説明

水圧転写シート及びその製造方法

【課題】 水圧転写シートにおいて、水溶性フィルムに含まれる水分を調整して、蒸着装置における真空度の変化最小限にし、蒸着の安定化を図ってホログラ効果を確保すること。
【解決手段】 開示する水圧転写シートは、含水率が7%以下である水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の透明樹脂層と、該透明樹脂層上の蒸着金属層とからなり、該蒸着金属層の表面にエンボスが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面又は凹凸面を有する家具・建具、車両等の部品の表面化粧に使用される水圧転写シート及びその製造方法に関し、特に、転写物に安定したホログラム効果をもたらす水圧転写シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水圧転写技術は、特公昭52−441682号公報に示されているように、薄膜(フィルム)にパターンを印刷し、この薄膜を、印刷面を上にして液体表面上に浮かべ、前記印刷面上に物体を押圧しつつその全部又は一部を液中に沈め、液体の圧力により上記パターンを物体表面に転写し、その後薄膜を物体表面から除去する印刷技術として知られている。また、特公昭57−50547号公報に示されているように、薄膜を水溶性とする印刷方法も知られている。
【特許文献1】特公昭52−441682号公報
【特許文献2】特公昭57−50547号公報
【0003】
従来のいずれの水圧転写シートも曲面又は凹凸面のような複雑な外形形状を有する物体表面の化粧に適している。前記の水溶性の薄膜(フィルム)を含む水圧転写シートにおいて、その水溶性フィルムは転写中に水に溶けて消失し、透明な樹脂層と蒸着金属層とによるシートが転写物の表面を覆って化粧効果を発揮する。その化粧効果は、透明樹脂層に施したエンボスとこの透明樹脂層に隣接する蒸着金属層とによるホログラム効果、または透明樹脂層とこれに隣接する蒸着金属層に施したエンボスとによるホログラム効果である。このホログラム効果のほか、印刷層があるときはもちろん絵柄模様の印刷による装飾効果が付加される。
【0004】
ところで、ホログラム効果を安定して得るためには、蒸着装置における一定の真空度の下で金属材料の蒸着が行われることが必要である。しかし、水圧転写シートにとって不可欠の要素である水溶性フィルムは高い吸水性を有し、蒸着装置における真空度は、該水溶性フィルムに含まれる水分のためにしばしば変化し、蒸着にムラが生じるという問題がある。この蒸着ムラを生じたとき、所望のホログラム効果を得ることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水圧転写シートの製造過程における上記の問題に解決を与えることにあり、水溶性フィルムに含まれる水分を調整して、蒸着装置における真空度の変化を最小限にし、蒸着の安定化をはかってホログラム効果を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するために、水圧転写シートを構成する水溶性フィルムの含水率を一定値以下にすることを基本構想とするものであり、本発明らの知見によれば、その含水率を7%以下にすることにより、水圧転写シートによるホログラム効果を安定的に確保することができる。
【0007】
したがって、本発明に係る水圧転写シートは、含水率が7%以下である水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の透明樹脂層と、該透明樹脂層上の蒸着金属層とからなり、該蒸着金属層の表面にエンボスが施されている。
水圧転写シート。前記水溶性フィルムと前記透明樹脂層との間に印刷層を備えることができる。
【0008】
他方、本発明に係る水圧転写シートの製造方法は、含水率が7%以下である水溶性フィルム上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボスを施すことを特徴とする。また、水圧転写シートに印刷層を設けるときは、含水率が7%以下である水溶性フィルム上に印刷を施して印刷層を形成し、該印刷層上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボスを施す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す水圧転写シート10は、含水率が7%以下である水溶性フィルム12と、該水溶性フィルム上の透明樹脂層14と、該透明樹脂層上の蒸着金属層16とからなり、該蒸着金属層と前記透明樹脂層との間で該透明樹脂層にエンボス18が施されている。図2に示す水圧転写シート10では、水溶性フィルム12と透明樹脂層14との間に印刷層20が形成されている。
【0010】
水圧転写シート10の製造に際しては、含水率が7%以下である水溶性フィルム12上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層14を形成し、該透明樹脂層の表面にエンボス18を施し、該エンボスを施した透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層16を形成する。図2に示すように、印刷層20を設ける際は、前記水溶性フィルム12上に印刷を施して印刷層20を形成し、該印刷層上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層14を形成し、該透明樹脂層の表面にエンボス18を施し、該エンボスを施した透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層16を形成する。
【0011】
水溶性フィルム12の材料として、ポリビニルアルコール(PVA)を使用することができる。また、透明樹脂層14の材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又はラジカル重合樹脂を使用することができる。さらに、蒸着金属層16の材料としては、銅、クロム等の重金属を使用することができ、また酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等の酸化金属を使用することができ、さらにアルミニウムを使用することもできる。蒸着金属層16の厚さは150〜800Åとすることができる。またエンボス18の深さは0.5〜2μとすることができる。
【0012】
次に、本発明に係る水転写シート10においては、図3,4に示すように、エンボス18が蒸着金属層16に施されている。すなわち、図3に示す水圧転写シート10は、含水率が7%以下である水溶性フィルム10と、該水溶性フィルム上の透明樹脂層14と、該透明樹脂層上の蒸着金属層16とからなり、該蒸着金属層の表面にエンボス18が施されている。図4に示す水圧転写シート10は、前記の水溶性フィルム10と透明樹脂層14との間に印刷層20を有する。
【0013】
製造に際して、含水率が7%以下である水溶性フィルム10上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層14を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層16を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボス18を施す。印刷層20を設ける際は、前記の水溶性フィルム10上に印刷を施して印刷層20を形成し、該印刷層上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層14を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層16を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボス18を施す。
【0014】
図3,4に示す本発明の実施例においても、水溶性フィルム12の材料として、ポリビニルアルコール(PVA)を使用することができ、透明樹脂層14の材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又はラジカル重合樹脂を使用することができ、さらに、銅、クロム等の重金属を使用することができ、また酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等の酸化金属を使用することができ、さらにアルミニウムを使用することもできる。蒸着金属層16の厚さは150〜800Åとすることができる。またエンボス18の深さは0.5〜2μとすることができる。
【0015】
30μ厚のPVAフィルムからなる水溶性フィルムに硝化綿・アルキッド系インキを用いて絵柄を印刷して印刷層を形成した。この印刷層上に硝化綿・アルキッド系の透明な樹脂を3μの厚さで塗布して透明樹脂層を形成した。この透明樹脂層の表面に深さが1μのエンボスをエンボスローラを用いて形成した。さらにその透明樹脂層上にアルミニウムを蒸着して350Å厚の蒸着金属層を形成し、これにより図2に示す構成の水圧転写シートを得た。この水圧転写シートを使用してABSの成形品に水圧転写を行ったところ、印刷模様とホログラム効果とが相互に作用した、干渉色の強いホログラム模様を観察することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水圧転写シートの部分横断面図。
【図2】他の水圧転写シートの部分横断面図。
【図3】本発明に係る水転写シートの部分横断面図。
【図4】本発明に係る他の水転写シートの部分横断面図。
【符号の説明】
【0017】
10 水圧転写シート
12 水溶性フィルム
14 透明樹脂層
16 蒸着金属層
18 エンボス
20 印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が7%以下である水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の透明樹脂層と、該透明樹脂層上の蒸着金属層とからなり、該蒸着金属層の表面にエンボスが施されている、水圧転写シート。
【請求項2】
前記水溶性フィルムと前記透明樹脂層との間に印刷層を有する、請求項1に記載の水圧転写シート。
【請求項3】
含水率が7%以下である水溶性フィルム上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボスを施す、水圧転写シートの製造方法。
【請求項4】
含水率が7%以下である水溶性フィルム上に印刷を施して印刷層を形成し、該印刷層上に透明樹脂を塗布して透明樹脂層を形成し、該透明樹脂層上に金属材料を蒸着して蒸着金属層を形成し、該蒸着金属層の表面にエンボスを施す、水圧転写シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−241613(P2009−241613A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176396(P2009−176396)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【分割の表示】特願2000−146473(P2000−146473)の分割
【原出願日】平成12年5月18日(2000.5.18)
【出願人】(392036821)日本デコール株式会社 (6)
【出願人】(500224070)株式会社エール化成商事 (1)
【Fターム(参考)】