説明

水力を電力に変換する装置

【課題】本発明は、通常、空気の流れの中の物体に生ずるものと考えられているフラッタ現象を、水の流れの中で生起させ、その水のエネルギを電力に変換する方法及び装置に関するものである。
【解決手段】水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させ、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換する装置構成において、水路に設置して発電する場合は、水路幅を有効に利用するため、複数個の翼を配置するが、同位相で振動する隣り合う翼1,2同士の間に遮蔽板10を設けることで、簡単な構成で発電性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常、空気の流れの中の物体に生ずるものと考えられているフラッタ現象を、水の流れの中で生起させ、その水のエネルギを電力に変換する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
省エネ・地球温暖化抑制を狙っての風車による発電は世界の各地で普及し、それが景観の一部となっている場所も多く、極めて一般的で、今後もさらに増えると推定される。しかしながら我が国では一般的な設計風速である風速10〜15m/sの風が吹く場所・頻度は共に少ないと言う問題点がある。更に,発電量は風速の3乗に比例するため、風速が低くなると発電量が急激に落ちるという問題点もある。
【0003】
また、低速でも発電可能に、風の流れを絞り、局所的に風速を上げようと、風の方向に沿って縮小又は拡大する中空の集風筒体を設ける試みもなされているが、その効果は期待した程大きくなく、小規模のものであればともかく、大規模のものとなると、その筒体の設置に難が生じる。なお、1基当たりの発電量を大きくしようとして翼を長くしているが、そうすればする程周速が増大し、騒音が増すと言う問題点もある。
【0004】
それに対して、航空機の翼や吊り橋等で起こる破壊的な自励振動である、フラッタ現象を逆に有効利用して電力を得る試みが幾つかなされている。この方法の場合、風車の放射状の翼に比較して、長方形翼を列状に配列することによって、風のエネルギを有効に利用することが出来、発電効率が高くなると言う利点がある。
【0005】
このフラッタ現象による翼の動きは、(1)翼が流れに対する迎え角をプラスマイナス変化させるピッチング運動(往復回転運動)(2)翼が流れを横切るように動く往復並進運動の重ね合わせであって、(1),(2)の動きは,ほぼ90度位相がずれていて、その結果,翼は魚がくねって泳ぐように運動する。なお、発電は上記動きのうちの(2)の動きを利用して行なう。
【0006】
この風力に対して水力、すなわち水の運動エネルギを利用する水車の歴史は古く、そのうちダムによって蓄えられた水の位置のエネルギを運動エネルギに変えて発電する水力発電は、世界各地で普及していることは周知の通りである。
特に我が国では流速が比較的速い中小の河川が多いことから、水の流れ(運動エネルギ)を直に利用する中小規模の水力利用、特に発電への根強い期待が存在する。
しかしながら、水の流れによるフラッタ現象が自然現象として生起することがなかったためか、また、フラッタ現象についての負のイメージが強かったためか、空気に比較して有利であるにも拘わらず、それを有効に利用しようとする発想は今日まで全く見られなかった。
【0007】
その水によるフラッタ現象を生起させるためには、翼の質量として、理論的に、それが晒される流体の仮想質量(翼弦を直径とする円柱の質量)の10倍程度以上が必要である。従ってそのままでは水の流れによる水力発電は実現不可能であることは明らかであり、何らかの手段によって質量を増加する機構が必要である。
【0008】
そこで発明者は、翼に対するフラッタ現象を水の流れの中でも生起させるために必要な質量付加を、上記円盤を含む回転体の回転慣性モーメントによって行なうことを特徴とする、水のエネルギを電力に変換する方法及び装置を提供した。(例えば特許文献1)。
その方法は、水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させること、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換すること、且つ前記フラッタ現象を生起させるために必要な値の質量付加を、前記往復並進運動を回転体の往復回転運動に変換させ、その回転慣性モーメントによって行なうことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−96077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者が提案した方法において、単独翼での実験では有効な電力の発電ができる。しかしながら実際の水路に設置して発電する場合は、水路幅を有効に利用するため、複数個の翼を配置することになる。本発明ではこの翼列化する場合の最適な装置構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
翼列化する場合、発電量を増やすため隣り合う翼の間隔を狭めて、翼枚数を増やすことが考えられる。この時、隣り合う翼同士が同位相で振動すると、翼間隔が狭い時、発電性能は単独翼より大きく低下する。
逆に、逆位相で振動すると翼間隔が狭い時、発電性能は大きく向上することを発明者は実験で検証した。
【0012】
同位相で振動する翼列は機構が簡易であるが、逆位相の翼列は機構が二重になり複雑化する。本発明は、隣り合う翼同士の間に遮蔽板を設ける事で、機構が簡易な同位相の翼列の性能を、逆位相並みに向上させるものである。
【0013】
更に、翼に流れ込む水の流速を、水路の流速より早くして、発電量を向上させる手段として、つば付きの整流板を翼の両側に配置する構成も提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
逆位相で振動する翼列は発電性能は良いが、装置構成が複雑となり、実用的でないが、翼間に遮蔽板を配置する本発明によれば、装置構成が容易な同位相でフラッタ振動する翼列でも、逆位相と同等の発電効率を得ることができる。
更に、つば付きの整流板を翼の両側に配置する構成とする事により、翼に流れ込む水の流速を、水路の流速より早くできるため、発電性能を飛躍的に向上でき、流速の遅い水路への適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施例である、翼と遮蔽板の取り合いを示す斜視図である。
【図2】本発明の第二の実施例である、つば付整流板の取り付け構成を示す斜視図である。
【図3】本発明である翼間に遮蔽板を設置した場合の翼の作動工程を示す模式図である。
【図4】本発明を実証するための発電効率を表す実験結果である。
【図5】逆位相で往復回転動する翼の作動工程を示す模式図である。
【図6】同位相で往復回転動する翼の作動工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0017】
図5、図6に本発明の対象とする、フラッタ現象を構成する複数個の翼の、往復回転運動(振動)と往復並進運動が重ね合わさった状態例を示す。
図6は2枚配列された翼1,2が同位相で運動(振動)している例である。
図(a)は中立位置、図(b)は矢印Aの方向へ回転しつつ矢印aの方向へ並進、図(c)は矢印Bの方向へ回転しつつ矢印bの方向へ並進している状況を示す。図中記載の記号+,−はこのときの翼表面の圧力の大きさを示す。このように翼1,2が同位相で振動した場合は、隣接翼同士の向い合う面の圧力が+と−で打消し合う方向へ働くため揚力が減少し発電性能が低下する。
【0018】
これに対し、図5は2枚配列された翼1,2が逆位相で運動している例である。図(a)は中立位置、図(b)は翼1は矢印Aの方向へ回転し矢印aの方向へ並進,翼2は矢印Bの方向へ回転し矢印bの方向へ並進,図(c)は翼1は矢印Bの方向へ回転し矢印bの方向へ並進、翼2は矢印Aの方向へ回転し矢印aの方向へ並進、お互い逆位相で振動している状況を示す。図6同様+,−はこのときの翼表面の圧力の大きさを示す。
このように翼1,2が逆位相で振動した場合は、隣接翼同士の向い合う面の圧力が+と+,あるいは−と−で強調し合う方向へ働くため揚力が増加し発電性能は向上する。
【0019】
図4は、翼運動と翼間との発電性能を検証した結果である。横軸WGは翼間隔を翼弦長で割った比率を示し、縦軸EPは発電性能比を示す。
ここで黒丸印A0は図6で説明したように、翼1,2が同位相で運動(振動)した時の発電性能比であり、白丸B0は図5で説明したように翼1,2が逆位相で運動(振動)した時の発電性能比である。
この結果から、翼間隔を狭くして、翼を逆位相で振動させると発電性能が大きく向上することがわかる。
【0020】
図5に示す逆位相で運動する場合,同図に示す中心線は翼1,2に対する流れの対称面になり,その面を横切る流れは理論上生じない。このことは,この対称面に表面が滑らかな遮蔽板を置いても流れに影響を与えないことを意味しており,逆位相で運動する場合,隣り合う翼同士の間に遮蔽板を設置したときの性能は遮蔽板がないときの性能と同等と言える。
【0021】
図3は図6で示した同位相で運動する翼1,2の間に、本発明の遮蔽板10を設置した構成である。図(a)は中立位置、図(b)は矢印Aの方向へ回転しつつ矢印aの方向へ並進、図(c)は矢印Bの方向へ回転しつつ矢印bの方向へ並進している状況を示す。
隣り合う翼同士の間に遮蔽板10を設けることで、隣の翼の影響を無くすことができる。すなわち,隣の翼により翼表面の圧力が打消され揚力が減少して発電性能が低下する影響は遮蔽板で遮られる。同時に,前記段落番号[0020]で述べたように遮蔽板がある場合の性能は逆位相で運動する場合の遮蔽板がないときの性能と同等である。
以上説明したように、本発明によると、機構が簡易な同位相の翼列の性能を、逆位相並みに向上させることができる。
【実施例1】
【0022】
図1に本発明の第一の実施例を示す。50は本発明の発電装置であり、同位相で往復回転および往復並進運動(振動)する翼1,2の間に、流れに対して固定される固定フレーム8に遮蔽板10が取付けられて設置してある。30は翼1,2を往復回転させるためのピッチング用モータ、12はモータ架台である。この架台12は揺動フレーム6に固定されており、揺動フレーム6は流れに対して固定される固定フレーム8から吊りロッド5によって吊り下げられており,近似的に水平方向の並進運動ができるように構成されている。吊りロッド5の中間部はコイルばね15により固定フレーム8から弾性的に支持されている。吊りロッド5にコイルばね15を取付ける位置はスライド機構19により上下にスライドすることができ,並進運動の固有振動数を調整できる。本発電装置50の翼1,2を流れのある水中に置き,ピッチング用モータ30により翼1,2に所定の振幅と振動数のピッチング動を与えると,翼1,2およびそれを支持している揺動フレーム6は流れにより並進振動(フラッタ振動)を起こす。
【0023】
揺動フレーム6には上下方向にスライド可能にボールねじのナット部9が取付けられており,ボールねじナット部9と噛合うボールねじ11の軸受け部および発電機20は固定フレーム8に取付けられる。翼1,2および揺動フレーム6の並進振動はボールねじナット部9を介してボールねじ11の往復回転運動に円滑に変換され、更に発電機20にて電力変換される。
【実施例2】
【0024】
図2に本発明の第二の実施例を示す。この実施例は翼に流れ込む水の流速を、水路の流速より早くして、発電量を向上させる手段として、つば付きの整流板を翼の両側に配置した構成である。
発電装置50において、固定フレーム8で支持される装置は水中架台60内には図示しないが、図1で示した同位相で運動(振動)する翼1,2、遮蔽板10やピッチング用モータ30、発電機20等が配置されている。
【0025】
ここで水の流れ方向は図示矢印の方向である。本発明のつば付きの整流板40は、翼部に水を取り込むための5〜20度の傾斜角を設けた流入口41と、流入口の傾斜角とは逆方向に5〜20度の傾斜角を設けた整流板42と水流に直交したつば43から構成されている。またこの整流板40は水路の地盤に支柱45にて固定されている。ここで55は装置架台8を地盤の固定する支柱である。
【0026】
このように水路の地盤に固定されたつば付きの整流板40で、翼に流れ込む水の流速は、水路の流速より1.2〜1.4倍程度早くなり、発電量を2〜3倍に向上させることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 翼1
2 翼2
5 吊りロッド
6 揺動フレーム
8 固定フレーム
9 ナット部
10 遮蔽板
11 ボールネジ
12 モータ架台
19 スライド機構
20 発電機
30 モータ
40 つば付き整流板
41 流入口
42 整流板
43 つば
44 つば付き整流板固定架台
45 整流板固定架台
50 発電装置
55 支柱
60 水中架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させ、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換する装置構成において、複数個配列されたそれぞれの翼の間に遮蔽板を設けたことを特徴とする、水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項2】
前記複数個配列された翼は、同位相で往復回転運動する構成であることを特徴とする、請求項1に記載の水のエネルギを電力に変換する装置。
【請求項3】
水の流れに浸漬させた翼にフラッタ現象を生起させ、そのフラッタ現象を構成する翼の振動のうち、流れを横切るように動く往復並進運動を抽出し、電力に変換する装置構成において、複数個配列された翼の間に、つば付き整流板を設けたことを特徴とする、水のエネルギを電力に変換する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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