説明

水廻りスピーカ構造及び該水廻りスピーカ構造を用いたスピーカ内蔵便器

【課題】前面カバーの開口部からの水浸入を防止しつつ音質劣化を防ぐことができ、しかもコーティングされた防水タイプのスピーカを使用する必要がなく、低コスト化を図ること。
【解決手段】バスレフ型スピーカユニット1の前面を覆う前面カバー4の開口部5は、スピーカブロック2の前方Hに位置するスピーカ側開口部6と、バスレフポート3の前方Hに位置するポート側開口部7とで構成され、スピーカ側開口部6を水浸入を防止しつつ高音域の音質劣化を防止し得る許容開口幅dにすると共に、ポート側開口部7の後端開口幅eをスピーカ側開口部6の許容開口幅dよりも狭くし且つポート側開口部7の少なくとも下面部8にその下面部前端8aの高さが下面部後端8bよりも低くなるような前下がりの勾配Fを設けた水廻りスピーカ構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカブロックとバスレフポートとを備えたバスレフ型スピーカユニットの前面を、複数の開口部を有する前面カバーにて覆った水廻りスピーカ構造及びこれを用いたスピーカ内蔵便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、トイレ室にスピーカを設置して、流水音等の擬音を発生させたり、好みの音楽を楽しんだりすることが増えてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、狭いスペースの設置に適したスピーカとして、小型で且つ低音再生が可能なバスレフ型スピーカユニットが好適に用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、トイレ室内の清掃時には、ホースによる水かけ洗いや小水の飛散などが十分想定される。このため、浸水によるスピーカの故障を防ぐために前面カバーを取り付けるなどの防水対策が不可欠である。ただし一定の音質を確保するためには前面カバーに開口部を設ける必要があり、図7にその一例を示す。
【0005】
ところが図7に示すようなスリット構造の開口部5では、水の浸入が容易に起こり得る。また例えば、図8のように前面カバー4´及びスピーカユニット1´を傾けて水が浸入しにくくした場合でも、前面カバー4´にかかった水が開口部5に飛散して、図8の実線矢印→破線矢印で示すように、水の飛沫がバスレフポート(音響共鳴管)3内部を通じてスピーカブロック2内部に浸入するという課題がある。
【0006】
これを解決するためには、コーティングされた防水タイプのスピーカユニットを使用することも考えられるが、この場合、一般のコーティングされていないスピーカと比べて使用頻度が極端に低いこともあり、コストが高くつくという課題があり、さらにバスレフポート3は空気振動しているため防水構造にすることが困難であるという課題もある。
【特許文献1】特開平8−228965号公報
【特許文献2】特開平11−41680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、前面カバーの開口部からの水浸入を防止しつつ音質劣化を防ぐことができ、しかもコーティングされた防水タイプのスピーカを使用する必要がなく、低コストの水廻りスピーカ構造及びこれを用いたスピーカ内蔵便器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の水廻りスピーカ構造は、スピーカブロック2とバスレフポート3とを備えたバスレフ型スピーカユニット1の前面を、複数の開口部5を有する前面カバー4にて覆った水廻りスピーカ構造であって、前面カバー4の開口部5は、スピーカブロック2の前方Hに位置するスピーカ側開口部6と、バスレフポート3の前方Hに位置するポート側開口部7とで構成され、スピーカ側開口部6を水浸入を防止しつつ高音域の音質劣化を防止し得る許容開口幅dにすると共に、ポート側開口部7の後端開口幅eをスピーカ側開口部6の許容開口幅dよりも狭くし且つポート側開口部7の少なくとも下面部8にその下面部前端8aの高さが下面部後端8bよりも低くなるような前下がりの勾配Fを形成したことを特徴としている。
【0009】
このような構成とすることで、スピーカ側開口部6において水浸入を防止しつつスピーカブロック2から発せられる指向性の強い高周波成分の低下をなくすことができるようになり、一方、ポート側開口部7において、低周波を増長するバスレフポート3からの低音域の音質劣化を防止しつつ、水の飛沫を下面部8の前下がりの勾配Fに沿って外部に排水できるようになり、スピーカユニット1の故障の恐れを減じることができるようになる。
【0010】
また、上記ポート側開口部7の前下がりの下面部8と対向する上面部9に、その上面部前端9aの高さが上面部後端9bよりも高くなるような前上がりの勾配Gを形成するのが好ましく、この場合、ポート側開口部7において水の飛沫を外部に逃がす排水除去効果をより高めることができる。
【0011】
また、上記前面カバー4の上端縁4aがその下端縁4bよりも前方Hに突出するように、前面カバー4全体を傾斜させるのが好ましく、この場合、水浸入防止効果をより高めながら、外観向上を図ることができる。
【0012】
さらに本発明の上記水廻りスピーカ構造を用いたスピーカ内蔵便器は、上記前面カバー4を樹脂製便器10のスカート部11に形成した穴部12に取り付けると共に、スカート部11の内側に前面カバー4に面してバスレフ型スピーカユニット1を設置したことを特徴としている。
【0013】
このような構成とすることで、樹脂製便器10のスカート部11内に、水浸入防止効果及び音質劣化防止効果に優れた前面カバー14付きバスレフ型スピーカユニット1を一体化できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水廻りスピーカ構造は、バスレフ型スピーカユニットの前面を覆う前面カバーの2種類の開口部(ポート側開口部、スピーカ側開口部)からの水浸入を防止しつつ音質劣化を防ぐことができるので、バスレフ型スピーカユニットの信頼性が向上すると共に、コーティングされた防水タイプのスピーカを使用する必要がなく、水廻りスピーカ構造の低コスト化を実現できるものである。
【0015】
また本発明に係るスピーカ内蔵便器は、水浸入防止効果及び音質劣化防止効果に優れた水廻りスピーカ構造を樹脂製便器に対して容易に組み込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0017】
図1(a)(b)は、本発明の一実施形態に用いるバスレフ型スピーカユニット1及び前面カバー4の一例を示し、図2は樹脂製便器10の一例を示し、図3は該樹脂製便器10のスカート部11の内側にバスレフ型スピーカユニット1を収納する場合の一例を示す図である。
【0018】
樹脂製便器10は、ボウル部13と、ボウル部13の後部上面に付設された温水洗浄便座装置14とを備えている。ボウル部13の下端外周はスカート部11で覆われている。
【0019】
上記スカート部11の前面の左右両サイドには、一対のバスレフ型スピーカユニット1がそれぞれ内蔵されている。これらバスレフ型スピーカユニット1は、例えば、温水洗浄便座装置14に設けた操作部(図示せず)にて操作され、操作の内容に応じて、好みの音楽や、水洗洗浄音の擬音、さらに音声による温水洗浄便座装置の使い方の説明などを適宜再生するものであり、より快適で便利なトイレ空間を提供できるようになっている。
【0020】
上記バスレフ型スピーカユニット1は、図1に示すように、スピーカブロック2と、低周波を増長するバスレフポート(音響共鳴管)3と、これらを収納するエンクロージャーと称される筐体15とで構成されている。
【0021】
本例では筐体15の前面下部にスピーカブロック2が取り付けられ、その上部にポート部3が開口している。ここで、スピーカブロック2の背面に放射される音は前面に放射される音に対して位相が180°ずれているが、背面に放射される音が筐体15内のバスレフポート3内を通じて前面から放射されるようになり、このときスピーカブロック2の前面から放射される音と位相が揃い、低音特性が増強されることで、バスレフポート3の前面部において低音再生域が拡大されるものである。なお本例では、スピーカブロック2の上にバスレフポート3を配置した例を示しているが、両者の位置関係はこれに限定されるものではなく、またスピーカブロック2とバスレフポート3の数も特に限定されるものではない。
【0022】
上記バスレフ型スピーカユニット1の前面は前面カバー4にて覆われる。この前面カバー4は、樹脂製便器10のスカート部11に形成した穴部12に取着されている。前面カバー4には、スピーカユニット1の発した音を前面カバー4の外部に通過させると共に水等の浸入を防止し得る複数の開口部5が穿設されている。この開口部5は、横方向に長く且つ上下に扁平なスリット構造を有しており、スピーカブロック2の前方Hに位置するスピーカ側開口部6と、バスレフポート3の前方Hに位置するポート側開口部7との2種類に分類されている。本例ではスピーカ側開口部6を水平スリットで構成し、ポート側開口部7を傾斜スリットで構成している。
【0023】
ここで、上記スピーカブロック2の前方Hに位置するスピーカ側開口部6において、水浸入・異物侵入を防ぐ内部保護を想定した場合に、図4(a)のように最大許される上限値dを維持している。この上限値dがスピーカ側開口部6において水浸入を防止しつつ高音域の音質劣化を防止し得る許容開口幅となる。
【0024】
一方、バスレフポート3の前方Hに位置するポート側開口部7において、水浸入・異物侵入を防ぐ内部保護を想定した場合に、スピーカ側開口部6と比べて開口形状のバスレフポート3では水の飛沫が浸入しやすいため、スピーカ側開口部6よりも狭める必要がある。そこで、本発明では、ポート側開口部7の後端開口幅eを前記スピーカ側開口部6の許容開口幅dよりも狭くし、且つ、ポート側開口部7の下面部8に、その下面部前端8aの高さが下面部後端8bよりも低くなるような前下がりの勾配Fを形成している。これにより図5の矢印で示すように、水の飛沫を外部に逃がす排水除去効果が得られるようになっている。さらに本例では図4(c)に示すように、ポート側開口部7の前下がりの下面部8と対向する上面部9に、その上面部前端9aの高さが上面部後端9bよりも高くなるような前上がりの勾配Gを形成してある。これにより、ポート側開口部7はその後端から前端に行く程上下に幅広となり、前端開口幅fはスピーカ側開口部6の許容開口幅dとほぼ同じ程度となっている。これにより勾配F,Gによって水の飛沫を外部に跳ね返すことができると共に、バスレフポート3からの低音域の音質劣化を防止できるようになっている。つまり、バスレフポート3から発せられる音は主に低周波域で指向性が弱いため、ポート側開口部7の後端開口幅eをスピーカ側開口部6の許容開口幅dよりも狭くした場合でも、バスレフポート3からの低音域の音質劣化がないものである。
【0025】
ちなみに、スピーカ側開口部6の許容開口幅dをポート側開口部7と同様に狭めると、スピーカブロック2から発せられる指向性の強い高周波成分が低下して音質が明確に劣化してしまうことになる。そこで、本発明では、スピーカ側開口部6では、図4(a)のように勾配をつけずに、水浸入及び高音域の劣化を防止し得る許容開口幅dで開口させるようにしている。
【0026】
しかして、上記構成のように、前面カバー4の開口部5をポート側開口部7とスピーカ側開口部6の2種類に分類することで、開口部5からの水の飛沫等の浸入防止を図ることができると共に、音の通過性への影響はほとんどなく、これにより、前面カバー4の前面方向から音の高音域および低音域を十分に聞き取ることができ、バスレフ型による音質向上を図ることが可能となる。しかも、前面カバー4の開口部5の開口幅等を設計変更をするだけで、コーティングされた防水タイプのスピーカを用いる必要がなくなり、安価な構成部品で、充分な防水対策を行うことができる。
【0027】
また本例では樹脂製便器10のスカート部11にバスレフ型スピーカユニット1を組み込むことによって、既設の樹脂製便器10に対して低コストで付加的に設置可能となる。
【0028】
さらに本例ではポート側開口部7の後端開口幅eを狭くできるので、外部からポート側開口部7を通してバスレフポート3の開口形状が透視されにくくなり、外観が良好になる利点もある。
【0029】
なお、前記実施形態では、ポート側開口部7の上下両面に勾配F,Gを設けた場合を説明したが、他の実施形態として、水の飛散が上方からの飛散だけを想定した場合は、図6(a)に示すように、ポート側開口部7の下面部8のみに前下がりの勾配Fを形成した片側勾配のスリット構造としてもよい。この場合、水浸入防止効果をより高めることができる構造となり、さらに図6(b)に示すように、前面カバー4の上端縁4aが下端縁4bよりも前方Hに突出するように、前面カバー4全体を傾斜させると共に、この前面カバー4と同じ角度、同じ向きにバスレフ型スピーカユニット1全体を傾斜させるようにしてもよく、これにより音質の劣化を更に軽減しつつ、前面カバー4による水浸入防止効果、外観向上効果をより一層高めることができる。
【0030】
本発明の水廻りスピーカ構造は、樹脂製便器に適用されるだけでなく、トイレ室内の水廻り、さらにトイレ室以外の住宅設備の水廻りに広範囲に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態のバスレフ型スピーカユニット及び前面カバーを備えた水廻りスピーカ構造を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】同上の水廻りスピーカ構造が用いられる樹脂製便器の側面断面図である。
【図3】同上の樹脂製便器のスカート部にバスレフ型スピーカユニット及び前面カバーを設ける場合の一例を示す分解斜視図である。
【図4】同上の前面カバーの開口部を示す側面断面図であり、(a)はスピーカ側開口部の一例を示し、(b)はポート側開口部の一例を示し、(c)はポート側開口部の他例を示す図である。
【図5】同上のポート側開口部の勾配と水の飛沫が跳ね返る方向とを説明する図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示し、(a)は片側勾配のスリット構造の説明図、(b)は片側勾配のスリット構造を有する前面カバーとバスレフ型スピーカユニットを同一方向に傾斜させた場合の説明図である。
【図7】従来の前面カバーの開口部のスリット構造の説明図である。
【図8】従来の開口部からバスレフポートに水の飛沫が浸入する場合の説明図である。
【図9】従来のバスレフ型スピーカユニットの斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 バスレフ型スピーカユニット
2 スピーカブロック
3 バスレフポート
4 前面カバー
5 開口部
6 スピーカ側開口部
7 ポート側開口部
8 ポート側開口部の下面部
8a 下面部前端
8b 下面部後端
9 ポート側開口部の上面部
10 樹脂製便器
11 スカート部
12 穴部
d 許容開口幅
e 後端開口幅
F 前下がりの勾配
G 前上がりの勾配
H 前方

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカブロックとバスレフポートとを備えたバスレフ型スピーカユニットの前面を、複数の開口部を有する前面カバーにて覆った水廻りスピーカ構造であって、前面カバーの開口部は、スピーカブロックの前方に位置するスピーカ側開口部と、バスレフポートの前方に位置するポート側開口部とで構成され、スピーカ側開口部を水浸入を防止しつつ高音域の音質劣化を防止し得る許容開口幅にすると共に、ポート側開口部の後端開口幅をスピーカ側開口部の許容開口幅よりも狭くし且つポート側開口部の少なくとも下面部にその下面部前端の高さが下面部後端よりも低くなるような前下がりの勾配を形成したことを特徴とする水廻りスピーカ構造。
【請求項2】
上記ポート側開口部における前下がりの下面部と対向する上面部に、その上面部前端の高さが上面部後端よりも高くなるような前上がりの勾配を形成したことを特徴とする請求項1記載の水廻りスピーカ構造。
【請求項3】
上記前面カバーの上端縁がその下端縁よりも前方に突出するように、前面カバー全体を傾斜させたことを特徴とする請求項1記載の水廻りスピーカ構造。
【請求項4】
上記請求項1乃至3のいずれかに記載の水廻りスピーカ構造を用いたスピーカ内蔵便器であって、上記前面カバーを樹脂製便器のスカート部に形成した穴部に取り付けると共に、スカート部の内側に前面カバーに面してバスレフ型スピーカユニットを設置したことを特徴とするスピーカ内蔵便器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−54247(P2008−54247A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231342(P2006−231342)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】