説明

水性コーティング材

【課題】水性コーティング材において、酸化亜鉛粒子の添加量を従来よりも低減しても優れた防錆性を有する強靭な塗膜を得ることができ、酸化亜鉛粒子の添加量を従来と同等とした場合には、より多数のカルボキシル基を酸化亜鉛粒子の表面に結合させて、より優れた防錆性を有するより強靭な塗膜を提供する。
【解決手段】水性亜鉛原料とアルカリ原料を混合して反応させ、生成物の不純物を取り除くために水洗して、脱水し、乾燥してから焼成し、粉砕して分級することによって製造された、表面に多数の細かい凹凸を有し比表面積の大きい酸化亜鉛粒子を使用して製造された、塗膜の硬度・付着性・防錆性・耐水性、及び水性コーティング材の貯蔵安定性のいずれの評価項目についても優れている水性コーティング材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分としてなる防錆性を有する水性コーティング材に関するものであり、特に酸化亜鉛粒子の使用量を低減することができる水性コーティング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の表面塗装に用いられる塗料において、環境保護の観点から揮発性有機化合物(VOC)を削減するために、塗料の水性化が進んでいる。また、防錆塗料としても地球環境保全の観点から、従来のクロム系防錆剤や鉛系防錆剤等の有害重金属を含む防錆剤を使用した塗料からの脱却が要請されている。このような有害重金属を含む防錆剤を使用しないで防錆性を有する水性塗料の一例として、特許文献1に記載された水性塗料組成物の発明がある。
【0003】
この特許文献1においては、水性アルキド樹脂及び水性エポキシエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の水性樹脂50〜100重量部、水性アクリル樹脂0〜50重量部及び水性メラミン樹脂0〜30重量部からなる皮膜形成性樹脂成分の合計量100重量部に対して、亜鉛化合物及びモリブデン酸化合物から選ばれる少なくとも1種のノンクロム防錆顔料0〜50重量部及びカルシウムイオン交換された非晶質シリカ微粒子5〜50重量部を含有する水性塗料組成物の発明について開示している。これによって、有害重金属を含む防錆剤を使用しなくても、アルミニウムメッキ鋼板上で防食性に優れた塗膜を形成できる水性塗料を提供できるとしている。
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、形成される塗膜が強靭でないため、防食性に優れていても、剥がれ易く、また傷付き易いという欠点があった。そこで注目されたのが、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを含有する塗料において、カルボキシル基が酸化亜鉛粒子と反応することによって三次元構造を形成して、強靭な塗膜を形成するという事実である。
【0005】
このようなカルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを含有する塗料の一例として、特許文献2に記載された防錆塗料の発明がある。この発明においては、粒子径が20nm以上50nm以下である酸化金属粒子と、アクリル系樹脂と、シランカップリング剤とを含有することによって、鏡膜の金属光沢を維持でき、かつ、プラスチック素材との付着性の高い防錆塗料が得られるとしている。
【特許文献1】特開平11−241048号公報
【特許文献2】特開2006−291014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術においては、鏡膜の金属光沢を維持するとともに透明性を確保する目的で、粒子径(算術平均によって算出した平均粒子径)が20nm以上50nm以下という非常に微細な酸化金属粒子を使用しているために、製造コストが大幅にアップするとともに、厚膜を形成することが困難であるため傷付き易く、強靭な塗膜を得ることができない。これに対して、粒子径(レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した平均粒子径)が0.1μm〜1μm程度の酸化亜鉛粒子を使用した場合には、カルボキシル基が酸化亜鉛粒子と反応するための面積を増やすために、酸化亜鉛粒子の添加量を多くしなければならず、やはりコストアップしてしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分とする水性コーティング材において、酸化亜鉛粒子の添加量を従来よりも低減しても優れた防錆性を有する強靭な塗膜を得ることができ、酸化亜鉛粒子の添加量を従来と同等とした場合には、より多数のカルボキシル基を酸化亜鉛粒子の表面に結合させて、より優れた防錆性を有するより強靭な塗膜を得ることができる水性コーティング材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る水性コーティング材は、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と、酸化亜鉛粒子と、溶媒としての水と、顔料とを含有する水性コーティング材であって、前記酸化亜鉛粒子の比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内であるものである。
【0009】
ここで、「カルボキシル基を有する有機合成樹脂」としては、エポキシエステル樹脂、アクリル樹脂(メタクリル樹脂も含む)、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、これらのエマルジョン、を始めとして、種々の有機合成樹脂を用いることができる。また、「顔料」としては、着色顔料としてのカーボンブラック等、体質顔料としてのタルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、珪藻土、クレー、マイカ等を用いることができる。
【0010】
請求項2の発明に係る水性コーティング材は、請求項1の構成において、前記カルボキシル基を有する有機合成樹脂はエポキシエステル樹脂、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂であるものである。
【0011】
請求項3の発明に係る水性コーティング材は、請求項1または請求項2の構成において、更にプロピレングリコール・ジエチレングリコール・ブチルセロソルブ等のグリコール類またはトリエチルアミン・ジメチルエタノールアミン等のアミン類を含有するものである。
【0012】
ここで、「グリコール類」としては、プロピレングリコール・ジエチレングリコール・ブチルセロソルブを始めとして、プロピレングリコールモノエーテル・ジエチレングリコールモノエーテル・プロピレングリコールエーテルアセテート・ジエチレングリコールエーテルアセテート、等を用いることができる。また、「アミン類」としては、トリエチルアミン・ジメチルエタノールアミンを始めとして、アンモニア水溶液等を用いることができる。
【0013】
請求項4の発明に係る水性コーティング材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、更に初期錆防止剤を含有するものである。ここで、「初期錆防止剤」としては、脂肪族酸、アルカノールアミン、カルボン酸−アミン複合体、等を用いることができる。
【0014】
請求項5の発明に係る水性コーティング材は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記水性コーティング材中における前記カルボキシル基を有する有機合成樹脂の含有量が40重量%〜70重量%の範囲内であり、前記酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%〜10重量%の範囲内であり、前記溶媒としての水の含有量が5重量%〜20重量%の範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る水性コーティング材は、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と、酸化亜鉛粒子と、溶媒としての水と、顔料とを含有する水性コーティング材であって、酸化亜鉛粒子の比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内である。
【0016】
本発明者らは、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分とする水性コーティング材において、酸化亜鉛粒子の比表面積の適切な値について、鋭意実験研究を重ねた結果、酸化亜鉛粒子の比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内である場合に、酸化亜鉛粒子の添加量を低減してコストダウンしつつ、より強靭な塗膜を形成できる防錆性の水性コーティング材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0017】
すなわち、酸化亜鉛粒子の比表面積が20m2 /g未満であると、カルボキシル基を有する有機合成樹脂のカルボキシル基の反応点が少な過ぎて3次元構造を有する強靭な塗膜を得ることができない。一方、酸化亜鉛粒子の比表面積が60m2 /gを超えると、酸化亜鉛粒子の製造が難しくなって却ってコストアップになるとともに、均一に分散させることが困難になるためである。
【0018】
これに対して、酸化亜鉛粒子の比表面積を20m2 /g〜60m2 /gの範囲内とすることによって、比表面積の大きい酸化亜鉛粒子を容易に製造・入手することができ、カルボキシル基の反応点が多くなることによってより多数のカルボキシル基を酸化亜鉛粒子の表面に結合させることができるため、酸化亜鉛粒子の添加量を低減してコストダウンすることができる。
【0019】
このようにして、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分とする水性コーティング材において、酸化亜鉛粒子の添加量を従来よりも低減しても優れた防錆性を有する強靭な塗膜を得ることができ、酸化亜鉛粒子の添加量を従来と同等とした場合には、より多数のカルボキシル基を酸化亜鉛粒子の表面に結合させて、より優れた防錆性を有するより強靭な塗膜を得ることができる水性コーティング材となる。
【0020】
請求項2の発明に係る水性コーティング材においては、カルボキシル基を有する有機合成樹脂がエポキシエステル樹脂、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂である。
【0021】
本発明者らは、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分とする水性コーティング材において、カルボキシル基を有する有機合成樹脂の適切な種類について、鋭意実験研究を重ねた結果、エポキシエステル樹脂、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂を用いた場合に、より確実に、酸化亜鉛粒子の添加量を低減してコストダウンしつつ、より強靭な塗膜を形成できる防錆性の水性コーティング材が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0022】
請求項3の発明に係る水性コーティング材においては、更にプロピレングリコール・ジエチレングリコール・ブチルセロソルブ等のグリコール類またはトリエチルアミン・ジメチルエタノールアミン等のアミン類を含有する。
【0023】
ここで、「グリコール類」としては、プロピレングリコール・ジエチレングリコール・ブチルセロソルブを始めとして、プロピレングリコールモノエーテル・ジエチレングリコールモノエーテル・プロピレングリコールエーテルアセテート・ジエチレングリコールエーテルアセテート、等を用いることができる。また、「アミン類」としては、トリエチルアミン・ジメチルエタノールアミンを始めとして、アンモニア水溶液等を用いることができる。
【0024】
更にグリコール類またはアミン類を含有させることによって、より確実に、酸化亜鉛粒子の添加量を低減してコストダウンしつつ、より強靭な塗膜を形成できる防錆性の水性コーティング材を得ることができる。
【0025】
請求項4の発明に係る水性コーティング材においては、更に初期錆防止剤を含有する。ここで、「初期錆防止剤」としては、脂肪族酸、アルカノールアミン、カルボン酸−アミン複合体、等を用いることができる。
【0026】
更に初期錆防止剤を含有させることによって、より確実に、酸化亜鉛粒子の添加量を低減してコストダウンしつつ、より強靭な塗膜を形成できる防錆性の水性コーティング材を得ることができる。
【0027】
請求項5の発明に係る水性コーティング材においては、水性コーティング材中におけるカルボキシル基を有する有機合成樹脂の含有量が40重量%〜70重量%の範囲内であり、酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%〜10重量%の範囲内であり、溶媒としての水の含有量が5重量%〜20重量%の範囲内である。
【0028】
カルボキシル基を有する有機合成樹脂の含有量が40重量%未満であると樹脂分が少なくなって水性コーティング材としての付着性が低下し、一方70重量%を超えると酸化亜鉛粒子の含有量が少なくなって酸化亜鉛粒子による塗膜性能効果(強靭な塗膜を形成する効果)が小さ過ぎて実用性がなくなる。したがって、カルボキシル基を有する有機合成樹脂の含有量は40重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
また、酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%未満であると酸化亜鉛粒子による塗膜性能効果(強靭な塗膜を形成する効果)が小さ過ぎて実用性がなくなり、一方10重量%を超えると樹脂分が少なくなって水性コーティング材としての付着性が低下する。したがって、酸化亜鉛粒子の含有量は3重量%〜10重量%の範囲内であることが好ましい。
【0030】
更に、溶媒としての水の含有量が5重量%未満であると水性コーティング材として均一に分散することが困難になり、また粘度が高くなって作業性が悪くなり、一方20重量%を超えると水分が多過ぎて、やはり作業性が悪くなる。したがって、溶媒としての水の含有量は5重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施の形態に係る水性コーティング材の製造方法について、図1を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る水性コーティング材の製造方法及び塗膜性能の試験方法を示すフローチャートである。
【0032】
本実施の形態に係る水性コーティング材においては、「着色顔料」としてカーボンブラック、「体質顔料」としてタルク、「初期錆防止剤」としてカルボン酸・アミン複合体を用いた。また、「カルボキシル基を有する有機合成樹脂」としては、エポキシエステル樹脂、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂を用いた。
【0033】
そして、「酸化亜鉛粒子」として、比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内であり、粒子径(レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した平均粒子径)が0.1μm〜1μmの範囲内である酸化亜鉛粒子を用いた。この酸化亜鉛粒子の製造方法は、まず水性亜鉛原料とアルカリ原料を混合して反応させ、次に生成物の不純物を取り除くために水洗する。そして、脱水し、乾燥してから焼成し、粉砕して分級することによって、表面に多数の細かい凹凸を有し、レーザ回折式粒度分布測定装置によって測定した平均粒子径が0.1μm〜1μmの範囲内であり、比表面積の大きい酸化亜鉛粒子を得ることができる。
【0034】
これに溶媒としての水を加えて、実施例1乃至実施例6までの6種類の水性コーティング材を作製した。また、更にアミンとしてのトリエチルアミンを加えて、実施例7の水性コーティング材を作製した。
【0035】
更に、比較のために、通常の比表面積を有する、二種類の酸化亜鉛粒子(酸化亜鉛A,酸化亜鉛B)を用いた水性コーティング材をも同様に製造して、その特性を評価した。本実施の形態に係る水性コーティング材に用いられる酸化亜鉛粒子(比表面積大)と、酸化亜鉛A,酸化亜鉛Bの物性値を、表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
ここで、粒子径はレーザ回折式粒度分布測定装置によって測定された平均粒子径の値であり、比表面積は気体吸着法(BET法)で測定された値である。これらのうち、比表面積の大きい酸化亜鉛粒子を用いて製造される、本実施の形態に係る実施例1乃至実施例7までの7種類の水性コーティング材の成分と配合を、表2の上段に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
また、比較のために、酸化亜鉛Aまたは酸化亜鉛Bを用いて製造される、比較例1乃至比較例10までの10種類の水性コーティング材の成分と配合を、表3の上段に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
ここで、カルボキシル基を有する有機合成樹脂として、具体的には、樹脂Aとしてエポキシエステル樹脂である大日本インキ工業(株)製のウォーターゾールEFD5501を使用し、樹脂Bとしてアクリル樹脂エマルジョンである大日本インキ工業(株)製のボンコートEC740EFを使用し、樹脂Cとしてウレタン樹脂である第一工業製薬(株)製のスーパーフレックス(登録商標)830を使用し、樹脂Dとしてポリエステル樹脂である東洋紡(株)製のバイロナール(登録商標)MD−1200を使用した。
【0042】
水性コーティング材の製造方法としては、図1に示されるように、まずカルボキシル基を有する有機合成樹脂の半量と、溶媒としての水の半量、着色顔料としてのカーボンブラック、体質顔料としてのタルク、酸化亜鉛粒子、消泡剤及び初期錆防止剤を配合し、ディスパーで30分間混合して(ステップS10)、サンドミルで1.5時間練肉し(ステップS11)、その後カルボキシル基を有する有機合成樹脂と水の残量を加えて、30分間攪拌を行って(ステップS12)、作製した。
【0043】
このようにして製造された実施例1乃至実施例7までの7種類の水性コーティング材、及び比較例1乃至比較例10までの10種類の水性コーティング材の特性評価を、図1に示されるようにして実施した。すなわち、未処理軟鋼板(SPCC−SD)を溶剤洗浄して脱脂し(ステップS13)、水性コーティング材を鋼板表面に20μm〜25μmの膜厚になるようにエアスプレーによって塗装し(ステップS14)、60℃で20分間乾燥して(ステップS15)、20℃で7日間養生して(ステップS16)、供試体3を作製した。この供試体3を用いて、特性評価を実施し(ステップS17)、塗膜性能を評価した。
【0044】
評価項目としては、硬度・付着性・防錆性・耐水性・貯蔵安定性を対象として実施した。まず、塗膜の硬度については、JIS−K5600−5−4に準じて評価した。すなわち、いわゆる鉛筆硬度測定装置を用いて、鉛筆硬度を測定した。また、塗膜の付着性については、JIS−K5600−5−6に準じて評価した。すなわち、供試体の塗膜面にカッターナイフで縦横に1mm間隔で各11本の切り込みを入れて、合計100個の1mm×1mmの桝目を形成した。そして、粘着性セロハンテープをこれら100個の桝目の上から貼り付けて一気に剥がし、剥離した桝目の個数を数えた。剥離した桝目の個数がゼロであるものを、合格と判定した。
【0045】
更に、塗膜の防錆性については、SST(塩水噴霧試験)によって評価した。具体的には、供試体の塗膜面にカッターナイフでクロスカットを入れ、塩水噴霧試験機を用いて、JIS−Z2371に準じて供試体を塩水噴霧条件下において、240時間後、360時間後、480時間後、600時間後に取り出して、それぞれクロスカットからの片錆巾を測定した。そして、クロスカットからの片錆巾が3.0mm未満であるものを合格と判定した。
【0046】
また、塗膜の耐水性については、40℃の純水に規定時間浸漬した後、上記JIS−K5600−5−6に準じて塗膜に100個の桝目を形成し、セロハンテープによる剥離試験を行って評価した。更に、水性コーティング材の貯蔵安定性については、製造した水性コーティング材を20℃で90日間静置して、塗料性状の変化を観察して評価した。そして、塗料性状の変化のないものを○、若干の変化のあるものを△、塗料性状に異常のあるものを×と判定した。
【0047】
その結果、塗膜の硬度については、表2の下段に示されるように、実施例1,実施例3乃至実施例7のいずれも鉛筆硬度がFであり、水性コーティング材を塗布してなる塗膜としては十分な硬度を有していることが分かった。これに対して、表3の下段に示されるように、比較例1乃至比較例10のいずれも鉛筆硬度がHBであり、実施例1,実施例3乃至実施例7の水性コーティング材を塗布してなる塗膜に比較して、硬度において劣っていることが明らかになった。
【0048】
更に、実施例2については、酸化亜鉛の添加量が4重量部と少ないにも関わらず鉛筆硬度がHBであり、比較例1乃至比較例10と同等の硬度を有していることが明らかになった。
【0049】
また、塗膜の付着性については、表2の下段及び表3の下段に示されるように、実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例10のいずれも合格の判定であり、実施例と比較例で差がないことが判明した。
【0050】
更に、塗膜の防錆性については、表2の下段に示されるように、SST(塩水噴霧試験)において、実施例1,実施例3,実施例7が600時間まで合格であり、実施例2が480時間まで合格であり、実施例4,実施例5,実施例6が360時間まで合格で、いずれも優れた防錆性を有することを示した。これに対して、表3の下段に示されるように、比較例1乃至比較例4については480時間まで合格であり、実施例1乃至実施例7と同等程度の防錆性を示したが、比較例5乃至比較例10については240時間まで合格で、実施例1乃至実施例7と比較してやや防錆性に劣ることが明らかになった。
【0051】
また、塗膜の耐水性については、表2の下段及び表3の下段に示されるように、実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例10のいずれも240時間合格の判定であり、実施例と比較例で差がないことが判明した。
【0052】
更に、水性コーティング材の貯蔵安定性については、表2の下段に示されるように、実施例1乃至実施例7のいずれも○の判定であり、優れた貯蔵安定性を有することを示した。これに対して、表3の下段に示されるように、比較例1乃至比較例4及び比較例6については○の判定であり、実施例1乃至実施例7と同等の貯蔵安定性を示したが、比較例5及び比較例7乃至比較例10については△または×の判定であり、実施例1乃至実施例7と比較して貯蔵安定性に劣ることが明らかになった。
【0053】
以上の結果を総合すると、本実施の形態に係る実施例1,実施例3乃至実施例7の水性コーティング材及びそれらの水性コーティング材を塗布して得られた塗膜の性能は、比較例1乃至比較例10の水性コーティング材及びそれらの水性コーティング材を塗布して得られた塗膜に比較して、優れていることが明らかになった。
【0054】
また、本実施の形態に係る実施例2の水性コーティング材及びその水性コーティング材を塗布して得られた塗膜の性能は、酸化亜鉛の添加量が4重量部と少ないにも関わらず、比較例1乃至比較例4の水性コーティング材及びそれらの水性コーティング材を塗布して得られた塗膜と同等であり、比較例5乃至比較例10の水性コーティング材及びそれらの水性コーティング材を塗布して得られた塗膜よりも優れていることが明らかになった。
【0055】
このようにして、本実施の形態に係る実施例1乃至実施例7の水性コーティング材においては、カルボキシル基を有する有機合成樹脂と酸化亜鉛粒子とを主成分とする水性コーティング材において、酸化亜鉛粒子の添加量を従来よりも低減しても優れた防錆性を有する強靭な塗膜を得ることができ、酸化亜鉛粒子の添加量を従来と同等とした場合には、より多数のカルボキシル基を酸化亜鉛粒子の表面に結合させて、より優れた防錆性を有するより強靭な塗膜を得ることができる。
【0056】
本実施の形態においては、「比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内である酸化亜鉛粒子」として、水性亜鉛原料とアルカリ原料を混合して反応させ、生成物の不純物を取り除くために水洗して、脱水し、乾燥してから焼成し、粉砕して分級することによって製造された、表面に多数の細かい凹凸を有し比表面積の大きい酸化亜鉛粒子を用いているが、比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内という条件を満たせば、その他の方法で製造された酸化亜鉛粒子を用いることもできる。
【0057】
また、本実施の形態においては、「着色顔料」としてカーボンブラック、「体質顔料」としてタルクを用いた場合について説明したが、「着色顔料」としては、他にも酸化チタン、酸化鉄、等を始めとして様々な化合物を用いることができる。また、「体質顔料」としては、他にも炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、シリカ、珪藻土等を始めとして様々な化合物を用いることができる。
【0058】
本発明を実施するに際しては、水性コーティング材のその他の部分の構成、組成、配合、成分、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態及び各実施例に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る水性コーティング材の製造方法及び塗膜性能の試験方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する有機合成樹脂と、酸化亜鉛粒子と、溶媒としての水と、顔料とを含有する水性コーティング材であって、
前記酸化亜鉛粒子の比表面積が20m2 /g〜60m2 /gの範囲内であることを特徴とする水性コーティング材。
【請求項2】
前記カルボキシル基を有する有機合成樹脂はエポキシエステル樹脂、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水性コーティング材。
【請求項3】
更にプロピレングリコール・ジエチレングリコール・ブチルセロソルブ等のグリコール類またはトリエチルアミン・ジメチルエタノールアミン等のアミン類を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性コーティング材。
【請求項4】
更に初期錆防止剤を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の水性コーティング材。
【請求項5】
前記水性コーティング材中における前記カルボキシル基を有する有機合成樹脂の含有量が40重量%〜70重量%の範囲内であり、前記酸化亜鉛粒子の含有量が3重量%〜10重量%の範囲内であり、前記溶媒としての水の含有量が5重量%〜20重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の水性コーティング材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−191245(P2009−191245A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297706(P2008−297706)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】