説明

水性フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去し、かつスカムの形成を低減させる方法

フルオロポリマー分散液を水酸基型である強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、フッ素系界面活性剤の含量を所定濃度まで低減させ、分散液を陰イオン交換樹脂から分離し、そして陰イオン交換樹脂と接触させる前に、鉄との錯体形成時に少なくとも1018の平衡定数を有するキレート剤の有効量を添加して、第二鉄イオンの錯体を形成することがスカムの形成を防止するようにすることによって、第二鉄イオンを含有する、安定された、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤の含量を低減させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂を用いて水性フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性フルオロポリマー分散液の生成において、分散液中の少量の鉄(第二鉄イオン)が「レッドスカム(red scum)」と呼ばれる汚染問題を引き起こし得ることが長い間認識されてきた。レッドスカムは、分散液の表面に浮遊する不溶性水酸化第二鉄の層を含む分散液に適用される用語である。フルオロポリマーの処方において鉄化合物を加えることにより、または重合もしくはポリマーの処理で使用される金属装置から鉄は分散液中に入り得る。重合されたままの酸性状態で、存在する鉄は可溶性である。しかしながら、細菌の増殖を防ぐために、水酸化アンモニウムまたは水酸化ナトリウムなどの化合物を添加することによって分散液を通常塩基性にする。分散液を塩基性にすると、鉄は不溶性になる。その結果、鉄粒子は分散液の表面に浮遊し、表面上に黄色または赤色の油状浮遊物として現れる。これには数日または数週間を要し得る。0.2ppmほどの少量の鉄が分散液中で目に見える赤色のスカムを生じ、そしてこのようなスカムは美的な問題だけで、分散液のいかなる機能的な性質にも影響を与えるものではない。それにもかかわらず、このスカムを無くすことは産業界でよく行われてきていることである。
【0003】
分散液を真空チューブですくい取ることによってレッドスカムを除去する。これによりいくらかのスカムを除去できるが、すべてのスカムを除去することはできない。加えて、極めて多くの労力を要する。好ましくは、分散液を濃縮する前に鉄に対するキレート剤を添加することによってスカムを除去する。このような試剤としてクエン酸を用いるが、以下の場合にはレッドスカムを防ぐことができない:(1)水酸化アンモニウムの添加後に添加する場合;(2)鉄の濃度が、添加されたクエン酸の量に対して高すぎる場合;または(3)他の存在する化学物質がクエン酸塩と錯体を形成し、鉄と競合する場合。また、PTFE分散液よりもレッドスカムをずっと多く形成し易いFEP分散液に対して特に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がクエン酸よりもより優れたキレート剤であることが見いだされた。FEP分散液におけるスカムの形成は、より多くの末端基の加水分解に起因する、FEPコポリマー中のフッ化物イオン含量のより高い濃度の結果であると思われる。FEP分散液において、フッ化物イオンはキレート剤と錯体を形成し、そしてそれ故に鉄と競合する。クエン酸の代わりにキレート剤としてEDTAを使用すると、クエン酸錯体に対する平衡定数が1011であるのに比してEDTA錯体に対する平衡定数は1026であることによって証明されるようにより強い鉄の錯体形成を生じ、それによりフッ化物イオンにより示される競合をなくす。このような錯体は、分散液に完全に可溶である。
【0004】
ベリー(Berry)の米国特許公報(特許文献1)に記載のように、フッ素系界面活性剤を水性フルオロポリマー分散液の生成において非テロゲン性分散剤として使用する。さらに、セキ(Seki)らの米国特許公報(特許文献2)およびクールズ(Kuhls)の米国特許公報(特許文献3)に教示されるように、これらの高価なフッ素系界面活性剤を、分散液からポリマーを凝固させた後に水相からか、または濃縮前に水性ポリマー分散液においての、いずれかで回収することができる。クールズおよびセキらの両者において教示されるようにフルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を回収する好ましい方法は、イオン交換樹脂への吸着による。特に強塩基性陰イオン交換樹脂が、好ましいフッ素系界面活性剤であるペルフルオロオクタン酸アンモニウム(PFOA)のほぼ定量的な除去に有用であることが見いだされた。水酸基型のイオン交換樹脂が好ましい。しかしながら、フッ素系界面活性剤がイオン交換部位で水酸基イオンを置換し、溶液のpHが増加すると、鉄を含有する分散液についてレッドスカムの形成が観察される。
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,559,752号明細書
【特許文献2】米国特許第3,882,153号明細書
【特許文献3】米国特許第4,282,162号明細書
【特許文献4】米国特許第4,380,618号明細書
【特許文献5】米国特許第3,037,953号明細書
【特許文献6】米国特許第3,704,272号明細書
【特許文献7】米国特許第6,153,688号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1472307A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最終分散液製品中のフッ素系界面活性剤の量を低減させ、かつ水性フルオロポリマー分散液の調製においてレッドスカムの形成を低減させる方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、安定させた、第二鉄イオンを含有する、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤の含量を低減させ、かつレッドスカムの形成を低減させる方法である。本方法は、安定させた、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を水酸基型である強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、フッ素系界面活性剤を所定濃度まで低減させる工程と、この分散液を陰イオン交換樹脂から分離する工程と、陰イオン交換樹脂と接触させる前に、鉄との錯体形成時に少なくとも1018の平衡定数を有するキレート剤の有効量を添加して、第二鉄イオンの錯体を形成することがスカムの形成、すなわち不溶性水酸化第二鉄の形成、を防止するようにする工程とを含む。本方法に使用される好ましいキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその塩であり、そして添加されるEDTAまたはその塩の量は、第二鉄イオンを除去し、かつレッドスカムの形成を避けながら、イオン交換部位に対する、EDTAとフッ素系界面活性剤との競合を最小化するために2〜100ppmの範囲であることが好ましい。本方法は、フッ素系界面活性剤の含量を、好ましくは約300ppm以下の所定濃度に、さらに好ましくは約100ppm以下の所定濃度に、最も好ましくは50ppm以下の所定濃度に低減させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上述したように、細菌の増殖を防ぐためにpHを少なくとも約9に上げるべくアンモニアを添加する前に、クエン酸またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のいずれかで水性フルオロポリマー分散液を処理することにより、レッドスカムの形成を防止することは良く知られている。EDTAまたはクエン酸は、溶液中の第二鉄イオンと錯体形成するキレート剤として作用し、そして目でみえるレッドスカムとして分散液の表面に浮遊する不溶性水酸化第二鉄の形成を防止する。
【0009】
しかしながら、フッ素系界面活性剤を低減させるために水酸基型の強塩基性陰イオン交換樹脂で分散液を処理した場合、アンモニアを添加する直前にキレート剤を添加することは、望ましくない。このように分散液を処理するとアンモニアを添加する前においてもスカムの形成を生じるのに十分にpHを上昇させる可能性がある。
【0010】
本発明によれば、フッ素系界面活性剤の含量を低減させ、かつスカムの形成を防止するために、溶液中で第二鉄イオンの錯体を形成させるべく、安定させた分散液を水酸基型の強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させる前に、キレート剤を添加すべきである。本発明で用いるキレート剤は、鉄との錯体を形成時に少なくとも1018の平衡定数、すなわち、陰イオン交換樹脂のイオン交換部位に対する、キレート剤とフッ素系界面活性剤との競合をなくす強い錯体を形成する、平衡定数を有する。このようにすることで、効率的なフッ素系界面活性剤の低減は妨げられない。好ましいキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはナトリウムおよびカリウムのモノ−、ジ−、トリ−、およびテトラ−塩を含むその塩があげられる。1つの好ましい実施形態において、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩が、食品と接触する表面のコーティング剤としての用途を有する分散液にとって好ましい。
【0011】
さらに本発明の方法によれば、キレート剤は分散液中で第二鉄イオンの錯体を形成するのに十分な有効量で存在するが、実質的に過剰に存在しない。実質的に過剰量のキレート剤は、陰イオン交換樹脂のイオン交換部位に対して競合することによって効果的なフッ素系界面活性剤の低減を妨げる。好ましくは、キレート剤がEDTAまたはその塩である場合、分散液に対してキレート剤を約2〜約100ppm、好ましくは約2〜約50ppmの量で添加する。
【0012】
以下により十分に述べるように、本発明によると、安定させた分散液を陰イオン交換樹脂と接触させることによりフッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤の含量を所定濃度に、好ましくは約300ppm以下の所定濃度に、さらに好ましくは約100ppm以下の所定濃度に、特には約50ppm以下の所定濃度にまで低減させることができる。
【0013】
(フルオロポリマー)
本発明による処理のための安定させた、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液は、分散重合(乳化重合としても知られる)によって製造される。水性フルオロポリマー分散液は、安定させた、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液であり、これは、フッ素系界面活性剤の含量を低減させる際、分散液の凝固を防ぐのに十分な非イオン性界面活性剤を含むことを意味する。以下に、より詳細に説明するように、本発明の方法が用いられる場合に依存して、非イオン性界面活性剤が既に存在していてもよいし、または本発明による処理の前に安定化のために添加されてもよい。濃縮後、水性フルオロポリマー分散液はコーティング組成物または含浸組成物として、およびキャストフィルムを製造するために有用である。
【0014】
フロオロポリマー分散液は、モノマーの少なくとも1個がフッ素を含むモノマーから製造されるポリマーの粒子を含む。本発明で使用される水性分散液の粒子であるフルオロポリマーは独立して、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルエチレンモノマー、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー、フッ化ビニリデン、およびフッ化ビニルのポリマーならびにコポリマーからなる群から選択される。
【0015】
本発明は、分散液のフルオロポリマー成分が溶融加工性でない変性PTFEを含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である場合に特に有用である。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、いかなる有意なコポリマーも存在しないテトラフルオロエチレン単独で重合させたものをいう。変性PTFEは、TFEと、得られるポリマーの融点が実質的にPTFEの融点より低くないような低濃度のコモノマーとのコポリマーをいう。このようなコモノマーの濃度は、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満である。変性PTFEは、ペルフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)(ここでアルキル基は1〜5個の炭素原子を含み、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PAVE)およびペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が好ましい)などの、焼き付け(融着)中のフィルム形成能を改善する少量のコモノマー変性剤を含む。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、またはこの分子に嵩高な側基を導入する他のモノマーもまた含まれる。PTFEは通常、少なくとも1×109Pa・sの溶融クリープ粘度を有する。このように高い溶融粘度は、PTFEが溶融状態では流れず、それ故溶融加工性ではないことを示す。PTFEおよび変性PTFEは分散液形態で販売され、運送用コンテナで運ばれることが多く、本発明の方法をこれらの分散液のフッ素系界面活性剤の含量を低減させるために容易に用いることができる。
【0016】
この分散液のフルオロポリマー成分は溶融加工性であってもよい。溶融加工性とは、ポリマーを溶融状態で加工できる(すなわち、溶融物から意図する目的に有用であるのに十分な強度と耐久性を示すフィルム、繊維および管などの成形物品に製造できる)ことを意味する。このような溶融加工性フルオロポリマーの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)と、コポリマーの融点を実質的にTFEホモポリマー、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、の融点より低く、例えば、315℃以下の融解温度まで低減させるのに十分な量でポリマー中に存在する、少なくとも1個のフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)とのコポリマーを含む。このようなフルオロポリマーとしては、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)またはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)のコポリマーがあげられる。TFEとの好ましいコモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などの3〜8個の炭素原子を有するペルフルオロオレフィン、および/または線状もしくは分岐アルキル基が1〜5個の炭素原子を含むペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)である。好ましいPAVEモノマーは、アルキル基が1個、2個、3個、または4個の炭素原子を含むものであり、そしてこのコポリマーをいくつかのPAVEモノマーを使用して製造することができる。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVE、ここでPAVEがPEVEおよび/またはPPVEであり、ならびにMFA(TFE/PMVE/PAVE、ここでPAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有する)があげられる。特定のコポリマーに対して標準である温度でASTM D−1238法に従って測定して、通常約1〜100g/10分のメルト・フロー速度を有するコポリマーを与えるようにコポリマー中に、ある特定の量のコモノマーを取り込むことによってこの溶融加工性ポリマーを製造する。通常、溶融粘度は、米国特許公報(特許文献4)に記載のように部分変更したASTM D−1238法により372℃で測定した102Pa・s〜約106Pa・s、好ましくは103Pa・s〜約105Pa・sの範囲である。更なる溶融加工性フルオロポリマーは、エチレンまたはプロピレンとTFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFE、およびPCTFEとのコポリマーである。さらに有用なポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびフッ化ビニリデンのコポリマーならびにポリフッ化ビニル(PVF)およびフッ化ビニルのコポリマーのフィルム形成性ポリマーである。
【0017】
(フッ素系界面活性剤)
本方法で低減されるべき、フッ素系界面活性剤含有分散液中のフッ素系界面活性剤は、非テロゲン性、イオン性分散剤であり、水に可溶で、かつイオン親水性基と疎水性部分を含む。好ましくは、疎水性部分は、少なくとも4個の炭素原子を含む脂肪族フルオロアルキル基であり、それらの多くとも1個(そしてその1個は可溶化基に最も近い)を除いてすべては、少なくとも2個のフッ素原子を有し、その末端炭素原子はさらに水素またはフッ素からなる1個の原子を有する。これらのフッ素系界面活性剤は分散のための重合助剤として使用され、そしてそれらは連鎖移動しないので、望ましくない短鎖長のポリマーの生成を生じない。好適なフッ素系界面活性剤の広範囲なリストはべリー(Berry)の米国特許公報(特許文献1)に開示されている。好ましくは、フッ素系界面活性剤は、6〜10個の炭素原子を有する過フッ素化カルボン酸であり、通常は塩の形態で使用される。好適なフッ素系界面活性剤は、ペルフルオロカルボン酸アンモニウムであり、例えばペルフルオロカプリン酸アンモニウムまたはペルフルオロオクタン酸アンモニウムがあげられる。これらのフッ素系界面活性剤は、通常、生成されるポリマー量に対して0.02〜1重量%の量で存在している。
【0018】
(イオン交換樹脂)
本発明の実施のために、水酸基型の強基性陰イオン交換樹脂を用いて、フルオロポリマー分散液からフッ素系界面活性剤を除去する。好適な強塩基性陰イオン交換樹脂は、ポリマーと第4級アンモニウム基の官能基とを含む。強塩基性イオン交換樹脂は、溶媒のpHに対して感度がより低いという利点を有する。塩化物対イオンのイオン交換樹脂よりむしろ水酸基対イオン型のイオン交換樹脂が使用され、それにより最終使用の処理装置に有害となる可能性がある最終分散液製品中の塩化物イオンの存在に対する懸念をなくす。陰イオン交換樹脂を、好ましくはNaOH溶液との接触によりOH-型にする。好適に市販されている水酸基対イオン型のイオン交換樹脂の例としては、以下があげられる:ダウエックス(Dowex)550A、USフィルター(US Filter)A464−OH、USフィルター(US Filter)A244−OH、シブロン(Sybron)M−500−OH、シブロン(Sybron)ASB1−OH、ピュロライト(Purolite)A−500−OH、イトチュー(Itochu)TSA 1200、およびアンバーライト(Amberlite)IR 402。
【0019】
本発明の方法で使用される陰イオン交換樹脂は、好ましくは単分散である。より好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは、ビーズの95%が、プラスまたはマイナス100μmの数平均ビーズ直径以内の直径を有する数平均粒度分布を有する。
【0020】
単分散陰イオン交換樹脂は、その床(bed)を介して好適な圧力低下をもたらす粒度を有する。極めて大きなビーズは脆く、破損しやすい。極めて小さな陰イオン交換ビーズは床中に曲がりくねった流路を生じる緊密粒子充填の影響を受けやすい。これは床中に高剪断状態をもたらす。好ましい陰イオン交換樹脂は、約450〜約800μmの数平均ビーズサイズを有し、より好ましくは、陰イオン交換樹脂ビーズは約550〜700μmの数平均ビーズ直径を有する。
【0021】
(非イオン性界面活性剤)
マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献5)およびホ−ムズ(Holmes)の米国特許公報(特許文献6)の教示によれば、イオン交換処理前にフッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を安定させるために、そしてまたこのような分散液を濃縮するために芳香族アルコールエトキシレートを非イオン性界面活性剤として使用できる。しかしながら、芳香族化合物の起こり得る環境への影響についてのいくらかの懸念のために、好ましい非イオン界面活性剤は、脂肪族アルコールエトキシレートである。好適な非イオン性界面活性剤としては、濃縮中に望ましい曇り点を与え、そして低い焼尽温度、分散液安定性などの分散液における望ましい性質を与える任意の種々の脂肪族アルコールエトキシレートまたはその混合物があげられる。これらの非イオン性界面活性剤組成物の多くは、マークス(Marks)らの米国特許公報(特許文献5)およびミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献7)に開示されている。特に好ましい非イオン性界面活性剤は、式:
R(OCH2CH2nOH
の化合物または化合物の混合物であり、ここでRは8〜18個の炭素原子を有する、分岐アルキル、分岐アルケニル、シクロアルキル、またはシクロアルケニルの炭化水素基であり、nはカバノー(Cavanaugh)の(特許文献8)に開示されるように5〜18の平均値である。
【0022】
(方法)
好ましいポリマーPTFEの水性分散重合の通常の方法は、フッ素系界面活性剤、パラフィンワックスおよび脱イオン水を含む加熱反応器にTFE蒸気を供給する方法である。PTFEの分子量を減らすことが望ましい場合は、連鎖移動剤をまた添加してもよい。フリーラジカル開始剤溶液を加え、そして重合が進むに従い、追加のTFEを加えて圧力を維持する。反応の発熱を反応器ジャケットを介して冷却水を循環させることによって除去する。数時間後、供給を止め、反応器を排気し、窒素でパージし、そして容器中の原分散液を冷却容器に移す。パラフィンワックスを除去し、分散液を単離し、非イオン性界面活性剤で安定させる。このように処理されたフルオロポリマー分散液は、重合および処理で使用される金属装置からか、または触媒などの鉄化合物の添加からかのいずれかからの、または水自体の中の第二鉄イオンの存在のために、いくらかの量の第二鉄イオンを含む。
【0023】
本発明の方法によれば、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を水酸基型の陰イオン交換樹脂と接触させる前に上記の好適なキレート剤の有効量を、安定させた、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液に添加する。このようにして、強く結合した鉄錯体を形成し、スカムの形成を防止し、そしてフッ素系界面活性剤をイオン交換樹脂に強く吸着させることによって除去する。安定させた分散液は通常1〜5%の非イオン性交換樹脂を含有する。
【0024】
イオン交換処理を実施するために分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる任意の種々の技術を使用できる。例えば、この方法を、分散液と樹脂とのスラリーが形成される攪拌タンク中でイオン交換樹脂ビーズを分散液に加えることによって実施でき、次いで濾過によって陰イオン交換樹脂ビーズから分散液を分離する。もう一つの好適な方法は、攪拌タンクを使用する代わりに陰イオン交換樹脂の固定床を介して分散液を通すことである。流れは床を通って上方へ向かうかまたは下方へ向かうかしてもよく、そして樹脂が固定床に残るので別個の分離工程を必要としない。
【0025】
必要に応じて、フッ素系界面活性剤を陰イオン交換樹脂から回収できるか、または環境的に受け入れられる方法、例えば焼却による方法でフッ素系界面活性剤を有する樹脂を処分できる。フッ素系界面活性剤を回収することが望ましい場合、フッ素系界面活性剤を溶離することによって樹脂から除去してもよい。陰イオン交換樹脂に吸着されたフッ素系界面活性剤の溶離は、クールズ(Kuhls)の米国特許公報(特許文献3)に示されるように、希薄鉱酸と有機溶媒との混合物(例えば、HCl/エタノール)によるか、または硫酸および硝酸などの強鉱酸によって、吸着されたフッ素化カルボン酸を溶離液に移動させて容易に達成することができる。溶離液中の高濃度のフッ素系界面活性剤は、酸−沈殿、塩析、または他の濃縮の手法などの一般的な方法によって純酸の形態または塩の形態で容易に回収することができる。
【0026】
イオン交換処理後に、低減させたフッ素系界面活性剤の含量および錯体形成第二鉄イオンを有する水性フルオロポリマー分散液を分散液濃縮操作に移す。分散液を濃縮する前に、分散液中の細菌増殖を防ぐためにアンモニア水溶液または水酸化ナトリウム溶液などの塩基を添加することによって分散液のpHを通常9より高くする。上記キレート剤の効果的な添加により、スカムの形成を防止する。分散液濃縮操作において、マークス(Marks)ら米国特許公報(特許文献5)およびホームズ(Holms)の米国特許公報(特許文献6)に教示されるように非イオン性界面活性剤の補助で分散液を濃縮し、固形分を名目上35重量%から約60重量%に上げる。ミウラ(Miura)らの米国特許公報(特許文献7)には同様の方法が開示されている。選択される非イオン性界面活性剤は、分散液をイオン交換処理用に単離する(ワックス除去後)際に安定化のために選択される界面活性剤が典型的である。
【0027】
本明細書に記載したように、安定させた分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる工程は濃縮前に実施する。これは、低固形分分散液が低粘度を有し、そして処理を容易にするという理由で利点であり得る。本発明の方法は、分散液を水酸基型の陰イオン交換樹脂とを接触させる前にキレート剤を再度加えるという条件で濃縮した安定させた分散液で実施し得る。
【0028】
溶融加工性TFEコポリマーの分散重合は、1種または複数種のコモノマーを初期にバッチに添加すること、および/または重合中に導入することを除いて同様である。加えて、炭化水素などのテロゲンを用いて分子量を制御して意図した目的のためのポリマーの望ましいメルト・フローを達成する。PTFE分散液用に用いる同じ分離濃縮操作をTFEコポリマー分散液に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二鉄イオンを含有する、安定させた、フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液のフッ素系界面活性剤の含量を低減させる方法であって、
前記フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を水酸基型である強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて、フッ素系界面活性剤の含量を所定濃度まで低減させる工程と、
前記フッ素系界面活性剤の含量を低減させた後、前記分散液から前記陰イオン交換樹脂を分離する工程と、
前記陰イオン交換樹脂と接触させる工程の前に、鉄との錯体形成時に少なくとも1018の平衡定数を有するキレート剤の有効量を添加して、第二鉄イオンの錯体を形成することがスカムの形成を防止するようにする工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸またはその塩であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エチレンジアミン四酢酸またはその塩が、前記分散液に約2〜約100ppmの量で添加されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂が、ポリマーと第4級アンモニウム基を含む官能基とを含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる前記工程が、フッ素系界面活性剤の含量を約300ppm以下の所定濃度まで低減させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる前記工程が、フッ素系界面活性剤の含量を約100ppm以下の所定濃度まで低減させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素系界面活性剤含有水性フルオロポリマー分散液を陰イオン交換樹脂と接触させる前記工程が、フッ素系界面活性剤の含量を約50ppm以下の所定濃度まで低減させることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−525592(P2008−525592A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548406(P2007−548406)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/046268
【国際公開番号】WO2006/069109
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】