が付与される。
【0038】
多孔質体3に含まれる活性炭および樹脂の割合は、特に限定されない。活性炭の質量を100質量部とした場合、樹脂は、好ましくは5質量部〜50質量部、より好ましくは6質量部〜20質量部の割合で含有される。イオン交換体を用いる場合、活性炭とイオン交換体とは、好ましくは100:1〜100:50、より好ましくは100:2〜100:10の質量比で含有される。
【0039】
筒体4は、処理された水に多孔質体3の破片などの固形分が含まれないようにするために設けられている。この筒体4は、多孔質体3の破片などの固形分を通さず、水のみを通す素材であれば、特に限定されない。このような素材としては、例えば、不織布、プラスチック多孔質成形体、セラミック成形体などが挙げられる。
【0040】
上面キャップ5および下面キャップ6は、合成樹脂などでなる成形体であり、図1に示すように、メルトブロー不織布2、多孔質体3、および筒体4を固定するために用いられる。上面キャップ5および下面キャップ6は、メルトブロー不織布2、多孔質体3、および筒体4の上面および下面に固定されており、好ましくは接着固定されている。下面キャップ6には、筒体4の中心孔7の口径の大きさに合わせて、孔が形成されている。この孔から、処理された水が取水される。
【0041】
本発明の水処理用フィルター1は、トリハロメタンと濁度成分とを含む水を通過させたときに、該トリハロメタンが80%以上除去された積算通水量が、好ましくは8000L以上、より好ましくは10000L以上であり、かつ水の流速が初期の流速の50%となった時点における積算通水量が、好ましくは6500L以上、より好ましくは8000L以上である。
【0042】
図1に示す水処理用フィルター1は、メルトブロー不織布2および多孔質体3が横方向に積層された構造を有している(すなわち、アウトインフロー型である)が、本発明の水処理用フィルターは、メルトブロー不織布2および多孔質体3が縦方向に積層された構造を有していても(すなわち、ダウンフロー型であっても)よい。
【0043】
本発明の水処理用フィルターにおいては、メルトブロー不織布2の外表面に、さらに、不織布8が積層されていてもよい。この積層される不織布8は、特に限定されず、任意の不織布が用いられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
メルトブロー不織布2a、多孔質体3a、筒体4a、上面キャップ5a、および下面キャップ6aを用いて、水処理用フィルター1aを作製した。
【0046】
メルトブロー不織布2aは、表面がコロナ放電処理され、エレクトレット化されたポリプロピレン製のメルトブロー不織布を用いた(繊維直径1.5μm、目付け100g/m、および厚み0.8mm)。このメルトブロー不織布2aは、オリフィスの間隔0.2mm、オリフィス1孔あたりのポリプロピレンの吐出速度2g/分/オリフィス、オリフィス列の1cmあたりの加熱ガス流量0.15Nm/分の条件で製造され、JIS K 0901の方法に準じて、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を、1.5m/分の風速で通過させた場合に、92%のポリスチレン粒子捕集効率を有していた。
【0047】
多孔質体3aは、次のように調製した。メルトインデックスが20g/10分の微粉末ポリエチレン0.9kgおよび粒状活性炭9.1kgを、ヘンシェルミキサーに投入して、均一に撹拌し混合した。微粉末ポリエチレンとしては、フローセンUF−20(住友精化株式会社製)を使用した。粒状活性炭としては、クラレコールYP−100とクラレコールGW60/150(いずれもクラレケミカル株式会社製)との4:1の質量比の混合物を使用した(粒子径50μm〜250μm)。
【0048】
次いで、図2に示すような有底円筒形状の外筒11と、該外筒と同心状に中空の筒体でなる内筒12とを有するアルミ製の金型であって、肉厚の円筒形状の成形体を形成し得る金型10を準備し、これに微粉末ポリエチレンと粒状活性炭との混合物320gを均一に充填した。この金型の外筒11の内径(d)は68mm、内筒12の外径(d)は22mm、および外筒11の深さ(d)は125mmであった。充填後、7kgf/cmの加圧下、118℃で150分間加熱融着し、10分程度放冷して、上面から底面に貫通する中心孔7aを有する円筒形状の多孔質体3a(外径68mm、中心孔の口径22mm、および高さ125mm)を得た。
【0049】
多孔質体3aの中心孔7aを形成する壁面に、不織布でなる筒体4aを接着し、多孔質体3aの外側面にメルトブロー不織布2aを接着した。次いで、筒体4a、多孔質体3a、およびメルトブロー不織布2aを固定するように、上面キャップ5aおよび下面キャップ6aを接着し、水処理用フィルター1aを得た。
【0050】
得られた水処理用フィルター1aについて、以下の方法により濁度成分除去性能およびトリハロメタン除去性能を評価した。これらの方法は、各々、JIS S 3201(家庭用浄水器試験方法)の濁度成分除去性能試験(6.2.2)および揮発性有機化合物除去性能試験(6.2.3)に準じた方法である。
【0051】
(濁度成分除去性能試験)
原水(水道水)に、カオリンを2ppmの濃度となるように添加した試験水を調製した。この試験水を、0.1MPaの圧力条件下で、水処理用フィルター1aの外側から内側に向かって(すなわち、試験水が、メルトブロー不織布2aおよび多孔質体3aを順次通過するように)、4.6L/分の初期流量で流した。初期流量の50%の通水量になった時点での積算通水量を、濁度成分除去性能として評価した。
【0052】
(トリハロメタン除去性能試験)
トリハロメタンの濃度が100ppbの試験水を、0.1MPaの圧力条件下で、水処理用フィルター1aの外側から内側に向かって、4L/分の流量で流した。トリハロメタンの除去率が80%未満になった時点での積算通水量を、トリハロメタン除去性能として評価した。
【0053】
濁度成分除去性能試験およびトリハロメタン除去性能試験の結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1で用いたメルトブロー不織布2aの代わりに、メルトブロー不織布2bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして水処理用フィルター1bを作製した。メルトブロー不織布2bは、表面がコロナ放電処理され、エレクトレット化されたポリプロピレン製のメルトブロー不織布を用いた(繊維直径1.5μm、目付け100g/m、および厚み0.8mm)。このメルトブロー不織布2bは、オリフィスの間隔0.2mm、オリフィス1孔あたりのポリプロピレンの吐出速度0.5g/分/オリフィス、オリフィス列の1cmあたりの加熱ガス流量0.2Nm/分の条件で製造され、JIS K 0901の方法に準じて、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を、3m/分の風速で通過させた場合に、98%のポリスチレン粒子捕集効率を有していた。
【0055】
得られた水処理用フィルター1bを用いて、実施例1と同様の手順で、濁度成分除去性能試験およびトリハロメタン除去性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例3)
実施例1で用いたメルトブロー不織布2aの代わりに、メルトブロー不織布2cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして水処理用フィルター1cを作製した。メルトブロー不織布2cは、珪藻土を接着加工したエレクトレット化されていないポリプロピレン製のメルトブロー不織布を用いた(繊維直径1.5μm、目付け100g/m、および厚み0.8mm)。このメルトブロー不織布2cは、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を、3m/分の風速で通過させた場合に、98%のポリスチレン粒子捕集効率を有していた。
【0057】
得られた水処理用フィルター1cを用いて、実施例1と同様の手順で、濁度成分除去性能試験およびトリハロメタン除去性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、メルトブロー不織布2aを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして水処理用フィルターを作製した。得られた水処理用フィルターを用いて、実施例1と同様の手順で、濁度成分除去性能試験およびトリハロメタン除去性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
実施例1で用いたメルトブロー不織布2aの代わりに、コロナ放電処理を施さなかったポリプロピレン製のメルトブロー不織布(繊維直径1.5μm、目付け100g/m、および厚み0.8mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水処理用フィルターを作製した。このメルトブロー不織布は、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、15%のポリスチレン粒子捕集効率を有していた。
【0060】
得られた水処理用フィルターを用いて、実施例1と同様の手順で、濁度成分除去性能試験およびトリハロメタン除去性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例3)
実施例1で用いたメルトブロー不織布2aの代わりに、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、85%のポリスチレン粒子捕集効率を有するように、コロナ放電処理を施したポリプロピレン製のメルトブロー不織布(繊維直径1.5μm、目付け100g/m、および厚み0.8mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水処理用フィルターを作製した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、本発明の水処理用フィルター(実施例1〜3)は、優れた濁度成分除去性能およびトリハロメタン除去性能を有することがわかる。これは、本発明の水処理用フィルターに用いられるポリスチレン粒子捕集効率の高いメルトブロー不織布が、濁度成分(カオリン粒子)を捕捉し、多孔質体がトリハロメタンを有効に除去することによる。したがって、優れた濁度成分除去性能およびトリハロメタン除去性能を有する水処理用フィルターが得られることがわかる。
【0064】
さらに、実施例2および実施例3を比較すると明らかなように、エレクトレット化されたメルトブロー不織布を使用すると、水中の微細な固形分が吸着されやすくなる。したがって、多孔質体がより目詰まりしにくくなるので、より優れた濁度成分除去性能を有する水処理用フィルターが得られる。
【0065】
メルトブロー不織布を用いていない水処理用フィルター(比較例1)は、優れたトリハロメタン除去性能を有する。しかし、濁度成分を捕捉するメルトブロー不織布を用いていないため、多孔質体は、すぐに目詰まりが生じる。したがって、メルトブロー不織布を用いていない水処理用フィルターは、濁度成分除去性能が悪い。
【0066】
ポリスチレン粒子捕集効率が90%以下(0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を、1.5m/分の風速で通過させた場合)のメルトブロー不織布を用いた水処理用フィルター(比較例2および3)は、優れたトリハロメタン除去性能を有する。しかし、メルトブロー不織布のポリスチレン粒子捕集効率が低く、十分に濁度成分を捕捉できないため、多孔質体は目詰まりが生じやすくなる。したがって、メルトブロー不織布を用いていない水処理用フィルターは、濁度成分除去性能が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、汚染物質および濁度成分の除去性能に優れ、かつ濁度成分による目詰まりが生じにくい水処理用フィルターを提供し得る。本発明の水処理用フィルターは、例えば、浄水器に充填され、水道の蛇口などに接続されて使用される。本発明の水処理用フィルターは、水処理用フィルターの交換期間を長くすることができるので有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の水処理用フィルターの構造の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の水処理用フィルターに用いられる多孔質体を形成するための金型の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 水処理用フィルター
2 メルトブロー不織布
3 多孔質体
4 筒体
5 上面キャップ
6 下面キャップ
7 中心孔
8 不織布
10 金型
11 外筒
12 内筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトブロー不織布と多孔質体との積層構造を有する水処理用フィルターであって、
処理される水が、該メルトブロー不織布を通過した後、該多孔質体を通過するように、該メルトブロー不織布と該多孔質体とが積層されており、
該メルトブロー不織布が、該メルトブロー不織布に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を1.5m/分の風速で通過させた場合に、90%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有し、
該メルトブロー不織布の厚みが0.5mm〜3.0mmであり、そして
該多孔質体が、活性炭および樹脂を含む混合物を固化することにより得られる、水処理用フィルター。
【請求項2】
前記メルトブロー不織布が、該メルトブロー不織布に、0.3μmの粒子径を有するポリスチレン粒子を3m/分の風速で通過させた場合に、98%以上のポリスチレン粒子捕集効率を有する、請求項1に記載の水処理用フィルター。
【請求項3】
前記メルトブロー不織布が、エレクトレット化されている、請求項1または2に記載の水処理用フィルター。
【請求項4】
前記エレクトレット化が、コロナ放電、グロー放電、またはアーク放電によって行われる、請求項1から3のいずれかの項に記載の水処理用フィルター。
【請求項5】
トリハロメタンと濁度成分とを含む水を通過させたときに、該トリハロメタンが80%以上除去された積算通水量が8000L以上であり、かつ水の流速が初期の流速の50%となった時点における積算通水量が6500L以上である、請求項1から4のいずれかの項に記載の水処理用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−95731(P2009−95731A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268352(P2007−268352)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(390001177)クラレケミカル株式会社 (30)
【出願人】(000102636)エナジーサポート株式会社 (51)
【Fターム(参考)】