説明

水性エマルションおよび接着剤

【課題】低温初期接着性、常態接着性、ポットライフ、製造安定性に優れた水性エマルションおよび木材の接着に優れた接着剤を提供すること。
【解決手段】スチレンスルホン酸のアミン、アンモニアまたは一価金属の塩の重合体(a)およびポリビニルアルコール(b)を保護コロイドとして、単量体が重合開始剤で重合された水性エマルションであって、そのエマルションの平均粒子径が0.6〜1.2μmであることを特徴とする水性エマルション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の接着に優れる水性エマルション接着剤に関し、さらに詳しくは低温初期接着性、常態接着性、ポットライフおよび製造安定性に優れた水性エマルション接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水性エマルションにイソシアネート系化合物が架橋剤として添加された水性エマルション接着剤は、ホルムアルデヒドを含まず、常温で短時間圧縮するだけで、極めて高い接着強度および耐煮沸性が得られることから、木工用接着剤として使用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリビニルアルコールで安定化された水性エマルションポリマーからなる接着剤が開示され、ここではエマルションポリマーが、第1段階で特定範囲のTg(ガラス転移温度)を有するポリ酢酸ビニルコポリマーを製造し、第2段階で特定のTgを有するメチルメタクリレートコポリマーを製造することからなる2段階重合法によって製造する手法が開示されているが、ここに記載の多段重合法は、得られる水性エマルションの製造安定性が損なわれ易く、グリット(凝集物)の発生および重合反応の管理が難しく、安定した水性エマルションの生産性を保つことが困難である。
【0004】
特許文献2では、芳香族ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体ならびにヒドロキシエチル基含有ビニル系単量体、不飽和カルボン酸および架橋性単量体とを含む単量体組成を界面活性剤にて乳化重合して得られる水性エマルションで、その粒子径が200〜600nmであることを特徴とする接着剤の開示がなされているが、この接着剤の手法では、特に水性エマルションを作製するのに界面活性剤を使用すると、エマルションポリマーの粒子径が小さくなり、架橋剤を配合してからの水性エマルションのポットライフが不十分となる問題がある。
【0005】
また、近年木材加工製品の生産効率のアップが求められている。このため、木材加工場の常温の接着工程における接着剤の圧締保持時間の短縮は勿論であるが、寒冷地における冬場の接着工程(低温初期接着性)においても、木材加工品の圧締保持時間の短縮が重要な課題となっている。
【0006】
特許文献3では、1分子中に2個以上の芳香環を有し、そのうち少なくとも1個の芳香環が置換基として脂肪族炭化水素基を有するポリ芳香族化合物ポリスルフォネートの1価カチオン塩からなる乳化剤を用いて、脂肪族共役ジエン系単量体とビニル単量体を乳化重合させてなる水性高分子イソシアネート系接着剤用ラテックスの開示があるが、このラテックスは、ポットライフは長く良好なものの、低温初期接着性に問題があり、前記木材加工製品の生産効率のアップは残念ながら見込めない。
【0007】
特許文献4では、水性エマルションにポリビニルアルコールおよびイソシアネート基を有する化合物またはその重合物を配合してなる接着剤であって、その水性エマルションがエチレンと酢酸ビニルとからなる共重合体を含有する水性ビニルウレタン接着剤の開示がなされているが、該接着剤は、酢酸ビニル共重合体を用いることで、常態接着性は向上するものの、耐水性(耐煮沸性)の低下が避けられず、水性エマルション接着剤としてのバランスが取りにくい問題がある。
【特許文献1】特開平2−302485号公報
【特許文献2】特開2005−330399号公報
【特許文献3】特開2005−139266号公報
【特許文献4】特開2000−226562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、低温初期接着性、常態接着性、ポットライフ、製造安定性に優れた水性エマルションおよび木材の接着に優れた接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、接着剤のポットライフが長く、低温初期接着性、常態接着性および製造安定性に優れる水性エマルション接着剤を得るために、水溶性の保護コロイド、エマルションの粒子径、単量体組成、重合開始剤などの因子について鋭意検討した。その結果、水性エマルション接着剤が、そのポリマー粒子の特定の粒子径の範囲において、接着剤のポットライフが長くなることが判明し、また、特定の単量体組成や重合開始剤により、接着剤層の圧縮せん断強度が顕著に向上することを見出し、さらに特定の保護コロイドを用いることで、安定な製品かつ生産効率の良い手法を見出し、本発明を為すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、スチレンスルホン酸のアミン、アンモニアまたは一価金属の塩の重合体(a)およびポリビニルアルコール(b)を保護コロイドとして、単量体が重合開始剤で重合された水性エマルションであって、そのエマルションの平均粒子径が0.6〜1.2μmであることを特徴とする水性エマルションを提供する。
【0011】
上記本発明の水性エマルションにおいては、単量体が、酸基不含単量体(A)80〜99.0質量%と、酸基含有単量体(B)0.5〜10質量%と、単量体(A)および(B)以外の水酸基含有単量体(C)0.5〜10質量%とを含む単量体混合物であること:前記重合開始剤の使用量が、全単量体100質量部当たり0.06〜6質量部であり、上記重合開始剤として水溶性重合開始剤と油溶性重合開始剤とが併用され、上記水溶性重合開始剤の使用量が全単量体100質量部当たり0.01〜3質量部であり、上記油溶性重合開始剤の使用量が全単量体100質量部当たり0.05〜3質量部であること;および界面活性剤を含まないことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記本発明の水性エマルションが、さらにポリビニルアルコール水溶液(α)、充填材(β)および多価イソシアネート化合物(γ)を含むことを特徴とする水性エマルション接着剤を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低温初期接着性、常態接着性、ポットライフおよび製造安定性に優れた水性エマルションおよび木材の接着に優れた接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の水性エマルションは、スチレンスルホン酸のアミン、アンモニアまたは一価金属の塩の重合体(a)およびポリビニルアルコール(b)を保護コロイドとして、酸基不含単量体(A)と酸基含有単量体(B)と単量体(A)および(B)以外の水酸基含有単量体(C)とを含む単量体混合物を、好ましくは水溶性および油溶性重合開始剤を用いて重合することによって得られる。以下、この好ましい形態における各構成成分について説明する。
【0015】
本発明に使用する酸基不含単量体(A)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体などが挙げられ、これら単量体は、1種類または2種類以上組み合わせて使用することが可能で、その他公知の酸基不含単量体も使用することができる。また、本発明において上記単量体(A)の使用量は、全単量体の80〜99.0質量%であることが好ましい。上記使用量が80質量%未満の場合、得られる水性エマルションのポットライフが短く不十分であり、一方、上記使用量が99.0質量%を超えると、得られる水性エマルションの安定性が悪くなり好ましくない。
【0016】
本発明で使用する酸基含有単量体(B)としては、例えば、カルボキシル基を分子内に有するエチレン性不飽和単量体を使用できる。酸基含有単量体(B)のうち、カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。その他公知の酸基含有単量体(B)を使用することができるが、中でもカルボキシル基含有単量体が好ましい。これらの酸基含有単量体(B)は1種類または2種類以上組み合わせて使用できる。本発明において上記単量体(B)の使用量は、全単量体の0.5〜10質量%であることが好ましいが、より好ましくは1〜7質量%である。また、上記使用量が0.5質量%未満では、得られる水性エマルションの安定性が不十分であり、一方、上記使用量が10質量%を超えると、得られる水性エマルションのポットライフが短くなり好ましくない。
【0017】
本発明において使用する水酸基含有単量体(C)としては、水酸基を有する単量体であれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、これら水酸基含有単量体(C)は、1種類または2種類以上組み合わせて使用することが可能で、その他公知の水酸基含有単量体(C)も使用することができる。本発明における単量体(C)の使用量は0.5〜10質量%であることが好ましいが、より好ましくは1〜8質量%である。また、上記使用量が0.5質量%未満では、得られる水性エマルションの常態接着性が不十分であり、一方、上記使用量が10質量%を超えると、得られる水性エマルションのポットライフが短くなり好ましくない。
【0018】
本発明において使用する保護コロイド(a)は、スチレンスルホン酸のアミン、アンモニア、または一価金属の塩の重合体であり、スチレンスルホン酸塩としては、アミン塩の場合はトリエチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ステアリルアミンなどの塩が挙げられ、一価金属塩の場合はナトリウム、カリウムなどの塩が使用できる。上記保護コロイド(a)自体は公知であり、例えば、PS−5(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量5〜10万、20質量%溶液)、PS−50(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量40〜60万、20質量%溶液)、PS−100(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量80〜120万、20質量%溶液)などの商品名で市場から入手して使用することができる。その使用量は、乳化重合に使用する単量体100質量部当たり0.1〜7質量部が好ましく、より好ましくは1〜3質量部である。また、上記使用量が0.1質量部未満では、水性エマルションの製造安定性が不十分であり、上記使用量が7質量部を超えると得られる水性エマルションのポットライフが短くなり好ましくない。
【0019】
本発明において使用する保護コロイド(b)として使用するポリビニルアルコールとしては、完全ケン化、中間ケン化または部分ケン化のポリビニルアルコールを使用することができる。重合度が200〜2,500のポリビニルアルコールが好ましい。上記保護コロイド(b)自体は公知であり、例えば、PVA−105(重合度500、ケン化度98.5モル%)、PVA−205(重合度500、ケン化度88.0モル%)、RS−1713(重合度1,300、ケン化度93.0モル%)、KL−318(重合度1,800、ケン化度87.5モル%)などの商品名で市場から入手して使用することができる。その使用量は、乳化重合に使用する全単量体100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、より好ましくは4〜7質量部である。また、上記使用量が1質量部未満では、得られる水性エマルションの常態接着性が不十分であり、一方、上記使用量が10質量部を超えると、得られる水性エマルションのポットライフが短くなり好ましくない。本発明において使用する上記保護コロイド(a)と(b)とは、併用することが必要である。
【0020】
本発明で使用するラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用でき、その使用量は全単量体100質量部当たり0.06〜6質量部が好ましい。ラジカル重合開始剤としては水溶性重合開始剤と油溶性重合開始剤とがあり、例えば、水溶性重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素などを単独または併用することができる。また、油溶性の重合開始剤として、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物および高分子アゾ重合開始剤を1種類または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明においては、使用量が全単量体100質量部当たり0.06〜6質量部である重合開始剤は、水溶性のものと油溶性のものとを併用することが好ましい。この併用する場合の水溶性の重合開始剤としては、その使用量は全単量体100質量部当たり0.01〜3質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1質量部である。また、上記使用量が0.01質量部未満では、重合反応の収率が不十分であり、一方、上記使用量が3質量部を超えると得られる共重合体の分子量が低下し好ましくない。併用する場合の油溶性の重合開始剤の使用量は、全単量体100質量部当たり0.05〜3質量部が好ましく、より好ましくは1〜2質量部である。また、上記使用量が0.05質量部未満では、重合反応の収率が不十分であり、一方、上記使用量が3質量部を超えると重合反応時にグリットが発生し易く好ましくない。また、これらの重合開始剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤との組み合わせからなるレドックス系開始剤なども使用することができる。
【0022】
本発明において得られる水性エマルションの(共重合体粒子の)平均粒子径は0.6〜1.2μmであるが、より好ましくは0.7〜1.0μmである。これらの水性エマルションのポリマーの平均粒子径は、前記の保護コロイド、単量体組成、重合開始剤の組み合わせ、後述の製造条件などを調節することで得られる。特に保護コロイドで単量体を乳化し、重合することで、良好なポリマーの平均粒子径が得られるが、界面活性剤を使用して乳化した場合、ポリマーの平均粒子径が小さくなり、あまり好ましくない。水性エマルションの平均粒子径が0.6μm未満では、得られる水性エマルションのポットライフが短く不十分であり、一方、水性エマルションの平均粒子径が1.2μmを超えると、エマルションの(共重合体粒子の)沈降が起こりやすく好ましくない。上記水性エマルションの平均粒子径の測定は、コールターカウンター法によるコールターマルチサイザーIII(ベックマン・コールター(株)製)を使用した。具体的には電解水溶液(ISOTON-II:ベックマン・コールター(株)製)100〜150ml中に水性エマルションを0.005〜0.05mg加え、よく分散させた後、アパチャー30μmを用いて平均粒子径を測定した。
【0023】
本発明の水性エマルションを合成するための乳化重合は、前記単量体を水性液中で、前記重合開始剤および前記保護コロイドの存在下、撹拌下に加熱することによって実施できる。反応温度は、例えば、30〜100℃程度、反応時間は、例えば、1〜10時間程度が好ましい。水と保護コロイドとを仕込んだ反応容器に単量体混合液または単量体乳化液を一括添加または暫時滴下することによって反応温度の調節を行う。
【0024】
本発明の水性エマルションにさらにポリビニルアルコール水溶液(α)、充填材(β)および多価イソシアネート化合物(γ)を添加することによって、本発明の水性エマルション接着剤とすることができる。
【0025】
本発明に使用する上記ポリビニルアルコール水溶液(α)は、完全ケン化、中間ケン化、部分ケン化のポリビニルアルコールを10〜20質量%濃度に溶解した水溶液を使用することができる。本発明に使用する充填材(β)としては、例えば、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、小麦澱粉、木粉などが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
【0026】
本発明に使用する架橋剤である多価イソシアネート化合物(γ)は、分子中に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有するもので、具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添化TDI、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビスジフェニルイソシアネート(MDI)、水添化MDI、重合MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの群から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
【0027】
本発明の水性エマルション接着剤は、前記本発明の水性エマルション、ポリビニルアルコール水溶液(α)、および充填材(β)からなる主剤に、前記多価イソシアネート化合物(γ)を架橋剤として配合されるものであり、その配合比率は、該主剤(固形分換算)100質量部に対して、該架橋剤(固形分換算)10〜60質量部であることが好ましい。また、架橋剤(γ)の使用量が10質量部未満であると低温初期接着性、常態接着性が不十分であり、一方、架橋剤(γ)の使用量が60質量部を超えるとポットライフが短くなり好ましくない。また、本発明の水性エマルション接着剤は実質的に界面活性剤を含有しないことが好ましい。界面活性剤が実質的な量で含まれていると、重合時に水性エマルション中のポリマー粒子の平均粒子径が小さくなり、平均粒子径は0.6μm未満の場合、ポットライフが短くなり好ましくない。なお、「実質的に含有しない」とは水性エマルション中のポリマー粒子の平均粒子径が本発明の範囲に維持できれば、少量は含有してもよいことを意味する。
【0028】
本発明の水性エマルション接着剤の主剤は、水性エマルション(固形分換算)100質量部に対して、ポリビニルアルコール水溶液(α)(固形分換算)3〜20質量部、充填材(β)20〜200質量部からなることが好ましい。ポリビニルアルコール水溶液(α)の使用量が3質量部未満であると低温初期接着性、常態接着性が不十分であり、一方、ポリビニルアルコール水溶液(α)の使用量が20質量部を超えるとポットライフが短くなり、さらに耐煮沸性が低下し好ましくない。また、充填材(β)の使用量が20質量部未満であると常態接着性が不十分であり、一方、充填材(β)の使用量が200質量部を超えると低温初期接着性、常態接着性が低下し好ましくない。
【0029】
本発明の水性エマルション接着剤は、澱粉、変性澱粉、無水マレイン酸系共重合体などの水溶性高分子、ホウ酸、硼砂、硫酸アルミニウム、顔料、防腐剤、防錆剤などを本発明の効果を妨げない範囲で含有することができる。本発明の接着剤の適用対象は、主に集成材、合板、パーチクルボード、家具などの木工用において好適に用いられるが、紙管や一般紙などの紙用接着にも使用できる。接着方法は、ロールコーター、プレス、刷毛などで接着剤を被着材に塗布し、これを堆積、圧縮、乾燥の工程を経て、接着された製品を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を示す。
【0031】
〈水性エマルションの作製〉
[製造例1](水性エマルションa−1)
予め、別容器にブチルアクリレート53部、メチルメタクリレート19.5部、スチレン20部、イタコン酸6部、4−ヒドロキシブチルアクリレート1.5部、ポリナスPS−5(東ソー(株)製、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量5〜10万、20%水溶液)10部、20%濃度に溶解したPVA−105水溶液((株)クラレ製、重合度500、ケン化度98.5モル%)5部、20%濃度に溶解したPVA−205水溶液((株)クラレ製、重合度500、ケン化度88.0モル%)10部およびイオン交換水50部を計量し、撹拌して単量体乳化液を準備する。
【0032】
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下装置を備えた反応槽に窒素ガスを流入し、次いでイオン交換水14.9部を仕込み、内温を85℃まで上昇させ、5%濃度に溶解した過硫酸カリウム水溶液10部を仕込む。予め別容器に準備した単量体乳化液を4時間かけて滴下する。平行してt−ブチルパーオキシ2エチルヘキサネート2部を4時間かけて滴下する。内温84〜86℃で重合を行う。滴下終了後、同温度で3時間熟成して室温に冷却する。固形分52%、粘度2,000mPa・sの水性エマルションa−1を得た。
【0033】
製造例2〜5(水性エマルションa−2〜a−5)
製造例2〜5は、表1に示すように単量体、保護コロイドの種類や量、重合開始剤の種類や量を変える以外は、製造例1と同様にして重合し水性エマルションa−2〜a−5を得た。
【0034】
製造例6(水性エマルションh−1)
保護コロイド(a)および油溶性重合開始剤を使用しなかった以外は、製造例1と同様にして重合し、水性エマルションh−1を得た。
【0035】
製造例7(水性エマルションh−2)
保護コロイド(a)および(b)に界面活性剤ラテムルE−118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、花王(株)製、25%水溶液)を追加した以外は製造例2と同様にして重合し、水性エマルションh−2を得た。この例ではポリマー粒子の平均粒子径が0.6μm未満となる。
【0036】
製造例8(水性エマルションh−3)
保護コロイド(a)、酸基含有単量体(B)、水酸基含有単量体(C)および油溶性重合開始剤を使用しなかった以外は、製造例1と同様にして水性エマルションh−3を得た。
【0037】

【0038】
表1に記載の保護コロイド(a)、(b)および界面活性剤の詳細を以下に示す。表1に記載の保護コロイド(a)、(b)の数値は純分の質量部であり、界面活性剤は、見掛けの質量部である。
保護コロイド(a)
・PS−5:(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量5〜10万、20%水溶液、東ソー(株)製)
・PS−50:(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量40〜60万、20%水溶液、東ソー(株)製)
・PS−100:(ポリスチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー、分子量80〜120万、20%水溶液、東ソー(株)製)
【0039】
保護コロイド(b)
・PVA−105:(ポリビニルアルコール、重合度500、ケン化度98.5モル%、(株)クラレ製)
・PVA−205:(ポリビニルアルコール、重合度500、ケン化度88.0モル%、(株)クラレ製)
・RS−1713:(ポリビニルアルコール、重合度1,300、ケン化度93.0モル%、(株)クラレ製)
・KL−318:(ポリビニルアルコール、重合度1,800、ケン化度87.5モル%、(株)クラレ製)
界面活性剤
・ラテムルE−118B:(ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、25%水溶液、花王(株)製)
【0040】
実施例1
実施例1は、製造例1で得られた水性エマルションa−1の114.8部(固形分換算で57.4部)に、25%濃度に溶解したPVA−217(ポリビニルアルコール、重合度1,700、ケン化度88.5%、(株)クラレ製)12部(固形分換算で3部)、炭酸カルシウム(SL−700、竹原化学工業(株)製)39.6部を配合して、水で調整して固形分60%、粘度10,000mPa・sなる主剤を得、該主剤166.7部(固形分換算100部)に架橋剤としてのポリメリックMDI(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名ミリオネートMR−100)15部を添加してよく撹拌して得られた水性エマルション接着剤である。
粘度安定性試験では、架橋剤添加後60分後の粘度が、添加直後の粘度の2倍以内であり、圧縮せん断接着強さ測定(常態)では、JIS K6806に規定されている981N/cm2以上であり、何れも良好であった。低温初期接着性も同様に良好であった。結果は表2に示す。
【0041】
実施例2
実施例2は、製造例2で得られた水性エマルションa−2を使用して、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。試験結果は良好であった。結果は表2に示す。
【0042】
実施例3
実施例3は、製造例3で得られた水性エマルションa−3を使用して、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。試験結果は良好であった。結果は表2に示す。
【0043】
実施例4
実施例4は、製造例4で得られた水性エマルションa−4を使用して、表2で示すように水性エマルションの量、PVAの種類および量、充填材の種類と量を変えて、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。試験結果は良好であった。結果は表2に示す。
【0044】
実施例5
実施例5は、製造例5で得られた水性エマルションa−5を使用して、表2で示すように水性エマルションの量、PVAの量、充填材の種類と量を変えて、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。試験結果は良好であった。結果は表2に示す。
【0045】
比較例1
比較例1は、製造例6の水性エマルションh−1を使用したが、水性エマルションh−1の製造時に多量のグリットが発生した。水性エマルションh−1を使用し、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。常態接着性、低温初期接着性が不十分であった。結果は表2に示す。
【0046】
比較例2
比較例2は、製造例7で得られた保護コロイドに界面活性剤を追加使用した水性エマルションh−2を使用して、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。試験結果は、製造安定性は良好であったが、ポットライフが悪く、60分後の粘度が2倍を超え不合格となり、それ以降の試験は中止した。結果は表2に示す。
【0047】
比較例3
比較例3は、製造例8の水性エマルションh−3を使用したが、水性エマルションh−3の製造時に多量のグリットが発生した。水性エマルションh−3を使用し、実施例1と同様に配合して水性エマルション接着剤を得た。常態接着性および低温初期接着性が不十分であった。結果は表2に示す。
【0048】

【0049】
表2に記載のポリビニルアルコール、充填材およびイソシアネートの詳細を以下に示す。
ポリビニルアルコール
・PVA−217:重合度1,700、ケン化度88.5モル%、(株)クラレ製
・PVA−617:重合度1,700、ケン化度95.0モル%、(株)クラレ製
充填材
・SL−700:炭酸カルシウム、竹原化学工業(株)製
・NS♯100:炭酸カルシウム、日東粉化工業(株)製
イソシアネート
・MR−100:ポリメリックMDI、ミリオネートMR−100、日本ポリウレタン工業(株)製
【0050】
試験方法
1.水性エマルション製造安定性
水性エマルションを重合反応後100g採取し、金属性の網(200メッシュ)にて、濾過をする。その残渣物を水洗浄後、乾燥し、質量を測定する。
○:残渣量が500ppm以内
×:残渣量が500ppmを超える
【0051】
2.ポットライフ
ポットライフは、可使時間の長短の目安として架橋剤添加後60分後の粘度上昇で判定する。架橋剤添加後60分後の粘度が添加直後の2倍以内であれば、作業性において大きな問題はない。測定方法は、上記の主剤166.7部(固形分換算で100部)に対して、架橋剤としてのミリオネートMR−100を15部添加し、700rpmで1分間十分に攪拌した直後の粘度(B型粘時計)を測定し、さらに30℃の雰囲気中に60分間放置後の粘度を測定する。
○:初期の粘度の2倍以内
×:初期の粘度の2倍を超える
【0052】
3.常態接着性
上記の主剤166.7部(固形分換算で100部)に対し、架橋剤としてのミリオネートMR−100を15部添加し、よく混合してからカバ材を用いてJIS K6806水性高分子−イソシアネート系木材接着剤に準じて接着し、常態の圧縮せん断接着強さをテクノグラフ引張圧縮試験機(TG−50kN:ミネベア(株)製)にて測定する。
【0053】
4.低温初期接着性
試料片、主剤、架橋剤をともに5℃×20%RH雰囲気下に48時間放置する。5℃×20%RH雰囲気下で、上記の主剤166.7部(固形分換算で100部)に対し、架橋剤としてのミリオネートMR−100を15部添加し、よく混合する。カバ材の片面に125±25g/m2の割合で均等に塗り、材軸に平衡に両側面を密着させ、981〜1471kPaの圧力で締め付けたまま、5℃×20%RHにて30分間静置後、除圧する。除圧した後、直ちに23℃×50%RH雰囲気下で圧縮せん断接着強さを測定する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の接着剤は、低温初期接着性、常態接着性、ポットライフおよび製造安定性に優れた水性エマルション接着剤であり、集成木、家具などの木工用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンスルホン酸のアミン、アンモニアまたは一価金属の塩の重合体(a)およびポリビニルアルコール(b)を保護コロイドとして、単量体が重合開始剤で重合された水性エマルションであって、そのエマルションの平均粒子径が0.6〜1.2μmであることを特徴とする水性エマルション。
【請求項2】
単量体が、酸基不含単量体(A)80〜99.0質量%と、酸基含有単量体(B)0.5〜10質量%と、単量体(A)および(B)以外の水酸基含有単量体(C)0.5〜10質量%とを含む単量体混合物である請求項1に記載の水性エマルション。
【請求項3】
重合開始剤の使用量が、全単量体100質量部当たり0.06〜6質量部であり、上記重合開始剤として水溶性重合開始剤と油溶性重合開始剤とが併用され、上記水溶性重合開始剤の使用量が全単量体100質量部当たり0.01〜3質量部であり、上記油溶性重合開始剤の使用量が全単量体100質量部当たり0.05〜3質量部である請求項1または2に記載の水性エマルション。
【請求項4】
界面活性剤を含まない請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性エマルション。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性エマルションが、さらにポリビニルアルコール水溶液(α)、充填材(β)および多価イソシアネート化合物(γ)を含むことを特徴とする水性エマルション接着剤。

【公開番号】特開2009−84505(P2009−84505A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258579(P2007−258579)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】