説明

水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法

【課題】水平型熱処理炉において、鋼帯の板厚が薄く、炉長が長く、炉内張力が低い場合でも、鋼帯の蛇行や絞りの発生を安定して防止することができる鋼帯の蛇行・絞り防止方法を提供する。
【解決手段】水平型熱処理炉10において、ロール11の周速(ロール速度Vr)と鋼帯10の移動速度(鋼帯速度Vs)の差の絶対値を1mpm以上とし、かつ、鋼帯1の移動方向でロール速度Vrが鋼帯速度Vsに対して大きくなる場合(Vr>Vs)と小さくなる場合(Vr<Vs)を交互に繰り返すようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に複数並んだロールを回転させてロール上の鋼帯を移動させながら熱処理を行う水平型熱処理炉において、鋼帯の蛇行や絞りの発生を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に一例を示すような、水平方向に複数並んだロール11を回転させてロール11上の鋼帯1を移動させながら鋼帯1の熱処理を行う水平型熱処理炉10においては、鋼帯1の板厚が薄く、炉長が長く、鋼帯1の炉内での張力(炉内張力)が低い場合には、鋼帯1に蛇行や絞りが発生しやすい。
【0003】
従来から、このような水平型熱処理炉10では、図1に示すように、入出側にステアリング装置12を設けることで蛇行や絞りを防止しているが、鋼帯1の板厚が薄く、炉長が長く、炉内張力が低い場合には、炉入出側のステアリング装置12のみでは、蛇行や絞りを防止することは不十分であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、炉内のロールと金属帯との間の摩擦係数を0.2以下と低減することで、炉内での金属帯の蛇行を防止するようにした水平型熱処理炉が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、炉内のロールの周速度を金属帯の速度より大きくすることで、炉内での金属帯の蛇行を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−011340号公報
【特許文献2】特開平9−324221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示されている水平型熱処理炉では、ロールと金属帯との間の摩擦係数を管理するため、ロール材質、金属帯の材質に制約が生じ、ロール製造コストも増大する。また、摩擦係数はロール表面や金属帯表面の状態によって操業中に経時変化するため、ロール交換タイミング等の操業管理が困難であり、操業を不安定にする要因となる。
【0008】
また、特許文献2に開示されている方法では、炉内のロールの周速度を金属帯の速度よりも大きくするため、ロールと金属帯との摩擦力だけ炉入出側の張力の差が生じる。炉長が長くなると、炉内にある金属帯の自重が増大し、ロールの本数も増えるため、これらの摩擦力が増大して、入出側の張力の差も大きくなり、炉内張力を低く保持することが困難となる。
【0009】
以上のとおり、特許文献1、2に開示されているような、従来の蛇行・絞り防止技術を用いて、水平型熱処理炉での金属帯(鋼帯など)の蛇行や絞りを防止しようとすると、摩擦係数の経時変化によって鋼帯の炉内通板が不安定になる問題や、鋼帯の炉内張力が過剰に増大する問題などがあった。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、水平型熱処理炉において、鋼帯の板厚が薄く、炉長が長く、炉内張力が低い場合でも、鋼帯の蛇行や絞りの発生を安定して防止することができる鋼帯の蛇行・絞り防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0012】
[1]水平方向に複数並んだロールを回転させてロール上の鋼帯を移動させながら熱処理を行う水平型熱処理炉において、鋼帯の移動方向でロール速度が鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すようにすることを特徴とする水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【0013】
[2]前記ロール速度と前記鋼帯速度の差の絶対値を1mpm以上とすることを特徴とする前記[1]に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【0014】
[3]近傍の複数のロール同士でロールブロックを構成し、同じロールブロック内のロールは同一速度で回転し、ロールブロックごとのロール速度が鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【0015】
[4]水平型熱処理炉の出口から少なくとも2ブロックのロール速度が前記[3]の条件を満たし、残りのブロックのロール速度を鋼帯速度と略同一とすることを特徴とする前記[3]に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水平型熱処理炉において、鋼帯の板厚が薄く、炉長が長く、炉内張力が低い場合でも、鋼帯の蛇行や絞りの発生を安定して防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】水平型熱処理炉の一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における基本的な考え方を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
この実施形態においては、図1に示した水平型熱処理炉10を対象としており、この水平型熱処理炉10は、水平方向に複数並んだロール11を回転させてロール11上の鋼帯1を移動させながら鋼帯1の熱処理を行うようになっている。
【0020】
そして、図2は、この水平型熱処理炉10における、ロール11の周速度(ロール速度)Vrおよび鋼帯1の移動速度(鋼帯速度)Vsと、ロール11と鋼帯1との間に作用する摩擦力Fの関係をベクトルを用いて示した平面図である。
【0021】
ここで、図2は、鋼帯1が蛇行してロール11に対して斜めに移動する場合であり、鋼帯1に作用する摩擦力ベクトルFの方向は、ロール速度ベクトルVrと鋼帯速度ベクトルVsの差ベクトルの方向となる。この摩擦力ベクトルFをロール軸に垂直な方向(ライン進行方向)とロール軸方向に分解し、それぞれロール軸に垂直な方向を摩擦ライン力Fx、ロール軸方向を摩擦スラスト力Fyとする。摩擦スラスト力Fyは蛇行や絞りの原動力となるため、蛇行や絞りを防止するには、この摩擦スラスト力Fyを低減する必要がある。
【0022】
ロール11の一本当たりの鋼帯1に作用する摩擦ライン力Fxと摩擦スラスト力Fyは、それぞれ以下の(1)式、(2)式となる。
【0023】
Fx=μ・N・sign(λ) ・・・・・・・・・(1)
Fy=−μ・N・θ/|λ| ・・・・・・・・・(2)
ここで、μはロール周方向の摩擦係数であり、ロール軸方向の摩擦係数も同様とした。Nはロール11の一本当たりに掛かる鋼帯1の自重であり、θはライン進行方向と鋼帯1の進行方向との角度であり、λはロール11と鋼帯1との間の滑り率で、下記の(3)式で示される値である。また、sign(λ)は滑り率λのシグナム関数(λ>0でsign(λ)=+1、λ=0でsign(λ)=0、λ<0でsign(λ)=−1)である。
【0024】
λ=(Vr−Vs)/Vs ・・・・・・・・・・・(3)
ここで、滑り率λが正の値の場合は、ロール速度Vrは鋼帯速度Vsより速く(Vr>Vs)、滑り率λが負の値の場合は、ロール速度Vrは鋼帯速度Vsより遅い(Vr<Vs)。
【0025】
そして、上記の(2)式から、滑り率λの絶対値|λ|が大きくなるほど、摩擦スラスト力Fyの絶対値は小さくなる。従って、滑り率λの絶対値|λ|を大きくすれば、摩擦スラスト力Fyの絶対値を小さくできて、蛇行や絞りを防止できるわけである。
【0026】
そこで、滑り率λの絶対値|λ|を大きくするためには、上記の(3)式から、速度差Vr−Vsの絶対値を大きくすればよい。ただし、滑り率λの絶対値|λ|が大きくなり過ぎると、鋼帯1に擦り傷性欠陥などが発生するという問題が出てくる。
【0027】
本発明者らの検討では、速度差Vr−Vsの絶対値を1mpm以上(Vr−Vs≦−1mpm、または、Vr−Vs≧1mpm)、滑り率λの絶対値を20%以下(−0.2≦λ≦0.2)とするのが好ましく、速度差Vr−Vsの絶対値を2mpm以上(Vr−Vs≦−2mpm、または、Vr−Vs≧2mpm)、滑り率λの絶対値を10%以下(−0.1≦λ≦0.1)とするのがさらに好ましい。
【0028】
速度差Vr−Vsの絶対値が1mpm未満では、ロール11と鋼帯1との速度差が小さいため、摩擦スラスト力Fyの低減度合いが小さくて、充分に蛇行・絞りを防止できない場合がある。また、滑り率λの絶対値が20%を超えると、鋼帯1に擦り傷性欠陥、ロール摩耗による寿命低下、炉内キャンバーなどが発生して問題となる場合がある。
【0029】
さらに、本発明者らは、摩擦スラスト力Fyの低減のために滑り率λの絶対値を増加させた場合、炉内張力が過大にならない方法について検討した。
【0030】
いま、炉出側張力は、炉入側での張力に、炉内の全ロールによる摩擦ライン力Fxを合算した値を取る。従来は、特許文献2に示されるように、鋼帯速度に関係なく、ロール群同士の周速度を制御して、張力を大きくすることにより安定した通板を可能にできた。しかし、張力を低減すると蛇行や絞りが発生して問題であり、板厚の薄い鋼帯では、炉出側張力が過大になって、炉内での鋼帯1の破断や耳割れなどが問題となり、本質的な解決策を取ることができなかった。
【0031】
そこで、本発明者らは、それぞれのロール11の回転速度(周速度)を調整することによって、滑り率λの符号をライン進行方向で交互に変えることを着想した。
【0032】
すなわち、上記の(3)式で表される滑り率λが正(+)の場合は、ロール速度Vrは鋼帯速度Vsより速く、滑り率λが負(−)の場合は、ロール速度Vrは鋼帯速度Vsより遅い。これをロールごとに交互に繰り返すと、(1)式の摩擦ライン力Fxの正負の符号も、滑り率λの正負の符号によって交互に変わる。その結果、炉内のロール全体でみると、正の摩擦ライン力と負の摩擦ライン力が相殺される結果、摩擦ライン力Fxを合算した値である炉内張力は低く保てるわけである。
【0033】
しかも、前述したとおり、滑り率λの絶対値を大きくできるため、鋼帯1の蛇行や絞りを炉内張力を低くしたままで防止することができる。
【0034】
なお、滑り率λはロール一本ごとに交互に正負を繰り返してもよいが、近傍の2本以上のロール同士でロールブロック(ロール群)を形成して、そのロールブロック(ロール群)内のロールは同一速度とし、ロールブロック(ロール群)ごとに滑り率λの正負を交互に繰り返してもよい。
【0035】
ここで、断面形状や平坦度が悪い鋼帯は、板幅方向の非対称性に起因して、炉内でキャンバーが発生し、成長する。鋼帯とロールを同じ速度にした場合、摩擦スラスト力が大きいためキャンバーの発生を抑止できる効果があるので、水平型熱処理炉の上流側(入口側)でキャンバーの発生を拘束するために鋼帯とロールを同じ速度とし、水平型熱処理炉の下流側(出口側)では絞り・蛇行の起因となる摩擦スラスト力を低くするために鋼帯とロールに速度差をつけた操業を行うとよい。
【0036】
具体的には、上述したように、近傍の複数のロール同士でロールブロックを構成し、同じロールブロック内のロールは同一速度で回転し、ロールブロックごとのロール速度が鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すようにする際に、水平型熱処理炉の出口から少なくとも2ブロックのロール速度がロールブロックごとに鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すようにし、残りのブロックのロール速度を鋼帯速度と略同一とするとよい。
【0037】
ここで、上述のロール速度を鋼帯速度と略同一とするとは、ロール速度Vrと鋼帯速度Vsが、0.99×Vs≦Vr≦1.01×Vsの関係となっている場合とすることができる。
【0038】
このようにして、この実施形態では、水平型熱処理炉10において、鋼帯1の板厚が薄く、炉長が長く、炉内張力が低い場合でも、鋼帯1の蛇行や絞りの発生を安定して防止することができる。
【実施例1】
【0039】
本発明の実施例として、炉長が300mで、1mピッチでロールが配置され、1200℃まで加熱する水平型熱処理炉において、炉入側張力を4.9〜10.1N/mmとし、炉出側張力を4.9〜9.8N/mmの範囲の低張力条件で、板厚0.23mm、板幅1mの鋼帯を通板した。
【0040】
その際に、本発明に基づいて鋼帯を通板した場合を本発明例とし、本発明に基づかないで鋼帯を通板した場合を比較例とした。
【0041】
鋼帯を通板条件(鋼帯速度Vs、ロール速度Vr等)と、実施結果(鋼帯の蛇行の有無、鋼帯の絞り破断の有無)を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明例であるNo.1〜No.2では、滑り率λの絶対値を2%(速度差Vr−Vsの絶対値を4mpm)または3%(速度差Vr−Vsの絶対値を6mpm)に設定するとともに、ロールごとに滑り率λの正負が交互になるように設定した。
【0044】
また、本発明例であるNo.3〜No.6では、滑り率λの絶対値を2%(速度差Vr−Vsの絶対値を4mpm)または3%(速度差Vr−Vsの絶対値を6mpm)に設定するとともに、ロールブロックごとに滑り率λの正負が交互になるように設定した。
【0045】
これらの本発明例(No.1〜No.6)では、炉出側張力が4.9〜9.8N/mmと低張力を保持したまま、蛇行や絞りを発生させずに通板することができた。
【0046】
これらに対して、比較例であるNo.7、No.8では、全てのロールで滑り率λを+2%(速度差Vr−Vs=4mpm)または+3%(速度差Vr−Vs=6mpm)に設定した。その結果、蛇行や絞りの発生は防止することができたが、炉入側張力が14.1〜19.0N/mmと著しく増大し、炉内で鋼帯の破断が発生し、操業不能となった。
【0047】
また、比較例であるNo.9では、炉出側張力を9.8N/mmと低下させるために、全てのロールで滑り率λを−2%(速度差Vr−Vs=−4mpm)と小さくしたが、蛇行や絞りが発生して操業不能となった。
【符号の説明】
【0048】
1 鋼帯
10 水平型熱処理炉
11 ロール
12 ステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に複数並んだロールを回転させてロール上の鋼帯を移動させながら熱処理を行う水平型熱処理炉において、鋼帯の移動方向でロール速度が鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すようにすることを特徴とする水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【請求項2】
前記ロール速度と前記鋼帯速度の差の絶対値を1mpm以上とすることを特徴とする請求項1に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【請求項3】
近傍の複数のロール同士でロールブロックを構成し、同じロールブロック内のロールは同一速度で回転し、ロールブロックごとのロール速度が鋼帯速度に対して大きくなる場合と小さくなる場合を交互に繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。
【請求項4】
水平型熱処理炉の出口から少なくとも2ブロックのロール速度が請求項3の条件を満たし、残りのブロックのロール速度を鋼帯速度と略同一とすることを特徴とする請求項3に記載の水平型熱処理炉における鋼帯の蛇行・絞り防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate