説明

水平多関節ロボット

【課題】多関節アームを有する作業用のロボットにおいて、操作用ケーブルを収納したチューブが多関節アームの作業中に巻き込まれて、作業を妨げないようにすること。
【解決手段】複数のアームからなる多関節作業アームBの先端アーム部と、前記多関節作業アームBを可動自在となるように支持するベースAとの間に、ケーブル11が収納されたチューブ10が設けられること。該チューブ10内にはバネ状の弾性を有する線部材12が遊挿されること。該線部材12の線方向のいずれか一方側は可動自在に支持されること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節アームを有する作業用のロボットにおいて、操作用ケーブルを収納したチューブが多関節アームの作業中に巻き込まれて、作業を妨げないようにすることができる水平多関節ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業用の水平多関節ロボット等において、多関節アーム部と、該多関節アーム部の支持ベースとの間に電線等の操作用ケーブルの束が収納されたチューブが備わっている。該チューブは、ケーブル同士が絡まり合うことや、外部の物体に引掛り、切断されることを防止するものである。ところが、このチューブ自体が、収納されたケーブル束の重量のために、垂れてしまい、多関節アーム部に引っ掛ることになり、しかも作業時においては、前記多関節アームが常時屈折動作を行うものであるため、多関節アーム部に引掛けられた前記チューブは、多関節アームの動作を妨害したり、又は多関節アームの動作によってチューブが損傷することがある。このような問題点を解決しようとした発明が下記特許文献に記載されている。
【特許文献1】特開平8−155881号
【特許文献2】実開平5−84477号
【特許文献3】実開平6−70967号
【特許文献4】実開平5−76666号
【特許文献5】実開平5−51587号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ケーブルが収納されたチューブが弛んで多関節アームに垂れて引っ掛らないようにすることを解決する技術内容が上記特許文献に開示されている。しかしながら、特許文献1(特開平8−155881号)及び特許文献4(実開平5−76666号)では、アームにケーブルやホースが支持部材を介して装着されている。このような構成では、ケーブルやホースを支持する支持具が必要であるし、またその支持具間におけるケーブルやホースに弛みや垂れが生じてしまう。さらに、支持具をアームに装着するためにアームに穿孔等の加工が必要となる等の面倒が生じる。
【0004】
次に、特許文献2(実開平5−84477号)では、キックレスケーブルに支柱及び可撓性を有する接続部材等が設けられ、前記キックレスケーブルを保護しようとするものである。これにも複数の大掛かりな部材が必要となり、装置自体のサイズも大きくなっている。さらに、特許文献3(実開平6−70967号)ではコンジットケーブルと多関節アームを共に覆うカバーが備わっている。ところがこの構成では多関節の屈折部では、カバーによる被覆ができず、結局屈折箇所に前記コンジットケーブルが引っ掛るか危険性が十分に存在している。
【0005】
特許文献5(実開平5−51587号)では、ケーブルの保護構造が開示されているが、多関節アーム箇所におけるケーブルの保護構造は開示されていない。しかるに、その垂れ下がりを防止する補助装置等を用いることなく、簡単に安価な構成により危険性を防止することにある。このため、本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、ロボットケーブルの弛みを簡単に安価な構成により防止し、危険性を回避することを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、複数のアームからなる多関節作業アームの先端アーム部と、前記多関節作業アームを可動自在となるように支持するベースとの間に、ケーブルが収納されたチューブが設けられ、該チューブ内にはバネ状の弾性を有する線部材が遊挿され、該線部材の線方向のいずれか一方側は可動自在に支持されてなる水平多関節ロボットとしたことにより、上記課題を解決した。
【0007】
次に、請求項2の発明は、水平方向に揺動する第1アームと、該第1アームに枢支連結して水平方向に揺動する第2アームと、前記第1アームと第2アームとが多関節可動自在となるようにして前記第1アームを支持するベースとからなる作業ロボットにおいて、前記第2アームと前記ベースとの間にケーブルが収納されるチューブが装着され、該チューブの内部にはバネ状の弾性を有する線部材が遊挿されると共に、該線部材は、その線方向の一方側が前記第2アーム又は前記ベースのいずれか一方側に移動自在に支持され、その線方向の他方側が固着されてなる水平多関節ロボットとしたことにより、上記課題を解決した。
【0008】
次に、請求項3の発明は、前述の構成において、前記線部材は、金属線又は合成樹脂線としてなる水平多関節ロボットとしたことにより、上記課題を解決した。次に、請求項4の発明は、前述の構成において、前記線部材の移動自在側の端部には、該線部材を線方向に移動自在に支持する線部材支持部から抜け出しを防止するストッパ部が形成されてなる水平多関節ロボットとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、ケーブル束が収納されチューブは、前記ケーブル束の重量が掛かっても、前記チューブ内にバネ状の弾性を有する線部材が遊挿され且つ該線部材の線方向のいずれか一方側が移動自在に支持されたことで、その線部材を略逆「U」字形状又は略アーチ形状となるようにして、多関節アームとベースとの間に設置することにより、そのチューブが弛むことなくまた垂れ下がることもなく、したがって、多関節アームにチューブが引っ掛ることを防止でき、多関節アームによる作業を行うことができるものである。
【0010】
次に、本発明では、第1アームと第2アームによって多関節アームが構成されたもので、ベースと第1アーム及び第1アームと第2アームとのそれぞれの連結箇所に屈折部が存在しているシンプルな構成により、ベースと、第2アームとの間には、バネ状の弾性を有する線部材を遊挿したチューブを装着し易く、前記線部材を略逆「U」字形状又は略アーチ形状となるようにして配置した場合にも、線部材の復元性は良好に保たれて安定したチューブの保護構造にすることができる。
【0011】
次に、前記線部材を金属線とすることにより、線部材は耐久性を有することとなり、寿命の長い装置にすることができる。また、前記線部材を合成樹脂線とすることにより、ケーブルと線部材とが接触しても両者に摩擦が生じにくく、さらにたとえケーブルのビニール被覆が損傷しても、ショートするおそれも存在しないものである。次に、前記線部材の移動自在側の端部には、該線部材を線方向に移動自在に支持する支持部から抜け出しを防止するストッパ部が形成されたことにより、線部材が支持部から抜け出すことを防止し、安定した作業状態を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。本発明の構成は、図1(a),図2等に示すように、ベースAと多関節作業アームBと、チューブ10と、ケーブル11及び線部材12とから構成される。まず、ベースAには、図1(a),図3に示すように、前記多関節作業アームBの第1アーム部6が水平方向に揺動自在に装着されている。そのベースAは、図2に示すように、略円筒形状のベースケーシング1の内部に主駆動モータ2がモータ制御機構と共に装着されている。そして、その主駆動モータ2のモータ軸2aによって、前記第1アーム部6が枢支連結されている〔図1(a),図3参照〕。
【0013】
前記ベースケーシング1には、図1(a),図2に示すように、副ケーシング4が装着されており、該副ケーシング4に、後述するチューブ10の一端側が装着される。さらに、該チューブ10内に収納される電線等のケーブルの一端が副ケーシング4の操作パネル5と連結されたり、或いは前記ベースケーシング1内の主駆動モータ2に連結されている。その操作パネル5には、制御スイッチ、制御ハンドル等の入力装置が設けられている〔図2(c)参照〕。
【0014】
前記多関節作業アームBは、複数のアーム部から構成され、具体的には、そのアーム部は、図2に示すように、第1アーム部6と第2アーム部7とから構成される。前記第1アーム部6と第2アーム部7とは、水平方向に揺動自在となるように、枢支連結されて前記多関節作業アームBが構成される。該多関節作業アームBは、前記第1アーム部6の長手方向の一端側が揺動中心部として前記ベースAの主駆動モータ2に装着され、前記ベースAの操作パネル5から揺動操作することができる。この実施形態では、多関節作業アームBを構成するアーム部は、2つ(第1アーム部6及び第2アーム部7)であるが、さらに3つ以上のアーム部から構成される多関節作業アームBであってもかまわない。
【0015】
また、前記第2アーム部7の長手方向の一端側には、モータハウジング部7aが形成され、その内部に副駆動モータ8が装着されている。そして、前記第1アーム部6の長手方向の他端側と、前記第2アーム部7の長手方向の一端側とが枢支連結される。その枢支連結箇所は、前記副駆動モータ8のモータ軸8aが前記第1アーム部6の長手方向他端側に軸支固定されるものである〔図1(a)参照〕。
【0016】
前記第2アーム部7は、前記第1アーム部6に対して、前記副駆動モータ8の駆動によって、揺動動作を行うものである〔図4(a),図5(a)参照〕。該副駆動モータ8も前記主駆動モータ2と同様に前記ベースAの操作パネル5から制御される。このようにして前記主駆動モータ2と副駆動モータ8により、前記多関節作業アームBの揺動による屈折動作にて、種々の作業が行われる。
【0017】
前記第2アーム部7の長手方向の他端側、すなわち、揺動自由端側には、種々の電動等によるドリル,ドライバ等の作業用ツール9が着脱自在に装着されるものである。該作業用ツール9も前記ベースAの操作パネル5から行うことができる。ここで、前記多関節作業アームBを構成するアーム部において、前記第2アーム部7を最外端に位置するアーム部としたが、前記多関節作業アームBを構成するアーム部が3つ以上であれば、その3つ以上のアーム部の中で最外端に位置するアーム部を先端アーム部とする。
【0018】
そして、前記多関節作業アームBを構成する最外端に位置する先端アーム部と、前記多関節作業アームBを操作自在となるように支持するベースAとの間に、チューブ10が掛け渡されている(図2,図3参照)。さらに具体的には、前記チューブ10の線方向一端が前記ベースAの副ケーシング4に連通するようにして装着されたものであり、また前記チューブ10の線方向の他端側は第2アーム部7のモータハウジング部7aの頂部箇所に装着されている。
【0019】
そのチューブ10は、具体的にはコンジットチューブと呼ばれるもので、樹脂製であり蛇腹状で、可撓性があり、容易に屈曲し、円弧状のカーブを構成することができる。また、前記チューブ10は、前述したように可撓性を有するものであれば金属製,布製等であっても構わない。
【0020】
そのチューブ10の線方向の両端が前述したように、ベースA及び先端アーム部である第2アーム部7に、コネクタ具を介して連結されている〔図1(b),図2(b)等参照〕。そのチューブ10は、電線等のケーブル11の束が収納されている。該ケーブル11は、ベースAの操作パネル5から前記主駆動モータ2及び副駆動モータ8を適宜操作するときの制御信号を発する役目をなしている。このケーブル11の束は、その重量が、前記チューブ10に掛かるものである。
【0021】
そのチューブ10の内部には、バネ状緊張性を有する線部材12が遊挿されている。そして、該線部材12は、前記チューブ10に遊挿されており、線方向の一方側が前記多関ベースA側に移動自在に支持され、他方側が先端アーム部に固着されている。具体的な実施形態では、先端アーム部は、第2アーム部7としている。前記線部材12は、バネ状の弾性を有する材質であり、弾性且つ復元性を有する金属線が使用される。その金属線の概念には、ピアノ線が含まれる。
【0022】
特に、金属線としてピアノ線が使用されることにより、その線部材12は、復元性が良好となり、且つピアノ線としたことにより極めて細径にできることから、チューブ10内に遊挿しても、その線部材12がチューブ10内のスペースに対して占める割合を少なくすることができる。よって、チューブ10内に十分なスペースを残しておくことができ、多数本のケーブル11を収納することができ、且つ前記線部材12とケーブル束との干渉を防止できる。
【0023】
また、弾性且つ復元性を有するものであれば合成樹脂線とすることもある。その線部材12は、図1,図3等に示すように、前記ベースAと第2アーム部7との間において略逆U字形状又はアーチ形状として装着される。そして、前記ベースAの副ケーシング4内部には線部材支持部13が装着されている。該線部材支持部13は、図1に示すように、前記線部材12の移動側端部を移動自在に支持するものであり、ループ状部13aが形成され、該ループ状部13aに前記線部材12が移動自在に挿入されている。
【0024】
そして、前記線部材12の移動側端部には、図1に示すように、ストッパ12aが形成され、該ストッパ12aによって、前記線部材支持部13のループ状部13aから抜け出すことを防止できる構造としている。また、線部材12の固着側では、前記第2アーム部7に固着支持部14が形成され、該固着支持部14に線部材12の固着側端部12bが固着されている。具体的には、前記線部材12の固着側端部12bは、鉤状に屈曲形成されて、前記固着支持部14に形成された貫通孔等の被係止部に係止されたものである。
【0025】
前記線部材12は、前記チューブ10内に遊挿されており、且つその線部材12はチューブ10内で略逆U字形状又はアーチ形状を形成することによって、チューブ10自体も略逆U字形状又はアーチ形状の形状に維持される。すなわち、線部材12がチューブ10の芯の役目をなすものである。この線部材12のバネ性の緊張性質により、チューブ10内に収納されたケーブル11の束の重量がかかっても下方に垂れることを防止することができる。
【0026】
また、前記線部材12の線方向の一方側が移動自在に支持されているので、多関節作業アームBの第1アーム部6と第2アーム部7とが屈折動作をすることにより、そのチューブ10の線方向端部同士の間隔が変化しても、前記線部材12に無理な荷重が掛かることなく、その円弧部の曲率半径が変化するのみで略逆U字形状又はアーチ形状を維持して、チューブ10を支持することができる。
【0027】
図4は、多関節作業アームBが屈折した状態でチューブ10が垂れることなく、円弧部の変化のみで略逆U字形状又はアーチ形状を維持している状態を示す。また図5では、多関節作業アームBの屈折動作による、チューブ10の間隔が変化する場合における、線部材12の形状の変化を示すものであり通常状態の線部材12の両間隔Sに対してその間隔がS及びSに変化する状態を示す。そして、前記線部材12の移動側の動作により、チューブ10が線部材12とともに良好な略逆U字形状又はアーチ形状を維持していることを示すものである。さらに、この変化に伴って前記線部材12の移動側端部におけるストッパ12aが線部材支持部13を介して上下動する状態が示されている〔図1(a),図5(b)等参照〕。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は本発明の一部切除した側面図、(b)は本発明におけるチューブ,線部材の主要部の構造を示す一部切除した斜視図である。
【図2】(a)は本発明の斜視図、(b)はベースの副ケーシングを断面にした背面図、(c)はベースの背面図である。
【図3】本発明のチューブと線部材とケーブルとの構成を示す構成略示図である。
【図4】(a)は第2アーム部が回動した作動状態を示す平面図、(b)は(a)の側面図である。
【図5】(a)は多関節作業アームの屈折動作によるチューブの変化を示す作用図、(b)は(a)に対応する線部材の作動図である。
【符号の説明】
【0029】
A…ベース、B…多関節作業アーム、6…第1アーム、7…第2アーム、
10…チューブ、11…ケーブル、12…線部材、12a…ストッパ、
13…線部材支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアームからなる多関節作業アームの先端アーム部と、前記多関節作業アームを可動自在となるように支持するベースとの間に、ケーブルが収納されたチューブが設けられ、該チューブ内にはバネ状の弾性を有する線部材が遊挿され、該線部材の線方向のいずれか一方側は可動自在に支持されてなることを特徴とする水平多関節ロボット。
【請求項2】
水平方向に揺動する第1アームと、該第1アームに枢支連結して水平方向に揺動する第2アームと、前記第1アームと第2アームとが多関節可動自在となるようにして前記第1アームを支持するベースとからなる作業ロボットにおいて、前記第2アームと前記ベースとの間にケーブルが収納されるチューブが装着され、該チューブの内部にはバネ状の弾性を有する線部材が遊挿されると共に、該線部材は、その線方向の一方側が前記第2アーム又は前記ベースのいずれか一方側に移動自在に支持され、その線方向の他方側が固着されてなることを特徴とする水平多関節ロボット。
【請求項3】
前記線部材は、金属線又は合成樹脂線としてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の水平多関節ロボット。
【請求項4】
前記線部材の移動自在側の端部には、該線部材を線方向に移動自在に支持する線部材支持部から抜け出しを防止するストッパ部が形成されてなることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の水平多関節ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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