説明

水収集装置

【課題】自動的に水を収集することができるとともに、移動自在な水収集装置を提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜と、陽イオン交換膜の一方の表面上に設けられた正極と、陽イオン交換膜の他方の表面上に設けられた負極と、正極と負極との間に電圧を印加するための直流電源と、正極の表面上に設けられた吸水性ユニットとを備えた水収集装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水収集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」という。)には、携帯して持ち運びが可能なノート型パソコンと、机上での使用が中心となるデスクトップ型パソコンとがある。
【0003】
パソコンは、年々、高速処理化および大容量化の要求基準が高くなっており、この要求基準を満たすために、半導体素子であるCPU(以下、「CPU」という。)の発熱温度が高くなる傾向がある。この傾向は今後も変わらないと考えられる。
【0004】
このようなCPUの冷却方式としては、現状では、ファン等による空冷式が一般的である。しかしながら、空冷式は、放熱の能力に限界があるため、発熱温度が年々高くなるCPUの放熱に追従できなくなる可能性がある。空冷式においても、ファンの高速回転化や大型化によって、CPUの放熱に追従できる可能性も残されているが、パソコンの低騒音化や軽量化に逆行する。
【0005】
また、CPUの冷却方式としては、空冷式以外にも、冷却水を循環させてCPUを冷却する水冷式もある。しかしながら、水冷式においては、冷却水をポンプで強制的に循環させ、専用の冷却機で冷却するといった大型の冷却装置が必要となる。
【0006】
そのため、ノート型パソコンやデスクトップ型パソコンには、このような冷却装置を小型化して取り付ける必要がある。
【0007】
たとえば、特許文献1には、ノート型パソコンのCPUに水冷ジャケットを取り付け、ディスプレイケースの内側に放熱パイプが接続された金属放熱板を備えた水冷式の冷却装置が開示されている(たとえば、特許文献1の段落[0016]および図1等参照)。
【0008】
この冷却装置においては、CPUで発生した熱は、水冷ジャケット内を流通する冷却水に伝えられ、この冷却水が放熱パイプを通過する間に、ディスプレイケースの内側に設置された金属放熱板から外気に放出される。これにより、温度が低下した冷却水は、ポンプからフレキシブルチューブを通して、再び水冷ジャケット内に送出される(たとえば、特許文献1の段落[0017]等参照)。このように、特許文献1に開示された冷却装置においては、冷却水が循環することによって、CPUが冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−78271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の冷却装置においては、冷却水の貯水用として、リザーバタンクがディスプレイケースに設置されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の冷却装置においては、フレキシブルチューブ等の配管から冷却水が外部に透過して、リザーバタンクに貯水された冷却水の水位が低下する。
【0012】
そのため、特許文献1に記載の冷却装置においては、リザーバタンクの蓋を開けて、リザーバタンクに水を定期的に補給する必要がある。
【0013】
しかしながら、手動によるリザーバタンクへの水の補給は、水の補給箇所を誤ることによって、パソコンの故障を引き起こすおそれがある。また、不純物の多い水を補給して、フレキシブルチューブ等の配管が目詰まりを起こすことによってパソコンの故障を引き起こすおそれもある。
【0014】
また、パソコンの外部の配管からリザーバタンクに自動的に水を補給する場合には、パソコンの移動が制約される等の問題がある。
【0015】
以上のような問題は、パソコンのCPUの冷却装置の問題に限られるものではなく、様々な水冷式の冷却装置における問題でもある。
【0016】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、自動的に水を収集することができるとともに、移動自在な水収集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、陽イオン交換膜と、陽イオン交換膜の一方の表面上に設けられた正極と、陽イオン交換膜の他方の表面上に設けられた負極と、正極と負極との間に電圧を印加するための直流電源と、正極の表面上に設けられた吸水性ユニットとを備えた水収集装置である。
【0018】
ここで、本発明の水収集装置においては、吸水性ユニットの一部が陽イオン交換膜に接していることが好ましい。
【0019】
また、本発明の水収集装置は、正極で発生した酸素を負極側に輸送するための輸送ユニットをさらに備えていることが好ましい。
【0020】
また、本発明の水収集装置は、負極側の一部の空間が仕切られてなる水収集室をさらに備えていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の水収集装置においては、負極が多孔質体であることが好ましい。
また、本発明の水収集装置において、負極は、第1の触媒層を備えていることが好ましい。
【0022】
また、本発明の水収集装置においては、正極が多孔質体であることが好ましい。
また、本発明の水収集装置において、正極は、第2の触媒層を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、自動的に水を収集することができるとともに、移動自在な水収集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施の形態1の水収集装置の模式的な構成図である。
【図2】実施の形態1の水収集装置の正極で発生した酸素ガス(O2)および電子(e-)の挙動の一例を図解する模式的な拡大平面図である。
【図3】実施の形態1の吸水性ユニットと陽イオン交換膜との接触部分の模式的な拡大断面図である。
【図4】実施の形態2の水収集装置の模式的な構成図である。
【図5】実施の形態2の吸水性ユニットと陽イオン交換膜との接触部分の模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0026】
<実施の形態1>
図1に、実施の形態1の水収集装置の模式的な構成図を示す。実施の形態1の水収集装置1は、陽イオン交換膜2と、陽イオン交換膜2の一方の表面上に設けられた正極3と、正極3の表面上に設けられた吸水性ユニット6と、陽イオン交換膜2の他方の表面上に設けられた負極5と、負極5に設けられた第1の触媒層4と、正極3と負極5との間に電圧を印加するための直流電源9と、正極3で発生した酸素を負極5側に輸送するための輸送ユニット7と、負極5側の一部の空間が外壁8aにより仕切られてなる水収集室8と、を備えている。
【0027】
ここで、正極3は、多孔質体であって、たとえば、複数の導電性粒子の集合体と、導電性粒子の間の空間である孔3aと、を有する。吸水性ユニット6の一部は、正極3の孔3aを通して陽イオン交換膜2と接触している。
【0028】
また、輸送ユニット7は管状であって、輸送ユニット7の一端は正極3の端部に取り付けられており、他端は水収集室8の内部に位置している。また、輸送ユニット7は、外壁8aを貫通するようにして設けられている。
【0029】
実施の形態1の水収集装置1においては、まず、水収集装置1の周囲の大気中に含まれる水分が、たとえば矢印11の方向から吸水性ユニット6に接触して、吸水性ユニット6中に吸水される。
【0030】
次に、吸水性ユニット6中に吸水された水分は、正極3との接触によって、以下の反応式(I)により分解されることによって、水素イオン(H+)と、酸素ガス(O2)と、電子(e-)と、が発生する。
【0031】
2H2O→4H++O2+4e- …(I)
正極3で発生した水素イオン(H+)は陽イオン交換膜2に流れ込み、酸素ガス(O2)は輸送ユニット7中に流れ込み、電子(e-)は正極3と直流電源9とを接続する接続回路に流れ込む。
【0032】
図2に、正極3で発生した酸素ガス(O2)および電子(e-)の挙動の一例を図解する模式的な拡大平面図を示す。図2に示すように、正極3で発生した酸素ガス(O2)は、導電性粒子3bの間の空間である孔3aを通って正極3の端部に取り付けられている管状の輸送ユニット7の内部に流れ込む。一方、正極3で発生した電子(e-)は、隣り合う導電性粒子3b同士が接触して、導電性粒子3bが数珠繋ぎに連結されている部分を通って、正極3と直流電源9とを接続する接続回路に流れ込む。
【0033】
図3に、吸水性ユニット6と陽イオン交換膜2との接触部分の模式的な拡大断面図を示す。ここで、吸水性ユニット6に吸水された水分(H2O)の一部は、吸水性ユニット6に接触する正極3に供給されて、上記の反応式(I)により、水素イオン(H+)、酸素ガス(O2)および電子(e-)に分解される。ここで、酸素ガス(O2)および電子(e-)は上述したように移動し、水素イオン(H+)は陽イオン交換膜2に供給される。
【0034】
吸水性ユニット6と陽イオン交換膜2との接触部分から水(H2O)も陽イオン交換膜2に供給される。陽イオン交換膜2に供給された水(H2O)の一部は正極3に供給されて、上記の反応式(I)により、水素イオン(H+)、酸素ガス(O2)および電子(e-)に分解される。
【0035】
また、水(H2O)の残りの部分は、陽イオン交換膜2を通って、負極5側に移動する。これにより、陽イオン交換膜2中の含水率が向上し、陽イオン交換膜2中における水素イオン(H+)の移動が円滑になるため、より少ない電力で水を収集することができる傾向にある。
【0036】
このような水(H2O)の挙動は、水(H2O)の濃度勾配によるものである。すなわち、吸水性ユニット6と陽イオン交換膜2との接触部分は、第1の触媒層4と陽イオン交換膜2との界面と比較して、多くの水(H2O)が存在している。
【0037】
陽イオン交換膜2を通過して第1の触媒層4に到達した水素イオン(H+)は負極5側から供給された電子(e-)および酸素ガス(O2)と以下の反応式(II)により反応することによって、水(H2O)が生成する。ここで、電子(e-)は、直流電源9から負極5に接続回路を通して第1の触媒層4に流れ込む。また、酸素ガス(O2)は、水収集室8の内部に存在する酸素ガス(O2)が負極5を通って第1の触媒層4に流れ込む。
【0038】
4H++4e-+O2→2H2O …(II)
図1に示すように、実施の形態1の水収集装置1においては、正極3で発生した酸素ガス(O2)が管状の輸送ユニット7を通って矢印12の方向に水収集室8の内部に供給される。これにより、上記の反応式(II)による第1の触媒層4における水(H2O)の生成反応を促進することができる。
【0039】
また、負極5は、多孔質体であることが好ましい。この場合には、水収集室8の酸素ガス(O2)が負極5を通って第1の触媒層4に到達しやすくなるとともに、上記の反応式(II)によって発生した水(H2O)を外部に排出しやすくなる傾向にある。なお、多孔質体である負極5は、たとえば、複数の導電性粒子の集合体と、導電性粒子の間の空間である孔と、を有する。
【0040】
上記の反応式(II)によって生成した水(H2O)は、陽イオン交換膜2を通過してきた水(H2O)とともに、負極5(若しくは第1の触媒層4)の外表面に現れる水滴10となる。そして、負極5(若しくは第1の触媒層4)の外表面に現れた水滴10は、重力によって水収集室8の下方に落ちて行き、矢印13の方向から水収集装置1の外部に取り出される。
【0041】
実施の形態1の水収集装置1は、たとえば以下のようにして作製することができる。まず、陽イオン交換膜2を用意する。陽イオン交換膜2としては、陽イオン交換膜2の内部を陽イオンが通過可能な従来から公知の陽イオン交換膜を用いることができ、たとえば、ポリスチレン系の陽イオン交換膜またはフッ素樹脂系の陽イオン交換膜などを用いることができる。
【0042】
陽イオン交換膜2としては、なかでも、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜(特に、デュポン(株)製の「NAFION(登録商標)117R」)を用いることが好ましい。この場合には、陽イオン交換膜2の寿命が長くなる傾向にある。
【0043】
次に、陽イオン交換膜2の一方の表面上に正極3を形成する。ここで、正極3の形成方法は特に限定されないが、たとえば、陽イオン交換膜2の一方の表面にNaBH4水溶液などの還元剤を塗布した後に塩化白金酸水溶液を接触させ、陽イオン交換膜2の表面に導電性粒子として白金粒子を析出させる方法などを用いることができる。
【0044】
陽イオン交換膜2の表面に白金粒子を析出させて正極3を形成する場合には、陽イオン交換膜2の表面における白金粒子の付着量は、0.01mg/cm2以上100mg/cm2以下であることが好ましく、0.1mg/cm2以上10mg/cm2以下であることがより好ましい。白金粒子の付着量が0.01mg/cm2未満である場合には、白金粒子の付着量が少なすぎて、正極3の電極反応が促進せず、水を収集する際のエネルギーロスが大きくなる。また、白金粒子の付着量が100mg/cm2を超える場合には、正極3の製造コストが高くなる傾向にある。また、白金粒子の付着量が0.1mg/cm2以上10mg/cm2以下である場合には、正極3の製造コストを抑えつつ、正極3の電極反応を促進して、水を収集する際のエネルギーロスを小さく抑えることができる。
【0045】
上記においては、正極3の導電性粒子として白金粒子を用いる場合について説明したが、正極3の導電性粒子としては、たとえば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、イリジウム(Ir)、またはこれらの金属元素の少なくとも1種を含む合金などの金属粒子を用いることができる。
【0046】
また、白金粒子等の金属粒子を析出させる陽イオン交換膜2の表面には、予めブラスト処理等で粗面化処理をしておくことが好ましい。この場合には、陽イオン交換膜2の表面積が増加し、電極反応を促進し、エネルギーロスを抑制することが可能となる傾向にある。
【0047】
次に、陽イオン交換膜2の正極3の形成側とは反対側の表面に、第1の触媒層4が担持された負極5を形成する。ここで、第1の触媒層4が担持された負極5の形成方法は特に限定されないが、たとえば、以下のようにして作製することができる。
【0048】
まず、導電性カーボンとPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)との質量比が、導電性カーボン:PTFE=3:7である多孔質体を負極5として用意する。
【0049】
次に、負極5を塩化白金酸水溶液に浸漬させ、塩化白金酸水溶液を水素中で還元することにより、負極5に第1の触媒層4としての白金粒子を担持させる。ここで、白金粒子の担持量は、0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下であることが好ましい。白金粒子の担持量が0.01mg/cm2未満である場合には、白金粒子の付着量が少なすぎて、第1の触媒層4における反応が促進せず、水を収集する際のエネルギーロスが大きくなる。また、白金粒子の担持量が10mg/cm2を超える場合には、第1の触媒層4の製造コストが高くなる傾向にある。
【0050】
次に、負極5の第1の触媒層4と陽イオン交換膜2とが接するようにして、陽イオン交換膜2の表面上に第1の触媒層4が担持された負極5を設置する。そして、ホットプレス等によって、第1の触媒層4が担持された負極5と陽イオン交換膜2とを接合する。
【0051】
上記においては、第1の触媒層4の導電性粒子として白金粒子を用いる場合について説明したが、第1の触媒層4の導電性粒子としては、たとえば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、イリジウム(Ir)、これらの金属元素の少なくとも1種を含む合金、これらの少なくとも1種とニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)との合金などの金属粒子を用いることができる。
【0052】
次に、正極3の表面上に吸水性ユニット6を設置する。ここで、吸水性ユニット6は、吸水性を有する材質であれば特に限定されず、無機物、有機物およびその混合物のいずれであってもよい。吸水性ユニット6としては、なかでも、メタクリル酸メチルと酢酸ビニルとの共重合体、または架橋したポリアクリル酸ナトリウム等の吸水性ポリマー材料などが好適に用いられる。
【0053】
吸水性ユニット6の設置方法も特に限定されないが、たとえば、吸水性ユニット6自体の接着力で正極3の表面上に接着する方法、または網などの開口部を有する開口部材で正極3側に押さえつける方法などを挙げることができる。なお、吸水性ユニット6を押さえつけた開口部材は、たとえば、外壁8aなどに繋ぎ止めておくことができる。
【0054】
次に、管状の輸送ユニット7を備えた外壁8aを陽イオン交換膜2に取り付けて、負極5側の空間の一部を外壁8aで仕切ることによって、負極5側に水収集室8を形成する。このとき、輸送ユニット7の一端が正極3の端部に位置するように輸送ユニット7の位置合わせも行なわれる。
【0055】
ここで、輸送ユニット7としては、正極3で発生した酸素ガス(O2)を、外壁8aで取り囲まれた水収集室1に輸送できる部材であれば特に限定されず用いることができる。すなわち、輸送ユニット7は管状に限定されるものではない。
【0056】
なお、輸送ユニット7の一端は、たとえば、従来から公知の固定部材等を用いることによって、正極3の端部に固定されていてもよく、正極3の端部に固定されていなくてもよい。
【0057】
その後、正極3および負極5にそれぞれ接続回路を用いて直流電源9を接続することによって、実施の形態1の水収集装置1が作製される。直流電源9としては、たとえば、従来から公知の直流電源を用いることができる。
【0058】
実施の形態1の水収集装置1においては、外気の水分を吸水性ユニット6で吸水し、吸水性ユニット6から供給された水分を正極3で一旦分解した後に、第1の触媒層4で再度結合しているため、自動的な水の収集が可能となる。
【0059】
また、実施の形態1の水収集装置1には、水収集装置1の移動を妨げるような部材を用いる必要がないため、移動自在な水収集装置とすることができる。
【0060】
また、実施の形態1の水収集装置1においては、外気の水分を吸水性ユニット6で吸水しているため、外気が低湿度の場合にでも、水の収集が可能となる。
【0061】
さらに、実施の形態1の水収集装置1は、正極3で発生した酸素ガスを負極5側に輸送する輸送ユニット7を備えているため、負極5側における酸素ガス不足の発生を抑制することができる。これにより、効率的な水の収集が可能となる。
【0062】
<実施の形態2>
図4に、実施の形態2の水収集装置の模式的な構成図を示す。実施の形態2の水収集装置1aは、正極3が、陽イオン交換膜2の表面と接する第2の触媒層14を備えていることを特徴としている。
【0063】
ここで、正極3は、複数の孔3aを有する導電性カーボンの多孔質体からなる。また、第2の触媒層14は、複数の導電性粒子の集合体と、導電性粒子の間の空間である孔14aと、を有する多孔質体からなる。
【0064】
吸水性ユニット6の一部は、正極3の孔3aおよび第2の触媒層14の孔14aを通して陽イオン交換膜2と接触している。
【0065】
実施の形態2の水収集装置1aにおいても、まず、水収集装置1aの周囲の大気中に含まれる水分が、たとえば矢印11の方向から吸水性ユニット6に接触して、吸水性ユニット6中に吸水される。
【0066】
次に、吸水性ユニット6中に吸水された水分(H2O)は、第2の触媒層14との接触によって、下記の反応式(I)により分解されて、水素イオン(H+)と、酸素ガス(O2)と、電子(e-)と、が発生する。
【0067】
2H2O→4H++O2+4e- …(I)
図5に、吸水性ユニット6と陽イオン交換膜2との接触部分の模式的な拡大断面図を示す。図5に示すように、第2の触媒層14で発生した水素イオン(H+)は陽イオン交換膜2に流れ込む。また、酸素ガス(O2)は正極3の孔3aおよび第2の触媒層14の孔14aを通って正極3の端部に取り付けられている管状の輸送ユニット7の内部に流れ込む。さらに、第2の触媒層14で発生した電子(e-)は、隣り合う導電性粒子同士が接触して、導電性粒子が数珠繋ぎに連結されている部分を通って、正極3と直流電源9とを接続する接続回路に流れ込む。
【0068】
吸水性ユニット6と陽イオン交換膜2との接触部分から水(H2O)も陽イオン交換膜2に供給される。陽イオン交換膜2に供給された水(H2O)の一部は第2の触媒層14に供給されて、上記の反応式(I)により、水素イオン(H+)、酸素ガス(O2)および電子(e-)に分解される。
【0069】
陽イオン交換膜2を通過して第1の触媒層4に到達した水素イオン(H+)は負極5側から供給された電子(e-)および酸素ガス(O2)と以下の反応式(II)により反応することによって、水(H2O)が生成する。ここで、電子(e-)は、直流電源9から負極5に接続回路を通して第1の触媒層4に流れ込む。また、酸素ガス(O2)は、水収集室8の内部に存在する酸素ガス(O2)が負極5を通って第1の触媒層4に流れ込む。
【0070】
4H++4e-+O2→2H2O …(II)
図4に示すように、実施の形態2の水収集装置1aにおいても、第2の触媒層14で発生した酸素ガス(O2)が管状の輸送ユニット7を通って矢印12の方向に水収集室8の内部に供給される。これにより、上記の反応式(II)による第2の触媒層14における水(H2O)の生成反応を促進することができる。
【0071】
上記の反応式(II)によって生成した水(H2O)は、陽イオン交換膜2を通過してきた水(H2O)とともに、負極5(若しくは第1の触媒層4)の外表面に現れる水滴10となる。そして、負極5(若しくは第1の触媒層4)の外表面に現れた水滴10は、重力によって水収集室8の下方に落ちて行き、矢印13の方向から水収集装置1の外部に取り出される。
【0072】
実施の形態2の水収集装置1aは、たとえば以下のようにして作製することができる。まず、陽イオン交換膜2を用意する。次に、導電性カーボンとPTFEとの質量比が、導電性カーボン:PTFE=3:7である多孔質体を正極3として用意する。
【0073】
次に、正極3を塩化白金酸水溶液に浸漬させ、塩化白金酸水溶液を水素中で還元することにより、正極3に第2の触媒層14としての白金粒子を担持させる。ここで、白金粒子の担持量は、0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下であることが好ましい。白金粒子の担持量が0.01mg/cm2未満である場合には、白金粒子の付着量が少なすぎて、第2の触媒層14における反応が促進せず、水を収集する際のエネルギーロスが大きくなる。また、白金粒子の担持量が10mg/cm2を超える場合には、第2の触媒層14の製造コストが高くなる傾向にある。
【0074】
上記においては、第2の触媒層14の導電性粒子として白金粒子を用いる場合について説明したが、第2の触媒層14の導電性粒子としては、たとえば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、イリジウム(Ir)、これらの金属元素の少なくとも1種を含む合金、これらの少なくとも1種とニッケル(Ni)および/またはコバルト(Co)との合金などの金属粒子を用いることができる。
【0075】
また、実施の形態1と同様にして、導電性カーボン:PTFE=3:7である多孔質体である負極5に第1の触媒層4としての白金粒子を担持させる。
【0076】
次に、第2の触媒層14としての白金粒子が担持された正極3の第2の触媒層14側を陽イオン交換膜2の一方の表面側に設置し、第1の触媒層4としての白金粒子が担持された負極4の第1の触媒層4側を陽イオン交換膜2の他方の表面側に設置する。
【0077】
次に、たとえばホットプレス法等によって、陽イオン交換膜2の一方の表面に第2の触媒層14が担持された正極3を接合するとともに、陽イオン交換膜2の他方の表面に第1の触媒層4が担持された負極4を接合する。
【0078】
その後は、実施の形態1と同様にして、吸水性ユニット6、輸送ユニット7を備えた外壁8a、および直流電源9を備えることによって、実施の形態2の水収集装置1aが作製される。
【0079】
実施の形態2の水収集装置1aにおいては、外気の水分を吸水性ユニット6で吸水し、吸水性ユニット6から供給された水分を正極3で一旦分解した後に、第1の触媒層4で再度結合しているため、自動的な水の収集が可能となる。
【0080】
また、実施の形態2の水収集装置1aには、水収集装置1aの移動を妨げるような部材を用いる必要がないため、移動自在な水収集装置とすることができる。
【0081】
また、実施の形態2の水収集装置1aにおいては、外気の水分を吸水性ユニット6で吸水しているため、外気が低湿度の場合にでも、水の収集が可能となる。
【0082】
さらに、実施の形態2の水収集装置1aは、正極3で発生した酸素ガスを負極5側に輸送する輸送ユニット7を備えているため、負極5側における酸素ガス不足の発生を抑制することができる。これにより、効率的な水の収集が可能となる。
【0083】
本実施の形態における上記以外の説明は、実施の形態1と同様であるため、ここではその説明については省略する。
【実施例】
【0084】
本実施例においては、図1に示す構成の水収集装置1を作製した。まず、デュポン(株)製の「NAFION(登録商標)117R」からなるフッ素樹脂系の陽イオン交換膜2を用意した。
【0085】
次に、陽イオン交換膜2の一方の表面に対してブラスト処理により粗面化処理を行なった。そして、粗面化処理された陽イオン交換膜2の一方の表面に1%のNaBH4水溶液を塗布した後に、1%の塩化白金酸水溶液を接触させた。これにより、陽イオン交換膜2の表面に析出した白金粒子と、その白金粒子間の空隙である複数の孔と、からなる多孔質体である正極3を形成した。ここで、陽イオン交換膜2の表面における正極3としての白金粒子の付着量は、2mg/cm2であった。
【0086】
次に、導電性カーボンとPTFEとの質量比が導電性カーボン:PTFE=3:7である多孔質体を負極5として用意し、負極5を塩化白金酸水溶液に浸漬させ、塩化白金酸水溶液を水素中で還元することにより、負極5に第1の触媒層4としての白金粒子を担持させた。ここで、負極5における第1の触媒層4としての白金粒子の担持量は、0.5mg/cm2であった。
【0087】
次に、負極5の第1の触媒層4と陽イオン交換膜2とが接するようにして、陽イオン交換膜2の表面上に第1の触媒層4が担持された負極5を設置した。そして、ホットプレスによって、第1の触媒層4が担持された負極5と陽イオン交換膜2とを接合した。ここで、ホットプレスは、200℃で、5MPaの圧力を印加することにより行なった。
【0088】
次に、正極3の表面上に、メタクリル酸メチルと酢酸ビニルとの共重合体からなる吸水性ユニット6を設置した。ここで、吸水性ユニット6は、網で正極3側に押さえつけた状態で、網を外壁8aに繋ぎ止めることによって固定された。
【0089】
次に、コの字状の配管からなる輸送ユニット7を備えた外壁8aを陽イオン交換膜2に取り付けた。このとき、輸送ユニット7の一端が正極3の端部に位置するように輸送ユニット7の位置合わせを行なった。
【0090】
輸送ユニット7の一端は、正極3で発生した酸素ガス(O2)が漏れないようにテープによって正極3の端部に固定された。
【0091】
その後、正極3および負極5にそれぞれ接続回路を用いて直流電源9を接続することによって、本実施例の水収集装置1を作製した。
【0092】
上記のようにして作製した本実施例の水収集装置1を室内に設置し、直流電源9に2Vの電圧を印加することによって、負極9の表面に水滴10が付着し、水収集室8から回収できることが確認された。
【0093】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、パソコンのCPUの水冷式による冷却用の水収集装置などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
1,1a 水収集装置、2 陽イオン交換膜、3 正極、3a 孔、3b 導電性粒子、4 第1の触媒層、5 負極、6 吸水性ユニット、7 輸送ユニット、8 水収集室、8a 外壁、9 直流電源、10 水滴、11,12,13 矢印、14 第2の触媒層、14a 孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜と、
前記陽イオン交換膜の一方の表面上に設けられた正極と、
前記陽イオン交換膜の他方の表面上に設けられた負極と、
前記正極と前記負極との間に電圧を印加するための直流電源と、
前記正極の表面上に設けられた吸水性ユニットと、を備えた、水収集装置。
【請求項2】
前記吸水性ユニットの一部が前記陽イオン交換膜に接している、請求項1に記載の水収集装置。
【請求項3】
前記正極で発生した酸素を前記負極側に輸送するための輸送ユニットをさらに備えた、請求項1または2に記載の水収集装置。
【請求項4】
前記負極側の一部の空間が仕切られてなる水収集室をさらに備えた、請求項1から3のいずれかに記載の水収集装置。
【請求項5】
前記負極が多孔質体である、請求項1から4のいずれかに記載の水収集装置。
【請求項6】
前記負極は、第1の触媒層を備えている、請求項1から5のいずれかに記載の水収集装置。
【請求項7】
前記正極が多孔質体である、請求項1から6のいずれかに記載の水収集装置。
【請求項8】
前記正極は、第2の触媒層を備えている、請求項1から7のいずれかに記載の水収集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82452(P2012−82452A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227542(P2010−227542)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】