説明

水処理設備の管理装置と水処理設備の管理方法及び管理のためのプログラムが記憶された記録媒体

【課題】 河川水などの原水から生成した水道水にトレーサビリティが与えられるようにした水道管理システムを提供すること。
【解決手段】 浄水コントローラ5により計測と制御がされている水道施設6に、ネットワーク4を介して管理サーバ1と端末2、それに監視制御サーバ3を接続し、水道施設6による原水60から浄化された送水69の生成過程でのプロセス情報を管理サーバ1で記録し、必要に応じて端末2によりトレーサビリティ画面として表示できるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムに危害分析及び重要管理点手法の概念を適用してトレーサビリティが与えられるようにした管理装置に係り、特に水道施設に好適な水処理設備の管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の原料である原水は、水質が人為的にコントロールできない河川やダム、地下水などに由来するため、浄水場や配水管網などからなる水道施設の各プロセスでは原水の水質変動に対応した操作が求められ、従って、水道施設においても、危害分析及び重要管理点手法(HACCP)の概念に示される履歴や所在を追跡可能にするという、いわゆるトレーサビリティが求められる。
【0003】
そこで、従来技術では、このような場合に対応するため、水道施設に水質モニターを設置して中央監視センターで集中監視するようにした水質管理システムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このとき、危害分析及び重要管理点手法に関連しては、管理会社が危害分析及び重要管理点手法のコンテンツを食品衛生工場に提供するようにした食品衛生管理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−11460号公報
【特許文献2】特開2002−49660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術は、浄水場や配水管網などを備えた水道施設におけるトレーサビリティについて配慮がされておらず、需要家の安全性要求に応えられないという問題があった。
【0006】
例えば、特許文献1に開示の従来技術は、水質データをリアルタイムで収集して運転操作の支援や異常時・緊急時対応に反映させることについて記載されているが、浄水場や配水管網などの水道施設におけるトレーサビリティについてはなんら記載されていない。
【0007】
また、同じく特許文献2に開示の従来技術によるトレーサビリティは、食品製造プロセスのように、原材料供給者や食品製造工場で、製品が単品或いはロット単位に管理可能な場合には有効であるが、水道水のように原材料が自然界から連続流体として供給されているプロセスには適用することができない。
【0008】
いうまでもなく、水道施設で扱うのは文字通りの水道水であって、水道施設の各プロセスで処理された後、複数の需要家の手元まで配水管網などを介して送られ、蛇口などから不定期に取り出されて消費される流体であり、ロット毎にパッケージが可能な物品とは異なり、原水品質をロット管理することができない。
【0009】
本発明の目的は、河川水などの原水から生成した水道水にトレーサビリティが与えられるようにした水道管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理施設において、前記プロセスにより原水に対して施された操作履歴を経時的に記録し、追跡可能に保持する履歴追跡手段を設け、前記操作履歴からトレーサビリティが与えられるようにして達成される。
【0011】
同じく上記目的は、原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理施設において、少なくとも通過したプロセスと通過した時刻、それにプロセス操作を、前記原水に対して施された操作履歴とし、それを前記水処理施設のプロセスデータと施設データ、それに薬品データに基づいて追跡する手段と、追跡結果を編集する手段とを設け、編集した追跡結果を表示してトレーサビリティが与えられるようにして達成される。
【0012】
また、上記目的は、原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理施設において、前記水処理設備のプロセスデータが予め設定した基準値内であることを診断する手段と、基準値範囲外を示したプロセスデータの計測地点を検出し、該計測地点より上流側のプロセスを対象に原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡手段とを設け、前記操作履歴からトレーサビリティが与えられるようにして達成される。
【0013】
同じく上記目的は、原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理施設において、薬品供給者からの薬品情報受け入れ履歴を管理し、前記薬品の注入操作を行うプロセスの操作履歴を追跡する手段と、薬品との接触時間と前記受け入れ薬品履歴とを追跡する履歴追跡手段とを設け、前記操作履歴からトレーサビリティが与えられるようにして達成される。
【0014】
このとき、前記水処理設備のプロセスが、少なくとも凝集、沈殿、ろ過、消毒、輸送のうちの何れかのプロセスを含むようにしても上記目的が達成され、また、前記水処理設備のプロセスが薬品注入対象プロセスを含み、当該プロセスにおける薬品情報と薬品注入率、それに滞留時間を追跡する追跡機能が設けられていることによっても上記目的が達成され、更には前記水処理設備のプロセスがろ過プロセスを含み、当該プロセスにおけるろ過速度を追跡する追跡機能が設けられていることによっても上記目的が達成される。
【0015】
同じく上記目的は、水処理設備の複数のプロセスデータを、ネットワークを介して受信する管理サーバにおいて、原水に対して施された操作履歴を、前記水処理設備のプロセスデータと施設データ、それに薬品データに基づいて追跡する履歴追跡機能を有するようにして達成される。
【0016】
更に上記目的は、原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を、水処理施設のプロセスデータと施設データに基づいて、コンピュータに実行させるためのプログラムが格納された記憶媒体によっても達成される。
【0017】
従って、本発明は、水処理設備のプロセスデータと施設データに基づいて、原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を有することを特徴とする水処理設備の管理装置である。
【0018】
また、本発明は、水処理設備のプロセスデータと施設データと薬品データに基づいて、原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能と、操作されたプロセスと時刻とを編集表示する機能を有するものである。
【0019】
更に、本発明は、水処理設備のプロセスデータが予め設定した基準値内であることを診断して、基準値範囲外を示したプロセスデータの計測地点を検出し、該計測地点より上流側のプロセスを対象に原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を有するものである。
【0020】
また、本発明は、薬品供給者からの薬品情報受け入れ履歴を管理し、前記薬品の注入操作を行うプロセスの操作履歴を追跡する場合、薬品との接触時間と前記受け入れ薬品履歴とを追跡する履歴追跡機能を有するものである。
【0021】
次に、本発明は、水処理設備の複数のプロセスデータをネットワークを介して受信する管理サーバにおいて、水処理設備のプロセスデータと施設データと薬品データに基づいて、原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を有することを特徴とする方法である。
【0022】
更に、本発明は、前記履歴追跡機能で追跡する操作が水処理設備のプロセスのうち少なくとも凝集、沈殿、ろ過、消毒の何れかのプロセスを含む構成である。
【0023】
また、本発明は、前記水処理設備のプロセスで薬品が注入される場合は、受入薬品情報と薬品注入率と接触時間を追跡し、前記水処理設備のプロセスがろ過プロセスの場合は、ろ過速度を追跡することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、コンピュータに、水道施設のプロセスデータと施設データに基づいて、原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を実行するプログラムが格納された記憶媒体を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、需要家に供給される水道水がどのような操作を受けているのかを把握することが出来るので、水道水に異常が発見された場合の要因同定を迅速に実施できるというトレーサビリティが可能になる。
【0026】
また、本発明によれば、トレーサビリティの概念を水道向け危害分析及び重要管理点手法に適用できるので、危害分析や工程重点管理、或いは記録を適切に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明による水処理設備の管理装置について、図示の実施の形態により詳細に説明すると、ここで、図1は、本発明の一実施形態で、この水道管理システムは、図示のように、管理サーバ1と端末2、監視制御サーバ3、ネットワーク4、浄水コントローラ5、それに水道施設6から構成されており、このとき水道施設6としては、一例として浄水場の場合を示している。
【0028】
従って、この水道施設6では、河川、ダム、地下水などの水源から取水された原水60を、着水井62、凝集沈殿池64、ろ過池65、塩素消毒67の各プロセスを経て送水69にする処理を行うようになっていて、このとき原水の水質や流量はセンサ61により計測され、沈殿水の水質や流量はセンサ62により計測され、ろ過水の水質や流量はセンサ63により計測され、塩素消毒された浄水の水質や流量はセンサ68で計測される。
【0029】
そして、まず、着水井62では、水中の臭気成分を吸着除去するため、活性炭注入設備70から粉末活性炭が注入される。次に凝集沈殿池64では、薬品注入設備71から凝集剤、酸剤、アルカリ剤などの薬品を注入し、これにより原水中の濁質成分を凝集させ、フロックと呼ばれる濁質の塊を形成させた後、このフロックを沈降させて除去する処理が行われる。
【0030】
次に、ろ過池65では、凝集沈殿池63で除去できなかった濁質やマンガンなどを除去するため、薬品注入設備72から塩素が注入され、これにより溶解性のマンガンや鉄が不溶性物質に酸化され、このろ過池65で捕捉されるようにする。従って、これら凝集沈殿池64とろ過池65では、或る期間が経過した時点で図示した排水処理が実行され、沈殿物が除去される。
【0031】
このろ過池65の後、塩素消毒池67の入口で、薬品注入設備73から、殺菌を目的にして再び塩素が注入され、更にpH調整を目的にして、アルカリ剤が注入される。
【0032】
こうして塩素消毒池67の出口に得られる水は浄水と呼ばれるが、この実施形態では、この浄水がポンプで加圧され送水69となり、この送水69が配水池(図示せず)と水道管路(図示せず)などからなる配水施設を経て需要家に供給されることになる。
【0033】
このとき、浄水コントローラ5は、センサ61、64、66、68により計測された水質データや流量データ及び薬品注入設備70、71、72、73により計測される薬品注入量データ、或いは薬品注入率データなど各種のプロセスデータを収集し、これと共に水道施設6の各プロセスの制御を実行し、原水60から浄化された送水69を生成する働きをする。
【0034】
ここで、水質データとは濁度、残塩量、pH、紫外線吸光度、TOC(トータル・オーガニック・カーボン)、電気伝導度などであり、浄水コントローラ5は、ネットワーク4を介して監視制御サーバ3に接続され、これにより収集したプロセスデータや制御設定値を相互に送受信する。
【0035】
ここで、管理サーバ1は、例えばパーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウエアからなり、監視制御サーバ3、或いは浄水コントローラ5からネットワークを介してプロセスデータの受信を行い、データが受信されると、例えば送水69が生成されるまでの各プロセスで施された操作や水質などの履歴を追跡してトレーサビリティ情報として編集する働きをする。
【0036】
また、端末2はネットワーク4に接続できるパーソナルコンピュータや携帯端末などで、管理サーバ1や監視制御サーバ3にアクセスし、水道施設6の操作設定や情報提供を受けるのに使用される。
【0037】
次に、図2は、この実施形態における管理サーバ1の詳細図で、図示のように、この管理サーバ1は、CPU10と施設データベース11、プロセスデータベース12、トレーサビリティデータベース13、薬品データベース16、データ入出力端末14、ネットワークインタフェース15(IF)、それにメモリ17を備えている。
【0038】
そして、メモリ17には、データ収集機能20、異常監視機能21、履歴追跡機能22、WEBサーバ機能23、薬品管理機能24を備えたプログラムが記憶されおり、CPU10は、このプログラムを実行して、各種機能を動作させる。
【0039】
このとき、まずネットワークインタフェース15は、ネットワーク4に接続された監視制御サーバ3や浄水コントローラ5、端末2と情報を通信する働きをし、この結果、データベース16には、ネットワーク4から送られてきた情報や、メモリ17に記憶されたプログラム群を実行して生成された情報、それに端末14から設定された情報が格納される。
【0040】
一方、プロセスデータベース12には、監視制御サーバ3、或いはコントローラ5から送られてきたプロセスデータが格納されるが、このとき端末2とデータ入出力端末14などから人手により入力される水質試験データも、プロセスデータとしてプロセスデータベース12に格納される。
【0041】
このとき、施設データベース11には、水道施設6の土木構造、配管、薬品注入設備、計装などの情報が保存されるが、更に原水との接触面積についても保存することが望ましく、滞留時間の長い土木構造や管路については材質情報も保存することが望ましい。
【0042】
また、薬品データベース16には、薬品注入設備の薬品タンクに貯留されている薬品の種類、成分、量、供給メーカの製造情報、薬品受け入れ日時などの情報が格納されている。
【0043】
ここで、データ収集機能20は、ネットワークインタフェース15を介して監視制御サーバ3或いはコントローラ5から送信されてくる水道施設6のプロセスデータを収集し、プロセスデータベース12に格納する働きをする。
【0044】
一方、異常監視機能50は、水道施設6の各部のプロセスデータの瞬時値、積算値、平均値、変化率を計算し、その上で最初にプロセスデータの信頼性を診断する。そして、診断結果が正常と判定された単一又は複数のプロセスデータは、予め設定されている基準値と比較して基準値範囲内か否かが診断され、基準値範囲外のときは危害発生と判定する。
【0045】
このときの基準値には、データの上限や下限、統計解析値、相関解析値などが使用されるが、これらは予め端末2やデータ入出力端末14から入力されている。そして、こうして危害発生が検出された監視点と発生時刻などの診断結果は、トレーサビリティデータベース13に格納され、これと同時に危害発生が履歴追跡機能22に通知される。
【0046】
そこで、履歴追跡機能22は、プロセスデータベース12、施設データベース11、薬品データベース16の各情報から、水道施設6に導かれた原水60が沈殿水、ろ過水、浄水、送水などに浄化されてゆく過程を追跡し、水質、水量、プロセスで施された操作の履歴を演算し、履歴データとして編集する。そして、得られた編集データは、トレーサビリティデータベース13に格納される。
【0047】
このとき、履歴追跡機能22は、上記したように、異常監視機能21からの危害発生通知に応じて起動されるが、端末2やデータ入出力端末14からの要求に応じても起動され、或いは周期的にも起動されるようになっている。
【0048】
次に、WEBサーバ機能23は、ネットワーク4に接続された端末2を介して施設データベース11、プロセスデータベース12、トレーサビリティデータベース13、薬品データベース16に格納されたデータの中で、参照が許可されたデータを編集して公開する。
【0049】
例えば、利用者が端末2からデータ要求を受信すると、WEBサーバ機能23は、ユーザIDやパスワードにより対象施設に関するデータを検索して情報を提供する。
【0050】
このとき、WEBサーバ機能23は、異常有無やトレーサビリティ情報を、ネットワーク4に接続された端末に対して、メール等により通知し、これにより、利用者は、管理サーバ1をアクセスしなくても関連する情報を確認することもでき、更に後述する図9に示されているように、管理センタ31、維持管理会社32から情報を参照することもできるようになっている。
【0051】
次に、薬品管理機能24は、薬品受入れのタイミングで、薬品タンクに貯留される薬品の種類、量、成分、受入れ日時、薬品供給会社の製造情報などを薬品データベース16に保存するが、薬品受入れ時に残量があった場合は、受入れ薬品との混合による成分変化を演算する。
【0052】
このとき、受け入れる薬品の情報については、端末14から入力してもよいし、或いはプロセスデータ一部としてネットワークインタフェース15を経由して端末2から入力してもよい。
【0053】
ここで、図3は、この履歴追跡機能22の構成の一例を示したもので、ここでは、端末2、或いは異常監視機能21から塩素消毒後の送水69の位置を基準地点とし、且つ基準時刻以前の履歴追跡を要求を受けた場合の一例をフローで示している。
【0054】
まず、ステップ100では、施設データベース11に格納されている水道施設6の施設情報のうち、送水を基準地点とした場合の上流側のプロセスを通過プロセスとして検索し、これら通過したプロセスの施設情報を読み出す。
【0055】
この場合、着水井62、凝集沈殿池64、ろ過池65、塩素消毒池67が通過したプロセスであり、従って、施設情報とは、例えば着水井62の容積、凝集沈殿池64の容積、ろ過池65の容積、塩素消毒池67の容積、薬品注入設備と注入点、センサ設置地点などの情報である。
【0056】
ステップ101では、通過したプロセスを対象に、基準時刻より過去のプロセスデータをプロセスデータベース12から収集し、同じく通過したプロセスを対象にして、基準時刻から過去における薬品情報も薬品データベース16から収集する。
【0057】
ステップ102では、過去の流量データと、各プロセスの容積などから、通過したプロセスの入口に到達した時刻、出口に到達した時刻、及び滞留時間を演算する。
【0058】
この後に続くステップ103、104、105、106では、原水がプロセス入口と出口に到達した時刻をキーにして水質データを検索し、更にプロセスで施された操作履歴と滞留時間を演算するのである。
【0059】
このときの各ステップの出力は、例えばステップ103では着水井62における活性炭注入操作と接触時間、ステップ104では凝集沈殿池63における凝集用薬品注入操作と滞留時間、ステップ105ではろ過池64における塩素注入操作とろ過速度、ステップ106では塩素消毒池67における塩素注入操作と滞留時間であり、これらの情報はトレーサビリティデータベース13に格納される。
【0060】
このとき、更に水道施設6を構成している管路や構造物などの材質を施設データベース11から読み出し、材質成分の一部が水中に溶出したものとして、溶出量をプロセス操作し、トレーサビリティデータベース13に格納するようにしても良い。
【0061】
次に、図4は薬品管理機能24の構成の一例を示したもので、ここでは、薬品受入れ情報を端末2から入力されるときの薬品管理機能の一例をフローで示している。
【0062】
まず、ステップ200では、端末2から薬品タンクと薬品供給会社からの今回受入薬品情報を受信する。ここで受入薬品情報とは、受入日時、薬品種類、濃度、密度、製造日付、製品ロット番号などである。
【0063】
次のステップ201では、薬品タンクの残量情報をプロセスデータベース12と薬品データベース16から読み出す。このときプロセスデータベース12からは、例えば薬品タンク内薬品水位計測データを読み出して、タンク容積情報に基づいて薬品残量を計算し、薬品データベース16からは、前回薬品情報を読み出すのである。
【0064】
そして、続くステップ202では、今回受入情報と前回薬品情報を比較し、濃度、密度などが異なった場合には平均化処理行った後、今回受入薬品情報を薬品データベース16に保存するのである。
【0065】
次に、図5は異常監視機能21の構成の一例を示したもので、このフローに示す異常監視機能は、定周期毎に、或いはプロセスデータが更新されたタイミングで実行される。
【0066】
まず、ステップ300では、複数の監視地点の時系列データをプロセスデータベース12から読み出して、プロセスデータの瞬時値、積算値、平均値、変化率を計算し、ステップ301では、プロセスデータの絶対値や変化率の上下限判定や統計処理判定などにより、各データの信頼性を診断する。
【0067】
続くステップ302では、ステップ301で正常と判定されプロセスデータの相互関係からデータの信頼性を診断し、次のステップ303では、データが端末2やデータ入出力端末14により予め設定されている基準値の範囲内か否を診断し、基準値範囲外のときは危害発生と判定する。そして、ステップ304で当該危害発生の時刻、監視地点などの情報をトレーサビリティデータベース13に格納するのである。
【0068】
次に、管理サーバ1が端末2に表示するトレーサビリティ画面について説明すると、まず、図6は、トレーサビリティ画面として、水質データと水質トレースが、履歴追跡の基準となる監視地点と時刻400と共に表示されるようにした場合の一例である。
【0069】
そして、この図6の場合、まず、水質データとしては、基準監視地点を表わすセンサデータ401と毎日の水質試験データ402、それに毎月の水質試験データ403が表示され、次に、水質トレースとしては、履歴追跡機能22により検索されたプロセス、つまり通過したプロセス404とプロセス出口通過時刻405、プロセス出口の水質406、それにプロセス操作として薬品注入操作407が、それぞれプロセス順に表示されるようになっている。
【0070】
次に、図7は、トレーサビリティ画面として、プロセストレースが、履歴追跡の基準となる監視地点と時刻400と共に表示されるようにした場合の一例で、この場合、履歴追跡機能22により検索したプロセス、つまり通過したプロセス408と通過時刻405、各プロセスを通過した流量並びにろ過速度410、それにプロセス操作として薬品注入操作411が、それぞれプロセス順に表示されるようになっている。
【0071】
従って、この実施形態によれば、需要家に供給される水道水がどのような操作を受けているのかがトレーサビリティ画面から把握することができ、この結果、水道水に異常が発見された場合の要因同定を迅速に実施できるというトレーサビリティが可能になる。
【0072】
そして、この結果、この実施形態によれば、トレーサビリティの概念を水道管理の危害分析及び重要管理点手法に適用できるので、危害分析や工程重点管理、或いは記録の適切な実施が可能にできる。
【0073】
ところで、本発明は、ビジネスモデルとしても把握できる。そこで、図8により、上記実施形態をビジネスに適用した場合の一例について説明すると、ここで、まず、水道施設所有事業者30と管理センタ31、維持管理会社32がビジネスの当事者で、管理センタ31に本発明の一実施形態による管理サーバ1が設置されている。
【0074】
ここで、まず、水道施設所有事業者30とは、飲料水を製造、配水する施設を所有する事業者で、水道事業体に代表される。そして、この水道施設所有事業者30には、水道施設の監視制御サーバ3と、管理センタ31のデータを受信する端末2が備えられる。
【0075】
このとき、管理センタ31と水道施設所有事業者30の間で所定の契約が締結されるが、この契約は、水道施設所有事業者30からはプロセスデータ提供とトレーサビリティサービス利用に関するもので、管理センタ31からみるとプロセスデータの収集とサービス提供に関するものであり、それぞれ情報提供回数、情報内容、契約期間、測定場所などが両者の合意によって設定されることになる。
【0076】
ここで、監視制御サーバ3については、水道施設所有事業者30の所有でも良いし、管理センタ31から貸与または支給されるものとしても良い。また、このときの管理センタ31と水道施設所有事業者30の契約条件は、浄水場のみでもよいし、送水施設、配水施設、給水施設を含めるものとしてもよい。
【0077】
次に、維持管理会社32と管理センタ31との間では、管理センタ31の保有するトレーサビリティの提供を受ける契約を行う。この契約は、管理センタ31からはサービス提供に関するもので、維持管理会社32からみると情報サービス利用に関するものであり、それぞれ情報提供回数、情報内容、契約期間、測定場所、支払条件などが設定され、この結果、維持管理会社32は端末2により、管理センタ31から情報を得ることができるようになる。
【0078】
このとき、水道施設所有事業者30と維持管理会社32、それに管理センタ31の3者の間での情報伝達は、ネットワーク、電子データメディア等の情報伝達手段を介して行われる。そして、管理センタ31に備えられた管理サーバ1は、例えばコンピュータからなり、パーソナルコンピュータ等の計算機や計算機上のソフトウエアからなる。
【0079】
そして、管理サーバ1は、複数の水道施設所有事業者30からのプロセスデータをネットワークを介して受信すると、流域全体のトレーサビリティを計算して、該当利用者に提示する。
【0080】
ここで、水道施設所有事業者30は、自前でも水道施設の運転を実施することもできるが、この実施形態では、維持管理会社32との契約により施設の運転管理業務そのものは維持管理会社3が実施するようになっている。
【0081】
そして、この実施形態では、水道施設所有事業者30と管理センタ31、それに維持管理会社3が分離されているが、これら3者は一体でもよい。或いは水道施設所有事業者30と管理センタ2が一体でもよいし、管理センタ31と維持管理会社32が一体になってもよい。
【0082】
また、この図8では、各当事者がそれぞれ一つしか記載されていないが、一つの管理センタ31が複数の水道施設所有事業者30とやり取りするケースもあり、一つの管理センタ31が複数の維持管理会社3とやり取りするケースもあるが、この実施形態では、何れの形態でも適用することができる。
【0083】
次に、上記実施形態をビジネスに適用した場合の他の一例について、図9により説明すると、この場合、管理センタ31は、水道施設所有事業者30A、30B、30C、それに維持管理会社32とネットワーク4により接続されている。
【0084】
そこで、水道施設所有事業者30A、30B、30C、それに維持管理会社32は、何れもネットワーク4を介して管理センタ31に設置されている管理サーバ1にアクセスする。このとき、管理サーバ1には、契約者だけがアクセスできるように、所定のセキュリティが施されている。
【0085】
そして、各水道施設所有事業者30A、30B、30Cは、各々水道施設6A、6B、6Cを所有している。このため、例えば水道施設所有事業者30Aには、ネットワーク4と接続される監視制御サーバ5Aと端末2Aが備えられていて、監視制御サーバ5Aが水道施設6Aからのプロセスデータを管理サーバ1に送信するようになっている。同様に、水道施設所有事業者30B、30Cも各々の監視制御サーバ5B、5Cを備え、自水道施設のプロセスデータを送信する。
【0086】
一方、端末2Aは、ネットワーク4に接続できるパーソナルコンピュータや携帯端末などで、管理サーバ10から情報提供を受けるのに使用されるが、この点も同様で、水道施設所有事業者30B、30Cも各々の端末2B、2Cを備え、管理サーバ10から情報提供を受ける。
【0087】
そこで、管理センタ31の管理サーバ1は、水道施設所有事業者30A、30B、30Cから送信されてくるプロセスデータを受信し、水道施設で製造かつ輸送される水道水のトレーサビリティを管理すると共に、トレーサビリティを水道施設所有事業者30や維持管理会社32などに配信する。
【0088】
このとき、維持管理会社32は、水道施設所有事業者30A、30B、30Cから水道施設の維持管理を受託する。そして、端末2を用いてトレーサビリティを収集する。なお、ここでは水道施設所有事業者が複数ある場合について説明するが、事業者が一つでも良い。
【0089】
ここで、これら図8と図9の実施形態による具体的な効果としては、水道施設所有事業者、維持管理会社にとっては、情報サービスをいつでもどこでも受けられ負担が軽減できることが挙げられる。
【0090】
また、これらの実施形態によれば、トレーサビリティに関連する高度な管理をサーバに委ねることができるので、職員確保の負担軽減が得られるという効果があり、更に、複数の事業体を共通の機能で管理しているので、事業者間のコミュニケーションを図ることができ、特に、広域な水環境に関する意識が高まる。
【0091】
このとき、管理センタ31にとっては、人口の変化、プロセスの変化、水源水質の変化など、各種の変化により、複数の水道施設に運用管理の変更が生じたとしても、管理センター31にある管理サーバ1の変更のみで容易に対応でき、変更を把握することができる。
【0092】
また、これらの実施形態によれば、広域に分散配置された施設の適切な運転と、業務の円滑化と効率化をすることができ、更に危機管理、設備投資などに対して適切な助言と対処ができる。しかも、このとき、サービス利用者はコンピュータソフトウェアの購入とセットアップ、更にはバージョンアップ対応などを行う必要がなく、低コストでトレーサビリティ情報を入手することができる。
【0093】
ここで、水質管理には、各事業者や各会社が個別に職員を必要十分に確保する必要がある。しかし、こうした職員の確保は、事業者の財政状況や人員構成などの条件が揃わなければならず、事業遂行上の大きな負担となっているが、このとき、これらの実施形態によれば、トレーサビリティ情報の収集と配信を柔軟に低コストで実現することができる。
【0094】
ところで、以上に説明した実施形態では、管理センタを設置し、ネットワーク回線に接続して情報を送受信するシステムとして説明したが、データ収集機能とWEBサーバ機能、履歴追跡機能、薬品管理機能、それに異常監視機能をそれぞれコンピュータに実現させるプログラムからなるソフトウエア、又は、このソフトウエアを格納した記録媒体(例えばCD−ROM等)を使用することにより、コンピュータを管理システムとすることができる。
【0095】
なお、上記の実施形態では、水道施設の一部の適用について説明したが、配水池、配水管網、追加塩素プロセス等に適用する場合でも、個別の情報内容や項目が異なるのみで、基本的な方式の枠組みは全く同様にして本発明を適用することができる。
【0096】
また、上記の実施形態では、本発明を水道施設に適用した場合について説明したが、他の飲料水プラント施設や一般的な連続プロセス工場等の施設管理についても、本発明が適用可能なことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明による水処理設備の管理装置の一実施形態を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における管理サーバの一例を示すブロック構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における履歴追跡機能の一例を示すブロック構成図である。
【図4】本発明の一実施形態における薬品管理機能の一例を示すブロック構成図である。
【図5】本発明の一実施形態における異常監視機能の一例を示すブロック構成図である。
【図6】本発明の一実施形態によるトレーサビリティ画面の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態にわるトレーサビリティ画面の他の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態をビジネスモデルに適用した場合の一例を示すブロック構成図である。
【図9】本発明の一実施形態をビジネスモデルに適用した場合の他の一例を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0098】
1:管理サーバ
2:端末
3:監視制御サーバ
4:ネットワーク
5:コントローラ
6:水道施設
10:CPU
11:施設データベース
12:プロセスデータベース
13:トレーサビリティデータベース
14:端末
15:インタフェース
16:薬品データベース
17:メモリ
20:データ収集機能
21:異常監視機能
22:履歴追跡機能
23:WEBサーバ機能
24:薬品管理機能
30:水道施設所有事業者
31:管理センタ
32:維持管理会社

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理設備において、
前記プロセスにより原水に対して施された操作履歴を経時的に記録し、追跡可能に保持する履歴追跡手段を設けたことを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項2】
原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理設備において、
少なくとも通過したプロセスと通過した時刻、それにプロセス操作を、前記原水に対して施された操作履歴とし、それを前記水処理施設のプロセスデータと施設データに基づいて追跡する手段と、
追跡結果を編集する手段とを設けたことを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項3】
原水から浄水を生成するプロセスを備えた水処理設備において、
前記水処理設備のプロセスデータが予め設定した基準値内であることを診断する手段と、
基準値範囲外を示したプロセスデータの計測地点を検出し、該計測地点より上流側のプロセスを対象に原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡手段とを設けたことを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかにおいて、
前記水処理設備のプロセスが、少なくとも凝集、沈殿、ろ過、消毒、輸送のうちの何れかのプロセスを含むことを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記水処理設備のプロセスが薬品注入対象プロセスを含み、当該プロセスにおける薬品情報と薬品注入率、それに滞留時間を追跡する追跡機能が設けられていることを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項6】
請求項5において、
薬品供給者からの薬品情報受け入れ履歴を管理し、前記薬品の注入操作を行うプロセスの操作履歴を追跡する手段と、
薬品との接触時間と前記受け入れ薬品履歴とを追跡する履歴追跡手段とを設けたことを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項7】
請求項4において、
前記水処理設備のプロセスがろ過プロセスを含み、当該プロセスにおけるろ過速度を追跡する追跡機能が設けられていることを特徴とする水処理設備の管理装置。
【請求項8】
水処理設備の複数のプロセスデータを、ネットワークを介して受信する管理サーバにおいて、
原水に対して施された操作履歴を、前記水処理設備のプロセスデータと施設データに基づいて追跡する履歴追跡機能を有することを特徴とする水処理設備の管理方法。
【請求項9】
原水に対して施された操作履歴を追跡する履歴追跡機能を、水処理施設のプロセスデータと施設データに基づいて、コンピュータに実行させるためのプログラムが格納された記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−43606(P2006−43606A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229367(P2004−229367)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】