説明

水性インクジェットインク

【課題】 紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に高品質な画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【解決手段】 一実施形態は、総量の15〜50質量%の水と、総量の34〜80質量%のグリコール混合物と、総量の2〜20質量%の顔料とを含有する水性インクジェットインクである。前記グリコール混合物の総量の40〜70質量%はプロピレングリコールが占め、残部はイソプレングリコールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、一般的には水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顔料を水性媒体に分散させたインクジェットインクが提案されている。水溶性染料を用いたインクと比較して、顔料を用いたインクは耐水性や耐光性に優れている。
【0003】
インクジェットインクは、インクジェットヘッドからの吐出に適した特性を有していなければならない。紙媒体に記録するためのインクジェットインクは、紙媒体の変形を極力低減して、高い品質の画像を紙媒体に形成できることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−209759号公報
【特許文献2】特開2009−62440号公報
【特許文献3】特開平9−124982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に高品質な画像を形成することが可能な水性インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、水性インクジェットインクは、インク総量の15〜50質量%の水、インク総量の34〜80質量%のグリコール混合物、およびインク総量の2〜20質量%の顔料を含有する。前記グリコール混合物の総量の40〜70質量%はプロピレングリコールが占め、残部はイソプレングリコールである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の一形態を適用するインクジェット記録装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0009】
図1に示すインクジェット記録装置においては、用紙カセット100および101は、サイズの異なる用紙Pを収容している。供紙ローラ102または103は、選択された用紙サイズに対応した用紙Pを用紙カセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。
【0010】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107には所定間隔で貫通孔が設けられ、搬送ベルト107の内側には用紙Pを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の用紙搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113、および114が設置されている。
【0011】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを用紙に吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、ブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。さらに、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、および115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、ブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。カートリッジは、それぞれチューブ117C、117M、117Y、117Bkによって、インクジェットヘッドに連結されている。
【0012】
こうした構成のインクジェット記録装置の画像形成動作について述べる。
【0013】
まず、画像処理手段(図示しない)により記録のための画像処理が開始され、記録のための画像データが各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkに転送される。また、用紙カセット100または101から給紙ローラ102または103により選択された用紙サイズの用紙Pを一枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。レジストローラ対106は用紙Pのスキューを補正し、所定のタイミングで搬送を行なう。
【0014】
負圧チャンバ111は搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいるので、用紙Pは搬送ベルト107に吸着された状態でインクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkの下側を搬送される。このことで、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkと用紙Pとは一定の間隔を保つことができる。レジストローラ対106から用紙Pが搬送されるタイミングに同期させて、各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkから各色のインクを吐出させる。こうして、用紙Pの所望の位置にカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは搬送ローラ対112、113および114によって排紙トレイ118に排紙される。
【0015】
各インクカートリッジには、一実施形態にかかる水性インクジェットインクが収容される。
【0016】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、インク総量の15〜50質量%の水と、インク総量の34〜80質量%のグリコール混合物と、インク総量の2〜20質量%の顔料とを含有する。グリコール混合物の40〜70質量%はプロピレングリコールが占め、残部はイソプレングリコールである。
【0017】
すなわち、水とグリコール混合物とによって、本実施形態にかかる水性インクジェットインクの分散媒が構成される。分散媒には、水とプロピレングリコールとイソプレングリコールとが、それぞれ所定の量で含有される。こうした分散媒が用いられるので、本実施形態にかかる水性インクジェットインクは、紙媒体の変形を極力抑制しつつ、高品質の画像を紙媒体に形成することができる。
【0018】
本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
【0019】
上述したように一実施形態においては、水とプロピレングリコールとイソプレングリコールとをそれぞれ所定の量で含む分散媒中に、顔料が分散される。
【0020】
顔料は特に限定されず、無機顔料および有機顔料のいずれを用いてもよい。無機顔料としては、例えば酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。さらに、コンタクト法、ファーネス法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0021】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
【0022】
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,およびSpecial Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
【0023】
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128,C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
【0024】
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0025】
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
【0026】
インクジェットインクであるので、顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
【0028】
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコール中などに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、自己分散型顔料を用いてもよい。自己分散顔料とは、分散剤なしに水等に分散可能な顔料であり、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。こうした表面処理により官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって、自己分散顔料が得られる。
【0029】
インク中における顔料の含有量は、インク総量の2〜20質量%の範囲が好ましい。この範囲内であれば、インクの保存性や吐出性能に関して不都合を伴なうことなく、必要な画像濃度を有する印刷物を形成することができる。総量の3〜6質量%の顔料を含有するインクは、20〜50℃程度という広い温度範囲にわたって、インクジェットヘッドからの吐出に適切な粘度を有する。しかも、かかるインクを用いて形成される画像の品質も良好である。
【0030】
顔料分散体は、水とプロピレングリコールとイソプレングリコールとを含む分散媒と混合され、本実施形態の水性インクジェットインクが得られる。
【0031】
水の含有量は、インク総量の15〜50質量%である。水の含有量が15質量%未満の場合には、インクジェットインクとして適切な範囲の粘度を確保することができない。このため、インクジェットヘッドからの吐出性能が低下する。一方、水の含有量がインク総量の50質量%を超えると、用紙変形を抑制することが困難となる。水の含有量は、インク総量の30〜40質量%であることが好ましい。
【0032】
インク総量の34〜80質量%は、プロピレングリコールとイソプレングリコールとのグリコール混合物が占める。プロピレングリコールおよびイソプレングリコールのような水溶性有機溶媒は、適度な保湿性を有しているものの、プロピレングリコールとイソプレングリコールとを組み合わせて用いることによって、用紙の変形抑制能を高めることができた。
【0033】
グリコール混合物の含有量がインク総量の34質量%未満の場合には、用紙変形を抑制することが困難となる。一方、グリコール混合物の含有量がインク総量の80質量%を超えると、インクジェットヘッドからの吐出性能が低下する。グリコール混合物の含有量は、インク総量の54〜64質量%であることが好ましい。
【0034】
また、プロピレングリコールの含有量は、グリコール混合物の総量の40〜70質量%であり、その残部がイソプレングリコールである。このような割合で2種類のグリコールを含むグリコール混合物と、水とを所定の量で組み合わせることによって、用紙の変形抑制能が格段に向上した。これは、本発明者らによって見出された知見である。プロピレングリコールの含有量は、グリコール混合物の総量の50〜70質量%であることが好ましい。この場合には、インクの保存安定性が高められる。プロピレングリコールは、イソプレングリコールよりも顔料の分散安定性に与える影響が低く、顔料の凝集が生じにくいことによる。
【0035】
本実施形態の水性インクジェットインクには、特性を損なわない範囲内で、以下の成分が含有されてもよい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、および3−メチル−1,3,5−ペンタントリオール等の多価アルコール類;N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、およびε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、およびトリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、およびチオジエタノール等の含硫黄化合物類;プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等である。
【0036】
本実施形態の水性インクジェットインクは、用紙のカールを抑制する化合物(カール抑制剤)を含むことが好ましい。カール抑制剤を含有する場合には、用紙のカールが抑制されるのに加えて、得られる画像の品質もよりいっそう高めることができる。例えば、ベタイン、ラウリルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン、レシチン、およびアルキルアミンオキサイドなどが、カール抑制剤としての作用を有する。
【0037】
カール抑制剤は、インクジェットインク総量の5〜15質量%程度含有されていれば、効果を得ることができる。ベタイン化合物は、用紙の変形を抑制する効果が特に優れており、なかでも、ベタインは、水への溶解性および保存性が良好である。インク総量の10〜15質量%程度で配合されれば、こうしたベタインの効果が発揮される。
【0038】
本実施形態にかかる水性インクジェットインクを得るにあたっては、例えば、水、プロピレングリコールおよびイソプレングリコールをそれぞれ所定の量で含有する分散媒と、顔料分散体とを混合する。分散媒には、必要に応じて添加剤を加えることができる。
【0039】
インクジェット記録用であるので、本実施形態にかかるインクは、インクジェットプリンターにおけるヘッドのノズルからの吐出に適切な粘度を有することが必要である。具体的には、25℃における粘度が5〜50mPa・sであることが好ましい。30mPa・s以下であれば、吐出動作時におけるインクジェットヘッドの温度を、比較的低く(例えば40℃以下程度)設定できる。
【0040】
インクジェットインクの吐出性能、保湿性、保存性および物性値などを、最適な範囲に調整するために、効果が損なわれない範囲で、界面活性剤、保湿剤、樹脂などを別途配合してもよい。
【0041】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、およびグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0042】
さらに、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、または非イオン性界面活性剤を用いることもできる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、82、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
【0043】
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
【0044】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられる。
【0045】
これらの界面活性剤は、インクの分散安定性などを劣化させない程度に添加することが望まれる。界面活性剤は、インク総量の0.5〜2.0質量%程度の量で含有されていれば、何等不都合を伴なわずに効果を発揮することができる。
【0046】
上述の界面活性剤のうち、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、および非イオン性界面活性剤などは、顔料分散体を調製するための分散剤として用いることができる。
【0047】
また、塩類が併用されてもよい。塩類としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩等が挙げられる。塩類は、インク総量の0.5〜1.0質量%程度の量で含有されていれば、何等不都合を伴なわずに効果を発揮することができる。
【0048】
さらに、本実施形態の水性インクジェットインクには、水溶性樹脂が含有されてもよい。水溶性樹脂は、インクの粘度を調整する。さらに、印刷物の擦過性のような印刷品質を改良することができる。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デキストリン、カゼイン、およびペプチン等が挙げられる。特に、水溶性アクリル樹脂は、インク中の顔料分散性を損なわずに紙媒体への定着性が向上するため好ましい。
【0049】
こうした水溶性樹脂のうち、例えば水溶性アクリル樹脂などは、顔料分散体を調製するための分散剤として用いることができる。
【0050】
必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンズイソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などを使用することができる。
【0052】
こうした添加剤を配合することによって、印字画像品質や保存安定性がさらに高められる。
【0053】
以下に、水性インクジェットインクの具体例を示す。
【0054】
下記表1に示すグリコール、および下記表2に示すカール抑制剤を用意した。
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
下記表3に示す処方で各成分をそれぞれ配合して、インクサンプルを調製した。表中、各成分の量は、インクジェットインク総量に対する質量%である。界面活性剤としては、サーフィノール465を用いた。
【0057】
顔料としては、自己分散型(DD1)および活性剤分散型(DD2)およびの2種類の顔料分散体を用意した。
【0058】
DD1:カーボンブラック分散液CAB−JET−300(キャボット社製)
DD2:アニオン活性カーボンブラック分散液SP−8796(富士色素社製)
DD1においては、所定の顔料が水中に分散されている。顔料の平均粒径は120nm程度である。DD1に含まれる水の量は、下記表3中の水の量に含まれている。一方、DD2においては、所定の顔料が所定の量の分散剤等とともに水分散液中に分散されている。DD2に含有される顔料の平均粒径は、110nm程度である。DD2に含まれる水の量は、下記表3中の水の量に含まれている。
【0059】
No.6〜21のサンプルではDD1を用い、残りのサンプルではDD2を用いた。
【0060】
下記表3に示されるように、いずれのサンプルにおいても、顔料の固形分がインク総量の5質量%となる量で顔料分散体を配合した。
【0061】
さらに、全てのサンプルには、総量の0.2質量%の防腐剤を加えた。防腐剤としてはプロキセルXL−2(S)を用いた。
【0062】
インクサンプルの調製にあたっては、まず、それぞれの処方で各成分を混合し、スターラーで1時間攪拌した。その後、1μmのメンブレンフィルターでろ過して、サンプルを得た。
【表3】

【0063】
得られたインクサンプルを用いて普通紙に印字を行なって、用紙の変形抑制能、および印刷品質を調べた。普通紙として東芝コピーペーパー紙を用い、記録装置としては、東芝テックピエゾヘッドCB1を搭載したインクジェット記録装置を用いた。
【0064】
評価方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0065】
(用紙の変形抑制能)
まず、普通紙の10mm×100mmの領域に100%dutyでベタ印刷を行ない、印字サンプルを得た。レーザー変位計により用紙変形の程度(紙の波打ちの大きさ:コックリング量)を求め、凹凸の量(長さ)に基づいて以下の基準で評価した。
【0066】
A:0.5mm未満
B:0.5mm以上1.0mm未満
C:1.0mm以上
(印刷品質)
印刷品質の評価にあたっては、まず、前述の普通紙に文字印刷およびベタ画像印刷を行なった。印刷された文字を目視により、にじみやフェザリングを判断した。また、X−Rite画像濃度測定器を用いてベタ印字画像濃度を調べ、表における画像濃度と裏における画像濃度とを調べた。
【0067】
また、(円周長)2/(4π×面積)により、印字画像のドットの形状係数を算出した。形状係数は、にじみの程度を定量化した評価値である。円周長および面積は、ドットアナライザーによる画像分析により求めた。ドット形状の不規則性が小さいと1に近い。表の画像濃度、裏の画像濃度、および形状係数を総合して、下記表4に示す基準にしたがって評価した。
【表4】

【0068】
下記表5に、インクサンプルの変形抑制能および印刷品質をまとめる。いずれか一方でもCの場合には、許容範囲外である。
【表5】

【0069】
上記表4に示されるように、No.3〜13、および16〜21のインクサンプルは、いずれも変形抑制能および印刷品質が合格レベルである。これらのサンプルには、水、プロピレングリコールおよびイソプレングリコールが、それぞれ所定の量で含有されている。なかでも、No.6〜11,16〜18のインクサンプルは、変形抑制能および印刷品質のいずれもがAであり、特に優れた特性を示している。これらのサンプルにおいては、水の含有量は総量の30〜40質量%であり、最適な水含有量が確認された。
【0070】
水の含有量が10質量%未満の場合には、画像濃度が低下して、所望の印刷品質が得られないことがNo.1,2の結果に示されている。No.1,2のインクは粘度が高いので、インクジェットヘッドから良好に吐出させるには温度を高める必要がある。このように、No.1,2のインクは、インクジェットヘッドから良好に吐出させる条件が狭い。一方、水の含有量が50質量%を超えるNo.14,15では、用紙の変形を抑制することができない。
【0071】
グリコール混合物の含有量が総量の54〜64質量%のNo.6〜11は、用紙の変形抑制能および印刷品質ともにAである。ベタイン化合物が含有された場合にも、これらの特性が高められることが、No.16〜18の結果に示されている。
【0072】
また、No.6〜11、16〜18のインクは、東芝コピーペーパー以外の各種の普通紙に対しても、優れた変形抑制能を示した。一般的に、用紙の変形は紙種に依存する。変形しやすい紙種を用いて前述のように変形抑制能を調べると、その評価が1ランク下がる場合がある。No.6〜11、16〜18のインクは、変形しやすい紙種を用いた場合でも、用紙の変形抑制能は概ねAの評価レベルを維持した。これらのインクサンプルは、用紙の変形抑制能が特に優れていることが確認された。
【0073】
本実施形態の水性インクジェットインクは、紙媒体の変形を引き起こさずに紙媒体に高品質な画像を形成することが可能である。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
p…用紙; 100…用紙カセット; 101…用紙カセット; 102…給紙ローラ
103…給紙ローラ; 104…搬送ローラ対; 105…搬送ローラ対
106…レジストローラ対; 107…搬送ベルト; 108…駆動ローラ
109…従動ローラ; 110…ファン; 111…負圧チャンバ
112…搬送ローラ対; 113…搬送ローラ対; 114…搬送ローラ対
115C,115M,115Y,115Bk…インクジェットヘッド
116C,116M,116Y,116Bk…インクカートリッジ
117…チューブ; 118…排紙トレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク総量の15〜50質量%の水と、
インク総量の34〜80質量%を占めるグリコール混合物であって、前記グリコール混合物の40〜70質量%はプロピレングリコールであり、残部はイソプレングリコールであるグリコール混合物と、
インク総量の2〜20質量%の顔料と
を含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
前記水の量は、前記インク総量の30〜40質量%であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記グリコール混合物の量は、前記インク総量の54〜64質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記プロピレングリコールは、前記グリコール混合物の50〜70質量%を占めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記顔料の量は、前記インク総量の3〜6質量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
カール抑制剤をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
前記カール抑制剤は、ベタイン、ラウリルベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン、レシチン、およびアルキルアミンオキサイドからなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
前記カール抑制剤の量は、前記インク総量の5〜15質量%であることを特徴とする請求項7に記載の水性インクジェットインク。
【請求項9】
前記カール抑制剤は、ベタインであることを特徴とする請求項6に記載の水性インクジェットインク。
【請求項10】
前記ベタインの量は前記インク総量の10〜15質量%であることを特徴とする請求項9に記載の水性インクジェットインク。
【請求項11】
界面活性剤をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項12】
前記界面活性剤の量は、前記インク総量の0.5〜2.0質量%であることを特徴とする請求項11記載の水性インクジェットインク。
【請求項13】
前記顔料は、自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項14】
紙媒体に少なくとも1種のインク組成物をインクジェットヘッドから噴射して画像を形成する工程を具備し、前記インク組成物は請求項1乃至13のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記画像の形成は、1種類のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項14に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記画像の形成は、異なる色の2種類以上のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項14に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236423(P2011−236423A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105400(P2011−105400)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】