説明

水底地盤の地盤改良装置

【課題】 水底の地盤を、水を濁すことなく掘削し、注入材を注入して改良することができる装置を提供する。
【解決手段】 この装置は、水底1の地盤から水面2上へ延びるように設置される中空部材10と、中空部材10の外側面に隣接し長手方向に沿って設けられ、中空部材10の内部を水面2に向けて圧縮空気を噴射させる空気噴射管11と、中空部材10の内部を通して地盤へ降下され、地盤を掘削するとともに注入材を噴射して土壌と撹拌混合する掘削部材12を備える掘削装置とを含む。この掘削部材12は、突出部が軸体の先端および螺旋状羽根の下面にも設けられ、突出部の突出した先端部分に、掘削時における回転方向に向けて先細とされた形状の、突出部に比較して摩耗しやすい材料により製造されるチップが取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、川底、湖底、海底といった水底の地盤を改良するための地盤改良装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤を、所定強度をもった地盤へ改良する工事は、陸上のみならず、川底、湖底、海底等の水底の地盤に対しても行われる。例えば、橋を架けるためには、橋脚が必要になるが、その橋脚の基礎は、川底や海底等の水底地盤に構築される。この地盤が軟弱地盤のままであると橋脚が倒れるおそれがあることから、地盤改良が必要となる。
【0003】
また、沿岸海域には、工場等が隣接し、河川を通して流れ込む様々な汚染物質に加え、養殖等による飼料残渣や排泄物により、海底表面がヘドロ等の汚泥層で被覆され漁場の老朽化や富栄養化が進展して悪化していることから、海底土泥層を健全な土壌に改良する必要もある。これは、水質汚濁、無酸素水塊の発生、富栄養化により、養殖業における生産性の悪化、病害の発生、悪臭、透明度の低下等を防止するためである。
【0004】
従来、このような水底地盤を改良するために、以下の装置や方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1には、表層にヘドロ等の汚泥層が堆積され砂層や軟弱層で形成された積層の海底泥土層の掘削揚泥装置が開示されている。この装置は、積層の海底泥土層を高さ方向に複数段に区分し、まず、最上段の第1層中へ掘削装置を埋没させ、回転筒ならびに竪型スクリュコンベアのスクリュ羽根を回転駆動して、第1層中を上から下へと掘進しつつ、掘削された泥土を竪型スクリュコンベアで揚泥する。揚泥された泥土は、排出口から排出され、第1層表面よりも上部に下端がある吐出管から吐出される第1層の表面に順次落下堆積する。第1層の掘進が終わると、次に、同様の方法で、第2層、第3層、…と作業を継続することにより、第1層が最下層となり、作業前の積層順序と全く逆転した積層順序となり、最も汚染度の少ない健全な層を表層に転換することにより、地盤改良を行っている。
【0006】
特許文献2には、水底の地盤の掘削が可能となる連続壁造成用溝掘削装置が開示されている。この掘削装置は、掘削刃により海底地盤に連続壁造成用の溝を掘削するチェーン式カッターと、海面上に浮遊する台船に設置される掘削装置本体と、チェーン式カッターを海底地盤の表面付近で支持しながら、そのカッターによる掘削反力を、掘削装置本体に伝達する支持手段とを具備し、これにより、水底の地盤の掘削を可能とし、また、台船に搭載した固化体供給装置から固化体注入管を介してセメントミルクを溝内に送り込み、ソイルセメント壁を形成することにより、連続壁の造成を行い、地盤改良を行っている。
【0007】
特許文献3には、水面下の軟弱な地盤の地盤改良を行うための地盤改良工法が開示されている。この工法は、容器状建造物、例えばケーソンを水面下の地盤上に設置し、地盤改良用機器を用いて水面下の地盤の容器状建造物下方の領域に垂直方向のボーリングをして地盤改良機器から固化材噴射手段を挿入し、その固化材噴射手段を回転しながら水平方向へ固化材を噴射し且つ固化材噴射手段を上方へ引き上げて地盤改良を行い、その地盤改良の際に発生した水面下の地盤の土壌と固化材との混合物である排出物、例えばスライムを容器状建造物内に収容する。これにより、地盤改良に際して気象条件、潮位、波力等の影響を受けることなく安定した足場上で行うことができ、また、地盤改良時に大量に発生する流動性物質を有効利用することができるようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−218423号公報
【特許文献2】特開2003−3513号公報
【特許文献3】特開2004−197307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来の装置や方法では、ケーシング、カバー部、ケーソンを用いることにより、掘削時にケーシング内の竪型スクリュコンベアにより揚泥し、被掘削物や排出物をカバー部やケーソン内に収容するため、水中に拡散され、水質汚濁を防止することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された装置では、第1層の泥土を掘削ブレードにより掘削するため、すべてが開口部内へ流入し、竪型スクリュコンベアにより揚泥されるものではなく、泥土が水中に拡散し、濁りを生じさせてしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献2に記載された装置や方法では、掘削装置本体からチェーン式カッターの掘削刃で海底地盤を掘削しながら各ポスト等を継ぎ足して順次に延長していき、所定の深さになると、カバー部が海底地盤上を覆うようになり、それ以降は、カッターが海底地盤内で周回するので、通常の掻き下げ掘削を行っても、排泥や固化材等が海中に拡散されることが少なくなるが、所定の深さになるまで掘削する際には、排泥が生じ、また、所定の深さになった後も拡散を防止することができず、濁りを生じさせてしまうという問題がある。
【0012】
特許文献3に記載された工法では、最初にケーソンを設置し、そのケーソン内に排泥や固化材等の排出物を収容するので、ケーソン外の水中にこの排出物が拡散し、濁りを生じさせることはなく、また、排出物を内部に含むケーソンを、人工島や護岸、橋脚等のベースとして利用することができるが、複数の部屋に区画されたケーソンを作製し、曳航船で曳航して施工場所へ運び、いくつかの部屋に海水を注水して沈設し、空の部屋すべてに排出物が充填された後は海水を排出して空にし、その空の部屋に充填する必要があり、手間がかかり、ケーソンの作製費用や設置費用がかかるという問題がある。また、施工に長期間を要し、設置されるケーソンの下部の地盤しか改良することができない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、水底の地盤から水面上へ延びるように設置される中空部材と、中空部材の外側面に隣接し長手方向に沿って設けられ、当該中空部材の内部を水面に向けて圧縮空気を噴射させる空気噴射管と、中空部材の内部を通して水底の地盤へ降下され、当該地盤を掘削するとともに注入材を噴射して土壌と撹拌混合する掘削部材を備える掘削装置とを含む構成を採用する。
【0014】
この構成では、中空部材を設置し、その中を通して掘削部材を降下させ、水底の地盤を掘削するので、施工したい任意の位置の水底地盤を改良することができ、水中へ土壌や注入材が拡散することはなく、空気噴射管により水底から水面へ向けて圧縮空気が噴射されるので、掘削され中空部材の中に収容された土壌を水面方向へ移動させ、排出することができる。空気噴射管は、長手方向の途中に、中空部材の壁面を貫通し、水面に向けて圧縮空気を噴射させるように、複数設けられることが好ましい。
【0015】
上記の掘削部材は、中空の軸体と、軸体に周設される螺旋状羽根と、螺旋状羽根の外周に突出するように設けられる突出部と、軸体内部を通り、該軸体の中央部の壁面を貫通し、螺旋状羽根の下面に沿って突出部の下側へ延びる2以上の注入管とを備える。突出部は、軸体の先端および螺旋状羽根の下面にも設けられ、突出部の突出した先端部分に、掘削時における回転方向に向けて先細とされた形状の、該突出部に比較して摩耗しやすい材料により製造されるチップが取り付けられていることを特徴とする。
【0016】
この構成により、掘削時には、中空の軸体を通して高圧空気を供給し、その高圧空気を噴射しながら掘削することができるので、上記の一部を除き、排泥が生じることはなく、また、このようなチップを取り付けることで、岩石等に接触してもチップが摩耗するので突出部が欠けるということはなく、さらには、チップの先端が土壌に食い込み、削り取った土壌を、内側の、上下に存在する羽根間へスムーズに送り込むことができるので、スムーズな掘削を実現することができ、確実に隙間を生じさせて、確実に高圧空気を逃がすことができる。
【0017】
また、このようなチップが取り付けられた突出部が、軸体の先端および螺旋状羽根の下面にも設けられていることから、回転数を上げても、スムーズに掘削することができ、さらには、上記の隙間から確実に圧縮空気を逃がすことができるため、その掘削土をスムーズに後方へ送ることができ、掘削速度を上昇させることができる。
【0018】
この掘削部材の軸体は、従来と同様、長さ方向に沿った中央部において径が大きく、かつ両端部において径が小さくなるように形成され、螺旋状羽根も、両端部から中央部に向けて羽根径が大きくなるように形成される。上記のチップが取り付けられた突出部は、少なくとも最大の羽根径となる羽根の外周に、隣り合う、突出するチップまたは突出部の先端を結ぶ直線が羽根の外周に接しないように等間隔に複数設けられる。このようにしなければ、羽根の外周が、掘削してできた孔の硬い孔壁と接触し、破損するおそれがあるからである。
【0019】
また、この掘削部材は、螺旋状羽根の上面および下面に配設される板状の複数の突起を備えることができる。この突起により、羽根の回転をスムーズにし、効果的に撹拌を行うことができる。この突起は、羽根間に高圧空気により送られる掘削土に鋭く食い込みながら、その掘削土を後方へスムーズに送り、石等を含んでいても噛みにくくしている。転石等があった場合に、その石を羽根上から下方へ落下させやすいように、突起の高さは2〜5cm程度と低い方が好ましく、先端にテーパが形成されていることが好ましい。
【0020】
掘削装置は、掘削部材の軸体に接続される中空のロッドと、ロッドを回転可能に挟み支持する挟持手段と、ロッドの角度を変更可能にするアームと、ロッドを昇降可能にする昇降手段と、ロッドおよび軸体の内部を通り、軸体の先端から噴射させ、および空気噴射管から噴射させる圧縮空気を供給するための圧縮空気供給手段と、注入材を注入管内へ供給するための注入材供給手段とをさらに含む。
【0021】
この地盤改良装置は、中空部材内を上昇する土壌を吸引し排出するための吸引排出手段をさらに含むことができる。
【0022】
また、この装置は、掘削部材が備える2以上の注入管から注入材を噴射させるが、その注入材として、酸化マグネシウム(MgO)を含有する固化剤をスラリーとして、または空気に分散させて噴射させることができる。この固化剤は、MgOのほか、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、三酸化二鉄(Fe)を含むことができる。さらに、五酸化二リン(P)を含むこともできる。これらの固化剤は、中性を示すことから、アルカリ性土壌の問題も発生せず、安価で、石膏に比較して高い強度の地盤を得ることができるものである。
【0023】
掘削部材のサイズを大きくするのではなく、注入材を、25〜29MPaの圧力で、毎分0.28〜0.33mの供給量で噴射することにより、最大の羽根径の2〜8倍の径を有する円柱状の改良体を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の地盤改良装置の構成例を示した図。
【図2】中空部材内に掘削部材を挿入したところを示した断面図。
【図3】地盤改良装置に用いられる掘削部材を例示した図。
【図4】螺旋状羽根の外周に設けられる突出部およびチップの配置を例示した図。
【図5】掘削部材が備える突出部およびチップを拡大して示した図。
【図6】突起を備える掘削部材を例示した図。
【図7】本発明の地盤改良装置の別の構成例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の水底地盤の地盤改良装置の構成例を示した図である。この地盤改良装置は、河川、湖沼、海等で使用され、その川底、湖底、海底等の水底の土壌を浄化したり、その地盤強度を向上させるために地盤改良を行う装置である。一般に、水底1は、表面が砂層により覆われていて、その下に土壌が存在する。この装置は、水底1から水面2上へ延びるように設置される中空部材10と、中空部材10の外側面に隣接し、その長手方向に沿って設けられ、中空部材10の内部を水面2に向けて圧縮空気を噴射させる空気噴射管11と、中空部材10の内部を通して水底1の地盤へ降下され、その地盤を掘削するとともに注入材を噴射して土壌と撹拌混合する掘削部材12を備える掘削装置とを含んで構成される。
【0026】
この装置は、まず、中空部材10を水面に対して垂直に立て、その先端部が水底1の表面を覆う砂層に埋まるように設置し、ポンプ等の吸引手段により中空部材10内の水を吸引して抜き出す。例えば、1m程度埋まるように設置することができる。このように中空部材10の先端部が砂層に埋まるように設置することで、中空部材10と水底1の地盤との間から排泥が流出し、濁りを発生させることを確実に防止することができる。
【0027】
次に、その中空部材10の中を通して掘削部材12を降下させ、掘削部材12を一定方向に回転させることにより、水底1の地盤を掘削する。このようにして地盤を掘削することから、水中へ土壌やその後に注入する注入材が拡散することはない。また、掘削した場合、地盤内に掘削部材12が埋設された状態となり、その掘削部材12により排除された容積分の掘削土が少なくとも排泥として中空部材10内へ収容されるので、空気噴射管11から噴射される圧縮空気により水底1から水面2へ向けて移動させ、水面2付近へと移動した排泥を、吸引排出手段としてのサンドポンプ13により排出する。
【0028】
排出された排泥は、排泥槽14へ入れられ、排泥中の土粒子等は、自然沈降して上澄み液と固形分とに分離される。その後、上澄み液を回収し、必要に応じて水処理を行った上で、河川、湖沼、海等へ戻される。
【0029】
中空部材10は、中空円筒形の管とされ、水圧や波等により変形しない強度をもつべく炭素鋼、ステンレス鋼、コンクリート、セラミック等により製造される。空気噴射管11は、同様の材料に加え、硬質ポリ塩化ビニルやFRP(繊維強化プラスチック)等のプラスチックから製造され、例えばU字状あるいはV字状に先端が折り返された形状とされている。このため、中空部材10の側壁に隣接し、その長手方向に沿って水底1に向けて配設した場合に、先端が水面2に向くことになる。
【0030】
中空部材10および空気噴射管11を配置し、掘削部材12を中空部材10の内部へ挿入し、降下しているところを示すと、図2の断面図で示すようなものとなる。図2では、この中空部材10(例えば、径1.4m)の側壁に2つの空気噴射管11が隣接して設けられ、中空部材10の内部に掘削部材12(例えば、最大の羽根径1m)が挿入され、水底1の地盤に向けて降下するのが示されている。空気噴射管11は、排泥を上方へ押し上げ、排出するためには複数設けられることが好ましく、2本であれば、図2に示すように、中空部材10を挟むように対向する位置に配設されることが好ましい。また、図1にも示すように、空気噴射管11は、その長手方向の途中に、中空部材10の壁面を貫通し、水面に向けて圧縮空気を噴射させるように、複数設けられることが好ましい。
【0031】
掘削部材12は、図3に示すように、中空の軸体20と、軸体20に周設される螺旋状羽根21と、螺旋状羽根21の外周に突出するように設けられる突出部22と、軸体20内部を通り、軸体20の中央部の壁面を貫通し、螺旋状羽根21の下面に沿って突出部22の下側へ延びる2以上の注入管23、24とを備える。突出部22は、軸体20の先端および螺旋状羽根21の下面にも設けられ、突出部22の突出した先端部分に、掘削時における回転方向に向けて先細とされた形状の、突出部22に比較して摩耗しやすい材料により製造されるチップ25が取り付けられている。
【0032】
この掘削部材12は、図示しない重機が回転可能に挟持する中空のロッド26と接続され、ロッド26の内部と軸体20の内部とが連通した状態とされている。このため、ロッド26の内部および軸体20の内部を通して圧縮空気を供給し、掘削時に軸体20の先端から噴射させることができる。水底1の地盤の掘削は、一定方向に一定速度でロッド26を回転させることにより、それと同じ方向に同じ速度で掘削部材12も回転し、ロッド26を一定速度で降下させることにより開始される。
【0033】
掘削部材12の軸体20の先端および螺旋状羽根21の下面には、チップ25が取り付けられているため、このチップ25が地盤を削り取り、掘削が行われる。掘削された土は、螺旋状羽根21の羽根間を、その回転方向とは反対方向の、後方へと送られる。この掘削部材12では、掘削土が後方へ送られるのみで、羽根間を通過した後は、その場に留まるので、排泥として排出されることはない。
【0034】
地盤には、硬い岩盤や石等が含まれるため、チップ25は、これらの岩盤や石と接触し、削り取ろうとするが、比較的やわらかい材料で作製されるため、欠けることはなく、摩耗しながら掘削が行われる。
【0035】
効率良く掘削を行うために、軸体20の先端から圧縮空気を噴射させながら掘削が行われる。圧縮空気は、螺旋状羽根21の羽根間にある掘削土を押して後方へスムーズに送り、掘削中の地盤への衝撃を低減させ、掘削部材12に揺動撹拌効果を与えて掘削を容易にするとともに、軸体20の先端に設けられるチップ25の発熱を抑制する。圧縮空気は、例えば、0.5〜2MPaの圧力で供給することができる。
【0036】
圧縮空気を噴射させることにより上述した効果を得ることができるが、掘削孔内が螺旋状羽根21により覆われてしまうと、噴射した圧縮空気の逃げ道がなくなり、それ以上の掘削を行うことができなくなったり、掘削部材12が斜めになり、それと接続する図示しない重機が横転したりする場合がある。しかしながら、本発明では、螺旋状羽根21の外周に突出部22およびチップ25を備えており、それらにより、螺旋状羽根21の周囲に適切な隙間を形成して、その隙間から、噴射した圧縮空気を上方へ逃がすことができるので、そのような問題は生じない。
【0037】
また、このように突出部22およびチップ25を備え、適切な隙間を形成し、確実に噴射した圧縮空気を上方へ逃がすことができるようにすることで、回転数を上げても、スムーズに掘削を行うことができ、掘削速度を上昇させることができる。また、チップ25が、軸体20の先端のみならず、螺旋状羽根21の下面にも設けられているため、より効率的かつ硬い地盤でも高速に掘削を行うことができ、短期間での施工を実現することが可能となる。
【0038】
所定の深さまで掘削したところで、ロッド26の回転をこれまでとは反対方向へ切り換える。すると、掘削部材12の回転方向も逆となり、これまで後方へ送られ掘削部材12の上部にある掘削土が、螺旋状羽根21の羽根間を通して、掘削部材12下部の掘削孔内へ送られるようになる。これと同時に、ロッド26を一定速度で上昇しつつ、掘削部材12が備える2つの注入管23、24から注入材の噴射を開始させる。
【0039】
注入材は、一定の圧力で一定量噴射され、螺旋状羽根21の回転、突出部22およびチップ25により、周辺の土壌と混合される。これを水底1の近隣まで行い、地盤内に円柱状の改良体を構築することにより、水底地盤の改良が行われる。
【0040】
軸体20は、例えば、全体の長さを0.8〜1m、中央部の長さを0.16〜0.2mで、その中央部の径を0.4mで一定とすることができる。例えば、両端部の一方および他方の長さをそれぞれ0.32mの範囲において0.14mから0.4mの径に一定の割合で拡大する構造のものとすることができる。全体の長さ0.8m、中央部の長さ0.16m、両端部の長さをそれぞれ0.32mとした場合、一定の割合で拡大するテーパ角は約22°となる。なお、このときの螺旋状羽根21の最大の羽根径は、約1〜2.5mとすることができる。ちなみに、この羽根径は、羽根の一端から軸体20を通した他端までの直径である。なお、この最大の羽根径に合わせて、中空部材10の径を決定することができ、または中空部材10の径に合わせて、最大の羽根径を決定することができる。
【0041】
突出部22は、突出方向への長さを約0.1mとした略矩形の板状物とすることができ、その突出した先端に、チップ25が溶接する等して取り付けられる。この突出部22は、隣り合う突出部22を結ぶ直線が、螺旋状羽根21の外周に接触しないように、図4に示すように、複数取り付けられる。これは、突出部22の突出長さや、螺旋状羽根21の径を考慮して決められ、適当な数だけ設けられる。数が少なすぎると、掘削が難しくなり、多すぎると、圧縮空気が逃げるための隙間が小さくなる等の不都合が生じるからである。
【0042】
図4では、螺旋状羽根21の外周に6つの突出部22およびチップ25が設けられている。このように、隣り合う突出部22を結ぶ直線が、螺旋状羽根21の外周27に接触しないように、最小限の突出部22およびチップ25を設けることで、十分な隙間を生じさせ、掘削時において噴射された圧縮空気を、その隙間を通して大気中へ放出させることができる。また、軸体20の先端から噴射される高圧空気により潤滑材的効果を与えるとともに、装置の自重を上回らないように高圧空気を放出させることができる。
【0043】
軸体20、螺旋状羽根21は、土壌に挿入することができる強度を有するものであればいかなる材料であってもよく、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、超合金を用いることができる。この超合金としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、トリウム等の炭化物、窒化物、ホウ化物、ケイ化物の粉体を、金属結合剤として鉄、コバルト、ニッケルのいずれかとともに、水素または窒素といった不活性ガス中で、1300℃〜1600℃といった高温で焼結した材料を用いることができる。突出部22は、JIS G0202のロックウェル試験で測定されたロックウェル硬さ(HRA)が87.5以上のJIS分類記号のE1〜E4で表されるタングステンカーバイド(WC)とコバルト(Co)とを含有する超硬合金により製造することができる。
【0044】
一方、チップ25は、突出部22に使用される上記の超硬合金よりやわらかいJIS分類記号のE5で表されるHRA86.5以上のWC−Co系超硬合金から製造することができ、徐々に摩耗させることにより、硬い地盤や岩石等と接触しても欠けることを防止し、掘削を容易にすることができる。
【0045】
このようなやわらかい材料を使用することにより、玉石を蹴飛ばして掘削しても、チップ25が飛ぶことはなく、岩盤に向けて掘削していってもチップ25の先端から徐々に減っていき、チップ25がなくなるまで掘削することができる。
【0046】
チップ25は、図5(a)に示すように、突出部22の突出方向の先端に溶接する等して取り付けられ、このチップ25が外れてしまうと、突出部22自体が硬い地盤や岩石等と接触し、欠けてしまうおそれがあることから、その接合部分28を肉盛りして補強することが望ましい。
【0047】
チップ25は、図5(a)に示すように、掘削部材12の回転方向(ここでは矢線Aに示す方向)に向けて、先細とされた形状とされ、突出部22の突出する先端に接合され、その接合部分28が肉盛りされている。
【0048】
その形状は、図5(a)の矢線Xの方向から見ると、図5(b)に示すように、略矩形とされ、掘削部材12の回転方向に向いた先端が円弧状になっている。そして、肉盛りされた接合部分28が盛り上がっている。この形状は、図5(c)の矢線Yの方向から見た場合も同様である。
【0049】
図5(a)および(b)に示すように、突出部22は、螺旋状羽根21の外周や下面に接合等される略矩形の上面30と、それに所定の傾斜角で連続する傾斜面31、32と、その傾斜面31と傾斜面32とを円弧状に接続する曲面33と、それらに連続する側面とを備えている。
【0050】
傾斜面31と曲面33とが連続する先端部の傾斜面31側に、チップ25が取り付けられ、そのチップ25と突出部22との接合部分28が肉盛りされている。
【0051】
例えば、突出部22の幅Wを32mmとし、チップ25の幅Wを30mmとし、チップ25を備える突出部22の奥行きLを63mmとし、水平方向に対する曲面33の傾斜角度θを5°とすることができる。このように傾斜角度を2°〜10°程度に設け、チップ25の先端が螺旋状羽根21の外周と平行な向きではなく、わずかに外側を向くようにすることで、より多くの土壌を取り込み、掘削孔の径を大きくするとともに、十分な隙間を生じさせて掘削を容易にさせることができる。
【0052】
図5(a)および(b)に示すように、チップ25を取り付けた突出部22は、人間の指のような形をしており、一定の幅を有し、先細とされた形状のチップ25が土壌に食い込み、シャベルのようにすくい取り、傾斜面31に沿って、上下にある羽根間へ取り込まれ、その羽根間において後方へ送られることにより、土壌を削り取り、土壌をスムーズに掘削することができる。また、この傾斜面31に沿って後方へ送られると、傾斜面32側には隙間が生じ、これが拡大することにより十分な圧縮空気の逃げ道を形成することができる。
【0053】
再び図3を参照して、2つの注入管23、24は、掘削部材12の軸体20の内部に挿通し、軸体20の中央部の壁面を貫通して、螺旋状羽根21の最大径となる羽根の下側に沿って延びている。これら注入管23、24は、軸体20の内部に挿設され、軸体20の中央部の壁を貫通して螺旋状羽根21の下面に沿って突出部22の下側にまで延び、土壌を浄化するための土壌浄化剤や、所定強度の地盤を形成するために添加される固化剤等を、スラリーやガスに分散させた状態で注入材として噴射し、土壌と混合させることができる。
【0054】
注入管23、24は、螺旋状羽根21の最大径となる羽根の下側に沿って水平方向へ延びることから、その水平方向へ延びる長さを比較的長くとることができ、スラリーやガスを加速させ、より遠くまで噴射させることができる。例えば、最大の羽根径が約2.5mのものの場合、その長さは、約0.7mである。この水平方向へ延びる部分の管の口径を、その延びる方向へ向けて小さくしたものを採用することで、より噴射力を上昇させることができ、より遠くまで噴射させることができる。
【0055】
これら注入管23、24は、上記の浄化剤や固化剤といった注入材を四方八方へ噴射し、周囲の土壌と十分に混合して改良体を構築するために、複数設けられることが好ましい。注入管23、24は、例えば2本あるいは3本設けることができる。3本設ける場合には、図4に示すように、隣り合う注入管により形成される角度が120°となるように配設することができる。なお、4本以上設けることも可能であるが、1つの注入管から噴射された後すぐに次の隣り合う注入管から噴射されることになるため、1度注入した箇所から非常に近隣した箇所に注入されることになり、注入材の無駄になる。このため、少ない注入量で、より広い範囲に効率的に噴射するには、上記の2本あるいは3本が望ましい。
【0056】
また、注入管23、24は、単なる所定径の鋼管とすることもできるが、その内部に、スラリーやガスを、渦を巻くように供給し、噴射させることができる螺旋板を設け、コイル状にスラリーやガスを噴射させ、一定方向にのみ噴射させるのではなく、上下左右に広くスラリーやガスを噴射して行き渡らせ、少ない量で効果的に撹拌混合を行い、地盤改良を行うことも可能である。
【0057】
なお、注入管23、24の先端は、突出部22およびチップ25の下側に配置され、その先端部も螺旋状羽根21の外周までとされるので、注入材が突出部22およびチップ25より上側へ噴射されることはない。
【0058】
注入材を噴射させつつ掘削部材12を引き上げることにより円柱状の改良体が構築される。この構築される改良体は、その径が大きい方が、施工期間が短くなることから好ましい。しかしながら、掘削部材12の軸体20の長さを長くし、螺旋状羽根21の径を大きくすると、今まで使用してきた掘削部材を支持する重機が、大きくされた掘削部材を支持することができず、転倒してしまう。このため、支持する重機自体を大きくし、その重量を重くする必要があり、これではコストがかかり、容易に移動等させることもできなくなるので、パフォーマンスが悪化してしまう。そこで、注入材の噴射圧力を高くし、その噴射量も増加して、大きい改良体を構築するようにする。
【0059】
注入材を噴射して改良体を構築する際、掘削時とは反対方向へ掘削部材12を回転させるが、このとき、掘削部材12の螺旋状羽根21の上には、ほぐした掘削土がのった状態となっており、排泥を発生させないためには、注入材を噴射させつつ掘削部材12を引き上げるとき、その上にのった掘削土を掘削部材12下部の掘削孔内へ取り込んでいく必要がある。掘削土を取り込むためには、回転数を上げることが考えられ、従来の上述した掘削部材では、その回転数が22〜26回転/分でなければ、螺旋状羽根21の上にのった掘削土が下側へスライドしなくなって、排泥が発生してしまう。
【0060】
一方、本発明で採用される掘削部材12を用いると、突出部22およびチップ25を備えることから、掘削時に適当な隙間が形成されており、その隙間を通して、上にのった掘削土を取り込むことができることから、掘削部材12の回転数を上昇させることなくスムーズに取り込むことができる。このため、20〜22回転/分といったように、それほど回転数を確保しなくてもスムーズに注入材の撹拌混合を行うことができる。これにより、安全に施工を行うことが可能となる。
【0061】
なお、回転数を上げていくと、掘削土を掘削孔内へ取り込みすぎ、掘削部材12を支持する装置の前方が浮いた状態になってしまう。加えて、ロッド26に注入管23、24に接続されるホースが絡み、横転するおそれがある。しかしながら、本発明のように、突出部22にチップ25を設ける構成を採用することで、20〜22回転/分という回転数で安定して土壌改良を行うことができる。
【0062】
注入材を高圧で、多量に噴射すると、広い範囲の土壌に行き渡らせることができるが、掘削部材12の引き上げ速度が一定で、高い回転数であると、同じ位置を噴射する回数が増加し、孔壁が崩れやすくなる。このため、それほど高圧にすることができず、注入量も制限されることになる。
【0063】
しかしながら、本発明で採用される掘削部材12を用いれば、上述したように、20〜22回転/分から22〜26回転/分へ回転数を上昇させる必要がないことから、噴射圧力を上げ、その量も増加することが可能となる。本発明では、例えば注入材を、25〜29MPaの圧力で、0.28〜0.33m/分で噴射させることができる。3つの注入管により噴射させる場合、1つの注入管から、約0.09〜0.11m/分で噴射させることができる。
【0064】
本発明では、螺旋状羽根21の上部に周辺土壌から転石があり、その転石を取り込むと、掘削に支障が生じる場合がある。しかしながら、羽根間にある掘削土に詰まりを生じ、後方へ送ることができなくなると、排泥が発生してしまう。このため、図6に示すように、螺旋状羽根21の上面に突起29が設けられるが、この突起29の羽根面からの突出長さが長いと、転石した石が孔内へ落下せず、螺旋状羽根21上に留まり、これが詰まりを生じさせる原因となる。
【0065】
このため、突起29の羽根面からの突出長さを2〜5cm程度に短くするとともに、テーパを形成して、突起29上に石がのった場合でも、そのテーパに沿って適切に石が落下するように構成することができる。したがって、突起29は、軸体20、螺旋状羽根21、突出部22と同様の材料から製造され、台形の板状物とすることができる。
【0066】
本発明の地盤改良装置は、掘削部材20を接続する中空のロッド26のほか、図7に示すような、そのロッド26を回転可能に挟み支持する挟持手段40と、ロッド26の角度を変更可能にするアーム41と、ロッド26を昇降可能にする昇降手段42と、中空とされたロッド26および軸体20の内部を通り、軸体20の先端から噴射する圧縮空気を供給するための圧縮空気供給手段43と、注入材を注入管23、24内へ供給するための注入材供給手段44とをさらに含む。なお、挟持手段40、アーム41、昇降手段42は、作業員が操作を行う操作室を含めて重機を構成し、圧縮空気供給手段43および注入材供給手段44、サンドポンプ13や排泥槽14を含めて、水面2に浮かぶ台船45上に設置される。
【0067】
この地盤改良装置を用いて地盤改良を行う場合、台船45を操作し、地盤改良を行うべき位置へ台船45を移動させる。その後、上記の中空部材10を設置し、掘削部材12を降下させ、回転させて掘削を行い、逆回転にして上昇させつつ注入材を噴射して地盤改良を行うことができるが、掘削部材12により掘削を行う際、アーム41によりロッド26の角度を調整してロッド26が水面に対して垂直になるようにした後、挟持手段40によりロッド26の回転を開始して掘削部材12を一方向へ回転させ、昇降手段42によりロッド26を水底1の地盤へ降下させることにより、掘削部材12を地盤に貫入させ、所定の深さまで土壌を掘削することができる。
【0068】
このロッド26の降下により掘削部材12を地盤に貫入させる際、ロッド26および軸体20の内部を通して圧縮空気供給手段43から圧縮空気を供給し、また、空気噴射管11へも圧縮空気を供給する。そして、軸体20の先端、空気噴射管11から噴射させる。
【0069】
所定の深さまで掘削した後、掘削部材12の回転方向を反対にし、昇降手段42によりロッド26を上昇させつつ、注入材供給手段44を起動させ、注入管23、24から注入材を噴射させる。注入材は、羽根面に沿って水平方向に延びる注入管23、24内で加速し、掘削部材12の周囲の土壌に向けて噴射され、土壌内を浸透する。螺旋状羽根21が回転するため、注入材は、土壌と十分に撹拌混合され、土壌中に均一に分散した状態になる。
【0070】
このとき、螺旋状羽根21の上にのった掘削土は、突出部22およびチップ25により形成された隙間を通して掘削部材12下部の掘削孔内へ取り込まれるので、安定して、また、掘削部材12のより低い回転数で、高圧かつより多くの量の注入材を噴射させることができる。掘削部材12は、水面付近で注入材の噴射を停止した後、引き上げられる。このようにして、水底地盤の中に円柱状の改良体が形成される。この改良体をオーバーラップするように形成することで、水底の所定領域の地盤を浄化し、所定の強度をもつ地盤へ改良することができる。
【0071】
この地盤改良装置で使用することができる注入材は、以下のものを採用することができる。従来から有機塩素化合物により汚染された土壌を浄化する場合、酸化剤、鉄粉あるいは酸化鉄粉等が使用されている。これに加えて、重金属を固定化し、かつ所定強度の地盤を得るために、固化材として、セメントミルク、石灰、石膏等が使用されてきた。
【0072】
セメントミルクや石灰は、強度の高い地盤を得ることができるものの、これらは強いアルカリ性を示すことから、アルカリ性土壌の問題が生じる。一方、石膏は、中性を示すことから、アルカリ性土壌の問題は生じないが、一定の強度を得ることができない。
【0073】
そこで、石膏系固化材よりも高い地耐力を得ることができ、かつ安価で提供される中性固化剤を採用し、これらの問題を解決する。本発明では、この中性固化剤として、酸化カルシウム、三酸化硫黄、二酸化ケイ素を主成分とし、そのほかに、酸化アルミニウム、三酸化二鉄、酸化マグネシウムを含む固化剤を用いることができる。この固化剤は、嵩密度が1.2〜1.3、比表面積が約4cm/gであり、酸化カルシウム、三酸化硫黄、二酸化ケイ素をそれぞれ、約40〜45%、約25〜30%、約15〜20%程度含有する。
【0074】
この固化剤は、高い脱水機能をもち、石灰アルミニウムが硫酸カルシウムと反応し、鉱物組成をもつ3CaO・Al・3CaSO・32HOを生成する。このように、この化合物が多量の水を含有することから、この固化剤は、水和反応の過程で多量の水と化合し固定することができる。また、過剰に存在する硫化アルミン酸およびアルミニウムイオンがpHを中和安定させるため、土壌を中性に長期にわたって維持することができる。
【0075】
また、酸化マグネシウム系の固化剤を用いることもできる。この酸化マグネシウムを主成分とした固化剤は、低pH固化剤であり、環境に与える負荷が小さいことを特徴とする。
この固化剤による固化は、固化対象物の粒子間でMgOの炭酸塩化が進行し、MgCO・3HOの結晶が成長することにより行われる。
【0076】
この固化剤は、土壌中に含まれるフッ素やホウ素等を固定し不溶化する。具体的には、MgOの表面が水和してMg(OH)となり、その表面のOH基がOHとなって正に帯電し、静電引力によりFやHBOが吸着することにより不溶化される。
【0077】
この固化剤とともに、熔リン、蛇紋岩、カンラン石、モンモリロナイト、ハロイサイト、ギブサイト、アロフェン等の微粒子の鉱物を添加することにより、重金属を不溶化し、土壌浄化を実現することができる。ここで、熔リンは、MgO:16質量%、Al:1.9質量%、SiO:28質量%、P:19質量%、CaO:31質量%、Fe:3.2質量%で、蛇紋岩は、MgO:44質量%、Al:1.6質量%、SiO:47質量%、CaO:1.6質量%、Fe:5.3質量%で、カンラン石は、MgO:45質量%、Al:1.2質量%、SiO:47質量%、CaO:1.0質量%、Fe:5.5質量%である。また、モンモリロナイトは、結晶性粘土鉱物で、化学式Na0.67Si(Al3.33Mg0.67)O20(OH)・nHOで表され、ハロイサイトは、結晶性粘土鉱物で、化学式SiAl(OH)・2HOで表され、ギブサイトは、水酸化物で、化学式Al(OH)で表され、アロフェンは、非晶質鉱物で、化学式(1〜2)SiO・Al・(2.5〜3)HOで表されるものである。
【0078】
例えば、Pbを、上記の熔リンを添加して不溶化するとき、溶液中には、溶リンに含まれるカルシウムやマグネシウムがCa2+やMg2+として溶出し、溶液は弱アルカリ性を呈する。このため、溶液中にはOHが存在し、これがPbと反応し、難溶性のPb(OH)を生成する。このPb(OH)は、鉱物粒子の表面に固着し、不溶化される。
【0079】
同様にして、カドミウム、六価クロム、砒素、水銀、セレンといった重金属、上記のフッ素やほう素、水素イオン等を土壌環境基準以下に不溶化することができる。
【0080】
モンモリロナイト等の層状ケイ酸塩粘土鉱物は、交換性陽イオン、例えばCa2+を置換して層間をマイナスに帯電させ、広いpHレンジで陽イオンを吸着する。アロフェン等の非晶質アルミノケイ酸塩鉱物は、溶液が酸性の場合、表面電荷が正に卓越しているため陰イオンを吸着し、溶液がアルカリ性の場合、表面電荷が負に卓越しているため陽イオンを吸着する。ギブサイト等の水酸化物や鉄酸化物も同様、溶液のpHが高いと、その表面電荷が負に卓越し、陽イオンを吸着し、溶液のpHが低いと、その表面電荷が正に卓越し、陰イオンを吸着する。
【0081】
これらの固化剤を、必要に応じて鉱物を添加して、水や空気等に分散させ、スラリーやガスとして本発明の地盤改良装置へ供給し、地盤内へ噴射させ、地盤改良を行うことができる。
【0082】
この安価で所望の強度を得ることができる固化剤を含むスラリーやガスを注入材として用い、この注入材を、25〜29MPaの高圧で噴射し、約0.3m/分といった、これまでの注入量を大きく上回る注入量とすることで、安価で施工することができ、また、同じサイズの掘削部材12であっても、1回の施工で、より大きい改良体を構築することができ、改良体の数を減少させ、工期を短縮することができる。
【0083】
上記において螺旋状羽根21の最大径は、1〜2.5mと記載したが、これに限られるものではなく、例えば0.35m〜3mのものを用いることができる。上記の25〜29MPaの圧力で、0.28〜0.33m/分で噴射させた場合、螺旋状羽根21の最大の羽根径が0.35mのものを使用して改良体を構築すると、径が2.35mの円柱状の改良体を構築することができる。
【0084】
ちなみに、径0.5mでは2.5m、径0.7mでは2.7m、径1.2mでは4.7m、径1.5mでは5m、径2mでは5.5m、径2.5mでは6m、径2.8mでは6.3mの円柱状の改良体を構築することができ、このことから、この圧力および注入量では、最大の羽根径の2〜8倍の径を有する改良体を構築することができる。
【0085】
この注入圧力および注入量は、あくまで例示であり、これらの値に限定されるものではない。したがって、29MPa以上の圧力であってもよいし、0.33m/分以上の注入量にすることも可能である。
【0086】
また、水底地盤が、ヘドロ等により汚染された土壌を健全な土壌に変換させるべく、バクテリア、活性菌、光合成細菌、酵母菌、乳酸菌、麹菌等の微生物を注入材に混入させ、それを噴射することにより、土壌を浄化することも可能である。
【0087】
これまで本発明の地盤改良装置について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
1…水底、2…水面、10…中空部材、11…空気噴射管、12…掘削部材、13…サンドポンプ、14…排泥槽、20…軸体、21…螺旋状羽根、22…突出部、23、24…注入管、25…チップ、26…ロッド、27…外周、28…接合部分、29…突起、30…上面、31、32…傾斜面、33…曲面、40…挟持手段、41…アーム、42…昇降手段、43…圧縮空気供給手段、44…注入材供給手段、45…台船

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の地盤を改良するための地盤改良装置であって、
前記地盤から水面上へ延びるように設置される中空部材と、
前記中空部材の外側面に隣接し長手方向に沿って設けられ、前記中空部材の内部を前記水面に向けて圧縮空気を噴射させる空気噴射管と、
前記中空部材の内部を通して前記地盤へ降下され、前記地盤を掘削するとともに注入材を噴射して土壌と撹拌混合する掘削部材を備える掘削装置と
を含み、
前記掘削部材は、中空の軸体と、前記軸体に周設される螺旋状羽根と、前記螺旋状羽根の外周に突出するように設けられる突出部と、前記軸体内部を通り、前記軸体の中央部の壁面を貫通し、前記螺旋状羽根の下面に沿って前記突出部の下側へ延びる2以上の注入管とを備え、
前記突出部は、前記軸体の先端および前記螺旋状羽根の下面にも設けられ、前記突出部の突出した先端部分に、掘削時における回転方向に向けて先細とされた形状の、該突出部に比較して摩耗しやすい材料により製造されるチップが取り付けられていることを特徴とする、地盤改良装置。
【請求項2】
前記空気噴射管は、前記長手方向の途中に、前記中空部材の壁面を貫通し、前記水面に向けて前記圧縮空気を噴射させるように複数設けられる、請求項1に記載の地盤改良装置。
【請求項3】
前記軸体は、長さ方向に沿った中央部において径が大きく、かつ両端部において径が小さくなるように形成され、前記螺旋状羽根は、前記両端部から前記中央部に向けて羽根径が大きくなるように形成され、前記螺旋状羽根の外周に設けられる前記突出部は、少なくとも最大の羽根径となる羽根の外周に複数設けられる、請求項1または2に記載の地盤改良装置。
【請求項4】
前記螺旋状羽根の外周に設けられる前記突出部は、隣り合う、突出する前記チップまたは前記突出部の先端同士を結ぶ直線が、前記螺旋状羽根の外周に接しないように等間隔に複数設けられる、請求項3に記載の地盤改良装置。
【請求項5】
前記螺旋状羽根の上面および下面に配設される板状の複数の突起をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の地盤改良装置。
【請求項6】
前記中空部材内を上昇する土壌を吸引し排出するための吸引排出手段をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の地盤改良装置。
【請求項7】
前記2以上の注入管から前記注入材として、酸化マグネシウム(MgO)を含有する固化剤が分散したスラリーまたはガスを噴射させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の地盤改良装置。
【請求項8】
前記注入材は、MgOに加えて、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化カルシウム(CaO)、三酸化二鉄(Fe)を含む、請求項7に記載の地盤改良装置。
【請求項9】
前記注入材を、25〜29MPaの圧力で、毎分0.28〜0.33mの供給量で噴射させ、最大の羽根径の2〜8倍の径を有する円柱状の改良体を構築する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の地盤改良装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−117213(P2012−117213A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265151(P2010−265151)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(504092563)
【出願人】(510128155)
【Fターム(参考)】