説明

水性ガスシフト反応触媒とこれを用いる水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法

【課題】300℃以下の低温域において、高いシフト反応活性を有し、すぐれた耐久性を有すると共に、メタネーション反応の抑制された水性ガスシフト反応触媒と、このような触媒を用いる水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、チタニア又はチタニアを含有する金属酸化物からなる担体に白金、レニウム及び硫黄を担持させてなることを特徴とする水性ガスシフト反応触媒が提供される。このような触媒において、白金の担持量は0.05〜5重量%の範囲であり、レニウムの担持量は0.01〜5重量%の範囲であり、硫黄の担持量は0.01〜2重量%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ガスシフト反応触媒とこれを用いる水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法に関し、詳しくは、特に、低温域において高いシフト反応活性を有し、すぐれた耐久性を有すると共に、メタネーション反応の抑制された水性ガスシフト反応触媒と、このような触媒を用いて、水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の燃料電池のなかでも、近年、50〜100℃の温度で作動する固体高分子形燃料電池が次世代の燃料電池発電システムとして注目を集めており、自動車、小型発電機、家庭用コージェネレーション機器等への応用が期待されている。このような固体高分子形燃料電池は、アノードに水素(燃料)を供給し、カソードに酸素又は空気(酸化剤)を供給して、固体高分子電解質を介して反応させ、電流を得るものであり、電極触媒として、アノードとカソードのいずれにも白金黒やカーボンに白金や白金合金を担持させたものが用いられている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池における燃料水素としては、通常、天然ガス、LPG、ナフサ、ガソリン、灯油、メタノール、ジメチルエーテル等の炭素系燃料を水蒸気との反応、即ち、水蒸気改質反応によって得られる水素、所謂改質ガスが用いられるが、この水蒸気改質反応においては、一酸化炭素が副生物として生成して、これが改質ガス中に10〜15%程度含まれている。しかし、固体高分子形燃料電池は、上記白金や白金合金を用いた電極触媒が少量の一酸化炭素によっても容易に被毒されて、電池性能が著しく低下するので、改質ガスを固体高分子形燃料電池の燃料として用いるには、改質ガス中の一酸化炭素濃度を10ppm以下まで低減する必要がある。
【0004】
そこで、固体高分子形燃料電池に改質ガスを用いる場合、改質ガス中の一酸化炭素を除去するために、通常、水蒸気改質装置の後段において、触媒を用いる水性ガスシフト反応による変成を行って、改質ガス中の一酸化炭素濃度を約1%程度以下まで低減し、更に、このように変成を行った後、改質ガス中に残存する一酸化炭素を酸素との選択的触媒酸化反応によって、約10ppm以下までに低減している。
【0005】
水性ガスシフト反応は次式(1)で表される。
【0006】
CO+H2O → CO2+H2 … (1)
この水性ガスシフト反応は発熱反応である。従って、水素の生成に関しては、平衡論的には、低温で反応を行う方が有利であるが、反面、低温では速度論的には反応速度が小さくなるという問題がある。そこで、従来、この水性ガスシフト反応は、反応速度の大きい高温域で多量の一酸化炭素を二酸化炭素に転化し、続いて、低温域で残りの一酸化炭素を更に低濃度になるように処理する二段階のプロセスで行われることが多く、それぞれ高温シフト反応(HTS)及び低温シフト反応(LTS)と呼ばれている。上記高温シフト反応は、通常、300〜500℃で行われ、従来、代表的にはFe−Cr系触媒が用いられ、上記低温シフト反応は、通常、150〜300℃で行われ、代表的には、Cu−Zn系触媒が用いられている。
【0007】
このように、水性ガスシフト反応の工程を分割してそれぞれ異なる温度で行う理由の一つは、前記低温シフト触媒として用いられているCu−Zn系触媒の耐熱性が低いためである。前述のように、水性ガスシフト反応は発熱反応であるので、一酸化炭素濃度の高い改質ガスを反応させると発熱が大きく、従って、Cu−Zn系触媒を用いれば、銅のシンタリングによって、触媒のシフト反応活性が低下する。そこで、上述したように、高温シフト反応を行った後、Cu−Zn系触媒を用いて低温シフト反応を行って、Cu−Zn系触媒のシンタリングを抑制しているが、しかし、それでも、触媒は、長期的な使用によって、徐々に劣化するので、触媒寿命を考慮して、実際には多量の触媒が用いられており、水素発生装置のコンパクト化を阻害している。
【0008】
一方、前記高温シフト反応触媒であるFe−Cr系触媒は、作動温度域が300〜500℃であって、300℃を下回る温度では、殆ど活性を示さない。また、上記触媒は、酸化された場合には、有毒物質である6価クロムを生成する場合があり、環境規制の観点から、例えば、家庭用燃料電池システムの水素発生装置に使用するのは困難である。
【0009】
上述したように、従来の水性ガスシフト反応に用いられているCu−Zn系触媒やFe−Cr系触媒は多くの問題を有しているので、近年、燃料電池の水素源を得る観点からも、新たな水性ガスシフト反応触媒が種々提案されている。例えば、チタニアやジルコニアに白金を担持させてなる貴金属系触媒が提案されており(特許文献1及び2参照)、このような貴金属系触媒は、500℃程度の高温域から200℃程度の低温域まで、水性ガスシフト反応に活性を有し、また、Cu−Zn系触媒よりも耐酸化性が強く、活性劣化が少ないといわれており、新しいシフト触媒として期待されている。しかし、低温域では高濃度の一酸化炭素との接触によって、貴金属上に一酸化炭素が強く吸着して、活性点が被毒され、本来の触媒性能が発揮されないという問題点がある。
【0010】
そこで、例えば、チタニアに白金と共に0.1〜2重量%の硫黄を担持させて、白金への一酸化炭素の吸着力を弱めることによって、低温域の活性を向上させることが提案されている(特許文献3参照)。しかし、このように、硫黄を担持させたシフト反応触媒は、その製造に際して、又は反応において、水素に富む還元雰囲気で用いた場合、担体に担持させた硫黄分が徐々に硫化水素や二酸化硫黄等として、触媒から脱離して、担体に硫黄を担持させた効果が徐々に消失し、活性が低下するのみならず、担体上の硫黄が下流に脱離して、シフト反応の後段に配置した一酸化炭素の選択的酸化触媒や、更には、燃料電池の電極触媒を被毒して、電池性能を低下させるおそれがある。
【0011】
更に、チタニアに白金と共にレニウム等の金属や金属酸化物を担持させることによって、低温活性を向上させることが提案されている(特許文献4及び5参照)。
【0012】
しかし、従来より知られているこれらの貴金属触媒は、特に、低温域における反応活性が未だ不十分であって、一層の活性の向上が求められており、更には、シフト反応において、望ましくない副反応のメタネーション反応が起こりやすい。このようなメタネーション反応は、例えば、次式(2)で表される。
【0013】
CO+3H2 → CH4+H2O … (2)
このようなメタネーション反応は、水素をその原料であるメタンに戻すものであるから、水素の生成効率を著しく低下させる。
【特許文献1】特願平11−073270号
【特許文献2】国際公開第WO01/003838号パンフレット
【特許文献3】特開2002−224570号公報
【特許文献4】特開2004−000949号公報
【特許文献5】特開2003−251181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の水性ガスシフト反応における上述した種々の問題を解決して、特に、100℃から300℃程度の範囲の低温域を含め、100〜500℃の温度域において、高いシフト反応活性を有すると共に、すぐれた耐久性を有すると共に、更に、望ましくないメタネーション反応の抑制された水性ガスシフト反応触媒を提供することを目的とし、更に、本発明は、そのような触媒を用いて、水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、チタニア又はチタニアを含有する金属酸化物からなる担体に白金、レニウム及び硫黄を担持させてなることを特徴とする水性ガスシフト反応触媒が提供される。
【0016】
好ましい態様によれば、触媒の重量に対する白金の担持量は0.05〜5重量%の範囲であり、レニウムの担持量は0.01〜5重量%の範囲であり、硫黄の担持量は0.01〜2重量%の範囲であり、特に、好ましくは、このような触媒において、白金、レニウム及び硫黄の重量比が1:0.2〜2.5:0.05〜0.5であるものである。
【0017】
また、本発明によれば、上述した触媒に温度100〜500℃、空間速度1000〜5000h-1にて一酸化炭素と水を含有する水素ガスを接触させて、一酸化炭素を二酸化炭素に変換することを特徴とする水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明による水性ガスシフト反応触媒は、チタニア又はチタニアを含有する金属酸化物からなる担体に白金、レニウム及び硫黄を担持させてなり、100〜500℃の範囲の広い温度において高い触媒活性とすぐれた耐久性とを有し、特に、100〜300℃の範囲の低温域においても、高いシフト反応活性を有し、しかも、望ましくないメタネーション反応が抑制されている。更に、本発明による水性ガスシフト反応触媒は、長期間にわたる高温での使用においても、触媒からの硫黄の脱離がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による水性ガスシフト反応触媒は、チタニア又はチタニアを含有する金属酸化物からなる担体に白金、レニウム及び硫黄を担持させてなるものである。
【0020】
担体がチタニアからなるとき、そのようなチタニアは、例えば、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンアルコキシド等のチタン原料を中和、加水分解等して、チタン水酸化物とし、これを濾過、洗浄、乾燥し、焼成することによって得ることができる。また、担体がチタニアを含有する金属酸化物からなるときは、この金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、シリカ−アルミナ、マグネシア、セリア、コージェライト等を用いることができ、このような金属酸化物に、例えば、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンアルコキシド等のチタン原料を含浸し、焼成することによって、チタニアを含有する金属酸化物からなる担体を得ることができる。また、上記金属酸化物にチタニアを混合したり、上記金属酸化物にチタニアをコーティングしたりして得ることができる。上記金属酸化物とチタン水酸化物とを共沈法で得た後、これを濾過、洗浄、乾燥し、焼成することによっても得ることができる。このような担体は、その形状において、何ら限定されるものではないが、通常、多孔質の破砕物、球状物、タブレット、ハニカム等が好ましく用いられる。
【0021】
本発明の水性ガスシフト反応触媒においては、白金は、触媒の重量に基づいて、0.05〜5重量%の範囲で担体に担持されている。白金の担持量が触媒の重量に基づいて0.05重量%よりも少ないときは、シフト反応によって水素中の一酸化炭素を二酸化炭素に転化させる際の触媒活性が十分でないおそれがある。しかし、白金の担持量が触媒の重量に基づいて5重量%を越えても、触媒活性を大幅に向上させることができないのみならず、望ましくないメタネーション反応の活性の増大を引き起こして、水素の生成効率を低下させる。しかも、製造コストの観点からも不利である。白金を担体に担持させるには、例えば、含浸法、イオン交換法、共沈法等、従来より知られている種々の方法によることができる。
【0022】
本発明の水性ガスシフト反応触媒においては、白金に加えて、硫黄とレニウムが担体に担持されており、これによって、従来より知られている触媒に比べて、シフト反応の活性が飛躍的に高く、しかも、望ましくないメタネーション反応が格段に抑制された触媒を得ることができる。
【0023】
本発明によれば、レニウムの担持量は、触媒の重量に基づいて、0.01〜5重量%の範囲である。レニウムの担持量が0.01重量%よりも少ないときは、白金と共にレニウムを担体に担持させることによるシフト反応の触媒活性を十分に高めることができず、他方、レニウムの担持量が5重量%を越えても、シフト反応の触媒活性の更なる向上がみられないのみならず、望ましくないメタネーション反応を促進するおそれがある。また、触媒の製造コストの面からも不利である。
【0024】
本発明によれば、硫黄の担持量は、触媒の重量に基づいて、0.01〜2重量%の範囲である。硫黄の担持量が0.01重量%よりも少ないときは、白金と共に硫黄を担体に担持させることによるシフト反応の触媒活性を十分に高めることができず、他方、硫黄の担持量が2重量%を越えるときは、硫黄の添加による触媒活性の向上がみられないうえに、白金への被毒作用が現れて、触媒活性を却って阻害するおそれさえある。加えて、硫黄の担持量が2重量%を越えるときは、水素リッチの雰囲気下において、硫黄を触媒中に保持することが困難となり、シフト反応の間に硫黄が硫化水素や二酸化硫黄等として経時的に触媒から脱離し、シフト反応の後段の一酸化炭素の選択的酸化触媒や、更には、燃料電池の電極触媒を被毒するおそれもある。
【0025】
本発明による触媒は、担体に白金及びレニウムと共に硫黄を担持させてなるものであるが、長期間にわたる高温での使用においても、触媒からの硫黄の脱離はみられない。
【0026】
特に、本発明によれば、触媒の有する上記白金、レニウム及び硫黄は、その重量比が1:0.5〜0.9:0.1〜0.3にあることが好ましい。
【0027】
本発明において、担体に白金を担持させるには、特に、限定されるものではなく、従来より知られている適宜の方法によればよいが、例えば、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金硝酸等の水溶液を担体に含浸させ、乾燥させた後、400〜600℃の温度で30分間から5時間程度、焼成すればよい。
【0028】
担体にレニウムと硫黄を担持させるにも、従来より知られている方法によればよく、特に、限定されるものではない。従って、担体にレニウムを担持させるには、例えば、過レニウム酸アンモニウム、過レニウム酸、塩化レニウム等のレニウム化合物の水溶液等を担体に含浸させ、乾燥させた後、400〜600℃の温度で30分間から5時間程度、焼成すればよい。別の方法として、担体と酸化レニウムを混合し、これを400〜600℃の温度で30分間から5時間程度、焼成してもよい。また、硫黄を担体に担持させるには、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、チオ尿素、硫酸等の水溶液を担体に含浸させ、乾燥させた後、400〜600℃の温度で30分間から5時間程度、焼成すればよい。
【0029】
本発明による触媒において、白金、レニウム及び硫黄は、どのような形態にて担体に担持されていてもよく、例えば、レニウムは酸化物として、また、硫黄は硫化レニウムとして担持されていてもよい。
【0030】
白金、レニウム及び硫黄を担体に担持させる順序は、何ら限定されるものではなく、また、場合によっては、同時に担持させてもよい。しかし、好ましくは、硫黄、レニウム及び白金の順序で担体に担持させることによって、特に、高い活性を有するシフト反応触媒を得ることができる。
【0031】
本発明による水性ガスシフト反応触媒は、100〜500℃の範囲において、好ましくは、100〜450℃の範囲において、より好ましくは、100〜400℃の範囲において、最も好ましくは、150〜400℃の範囲において、有効な触媒活性を有し、特に、100〜300℃の低温域においても、高いシフト反応活性を有し、改質ガス、即ち、水素ガスと一酸化炭素とを含む混合ガスを水蒸気と共に、上記温度で上記触媒に接触させることによって、副生メタンの生成がなしに、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、低減、除去することができる。水素/一酸化炭素モル比は、通常、1.5〜5の範囲である。上記混合ガスを触媒に接触させる空間速度(GHSV)、即ち、単位時間当たりに触媒層に導入される標準状態の混合ガスの体積F(L/h)を触媒層の体積V(L)で除したF/Vなる値は、通常、1000〜50000h-1の範囲であり、好ましくは、2000〜30000h-1の範囲である。
【実施例】
【0032】
表1に示すように、チタニア担体にそれぞれ所定量の白金、レニウム及び硫黄を担持させた実施例1〜7と比較例1〜4の水性ガスシフト反応触媒はそれぞれ、四塩化チタンに対して所定量の硫酸アンモニウム、過レニウム酸アンモニウム及び塩化白金酸の水溶液をそれぞれ用いて、以下のようにして、調製した。
【0033】
四塩化チタン(TiCl4)250gをイオン交換水750gとゆっくり混合し、四塩化チタン水溶液を調製した。この四塩化チタン水溶液にアンモニア水を滴下して、pHを7として、水酸化チタンを沈殿させた。この沈殿を濾過、水洗した後、乾燥機中、120℃で12時間乾燥させた。このようにして得られた乾燥物に所定量の硫酸アンモニウム水溶液を加え、得られたスラリーをホットプレート上で攪拌しながら、蒸発乾固させ、かくして、得られた固形物を乾燥機中、120℃で12時間乾燥させた後、500℃で3時間焼成して、硫黄を担持させたチタニア担体を得た。
【0034】
次に、このようにして得られた硫黄を担持させたチタニア担体を所定量秤量し、これに所定量の過レニウム酸アンモニウム水溶液を加え、得られたスラリーをホットプレート上で攪拌しながら、蒸発乾固させ、かくして、得られた固形物を乾燥機中、120℃で12時間乾燥させた後、500℃で3時間焼成した。次いで、この焼成物に所定量の塩化白金酸水溶液を加え、同様に、得られたスラリーをホットプレート上で攪拌しながら、蒸発乾固させ、かくして、得られた固形物を乾燥機中、120℃で12時間乾燥させた後、500℃で3時間焼成した。次いで、得られた焼成物を油圧圧縮機を用いて成形した後、粉砕して、0.5〜1.0mmに整粒し、水素気流中、500℃で1時間還元処理して、水性ガスシフト反応触媒を得た。担体における白金、レニウム及び硫黄の各担持量は蛍光X線分析によって求めた。
【0035】
表1に示す実施例1〜7と比較例1〜4の触媒を以下に示す条件下、水性ガスシフト反応における一酸化炭素除去性能を評価した。
【0036】
即ち、触媒を反応管に充填し、これに一酸化炭素8.7容量%、二酸化炭素13.0容量%及び水素78.3容量%からなる混合ガスを空間速度(GHSV)10000h-1の条件で供給した。この混合ガスに水蒸気を水蒸気/一酸化炭素モル比4.6にて加え、上記触媒を所定の温度に加熱して、それぞれ反応を行った。この所定の温度で1時間反応を行った後、反応管の出口からのガスをガスクロマトグラフで分析して、一酸化炭素の減少率を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果から、白金1重量%と共にレニウムと硫黄とをそれぞれ所定量担持させた実施例1〜5の触媒は、白金のみを担持させた比較例1の触媒、白金と硫黄のみを担持させた比較例2の触媒及び白金とレニウムのみを担持させた比較例3の触媒のいずれに比べても、特に、低温域において、高いシフト反応活性を有している。特に、白金1重量%、レニウム0.7重量%及び硫黄0.2重量%担持させた実施例2の触媒が最も高い一酸化炭素除去率を有している。また、白金0.5重量%、レニウム0.7重量%及び硫黄0.2重量%担持させた実施例6の触媒は、白金担持量1重量%の比較例1〜4のいずれの触媒に比べても、白金担持量が少ないにもかかわらず、高い活性を有している。更に、白金2.0重量%、レニウム0.7重量%及び硫黄0.2重量%担持させた実施例7の触媒は、実施例2の触媒よりも一層高い低温活性を有している。
【0039】
尚、実施例の触媒を用いる上述した反応条件下では、300℃以上の反応温度で一酸化炭素の二酸化炭素への転化は平衡状態に達しており、比較例の触媒を用いる上述した反応条件下では、350℃以上の反応温度で一酸化炭素の二酸化炭素への転化は平衡状態に達している。
【0040】
また、表1に反応温度350℃におけるメタンの副生量を示すように、白金のみを担持させた比較例1の触媒では、メタンの生成量が3500ppmにも達するのに対して、本発明に従って、白金と共にレニウムと硫黄を担持させた触媒によれば、メタン生成量を大幅に低減させることができる。特に、白金担持量1.0重量%、レニウム担持量0.7重量%及び硫黄担持量0.2重量%以上の実施例2及び3の触媒によれば、低温活性にすぐれ、他方、メタンは全く生成しない。他方、白金と共にレニウムと硫黄のいずれかのみを担持させた比較例2又は3の触媒によれば、幾分、メタン生成量を低減させることができるが、十分ではない。また、担体にレニウムを過多に担持させたときは、比較例4にみられるように、一酸化炭素除去率が低下し、特に、低温活性が低下すると共に、メタンの生成量が増える。
【0041】
次に、実施例1〜3と比較例1〜3の触媒について、触媒活性の経時変化を測定した。即ち、上記触媒を反応管に充填し、前記混合ガスを空間速度(GHSV)10000h-1の条件で供給し、この混合ガスに水蒸気を水蒸気/一酸化炭素モル比4.6にて加え、上記触媒を加熱し、350℃の温度に50時間又は100時間保持した後、触媒の温度を250℃まで下げて、反応管の出口からのガスを分析して、一酸化炭素除去率を求めた。
【0042】
前述したように、実施例の触媒を用いる上述した反応条件下では、300℃以上の反応温度で一酸化炭素の二酸化炭素への転化は平衡状態に達しており、比較例の触媒を用いる上述した反応条件下では、350℃以上の反応温度で一酸化炭素の二酸化炭素への転化は平衡状態に達しているので、仮に、触媒の劣化が進行していたとしても、見掛け上は、反応の平衡を維持したままであって、一酸化炭素の二酸化炭素への転化率の低下が観察されない虞がある。そこで、各触媒の触媒活性の経時変化の測定において、350℃の温度で反応を行った後、触媒の温度を反応が平衡状態にない温度域である250℃まで下げて、この温度にて一酸化炭素除去率、即ち、一酸化炭素の二酸化炭素への転化率を測定して、触媒活性の調べた。
【0043】
触媒の初期の活性(250℃での一酸化炭素除去率)と共に、上記50時間後及び100時間後の触媒の一酸化炭素除去率を表2に示す。実施例1〜3の触媒によれば、50時間後及び100時間後も、触媒は初期と殆ど同じ活性を有するが、比較例1〜3の触媒では、50時間後及び100時間後の活性の低下が著しい。
【0044】
また、硫化水素ガス検知管を用いて分析した結果、実施例1〜3の触媒を用いる反応においては、硫化水素は全く検出されなかったが、比較例2の触媒を用いる反応においては、硫化水素が約3ppmの濃度で検出された。
【0045】
【表2】

【0046】
このように、触媒成分として、レニウムと硫黄のいずれが欠けても、触媒の活性は経時的に低下する。換言すれば、本発明に従って、担体に白金と共にレニウムと硫黄とを併せて担持させることによって、経時的に耐久性のある触媒を得ることができる。
【0047】
更に、上述したように、触媒を反応管に充填し、前記混合ガスを空間速度(GHSV)10000h-1の条件で供給し、この混合ガスに水蒸気を水蒸気/一酸化炭素重量比4.6にて加え、上記触媒を加熱し、350℃の温度に100時間保持した後、触媒を分析して、触媒の有する硫黄量を調べた。結果を表2に示す。実施例1〜3の触媒では、100時間の反応後も、触媒の硫黄量は変化がない。これに対して、レニウムを担持させず、白金と硫黄のみを担持させた比較例2の触媒によれば、100時間の反応後には、担体に担持させた硫黄量が大幅に低減しており、反応中に担体から脱離したものとみられる。
【0048】
また、実施例2及び比較例2の触媒をそれぞれ水素ガス中で加熱、昇温しながら、反応管の出口ガスを質量分析計を用いて分析する昇温還元法によって水素還元雰囲気下での触媒からの硫黄の脱離挙動を調べた。その結果、実施例2の触媒からは硫化水素(質量数34)は検出されなかったが、比較例2の触媒からは400℃以上の温度で硫化水素が検出されたので、硫黄の脱離が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニア又はチタニアを含有する金属酸化物からなる担体に白金、レニウム及び硫黄を担持させてなることを特徴とする水性ガスシフト反応触媒。
【請求項2】
触媒の重量に対する白金の担持量が0.05〜5重量%の範囲であり、レニウムの担持量が0.01〜5重量%の範囲であり、硫黄の担持量が0.01〜2重量%の範囲である請求項1に記載の水性ガスシフト反応触媒。
【請求項3】
触媒において、白金、レニウム及び硫黄の重量比が1:0.2〜2.5:0.05〜0.5である請求項2に記載の水性ガスシフト反応触媒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の触媒に温度100〜500℃、空間速度1000〜50000h-1にて一酸化炭素と水を含有する水素ガスを接触させて、一酸化炭素を二酸化炭素に変換することを特徴とする水素ガス中の一酸化炭素ガスを除去する方法。



【公開番号】特開2007−29811(P2007−29811A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214015(P2005−214015)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】