説明

水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法及び水分散液状架橋硬化型樹脂組成物、ならびに多孔質物の製造方法および多孔質物

【課題】微細な空孔を有する多孔質薄膜層の形成ができる材料である水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法及び水分散液状架橋硬化型樹脂組成物、ならびに多孔質物の製造方法および多孔質物を提供する。
【解決手段】液状架橋硬化型樹脂組成物に10mass%以上の水を添加してなる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法において、前記液状架橋硬化型樹脂組成物に、平均粒径1μm以下の親水性微粒子を0.1から5mass%添加して撹拌処理するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性微粒子を用いて微細空孔を形成するための水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法及び水分散液状架橋硬化型樹脂組成物、ならびに多孔質物の製造方法および多孔質物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野をはじめとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進むなかで、これらに使用される電線・ケーブルもますます細径化が図られている。さらに信号線等では、伝送信号の一層の高速化を求める傾向が顕著であり、これに使用される電線の絶縁体層を薄くかつ可能な限り低誘電率化することにより伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
この絶縁体には従来、ポリエチレンやふっ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡させたものが使われている。発泡絶縁体層の形成には、予め発泡させたフィルムを導体上に巻き付ける方法や押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
発泡を形成する方法としては、大きく物理的な発泡方法と化学的な発泡方法に分けられる。
【0005】
物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により発泡させる方法や窒素ガス、炭酸ガスなど押出機中の溶融樹脂に直接気泡形成用ガスを圧入させることにより一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を樹脂中に発生させる方法などがある(特許文献1)。
【0006】
化学的な発泡方法としては、樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させることがよく知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−26846号公報
【特許文献2】特開平11−176262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注入する方法では、気化圧が強く、気泡の微細形成が難しく薄肉成形に限界がある。また、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いために、高速製造化が難しく、生産性に劣るという問題もある。さらに、押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する方法は、細径薄肉押出形成に限界があること、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの上昇招いてしまう問題がある。
【0009】
一方、化学発泡方法は、予め樹脂中に発泡剤を混練し、分散混合し、成形加工後に熱により発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡をさせるため、樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならない問題がある。さらに、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が難しくなるという別の問題もある。
【0010】
また、フロン、ブタン、炭酸ガス等を用いる物理発泡は環境負荷が大きい問題や、化学発泡に用いる発泡剤は価格が高いといった問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するために、種々検討した結果得られたものであり、その目的は、環境にやさしく容易に微細な空孔を有する多孔質薄膜層の形成ができる材料である水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法及び水分散液状架橋硬化型樹脂組成物、ならびに多孔質物の製造方法および多孔質物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、液状架橋硬化型樹脂組成物に10mass%以上の水を添加してなる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法において、前記液状架橋硬化型樹脂組成物に、平均粒径1μm以下の親水性微粒子を0.1から5mass%添加して撹拌処理することを特徴とする水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法である。
【0013】
請求項2の発明は、親水性微粒子が、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどの親水性モノマを合成した微粒子からなる請求項1記載の水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法である。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2の製造方法により製造されたことを特徴とする水分散液状架橋硬化型樹脂組成物である。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1又は2より得られる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物を架橋硬化した後、加熱により水を除去して形成したことを特徴とする多孔質物である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1又は2より得られる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物を架橋硬化した後、加熱により水を除去して形成したことを特徴とする多孔質物の製造方法である。
【0017】
請求項6の発明は、加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項5記載の多孔質物の製造方法である。
【0018】
請求項7の発明は、請求項4〜6のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする多孔質物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水を添加してなる液状架橋硬化型樹脂組成物に親水性微粒子を組み合わせることで、水を微分散させることができ、硬化物を加熱により脱水させることで、容易に微細な空孔をもつ多孔質物が得られるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の多孔質膜被覆電線の横断面図である。
【図2】本発明の多孔質膜被覆電線を用いた多層被覆ケーブルの横断面図である。
【図3】本発明の多孔質膜被覆電線を用いた同軸ケーブルの横断面図である。
【図4】本発明の実施例1により作製した厚さ200μmのフィルム断面を200倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例2により作製した厚さ200μmのフィルム断面を1000倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例3により作製した厚さ200μmのフィルム断面を1000倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例1により作製した厚さ200μmのフィルム断面の空孔部を5000倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図8】比較例1により作製した厚さ200μmのフィルム断面を100倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図9】比較例3により作製した厚さ200μmのフィルム断面を100倍に拡大した顕微鏡写真である。
【図10】マイクロ波加熱と120℃オーブン加熱による脱水効率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
先ず、図1〜図3により、本発明の含水吸水性ポリマ含有樹脂組成物が適用される多孔質膜被覆電線、多層被覆ケーブル、同軸ケーブルを説明する
図1は、多孔質膜被覆電線の横断面図であり、複数本の導体3の外周に微細な空孔2を有する含水吸水性ポリマ含有樹脂組成物からなる絶縁被覆層1を被覆して多孔質膜被覆電線10が形成される。
【0023】
図2は、図1に示した多孔質膜被覆電線10を用いた多層被覆ケーブルの横断面図であり、多孔質膜被覆電線10の外周にスキン層又は被覆層4を形成して多層被覆ケーブル11を形成したものである。
【0024】
図3は、図1に示した多孔質膜被覆電線10を用いた同軸ケーブルの横断面図であり、多孔質膜被覆電線10の導体3を内側導体とし、多孔質膜被覆電線10の外周にシールド線又はシールド層5を形成し、さらにその外周に被覆層6を形成して同軸ケーブル12を形成したものである。
【0025】
さて、本発明は、絶縁被覆層として用いる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物は、
液状架橋硬化型樹脂組成物に10mass%以上の水を添加してなり、その液状架橋硬化型樹脂組成物に、平均粒径1μm以下の親水性微粒子を0.1から5mass%添加して撹拌処理して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物とするものである。
【0026】
この水分散液状架橋硬化型樹脂組成物を架橋硬化した後、加熱により水を除去することで、多孔質物が製造できる。
【0027】
加熱には、マイクロ波加熱を用いることが好ましい。
【0028】
液状架橋硬化型樹脂組成物とは、紫外線、熱、電子線、可視光などにより硬化するもので、特に限定するものではないが、好ましくは紫外線や熱、あるいは併用で架橋硬化する樹脂組成物がよく、さらに好ましくは紫外線架橋硬化型樹脂組成物がよい。
【0029】
樹脂組成物としては、エチレン系、ウレタン系、シリコーン系、ふっ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系など公知の樹脂組成を選択できるが、樹脂組成物の誘電率として4以下、好ましくは3以下のものが良い。
【0030】
液状架橋硬化型樹脂組成物に10mass%以上の水を添加してなるのは、10mass%より少ないと、低誘電率化効果が得にくくなることや、親水性微粒子添加による水の微分散効率が小さいためである。好ましくは20〜40mass%が良い。40mass%より多くなると安定した多孔質膜の形成が著しく困難になることや水の分散サイズが大きいものができ易くなるためである。
【0031】
親水性微粒子とは、水との親和性が高い粒子で、粒子の周りに水を配位し易いものであれば特に限定するものではない。例えば、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどの親水性モノマを用いた合成微粒子が挙げられる。
【0032】
親水性微粒子を用いるのは、液状架橋硬化型樹脂組成物に添加した水を、液状架橋硬化型樹脂中に微細に分散させることができ、また、水の添加量を高めることができるためである。平均粒径を1μm以下とするのは、1μmより大きくなると、水の分散サイズが大きくなることや、水の添加量を高める効果が低下するためである。
【0033】
親水性微粒子の添加量を0.1〜5mass%とするのは、0.1mass%より少ないと水の微分散効果が得にくくなるためである。5mass%より多くなると、添加量に対する水の微分散効率が低いことや、硬化物の機械的特性を低下させ易くなるためである。また、予め親水性微粒子を水に分散させて、液状架橋硬化型樹脂組成物に添加することで、より効率よく樹脂中に水を微分散させることができる。
【0034】
架橋硬化後、加熱により脱水させるのは、脱水による体積収縮による空隙率の低下が防止できるほか、膜厚や外径の変化を防止し、安定したものを得ることができるためである。さらに、予め空孔となる部分をもって被覆を形成できるため、発泡させる必要が無く、従来のガス注入や発泡剤によるガス発泡に生じやすい導体と発泡層間の膨れや剥離による密着力低下がまったくなく安定したものが得られる。
【0035】
液状架橋硬化型樹脂組成物には、必要に応じて分散剤、レベリング剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、電気絶縁性向上剤、充填剤など公知のものを加えて用いることができる。
【0036】
水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の水を加熱脱水するのにマイクロ波加熱を利用するのは、水はマイクロ波により、急速に加熱されるため吸水性ポリマや周囲の樹脂などに影響をあたえることなく、短時間で加熱脱水ができ効率よく空孔形成ができるためである。
【0037】
また、導波管型マイクロ波加熱炉を用いることで、連続的に加熱脱水ができる。さらに通常の加熱炉と組合せて用いてもよい。
【0038】
図10はマイクロ波加熱と120℃オーブン加熱で、電線の絶縁被覆層中の水を加熱脱水したときの加熱時間と脱水率の関係を示したものである。
【0039】
図10より、マイクロ波加熱の方が、通常の電気炉やオーブン加熱に比べ、極めて短時間で効率よく脱水できることがわかる。
【0040】
以上、絶縁電線の絶縁被覆層について説明したが、本発明の親水性微粒子を用いた水分散液状架橋硬化型樹脂組成物により得られる多孔質(発泡状物)は、緩衝材、衝撃吸収フィルム(シート)、光反射板などへの利用もできる。
【0041】
また、液状架橋硬化型樹脂組成物であることから、異形状物表面に多孔質層の形成ができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例と比較例について説明する。
【0043】
液状架橋樹脂組成物(ベース樹脂組成物)として表1に示す樹脂組成物Aを用いた。
【0044】
【表1】

【0045】
樹脂組成物A;
15MILブレードを用いて厚さ約200μmのフィルムを窒素雰囲気下にて紫外線照射量500mJ/cm2により硬化させて作製し、空洞共振法(@10GHz)により求めた誘電率は2.65であった。
【0046】
親水性微粒子A;
300mlの三口フラスコにエタノール200gを入れ、これにメタクリル酸0.65g、アクリルアミド11.8g、メチレンビスアクリルアミド0.65g、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.75gを加え、窒素をバブリングしながら常温にて撹拌溶解した後、撹拌しながら60±2℃に昇温させ、2時間重合反応を行った後、エタノールを乾燥除去し、平均粒径0.6μmの親水性微粒子Aを得た。
【0047】
親水性微粒子B;
300mlの三口フラスコにエタノール200gを入れ、これにメタクリル酸0.65g、アクリルアミド11.8g、メチレンビスアクリルアミド0.65g、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.25gを加え、窒素をバブリングしながら常温にて撹拌溶解した後、撹拌しながら60±2℃に昇温させ、4時間重合反応を行った後、エタノールを乾燥除去し、平均粒径15μmの親水性微粒子Bを得た。
【0048】
実施例1〜4と比較例1〜4は、ベース樹脂組成物100重量部に親水性微粒子と水(蒸留水)の添加量をそれぞれ変えて添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物(樹脂組成物)としたものである。
【0049】
この実施例1〜4と比較例1〜5を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2における実施例及び比較例の評価は以下のようにして行った。
【0052】
<フィルム成形性>
樹脂組成物を、ガラス板上に7MIL,15MILのブレードを用いて、幅100mm、長さ200mmの塗膜を形成し、窒素雰囲気下で、紫外線照射コンベア装置を用いて紫外線照射量500mJ/cm2を照射し硬化させ、膜厚約100μm,200μmの平滑なフィルム成形ができるかどうか確認した。
【0053】
<空隙率>
次式により空隙率を求めた。
【0054】
空隙率(%)=[1−(脱水後の試料重量/脱水後の試料体積)/(含水させない場合の樹脂試料の重量/含水させない場合の樹脂試料の体積)]×100
<誘電率>
フィルム試料を幅2mm、長さ100mmの短冊状にし、空洞共振法により、周波数10GHzにて誘電率を3本測定し、その平均値を求めた。
【0055】
<空孔径>
フィルム及び電線被覆層断面を電子顕微鏡で撮影(500倍)した5箇所の断面写真から観察される空孔のサイズから求めた。
【0056】
<実施例1>
樹脂組成物A100重量部に親水性微粒子Aを0.5重量部、水15重量部添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物(樹脂組成物1)を得た。
【0057】
樹脂組成物についてフィルム成形性が良好なことを確認した。
【0058】
これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ11.8%,12.3%で含水率に近いことを確認した。また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ2.39(@10GHz)であった。さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真(図4参照)より観察される空孔について空孔径について調べたところ3〜12μmであった。また空孔内を拡大観察(図7参照)したところ、空孔壁面に親水性微粒子7が多数確認され、樹脂層内には観察されないことから親水性微粒子が水を効率よく微分散させていることを確認した。
【0059】
<実施例2>
樹脂組成物A100重量部に親水性微粒子Aを1重量部、水30重量部添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物2(樹脂組成物2)を得た。
【0060】
樹脂組成物2についてフィルム成形性が良好なことを確認した。
【0061】
これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ21%,21.4%で含水率に近いことを確認した。
【0062】
また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ2.2(@10GHz)であった。
【0063】
さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真(図5参照)より観察される空孔について空孔径について調べたところ3〜15μmであった。
【0064】
また空孔内を拡大観察したところ、実施例1と同様に空孔壁面に親水性微粒子が多数確認され、樹脂層内には観察されないことから親水性微粒子が水を効率よく微分散させていることを確認した。
【0065】
<実施例3>
樹脂組成物A100重量部に親水性微粒子Aを3重量部、水30重量部添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物3(樹脂組成物3)を得た。
【0066】
樹脂組成物3についてフィルム成形性が良好なことを確認した。これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ21.1%,21.8%で含水率に近いことを確認した。また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ2.19(@10GHz)であった。さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真(図6参照)より観察される空孔について空孔径について調べたところ3〜12μmであり、実施例2より空孔径が小さくなっていることが確認された。また空孔内を拡大観察したところ、実施例1と同様に空孔壁面に親水性微粒子が多数確認され、樹脂層内には観察されないことから親水性微粒子が水を効率よく微分散させていることを確認した。
【0067】
<実施例4>
樹脂組成物A100重量部に親水性微粒子Aを5重量部、水60重量部添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成物4(樹脂組成物4)を得た。
【0068】
樹脂組成物4についてフィルム成形性が良好なことを確認した。これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ33.4%,34.5%で含水率とほぼ一致することを確認した。また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ1.96(@10GHz)であった。さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真より観察される空孔について空孔径について調べたところ3〜40μmであった。また空孔内を拡大観察したところ、実施例と同様に空孔壁面に親水性微粒子が多数確認され、樹脂層内には観察されないことから親水性微粒子が水を効率よく微分散させていることを確認した。
【0069】
<比較例1>
実施例1の親水性微粒子を用いない、水分散液状架橋硬化型樹脂組成物5(樹脂組成物5)を得た。
【0070】
樹脂組成物5についてフィルム成形性が良好なことを確認した。これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ10.1%、11.2%で含水率とほぼ一致することを確認した。また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ2.42(@10GHz)であった。さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真(図8参照)より観察される空孔の空孔径について調べたところ5〜150μmで実施例に比べ空孔径が非常に大きく、水が分散されていないことが確認された。
【0071】
<比較例2>
比較例1の水の添加量を30重量部とした水分散液状架橋硬化型樹脂組成物6(樹脂組成物6)を得た。
【0072】
樹脂組成物6についてフィルムを作製しようとしたところ、水と樹脂の分離が生じやすくフィルム化がまったくできなかった。
【0073】
<比較例3>
実施例1の親水性微粒子の添加量を0.1重量部とした水分散液状架橋硬化型樹脂組成物7(樹脂組成物7)を得た。
【0074】
樹脂組成物7についてフィルム成形性が良好なことを確認した。これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、多数の空孔が形成されていることを確認し、各フィルムについて完全脱水後のフィルム体積と重量から求めた空隙率はそれぞれ10.7%,11.8%で含水率とほぼ一致することを確認した。また、200μmフィルムにおいて空洞共振法により誘電率を測定したところ2.4(@10GHz)であった。さらに200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真(図9参照)より観察される空孔について空孔径について調べたところ5〜100μmで、比較例1とほとんど変わらないことを確認した。
【0075】
<比較例4>
樹脂組成物A100重量部に粒径15μmの親水性微粒子Bを5重量部、水60重量部添加した後、回転数500rpmで1時間撹拌して水分散液状架橋硬化型樹脂組成8(樹脂組成物8)を得た。
【0076】
樹脂組成物8についてフィルムを作製したところ、表面に凹凸が生じ、成形性が劣ることを確認した。これを、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて、5分間加熱した後、断面を電子顕微鏡で観察した結果、空孔の形成は確認されたが、200μmフィルムにおいて電子顕微鏡を用いた5箇所の断面写真より観察される空孔について空孔径について調べたところ5〜100μmであり、実施例4に比べ、バラツキが大きいものであった。
【0077】
以上、実施例及び比較例で説明したとおり、実施例1、2、3、4より粒径1μm以下の親水性微粒子Aを用いることで液状架橋硬化型樹脂組成物に水を微分散することができ、微細な空孔を形成できる。一方、親水性微粒子を用いない比較例1では、空孔径が大きいものができやすく、水の量を多くした比較例2ではフィルム化がまったくできないものであった。また、親水性微粒子Aの添加量が少ない比較例3では、水の微分散効果がない、よって親水性微粒子Aの添加量は、0.1mass%以上添加するのがよい。また粒径が大きい(15μm)親水性微粒子Bを添加した比較例4では、フィルム成形性が劣り、空孔径のバラツキも大きくなるものであった。よって、親水性微粒子Aの粒径は、できるだけ小さいのがよく0.1μm以下が好ましい。
【符号の説明】
【0078】
1 絶縁被覆層
2 空孔
3 導体
4 スキン層又は被覆層
5 シールド線又はシールド層
6 被覆層
7 親水性微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状架橋硬化型樹脂組成物に10mass%以上の水を添加してなる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法において、前記液状架橋硬化型樹脂組成物に、平均粒径1μm以下の親水性微粒子を0.1から5mass%添加して撹拌処理することを特徴とする水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
親水性微粒子が、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどの親水性モノマを合成した微粒子からなる請求項1記載の水分散液状架橋硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法により製造されたことを特徴とする水分散液状架橋硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2より得られる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物を架橋硬化した後、加熱により水を除去して形成したことを特徴とする多孔質物。
【請求項5】
請求項1又は2より得られる水分散液状架橋硬化型樹脂組成物を架橋硬化した後、加熱により水を除去して形成したことを特徴とする多孔質物の製造方法。
【請求項6】
加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項5記載の多孔質物の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする多孔質物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−189574(P2010−189574A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36852(P2009−36852)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】