説明

水性ポリウレタン複合体およびその製造方法

【課題】安価な原料を用いるにもかかわらず、ポリウレタンとシリカが安定に水中に分散している水性ポリウレタン複合体を提供する。
【解決手段】ポリウレタンと、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有する水性ポリウレタン複合体、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリウレタン複合体およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ポリウレタンとシリカとの水性ポリウレタン複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは強靭性と柔軟性を併せもつ有用な高分子であり、フォームとしてはクッションや断熱材などに、また樹脂としては塗料、接着剤、インキ、シーリング材、エラストマーなど多種の分野、用途に利用されている。
【0003】
ポリウレタン樹脂の物性を更に向上させるため、無機化合物を樹脂中に分散させる試みは、従来より数多く行われており、樹脂の機械強度や耐熱性の向上に効果があることが認められている。無機物質の複合化方法としては、無機粉末をロール混練する方法が知られるが、ポリマー鎖の切断などベースとなる樹脂の物性が変化を生じたり、無機粒子の凝集などにより外観上の均一性が損なわれることが多い。このため、樹脂中に無機物質を微粒子として安定に分散、複合化させることが求められていた。この課題を解決するため、例えば、ポリウレタンの有機溶液中でアルコキシシランを加水分解、縮重合させて生成させた微粒子のシリカをポリウレタン中に分散させる方法が知られている(特許文献1)。また、水分散させたポリウレタンにケイ酸塩を添加し、引き続き酸を加えることにより、ポリケイ酸をポリウレタン中に複合化させる方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
一方、ポリウレタン樹脂は、水中に分散させることにより、環境にやさしい、塗料やコーティング材、または接着剤として有用であることが広く知られるようになり最近需要を大きく伸ばしている。このような水分散性のポリウレタンは、例えば、ポリウレタンプレポリマー骨格中に酸性基やアミノ基などの親水性基を導入し、当該自己乳化性ポリウレタンプレポリマーを中和後、水に分散させ、さらにポリアミンで鎖延長させることにより製造される。このような水分散性のポリウレタンの形態を維持しつつ、無機粒子を高分散で導入する方法としては、水分散させた微粒子シリカをポリウレタンの水分散体と混合させる方法(特許文献3)が知られており、接着剤やコーティング材として有用であるとされている。
【0005】
【特許文献1】特許第3613086号公報
【特許文献2】特開2006−183021号公報
【特許文献3】特開2007−75777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、工業用原料として高価なアルコキシシランを用いた有機溶剤系での複合材であり水性材料は知られていない。また、特許文献2では、安価なケイ酸塩を用いているものの、水分散ポリウレタン中でケイ酸塩を酸により中和する際、複合体が沈降するため安定な水分散複合体は得られていない。一方、特許文献3では、安定な水性分散体は得られるものの、コロイダルシリカなどの水分散性微粒子シリカは高価であるため、製品の価格上昇が避けられない。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、安価な原料を用いるにもかかわらず、ポリウレタンとシリカが安定に水中に分散している水性ポリウレタン複合体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、親水基として特定量の酸性基を含有するポリウレタンプレポリマーに、ケイ酸塩を含有する水性溶液を混合させることにより、ケイ酸塩の一部または全部をシリカに転化しながら、酸性基を中和することで、シリカ成分を含有する水性ポリウレタン複合体が容易に得られることを見出し、さらにこの水性ポリウレタン複合体を乾燥させて得たフィルムは、高い引張強度を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、ポリウレタンと、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有することを特徴とする水性ポリウレタン複合体およびその製造方法である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の水性ポリウレタン複合体は、ポリウレタンと、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有するものである。
【0011】
本発明の水性ポリウレタン複合体が含有するポリウレタンは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとポリオール化合物及びカルボン酸やスルホン酸などの酸性基を有するポリオール化合物によって構成されるものであり、ポリウレタンプレポリマーを鎖延長することにより得られるものである。
【0012】
本発明の水性ポリウレタン複合体が含有するシリカは、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるものである。ポリウレタンプレポリマーの酸性基が0.02mmol/g未満の場合は、複合化できるシリカ量が制限され水中での分散性を維持することができない。一方、酸性基が1.0mmol/gを超える場合は、親水基濃度の向上により複合体の耐水性が低下することが問題となる。
【0013】
本発明の水性ポリウレタン複合体が含有するシリカの平均粒子径は特に限定するものではないが、水中での分散安定性の維持と微細化による過度の粘度上昇を避けるため、30〜500nmであることが好ましい。
【0014】
本発明の水性ポリウレタン複合体は、ポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカの他に、非中和のケイ酸塩を含有しても良い。
【0015】
本発明の水性ポリウレタン複合体は、ポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカの他に、非中和の酸性基を含有しても良い。
【0016】
本発明の水性ポリウレタン複合体は、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を混合し、乳化することにより製造することができる。
【0017】
ポリウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応させることにより合成することができる。
【0018】
ポリイソシアネート化合物は特に限定するものではないが、炭化水素骨格中の炭素原子に直接イソシアネート基が2〜4個結合した化合物であり、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等があげられる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、4,4’−ジイソシアナートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナートジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、これらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物等が挙げられる。これらの化合物の中で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。また上記の化合物を2種類以上混合して使用することもできる。また、脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、線状の脂肪族ポリイソシアネートとして、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香脂肪族ポリイソシアネートとして、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物も含まれる。
【0019】
ポリオール化合物は特に限定するものではないが、炭化水素系骨格中の炭素原子に直接ヒドロキシル基が2〜4個結合した化合物である。ポリオール化合物(長鎖ポリオール)としては、例えば、ポリエステルポリオール(a)、ポリエーテルポリオール(b)、ポリカーボネートポリオール(c)、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0020】
ポリエステルポリオール(a)としては、例えば、縮合ポリエステルポリオール(a1)、ポリラクトンポリオール(a2)等が挙げられる。
【0021】
縮合ポリエステルポリオール(a1)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類とコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオールを例示できる。
【0022】
ポリラクトンポリオール(a2)としては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これらの2種以上の混合物の開環重合物等が挙げられ、具体的にはポリカプロラクトンジオールを例示できる。
【0023】
ポリエーテルポリオール(b)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーの1種又は2種以上を付加重合させた反応物が挙げられ、ブロック付加、ランダム付加又は両者の混合系の重合反応物でも良い。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを例示できる。
【0024】
ポリカーボネートポリオール(c)としては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネートとの反応物が挙げられ、具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等を例示できる。
【0025】
また上記の長鎖ポリオールに加えて、短鎖のポリオールを用いても良い。短鎖ポリオールとして特に限定するものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン及びそれらのアルキレンオキシド付加体のポリオール、また多官能成分としてグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール等が挙げられる。
【0026】
さらに上記の長鎖ポリオールおよび短鎖ポリオールに加えて、ポリウレタン中に酸性基を導入するために、例えばカルボキシル基を有するジオールを用いることができる。具体的な化合物は、特に限定するものではないが、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。これらを原料の一部として製造したカルボキシル基含有ポリエステルポリオールも好適に用いることができる。また、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸等によってスルホネート基が導入されたポリエステルポリオールを使用しても良い。
【0027】
これらの酸性基を導入可能なポリオール化合物を用いたポリウレタンプレポリマーへの酸性基の導入量は、通常、ポリウレタンプレポリマー1gあたり0.02〜1.0mmolであることが必要であり、0.05〜0.7mmolの範囲であることが好ましい。0.02mmol/gよりも小さい場合は、分散体を安定に維持することが困難となり、分散体粒子の粗粒化や分離が起きやすく、1.0mmol/gよりも大きい場合は水分散体を乾燥した後のポリウレタンフィルムおよび樹脂の耐水性が低下するおそれがある。
【0028】
本発明において、ポリウレタンプレポリマー調製におけるポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の仕込み比については、特に限定されるものではないが、プレポリマーの高粘度化を防止し、かつ、鎖延長させる際にゲル化を防止するため、イソシアネート基と水酸基がモル比において、イソシアネート基/水酸基=1.03〜1.6であることが好ましい。
【0029】
ポリウレタンプレポリマーの調製条件については、プレポリマーの合成を行う際に反応を均一に進行させるため、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のイソシアネート基に不活性な有機溶剤を添加してもよい。
【0030】
ポリウレタンプレポリマーの合成の温度範囲は特に限定するものではないが、ウレタン化を十分に進行させ、かつ、ポリウレタンプレポリマー溶液の高粘度を防止するため、好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは40〜90℃、特に好ましくは45〜80℃である。
【0031】
適正な反応時間は、反応温度等の条件に依存するが、通常0.1〜10時間反応させることでポリウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0032】
本発明においては、酸性基を分子内に含むポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を混合することにより、ケイ酸塩の一部または全部を酸性基で中和してシリカに転化しながら水性ポリウレタン分散体に複合化させる。
【0033】
使用されるケイ酸塩の水性溶液の種類は、JIS K 1408に記載された水ガラス1号、2号、3号などのAO・nSiOの組成式(式中、Aはアルカリ金属、nの平均値は1.8〜4を示す。)で表されるもの等を挙げることができる。また、nの平均値が0.8〜1.1である、メタ珪酸アルカリ(例えば、メタ珪酸ナトリウム1種、2種)も用いることができる。また、これらを希釈した水溶液を用いることもできる。
【0034】
本発明において、複合化の際に用いるケイ酸塩の水性溶液の濃度は特に限定するものではないが、均一微細にシリカを生成させ、かつ、中和される前に系の水性化が進行して水分散粒子が粗粒化するのを防止するため、ポリウレタンプレポリマー溶液の溶剤の量にもよるが、シリカ分の濃度として、0.1〜20重量%が好ましい。
【0035】
本発明において、複合化の際に用いるケイ酸塩水性溶液のアルカリ金属イオンと、ポリウレタンプレポリマー中の酸性基の当量比は特に限定するものではないが、好ましいフィルム物性を得るため、アルカリ金属イオン/酸性基当量比は、0.5〜1.2が好ましい。
【0036】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を用いて複合化させる際、場合によっては強固なゲル状物が生成することがある。その場合には、ゲルを破砕し反応を進行させるために高いせん断力を持つミキサーを用いることが好ましい。
【0037】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を用いて複合化させる際、どちらを添加する形態にしても良い。即ち、ポリウレタンプレポリマーにケイ酸塩の水性溶液を添加しても、またその逆に攪拌中のケイ酸塩の水性溶液にポリウレタンプレポリマーを添加しても、ともに水性ポリウレタン複合体を得ることができる。
【0038】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を反応複合化させた後、乳化し、ポリウレタンプレポリマー中の末端イソシアネート基を用いて鎖延長すなわち高分子量化させることができる。鎖延長は、1級または2級のアミノ基を分子内に2つ以上有するポリアミン化合物を用いてウレア結合を形成させても良いし、水分子によりイソシアネート基を加水分解させた後、脱炭酸によるアミノ基生成を経由してウレア結合を形成させても良い。
【0039】
本発明において、鎖延長に用いられるポリアミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、炭酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0040】
本発明において、水性ポリウレタン複合体が有機溶剤を含有する場合は、減圧下、30℃〜80℃で有機溶剤を除去することにより、水性ポリウレタン複合体を得ることができる。
【0041】
本発明において、水性ポリウレタン複合体の製造には、乳化剤を使用することもできる。本発明で使用可能な乳化剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル型、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレート型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ソルビタン誘導体型、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル型等のノニオン系乳化剤、アルキル硫酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩型、ジアルキルサクシネートスルホン酸塩型等のアニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、及び両性イオン系乳化剤等が挙げられる。乳化剤の含有量はポリウレタンの樹脂固形分に対して、好ましくは10%以下である。
【0042】
本発明の水性ポリウレタン複合体には、更に耐久性を向上させる目的で、架橋剤を配合することもできる。架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を挙げることができる。
【0043】
さらに、本発明の水性ポリウレタン複合体には、凝集性を阻害しない範囲で通常に使用される添加剤、例えば、可塑剤、粘着付与剤(ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂等)、充填剤、顔料、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、防腐剤等を配合することも可能である。
【0044】
本発明の水性ポリウレタン複合体は、乾燥することにより、フィルムなどの形状に成形することが可能である。
【0045】
本発明の水性ポリウレタン複合体を乾燥してフィルムに成形することにより、平均粒子径が30〜500nmのシリカを含有するフィルムとなる。
【発明の効果】
【0046】
本発明により、安価なケイ素原料を用いた簡易プロセスにより、ポリウレタンとシリカとの新規な水性ポリウレタン複合体が製造可能であり、この水性ポリウレタン複合体を用いることにより、強靭なフィルムを提供できる。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、それらの内容は本発明の範囲を特に制限するものではない。
【0048】
実施例および比較例において、機械物性は、厚さ0.8mmのフィルムについて、ダンベル状3号試験片を引張り速度毎分100mm、温度23度、相対湿度65%の雰囲気下で測定した。
【0049】
合成例1(ポリウレタンプレポリマーの調製)
ポリプロピレングリコール2000(キシダ化学社製)127.2g、ポリプロピレングリコール400(キシダ化学社製)16.4gのメチルエチルケトン(85g)溶液に、ジメチロールプロピオン酸(東京化成社製)6.6g、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(アルドリッチ社製)47.2gを加えた後、80℃に昇温して3時間攪拌してプレポリマー溶液Aを得た(酸性基:0.25mmol/g)。
【0050】
実施例1(ポリウレタンとシリカおよび非中和のケイ酸塩との水性ポリウレタン複合体)
合成例1で得られたプレポリマー溶液A(86g)にアセトン(34g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で3号水ガラス(5.3g)の水(70g)希釈溶液を加えた。更に攪拌を継続しながら、水75gの追加に続き、ピペラジン(848mg)の水(14g)溶液を加えた。得られた分散体を固形分濃度が30重量%となるまで濃縮後、ポリウレタンとシリカ(乾燥後のポリウレタン中のシリカ濃度=2.5重量%)および非中和のケイ酸塩との水性ポリウレタン複合体198gを得た。
【0051】
得られた水性ポリウレタン複合体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に示す。ポリウレタンとシリカの複合化により、破断時応力の向上が認められた。
【0052】
【表1】

実施例2(ポリウレタンとシリカとの水性ポリウレタン複合体)
3号水ガラスの水(70g)希釈溶液を5.3gから4.2gに変える以外は実施例1と同様の方法により、ポリウレタンとシリカ(乾燥後のポリウレタン中のシリカ濃度=2.0重量%)との水性ポリウレタン複合体197gを得た。
【0053】
得られた水性ポリウレタン複合体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンとシリカの複合化により、破断時応力の向上が認められた。
【0054】
実施例3(ポリウレタンとシリカおよび非中和の酸性基との水性ポリウレタン複合体)
3号水ガラスの水(70g)希釈溶液を5.3gから3.2gに変える以外は実施例1と同様の方法により、分子内にカルボキシル基を含有するポリウレタンとシリカ(乾燥後のポリウレタン中のシリカ濃度=1.5重量%)および非中和の酸性基との水性ポリウレタン複合体196gを得た。
【0055】
得られた水性ポリウレタン複合体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンとシリカの複合化により、破断時応力の向上が認められた。
【0056】
比較例1(ポリウレタン水分散体(非複合化品))
合成例1で得られたプレポリマー溶液(86g)にアセトン(34g)を加え、トリエチルアミン(1.6g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で水(180g)、ピペラジン(848mg)の水(10g)溶液を順次加えた。得られた分散体を固形分濃度が30重量%となるまで濃縮後、ポリウレタンの水分散体199gを得た。
【0057】
得られた水分散体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。破断時応力は8MPaであり、同組成のポリウレタンを含む実施例1〜3に比べて劣っていた。
【0058】
比較例2(ポリウレタン水分散体とコロイダルシリカの混合品(複合化品))
比較例1で得られたポリウレタン水分散体(31g,固形分濃度=30重量%)に、コロイダルシリカ(スノーテックスN、日産化学製、30重量%、平均粒子径10〜20nm)2.5gを加えて(乾燥後のポリウレタン中の濃度=2.5重量%)5分間攪拌し、混合品を得た。
【0059】
得られた混合品を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。破断時応力は3MPaであり、同組成のポリウレタンで同じシリカ量を含む実施例1に比べて劣っていた。
【0060】
合成例2(ポリウレタンプレポリマーの調製)
ポリプロピレングリコール2000(キシダ化学社製)118.1g、ポリプロピレングリコール400(キシダ化学社製)4.0gのメチルエチルケトン(85g)溶液に、ジメチロールプロピオン酸(東京化成社製)17.2g、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(アルドリッチ社製)58.0gを加えた後、80℃に昇温して3時間攪拌し、メチルエチルケトン(113g)を加えてプレポリマー溶液Bを得た(酸性基:0.65mmol/g)。
【0061】
実施例4(ポリウレタンとシリカおよび非中和のケイ酸塩との水性ポリウレタン複合体)
合成例2で得られたプレポリマー溶液B(120g)にメチルエチルケトン(80g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で3号水ガラス(10.9g)の水(200g)希釈溶液を加えた。更に攪拌を継続しながら、水300gを加えた。得られた水分散体を、固形分濃度が20重量%となるまで濃縮後、ポリウレタンとシリカ(乾燥後のポリウレタン中のシリカ濃度=5.0重量%)および非中和のケイ酸塩との水性ポリウレタン複合体302gを得た。
【0062】
得られた水性ポリウレタン複合体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。シリカ複合量の増加により、破断時応力は40MPaまで向上した。
【0063】
比較例3(ポリウレタン水分散体(非複合化品))
合成例2で得られたプレポリマー溶液B(120g)にメチルエチルケトン(80g)、およびトリエチルアミン(3.9g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で水(250g)を加えた。得られた水分散体を、固形分濃度が20重量%となるまで濃縮し、ポリウレタン水分散体を得た。
【0064】
得られた水分散体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。破断時応力は31MPaであり、同組成のポリウレタンを含む実施例4に比べて劣っていた。
【0065】
比較例4(対照フィルム(非複合化品))
トリエチルアミンの代わりにホモミキサー攪拌下で10%水酸化ナトリウム溶液(15.6g)を加える以外は比較例3と同様の方法で、固形分濃度が20重量%のポリウレタン水分散体を得た。
【0066】
得られた水分散体を、乾燥時の重量が10gになるように秤量し、直径15cmのガラス製容器上で1週間静置乾燥させ、厚さ0.8mmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。酸性基の中和を実施例4と同じナトリウムイオンで実施したが、破断時応力は参考例3とほぼ同等の30MPaであり、同組成のポリウレタンを含む実施例4に比べて劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンと、酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有することを特徴とする水性ポリウレタン複合体。
【請求項2】
非中和のケイ酸塩を含有することを特徴とする請求項1記載の水性ポリウレタン複合体。
【請求項3】
非中和の酸性基を含有することを特徴とする請求項1記載の水性ポリウレタン複合体。
【請求項4】
酸性基を0.02〜1.0mmol/g有するポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を混合し、乳化することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン複合体より得られることを特徴とする、平均粒子径が30〜500nmのシリカを含有するフィルム。

【公開番号】特開2010−84051(P2010−84051A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256067(P2008−256067)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】