水分量測定センサ、水分量測定装置及び水供給量制御装置
【課題】植物などの水分量を直接、且つその場で安定して測定できる、低コストの刺入型水分量測定センサを実現する。
【解決手段】水分量測定センサにおいて、例えば測定対象(植物6)中に刺入可能な針状のプローブボディ20と、その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材(PES24)と、該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極26と、を備える。
【解決手段】水分量測定センサにおいて、例えば測定対象(植物6)中に刺入可能な針状のプローブボディ20と、その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材(PES24)と、該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極26と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分量測定センサ、水分量測定装置及び水供給量制御装置に係り、特に、植物の潅水栽培に用いるのに好適な、植物内の水分量を直接測定可能な低コストの水分量測定センサ、該水分量測定センサを用いた水分量測定装置、及び、該水分量測定装置を用いた水供給量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば糖度の高いトマト、マンゴー、メロン、ぶどう、みかん、苺などの高品質な農作物を栽培する技術として、潅水量(農作物に与える水の量)を細かく調節する潅水栽培が注目されている。この潅水栽培においては、植物を水の欠乏状態に置き、水分不足によるストレス(水ストレスと称する)を与えると、植物が糖分を溜めて糖度が高くなる性質を利用している。しかし、水ストレスを与えすぎると植物は枯れてしまうため、植物への潅水量を如何に制御するか、が大きな課題である。
【0003】
植物の茎部内は、導管や師管、あるいは細胞によって満たされており、内部の水分量は土壌の水分量や天候等の様々な外的な要因によって絶えず変化している。潅水栽培においては、植物内の水分量及び水の流れが、作物の収量や品質に大きく影響を与える。従って、潅水栽培によって高品質な作物を栽培するためには、植物内の水分状態を常にモニタリングし、潅水量を制御する必要がある。
【0004】
これまで施設栽培においては、土壌の水ポテンシャルや日射量など植物内の水分状態と関わりのある環境要因の変化から、間接的に水分状態を推測する手法がとられてきた。特に土壌の水ポテンシャル測定については、水の比誘電率が非常に大きいことを利用して、2点間の電磁波の伝播速度から、その間の水分量を求めるTDR式センサ、土壌の熱伝導率を測定するヒートプローブ式センサ、土壌の静電容量を測定する静電容量式センサ(特許文献1参照)、マイクロ波や短波長赤外光を利用した光学センサ(非特許文献1参照)など数多くの研究がなされている。しかし、植物内の水分状態は、土壌の水ポテンシャルや日射量以外の多くの環境要因からも影響を受けるため、高度な水分管理を必要とする高品質作物栽培に対しては精度が十分でなかった。
【0005】
そこで、植物の水分状態を植物自体の情報から知る手法が研究されている。プレッシャーチャンバー法やサイクロメータ法は、水分状態の正確な指標である水ポテンシャルを測定することができるが、植物の一部を採取する破壊的な方法であることや、測定に時間を要することが問題である。また、茎径の変化(特許文献2参照)や蒸散量から植物内の水分状態を推測する方法は、非破壊的であるために継続的なモニタリングが可能であるが、茎径の変化や蒸散量と水分状態の関係性には不明瞭な点もあり、精度が十分でない。近年では、植物の葉の水分量を測定する近赤外分光法や赤外画像法、熱画像法などの光学センサの研究が盛んである。これらの光学センサは、非破壊かつ長時間のモニタリングが可能であるが、コストが高く、装置が大型であり、実際の農業の現場で、即ち農作物をその場で計測することはできないという問題がある。
【0006】
このような理由から実際に実用化されている有効なセンサはなく、潅水量の制御を生産者の経験や長年の勘に頼っているのが現状である。
【0007】
一方、特許文献3には、刺入型の植物薬剤処理手段が記載されているが、水分量を測定するものではなかった。
【0008】
このような問題点を解決するものとして、発明者は非特許文献2に記載したように、図1に示す如く、外径2.0mm、内径1.7mmの微小ガラス管を引き伸ばすことにより製作した、先端外形が200μmのプローブボディ10の内側表面に、一方の電極となる銀膜12を成膜する一方、他方の電極となる銀線14の外側に、吸水する水分量に応じて抵抗値が変化する高分子感水材であるポリビニールアルコール(PVA)を成膜し、これを銀線14が中心に来るよう前記プローブボディ10中に挿入した、高分子電気抵抗式の刺入型植物内水分量測定センサを開発した。このセンサは、植物内に直接プローブを刺入し、プローブ中の感水材により植物内の水分量を直接測定することができる。図において、18はリード線である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−21517号公報
【特許文献2】特開平7−289082号公報
【特許文献3】特表昭63−501262号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】SANYO TECHNICAL REVIEW, Vol.35, No.2, 2003, pp 40−47
【非特許文献2】T.Iwashita,K.Ariga and N.Miki,“Development of a Plant Water Content Sensor Using a Micro Probe”PROCEEDINGS OF THE 24TH SENSOR SYMPOSIUM,2007,pp457−460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、発明者の実験の結果、非特許文献2で提案したセンサは、次のような問題点を有することが分かった。(1)PVAは親水性が非常に強く、温水に可溶である。従って、多量の水を吸収するとPVA自体が膨張したり、溶解して流出してしまうため、測定値が一定にならず安定性に欠けることや、繰り返し使用すると値が変わり、良い再現性が得られず、植物内の水分量を測定するセンサには適さない。(2)銀線14をプローブボディ10の中心に通す必要があるため、作り難い。(3)PVA16がプローブボディ10の内側に配設されているため、水分がプローブボディ10の中に入らないと水分量を測定できないが、水分がプローブ先端から、うまくプローブボディ10の中に入らない。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、植物などの水分量を直接且つその場で安定して測定することが可能な、低コストで実用的な水分量測定センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、吸収する水分量に応じて抵抗値が変化する高分子を用いる高分子電気抵抗式センサを用いる。感水材である高分子は、水分(湿分)によってイオン伝導を起こす。水分(湿分)を吸収した高分子中には、図2に示す如く、自由に動き回れない固定イオンと、フリーな状態にあり電離して移動しやすい可動イオン(水素イオン)が存在する。ほとんどの伝導は、この可動イオンによって生じ、その可動イオン濃度は、吸湿水分量が増加するにつれ増加する。逆に吸湿水分量が減少すると可動イオン濃度が減少する。この高分子に電圧を印加することにより、可動イオンの濃度変化、すなわち吸湿水分量を抵抗の変化としてとらえることができる。尚、実際にセンサとして用いる高分子においては、水分(湿分)は可逆的な吸脱着を行う。ここで、感水材として高分子材料を用いる理由は、微小領域においても加工が容易であり、且つ、比較的安価だからである。
【0014】
次に、刺入型水分量測定センサの原理について説明する。
【0015】
図3に示すように、センサ8を植物6に刺入すると、プローブ部分の感水材が植物(例えば茎部)6内の水分を吸収する。プローブの先端(図3の右端)から吸収された水分は、末端(図3の左端)の感水材に伝わっていく。末端の感水材は空気と接しているため、水分は大気中に放出される。感水材が植物6内から吸収する水分量と、感水材から大気中に放出される水分量が等量になったところで、見掛け上の水分の移動が止まる。大気中の温度、湿度が一定で、大気中への水分の放出量が一定であるとすると、感水材内に含まれる水分量は、植物6内の水分量を反映している。感水材は、吸収する水分量によってインピーダンスが変化するので、インピーダンスを測定することで植物6内の水分量が測定できる。
【0016】
高分子感水材は、通常、水分吸収力が高いため湿度の測定には適していても、水分量の多い固体の水分量測定には適していなかった。しかし、常に大気中に水分を放出させることによって、高分子感水材を用いて固体の水分量の測定が可能になる。
【0017】
また、本発明で主な対象としている植物は、主にビニールハウスで栽培されており、温度がある程度制御され、雨などの天候の影響も受けないと想定できる。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、プローブボディと、その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材と、該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極と、を備えたことを特徴とする水分量測定センサにより、前記課題を解決したものである。
【0019】
ここで、前記プローブボディを針状とし、測定対象中に刺入可能とすることができる。
【0020】
又、前記高分子感水材を多孔質高分子(例えばポリエーテルサルフォン)とすることができる。
【0021】
本発明は、又、前記の水分量測定センサと、該水分量測定センサの電極間に電圧を印加して、該電極間のインピーダンスを検出するためのインピーダンス検出回路と、検出されたインピーダンスを水分量に変換する回路と、を備えたことを特徴とする水分量測定装置を提供するものである。
【0022】
又、前記の水分量測定装置の出力により、測定対象への水の供給量を制御することを特徴とする水供給量制御装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低コストのセンサで、植物などの水分量を直接、且つその場で安定して測定することが可能となる。従って、例えば植物潅水栽培で供給する水の量を制御することで、例えば高糖度な農作物を栽培することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】非特許文献2に記載された従来の刺入型水分量測定センサの構成を示す(a)斜視図及び(b)横断面図
【図2】本発明の原理を示す図
【図3】本発明に係る刺入型水分量測定センサの原理を示す図
【図4】本発明に係る水分量測定センサの実施形態の構成を示す(a)斜視図及び(b)横断面図
【図5】本実施形態におけるセンサ製作プロセスを示す図
【図6】同じくPES成膜プロセスを示す図
【図7】前記実施形態の評価実験を行なった構成を示す模式図
【図8】前記実施形態における水分量とインピーダンスの関係の検量線を示す図
【図9】同じく湿度の影響を示す図
【図10】前記実施形態の水分量測定センサを苺に刺入した状態を示す図
【図11】苺の水分量変化の測定結果を示す図
【図12】前記実施形態を用いた水分量測定装置の構成を示すブロック図
【図13】前記実施形態を潅水装置に適用した例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
刺入型植物内水分量測定センサに適用した本発明の実施形態は、図4に示す如く、微小ガラス管を引き伸ばすことにより製作した、先端が針状のプローブボディ20と、その外側表面に成膜された、水に溶けず、水分に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材であるポリエーテルサルフォン(PES)24と、該PES24の膜に電圧を印加するための一対の電極26とから構成されている。図において、28は、前記電極26に接続されたリード線である。
【0027】
本実施形態の水分量測定センサ(以下、単にセンサとも称する)は、植物内に直接刺入するため、刺入部には植物の破壊を最小限に抑えるための微小さと強度が必要である。そこで本実施形態では、前記プローブボディ20として、微小ガラス管を用いたマイクロプローブを用いる。マイクロプローブは、微小ガラス管をプーラと呼ばれる機械で引き伸ばすことにより製作する。ガラスは熱伝導が非常に小さく不伝導熱体に近いため、ヒータの熱により変形する範囲が小さく、短く細く引き伸ばすことができる。本実施形態で使用したプーラは、引張方向の力として、重りの重力を使っている。ヒータにより与える熱量及び重りを変えることで、微小ガラス管形状をコントロールできる。本実施形態では、外径2.0mm、内径1.7mmの微小ガラス管を用いてマイクロプローブを製作した。その際、強度と刺さり易さが得られるように、できる限り細く短く設計した。プローブの先端は、強度や刺さり易さを考慮し、外径200μmとした。
【0028】
前記PES24は、水に溶けず、化学的に安定で、生体適合性に優れている。なお、PES24の代りに、他のサルフォン系高分子感水材や、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材を用いることもできる。
【0029】
図5にセンサの製作プロセスを示す。まず、例えば外径2.0mm、内径1.7mmのガラス管を熱しながら引き伸ばし、例えば外径が200μmの所で切断することで、図5(a)に示す如く、強度と刺さり易さを両立した、先端が鋭利なプローブボディ20を製作する。
【0030】
次いで、図5(a)のB−B断面を示す図5(b)に示す如く、プローブボディ20の側面に、電極をパターニングして分離するための、例えば幅1.5mmのPTFEテープ42を貼り付けた後、図5(c)に示す如く、まず電極金属(本実施形態では金)とガラスの密着性を高めるためのコンタクトメタルとしてチタン44を成膜し、その上に電極26の材料である金を成膜する。このように、金とガラス両方と強く吸着するコンタクトメタルを用いることにより、ガラス上に吸着強度の強い金を成膜することができる。なお、電極金属は金に限定されず、基材との密着性に問題がない場合は、コンタクトメタルを省略することもできる。
【0031】
その後、図5(d)に示す如く、PTFEテープ42を引き剥がして図5(e)の状態とし、更に、図6に示すWet Inversion法によりPES24を成膜することで、図4(b)に示すような断面のセンサが得られる。
【0032】
図6に示すWet Inversion法は、図5(e)の状態のプローブボディ20を、PESと溶解補助剤であるポリビニールピロリドン(PVP)を溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)に溶かして作成したPES溶液30に図6(a)に示す如く浸した後、図6(b)に示す如く、純水32に浸漬することで、PES24を成膜する。膜厚は、PES濃度により決定され、本実施形態では、PES溶液30の成分比を変えることで膜厚を調整した。具体的には、4種類の成分比の異なる溶液を使用し、各溶液で成膜されたPESの膜厚を測定し、その膜について評価した。溶液の成分比とその結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
結果として、溶液中のPESとPVPの割合が高くなり、溶液の粘性が高まるに連れ、膜が厚くなった。又、成膜された膜を評価すると、溶液1では、粘性が低いためか先端まで一様に成膜されなかったが、溶液2〜4では、良好な膜を一様に成膜することができた。
【0035】
膜厚の影響は、センサを植物に刺入する際に表れ、膜が厚いほど、刺入の際に剥れ易くなってしまうので、できる限り薄い方が良い。従って、本実施形態では、最も薄く、しかも良好な膜を成膜できる溶液2(PES10.0%、PVP10.0%、NMP80%)を最適な溶液と決定した。
【0036】
又、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてPES膜の表面を観察したところ、溶液の成分比の違いにより孔のサイズに違いが見られるものの、感水材としての性能に大きな違いは見られなかった。
【0037】
なお、プローブボディ20の材料はガラス管に限定されず、中実のガラス棒であっても良い。又、絶縁性があって刺し易いものであれば、プラスチックでもよく、金属に絶縁コーティングを施したものでも良い。更には、金属をプローブボディ20として一方の電極とし、その外側表面に高分子感水剤ともう一方の電極をコーティングする構造でもよい。断面形状も円に限定されない。
【0038】
センサを植物に刺入し、PESが水分を吸収することで、電極間のインピーダンスが変化する。これを検出することで、水分量を測定することができる。
【0039】
図7に示す実験装置を用いて、センサ特性の評価を行なった。このセンサは、本来、植物内の水分量を測定するものであるが、センサの特性を評価するため、湿度を一定に保ったグローブボックス内で、測定の対象として、一定の水分量を保った脱脂綿58にセンサ8の先端を接触させ、その際のインピーダンスを測定した。
【0040】
具体的には、ファンクションジェネレータ52によって発生した交流電源の信号を、ピエゾドライバ54によって増幅して交流電源装置として作用させた。ここから一定の周波数と交流電圧を、水分を調整した脱脂綿58に先端を刺入したセンサ8の電極26間に印加し、その際の電流値をマルチメータ56で測定した。更に、測定した電流値からインピーダンスを算出した。ファンクションジェネレータ52とピエゾドライバ54を組み合わせることにより、1〜1MHzの周波数と0.1〜200Vの電圧を印加することが可能となる。マルチメータ56は、0.1μAまで測定できるものを用いた。ここでは1kHzで5Vの交流電圧を印加したが、その理由は、直流電圧を印加すると、PESが電気分解を起こし腐食してしまうからである。
【0041】
先ず、センサ8が水分を吸収・放出する際に必要とする時間を測定したところ、最大10分程度で、植物の潅水における数時間のタイムスケールと比べて、十分実用になる応答時間であることが確認できた。
【0042】
脱脂綿58の水分量と測定したインピーダンスから作成した検量線を図8に示す。脱脂綿の水分量が増加するに従い、インピーダンスが指数関数的に減少し、両者の間に良好な相関があることが確認できた。その際のインピーダンス変化幅は2〜3桁と非常に大きい。又、測定可能範囲は水分量17%から62%までとなり、これまで高分子感水材が用いられてきた湿度センサなどに比べ、非常に高い水分領域での測定が可能となっている。この結果より、製作したセンサの有効性を確認することができた。
【0043】
本センサは、先に述べたとおり、常にPESから大気中に水分を放出し続けることで、植物内の水分量を測定している。そのため、大気中への水分放出量が測定値に大きく影響する。例えば、同じ水分量の植物を測定しても、大気中への水分放出量が多ければインピーダンスが高くなり、逆に、大気中への水分放出量が少なければインピーダンスは低くなる。水分放出量は、湿度や温度、対流に依存するが、潅水栽培では、温度調整されたビニールハウス内で使用することを目的としているため、温度と対流の影響は小さくなり、湿度の影響を主に受けると考えられる。具体的には、湿度が高くなると水分放出量が小さくなり、インピーダンスが低くなる。逆に、湿度が低くなると水分放出量が大きくなり、インピーダンスが高くなると予想される。
【0044】
そこで、図7に示した装置で、グローブボックス内の湿度を30%、40%、50%と変化させて、湿度の影響を調べた。その際、脱脂綿58の水分量を29〜62%に変えて、実験を行なった。その結果、予想したように、図9に示す如く、湿度が低くなるに連れてインピーダンスが高くなることが確認された。湿度が30%と40%の値を比較してみると、同程度のインピーダンスにおいても水分量で10〜15%の差がある。特に、湿度が低いほど、その影響が顕著に現われた。又、水分量が高い領域では変化の幅が小さくなった。従って、本センサを使用する際は、湿度補正を行なうことが望ましい。逆に、本センサを用いて、大気中の湿度を測定することも可能である。
【0045】
更に、本センサを用いて、苺の水分状態のモニタリングを行なった。初めに製作したセンサ8を、図10に示す如く、苺の茎部6に刺入し、固定した。刺入後、測定値が安定するまで数時間そのままの状態にした。数時間後、測定を開始した。測定は2時間毎(潅水後4時間は1時間毎)に行った。植物への潅水は、土が十分に乾燥したと思われるタイミング(開始から12時間後と27時間後)で2度行った。測定結果を図11に示す。
【0046】
図11より、第一に、潅水を行った直後にインピーダンスが低下していることが分かる。これは潅水を行ったことで、植物内の水分量が増加したためであると考えられる。2度の潅水でインピーダンスの変化幅に違いが見られるが、これは潅水を行った時間帯の違いが影響していると考えられる。第二に、日中の時間帯ではインピーダンスが徐々に増加し、夜間の時間帯ではほとんど変化が見られないことが分かる。日中は太陽光を浴び、光合成を行うために水分を消費するが、夜間は光合成を行わないため水分の消費は無い。従って、このような結果になったと考えられる。
【0047】
これらの検証により、潅水による植物内水分量の増加や、光合成による水分量の減少などの、植物内の水分量変化の特徴をインピーダンスの変化として捉えることに成功したと考えられる。結果として、刺入型水分量測定センサの実用可能性を実証することができた。
【0048】
本発明に係る水分量測定センサ8を用いた水分量測定装置60の一例を図12に示す。図において、60Aは、図7に示したファンクションジェネレータ52とピエゾドライバ54の組合せに相当する交流電源、60Bは、同じくマルチメータ56に相当する電流検出回路、60Cは、交流電源60Aで印加した電圧Vと電流検出回路60Bで検出した電流Iからインピーダンスを算出するインピーダンス算出回路、60Dは、算出したインピーダンスから、例えば図8に示した検量線を使って水分量を求める水分量換算回路、62は、測定された水分量を表示する表示装置である。この表示装置62としては、水分量を直接表示するアナログ又はデジタルのメータの他、水分量に応じて、水やりが必要な状態を、例えば色で表示するディスプレイや、音で知らせるスピーカ等を用いることができる。
【0049】
本発明に係る水分量測定センサは、植物の水分量を測定するだけでなく、図13に例示する如く、その出力により、測定対象への水の供給量を制御する潅水装置を構成することも可能である。図において、60は、図12と同じ構成の水分量測定装置、64は、測定された水分量に応じて水供給量をフィードバック制御するための潅水量制御装置、66は、配管68から供給される水の流量を制御するためのバルブである。
【0050】
なお、本発明のセンサの構成は刺入型に限定されず、プローブボディや電極の形状、サイズ、材質も実施形態に限定されない。測定対象も植物に限定されず、例えば食品中の水分や空気中の水分(湿度)を測定することもできる。更に、適用対象も、潅水装置に限定されない。
【符号の説明】
【0051】
6…植物(茎部)
8…センサ
20…プローブボディ
24…PES(膜)
26…電極
28…リード線
52…ファンクションジェネレータ
54…ピエゾドライバ
56…マルチメータ
60…水分量測定装置
60A…交流電源
60B…電流検出回路
60C…インピーダンス算出回路
60D…水分量換算回路
62…表示装置
64…潅水量制御装置
66…バルブ
68…配管
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分量測定センサ、水分量測定装置及び水供給量制御装置に係り、特に、植物の潅水栽培に用いるのに好適な、植物内の水分量を直接測定可能な低コストの水分量測定センサ、該水分量測定センサを用いた水分量測定装置、及び、該水分量測定装置を用いた水供給量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば糖度の高いトマト、マンゴー、メロン、ぶどう、みかん、苺などの高品質な農作物を栽培する技術として、潅水量(農作物に与える水の量)を細かく調節する潅水栽培が注目されている。この潅水栽培においては、植物を水の欠乏状態に置き、水分不足によるストレス(水ストレスと称する)を与えると、植物が糖分を溜めて糖度が高くなる性質を利用している。しかし、水ストレスを与えすぎると植物は枯れてしまうため、植物への潅水量を如何に制御するか、が大きな課題である。
【0003】
植物の茎部内は、導管や師管、あるいは細胞によって満たされており、内部の水分量は土壌の水分量や天候等の様々な外的な要因によって絶えず変化している。潅水栽培においては、植物内の水分量及び水の流れが、作物の収量や品質に大きく影響を与える。従って、潅水栽培によって高品質な作物を栽培するためには、植物内の水分状態を常にモニタリングし、潅水量を制御する必要がある。
【0004】
これまで施設栽培においては、土壌の水ポテンシャルや日射量など植物内の水分状態と関わりのある環境要因の変化から、間接的に水分状態を推測する手法がとられてきた。特に土壌の水ポテンシャル測定については、水の比誘電率が非常に大きいことを利用して、2点間の電磁波の伝播速度から、その間の水分量を求めるTDR式センサ、土壌の熱伝導率を測定するヒートプローブ式センサ、土壌の静電容量を測定する静電容量式センサ(特許文献1参照)、マイクロ波や短波長赤外光を利用した光学センサ(非特許文献1参照)など数多くの研究がなされている。しかし、植物内の水分状態は、土壌の水ポテンシャルや日射量以外の多くの環境要因からも影響を受けるため、高度な水分管理を必要とする高品質作物栽培に対しては精度が十分でなかった。
【0005】
そこで、植物の水分状態を植物自体の情報から知る手法が研究されている。プレッシャーチャンバー法やサイクロメータ法は、水分状態の正確な指標である水ポテンシャルを測定することができるが、植物の一部を採取する破壊的な方法であることや、測定に時間を要することが問題である。また、茎径の変化(特許文献2参照)や蒸散量から植物内の水分状態を推測する方法は、非破壊的であるために継続的なモニタリングが可能であるが、茎径の変化や蒸散量と水分状態の関係性には不明瞭な点もあり、精度が十分でない。近年では、植物の葉の水分量を測定する近赤外分光法や赤外画像法、熱画像法などの光学センサの研究が盛んである。これらの光学センサは、非破壊かつ長時間のモニタリングが可能であるが、コストが高く、装置が大型であり、実際の農業の現場で、即ち農作物をその場で計測することはできないという問題がある。
【0006】
このような理由から実際に実用化されている有効なセンサはなく、潅水量の制御を生産者の経験や長年の勘に頼っているのが現状である。
【0007】
一方、特許文献3には、刺入型の植物薬剤処理手段が記載されているが、水分量を測定するものではなかった。
【0008】
このような問題点を解決するものとして、発明者は非特許文献2に記載したように、図1に示す如く、外径2.0mm、内径1.7mmの微小ガラス管を引き伸ばすことにより製作した、先端外形が200μmのプローブボディ10の内側表面に、一方の電極となる銀膜12を成膜する一方、他方の電極となる銀線14の外側に、吸水する水分量に応じて抵抗値が変化する高分子感水材であるポリビニールアルコール(PVA)を成膜し、これを銀線14が中心に来るよう前記プローブボディ10中に挿入した、高分子電気抵抗式の刺入型植物内水分量測定センサを開発した。このセンサは、植物内に直接プローブを刺入し、プローブ中の感水材により植物内の水分量を直接測定することができる。図において、18はリード線である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−21517号公報
【特許文献2】特開平7−289082号公報
【特許文献3】特表昭63−501262号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】SANYO TECHNICAL REVIEW, Vol.35, No.2, 2003, pp 40−47
【非特許文献2】T.Iwashita,K.Ariga and N.Miki,“Development of a Plant Water Content Sensor Using a Micro Probe”PROCEEDINGS OF THE 24TH SENSOR SYMPOSIUM,2007,pp457−460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、発明者の実験の結果、非特許文献2で提案したセンサは、次のような問題点を有することが分かった。(1)PVAは親水性が非常に強く、温水に可溶である。従って、多量の水を吸収するとPVA自体が膨張したり、溶解して流出してしまうため、測定値が一定にならず安定性に欠けることや、繰り返し使用すると値が変わり、良い再現性が得られず、植物内の水分量を測定するセンサには適さない。(2)銀線14をプローブボディ10の中心に通す必要があるため、作り難い。(3)PVA16がプローブボディ10の内側に配設されているため、水分がプローブボディ10の中に入らないと水分量を測定できないが、水分がプローブ先端から、うまくプローブボディ10の中に入らない。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、植物などの水分量を直接且つその場で安定して測定することが可能な、低コストで実用的な水分量測定センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、吸収する水分量に応じて抵抗値が変化する高分子を用いる高分子電気抵抗式センサを用いる。感水材である高分子は、水分(湿分)によってイオン伝導を起こす。水分(湿分)を吸収した高分子中には、図2に示す如く、自由に動き回れない固定イオンと、フリーな状態にあり電離して移動しやすい可動イオン(水素イオン)が存在する。ほとんどの伝導は、この可動イオンによって生じ、その可動イオン濃度は、吸湿水分量が増加するにつれ増加する。逆に吸湿水分量が減少すると可動イオン濃度が減少する。この高分子に電圧を印加することにより、可動イオンの濃度変化、すなわち吸湿水分量を抵抗の変化としてとらえることができる。尚、実際にセンサとして用いる高分子においては、水分(湿分)は可逆的な吸脱着を行う。ここで、感水材として高分子材料を用いる理由は、微小領域においても加工が容易であり、且つ、比較的安価だからである。
【0014】
次に、刺入型水分量測定センサの原理について説明する。
【0015】
図3に示すように、センサ8を植物6に刺入すると、プローブ部分の感水材が植物(例えば茎部)6内の水分を吸収する。プローブの先端(図3の右端)から吸収された水分は、末端(図3の左端)の感水材に伝わっていく。末端の感水材は空気と接しているため、水分は大気中に放出される。感水材が植物6内から吸収する水分量と、感水材から大気中に放出される水分量が等量になったところで、見掛け上の水分の移動が止まる。大気中の温度、湿度が一定で、大気中への水分の放出量が一定であるとすると、感水材内に含まれる水分量は、植物6内の水分量を反映している。感水材は、吸収する水分量によってインピーダンスが変化するので、インピーダンスを測定することで植物6内の水分量が測定できる。
【0016】
高分子感水材は、通常、水分吸収力が高いため湿度の測定には適していても、水分量の多い固体の水分量測定には適していなかった。しかし、常に大気中に水分を放出させることによって、高分子感水材を用いて固体の水分量の測定が可能になる。
【0017】
また、本発明で主な対象としている植物は、主にビニールハウスで栽培されており、温度がある程度制御され、雨などの天候の影響も受けないと想定できる。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、プローブボディと、その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材と、該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極と、を備えたことを特徴とする水分量測定センサにより、前記課題を解決したものである。
【0019】
ここで、前記プローブボディを針状とし、測定対象中に刺入可能とすることができる。
【0020】
又、前記高分子感水材を多孔質高分子(例えばポリエーテルサルフォン)とすることができる。
【0021】
本発明は、又、前記の水分量測定センサと、該水分量測定センサの電極間に電圧を印加して、該電極間のインピーダンスを検出するためのインピーダンス検出回路と、検出されたインピーダンスを水分量に変換する回路と、を備えたことを特徴とする水分量測定装置を提供するものである。
【0022】
又、前記の水分量測定装置の出力により、測定対象への水の供給量を制御することを特徴とする水供給量制御装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低コストのセンサで、植物などの水分量を直接、且つその場で安定して測定することが可能となる。従って、例えば植物潅水栽培で供給する水の量を制御することで、例えば高糖度な農作物を栽培することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】非特許文献2に記載された従来の刺入型水分量測定センサの構成を示す(a)斜視図及び(b)横断面図
【図2】本発明の原理を示す図
【図3】本発明に係る刺入型水分量測定センサの原理を示す図
【図4】本発明に係る水分量測定センサの実施形態の構成を示す(a)斜視図及び(b)横断面図
【図5】本実施形態におけるセンサ製作プロセスを示す図
【図6】同じくPES成膜プロセスを示す図
【図7】前記実施形態の評価実験を行なった構成を示す模式図
【図8】前記実施形態における水分量とインピーダンスの関係の検量線を示す図
【図9】同じく湿度の影響を示す図
【図10】前記実施形態の水分量測定センサを苺に刺入した状態を示す図
【図11】苺の水分量変化の測定結果を示す図
【図12】前記実施形態を用いた水分量測定装置の構成を示すブロック図
【図13】前記実施形態を潅水装置に適用した例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0026】
刺入型植物内水分量測定センサに適用した本発明の実施形態は、図4に示す如く、微小ガラス管を引き伸ばすことにより製作した、先端が針状のプローブボディ20と、その外側表面に成膜された、水に溶けず、水分に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材であるポリエーテルサルフォン(PES)24と、該PES24の膜に電圧を印加するための一対の電極26とから構成されている。図において、28は、前記電極26に接続されたリード線である。
【0027】
本実施形態の水分量測定センサ(以下、単にセンサとも称する)は、植物内に直接刺入するため、刺入部には植物の破壊を最小限に抑えるための微小さと強度が必要である。そこで本実施形態では、前記プローブボディ20として、微小ガラス管を用いたマイクロプローブを用いる。マイクロプローブは、微小ガラス管をプーラと呼ばれる機械で引き伸ばすことにより製作する。ガラスは熱伝導が非常に小さく不伝導熱体に近いため、ヒータの熱により変形する範囲が小さく、短く細く引き伸ばすことができる。本実施形態で使用したプーラは、引張方向の力として、重りの重力を使っている。ヒータにより与える熱量及び重りを変えることで、微小ガラス管形状をコントロールできる。本実施形態では、外径2.0mm、内径1.7mmの微小ガラス管を用いてマイクロプローブを製作した。その際、強度と刺さり易さが得られるように、できる限り細く短く設計した。プローブの先端は、強度や刺さり易さを考慮し、外径200μmとした。
【0028】
前記PES24は、水に溶けず、化学的に安定で、生体適合性に優れている。なお、PES24の代りに、他のサルフォン系高分子感水材や、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材を用いることもできる。
【0029】
図5にセンサの製作プロセスを示す。まず、例えば外径2.0mm、内径1.7mmのガラス管を熱しながら引き伸ばし、例えば外径が200μmの所で切断することで、図5(a)に示す如く、強度と刺さり易さを両立した、先端が鋭利なプローブボディ20を製作する。
【0030】
次いで、図5(a)のB−B断面を示す図5(b)に示す如く、プローブボディ20の側面に、電極をパターニングして分離するための、例えば幅1.5mmのPTFEテープ42を貼り付けた後、図5(c)に示す如く、まず電極金属(本実施形態では金)とガラスの密着性を高めるためのコンタクトメタルとしてチタン44を成膜し、その上に電極26の材料である金を成膜する。このように、金とガラス両方と強く吸着するコンタクトメタルを用いることにより、ガラス上に吸着強度の強い金を成膜することができる。なお、電極金属は金に限定されず、基材との密着性に問題がない場合は、コンタクトメタルを省略することもできる。
【0031】
その後、図5(d)に示す如く、PTFEテープ42を引き剥がして図5(e)の状態とし、更に、図6に示すWet Inversion法によりPES24を成膜することで、図4(b)に示すような断面のセンサが得られる。
【0032】
図6に示すWet Inversion法は、図5(e)の状態のプローブボディ20を、PESと溶解補助剤であるポリビニールピロリドン(PVP)を溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)に溶かして作成したPES溶液30に図6(a)に示す如く浸した後、図6(b)に示す如く、純水32に浸漬することで、PES24を成膜する。膜厚は、PES濃度により決定され、本実施形態では、PES溶液30の成分比を変えることで膜厚を調整した。具体的には、4種類の成分比の異なる溶液を使用し、各溶液で成膜されたPESの膜厚を測定し、その膜について評価した。溶液の成分比とその結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
結果として、溶液中のPESとPVPの割合が高くなり、溶液の粘性が高まるに連れ、膜が厚くなった。又、成膜された膜を評価すると、溶液1では、粘性が低いためか先端まで一様に成膜されなかったが、溶液2〜4では、良好な膜を一様に成膜することができた。
【0035】
膜厚の影響は、センサを植物に刺入する際に表れ、膜が厚いほど、刺入の際に剥れ易くなってしまうので、できる限り薄い方が良い。従って、本実施形態では、最も薄く、しかも良好な膜を成膜できる溶液2(PES10.0%、PVP10.0%、NMP80%)を最適な溶液と決定した。
【0036】
又、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてPES膜の表面を観察したところ、溶液の成分比の違いにより孔のサイズに違いが見られるものの、感水材としての性能に大きな違いは見られなかった。
【0037】
なお、プローブボディ20の材料はガラス管に限定されず、中実のガラス棒であっても良い。又、絶縁性があって刺し易いものであれば、プラスチックでもよく、金属に絶縁コーティングを施したものでも良い。更には、金属をプローブボディ20として一方の電極とし、その外側表面に高分子感水剤ともう一方の電極をコーティングする構造でもよい。断面形状も円に限定されない。
【0038】
センサを植物に刺入し、PESが水分を吸収することで、電極間のインピーダンスが変化する。これを検出することで、水分量を測定することができる。
【0039】
図7に示す実験装置を用いて、センサ特性の評価を行なった。このセンサは、本来、植物内の水分量を測定するものであるが、センサの特性を評価するため、湿度を一定に保ったグローブボックス内で、測定の対象として、一定の水分量を保った脱脂綿58にセンサ8の先端を接触させ、その際のインピーダンスを測定した。
【0040】
具体的には、ファンクションジェネレータ52によって発生した交流電源の信号を、ピエゾドライバ54によって増幅して交流電源装置として作用させた。ここから一定の周波数と交流電圧を、水分を調整した脱脂綿58に先端を刺入したセンサ8の電極26間に印加し、その際の電流値をマルチメータ56で測定した。更に、測定した電流値からインピーダンスを算出した。ファンクションジェネレータ52とピエゾドライバ54を組み合わせることにより、1〜1MHzの周波数と0.1〜200Vの電圧を印加することが可能となる。マルチメータ56は、0.1μAまで測定できるものを用いた。ここでは1kHzで5Vの交流電圧を印加したが、その理由は、直流電圧を印加すると、PESが電気分解を起こし腐食してしまうからである。
【0041】
先ず、センサ8が水分を吸収・放出する際に必要とする時間を測定したところ、最大10分程度で、植物の潅水における数時間のタイムスケールと比べて、十分実用になる応答時間であることが確認できた。
【0042】
脱脂綿58の水分量と測定したインピーダンスから作成した検量線を図8に示す。脱脂綿の水分量が増加するに従い、インピーダンスが指数関数的に減少し、両者の間に良好な相関があることが確認できた。その際のインピーダンス変化幅は2〜3桁と非常に大きい。又、測定可能範囲は水分量17%から62%までとなり、これまで高分子感水材が用いられてきた湿度センサなどに比べ、非常に高い水分領域での測定が可能となっている。この結果より、製作したセンサの有効性を確認することができた。
【0043】
本センサは、先に述べたとおり、常にPESから大気中に水分を放出し続けることで、植物内の水分量を測定している。そのため、大気中への水分放出量が測定値に大きく影響する。例えば、同じ水分量の植物を測定しても、大気中への水分放出量が多ければインピーダンスが高くなり、逆に、大気中への水分放出量が少なければインピーダンスは低くなる。水分放出量は、湿度や温度、対流に依存するが、潅水栽培では、温度調整されたビニールハウス内で使用することを目的としているため、温度と対流の影響は小さくなり、湿度の影響を主に受けると考えられる。具体的には、湿度が高くなると水分放出量が小さくなり、インピーダンスが低くなる。逆に、湿度が低くなると水分放出量が大きくなり、インピーダンスが高くなると予想される。
【0044】
そこで、図7に示した装置で、グローブボックス内の湿度を30%、40%、50%と変化させて、湿度の影響を調べた。その際、脱脂綿58の水分量を29〜62%に変えて、実験を行なった。その結果、予想したように、図9に示す如く、湿度が低くなるに連れてインピーダンスが高くなることが確認された。湿度が30%と40%の値を比較してみると、同程度のインピーダンスにおいても水分量で10〜15%の差がある。特に、湿度が低いほど、その影響が顕著に現われた。又、水分量が高い領域では変化の幅が小さくなった。従って、本センサを使用する際は、湿度補正を行なうことが望ましい。逆に、本センサを用いて、大気中の湿度を測定することも可能である。
【0045】
更に、本センサを用いて、苺の水分状態のモニタリングを行なった。初めに製作したセンサ8を、図10に示す如く、苺の茎部6に刺入し、固定した。刺入後、測定値が安定するまで数時間そのままの状態にした。数時間後、測定を開始した。測定は2時間毎(潅水後4時間は1時間毎)に行った。植物への潅水は、土が十分に乾燥したと思われるタイミング(開始から12時間後と27時間後)で2度行った。測定結果を図11に示す。
【0046】
図11より、第一に、潅水を行った直後にインピーダンスが低下していることが分かる。これは潅水を行ったことで、植物内の水分量が増加したためであると考えられる。2度の潅水でインピーダンスの変化幅に違いが見られるが、これは潅水を行った時間帯の違いが影響していると考えられる。第二に、日中の時間帯ではインピーダンスが徐々に増加し、夜間の時間帯ではほとんど変化が見られないことが分かる。日中は太陽光を浴び、光合成を行うために水分を消費するが、夜間は光合成を行わないため水分の消費は無い。従って、このような結果になったと考えられる。
【0047】
これらの検証により、潅水による植物内水分量の増加や、光合成による水分量の減少などの、植物内の水分量変化の特徴をインピーダンスの変化として捉えることに成功したと考えられる。結果として、刺入型水分量測定センサの実用可能性を実証することができた。
【0048】
本発明に係る水分量測定センサ8を用いた水分量測定装置60の一例を図12に示す。図において、60Aは、図7に示したファンクションジェネレータ52とピエゾドライバ54の組合せに相当する交流電源、60Bは、同じくマルチメータ56に相当する電流検出回路、60Cは、交流電源60Aで印加した電圧Vと電流検出回路60Bで検出した電流Iからインピーダンスを算出するインピーダンス算出回路、60Dは、算出したインピーダンスから、例えば図8に示した検量線を使って水分量を求める水分量換算回路、62は、測定された水分量を表示する表示装置である。この表示装置62としては、水分量を直接表示するアナログ又はデジタルのメータの他、水分量に応じて、水やりが必要な状態を、例えば色で表示するディスプレイや、音で知らせるスピーカ等を用いることができる。
【0049】
本発明に係る水分量測定センサは、植物の水分量を測定するだけでなく、図13に例示する如く、その出力により、測定対象への水の供給量を制御する潅水装置を構成することも可能である。図において、60は、図12と同じ構成の水分量測定装置、64は、測定された水分量に応じて水供給量をフィードバック制御するための潅水量制御装置、66は、配管68から供給される水の流量を制御するためのバルブである。
【0050】
なお、本発明のセンサの構成は刺入型に限定されず、プローブボディや電極の形状、サイズ、材質も実施形態に限定されない。測定対象も植物に限定されず、例えば食品中の水分や空気中の水分(湿度)を測定することもできる。更に、適用対象も、潅水装置に限定されない。
【符号の説明】
【0051】
6…植物(茎部)
8…センサ
20…プローブボディ
24…PES(膜)
26…電極
28…リード線
52…ファンクションジェネレータ
54…ピエゾドライバ
56…マルチメータ
60…水分量測定装置
60A…交流電源
60B…電流検出回路
60C…インピーダンス算出回路
60D…水分量換算回路
62…表示装置
64…潅水量制御装置
66…バルブ
68…配管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブボディと、
その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材と、
該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極と、
を備えたことを特徴とする水分量測定センサ。
【請求項2】
前記プローブボディが針状とされ、測定対象中に刺入可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の水分量測定センサ。
【請求項3】
前記高分子感水材が多孔質高分子とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分量測定センサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の水分量測定センサと、
該水分量測定センサの電極間に電圧を印加して、該電極間のインピーダンスを検出するためのインピーダンス検出回路と、
検出されたインピーダンスを水分量に変換する回路と、
を備えたことを特徴とする水分量測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水分量測定装置の出力により、測定対象への水の供給量を制御することを特徴とする水供給量制御装置。
【請求項1】
プローブボディと、
その外側表面に成膜された、水分の吸収離脱を行わせるための、水に溶けず、水分量に応じてインピーダンスが変化する高分子感水材と、
該高分子感水材のインピーダンスを検出するための電極と、
を備えたことを特徴とする水分量測定センサ。
【請求項2】
前記プローブボディが針状とされ、測定対象中に刺入可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の水分量測定センサ。
【請求項3】
前記高分子感水材が多孔質高分子とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分量測定センサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の水分量測定センサと、
該水分量測定センサの電極間に電圧を印加して、該電極間のインピーダンスを検出するためのインピーダンス検出回路と、
検出されたインピーダンスを水分量に変換する回路と、
を備えたことを特徴とする水分量測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水分量測定装置の出力により、測定対象への水の供給量を制御することを特徴とする水供給量制御装置。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図7】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図7】
【公開番号】特開2010−266324(P2010−266324A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117621(P2009−117621)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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