説明

水底土壌改良剤並びにそれによる水底土壌の改良方法

【課題】干潟域の修復用及び人工干潟の形成用の砂の代替品を提供すること。
【解決手段】0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を含むことを特徴とする水底土壌改良剤にあり、また、水底の砂に、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を水底に堆積又は混合させることを特徴とする水底土壌の改良方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底土壌改良材及びそれによる水底土壌の改良方法に関し、特に、廃材の石炭燃焼炉クリンカ灰を活用する水底土壌改良材及びそれによる水底土壌の改良方法に関する。また、本発明は、貝類養殖用土壌改良剤及びそれによる貝類養殖方法に関する。さらに、本発明は、干潟域の修復用及び人工干潟の形成用の砂の代替品、及び該砂の代替品により、干潟域を修復し、人工干潟を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
干潟域は、魚介藻類などの生産力が高く、さらに、海水浄化やプランクトンの形成など生態系を形成する上で大きな役割を果たしている。しかしながら、わが国における干潟域は、埋め立てなどの沿岸開発により急減しており、現存する干潟域においても、河川流域の土地改変等により、河川からの健全な土砂供給が減り、水底土壌が軟泥化して、健全な干潟域はさらに減少している。
近年、全国的に干潟域での貝類の生産量の減少がみられ、その原因として、(1)河川流域からの土砂供給量の減少、(2)海域の海水流動構造の変化、(3)有機汚濁物質負荷の増加等による水底土壌の泥質化、(4)貧酸素水塊、(5)Mn・農薬などの化学物質、(6)温暖化による生態構造の変化及び(7)ウイルスなどの疾病等があげられている。
【特許文献1】特開2000−295240号公報
【特許文献2】特開平11−336043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような海底土の汚濁や、この海底土の汚濁に起因する海水の汚濁は、海域生物の死滅や赤潮などの有害生物の発生をもたらし問題とされており、また、淡水域の湖沼や貯水池における、底土の汚濁は、底土を汚泥化して、この底泥からの栄養塩等の溶出によるアオコの発生や、水の赤色化及び黒色化が問題となっている。
【0004】
そこで、干潟域や淡水域における底土の汚濁に対する直接的な対応策として、人工干潟造成や、底土の耕耘及び覆砂などが実施されている。例えば、覆砂等による人工干潟の形成は、アサリの生産量の回復に効果が認められており、実用的な対応策の一手法とされている。
このようなことから、今後は、生態系に対する水域環境保全の立場から河川や海域での砂の採取を制限すると共に、人工干潟の形成用及び覆砂用の砂等の土砂の代替品の開発が急務である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、人工干潟の形成用の砂の代替品について、鋭意研究を続けて、
石炭燃焼灰から得られる、例えば、クリンカ多孔質粒等のガラス質発泡体が人工干潟の形成用の砂として有効であることを発見し、本発明に至った。
本発明は、干潟域の修復用及び人工干潟の形成用の砂の代替品を提供することを目的とする。
即ち、本発明は、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を含むことを特徴とする水底土壌改良剤にあり、また、本発明は、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰と、ゼオライト、木炭、竹炭、陽イオン吸着剤若しくは陰イオン吸着剤又はこれらの混合物からなる添加物質とを含むことを特徴とする水底土壌改良剤にあり、さらに、本発明は、水底の砂に、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を水底に堆積又は混合させることを特徴とする水底土壌の改良方法にあり、さらにまた、本発明は、水底の砂に、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰と、ゼオライト、木炭、竹炭、陽イオン吸着剤若しくは陰イオン吸着剤又はこれらの混合物からなる添加物質と混合して、水底に堆積又は混合させることを特徴とする水底土壌の改良方法にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、水底の砂に、例えば、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を水底に堆積又は混合させて水底土壌を改良できるので、水底の生態系及び貝類の育成条件を長期間に亘って保つことができる。
本発明は、クリンカ多孔質粒等のガラス質発泡体を、例えば、干潟の汚濁砂に混合することにより、適当な有機物含量、透水性を持つ生育場に干潟を改善することができる。また、本発明は、粒径の大きいクリンカ多孔質粒等のガラス質発泡体を含む構造体を干潟敷設用として使用することにより、海水浸透性を高めることができる。さらに、本発明においては、構造体の一部に、生分解性プラスティックを利用し、干潟部に回帰させて、脱窒作用の炭素栄養源とすることができる。また、貯水槽などのコンクリート部に、クリンカ多孔質粒等のガラス質発泡体を混合したプレートを設置して、藻礁作用により、干潟における生態的改善をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、ガラス質発泡体は、ガラス質の発泡体であり、石炭燃焼灰を、海水その他の水流により急冷して、破砕することにより得られるクリンカ多孔質粒を包含する。このようなガラス質発泡体は、化学的に安定しており、既に水で処理されているので、有害な物質を水中に放出することがなく、化学的に安定し、砂粒状であり、簡単に破壊しない。そして、ガラス質発泡体は、多孔質であり、その孔内に有用な作用物質、例えば、粉状ゼオライト、木炭、竹炭、酸素供給材、陽イオン吸着剤又は陰イオン吸着剤を含有させることにより、種々の機能、例えば、不快物質及び有害物質の除去機能、底土の嫌気化抑制機能を持たせて、例えば、有用物質回収資材、有害物質吸着除去資材、有用物質供給資材、嫌気化抑制資材、アンモニア除去資材、リン除去資材、重金属除去資材又は微生物育成資材とすることができる。しかも、ガラス質発泡体が、空隙率が大きい多孔質粒であることは、海底、湖底及び川底の底土と混合して、底土の通気性及び通水性を良くして、底土の砂粒間の間隙水の水質を改善し、底土の水質浄化機能及び大気の浄化機能を回復させることができる。
【0008】
本発明のガラス質発泡体は、海底、湖底及び川底の底土の砂と比較して、比重が小さく、軽量であるために、例えば、覆砂材として軟泥部に覆砂しても、覆砂材が泥砂層内へ沈下する事が少なく、砂に比して覆砂作用が優れている。
【0009】
本発明のガラス質発泡体は、海底、湖底及び川底の底土の土に混合して、通水性を高めることにより、汚濁した底土を改善して、底土による浄化機能を回復することができる。また、本発明のガラス質発泡体を、海底、湖底及び川底の土の上を覆砂することにより、汚濁した底土から溶出物を少なくして、酸素消費作用等による影響を少なくして上層水の改善を行うことができる。このように、本発明のガラス質発泡体を含む資材を、海底、湖底及び川底の土(砂)に施工することにより、資材間又は資材上において、多種の生物の生息を可能にすることができる。また、本発明のガラス質発泡体を含む資材を、海底、湖底及び川底の砂層の上層部の下に配置させることにより、施工区域の資材を配置した砂層上層部及び下層部の通水性を高め、海底、湖底及び川底の砂層の浄化を行うことができ、また、通過水の浄化を行うことができる。
【0010】
さらに、本発明のガラス質発泡体を含む資材を、海底、湖底及び川底の砂層を上から下に貫いて柱状に配置することにより、海底、湖底及び川底の砂層の深部にまで、上層水の供給を促進して、深部の汚濁した砂層間の間隙水の上層部への排出を促進して、海底、湖底及び川底の砂層の浄化を行うことができる。海底、湖底及び川底において水流が形成されている領域では、海底、湖底及び川底に施工された前記ガラス質発泡体即ちクリンカ多孔質粒を含む資材は、水流により周辺部に移動して、周辺部への資材の施工が拡大でき、本発明のガラス質発泡体、即ちクリンカ多孔質粒を含む資材により浄化作用を拡大することができる。
【0011】
以下に示す本発明の実施例に基づいて、本発明を説明するが、本発明は、以下に例示する実施例及びその説明の内容により、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
実施例1
干潟の環境修復を目的として、農地に施用されているクリンカ多孔質粒の干潟域への適用実験例を次に示す。
本例においては、
(1) 本発明の一実施例としてクリンカ多孔質粒を使用した系列、
(2) 本発明の他の一実施例として、砂とクリンカ多孔質粒の混合物を使用した系列及び
(3) 比較例として干潟の砂を使用した系列、
の3系列の貝類飼育システムを製作し、アサリとハマグリの飼育実験を実施した。
17日間の飼育実験期間において、何れの系列においも貝類の生存が観察され、クリンカ多孔質粒の単独の系でも砂系と同じく最長56日間の生存が確認された。飼育実験期間における直上水及び底土間隙水の水質分析並びに底土の分析の結果、クリンカ多孔質粒はDOの改善効果、汚濁物質濃度低減効果が期待できる等、干潟修復資材としての有効性が確認された。
【0013】
(1) 飼育実験
a) 砂及び資材
実験に用いた砂は、大分県佐伯市の番匠川河口干潟の砂を使用した。クリンカ多孔質粒は、石炭火力発電所で燃焼時に高温で溶融した石炭が急速冷却されて生成するガラス状粒体で、多孔質で溶出物がほとんどないなど化学的に安定性が高い特長を有している。
本実験においては、クリンカ多孔質粒は、熊本県苓北石炭火力発電所からを入手したものを使用した。
【0014】
b) 実験例
本実験において、実験例1は、本発明の一実施例であり、クリンカ多孔質粒を使用した貝類の飼育実験例である。実験例2は、本発明の他の一実施例であり、砂とクリンカ多孔質粒を容量比1:1で混合した混合物を使用した貝類の飼育実験例である。実験例3は、比較例であり、砂のみを使用した貝類の比較飼育実験例である。これらの実験例は、何れも、15リットルの水槽を準備し、各水槽内に人工海水を入れ、この中に、容量500cmの各資材を敷いた容量が1リットルの硬質ガラスビーカを3箇並べて配置して行われた。夫々の実験例において、各ビーカーに貝類を投入し、実験期間中は、温度を20℃±1℃の範囲内とした。初期塩分濃度は、約28.8%であった。これらの実験例において、各水槽には、曝気装置、加熱装置及び温度センサを配置して、絶えず曝気しながら温度管理を行った。
c) 貝類
夫々の貝類の飼育実験例において使用した貝類は、佐伯湾産のアサリ2個体、ハマグリ1個体の合計3個体であった。各貝類は、実験に入る前に、人工海水で5日間以上無給餌で馴致させた。夫々の貝類の飼育実験例において、実験中は、数日間隔で配合飼料と藻類粉末を混合した餌を給餌した。
【0015】
(2) 飼育実験方法
各実験例において、飼育実験は、平成16年12月2日から17日まで実施した。その間12月3日(飼育開始1日後)、12月6日(飼育開始4日後)、12月9日(飼育開始7日後)、12月17日(15日後)に水槽内の直上水の水質を測定した。12月3日と12月17日には、貝類を飼育する水槽内の直上水をポリビンで直接採取し、また、水槽内の底質の間隙水を、平均孔径が0.45μmのメンブランフィルターを取り付けた注射筒等を用いろ過採取して、夫々分析に供した。実験中、サンプリングの採水により減少した海水の水量は、人工海水で補充し、蒸発により失われた水量は蒸留水で補充した。
実験中、底質直上水の水温、pH、DO、塩分濃度の夫々の測定については、多項目水質計(YSI ナノテック社製、YSI6600)を使用して測定した。また、総リン分(TP)、溶存態総リン分(DTP)、総窒素分(TN)、溶存態総窒素分(DTN)、硝酸及び亜硝酸態窒素分(NO+NO−N)についての値は、オートアラナライザ(ブランルーベ社製AACS3)を用いて求めた。間隙水の水素イオン濃度(pH)及び酸化還元電位(ORP)の測定についてはTOA社製HM−10Pを用いて測定し、DOについては、YSI社製MODEl58を用い、スペーサー内に浸出する間隙水に直接センサーを投入して測定を行った。
間隙水は、水槽内の上澄み水を完全に採水除去した後、底部のスペーサー内に浸出する間隙水について、測定用のセンサをビーカ底部まで差し込み震動を与えることによりスペーサー内に間隙水を浸出させ、これを平均孔径が0.45μmのメンブランフィルターを取り付けた注射筒で吸引しろ過採取した。また、実験開始時及び終了時の水槽内底質の炭素及び窒素含有量の分析を行った。
【0016】
(3) 飼育実験結果
(1) 貝類の観察
各実験例において、飼育実験期間中は、ハマグリ及びアサリについて共に生存が確認された。実験に供した貝類の殻長、湿重量を次の表−1に示す。

生存した貝殻については、概ね、湿重量が維持されるか、又は僅かながら増加を示した。アサリについては、各実験例とも、実験終了後1個体が死亡したが、残りの個体は最大56日間に亘って生存が確認された。なお、56日以降は凍結保存された。
【0017】
(2) 底質直上水の水質
底質直上水のpH、DOの測定結果を図−1に、栄養塩分析結果を図−2に示す。
a) 水素イオン濃度(pH)
各実験例において、pHは、共に8前後の弱アルカリ性で推移した。クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)及び砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、pHは、7.9〜8.3の範囲でほぼ同様に推移した。砂を使用した実験例(比較例)では、pHは、7.8〜8.2の範囲でやや中性側の値となった。
pHは、水産用水基準では、pHは、7.8〜8.4の範囲に定められており、クリンカ多孔質粒が含まれている系では、pHは、基準を満たしているのに対し、砂を使用する実験例(比較例)では、pHは、僅かに基準を超過した。
【0018】
b) 溶存酸素量(DO)
溶存酸素量(DO)は、クリンカ多孔質粒を使用する実験例では、5.1〜8.0mg/リットルの範囲であり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例では、5.0〜7.9mg/リットルの範囲であり、砂の場合は、4.9〜7.9mg/リットルの範囲を推移した。実験期間中は何れの実験例にあっても減少傾向を示したが、何れも水産用水基準の内湾の底層の基準(夏季)の4.3mg/リットルを満足している。
【0019】
c) 窒素成分(DTN、NO+NO−N)
溶存態総窒素分濃度(DTN)は、人工海水が0.331mg/リットルであるのに対し、12月6日における砂を使用する実験例(比較例)では、0.598mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒資材を使用する実験例(実施例1)では、0.509mg/リットルであり、砂及び・クリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.511mg/リットルであり、共に、溶存態総窒素分濃度は、人工海水に比して高濃度であった。溶存態総窒素分濃度を、砂を使用する実験例(比較例)を基準にして比較すると、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)が、僅かに低濃度であった。しかし、砂の実験例(比較例)と比較するとクリンカ系の実験例(実施例1及び実施例2)が僅かに低濃度になる結果となっている。
その後、12月17日までは、溶存態総窒素分(DTN)濃度について増加がみられ、砂を使用する実験例(比較例)では、2.84mg/リットルに達した。これに対し、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、溶存態総窒素分(DTN)濃度は、2.08mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、1.54mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、砂を使用する実験例(比較例)の半分程度の濃度となり、溶存態総窒素分(DTN)濃度は、クリンカ多孔質粒を含んだ実験例(実施例1)の方が低濃度になる結果となった。
【0020】
硝酸及び亜硝酸態窒素分(NO+NO−N)は、人工海水が0.005mg/Lであるのに対し、12月6日におけるクリンカ多孔質粒の実験例では、溶存態総窒素分(DTN)濃度は、0.003mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用した実験例では、0.047mg/リットルであった。溶存態総窒素分(DTN)と同様、クリンカ多孔質粒が含まれる実験例が低濃度になる傾向を示した。
e) 総窒素分(T−N)は、人工海水が0.315mg/リットルであるのに対し、12月6日における砂のみを使用した実験例(比較例)では、0.872mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)は、0.539mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用した実験例(実施例2)では、0.532mg/リットルであった。総窒素分の濃度は、12月17日に、大幅な濃度の増加が認められ、砂のみを使用した実験例(比較例)では、2.82mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用した実験例(実施例1)では、2.05mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物の実験例(実施例2)では、1.48mg/リットルであった。したがって、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物の実験例(実施例2)では、砂のみを使用した実験例(比較例)の半分程度濃度となり、クリンカ多孔質粒を含む実験例(実施例1及び2)が濃度低減の傾向を示した。
12月17日には、すべての項目において、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)が、最も低い濃度の値を示し、砂のみを使用する実験例(比較例)と比較して半分程度の濃度減少傾向が認められた。
【0021】
溶存態総窒素分(DTN)濃度において、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)より、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)の方が最も値が低くなっている。これは、単純に有機物希釈作用のみではなく、有機物の分解、硝化・脱窒低濃度などの微生物浄化活動にとって、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物が適した条件になったことを示している。
【0022】
d) りん成分(DTP、PO−P)
溶存態総リン分濃度(DTP)は、人工海水が0.103mg/リットルであるのに対し、12月6日における砂のみを使用した実験例(比較例)が0.080mg/リットルと人工海水に比してやや低く、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)が0.137mg/リットルと人工海水に比してやや高く、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)が0.142mg/リットルと最も高い値を示した。その後12月17日にかけて窒素同様増加が認められ、砂のみを使用した実験例(比較例)では、0.279mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では0.320mg/リットルと同様な割合で増加したが、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.210mg/リットルとなり、砂と比較して2.5割程度低い値となった。
【0023】
リン酸態リン分(PO−P)の濃度は、人工海水が0.0330mg/リットルであるのに対し、12/6 における砂のみを使用した実験例(比較例)では、0.088mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、0.122mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.124mg/リットルと何れの実験例においても増加を示した。その後、12月17日に掛けて、砂のみを使用した実験例(比較例)は、0.246mg/リットルとなり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)は、0.275mg/リットルとなり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)は、0.166mg/リットルとなった。砂のみを使用した実験例(比較例)と比較して、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、3割程度低い値となった。
総リン分(T−P)の濃度は、人工海水が0.117mg/リットルであるのに対し、12/6における砂のみを使用した実験例(比較例)では、0.150mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、0.155mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.164mg/リットルであり、何れの実験例においても増加し、夫々の実験例において近い値を示した。その後、12月17日にかけて、砂のみを使用した実験例(比較例)では、0.302mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、0.361mg/リットルとなったが、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.225mg/リットルと、砂のみを使用した実験例(比較例)と比較して3割程度低い値となった。
【0024】
(3) 底質間隙水の水質
間隙水のpH、DO、及びORPの測定結果(平均値)を図3に示し、栄養塩分分析結果を図4に示す。
a)水素イオン濃度(pH)
pHは各系の平均値が7.58〜7.86の範囲で弱アルカリ性を示した.約1ヶ月間の経時変化を各実験例の平均値でみると、砂のみを使用した実験例(比較例)では、凡そ7.6で変化がないのに対し、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、7.8から7.9と僅かにアルカリ側に傾き、また、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)においても、7.7から7.8と僅かにアルカリ側に傾いた。
【0025】
b) 溶存酸素量(DO)
DOは、各実験例において、その平均値が4.0〜5.0mg/リットルとなっており、概ね4mg/リットル以上の値を示した。各実験例間の差異は大きくないが、12月6日では、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)が良好な値となった。しかし、1月21日では、砂のみを使用した実験例(比較例)と砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)がより良好な値となった。
【0026】
c)酸化還元電位(ORP)
ORPを各実験例毎にみると、砂のみを使用した実験例(比較例)では還元化が進行している傾向がみられ、最小値で−19mVとなったものもあったのに対し、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)並びにクリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)は還元化の進行は比較的小さかった.特にクリンカは325mVで酸化的な環境が保持されたものもあった.クリンカの適用により有機物含有量が低減されたこと、透水性が改善されたこと還元化が抑制されたものと考えられる。
【0027】
e)リン成分(DTP、PO−P)
溶存態総リン分(DTP)濃度は、人工海水において0.103mg/リットルであるのに対し、12月6日には、砂のみを使用した実験例(比較例)で、0.011mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では0.033mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では、0.006mg/リットルであった。溶存態総リン分(DTP)濃度は、砂のみを使用した実験例(比較例)に対して、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)で増加し、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)で減少した。その後12月17日にかけて窒素と同様に増加が認められた。砂のみを使用した実験例(比較例)は0.026mg/リットルであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例(実施例1)では、0.055mg/リットルであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では0.024mg/リットルであり、砂のみを使用した実験例(比較例)に対して、(実施例1)で増加し、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例(実施例2)では僅かに減少した。
リン酸態リン分(PO−P)濃度は、人工海水が0.033mg/リットルで、各実験例の値はDTPのおよそ10%程度の濃度で、同様な変動を示した。
【0028】
(4) 底質分析結果
実験開始時と実験終了時の全窒素含有量(TN)と全有機炭素含有量(TOC)分析結果を図−6に示す。
全窒素含有量(TN)に関しては、実験開始時においては、砂のみを使用した実験例が、0.24mg/gであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例が、その1/4程度の0.05mg/gであった。何れの実験例にあっても、実験終了時には餌投与の影響により増加を示している。即ち、砂のみを使用した実験例では、0.26
mg/gであり、クリンカ多孔質粒のみを使用する実験例では、0.07mg/gであり、砂及びクリンカ多孔質粒の混合物を使用する実験例では、0.17mg/gとなった。
全有機炭素含有量(TOC)に関しては実験開始時において両資材ともおよそ1.4mg/gであった。実験終了時ではクリンカ多孔質粒のみを使用する実験例が大きく減少したが、現地砂の含有有機物は難分解性の有機物が主体であるのに対し、クリンカ多孔質粒は易分解性の炭素系有機物を含み浄化微生物等の栄養源として分解利用されたことが原因と考えられる.クリンカ多孔質粒を混合することにより底質中で不足する炭素分を供給し、脱窒等の生物浄化作用の促進効果が期待できる。
【0029】
4. 干潟間隙水改善工法の基礎検討
アサリの生息には、直接的に接触する底質間隙水の水質が重要な影響要因とされている。

間隙水の改善には、底質中の汚濁物質の含有量を低減させると共に、間隙水と直上海水との交換率を高めることが必要である.本発明により、透水性を向上させるクリンカ多孔質粒は砂と同等若しくはより良好な貝類生息場の創生資材として利用することができる。不活性無機粒状、多孔質、高透水性などの特長を有するクリンカ多孔質粒を、干潟底質改善材として利用することにより、泥質化、汚濁化が進行しアサリ等の貝類、底生生物の生息に不適となった環境を改善することができる。
クリンカ多孔質粒による干潟における間隙水の改善には、覆砂が最も簡易な施工法であるが、生物の生息に不適となった干潟の砂や泥と、本発明のクリンカ多孔質粒を含む底泥改善材を混合して、適当な有機物量に調整して、底質中の海水の浸透を促進することができる。適用試験案の数例を図−6に示す。何れも潮汐を利用し無動力で底質間隙水の海水交換作用を促進する。
【0030】
5. 実施例3
汚泥砂750cmにクリンカ多孔質粒を750cmを混合した混合処理例(実施例3)、及び底泥砂にクリンカ多孔質粒を混合しない汚泥砂のみの無処理例(比較例2)について、夫々、15日間20℃の温度で静置した後、直上水(10リットル(l))の成分を分析した。その結果を表2に示す。

【0031】
6. 実施例4
底泥の汚泥砂750cmにクリンカ多孔質粒を750cmを混合した混合処理例(実施例4)、及び底泥砂にクリンカ多孔質粒を混合しない汚泥砂のみの無処理例(比較例3)において、夫々、アサリは15日間、ハマグリは50日間20℃の温度で飼育し、飼育開始時及び飼育終了時において、アサリ及びハマグリの夫々の重量を測定した。その結果を表3に示す。

【0032】
7. 実施例5
底泥の汚泥砂750cmにクリンカ多孔質粒を750cmを混合した混合処理例(実施例5)、及び底泥砂にクリンカ多孔質粒を混合しない汚泥砂のみの無処理例(比較例4)において、3日間20℃の温度で静置した後、間隙水の成分を分析した。その結果を表4に示す。

【0033】
8. 実施例6
底泥の汚泥砂750cmにクリンカ多孔質粒を750cmを混合した混合処理例(実施例6)、及び底泥砂にクリンカ多孔質粒を混合しない汚泥砂のみの無処理例(比較例5)において、15日間20℃の温度で静置した後、直上水(10リットル(l))の溶存酸素量(DO)を測定した。その結果を次の表5に示す。

【産業上の利用可能性】
【0034】
干潟において、本発明のクリンカ多孔質粒を汚濁砂に混合することにより、適当な有機物含量、透水性を持つ生育場に干潟を改善することができる。また、海水浸透性を高める目的で干潟敷設用の、粒径の大きいクリンカ多孔質粒を含む構造体とすることもできる。構造体の一部として、干潟部に回帰し脱窒作用の炭素栄養源ともなる生分解性プラスティックを利用することができる。また、貯水槽などコンクリート部に、藻礁作用を有するクリンカ多孔質粒混合したプレートを設置して、干潟における生態的改善をはかることができる。
本発明における貝類飼育実験の結果、生息基材としてのクリンカ多孔質粒を混合した場合には、生息基材としての砂の場合と比較して、間隙水及び直上水ともにDO
やORPを改善することができ、また、クリンカ多孔質粒の混合により還元化を抑制することができる。また、本発明のクリンカ多孔質粒を混合した場合には、間隙水及び直上水の栄養塩成分に関して窒素成分の低濃度化が達成でき、クリンカ多孔質粒の混合することにより、干潟域の富栄養化を防止かることができる。本発明において、例えば、貝類の給餌による窒素負荷量は2.33gに達するが、負荷後の水中の窒素の総量は、砂のみの場合では、0.040gであるが、クリンカ多孔質粒のみの場合では、0.029gと低下がみられ、砂とクリンカ多孔質粒の混合物の場合で、0.021g程度であり、水中の窒素の総量の殆どは、生物系、底質系(間隙水含む)の中に存在する。その中で、砂とクリンカ多孔質粒の混合物の場合では、水中の窒素の存在量が砂のみの場合の半分程度となっており、水中の窒素成分量の低減効果が大きい。底質に関しては、全般的に給餌により、栄養塩が増加するが、クリンカ多孔質粒を使用することにより、炭素を、例えば、1.37mg/gから0.69mg/gに減少させることができる。本発明によると、脱窒等の生物的浄化作用により、底質の窒素成分を減少すると共に、底質の炭素含有量をも減少させることができる。また、本発明は、クリンカ多孔質粒の使用により、貝類の生息環境としての干潟域の修復を行うものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】底質直上水の水素イオン濃度(pH)及び溶存酸素量(DO)の経日変化を示す図である。
【図2】直上水の栄養塩濃度(総リン濃度(TP)、総窒素濃度(TN))の経日変化を示す図である。
【図3】直上水の水質(水素イオン濃度(pH)、溶存酸素量(DO)及び酸化還元電位(ORP)の経日変化を示す図である。
【図4】間隙水の溶存態総窒素分(DTN)の経日変化を示す図である。
【図5】試験開始時と試験終了時における底質の全窒素含有量(TN)及び全有機炭素含有量(TOC)を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
S 砂のみを使用する例
K クリンカ多孔質粒のみを使用する例
SK 砂とクリンカ多孔質粒の混合物を使用する例
12/3 12月3日
12/6 12月6日
12/9 12月9日
12/17 12月17日
1/21 1月21日


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を含むことを特徴とする水底土壌改良剤。
【請求項2】
0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰と、ゼオライト、木炭、竹炭、陽イオン吸着剤若しくは陰イオン吸着剤又はこれらの混合物からなる添加物質とを含むことを特徴とする水底土壌改良剤。
【請求項3】
ガラス質発泡体が、クリンカ多孔質粒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水底土壌の改良方法。
【請求項4】
水底の砂に、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰を水底に堆積又は混合させることを特徴とする水底土壌の改良方法。
【請求項5】
水底の砂に、0.1乃至10mmの粒度を有するガラス質発泡体を主成分とする石炭燃焼炉クリンカ灰と、ゼオライト、木炭、竹炭、陽イオン吸着剤若しくは陰イオン吸着剤又はこれらの混合物からなる添加物質と混合して、水底に堆積又は混合させることを特徴とする水底土壌の改良方法。
【請求項6】
ガラス質発泡体が、クリンカ多孔質粒であることを特徴とする請求項4又は5に記載の水底土壌の改良方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−106808(P2007−106808A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297009(P2005−297009)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(594162308)西日本技術開発株式会社 (16)
【出願人】(503423340)有限会社湊工業 (1)
【Fターム(参考)】