説明

水垢固着防止製品及びその製造方法

【課題】水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止効果に優れるとともに、この水垢固着防止効果が長期間に亘って持続し、かつ水垢が基体の表面に固着した場合であっても、この固着した水垢を容易に取り除くことが可能な水垢固着防止製品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水垢固着防止製品1は、基体2の表面に水垢固着防止コーティング膜3を形成し、この水垢固着防止コーティング膜3は、ケイ素とジルコニウムと酸素とリンとを含有し、ケイ素を酸化ケイ素に、ジルコニウムを酸化ジルコニウムに、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素の、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量に対する質量百分率が50質量%以下であり、かつ、リンは少なくとも表層部3aに分布している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水垢固着防止製品及びその製造方法に関し、特に、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止効果の持続性に優れ、この水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)が製品を構成する基体の表面に固着しても容易に取り除くことが可能な水垢固着防止製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水垢や動物の排泄物等の汚れが固着することにより生じる汚れは、キッチン、バスルーム、トイレ、洗面所等、水が付着し乾燥する条件のあらゆる場所で認められる。
水垢は、水に溶解した無機成分が水の蒸発に伴って析出したものであり、特に長期的に放置された場合、これを取り除くことができなくなるほど強固に固着してしまい、この水垢を薬品や研磨材等を用いて無理に取り除こうとすると、製品の基体自体を損傷してしまうという不都合があった。
また、例えば、動物の排泄物や嘔吐物等の汚物を処理する場合に、便器内面に糞便や嘔吐物が固着してしまい、流水のみでは充分に流し落とすことができないことがあり、清掃に手間を要するという不都合があった。また、これらの固着物を薬品や研磨材等を用いて無理に取り除こうとすると、便器自体を損傷してしまうという不都合があった。
そこで、従来では、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止を目的として、製品を構成する基体の表面に親水性コーティング膜または撥水性コーティング膜を形成した水垢固着防止製品が提案されている。
【0003】
例えば、基体の表面に親水性コーティング膜を形成した水垢固着防止製品としては、リチウム含有シリカ質膜にポリアクリル酸またはポリアクリル酸モノマーを含む共重合体を含有した親水性膜を基体表面に形成することにより、親水性膜と基体表面との接着性を向上させた水垢固着防止製品が提案されている(特許文献1〜3)。
また、衛生用陶器等の施釉製品の釉薬層の表面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂を塗布し硬化させて撥水性コウティング膜とした水垢固着防止製品も提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2003−301273号公報
【特許文献2】特開2003−299606号公報
【特許文献3】特開2002−302637号公報
【特許文献4】国際公開W02001/044592パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の水垢固着防止製品においては、親水性コーティング膜や撥水性コーティング膜に下記のような問題点があった。
すなわち、親水性コーティング膜では、膜の上で水が薄く広がるために、これが乾燥して水垢が析出しても、非常に目立ち難くなる。しかしながら、この水垢を長期間放置し、その間に水濡れ及び乾燥を繰り返していると、水垢の厚みが増し、やはり強固に固着して取り除くことができなくなってしまうという問題点があった。
【0005】
一方、撥水性コーティング膜では、膜が傾斜していた場合、膜の上で水が水玉となり、この水玉が傾斜面を転がり落ちてしまうために、膜が乾燥しても水玉の跡が水垢になることは無く、水垢の固着を防止することができるが、膜が水平になっていた場合、膜の上に水玉が留まり、そのまま水が蒸発すると水玉の跡が水垢となり、著しく水垢が目立った状態となって残ってしまうという問題点があった。さらに、この水玉を長期間放置し、その間に水玉の発生及び乾燥を繰り返していると、この水垢が強固に固着し、取り除くことができなくなってしまうという問題点があった。
また、撥水性コーティング膜と基体との密着性が悪く、長期間に亘って水垢固着防止効果を得ることができないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止効果に優れるとともに、この水垢固着防止効果が長期間に亘って持続し、かつ水垢が基体の表面に固着した場合であっても、この固着した水垢を容易に取り除くことが可能な水垢固着防止製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、基体の表面に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを特定の組成で含有し、前記リン(P)が少なくとも表層部に分布しているコーティング膜、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記リン(P)が少なくとも表層部に分布しているコーティング膜、のいずれかを形成すれば、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止効果に優れるとともに、この水垢固着防止効果が長期間に亘って持続し、しかも、水垢が基体の表面に固着しても容易に取り除くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1に係る水垢固着防止製品は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品であって、前記コーティング膜は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は50質量%以下であり、かつ、前記リン(P)は前記コーティング膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に係る水垢固着防止製品の製造方法は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめ、前記コーティング膜を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に係る水垢固着防止製品の製造方法は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して前記コーティング膜を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に係る水垢固着防止製品は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品であって、前記コーティング膜は、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記リン(P)は前記コーティング膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に係る水垢固着防止製品の製造方法は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめ、前記コーティング膜を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に係る水垢固着防止製品の製造方法は、基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して前記コーティング膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水垢固着防止製品によれば、基体の表面に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを特定の組成で含有し、前記リン(P)が少なくとも表層部に分布しているコーティング膜、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記リン(P)が少なくとも表層部に分布しているコーティング膜、のいずれかを形成したので、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止効果に優れたものとすることができ、この水垢固着防止効果を長期間に亘って持続させることができる。したがって、水垢が基体の表面に固着した場合であっても、水垢を簡単な操作で容易に取り除くことができ、労力を削減するとともに、作業効率を向上させることができる。
また、固着した水垢を取り除くための強い薬品類や研磨材が不要であるから、環境への負荷を低減することができる。
【0015】
本発明の水垢固着防止製品の製造方法によれば、基体の表面に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを特定の組成で含有し、前記リン(P)が少なくとも表層部に分布しているコーティング膜を形成した水垢固着防止製品を、簡単かつ効率よく作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の水垢固着防止製品及びその製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
「第1の実施形態」
図1は、本発明の第1の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図であり、この水垢固着防止製品1は、水垢固着防止製品の本体を構成する基体2の表面のうち少なくとも水垢が固着する虞のある領域に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有し、実質的に他の成分を含有していない水垢固着防止コーティング膜3が形成されている。
【0018】
基体2の形状は、目的とする製品の形状や仕様により様々な形状のものが選択使用される。また、その材質としては、水垢固着防止コーティング膜3を形成する際の熱処理に耐え得るのであれば格別の制限はなく、ガラス、陶磁器等のセラミックス、プラスチック等の有機物、ステンレス鋼等の金属を例示することができる。なかでも、水垢固着防止効果が優れる点で、便器、洗面器等の衛生陶器、浴室で用いられるタイル等のセラミックス製の製品、皿や鉢等の食器等、施釉(釉懸け)された製品を例示することができる。
【0019】
水垢固着防止コーティング膜3は、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)を含み、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、より好ましくは1質量%以上かつ40質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下であり、リン(P)が水垢固着防止コーティング膜3の表面近傍の表層部3aに分布している。
そして、このリン(P)を含む表層部3aが、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して優れた固着防止機能を有している。また、この水垢固着防止コーティング膜3は酸化ケイ素(SiO)を含有しているので、耐水性、基体2に対する密着性に優れている。
【0020】
ここで、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率を50質量%以下とした理由は、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が50質量%を越えると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を防止することができなくなり、しかも、一旦固着した水垢を水拭きあるいは水洗程度では除去することができなくなるからである。
特に、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が1質量%以上かつ20質量%以下の場合には、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着をより一層効率よく防止することができ、また、水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0021】
この水垢固着防止コーティング膜3の厚みは、0.005μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この水垢固着防止コーティング膜3の厚みが0.005μmを下回ると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対する固着防止性の付与が不充分なものとなり、一方、厚みが10μmを上回ると、水垢固着防止コーティング膜3自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、水垢固着防止コーティング膜3の厚みを0.1μm以下とするのが好ましい。
【0022】
この水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aの厚みは、後述する第1の製造方法の「第2の工程」における熱処理条件により決定されるが、通常の熱処理条件下では、水垢固着防止コーティング膜3の表面から少なくとも0.001μm以上である。また、この表層部3aにおけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上かつ10質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下であり、この表層部3aの表面から深さ方向に向かって徐々に低濃度となるような濃度勾配を有している。
この表層部3aにおけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)は水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段では除去することができず、一方、表層部3aにおけるリン(P)の濃度が10質量%を上回ると、水垢固着防止コーティング膜3の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0023】
この水垢固着防止製品1では、上記の表層部3aを有する水垢固着防止コーティング膜3が形成されているので、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を有効に防止することができる。また、この水垢が固着したとしても、水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段で容易に除去することができる。
しかも、この表層部3aを有する水垢固着防止コーティング膜3は、耐久性にも優れたものとなっている。
【0024】
この水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aが水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して優れた水垢固着防止効果を発揮する理由は、表層部3aの構成成分であるケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、リン(P)の各原子と酸素(O)原子との結合状態と密接に関連すると考えられる。
ここで、代表的な2種類の結合状態について説明する。
(1)下記の構造式(1)に示すように、1つのケイ素(Si)原子が4つの酸素(O)原子と化学結合しており、各々の酸素(O)原子が結合手を一本持っている場合。
【化1】

【0025】
この場合、酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示す。水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aが親水性を示すと、水垢がより強固に固着する。
【0026】
(2)下記の構造式(2)に示すように、1つのジルコニウム(Zr)原子が3つの酸素(O)原子と化学結合しており、これらの酸素(O)原子のうち1つの酸素(O)原子とは二重結合しており、その他の酸素(O)原子はそれぞれ結合手を一本持っている場合。
【化2】

【0027】
この場合、これらの酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示す。水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aが親水性を示すと、水垢がより強固に固着する。
【0028】
このようなケイ素(Si)原子と酸素(O)原子との化学結合、及びジルコニウム(Zr)原子と酸素(O)原子との化学結合を有する水垢固着防止コーティング膜3中にリン(P)が含まれると、例えば、下記の構造式(3)に示すように、リン(P)が酸素(O)原子の結合手と脱水縮合反応により架橋され、更に二重結合が生じる。この二重結合は水酸基(−OH)ではないために、ある程度の撥水性を示す。
【化3】

【0029】
その結果、水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aは、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して適度の親水性と撥水性を具備することとなり、よって、水垢の表層部3aとの密着性が低下し、水垢の固着が有効に防止される。これにより、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)が固着しても、水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段で簡単に除去することができる。
【0030】
この水垢固着防止製品1は、例えば、次のような第1の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第1の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、より好ましくは1質量%以上かつ40質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下である第1の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて熱処理して薄膜とする第1の工程と、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて熱処理することによりリン(P)成分を薄膜に含有せしめ、水垢固着防止コーティング膜3を形成する第2の工程とを有している。
【0031】
この第1の塗布液における上記のジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドを例示することができる。これらジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラプロポキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取り扱い易いので、膜質が均一な薄膜を形成することができる。
【0032】
また、上記のジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物、ジルコニウムテトラプロポキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0033】
これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物は、吸湿性が高く、非常に不安定であり、さらには、この第1の塗布液の貯蔵安定性も劣っているので、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物を用いることが好ましい。
【0034】
上記のジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物を例示することができる。ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
【0035】
また、上記のジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物を例示することができる。加水分解抑制剤の定義は、上述した通りである。
【0036】
この加水分解抑制剤の、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に対する割合は、このジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.5モル倍〜4モル倍が好ましく、より好ましくは1モル倍〜3モル倍である。
ここで、加水分解抑制剤の割合が0.5モル倍よりも少ないと、第1の塗布液の安定性が不充分なものとなるからであり、一方、4モル倍を上回ると、熱処理した後においても加水分解抑制剤が薄膜中に残留し、その結果、薄膜の硬度が低下するからである。
【0037】
これらジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を溶媒中に溶解し、さらに加水分解抑制剤を添加し、得られた溶媒中にてキレート化反応を生じさせたものであってもよい。
【0038】
上記のケイ素成分としては、熱処理により酸化ケイ素となり得るケイ素化合物であれば特に制限はないが、例えば、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0039】
上記の溶媒としては、上述したジルコニウム成分及びケイ素成分を溶解または分散させることのできる溶媒であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコールの他、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類(セロソルブ類)、アセトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール等のグリコール類、高級アルコール類、エステル類等を挙げることができる。特に、溶媒として水を用いる場合、アルコキシドの加水分解量以上の量の水を含有させると塗布液の安定性が低下するので、アルコキシドの加水分解量より少ない量とする必要がある。
【0040】
ここで、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を用いる場合、あるいは、ケイ素成分としてケイ素アルコキシドおよび/またはケイ素アルコキシドの加水分解物を用いる場合には、このジルコニウム成分またはケイ素成分の加水分解反応を制御する触媒を添加してもよい。
この触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸等を例示することができる。また、この触媒の添加量は、通常、塗布液中のジルコニウム成分及びケイ素成分の合計量に対して0.01〜10質量%程度が好ましい。なお、触媒の過剰の添加は、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞があるので好ましくない。
【0041】
この点、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドのキレート化合物またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物を用い、ケイ素成分としてコロイダルシリカを用いると、加水分解反応を制御する触媒である酸を添加する必要がなく、したがって、薄膜を形成する際に熱処理を行う熱処理炉を腐食する虞がないので好ましい。
【0042】
この塗布液においては、ジルコニウム成分とケイ素成分の合計の含有率は、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計の含有率が0.1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
合計の含有率が0.1質量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10質量%を上回ると、膜厚が所定の膜厚を超えて薄膜が白化したり、剥離したり等の原因となるので好ましくない。
【0043】
次いで、この第1の塗布液を基体2の表面に塗布する。塗布方法としては特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。塗布に当たっては、塗布膜の厚みを、熱処理後の膜厚が0.005μm〜10μmの範囲になるように調製することが好ましい。
【0044】
このようにして得られた塗布膜を室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の熱処理温度にて、通常、0.1時間以上かつ24時間以下の熱処理時間、熱処理し、薄膜を形成する。
ここで、熱処理時間が不足すると、得られた薄膜の膜強度が低下するので好ましくない。一方、熱処理温度が高すぎるか、あるいは熱処理時間が長すぎると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2の材質に応じて調整する必要がある。なお、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0045】
次いで、リン(P)成分を、水あるいは有機溶媒に溶解または分散させて、リン(P)成分を含む溶液または分散液を作製する。
このリン(P)成分としては、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸等のリン酸類、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸塩、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸水素ナトリウム、メタリン酸水素ナトリム等の縮合リン酸塩、リン酸エステル等のリン酸化合物等、リン(P)を分子骨格中に有するリン化合物であればよく、特に制限はない。
この溶液または分散液の溶媒としては、リン(P)成分を溶解または分散させることのできる溶媒であればよく、水あるいは有機溶媒が挙げられ、この有機溶媒には特に制限はない。
【0046】
このリン(P)成分を含む溶液または分散液におけるリン(P)の濃度は特に制限されないが、好ましくは、0.01質量%以上かつ10質量%以下である。
このリン(P)成分の濃度が0.01質量%を下回ると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対する固着防止効果が充分に達成されず、一方、リン(P)成分の濃度が10質量%を上回ると、表層部3aの表面が粗面化され、表面祖れが生じる虞がある。
また、このリン(P)を含む溶液または分散液には、塗布性を改善するために界面活性剤を含有してもよい。
【0047】
このリン(P)成分を含む溶液または分散液を薄膜の上に塗布する。
塗布方法としては特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。また、この溶液または分散液を塗布する際の塗布量については、薄膜に水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対する固着防止効果を十分に付与することができる量であればよく、特に制限は無い。
【0048】
次いで、このリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布した薄膜を、室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、リン(P)成分を薄膜に含浸せしめ、水垢固着防止コーティング膜3を形成する。
ここで、熱処理時間が不足すると、薄膜の膜強度が不充分となり、薄膜の表層部3a中のリン(P)成分の含有量が不足し、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対する固着防止効果が達成されないので好ましくない。
なお、熱処理温度が高すぎるか、あるいは熱処理時間が長すぎると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する必要がある。また、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0049】
なお、第1の工程で得られた薄膜が高温状態であった場合には、この薄膜の表面にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布するだけで、この溶液または分散液中のリン(P)成分を薄膜中に容易に含浸させることができる。したがって、この場合には、第2の工程の熱処理をわざわざ施す必要はない。この第2の工程の熱処理は、このような形態の熱処理も含むものである。
また、熱処理後、薄膜上に残渣が残存していることがあるが、この残渣は水洗などで容易に取り除くことができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の水垢固着防止製品によれば、水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aが水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して適度の親水性と撥水性を有しているので、水垢固着防止効果に優れたものとすることができ、この水垢固着防止効果を長期間にわたって維持することができる。したがって、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)が水垢固着防止製品1の表面に固着した場合であっても、この水垢を簡単な操作で容易に取り除くことができ、清掃作業等の労力を削減するとともに、作業効率を向上させることができる。
また、固着した水垢を取り除くための強い薬品類や研磨剤が不要であるから、環境への負荷を低減することができる。
更に、本実施形態の水垢固着防止製品の製造方法によれば、上記の効果を奏する水垢固着防止製品を簡単にかつ効率よく作製することができる。
【0051】
「第2の実施の形態」
図2は、本発明の第2の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図であり、この水垢固着防止製品11が第1の実施形態の水垢固着防止製品1と異なる点は、第1の実施形態の水垢固着防止製品1では、基体2の表面に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有し、実質的に他の成分を含有していない水垢固着防止コーティング膜3を形成し、この水垢固着防止コーティング膜3の少なくとも表層部3aにリン(P)を分布させたのに対し、本実施形態の水垢固着防止製品11では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有し、実質的に他の成分を含有していない水垢固着防止コーティング膜12を形成し、この水垢固着防止コーティング膜12中にリン(P)を略均一に分布させた点である。
【0052】
この水垢固着防止コーティング膜12の組成は、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)を含み、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、より好ましくは1質量%以上かつ40質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下であり、かつ、リン(P)が水垢固着防止コーティング膜12中に略均一に分布している。
【0053】
そして、このリン(P)を含む水垢固着防止コーティング膜12全体が、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して優れた固着防止機能を有しており、水垢固着防止の薄膜となっている。また、この水垢固着防止コーティング膜12は酸化ケイ素(SiO)を含有しているので、耐水性及び基体2に対する密着性に優れている。
【0054】
ここで、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する質量百分率を50質量%以下とした理由は、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が50質量%を上回ると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を防止することができなくなり、固着した水垢を水拭きあるいは水洗程度の簡単な清掃手段では除去することができなくなるからである。
特に、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を1質量%以上かつ20質量%以下とすると、水垢の固着をより一層効率よく防止することができ、また、水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0055】
この水垢固着防止コーティング膜12中におけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上かつ10質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下である。
この水垢固着防止コーティング膜12におけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、固着した水垢は水拭きあるいは水洗程度の簡単な清掃手段では除去することができず、一方、リン(P)の濃度が10質量%を上回ると、水垢固着防止コーティング膜12の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0056】
水垢固着防止コーティング膜12の厚みは、0.005μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この水垢固着防止コーティング膜12の厚みが0.005μmを下回ると、水垢固着防止効果が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、水垢固着防止コーティング膜12自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、水垢固着防止コーティング膜12の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0057】
この水垢固着防止製品11では、リン(P)が略均一に分布した水垢固着防止コーティング膜12が形成されているので、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を有効に防止することができる。また、この水垢固着防止製品11の表面に水垢が固着した場合であっても、この水垢を水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段で簡単に除去することができる。
しかも、この水垢固着防止コーティング膜12は、耐久性にも優れている。
なお、この水垢固着防止コーティング膜12が水垢固着防止効果を発揮する理由は、第1の実施形態の水垢固着防止コーティング膜3の表層部3aと同様である。
【0058】
この水垢固着防止製品11は、例えば、次のような第2の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第2の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、より好ましくは1質量%以上かつ40質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下である第2の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理することにより水垢固着防止コーティング膜12を形成する工程を有している。
【0059】
この第2の塗布液におけるリン(P)成分の濃度は、特に制限されないが、リン(P)成分をリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が0.001質量%以上かつ10質量%以下であることが、得られる水垢固着防止コーティング膜12が水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止性に優れ、水垢の固着をより一層効率よく防止することができ、また、水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0060】
この第2の塗布液におけるジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、ケイ素成分、リン(P)成分、溶媒、触媒については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0061】
この第2の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第2の塗布液を塗布した基体2を、室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に水垢固着防止コーティング膜12を形成する。
【0062】
ここで、熱処理時間が不足すると、水垢固着防止コーティング膜12の膜強度が不充分となるので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎたり、あるいは熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する必要がある。また、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
なお、熱処理後、膜の上に残渣が残存することがあるが、この残渣は水洗などで容易に取り除くことができる。
【0063】
この水垢固着防止製品11は、第1の実施形態の第1の製造方法によっても作製することができる。すなわち、上述した第1の製造方法の「第2の工程」における熱処理の際に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を、薄膜の深部(底部)まで充分に浸透させ、熱処理を施すことにより、リン(P)との化学反応を薄膜の深部においても生起させる。
【0064】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
しかも、水垢固着防止コーティング膜12中にリン(P)を略均一に分布したので、水垢固着防止製品11の表面における水垢固着防止性の面内均一性が向上したものとなっている。
【0065】
「第3の実施の形態」
図3は、本発明の第3の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図であり、この水垢固着防止製品21が第1の実施形態の水垢固着防止製品1と異なる点は、第1の実施形態の水垢固着防止製品1では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する水垢固着防止コーティング膜3を形成し、この水垢固着防止コーティング膜3の少なくとも表層部3aにリン(P)を分布させたのに対し、本実施形態の水垢固着防止製品21では、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有し、実質的に他の成分を含有していない水垢固着防止コーティング膜22を形成し、この水垢固着防止コーティング膜22の少なくとも表層部22aにリン(P)を分布させた点である。
【0066】
水垢固着防止コーティング膜22の厚みは、0.005μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この水垢固着防止コーティング膜22の厚みが0.005μmを下回ると、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止性の付与、及び固着した水垢の除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、水垢固着防止コーティング膜22自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、水垢固着防止コーティング膜22の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0067】
この表層部22aの厚みは、後述する第3の製造方法の「第2の工程」における熱処理条件により決定されるが、通常の熱処理条件下では、水垢固着防止コーティング膜22の表面から少なくとも0.001μm以上である。また、この表層部22aにおけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上かつ10質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下であり、この水垢固着防止コーティング膜22の表面から深さ方向に向かって徐々に低濃度となるような濃度勾配を有している。
【0068】
ここで、この表層部22aにおけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、固着した水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)を水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段では除去することができず、一方、表層部22aにおけるリン(P)の濃度が10質量%を上回ると、水垢固着防止コーティング膜22の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0069】
この水垢固着防止製品21では、上記の表層部22aを有する水垢固着防止コーティング膜22が形成されているので、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を有効に防止することができる。また、この表層部22aに水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができる。
しかも、この表層部22aを有する水垢固着防止コーティング膜22は、耐久性にも優れている。
【0070】
この表層部22aが水垢固着防止効果を発揮する理由は、表層部22aの構成成分であるジルコニウム(Zr)、リン(P)の各原子と酸素(O)原子との結合状態と密接に関連すると考えられる。
すなわち、下記の構造式(4)に示すように、1つのジルコニウム(Zr)原子は、3つの酸素(O)原子と化学結合しており、これらの酸素(O)原子のうち1つの酸素(O)原子とは二重結合しており、その他の酸素(O)原子はそれぞれ結合手を一本持っている。
【化4】

【0071】
これらの酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示すこととなる。水垢固着防止コーティング膜22の表層部22aが親水性を示すと、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)がより強固に固着する。
【0072】
このようなジルコニウム(Zr)原子と酸素(O)原子との化学結合を有する水垢固着防止コーティング膜22中にリン(P)が含まれると、下記の構造式(5)に示すように、リン(P)が酸素(O)原子の結合手と脱水縮合反応により架橋され、更に二重結合が生じる。この二重結合は水酸基(−OH)ではないために、ある程度の撥水性を示す。
【化5】

【0073】
その結果、水垢固着防止コーティング膜22の表層部22aは、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)に対して適度の親水性と撥水性を具備することとなり、よって、水垢の水垢固着防止コーティング膜22との密着性が低下し、水垢の固着が有効に防止される。また、水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができる。
【0074】
この水垢固着防止製品21は、例えば、次のような第3の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第3の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む第3の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して薄膜とする第1の工程と、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して熱処理することによりリン(P)成分を薄膜に含有せしめ、水垢固着防止コーティング膜22を形成する第2の工程とを有している。
【0075】
この第3の塗布液における上記のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、溶媒、触媒については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0076】
この第3の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第3の塗布液を塗布した基体2を、室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に薄膜を形成する。
【0077】
ここで、熱処理時間が不足すると、薄膜の膜強度が不充分となるので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎたり、あるいは熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する必要がある。また、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0078】
次いで、この薄膜に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布する。このリン(P)成分を含む溶液または分散液は、第1の実施形態のリン(P)成分を含む溶液または分散液と同様である。
このリン(P)成分を含む溶液または分散液を薄膜の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
【0079】
次いで、このリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布した薄膜を、室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、リン(P)成分を薄膜に含浸せしめ、水垢固着防止コーティング膜22を形成する。
【0080】
ここで、熱処理時間が不足すると、得られた水垢固着防止コーティング膜22の膜強度が不充分となり、この水垢固着防止コーティング膜22の表層部22aにおけるリン(P)成分の含有量が不足し、水垢固着防止効果が達成されないので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する必要がある。また、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
なお、熱処理後、膜の上に残渣が残存することがあるが、この残渣は水洗などで容易に取り除くことができる。
【0081】
なお、第1の工程で得られた薄膜が高温状態であった場合には、この薄膜の表面にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布するだけで、この溶液または分散液中のリン(P)成分を薄膜中に容易に含浸させることができる。したがって、この場合には、第2の工程の熱処理をわざわざ施す必要はない。この第2の工程の熱処理は、このような形態の熱処理も含むものである。
なお、熱処理後、膜の上に残渣が残存することがあるが、この残渣は水洗などで容易に取り除くことができる。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0082】
「第4の実施の形態」
図4は、本発明の第4の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図であり、この水垢固着防止製品31が第2の実施形態の水垢固着防止製品11と異なる点は、第2の実施形態の水垢固着防止製品11では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有する水垢固着防止コーティング膜12を形成し、この水垢固着防止コーティング膜12中にリン(P)を略均一に分布させたのに対し、本実施形態の水垢固着防止製品31では、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有し、実質的に他の成分を含有していない水垢固着防止コーティング膜32を形成し、この水垢固着防止コーティング膜32中にリン(P)を略均一に分布させた点である。
そして、このリン(P)を含む水垢固着防止コーティング膜32全体が優れた水垢固着防止機能を備えており、水垢固着防止性の薄膜となっている。
【0083】
この水垢固着防止コーティング膜32中におけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上かつ10質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下である。
この水垢固着防止コーティング膜32におけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、固着した水垢は水拭きあるいは水洗程度の簡単な清掃手段では除去することができず、一方、リン(P)の濃度が10質量%を上回ると、水垢固着防止コーティング膜32の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0084】
水垢固着防止コーティング膜32の厚みは、0.005μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この水垢固着防止コーティング膜3の厚みが0.005μmを下回ると、水垢固着防止性の付与、すなわち水垢の除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、水垢固着防止コーティング膜32自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、水垢固着防止コーティング膜32の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0085】
この水垢固着防止製品31では、リン(P)が略均一に分布した水垢固着防止コーティング膜32が形成されているので、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着を有効に防止することができる。また、この水垢固着防止製品31の表面に水垢が固着した場合であっても、この水垢を水拭きあるいは水洗程度の簡便な清掃手段で簡単に除去することができる。
しかも、この水垢固着防止コーティング膜32は、耐久性にも優れている。
なお、この水垢固着防止コーティング膜32が水垢固着防止効果を発揮する理由は、第2の実施形態の水垢固着防止コーティング膜12と同様である。
【0086】
この水垢固着防止製品31は、例えば、次のような第4の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第4の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む第4の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理することにより水垢固着防止コーティング膜32を形成する工程を有している。
【0087】
この第4の塗布液におけるリン(P)成分の濃度は、特に制限されないが、リン(P)成分をリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)に対する質量百分率が0.001質量%以上かつ10質量%以下であることが、得られる水垢固着防止コーティング膜32が水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)の固着防止性に優れ、水垢の固着をより一層効率よく防止することができ、また、水垢が固着したとしても、この水垢をより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0088】
この第4の塗布液におけるジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、溶媒、触媒、リン(P)成分については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0089】
この第4の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第4の塗布液を塗布した基体2を、室温(25℃)以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に水垢固着防止コーティング膜32を形成する。
【0090】
ここで、熱処理時間が不足すると、水垢固着防止コーティング膜32の膜強度が不充分となるので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎたり、あるいは熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるので、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する必要がある。また、熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
なお、熱処理後、膜の上に残渣が残存することがあるが、この残渣は水洗などで容易に取り除くことができる。
【0091】
この水垢固着防止製品31は、第3の実施形態の第3の製造方法によっても作製することができる。すなわち、上述した第3の製造方法の「第2の工程」における熱処理の際に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を、薄膜の深部(底部)まで充分に浸透させ、熱処理を施すことにより、リン(P)との化学反応を薄膜の深部においても生起させる。
本実施形態においても、第2の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
「実施例1」
ジルコニウムテトラブトキシド6質量部、アセト酢酸エチル3質量部、2−プロパノール90.9質量部を室温(25℃)下で30分混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液にテトラメトキシシラン0.1質量部を添加し、得られた溶液をエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)にて10倍に希釈し、実施例1の塗布液を得た。
【0093】
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は2質量%であった。
【0094】
次いで、表面が施釉されたタイルを試験片とし、この試験片の表面に上記の塗布液を、100g/mの塗布量にてスプレー塗装し、大気雰囲気中、700℃にて20分間熱処理して焼き付け、試験片の表面に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
次いで、この薄膜が形成された試験片を、1質量%(P換算)のトリポリ燐酸ナトリウム水溶液に浸漬して、薄膜の表面を充分に濡した後、引き上げ、さらに、この試験片を、大気雰囲気下、250℃にて20分間熱処理した。次いで、水洗して薄膜上の残渣を取り除き、表面に水垢固着防止コーティング膜が形成された水垢固着防止製品を得た。
この水垢固着防止製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0095】
次いで、この水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「含浸」とは、第1の製造方法によったことを示す。なお、評価方法は、次のとおりである。
(1)水垢の除去容易性
水垢固着防止製品の表面に水道水を1ml滴下し、大気中、100℃にて1時間加熱して水分を蒸発させ、水垢を析出させた。次いで、この水垢を水を含ませた布を用いて水拭きし、除去の容易性を評価した。
(2)耐水性
水垢固着防止製品を、水道水を沸騰させた沸騰水中に1ヶ月間浸漬し、その後、表面を束子で擦ってコーティング膜の表面状態を目視にて観察した。
【0096】
「実施例2」
ジルコニウムテトラブトキシドを1.7質量部に、アセト酢酸エチルを0.8質量部に、2−プロパノールを96.6質量部に、テトラメトキシシランを0.9質量部にそれぞれ変更した他は、実施例1に準じて実施例2の塗布液を得た。
この実施例2の塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は45質量%であった。
【0097】
次いで、この実施例2の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例2の水垢固着防止製品を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例2の水垢固着防止製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
さらに、この実施例2の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0098】
「実施例3」
ジルコニウムテトラブトキシド6質量部、アセト酢酸エチル3質量部、2−プロパノール91質量部を室温(25℃)下で30分混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液をエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)にて10倍に希釈し、実施例3の塗布液を得た。
【0099】
次いで、この実施例3の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例3の水垢固着防止製品を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例3の水垢固着防止製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
さらに、この実施例3の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「含浸」とは、第3の製造方法によったことを示す。
【0100】
「実施例4」
実施例1の塗布液に、リン(P)成分としてリン酸トリメチルを添加して実施例4の塗布液を得た。ただし、リン(P)成分の添加量は、リン酸トリメチルをリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率を1質量%とした。
【0101】
次いで、この実施例4の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例4の水垢固着防止製品を得た。ただし、実施例4の塗布液中には、リン(P)成分としてリン酸トリメチルが予め添加されているので、トリポリリン酸処理は施さなかった。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例4の水垢固着防止製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、1質量%であった。
さらに、この実施例4の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「塗布」とは、第2の製造方法によったことを示す。
【0102】
「実施例5」
実施例3の塗布液に、リン(P)成分としてリン酸トリメチルを添加して実施例5の塗布液を得た。ただし、リン(P)成分の添加量は、リン酸トリメチルをリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)に対する質量百分率を1質量%とした。
【0103】
次いで、この実施例5の塗布液を用いた他は、実施例3に準じて実施例5の水垢固着防止製品を得た。ただし、実施例5の塗布液中には、リン(P)成分としてリン酸トリメチルが予め添加されているので、トリポリリン酸処理は施さなかった。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例5の水垢固着防止製品の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、1質量%であった。
さらに、この実施例5の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「塗布」とは、第4の製造方法によったことを示す。
【0104】
「比較例1〜3」
実施例1〜3の水垢固着防止製品それぞれにおいて、トリポリリン酸処理を施す前の未処理品、すなわち薄膜が焼き付けられただけの試験片(表面が施釉されたタイル)を、比較例1〜3の水垢固着防止製品とした。
この比較例1〜3の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0105】
「比較例4」
ジルコニウムテトラブトキシドを1.5質量部に、アセト酢酸エチルを0.8質量部に、2−プロパノールを96.6質量部に、テトラメトキシシランを1.1質量部にそれぞれ変更した他は、実施例1に準じて比較例4の塗布液を得た。
この比較例4の塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は55質量%であった。
【0106】
次いで、この比較例4の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて比較例4の水垢固着防止製品を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この比較例4の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「含浸」とは、第1の製造方法によったことを示す。
【0107】
「比較例5」
実施例1の塗布液を、実施例1で用いた試験片(表面が施釉されたタイル)の表面に、100g/mの塗布量にてスプレー塗装し、大気雰囲気中、500℃にて20分間熱処理して焼き付け、試験片(表面が施釉されたタイル)の表面に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
次いで、この薄膜上に、5質量%の水酸化リチウム水溶液を50g/mの塗布量にて塗布し、大気雰囲気中、250℃の温度にて20分間熱処理し、表面にリチウムを含有する薄膜が形成された水垢固着防止製品を得た。
この比較例5の水垢固着防止製品の水垢の除去容易性及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1によれば、実施例1〜5の水垢固着防止製品では、水垢の除去容易性及び耐水性共に良好であった。
一方、比較例1〜3、5の水垢固着防止製品では、耐水性は実施例1〜5と遜色が無かったものの、水垢の除去容易性が劣ったものであった。
また、比較例4の水垢固着防止製品では、実施例1〜5と比べて、水垢の除去容易性及び耐水性共に劣ったものであった。
【0110】
「実施例6〜10」
試験片(表面が施釉されたタイル)を水洗便器に替え、この水洗便器の内面に実施例1〜5各々に準じて水垢固着防止コーティング膜を形成し、実施例6〜10各々の水洗便器を得た。
実施例6〜10各々の水洗便器について、便を付着させた後、水洗し、便の固着の有無を調べたところ、便の固着は全く認められなかった。
さらに、便の付着及び水洗を10,000回繰り返し行ったところ、便の固着が全く認められず、固着防止効果を長期間にわたって維持することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の水垢固着防止製品は、水垢固着防止製品の主要部を構成する基体の表面に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の水垢固着防止コーティング膜、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の水垢固着防止コーティング膜、のいずれかを形成することにより、水垢(動物の排泄物等の汚れを含む)が基体の表面に固着するのを防止することができ、また、水垢が基体の表面に固着したとしても、簡単な操作で容易に取り除くことができるものであるから、その工業的意義は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の水垢固着防止製品を示す断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1 水垢固着防止製品
2 基体
3 水垢固着防止コーティング膜
3a 表層部
11 水垢固着防止製品
12 水垢固着防止コーティング膜
21 水垢固着防止製品
22 水垢固着防止コーティング膜
22a 表層部
31 水垢固着防止製品
32 水垢固着防止コーティング膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品であって、
前記コーティング膜は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は50質量%以下であり、かつ、前記リン(P)は前記コーティング膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする水垢固着防止製品。
【請求項2】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめ、前記コーティング膜を形成することを特徴とする水垢固着防止製品の製造方法。
【請求項3】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して前記コーティング膜を形成することを特徴とする水垢固着防止製品の製造方法。
【請求項4】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品であって、
前記コーティング膜は、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、
前記リン(P)は前記コーティング膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする水垢固着防止製品。
【請求項5】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめ、前記コーティング膜を形成することを特徴とする水垢固着防止製品の製造方法。
【請求項6】
基体の表面に水垢の固着を防止するコーティング膜を形成してなる水垢固着防止製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を熱処理して前記コーティング膜を形成することを特徴とする水垢固着防止製品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−268991(P2009−268991A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122683(P2008−122683)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】