水分抜き取り式メタン発酵
【課題】本発明は発酵槽内の消化汚泥の水分を抜き取ることによって消化率の向上と発酵
槽の小型化を目指す。
【解決手段】通常法メタン発酵では発酵槽に投入された基質バイオマスは微生物によって
消化されて消化ガスを発生すると共に、未消化の基質バイオマスと発酵の過程で増殖した
菌体が脱離水と共に消化汚泥として発酵槽出口から押し出されて廃棄されるが、本発明法
では発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取ることによって発酵槽内の消化汚泥(菌体)濃
度を高め、水分を抜き取って体積が減った分発酵槽内での滞留時間が長くなる。その結果
90%の高消化率と発酵槽容積の小型化が達成される。発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き
取る手段としては機械濃縮機、重力沈降槽、発酵槽の内表面に設けたフィルタ−などがあ
る。これらの中で発酵槽の内表面に設けたフィルタ−に加わる水圧を利用して水分を抜き
取る方式が最も低コストで優れている。
槽の小型化を目指す。
【解決手段】通常法メタン発酵では発酵槽に投入された基質バイオマスは微生物によって
消化されて消化ガスを発生すると共に、未消化の基質バイオマスと発酵の過程で増殖した
菌体が脱離水と共に消化汚泥として発酵槽出口から押し出されて廃棄されるが、本発明法
では発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取ることによって発酵槽内の消化汚泥(菌体)濃
度を高め、水分を抜き取って体積が減った分発酵槽内での滞留時間が長くなる。その結果
90%の高消化率と発酵槽容積の小型化が達成される。発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き
取る手段としては機械濃縮機、重力沈降槽、発酵槽の内表面に設けたフィルタ−などがあ
る。これらの中で発酵槽の内表面に設けたフィルタ−に加わる水圧を利用して水分を抜き
取る方式が最も低コストで優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のメタン発酵では発酵槽内に収容されている消化汚泥の水分を抜き取る事によっ
て発酵槽内の消化汚泥濃度(菌体濃度)が上がり、水分が減った分だけ消化汚泥の体積が
減り滞留時間が長くなる。その結果として消化率を理論値(90%以上)近くにまで高め、
発酵槽の小型化も達成することを目的とするメタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が叫ばれる折から、カ−ボンニュ−トラルなバイオマス系廃棄物からエネル
ギ−を回収する事はCO2削減策として大変重要である。下水汚泥・厨芥・畜産廃棄物・農
産廃棄物・食品加工廃棄物・製紙廃棄物などの水っぽいバイオマスからのエネルギ−回収
にはメタン発酵が最適と思われるが、従来のメタン発酵技術では固形分濃度5%以下のバイ
オマスを約4週間かけて発酵を行うために大容量の発酵槽を必要とし、しかも40〜60%の
低い消化率(バイオマス炭素分の消化ガスへの転換率)しか得られなかった。
【0003】
下水処理場では古くからメタン発酵が汚泥減量対策の一環として行われて来たが、あらゆる廃棄物が流れ込む下水は資源の宝庫と見なされる様になるにつれ、低炭素社会・資源循環社会を見据えた下水処理場へと将来像が変わりつつある。その将来像を支える基盤技術が高い消化率のメタン発酵である。下水に含まれている資源の主なものはエネルギ−・燐・希少金属であるが、エネルギ−と燐は有機質のバイオマス部分に、希少金属は無機質部分に含まれている。エネルギ−と燐の高効率回収には高消化率のメタン発酵技術が不可欠である。高消化率メタン発酵技術で処理すると燐は有機物から離れて脱離液中に、希少金属は有機物が除去された残渣の無機質部分に含まれる。
【0004】
また廃棄消化汚泥を焼却処分する際にCO2の310倍の温暖化係数を持つN2Oが生成するので
温室効果ガス削減の観点からしても汚泥の焼却量を少なくする高消化率メタン発酵技術が
不可欠である。即ち高消化率メタン発酵技術は将来の下水処理場を支える基盤技術である
。
【0005】
本発明者らはメタン発酵の技術革新を目指して脱水汚泥(高濃度バイオマス)メタン発酵
の研究を通して、滞留時間の短縮・発酵槽の小形化と90%近い消化率を得ているが、投入
バイオマス濃度が高過ぎるとNH3濃度障害が起こるのでその解決策が問題になっていた。
また汚泥濃度が上がるほど固体有機物の可溶化が促進される現象も発見していた。(非特許文献1と図9 を参照)
【0006】
この現象にメタン発酵の律速段階が可溶化工程(一般によく知られている)であることを
盛り込むと下記の図式から汚泥濃度とメタン発酵速度・消化率・滞留時間の関係が明らか
になる。
[汚泥濃度]∝[槽内の汚泥濃度]∝[槽内の菌体濃度]∝[槽内の可溶化酵素濃度] ∝[固体
有機物の可溶化速度] ∝[メタン発酵速度]
上記の図式で明らかなように原料汚泥を脱水するのと発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き
取って消化汚泥濃度を上げるのとは発酵槽内の可溶化酵素濃度を上げる点では同じ効果で
ある事から脱水汚泥の代わりに発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取ることによって高消
化率メタン発酵技術が開発できる事が分かる。
([0036] を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許番号第2138131号
【特許文献2】特許番号第2997833号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】(3)小林義雄“脱水汚泥のメタン発酵について”PPM 25 34〜41(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発酵槽の小型化と消化率90%の達成は脱水汚泥のメタン発酵で一応の目途は立っていた([
0031][消化率の算出]を参照 )が、(1)投入汚泥の含水率を下げすぎると発酵槽内のNH3高
濃度障害のためにメタン発酵が進まなくなる。(2)原料汚泥(バイオマス)を脱水するよ
りもメタン発酵によって減量された消化汚泥の水分を抜き取る方が費用が安価である。(3
)下水処理場のメタン発酵設備では発酵槽の小型化と消化率約45%から約90%への改善策が
重要テ−マである。
(1)(2)(3)の理由から本発明では[0003]で説明した発酵槽からの水分抜き取り方式による
小型発酵槽・高消化率メタン発酵技術を基盤とする下水処理システムを構築した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この水分抜き取り式メタン発酵技術の実現の課題はメタン発酵工程の反応工学的解析によ
って目途が立った。本発明者は脱水汚泥メタン発酵法のメカニズムを研究する中で発酵槽
に供給する基質バイオマス濃度が高くなるとメタン発酵の律速段階である固体の基質汚泥
(バイオマス)の可溶化が促進されることを発見した。発酵槽内での基質汚泥(バイオマ
ス)濃度が高くなると汚泥(バイオマス)に繁殖する菌体濃度も高くなり、可溶化菌が分
泌する可溶化酵素の濃度も高くなる。一方可溶化反応速度は可溶化酵素濃度に比例するの
で、可溶化酵素濃度が高くなると可溶化反応が促進されると言うわけである。
【0011】
多くの研究者の努力にも拘わらず現在実用化されているメタン発酵技術の消化率は40〜60
%を超える事が難しく、消化率の上限がどの辺にあるのかも定かではないなかで。水分抜
き取り式メタン発酵技術の実現に向けて本発明者は可溶化酵素濃度と消化率の関係を反応
工学的に導き、上記の消化率の問題点を明らかにした。即ち高い消化率を得るには発酵槽
内の消化汚泥(菌体)濃度を高くするか、または発酵槽容積を大きくして滞留時間を大き
くすればよいことが分かった(詳しくは〔本発明の実験的裏付け〕[0030]〜[0035]を参照)。
【0012】
メタン発酵の消化率(基質バイオマスの炭素分の消化ガスへの転化率)については基質バ
イオマスの炭素分の5〜10%が菌体として固定されると考えると究極的には約90%が消化ガ
スに転化される。つまりは消化率の上限は約90%と考えられる
。この結論は私どもが開発した脱水汚泥のメタン発酵で約90%の消化率が得られている実
験事実([0032]〜[0035][消化率の算出]を参照 )とも一致する。
【0013】
水分抜き取り式メタン発酵の消化率の上限(約90%)は基質バイオマスの炭素分の5〜10%が菌体として固定されることに起因するが、この閾を越えるためには、例えば図5、図6、図7 に記載の菌体を多く含んだ廃棄消化汚泥を熱処理して菌体の細胞を破壊して発酵槽入り口に投入すれば消化率は90%より更に上がる。水分抜き取り式メタン発酵の廃棄消化汚泥量は初期投入汚泥の1/10になっているために熱処理した廃棄消化汚泥を発酵槽に戻しても発酵槽容量への負担は少ない。
【0014】
通常法メタン発酵システムでは固形分濃度5%以下のバイオマスを約4週間かけて発酵を行
うために大容量の発酵槽を必要とし、しかも40〜50%の低い消化率(尤も最近は40〜60%に
進歩している)しか得られなかった。このメタン発酵システムで滞留時間を2ヶ月にすれ
ば消化率は80%近い値に上がったかも知れないが2ヶ月の滞留時間を確保するには現状の発
酵槽の他に更に1〜2倍容量の発酵槽が必要となる事を意味しているが、その様な巨大発酵
槽は非現実的であり、自然の成り行きとして現実的な消化率の上限が40〜60%になってい
たと思われる。
【0015】
通常法メタン発酵システムでは発酵中に増殖した菌体を未消化バイオマスと共に消化汚泥
として発酵槽外に排出している。つまり通常法メタン発酵システムでは発酵の進行と共に
発酵槽内の固形分濃度は下がるがそのまま消化汚泥として発酵槽外に排出しているが、こ
こで重力沈降槽とか汚泥濃縮機を使って消化汚泥の水分を発酵槽外に排出すれば発酵槽内
の消化汚泥(菌体を含む)濃度を高め、且つ水分が減った分だけ滞留時間を長くすること
が出来る。
【0016】
本発明システム方法ではこの様に発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取る事によって発酵
槽内の消化汚泥(菌体)濃度が上がり、水分が減った分だけ滞留時間が長くなる。その結
果として発酵速度が上がり、90%消化率と発酵槽の小型化を可能にした。
【0017】
本発明システムの発酵槽から水分を抜き取る具体的な手段は先に述べた消化汚泥濃縮機、
重力沈降槽による方法、廃棄処分用の消化汚泥脱水ケ−キの一部を発酵槽に戻す方法、発
酵槽の内表面にフィルタ−を設ける方法([0025][0026]を参照 )等が考えられる。要は
発酵槽内の消化汚泥(菌体)濃度・可溶化酵素濃度を高めればよい。消化汚泥から水分を
抜き取る操作の助剤として凝集剤を発酵槽に添加することも有効である。
【0018】
発酵槽内の水分を抜き取ると発酵槽内の固形分濃度が高くなって流動性がなくなり基質バ
イオマスの植菌がスム−スに行われない弊害が心配されるが、発酵槽内の菌体濃度・可溶
化酵素濃度が上がると発酵速度が上がり基質バイオマスが可溶化・ガス化を経て消滅して
行くので発酵槽内の粘度(固形分濃度)が異常に上がることはない。むしろ運転管理は発
酵槽内の粘度(固形分濃度)を一定に保ちながら供給汚泥量と排出消化汚泥量を決めるこ
とになる。
【0019】
以上の説明は定常状態での事であるが、定常状態に至るまでの過程では未消化の基質バイ
オマスが消化ガスに転化して消化率が従来の45%から90%に向けて連続的に変化する。長時
間連続運転の過程で消化汚泥中の未消化の基質バイオマス量が減少し、その減少分が菌体
の増加量で置き換わるので発酵槽内の固形分濃度(粘度)が異常に増加して基質バイオマ
スの植菌が阻害されることはない。
【発明の効果】
【0020】
[本発明方法の適用例その1.]
下水処理場の既設メタン発酵設備に発酵槽内の水分を抜き取る設備(濃縮機・重力沈降槽
・発酵槽の内表面に設けられたフィルタ−)を設ける以外に大きな改造を行うことなくメ
タン発酵槽の消化率を約45%から約90%にまで高め、且つ汚泥の処理能力も高められる。そ
の結果メタンガス回収量が倍増になり、廃棄消化汚泥の焼却処分に伴う補助燃料が減り、
地球温暖化係数310のN2O発生量が減る。
【0021】
下水汚泥1t(DS)を通常法(消化率45%)メタン発酵技術と水分抜き取り式(消化率90%)メ
タン発酵技術で処理した場合の温室効果ガス排出量の増減と補助燃料消費量を下記の表に
示す。
【表1】
既設のメタン発酵設備に僅かな設備投資をするだけで消化率90%の水分抜き取り式メタン
発酵が実現する。表1は水分抜き取り式メタン発酵では通常法メタン発酵の約2倍量のCH4
ガス回収が得られる事と、消化汚泥の焼却処分量が少ない事のために温室効果ガスの排出
量が通常法メタン発酵よりも圧倒的に少ないことを示している。
【0022】
更に消化率が90%になることによって乾燥下水汚泥の約2%含まれていると言われている燐
の90%が脱離水中に溶け出すが、この脱離水にMg(MgCl2,MgSO4など)を加えると枯渇が叫
ばれ目下市場価格の高騰が進みつつある燐資源が難溶性NH4MgPO4・6H2Oの結晶として容易
に回収出来る。また将来的には希少金属の回収も可能になるだろう。このように消化率90
%をもたらす水分抜き取り式メタン発酵は低炭素社会・資源循環社会における下水処理場
を支える基盤技術となる。消化率が90%に進化することによって下水処理場におけるメタ
ン発酵は汚泥の減量策を支える脇役的存在から、下水処理場を支える主役の基盤技術に躍
進する。
【0023】
[本発明方法の適用例その2.]
窒素分が多く且つ含水率の低い畜産廃棄物を本発明者らが開発した高濃度汚泥(バイオマ
ス)のメタン発酵技術で処理すると発酵槽内のNH3濃度が高くなり過ぎて発酵がスム−ス
に進まない欠点があった。畜産廃棄物を水で希釈するとNH3濃度障害を回避する事が出来
るが、その反面発酵槽容積の増大を招く。しかし畜産廃棄物を水で希釈し、発酵槽の内表
面に設けたフィルタ−を通して水分を除去する方式を採用すれば大きなコストを掛けるこ
となく発酵槽容積を大きくせずにNH3濃度障害を回避する事が出来る。
【0024】
この様に本発明システムはバイオマス系廃棄物のメタン発酵の既設設備、新設設備に適用
されて発酵槽の小型化と約90%の高消化率化で大きな経済効果をもたらし、地球規模の温
室効果ガス削減に大いに貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1 は通常法メタン発酵の発酵槽内の物質流れを、図2、図3、図4 は水分抜き取り式メ
タン発酵の物質流れを示す。通常法では投入された基質バイオマス(汚泥)は滞留時間内
に増殖した菌体はそのまま消化汚泥として系外に排出される(図1を参照)が、本発明方
法(水分抜き取り式メタン発酵)では発酵槽内の消化汚泥の水分を抜き取る事によって消
化汚泥の体積が減った分、発酵槽内での滞留時間が長くなる。長くなった滞留時間に応じ
て菌体の増殖量が増し、発酵槽内の菌体濃度が高くなる。菌体濃度が高くなると固体有機
物の可溶化が促進され、メタン発酵速度が速くなる。その結果これまでは不可能と思われ
ていた消化率の45%から90%への進化と発酵槽の小型化が可能となった。(定量的な説明は
物質収支を表した図5、図6、図7の解析の項[0044][0045]を参照)
【0026】
[水分抜き取り方法]
発酵槽内の水分抜き取りの手段としては機械濃縮(図2)、重力沈降(図3)がよく知られ
ているが、それらより遙かに低コスト方式として発酵槽の内表面にフィルタ−を設け、フ
ィルタ−に掛かる水圧を利用してフィルタ−を介して水分を抜き取る(図4)方式を新た
なる発明としてここに提案する。
【0027】
[発酵槽の内表面に設けたフィルタ−による方法]
この方式は槽の内表面に設けたフィルタ−に掛かる水圧を利用して水分のみを抜き取るも
のであり、汚泥の含水率を下げることを目的にしたフィルタ−プレス脱水機とは機能を全
く異にしており、その分エネルギ−消費量が少なくて済む。本発明システムに組み込む水
分抜き取り装置の中では槽内表面に設けたフィルタ−方式が設備費・エネルギ−消費量の
両面で最も優れている。
【0028】
フィルタ−上での消化汚泥堆積層の成長は水分抜き取りの障害要因であるが、堆積層の成
長で汚泥濃度が上がると可溶化が促進されるために堆積層の成長が抑制される方向に働く
。この可溶化効果と槽内の撹拌効果、その上凝集剤効果、逆洗効果の相乗効果で水分抜き
取りが阻害されることはない。この方式はフィルタ−逆洗などのフィルタ−補修用の設備
以外は大掛かりな設備を構えることなく、また水分抜き取りに必要な動力は槽の内表面に
設けたフィルタ−に掛かる水圧を利用するために特別な電力消費を伴わないが、水分抜き
取りに特に有効な槽の内表面は大きな水圧が掛かる槽下部の内表面が好ましい。発酵槽に
凝集剤を添加することによって水分抜き取りが一層容易になる。
【0029】
この方式は新設のみならず、既設設備に小さな改造を施すだけでCO2削減と経済性に大き
な効果をもたらす。既設のメタン発酵槽で発酵槽の改造が困難な場合には内表面にフィル
タ−を設けた配管及び又は内表面にフィルタ−を設けた容器を発酵槽との間にポンプを介
して接続する方法で水を抜き取ることが出来る。
〔本発明の実験的裏付け〕
【0030】
[メタン発酵消化率の上限値]
これまでメタン発酵の消化率の上限がどの辺にあるのかさえ定かではなかったが、固形分
濃度15%の脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タ(図 8 : 特許登録番号2997833、[非特許
文献] PPM 25 34〜41(1994)を参照)に基づいて炭素収支・エネルギ−収支・下水処理
場の運転デ−タから消化率を計算すると約90%が得られた([0032]〜[0035][消化率の算出
]を参照 )。炭素分の5〜10%が菌体に転化されると考えると、脱水汚泥のメタン発酵の実
験では理論値に近い消化率が得られたことになる。
【0031】
[図8 の基礎実験デ−タから消化率を算出するためのデ−タの整理]
図8 から28日間の積算量を読み取ると
投入有機質汚泥量:2.733kg
消化ガス発生量:2.00m3N
投入有機質汚泥量当たりの消化ガス発生量:0.732m3N/kg
【0032】
[消化率の算出(その1)物質収支に基づく方法]
下水汚泥(有機質)の分析値(重量%): H 6.33%, C 42.11%, N 6.55%
投入基質汚泥の炭素量:421.1g/kg(汚泥)=35.09mol/kg(汚泥)
消化ガス(CH4+CO2)の炭素量:0.732 m3N/kg(汚泥)=30.97mol/kg(汚泥)
消化率:30.97mol/kg(汚泥)÷35.09mol/kg(汚泥)= 0.88
【0033】
[消化率の算出(その2)熱収支に基づく方法]
消化ガス組成:CH4 60%、CO2 40%
CH4の熱量:9500kcal/m3N
下水汚泥の発熱量:4500kcal/kg
消化ガスの発熱量:9500kcal/m3N×0.60 = 5700kcal/ m3N
消化率:5700kcal/m3N×0.732 m3N/kg÷4500kcal/kg = 0.93
【0034】
[消化率の算出(その3)下水処理場の運転デ−タに基づく方法]
下水処理場の運転デ−タ図5 から
消化された有機質汚泥=11.00t/d−6.05t/d=4.95t/d
発生消化ガス量=4322.3m3N/d
汚泥1kgより発生する消化ガス量(理論値):4322m3N/d÷4950kg/d=0.87m3N/kg
投入有機質汚泥量に対応する消化ガス量:2.733kg×0.87m3N/kg=2.377m3N 消化率:
2.0m3N÷2.37m3N=0.84
【0035】
[消化率の算出(まとめ)]
脱水汚泥メタン発酵(図8)の消化率の計算結果をまとめると
[0031]物質収支基準:88%、
[0032]熱収支基準:93%、
[0033] 下水処理場の運転デ−タ基準:84%
消化率の平均値:88%
つまり15(DS)%濃度の脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タの解析から約90%の消化率が得
られることが明らかになった。
【0036】
[15(DS)%濃度の脱水汚泥メタン発酵の消化汚泥濃度]
15(DS)%濃度の脱水汚泥を消化率90%でメタン発酵を行うと発酵槽内の消化汚泥濃度は4(DS
)% となるが、これは将に [0044][図7]で示された水分抜き取り式メタン発酵の消化汚泥
濃度と同じものである。つまり投入下水汚泥を予め脱水する方式と発酵槽内の消化汚泥の
水分を抜き取る方式はNH3の阻害要因以外は発酵速度・消化率に関しては全く同じであり
、15(DS)%濃度の脱水汚泥で得た消化率90%は[0044][図7]の水分抜き取り式メタン発酵に
も適用される。
【0037】
[何故消化率90%が得られるのか]
通常法メタン発酵では消化率は45〜60%と考えられていた事からすると、90%は大変な進歩
である。この原因は基質汚泥濃度が上がることによって菌体濃度も上がり、可溶化菌が体
外に分泌する可溶化酵素の濃度が上がる。その結果基質汚泥の可溶化反応が促進されるた
めであると考え、汚泥濃度とTOC総量( =水溶性のTOC量+消化ガス量をTOCに換算した値
)の関係を測定した。
【0038】
[汚泥濃度vsTOC総量の測定]
下水処理場から提供を受けた液状の生汚泥(基質汚泥)と液状の消化汚泥を混合して遠
心管(500cm3)に均等に精秤し、遠心分離した後に上澄み液を除去すると共に蒸留水を添加
して2〜15(DS)%濃度に調整した。次にこの遠心管に栓を装着して55℃の恒温槽でメタン発
酵を行い、毎日遠心管中のTOCと発生した消化ガス量を測定した。経過日数4日、7日、10
日、13日の測定値をプロットしたものが図9である。図9 から経過日に係わらずTOC総量に
対する汚泥濃度効果はほぼ一定であることが分かる。
図9 の縦軸(TOC総量)(=水溶性のTOC量+消化ガス量をTOCに換算した値 )は遠心管(5
00cm3)に均等に精秤した汚泥から溶出した炭素量を(mg)で表した。
【0039】
[メタン発酵可溶化工程の反応速度解析]
基質汚泥濃度が上がることによって基質汚泥の可溶化反応が促進されることが図9 で実
証された。これを基に可溶化工程の反応速度解析を行うと下記の様になる。つまりこの現
象を整理すると下記の様な比例関係が浮上する。
[汚泥濃度]∝[菌体濃度] ∝[可溶化酵素濃度] ∝[可溶化反応速度]
この関係を化学反応式と反応速度式で表すと
化学反応式 : 基質汚泥 A + H2O → 可溶化有機物(有機酸など)a
可溶化酵素C
反応速度式 : da/dt = k・C
反応速度式の積分形: a = k・C・t
A:固体基質汚泥
a:可溶化有機物量(=メタンガス生成量)、
t:反応時間(滞留時間)、
C:酵素濃度、
k:反応速度定数(汚泥の組成物毎に異なった値になる)
反応工学的解析の結論を纏めると 可溶化有機物量 a は可溶化酵素濃度 C と反応時間(
滞留時間)tに比例するが、基質汚泥濃度には直接関係しないことである。つまり基質汚
泥濃度が低くても高くても(4%でも15%でも)可溶化酵素濃度 と滞留時間さえ確保すれば
90%消化率が得られ、発酵槽小型化は可溶化酵素濃度さえ上げれば実現可能と言うことで
ある。
【0040】
この反応速度式によると脱水汚泥メタン発酵で得られた90%の消化率は汚泥の固形分濃度
を15%にした結果、汚泥に繁殖する菌体濃度が上がり、菌体が分泌する可溶化酵素濃度が
上がったことによるものと考えられる。つまり汚泥濃度15%は通常濃度4.5%の約3倍であり
、可溶化酵素濃度も通常の約3倍になると考えれば通常法では消化率45%のものが90%(理
論値に近い値)になることは妥当である。
【0041】
この反応速度式によると基質汚泥濃度に関わらず菌体濃度さえ高めれば理論値に近い消化
率を得ることも、発酵槽容積を小さくすることも出来る。本発明者はこの原理に基づいて
発酵槽内の水分を抜き取って消化汚泥濃度を高く保ち、且つ取り扱う消化汚泥の体積を小
さくする。その結果、発酵槽容積が同じであれば滞留時間が長くなる。この原理によって
高性能のメタン発酵を行う方法を発明した。
【0042】
滞留時間、菌体濃度、メタン発酵速度、消化率、発酵槽容積の関係を定量的な解析を通し
て明らかにするために図1 に現実に操業されている下水処理場の物質収支を記入して図5
とし、機械濃縮の図2 には消化率90%([0035][消化率の算出]を参照)と発酵槽内の汚泥
濃度3(DS)%を想定した物質収支を記入して図6 とし、槽の内表面に設けたフィルタ−によ
る水分抜き取り方式の図4 には消化率90%と発酵槽内の汚泥濃度4(DS)%を想定した物質収
支を記入して図 7 とした。
【0043】
通常法の物質収支図(図5 )と水分抜き取り方式の物質収支図(図6、図7)の3つの図は
発酵槽の大きさ、投入汚泥の汚泥濃度・投入量は全て同じであるが、発酵槽内の水分を抜
き取る量によって発酵槽内の菌体濃度、基質有機物の滞留時間が大幅に異なっていて、そ
の結果として消化率が45%から90%に進化する事を示している。これが本発明の原理を分か
り易く明示する図である。
【0044】
図6 と図7 は発酵槽内の水分を抜き取る方法の違いを示したものである。図6 の機械濃縮
は高いコストがかかるために水分の抜き取り量を少なめにして発酵槽内の消化汚泥濃度を
3%と設定しているが、図7 は発酵槽の内表面にフィルタ−を設けて、そのフィルタ−に掛
かる水圧を利用して水分の抜き取りを行う方式であるために水分抜き取りコストが割安で
ある事を配慮して、水分抜き取り量を多めにして発酵槽内の消化汚泥濃度を4%と設定して
いる。
【0045】
図5、図6、図7の物質収支図から下記の計算方式に従って通常のメタン発酵に対する発酵
槽内での菌体濃度増加率と滞留時間増加率を算出した。
発酵槽内の菌体量を計量する事は困難であるためメタン発酵の進行と共に質量変化を伴わ
ない固体無機物を菌体量の指標とし、発酵槽内の水分抜き取りによって生じる菌体濃度の
増加率(=固体無機物濃度の増加率)を次式によって算出した。
【0046】
通常法メタン発酵に対する[槽内の菌体濃度増加率]=
(水分抜き取り式の槽内固体無機物濃度)÷(通常法の槽内固体無機物濃度 )
図 6 の場合:[槽内の菌体濃度増加率]=1.94%÷0.47% =4.12
図 7 の場合:[槽内の菌体濃度増加率]=2.57%÷0.47% =5.46
同様に通常法メタン発酵に対する[槽内の滞留時間増加率]=
(通常法の排出消化汚泥量)÷(水分抜き取り式の排出消化汚泥量 )
図6 の場合:[槽内の滞留時間増加率]=421.05t/d÷103.33t/d=4.07
図7 の場合:[槽内の滞留時間増加率]=421.05t/d÷77.5t/d=5.43
【0047】
以上の計算結果を下記 表2 に水分抜き取り式メタン発酵と通常法メタン発酵の比較表と
して示す。
【表2】
【0048】
表2 は発酵槽から水分を抜き取る方式のメタン発酵と通常法メタン発酵との比較を示し
たものであるが、投入汚泥(バイオマス)の段階で水分を除去しても滞留時間・菌体濃度
と消化率の関係は同じ傾向が得られることから、脱水汚泥メタン発酵と発酵槽内の水分抜
き取り式メタン発酵は原理的には同じものであることを示している。([0036]を参照)
【0049】
[0039][メタン発酵可溶化工程の反応速度解析]では
[汚泥濃度]∝[菌体濃度] ∝[可溶化酵素濃度] ∝[可溶化反応速度]
の関係と[メタンガス生成量] =k[可溶化酵素濃度] ×[滞留時間]の関係について述べて
いるが、表2 から分かるように滞留時間増加率と菌体濃度増加率は同数なのでメタンガ
ス生成量に対する水分抜き取りの効果は水分抜き取り量の二乗に効く事になり、その結果
少しの水分抜き取り量でも消化率への影響が大きい事が分かった。
【0050】
またこの事は発酵槽の小型化の可能性をも示唆している。
図7の例では[可溶化酵素濃度増加率] ×[滞留時間増加率]≒25 でこの内消化率を45%か
ら90%に増加するためのポテンシャルとして5を振り当て、残りの5を発酵槽の小型化に振
り当てると発酵槽容積は通常法メタン発酵の1/5で収まることになる。つまり新しく開発
した計算方式によると発酵槽内の消化汚泥(DS)濃度を4%に設定するだけで消化率を45%か
ら90%に、発酵槽容積を通常法メタン発酵の1/5に出来る可能性が見えてきた。
水分抜き取り式メタン発酵を実用化段階で検証するために 表2 に基づいて下水処理場で
の1/1000規模の実証試験準備が行われている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】通常法メタン発酵の物質流れの概念図
【図2】機械濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図3】重力濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図4】槽内表面のフィルタ−による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図5】通常法メタン発酵の物質収支図
【図6】機械濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質収支図
【図7】槽内表面のフィルタ−による水分抜き取り式メタン発酵の物質収支図
【図8】脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タの図
【図9】汚泥濃度(DS%)とTOC総量(mg)(=水溶性のTOC量+発生ガス量をTOCに換算した値)の関係を示す図
【技術分野】
【0001】
本発明のメタン発酵では発酵槽内に収容されている消化汚泥の水分を抜き取る事によっ
て発酵槽内の消化汚泥濃度(菌体濃度)が上がり、水分が減った分だけ消化汚泥の体積が
減り滞留時間が長くなる。その結果として消化率を理論値(90%以上)近くにまで高め、
発酵槽の小型化も達成することを目的とするメタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が叫ばれる折から、カ−ボンニュ−トラルなバイオマス系廃棄物からエネル
ギ−を回収する事はCO2削減策として大変重要である。下水汚泥・厨芥・畜産廃棄物・農
産廃棄物・食品加工廃棄物・製紙廃棄物などの水っぽいバイオマスからのエネルギ−回収
にはメタン発酵が最適と思われるが、従来のメタン発酵技術では固形分濃度5%以下のバイ
オマスを約4週間かけて発酵を行うために大容量の発酵槽を必要とし、しかも40〜60%の
低い消化率(バイオマス炭素分の消化ガスへの転換率)しか得られなかった。
【0003】
下水処理場では古くからメタン発酵が汚泥減量対策の一環として行われて来たが、あらゆる廃棄物が流れ込む下水は資源の宝庫と見なされる様になるにつれ、低炭素社会・資源循環社会を見据えた下水処理場へと将来像が変わりつつある。その将来像を支える基盤技術が高い消化率のメタン発酵である。下水に含まれている資源の主なものはエネルギ−・燐・希少金属であるが、エネルギ−と燐は有機質のバイオマス部分に、希少金属は無機質部分に含まれている。エネルギ−と燐の高効率回収には高消化率のメタン発酵技術が不可欠である。高消化率メタン発酵技術で処理すると燐は有機物から離れて脱離液中に、希少金属は有機物が除去された残渣の無機質部分に含まれる。
【0004】
また廃棄消化汚泥を焼却処分する際にCO2の310倍の温暖化係数を持つN2Oが生成するので
温室効果ガス削減の観点からしても汚泥の焼却量を少なくする高消化率メタン発酵技術が
不可欠である。即ち高消化率メタン発酵技術は将来の下水処理場を支える基盤技術である
。
【0005】
本発明者らはメタン発酵の技術革新を目指して脱水汚泥(高濃度バイオマス)メタン発酵
の研究を通して、滞留時間の短縮・発酵槽の小形化と90%近い消化率を得ているが、投入
バイオマス濃度が高過ぎるとNH3濃度障害が起こるのでその解決策が問題になっていた。
また汚泥濃度が上がるほど固体有機物の可溶化が促進される現象も発見していた。(非特許文献1と図9 を参照)
【0006】
この現象にメタン発酵の律速段階が可溶化工程(一般によく知られている)であることを
盛り込むと下記の図式から汚泥濃度とメタン発酵速度・消化率・滞留時間の関係が明らか
になる。
[汚泥濃度]∝[槽内の汚泥濃度]∝[槽内の菌体濃度]∝[槽内の可溶化酵素濃度] ∝[固体
有機物の可溶化速度] ∝[メタン発酵速度]
上記の図式で明らかなように原料汚泥を脱水するのと発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き
取って消化汚泥濃度を上げるのとは発酵槽内の可溶化酵素濃度を上げる点では同じ効果で
ある事から脱水汚泥の代わりに発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取ることによって高消
化率メタン発酵技術が開発できる事が分かる。
([0036] を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許番号第2138131号
【特許文献2】特許番号第2997833号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】(3)小林義雄“脱水汚泥のメタン発酵について”PPM 25 34〜41(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発酵槽の小型化と消化率90%の達成は脱水汚泥のメタン発酵で一応の目途は立っていた([
0031][消化率の算出]を参照 )が、(1)投入汚泥の含水率を下げすぎると発酵槽内のNH3高
濃度障害のためにメタン発酵が進まなくなる。(2)原料汚泥(バイオマス)を脱水するよ
りもメタン発酵によって減量された消化汚泥の水分を抜き取る方が費用が安価である。(3
)下水処理場のメタン発酵設備では発酵槽の小型化と消化率約45%から約90%への改善策が
重要テ−マである。
(1)(2)(3)の理由から本発明では[0003]で説明した発酵槽からの水分抜き取り方式による
小型発酵槽・高消化率メタン発酵技術を基盤とする下水処理システムを構築した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この水分抜き取り式メタン発酵技術の実現の課題はメタン発酵工程の反応工学的解析によ
って目途が立った。本発明者は脱水汚泥メタン発酵法のメカニズムを研究する中で発酵槽
に供給する基質バイオマス濃度が高くなるとメタン発酵の律速段階である固体の基質汚泥
(バイオマス)の可溶化が促進されることを発見した。発酵槽内での基質汚泥(バイオマ
ス)濃度が高くなると汚泥(バイオマス)に繁殖する菌体濃度も高くなり、可溶化菌が分
泌する可溶化酵素の濃度も高くなる。一方可溶化反応速度は可溶化酵素濃度に比例するの
で、可溶化酵素濃度が高くなると可溶化反応が促進されると言うわけである。
【0011】
多くの研究者の努力にも拘わらず現在実用化されているメタン発酵技術の消化率は40〜60
%を超える事が難しく、消化率の上限がどの辺にあるのかも定かではないなかで。水分抜
き取り式メタン発酵技術の実現に向けて本発明者は可溶化酵素濃度と消化率の関係を反応
工学的に導き、上記の消化率の問題点を明らかにした。即ち高い消化率を得るには発酵槽
内の消化汚泥(菌体)濃度を高くするか、または発酵槽容積を大きくして滞留時間を大き
くすればよいことが分かった(詳しくは〔本発明の実験的裏付け〕[0030]〜[0035]を参照)。
【0012】
メタン発酵の消化率(基質バイオマスの炭素分の消化ガスへの転化率)については基質バ
イオマスの炭素分の5〜10%が菌体として固定されると考えると究極的には約90%が消化ガ
スに転化される。つまりは消化率の上限は約90%と考えられる
。この結論は私どもが開発した脱水汚泥のメタン発酵で約90%の消化率が得られている実
験事実([0032]〜[0035][消化率の算出]を参照 )とも一致する。
【0013】
水分抜き取り式メタン発酵の消化率の上限(約90%)は基質バイオマスの炭素分の5〜10%が菌体として固定されることに起因するが、この閾を越えるためには、例えば図5、図6、図7 に記載の菌体を多く含んだ廃棄消化汚泥を熱処理して菌体の細胞を破壊して発酵槽入り口に投入すれば消化率は90%より更に上がる。水分抜き取り式メタン発酵の廃棄消化汚泥量は初期投入汚泥の1/10になっているために熱処理した廃棄消化汚泥を発酵槽に戻しても発酵槽容量への負担は少ない。
【0014】
通常法メタン発酵システムでは固形分濃度5%以下のバイオマスを約4週間かけて発酵を行
うために大容量の発酵槽を必要とし、しかも40〜50%の低い消化率(尤も最近は40〜60%に
進歩している)しか得られなかった。このメタン発酵システムで滞留時間を2ヶ月にすれ
ば消化率は80%近い値に上がったかも知れないが2ヶ月の滞留時間を確保するには現状の発
酵槽の他に更に1〜2倍容量の発酵槽が必要となる事を意味しているが、その様な巨大発酵
槽は非現実的であり、自然の成り行きとして現実的な消化率の上限が40〜60%になってい
たと思われる。
【0015】
通常法メタン発酵システムでは発酵中に増殖した菌体を未消化バイオマスと共に消化汚泥
として発酵槽外に排出している。つまり通常法メタン発酵システムでは発酵の進行と共に
発酵槽内の固形分濃度は下がるがそのまま消化汚泥として発酵槽外に排出しているが、こ
こで重力沈降槽とか汚泥濃縮機を使って消化汚泥の水分を発酵槽外に排出すれば発酵槽内
の消化汚泥(菌体を含む)濃度を高め、且つ水分が減った分だけ滞留時間を長くすること
が出来る。
【0016】
本発明システム方法ではこの様に発酵槽内の消化汚泥から水分を抜き取る事によって発酵
槽内の消化汚泥(菌体)濃度が上がり、水分が減った分だけ滞留時間が長くなる。その結
果として発酵速度が上がり、90%消化率と発酵槽の小型化を可能にした。
【0017】
本発明システムの発酵槽から水分を抜き取る具体的な手段は先に述べた消化汚泥濃縮機、
重力沈降槽による方法、廃棄処分用の消化汚泥脱水ケ−キの一部を発酵槽に戻す方法、発
酵槽の内表面にフィルタ−を設ける方法([0025][0026]を参照 )等が考えられる。要は
発酵槽内の消化汚泥(菌体)濃度・可溶化酵素濃度を高めればよい。消化汚泥から水分を
抜き取る操作の助剤として凝集剤を発酵槽に添加することも有効である。
【0018】
発酵槽内の水分を抜き取ると発酵槽内の固形分濃度が高くなって流動性がなくなり基質バ
イオマスの植菌がスム−スに行われない弊害が心配されるが、発酵槽内の菌体濃度・可溶
化酵素濃度が上がると発酵速度が上がり基質バイオマスが可溶化・ガス化を経て消滅して
行くので発酵槽内の粘度(固形分濃度)が異常に上がることはない。むしろ運転管理は発
酵槽内の粘度(固形分濃度)を一定に保ちながら供給汚泥量と排出消化汚泥量を決めるこ
とになる。
【0019】
以上の説明は定常状態での事であるが、定常状態に至るまでの過程では未消化の基質バイ
オマスが消化ガスに転化して消化率が従来の45%から90%に向けて連続的に変化する。長時
間連続運転の過程で消化汚泥中の未消化の基質バイオマス量が減少し、その減少分が菌体
の増加量で置き換わるので発酵槽内の固形分濃度(粘度)が異常に増加して基質バイオマ
スの植菌が阻害されることはない。
【発明の効果】
【0020】
[本発明方法の適用例その1.]
下水処理場の既設メタン発酵設備に発酵槽内の水分を抜き取る設備(濃縮機・重力沈降槽
・発酵槽の内表面に設けられたフィルタ−)を設ける以外に大きな改造を行うことなくメ
タン発酵槽の消化率を約45%から約90%にまで高め、且つ汚泥の処理能力も高められる。そ
の結果メタンガス回収量が倍増になり、廃棄消化汚泥の焼却処分に伴う補助燃料が減り、
地球温暖化係数310のN2O発生量が減る。
【0021】
下水汚泥1t(DS)を通常法(消化率45%)メタン発酵技術と水分抜き取り式(消化率90%)メ
タン発酵技術で処理した場合の温室効果ガス排出量の増減と補助燃料消費量を下記の表に
示す。
【表1】
既設のメタン発酵設備に僅かな設備投資をするだけで消化率90%の水分抜き取り式メタン
発酵が実現する。表1は水分抜き取り式メタン発酵では通常法メタン発酵の約2倍量のCH4
ガス回収が得られる事と、消化汚泥の焼却処分量が少ない事のために温室効果ガスの排出
量が通常法メタン発酵よりも圧倒的に少ないことを示している。
【0022】
更に消化率が90%になることによって乾燥下水汚泥の約2%含まれていると言われている燐
の90%が脱離水中に溶け出すが、この脱離水にMg(MgCl2,MgSO4など)を加えると枯渇が叫
ばれ目下市場価格の高騰が進みつつある燐資源が難溶性NH4MgPO4・6H2Oの結晶として容易
に回収出来る。また将来的には希少金属の回収も可能になるだろう。このように消化率90
%をもたらす水分抜き取り式メタン発酵は低炭素社会・資源循環社会における下水処理場
を支える基盤技術となる。消化率が90%に進化することによって下水処理場におけるメタ
ン発酵は汚泥の減量策を支える脇役的存在から、下水処理場を支える主役の基盤技術に躍
進する。
【0023】
[本発明方法の適用例その2.]
窒素分が多く且つ含水率の低い畜産廃棄物を本発明者らが開発した高濃度汚泥(バイオマ
ス)のメタン発酵技術で処理すると発酵槽内のNH3濃度が高くなり過ぎて発酵がスム−ス
に進まない欠点があった。畜産廃棄物を水で希釈するとNH3濃度障害を回避する事が出来
るが、その反面発酵槽容積の増大を招く。しかし畜産廃棄物を水で希釈し、発酵槽の内表
面に設けたフィルタ−を通して水分を除去する方式を採用すれば大きなコストを掛けるこ
となく発酵槽容積を大きくせずにNH3濃度障害を回避する事が出来る。
【0024】
この様に本発明システムはバイオマス系廃棄物のメタン発酵の既設設備、新設設備に適用
されて発酵槽の小型化と約90%の高消化率化で大きな経済効果をもたらし、地球規模の温
室効果ガス削減に大いに貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1 は通常法メタン発酵の発酵槽内の物質流れを、図2、図3、図4 は水分抜き取り式メ
タン発酵の物質流れを示す。通常法では投入された基質バイオマス(汚泥)は滞留時間内
に増殖した菌体はそのまま消化汚泥として系外に排出される(図1を参照)が、本発明方
法(水分抜き取り式メタン発酵)では発酵槽内の消化汚泥の水分を抜き取る事によって消
化汚泥の体積が減った分、発酵槽内での滞留時間が長くなる。長くなった滞留時間に応じ
て菌体の増殖量が増し、発酵槽内の菌体濃度が高くなる。菌体濃度が高くなると固体有機
物の可溶化が促進され、メタン発酵速度が速くなる。その結果これまでは不可能と思われ
ていた消化率の45%から90%への進化と発酵槽の小型化が可能となった。(定量的な説明は
物質収支を表した図5、図6、図7の解析の項[0044][0045]を参照)
【0026】
[水分抜き取り方法]
発酵槽内の水分抜き取りの手段としては機械濃縮(図2)、重力沈降(図3)がよく知られ
ているが、それらより遙かに低コスト方式として発酵槽の内表面にフィルタ−を設け、フ
ィルタ−に掛かる水圧を利用してフィルタ−を介して水分を抜き取る(図4)方式を新た
なる発明としてここに提案する。
【0027】
[発酵槽の内表面に設けたフィルタ−による方法]
この方式は槽の内表面に設けたフィルタ−に掛かる水圧を利用して水分のみを抜き取るも
のであり、汚泥の含水率を下げることを目的にしたフィルタ−プレス脱水機とは機能を全
く異にしており、その分エネルギ−消費量が少なくて済む。本発明システムに組み込む水
分抜き取り装置の中では槽内表面に設けたフィルタ−方式が設備費・エネルギ−消費量の
両面で最も優れている。
【0028】
フィルタ−上での消化汚泥堆積層の成長は水分抜き取りの障害要因であるが、堆積層の成
長で汚泥濃度が上がると可溶化が促進されるために堆積層の成長が抑制される方向に働く
。この可溶化効果と槽内の撹拌効果、その上凝集剤効果、逆洗効果の相乗効果で水分抜き
取りが阻害されることはない。この方式はフィルタ−逆洗などのフィルタ−補修用の設備
以外は大掛かりな設備を構えることなく、また水分抜き取りに必要な動力は槽の内表面に
設けたフィルタ−に掛かる水圧を利用するために特別な電力消費を伴わないが、水分抜き
取りに特に有効な槽の内表面は大きな水圧が掛かる槽下部の内表面が好ましい。発酵槽に
凝集剤を添加することによって水分抜き取りが一層容易になる。
【0029】
この方式は新設のみならず、既設設備に小さな改造を施すだけでCO2削減と経済性に大き
な効果をもたらす。既設のメタン発酵槽で発酵槽の改造が困難な場合には内表面にフィル
タ−を設けた配管及び又は内表面にフィルタ−を設けた容器を発酵槽との間にポンプを介
して接続する方法で水を抜き取ることが出来る。
〔本発明の実験的裏付け〕
【0030】
[メタン発酵消化率の上限値]
これまでメタン発酵の消化率の上限がどの辺にあるのかさえ定かではなかったが、固形分
濃度15%の脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タ(図 8 : 特許登録番号2997833、[非特許
文献] PPM 25 34〜41(1994)を参照)に基づいて炭素収支・エネルギ−収支・下水処理
場の運転デ−タから消化率を計算すると約90%が得られた([0032]〜[0035][消化率の算出
]を参照 )。炭素分の5〜10%が菌体に転化されると考えると、脱水汚泥のメタン発酵の実
験では理論値に近い消化率が得られたことになる。
【0031】
[図8 の基礎実験デ−タから消化率を算出するためのデ−タの整理]
図8 から28日間の積算量を読み取ると
投入有機質汚泥量:2.733kg
消化ガス発生量:2.00m3N
投入有機質汚泥量当たりの消化ガス発生量:0.732m3N/kg
【0032】
[消化率の算出(その1)物質収支に基づく方法]
下水汚泥(有機質)の分析値(重量%): H 6.33%, C 42.11%, N 6.55%
投入基質汚泥の炭素量:421.1g/kg(汚泥)=35.09mol/kg(汚泥)
消化ガス(CH4+CO2)の炭素量:0.732 m3N/kg(汚泥)=30.97mol/kg(汚泥)
消化率:30.97mol/kg(汚泥)÷35.09mol/kg(汚泥)= 0.88
【0033】
[消化率の算出(その2)熱収支に基づく方法]
消化ガス組成:CH4 60%、CO2 40%
CH4の熱量:9500kcal/m3N
下水汚泥の発熱量:4500kcal/kg
消化ガスの発熱量:9500kcal/m3N×0.60 = 5700kcal/ m3N
消化率:5700kcal/m3N×0.732 m3N/kg÷4500kcal/kg = 0.93
【0034】
[消化率の算出(その3)下水処理場の運転デ−タに基づく方法]
下水処理場の運転デ−タ図5 から
消化された有機質汚泥=11.00t/d−6.05t/d=4.95t/d
発生消化ガス量=4322.3m3N/d
汚泥1kgより発生する消化ガス量(理論値):4322m3N/d÷4950kg/d=0.87m3N/kg
投入有機質汚泥量に対応する消化ガス量:2.733kg×0.87m3N/kg=2.377m3N 消化率:
2.0m3N÷2.37m3N=0.84
【0035】
[消化率の算出(まとめ)]
脱水汚泥メタン発酵(図8)の消化率の計算結果をまとめると
[0031]物質収支基準:88%、
[0032]熱収支基準:93%、
[0033] 下水処理場の運転デ−タ基準:84%
消化率の平均値:88%
つまり15(DS)%濃度の脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タの解析から約90%の消化率が得
られることが明らかになった。
【0036】
[15(DS)%濃度の脱水汚泥メタン発酵の消化汚泥濃度]
15(DS)%濃度の脱水汚泥を消化率90%でメタン発酵を行うと発酵槽内の消化汚泥濃度は4(DS
)% となるが、これは将に [0044][図7]で示された水分抜き取り式メタン発酵の消化汚泥
濃度と同じものである。つまり投入下水汚泥を予め脱水する方式と発酵槽内の消化汚泥の
水分を抜き取る方式はNH3の阻害要因以外は発酵速度・消化率に関しては全く同じであり
、15(DS)%濃度の脱水汚泥で得た消化率90%は[0044][図7]の水分抜き取り式メタン発酵に
も適用される。
【0037】
[何故消化率90%が得られるのか]
通常法メタン発酵では消化率は45〜60%と考えられていた事からすると、90%は大変な進歩
である。この原因は基質汚泥濃度が上がることによって菌体濃度も上がり、可溶化菌が体
外に分泌する可溶化酵素の濃度が上がる。その結果基質汚泥の可溶化反応が促進されるた
めであると考え、汚泥濃度とTOC総量( =水溶性のTOC量+消化ガス量をTOCに換算した値
)の関係を測定した。
【0038】
[汚泥濃度vsTOC総量の測定]
下水処理場から提供を受けた液状の生汚泥(基質汚泥)と液状の消化汚泥を混合して遠
心管(500cm3)に均等に精秤し、遠心分離した後に上澄み液を除去すると共に蒸留水を添加
して2〜15(DS)%濃度に調整した。次にこの遠心管に栓を装着して55℃の恒温槽でメタン発
酵を行い、毎日遠心管中のTOCと発生した消化ガス量を測定した。経過日数4日、7日、10
日、13日の測定値をプロットしたものが図9である。図9 から経過日に係わらずTOC総量に
対する汚泥濃度効果はほぼ一定であることが分かる。
図9 の縦軸(TOC総量)(=水溶性のTOC量+消化ガス量をTOCに換算した値 )は遠心管(5
00cm3)に均等に精秤した汚泥から溶出した炭素量を(mg)で表した。
【0039】
[メタン発酵可溶化工程の反応速度解析]
基質汚泥濃度が上がることによって基質汚泥の可溶化反応が促進されることが図9 で実
証された。これを基に可溶化工程の反応速度解析を行うと下記の様になる。つまりこの現
象を整理すると下記の様な比例関係が浮上する。
[汚泥濃度]∝[菌体濃度] ∝[可溶化酵素濃度] ∝[可溶化反応速度]
この関係を化学反応式と反応速度式で表すと
化学反応式 : 基質汚泥 A + H2O → 可溶化有機物(有機酸など)a
可溶化酵素C
反応速度式 : da/dt = k・C
反応速度式の積分形: a = k・C・t
A:固体基質汚泥
a:可溶化有機物量(=メタンガス生成量)、
t:反応時間(滞留時間)、
C:酵素濃度、
k:反応速度定数(汚泥の組成物毎に異なった値になる)
反応工学的解析の結論を纏めると 可溶化有機物量 a は可溶化酵素濃度 C と反応時間(
滞留時間)tに比例するが、基質汚泥濃度には直接関係しないことである。つまり基質汚
泥濃度が低くても高くても(4%でも15%でも)可溶化酵素濃度 と滞留時間さえ確保すれば
90%消化率が得られ、発酵槽小型化は可溶化酵素濃度さえ上げれば実現可能と言うことで
ある。
【0040】
この反応速度式によると脱水汚泥メタン発酵で得られた90%の消化率は汚泥の固形分濃度
を15%にした結果、汚泥に繁殖する菌体濃度が上がり、菌体が分泌する可溶化酵素濃度が
上がったことによるものと考えられる。つまり汚泥濃度15%は通常濃度4.5%の約3倍であり
、可溶化酵素濃度も通常の約3倍になると考えれば通常法では消化率45%のものが90%(理
論値に近い値)になることは妥当である。
【0041】
この反応速度式によると基質汚泥濃度に関わらず菌体濃度さえ高めれば理論値に近い消化
率を得ることも、発酵槽容積を小さくすることも出来る。本発明者はこの原理に基づいて
発酵槽内の水分を抜き取って消化汚泥濃度を高く保ち、且つ取り扱う消化汚泥の体積を小
さくする。その結果、発酵槽容積が同じであれば滞留時間が長くなる。この原理によって
高性能のメタン発酵を行う方法を発明した。
【0042】
滞留時間、菌体濃度、メタン発酵速度、消化率、発酵槽容積の関係を定量的な解析を通し
て明らかにするために図1 に現実に操業されている下水処理場の物質収支を記入して図5
とし、機械濃縮の図2 には消化率90%([0035][消化率の算出]を参照)と発酵槽内の汚泥
濃度3(DS)%を想定した物質収支を記入して図6 とし、槽の内表面に設けたフィルタ−によ
る水分抜き取り方式の図4 には消化率90%と発酵槽内の汚泥濃度4(DS)%を想定した物質収
支を記入して図 7 とした。
【0043】
通常法の物質収支図(図5 )と水分抜き取り方式の物質収支図(図6、図7)の3つの図は
発酵槽の大きさ、投入汚泥の汚泥濃度・投入量は全て同じであるが、発酵槽内の水分を抜
き取る量によって発酵槽内の菌体濃度、基質有機物の滞留時間が大幅に異なっていて、そ
の結果として消化率が45%から90%に進化する事を示している。これが本発明の原理を分か
り易く明示する図である。
【0044】
図6 と図7 は発酵槽内の水分を抜き取る方法の違いを示したものである。図6 の機械濃縮
は高いコストがかかるために水分の抜き取り量を少なめにして発酵槽内の消化汚泥濃度を
3%と設定しているが、図7 は発酵槽の内表面にフィルタ−を設けて、そのフィルタ−に掛
かる水圧を利用して水分の抜き取りを行う方式であるために水分抜き取りコストが割安で
ある事を配慮して、水分抜き取り量を多めにして発酵槽内の消化汚泥濃度を4%と設定して
いる。
【0045】
図5、図6、図7の物質収支図から下記の計算方式に従って通常のメタン発酵に対する発酵
槽内での菌体濃度増加率と滞留時間増加率を算出した。
発酵槽内の菌体量を計量する事は困難であるためメタン発酵の進行と共に質量変化を伴わ
ない固体無機物を菌体量の指標とし、発酵槽内の水分抜き取りによって生じる菌体濃度の
増加率(=固体無機物濃度の増加率)を次式によって算出した。
【0046】
通常法メタン発酵に対する[槽内の菌体濃度増加率]=
(水分抜き取り式の槽内固体無機物濃度)÷(通常法の槽内固体無機物濃度 )
図 6 の場合:[槽内の菌体濃度増加率]=1.94%÷0.47% =4.12
図 7 の場合:[槽内の菌体濃度増加率]=2.57%÷0.47% =5.46
同様に通常法メタン発酵に対する[槽内の滞留時間増加率]=
(通常法の排出消化汚泥量)÷(水分抜き取り式の排出消化汚泥量 )
図6 の場合:[槽内の滞留時間増加率]=421.05t/d÷103.33t/d=4.07
図7 の場合:[槽内の滞留時間増加率]=421.05t/d÷77.5t/d=5.43
【0047】
以上の計算結果を下記 表2 に水分抜き取り式メタン発酵と通常法メタン発酵の比較表と
して示す。
【表2】
【0048】
表2 は発酵槽から水分を抜き取る方式のメタン発酵と通常法メタン発酵との比較を示し
たものであるが、投入汚泥(バイオマス)の段階で水分を除去しても滞留時間・菌体濃度
と消化率の関係は同じ傾向が得られることから、脱水汚泥メタン発酵と発酵槽内の水分抜
き取り式メタン発酵は原理的には同じものであることを示している。([0036]を参照)
【0049】
[0039][メタン発酵可溶化工程の反応速度解析]では
[汚泥濃度]∝[菌体濃度] ∝[可溶化酵素濃度] ∝[可溶化反応速度]
の関係と[メタンガス生成量] =k[可溶化酵素濃度] ×[滞留時間]の関係について述べて
いるが、表2 から分かるように滞留時間増加率と菌体濃度増加率は同数なのでメタンガ
ス生成量に対する水分抜き取りの効果は水分抜き取り量の二乗に効く事になり、その結果
少しの水分抜き取り量でも消化率への影響が大きい事が分かった。
【0050】
またこの事は発酵槽の小型化の可能性をも示唆している。
図7の例では[可溶化酵素濃度増加率] ×[滞留時間増加率]≒25 でこの内消化率を45%か
ら90%に増加するためのポテンシャルとして5を振り当て、残りの5を発酵槽の小型化に振
り当てると発酵槽容積は通常法メタン発酵の1/5で収まることになる。つまり新しく開発
した計算方式によると発酵槽内の消化汚泥(DS)濃度を4%に設定するだけで消化率を45%か
ら90%に、発酵槽容積を通常法メタン発酵の1/5に出来る可能性が見えてきた。
水分抜き取り式メタン発酵を実用化段階で検証するために 表2 に基づいて下水処理場で
の1/1000規模の実証試験準備が行われている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】通常法メタン発酵の物質流れの概念図
【図2】機械濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図3】重力濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図4】槽内表面のフィルタ−による水分抜き取り式メタン発酵の物質流れの概念図
【図5】通常法メタン発酵の物質収支図
【図6】機械濃縮による水分抜き取り式メタン発酵の物質収支図
【図7】槽内表面のフィルタ−による水分抜き取り式メタン発酵の物質収支図
【図8】脱水汚泥メタン発酵の連続実験デ−タの図
【図9】汚泥濃度(DS%)とTOC総量(mg)(=水溶性のTOC量+発生ガス量をTOCに換算した値)の関係を示す図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続操作で行うメタン発酵方法において、発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取るこ
とを特徴とするメタン発酵方法。
【請求項2】
消化汚泥を熱処理して菌体の細胞を破壊して発酵槽入り口に投入することを特徴とする請求項1記載のメタン発酵方法。
【請求項3】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が機械濃縮機であることを特徴とする請
求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項4】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が重力沈降槽であることを特徴とする請
求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項5】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が発酵槽の内表面に設けたフィルタ−で
あることを特徴とする請求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項6】
発酵槽に凝集剤を添加して消化汚泥をフロック状にする事を特徴とする請求項1から請求
項5までのいずれか1項に記載のメタン発酵方法。
【請求項7】
請求項5記載のメタン発酵方法を行うためのメタン発酵装置であって、フィルターが発酵
槽の内表面に設けられているメタン発酵装置。
【請求項1】
連続操作で行うメタン発酵方法において、発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取るこ
とを特徴とするメタン発酵方法。
【請求項2】
消化汚泥を熱処理して菌体の細胞を破壊して発酵槽入り口に投入することを特徴とする請求項1記載のメタン発酵方法。
【請求項3】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が機械濃縮機であることを特徴とする請
求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項4】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が重力沈降槽であることを特徴とする請
求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項5】
発酵槽内の消化汚泥の中から水分を抜き取る手段が発酵槽の内表面に設けたフィルタ−で
あることを特徴とする請求項1又は2記載のメタン発酵方法。
【請求項6】
発酵槽に凝集剤を添加して消化汚泥をフロック状にする事を特徴とする請求項1から請求
項5までのいずれか1項に記載のメタン発酵方法。
【請求項7】
請求項5記載のメタン発酵方法を行うためのメタン発酵装置であって、フィルターが発酵
槽の内表面に設けられているメタン発酵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−51955(P2010−51955A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178993(P2009−178993)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(598007621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(598007621)
【Fターム(参考)】
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