説明

水性ポリマー分散液の製造方法

狭い粒径分布を有する、微粒子状の水性ポリマー分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、
少なくとも1の分散剤と、少なくとも1のラジカル開始剤の存在下、エチレン性不飽和モノマーのラジカル開始水性乳化重合によって水性ポリマー分散液を製造する方法であって、乳化重合のために、
20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたり溶解度が≧200gである、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー[モノマーA]を0.1〜10質量%、及び
20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたり溶解度が≦100gである、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー[モノマーB]を90〜99.9質量%、
使用し、かつ前記モノマーAとBが合計で100質量%(全モノマー量)になり、この際水性重合媒体中でまず単に、
少なくとも1のモノマーBの全体量の0.1〜10質量%を装入し、そして重合させる(重合工程1)、
そしてこれに引き続き少なくとも1のモノマーAの全体量、ならびに少なくとも1のモノマーBの残量を水性重合媒体に重合条件下で添加し、そして重合させる(重合工程2)ことを特徴とする、水性ポリマー分散液の製造方法である。
【0002】
本発明の対象は同様に、本発明による方法に従って入手可能な、狭い粒径分布を有する水性ポリマー分散液、及びこの水性ポリマー分散液から入手可能なポリマー粉末、並びに水性ポリマー分散液及びポリマー粉末の使用、とりわけ木材被覆のための透明な調製物における成分としての使用である。
【0003】
水性ポリマー分散液は、一般的に公知である。これらは、水性分散媒中の分散相として、互いに組み合わさった複数のポリマー鎖からなるポリマーコイル、いわゆるポリマーマトリックス又はポリマー粒子を分散分布させて含有する流動系である。ポリマー粒子の平均直径はしばしば、10〜1000nmの範囲、とりわけ50〜600nmの範囲である。水性ポリマー分散液は、結合剤として工業的な適用で多様に使用される。
【0004】
水性媒体中でのエチレン性不飽和モノマーのラジカル開始乳化重合の実施は既に数多く記載されており、このことから当業者には充分に周知である[これに関してはEncyclopedia of Polymer Science and EngineeringのEmulsionspolymerisation,第8巻,第659頁以降(1987);D.C.Blackley,High Polymer Latices, 第1巻, 第35頁以降(1966); H.Warson,The Applications of Synthetic Resin Emulsions,第5章,第246頁以降(1972);D.Diederich,Chemie in unserer Zeit 24,第135〜142頁(1990);Emulsion Polymerisation, Interscience Publishers,New York (1965); DE−A4003422及びDispersionen synthetischer Hochpolymerer,F.Hoelscher,Springer出版, ベルリン(1969)を参照のこと]。ラジカル開始水性乳化重合反応は通常、エチレン性不飽和モノマーを、分散助剤の併用下で水性媒質中にモノマー液滴の形で分散分布させ、ラジカル重合開始剤を用いて重合させることによって行う。
【0005】
ラジカル開始水性乳化重合により製造することができるポリマー粒子の粒径を適切に調整したい場合は、通常いわゆるポリマー種を使用し、これは事前に他のモノマーにより個別に製造したもの(異なるポリマー種(Polymerfremdsaat))であるか、又は重合させるべきモノマーの部分重合により「その場で」生成させたものである。
【0006】
その場でポリマー種を使用する水性ポリマー分散液の製造は、当業者には慣用であり(DE−A 196 09 509,EP−A 690882,EP−A 710 680,EP−A 1 125 949,EP−A 1 294 816,EP−A 1 614 732,WO−A 03/29300参照)、そして通常はもともとの乳化重合から乳化重合に使用するモノマー混合物の部分量を少し水性重合媒体に装入し、そして大量の乳化剤の存在下、ラジカル重合させて行う。
【0007】
しかしながらその場でのポリマーの使用は、乳化重合のために使用するモノマー混合物が良好な水溶性モノマーも含む場合、狭い粒径分布という観点では不利であることが実証されている。
【0008】
従って本発明の課題は、良好な水溶性エチレン性不飽和モノマーを用いたラジカル開始水性乳化重合による、狭い粒径分布を有する水性ポリマー分散液の製造方法を利用可能にすることであった。
【0009】
意外にもこの課題は、導入部で定義された方法により解決された。
【0010】
水性ポリマー分散液の製造のために、透明な水、好ましくは飲用水及び特に好ましくは脱イオン水を使用し、その全体量は、それぞれ水性ポリマー分散液に対して30〜90質量%、有利には40〜60質量%となるように計量される。基本的に、重合工程1で少なくとも部分量、全体量の有利には≧25質量%、及びとりわけ有利には≧35質量%の水を水性重合媒体の成分として、モノマーBと共通の反応槽に装入する。場合により存在する水の残量は、重合媒体に非連続的に、1若しくは複数の部分量で、又は連続的に一定の、若しくは変化する流量で、とりわけ水性モノマーエマルションの成分として重合工程2に供給することができる。
【0011】
モノマーAとして考慮されるのは、20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたり溶解度が≧200g、好ましくは≧300g、及びとりわけ好ましくは≧500gであるすべてのエチレン性不飽和モノマーである。しばしばモノマーAは、脱イオン水について限定されない溶解度を有する。モノマーAとして考慮されるのはとりわけ、少なくとも1の酸基、とりわけカルボン酸基又はスルホン酸基、ヒドロキシアルキル基、アミド基、エチレン尿素基、アセトアセトキシ基を有する、エチレン性不飽和モノマーである。特に有利なモノマーAは、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ビニルスルホン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素(UMA)、N−(2−アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、2−アセトアセトキシエチルアクリラート、2−アセトアセトキシエチルメタクリラート(AAEM)、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)、2−ヒドロキシエチルアクリラート、ヒドロキシプロピルアクリラート、2−ヒドロキシエチルメタクリラート、及びヒドロキシプロピルメタクリラートを含む群から選択されている。とりわけ好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、及び/又はAMPSである。もちろんモノマーAはまた、酸基、とりわけカルボン酸基若しくはスルホン酸基を有する、前述のモノマーのアルカリ金属塩、若しくはアンモニウム塩を含む。
【0012】
モノマーBとして考慮されるのは、20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたりの溶解度が≦100g、好ましくは≦60g、及びとりわけ好ましくは≦20gであるすべてのエチレン性不飽和モノマーである。
【0013】
モノマーBとして考慮されるのはとりわけ、容易にモノマーAとラジカル共重合可能なエチレン性不飽和化合物であり、例えばオレフィン、例えばエチレン又はプロピレン、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−クロロスチレン又はビニルトルエン、ビニルハロゲン化物、例えば塩化ビニル又は塩化ビニリデン、ビニルアルコールと1〜18個のC原子を有するモノカルボン酸とからのエステル、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニル−n−ブチラート、ラウリン酸ビニル、及びステアリン酸ビニル、好ましくは3〜6個のC原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノ−及びジカルボン酸、例えばとりわけアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸と、一般に1〜12個、好ましくは1〜8個、及びとりわけ1〜4個のC原子を有するアルカノールとからのエステル、例えば特にアクリル酸−及びメタクリル酸メチル−、−エチル−、−n−ブチル−、−イソブチル−、−ペンチル−、−ヘキシル−、−ヘプチル−、−オクチル−、−ノニル−、−デシル−及び−2−エチルヘキシルエステル、フマル−及びマレイン酸ジメチルエステル又は−ジ−n−ブチルエステル、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマル酸ジニトリル、マレイン酸ジニトリル、並びにC4-8−共役ジエン、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、及びイソプレンである。上記モノマーは通常主モノマーを形成し、該主モノマーはモノマーBの全体量に対して、≧80質量、好ましくは≧90質量%、及びとりわけ好ましくは≧95質量%の割合を全体として占めるか、又はその上更にモノマーBの全体量を形成する。
【0014】
通常ポリマーマトリックスの成膜の内部強度を高めるモノマーBは、通常少なくとも1個のエポキシ基又は少なくとも2個の非共役エチレン性不飽和二重結合を有する。これに対する例は、2個のビニル基を有するモノマー、2個のビニリデン基を有するモノマー並びに2個のアルケニル基を有するモノマーである。この場合、2価アルコールとα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸とのジエステルが特に有利であり、このカルボン酸のうちアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。このような2つの非共役エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの例は、アルキレングリコールジアクリラート及び−ジメタクリラート、例えばエチレングリコールジアクリラート、1,2−プロピレングリコールジアクリラート、1,3−プロピレングリコールジアクリラート、1,3−ブチレングリコールジアクリラート、1,4−ブチレングリコールジアクリラート及びエチレングリコールジメタクリラート、1,2−プロピレングリコールジメタクリラート、1,3−プロピレングリコールジメタクリラート、1,3−ブチレングリコールジメタクリラート、1,4−ブチレングリコールジメタクリラート並びにジビニルベンゼン、ビニルメタクリラート、ビニルアクリラート、アリルメタクリラート、アリルアクリラート、ジアリルマレアート、ジアリルフマラート、シクロペンタジエニルアクリラート、トリアリルシアヌラート、又はトリアリルイソシアヌラートである。しばしば、前記架橋性モノマーBをその都度モノマーBの全体量に対して≦10質量%の量で、しかしながら好ましくは≦5質量%の量で使用する。しかしながらしばしば、このような架橋性モノマーBはまったく使用しない。
【0015】
有利には本発明による方法においてモノマーBとして
− アクリル酸及び/又はメタクリル酸と1〜12個のC原子を有するアルカノールとのエステル及び/又はスチレン、50〜100質量%
− スチレン及びブタジエン50〜100質量%、又は
− 塩化ビニル及び/又は塩化ビニリデン50〜100質量%、又は
− 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及び/又はエチレン40〜100質量%
を含有するモノマー混合物を使用する。
【0016】
特に有利にはモノマーBは、メチルアクリラート、エチルアクリラート、n−ブチルアクリラート、t−ブチルアクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、2−プロピルヘプチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルメタクリラート、n−ブチルメタクリラート、t−ブチルメタクリラート、2−エチルヘキシルメタクリラート、2−プロピルヘプチルメタクリラート、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−n−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルを含む群から選択されている。
【0017】
本発明による方法では、少なくとも1のモノマーAを0.1〜10質量%、有利には1〜8質量%、及びとりわけ有利には2〜6質量%使用し、かつこれに相応して少なくとも1のモノマーBを90〜99.9質量%、有利には92〜99質量%、及びとりわけ有利には94〜98質量%使用する。
【0018】
本発明によれば本方法の範囲において、モノマー液滴も形成されたポリマー粒子も水性媒体中に分散分布されたままにする分散剤を併用し、これによって生成する水性ポリマー分散液の安定性を保証する。分散剤としては、ラジカル水性乳化重合の実施のために通常使用される保護コロイドのみならず、乳化剤も考慮される。
【0019】
適切な保護コロイドは、例えばポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸のアルカリ金属塩、ゼラチン誘導体又はアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又は4−スチレンスルホン酸を含有するコポリマー及びそのアルカリ金属塩、また、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アミノ基含有アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミド含有ホモポリマー及びコポリマーである。さらに適切な保護コロイドは、例えばホウベンーヴェイル(Houben−Weyl)の有機化学の手法第XIV/1巻、高分子材料、ゲオルグティエメ出版、シュツットガルト在、1961年、第411〜420頁(Methoden der organischen Chemie, Band XIV/1, Makromolekulare Stoffe, Georg−Thieme−Verlag, Stuttgart, 1961, Seiten 411〜420)に詳細に記載されている。
【0020】
もちろん、保護コロイド及び/又は乳化剤から成る混合物も使用することができる。しばしば分散剤として、相対分子量が保護コロイドとは異なって通常1000未満である乳化剤のみが使用される。前記乳化剤は、アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の性質であってよい。界面活性剤物質の混合物を使用する場合には、個々の成分が互いに相溶性でなければならず、このことが疑わしい場合には僅かな予備試験に基づいて検査してよいことは勿論である。一般的には、アニオン性乳化剤は相互に、かつ非イオン性乳化剤と相溶性である。同様のことがカチオン性乳化剤に対しても当てはまり、その一方でアニオン性及びカチオン性乳化剤は大抵は相互に相溶性ではない。適切な乳化剤の概要は、例えばMethoden der organischen Chemie, 第XIV/1巻, Makromolekulare Stoffe, Georg−Thieme−Verlag, Stuttgart 1961年, 第192頁〜第208頁に供覧されている。
【0021】
しかしながら本発明により分散剤として、とりわけ乳化剤を使用する。
【0022】
一般に使用される非イオン性乳化剤は、例えばエトキシ化されたモノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール及びトリアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4〜C12)並びにエトキシ化された脂肪アルコール(EO度:3〜80;アルキル基:C8〜C36)である。このための例は、BASF社製のLutensol(R)A商標(C1214−脂肪アルコールエトキシラート、EO度:3〜8)、Lutensol(R)AO商標(C1315−オキソアルコールエトキシラート、EO度:3〜30)、Lutensol(R)AT商標(C1618−脂肪アルコールエトキシラート、EO度:11〜80)、Lutensol(R)ON商標(C10−オキソアルコールエトキシラート、EO度:3〜11)及びLutensol(R)TO商標(C13−オキソアルコールエトキシラート、EO度:3〜20)である。
【0023】
通常のアニオン性乳化剤は例えば、アルキルスルファート(アルキル基:C8〜C12)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、エトキシ化されたアルカノール(EO度:4〜30、アルキル基:C12〜C18)の硫酸半エステルのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、及びエトキシ化されたアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4〜C12)の硫酸半エステルのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、アルキルスルホン酸(アルキル基:C12〜C18)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、及びアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C9〜C18)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩である。
【0024】
他のアニオン性乳化剤として更に、一般式(I)
【化1】

[式中、R1及びR2は、H原子又はC4〜C24−アルキルを表わし、同時にはH原子でなく、M1及びM2は、アルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオンであってよい]
の化合物が適切であることが証明された。一般式(I)においては、R1及びR2は、好ましくは6〜18個、特に6、12及び16個のC原子を有する直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基又は水素を表わし、その際、R1及びR2は2つとも同時にH原子ではない。M1及びM2は、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムであることが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。M1及びM2がナトリウムであり、R1が12個のC原子を有する分枝鎖状のアルキル基であり、かつR2がH原子であるか又はR1である化合物(I)が特に有利である。50〜90質量%のモノアルキル化生成物の含分を有する工業用混合物、例えばDowfax(R)2A1(Dow Chemical Company社の商標)がしばしば使用される。化合物(I)は例えばUS−A4269749から一般に公知であり、かつ市販されている。
【0025】
適切な陽イオン活性乳化剤は、一般的にはC6〜C18−アルキル基、−アルキルアリール基、又は複素環基を有する第1級、第2級、第3級又は第4級アンモニウム塩、アルカノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、オキサゾリニウム塩、モルホリニウム塩、チアゾリニウム塩並びにアミンオキシドの塩、キノリニウム塩、イソキノリニウム塩、トロピリウム塩、スルホニウム塩及びホスホニウム塩である。例として、ドデシルアンモニウムアセタート又は相応のスルファート、種々の2−(N,N,N−トリメチルアンモニウム)エチルパラフィン酸エステルのスルファート又はアセタート、N−セチルピリジニウムスルファート、N−ラウリルピリジニウムスルファート並びにN−セチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムスルファート、N−ドデシル−N,N,N−トリメチルアンモニウムスルファート、N−オクチル−N,N,N−トリメチルアンモニウムスルファート、N,N−ジステアリル−N,N−ジメチルアンモニウムスルファート並びにジェミニ界面活性剤N,N’−(ラウリルジメチル)エチレンジアミンジスルファート、エトキシル化された獣脂脂肪アルキル−N−メチルアンモニウムスルファート及びエトキシル化されたオレイルアミン(例えば、BASF AG社のUniperol(R) AC、約12個のエチレンオキシド単位)が挙げられる。多数の更なる例が、H.Stache,Tensid−Taschenbuch,Carl−Hanser−Verlag,Muenchen,Wien,1981年の中に、及びMcCutcheon’s,Emulsifiers & Detergents,MC Publishing Company,Glen Rock,1989年の中に見出される。アニオン性対基が可能な限り弱く求核性ならば有利であり、例えばペルクロラート、スルファート、ホスファート、ニトラート及びカルボキシラート、例えばアセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、プロピオナート、オキサラート、シトラート、ベンゾアート、並びに有機スルホン酸の共役アニオン、例えばメチルスルホナート、トリフルオロメチルスルホナート、及びp−トルエンスルホナート、更にテトラフルオロボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、ヘキサフルオロホスファート、ヘキサフルオロアルセナート又はヘキサフルオロアンチモナートである。
【0026】
分散剤として好ましく使用される乳化剤は有利には、その都度全体のモノマー量に対して、≧0.1質量%、かつ≦10質量%、好ましくは≧0.1質量%、かつ≦5質量%、とりわけ≧0.5質量%、かつ≦4質量%の全体量で使用する。
【0027】
分散剤として付加的に又は乳化剤の代わりに使用される保護コロイドの全体量は、その都度全体のモノマー量に対して、しばしば≧0.1質量%、かつ≦10質量%、大抵は≧0.2質量%、かつ≦7質量%である。
【0028】
しかしながら好ましくは、アニオン性の、及び/又は非イオン性の乳化剤、及びとりわけ好ましくはアニオン性乳化剤を乳化剤として使用する。
【0029】
本発明によれば、分散剤の少なくとも部分量を水性重合媒体中にモノマーBの部分量とともに重合工程1で装入し、そして場合により残っている残量を水性重合媒体に重合工程2で非連続的に1若しくは複数の部分量で、又は連続的に一定の、若しくは変化する流量で、とりわけモノマーAの全体量、及びモノマーBの残量を含む水性モノマーエマルションの成分として計量供給する。この際、重合工程1で分散剤の量、とりわけ乳化剤の量を、モノマーB10gあたり≧2mmol、好ましくは≧5mmol、及びとりわけ好ましくは≧10mmolであるように選択する。
【0030】
ラジカル開始水性乳化重合の開始は、ラジカル重合開始剤(ラジカル開始剤)を用いて行う。この場合ラジカル重合開始剤は原則的にペルオキシドであってもアゾ化合物であってもよい。勿論、レドックス開始剤系も考慮される。ペルオキシドとしては原則的に、無機ペルオキシド、例えば過酸化水素又はペルオキソ二硫酸塩、例えばペルオキソ二硫酸のモノ−又はジ−アルカリ金属−又はアンモニウム塩、例えばモノ−及びジ−ナトリウム塩、モノ−及びジ−カリウム−又はアンモニウム塩、あるいは有機ペルオキシド、例えばアルキルヒドロペルオキシド、例えばt−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンチルヒドロペルオキシド又はクミルヒドロペルオキシド、並びにジアルキルペルオキシド又はジアリールペルオキシド、例えばジ−t−ブチルペルオキシド又はジクミルペルオキシドを使用することができる。アゾ化合物としては、主に2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(アミジノプロピル)二塩酸塩(AIBA、Wako Chemicals社のV−50に相当)が使用される。レドックス開始剤系のための酸化剤としては、主として上述のペルオキシドが挙げられる。相応の還元剤としては、酸化度が小さい硫黄化合物、例えばアルカリ亜硫酸塩、例えば亜硫酸カリウム及び/又は亜硫酸ナトリウム、アルカリ亜硫酸水素塩、例えば亜硫酸水素カリウム及び/又は亜硫酸水素ナトリウム、アルカリメタ重亜硫酸塩、例えばメタ重亜硫酸カリウム及び/又はメタ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸塩、例えばホルムアルデヒドスルホキシル酸カリウム及び/又はホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アルカリ塩、特に脂肪族スルフィン酸のカリウム塩及び/又はナトリウム塩、並びにアルカリ金属硫化水素塩、例えば硫化水素カリウム及び/又は硫化水素ナトリウム、多価金属塩、例えば硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)アンモニウム、リン酸鉄(II)、エンジオール、例えばジヒドロキシマレイン酸、ベンゾイン及び/又はアスコルビン酸並びに還元性糖類、例えばソルボース、グルコース、フルクトース及び/又はジヒドロキシアセトンを使用することができる。使用するラジカル開始剤の量は通常、全体のモノマー量に対して0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%、及びとりわけ好ましくは0.2〜1.5質量%である。本発明によればラジカル開始剤の全体量は、水性重合媒体中で重合反応の開始前に重合工程1で装入することができる。しかしながらまた、場合によりラジカル開始剤の部分量のみを水性重合媒体中で重合反応の開始前に重合工程1で装入し、そしてその後重合条件下、本発明によるラジカル乳化重合の間、重合工程1と重合工程2で全体量、若しくは場合により残っている残量を消費に応じて非連続的に1若しくは複数の部分量で、又は連続的に一定の、若しくは変化する流量により添加することも可能である。
【0031】
重合反応の開始とは、ラジカル開始剤のラジカル形成による、水性重合媒体中に存在するモノマーの重合反応の開始と理解される。この際に重合反応の開始は、重合条件下でラジカル開始剤を重合槽内の水性重合媒体に添加することによって行うことができる。しかしながらまた、ラジカル開始剤の部分量又は全体量を、装入されたモノマーBを含む重合槽内の水性重合媒体に重合工程1で重合反応を開始させるには適していない条件、例えば低温で添加し、そしてその後水性重合媒体中で重合条件を調整することも、可能である。重合条件とはこの際、一般的にラジカル開始水性乳化重合が充分な重合速度で進行する温度及び圧力であると理解されるべきである。この条件はとりわけ、使用するラジカル開始剤に左右される。有利には、ラジカル開始剤の種類と量、重合温度、及び重合圧力は、常に充分な開始ラジカルを利用することができ、重合反応を開始若しくは維持するように選択する。
【0032】
本発明によるラジカル水性乳化重合のための反応温度として挙げられるのは、0〜170℃という総範囲である。この際に通常、50〜120℃、しばしば60〜110℃、大抵は70〜100℃という温度が適用される。本発明によるラジカル水性乳化重合は、1気圧(大気圧)より小さい圧力、これと同じ圧力又はこれより大きい圧力で実施してよく、その結果、この重合温度は100℃を超過してよく、かつ最大170℃であってよい。易揮発性のモノマー、例えばエチレン、ブタジエン又は塩化ビニルを、圧力を高めて重合させることは、好ましい。この場合、圧力は1.2、1.5、2、5、10、15bar(絶対圧)又は更に高い値をとることができる。乳化重合を低圧で実施する場合には、950mbar、しばしば900mbar、大抵850mbar(絶対圧)の圧力に調節する。本発明によるラジカル開始水性乳化重合を1気圧で酸素遮断下、例えば窒素又はアルゴンのような不活性雰囲気下で実施することは、有利である。
【0033】
水性反応媒体は、原理的にわずかな量(≦5質量%)でも、水溶性有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、しかしまたアセトン等をも含むことができる。しかしながら好ましくは本発明による方法は、このような溶剤の不在下で行なわれる。
【0034】
本発明による方法においては、前記の成分の他に選択的に、ラジカル連鎖移動化合物を使用し、重合により得られるポリマーの分子量を減らすか又は調節してもよい。この場合、主として、脂肪族及び/又は芳香脂肪族のハロゲン化合物、例えば、塩化n−ブチル、臭化n−ブチル、ヨウ化n−ブチル、塩化メチレン、二塩化エチレン、クロロホルム、ブロモホルム、ブロモトリクロロメタン、ジブロモジクロロメタン、四塩化炭素、四臭化炭素、塩化ベンジル、臭化ベンジル、有機チオ化合物、例えば第1級、第2級又は第3級脂肪族チオール、例えばエタンチオール、n−プロパンチオール、2−プロパンチオール、n−ブタンチオール、2−ブタンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、n−ペンタンチオール、2−ペンタンチオール、3−ペンタンチオール、2−メチル−2−ブタンチオール、3−メチル−2−ブタンチオール、n−ヘキサンチオール、2−ヘキサンチオール、3−ヘキサンチオール、2−メチル−2−ペンタンチオール、3−メチル−2−ペンタンチオール、4−メチル−2−ペンタンチオール、2−メチル−3−ペンタンチオール、3−メチル−3−ペンタンチオール、2−エチルブタンチオール、2−エチル−2−ブタンチオール、n−ヘプタンチオール及びその異性体化合物、n−オクタンチオール及びその異性体化合物、n−ノナンチオール及びその異性体化合物、n−デカンチオール及びその異性体化合物、n−ウンデカンチオール及びその異性体化合物、n−ドデカンチオール及びその異性体化合物、n−トリデカンチオール及びその異性体化合物、置換チオール、例えば2−ヒドロキシエタンチオール、芳香族チオール、例えばベンゼンチオール、オルト−、メタ−、又はパラ−メチルベンゼンチオール、並びにPolymerhandbook 第3版,1989年,J.Brandrup und E.H.Immergut,John Weley & Sons,第II章, 第133頁〜第141頁)に記載されている他の全種の硫黄化合物を使用するが、また脂肪族及び/又は芳香族アルデヒド、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及び/又はベンズアルデヒド、不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸、非共役二重結合を有するジエン、例えばジビニルメタン又はビニルシクロヘキサン又は容易に引抜き可能な水素原子を有する炭化水素、例えばトルエンも使用する。しかし、支障のない前記のラジカル連鎖移動化合物の混合物を使用することも可能である。
【0035】
本発明による方法で選択的に使用されるラジカル連鎖移動化合物の全体量は、モノマーの全体量に対して一般的に≦5質量%、大抵≦3質量%、しばしば≦1質量%である。
【0036】
選択的に使用するラジカル連鎖移動化合物の部分量又は全体量は、水性重合媒体にラジカル乳化重合の開始前に重合工程1で供給すると、しばしば好都合である。しかしながら、選択的に使用するラジカル連鎖移動化合物の部分量又は全体量を水性重合媒体にモノマーA及びモノマーBと一緒に重合工程2で供給すると、とりわけ好都合である。
【0037】
本発明によれば基本的に、水性重合媒体中で重合工程1でまず0.1〜10質量%、有利には≧1質量%、かつ≦8質量%、及びとりわけ有利には少なくとも1のモノマーBの全体量の≧2質量%、かつ≦6質量%を装入して重合させ、そしてこれに引き続いて重合工程2で少なくとも1のモノマーAの全体量、並びに少なくとも1のモノマーBの残量を水性重合媒体に重合条件下で添加して重合させる。
【0038】
この際、モノマーAの全体量とモノマーBの残量の添加は、重合工程2で非連続的に1若しくは複数の部分量で、又は連続的に一定の、若しくは変化する流量で行うことができる。好ましくはモノマーA及びBの添加は、連続的に一定の流量で行う。モノマーAの全体量とモノマーBの残量は、別々の個別流で、又はモノマー混合物として供給することができる。好ましくは、モノマーAの全体量とモノマーBの残量をモノマー混合物として、とりわけ有利には水性モノマーエマルションの形で行う。基本的に、本発明によれば変法も含まれており、この場合重合工程2でモノマーA、及び/又はモノマーBの組成がそれぞれ、例えば当業者に慣用の勾配法(Gradientenfahrweise)、又は段階法(Stufenverfahrweise)で変わる。有利にはモノマーA及び/又はモノマーBの添加は、重合工程2でしばしば勾配法又は段階法で、及びとりわけ有利には段階法で行う。
【0039】
特に有利には、モノマーBを重合工程1で、若しくはモノマーAとBを重合工程2で≧95質量%、有利には≧98質量%、及びとりわけ有利には≧99質量%の反応率で反応させるように、本発明による方法を行う。重合工程2の終了後に得られる水性ポリマー分散液を、残留モノマー含分を減少させるために後処理に供することが、しばしば有利である。この際、この後処理を化学的に、例えば効果的なラジカル開始剤系の使用による重合反応の完全化(いわゆる後重合)により、及び/又は物理的に、例えば水蒸気若しくは不活性ガスによる水性ポリマー分散液のストリッピングにより行う。
【0040】
相応する化学的な、及び/又は物理的な方法は当業者に慣用である(例えば、EP−A 771 328,DE−A 196 24 299,DE−A 196 21 027,DE−A 197 41 184,DE−A 197 41 187,DE−A 198 05 122,DE−A 198 28 183,DE−A 198 39 199,DE−A 198 40 586及び198 47 115参照)。この際、化学的な後処理と物理的な後処理とを組み合わせることには、未反応のエチレン性不飽和モノマー、またさらに他の支障のある易揮発性の有機成分(いわゆるVOC[volatile organic Compounds])を水性ポリマー分散液から除去するという利点がある。
【0041】
モノマーA及びBの種類と量を適切に変えることによって、当業者は本発明により、ポリマーが−60〜270℃の範囲内のガラス転移温度若しくは融点を有する水性ポリマー分散液を製造することができる。もちろん、複数のガラス転移温度を有する段階ポリマー(Stufenpolymerisat)、又は多相ポリマーを製造することもできる。水性ポリマー分散液の予定された使用目的次第で、ガラス転移温度が≧−60℃、かつ≦10℃(接着剤)、≧10℃、かつ≦100℃(被覆調製物のための結合剤)、又は≧80℃(硬質塗膜)である少なくとも1のポリマー相を有するポリマーを製造する。
【0042】
ガラス転移温度Tgは、ガラス転移温度の限界値を意味し、G.Kanig(Kolloid−Zeitschrift & Zeitschrift fuer Polymere,第190巻,第1頁,方程式1)によれば、ガラス転移温度は分子量の増大とともに限界値に近づく。ガラス転移温度若しくは融点は、DSC法(示差走査熱量測定、20K/分、中点測定、DIN53765)により測定される。
【0043】
Fox(T.G.Fox,Bull.Am.Phys.Soc.1956年[Ser.II]1,第123頁及びUllmann’s Encyclopaedie der technischen Chemie,第19巻,第18頁,第4版,Verlag Chemie,Weinheim,1980年)によれば、最も弱く架橋したコポリマーのガラス転移温度に関して以下の良好な近似が成立する:
1/Tg=x1/Tg1+x2/Tg2+...xn/Tgn
[式中、x1,x2....nは、モノマー1,2,..nの質量分数を表わし、Tg1,Tg2,..Tgnは、それぞれモノマー1,2,..nの1つから形成されたポリマーのケルビン度でのガラス転移温度を表わす。]大抵のモノマーのホモポリマーについてTg値は公知であり、例えばUllmann’s Ecyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,第A21巻,第169頁,VCH Weinheim,1992年に記載されており;ホモポリマーのガラス転移温度についての他の出典は例えばJ.Brandrup,E.H.Immergut著,Polymer Handbook,第1版,J.Wiley,New York 1966年,第2版,J.Wiley,New York 1975年、及び第3版,J.Wiley,New York 1989年である。
【0044】
本発明により得られる水性ポリマー分散液は通常、水性ポリマー組成に対してそれぞれ≧10質量%、かつ≦70質量%、しばしば≧20質量%、かつ≦65質量%、大抵≧40質量%、かつ≦60質量%のポリマー固体含分を有する。
【0045】
本発明による方法で得られる水性ポリマー分散液は、狭い粒径分布を有し、かつ質量平均直径DWが、≧10nm、かつ≦500nm、好ましくは≧20、かつ≦200nm、及びとりわけ好ましくは≧30nm〜≦100nmの範囲にあるポリマー粒子を有する。質量平均粒子直径の測定は当業者に公知であり、例えば超遠心分離分析法により行う。本明細書において質量平均粒子直径とは、超遠心分離分析法により測定されたDW50値と理解される(これに関して、S.E.Hardingら著、Analytical Ultracentrifugation in Biochemistry and Polymer Science,Royal Society of Chemistry,ケンブリッジ、英国、1992年、第10章、Analysis of Polymer Dispersions with an Eight−Cell−AUC−Multiplexer:High Resolution Particle Size Distribution and Density Gradient Techniques,W.Maechtle,第147頁〜第175頁を参照のこと)。
【0046】
本明細書の範囲において狭い粒径分布とは、超遠心分離法により測定された質量平均粒子直径DW50と、数平均粒子直径はDN50との比(DW50N50)が、≦2.0、好ましくは≦1.5、及びとりわけ好ましくは≦1.2又は≦1.1であることと理解されるべきである。
【0047】
本発明による方法で得られる、狭い粒径分布と、DW≦100nmの質量平均粒子直径とを有する水性ポリマー分散液は、意外なことに高い透明性を有し、従ってとりわけ木材被覆のための透明な水性調製物における結合剤として適している。この際にしばしば、特定の粘度を調整するための粘稠剤をあまり必要としないこと、並びに着色顔料使用の際の良好な、かつ濃い着色、木材表面への調製物の良好な浸透力、又は木目の良好な「強調」といった利点が示される。さらに本発明による水性ポリマー分散液は、本発明によらない相応する水性ポリマー分散液に比べて改善された濾別性を有する。
【0048】
もちろん、本発明による方法により得られる本発明による水性ポリマー分散液は、接着剤、封止剤、プラスチックモルタル、紙用塗工液、繊維フリース、塗料、及び有機基材のための被覆材を製造する際の成分として、並びに無機結合剤の変性のために使用することができる。
【0049】
さらに本発明による水性ポリマー分散液から、容易に(例えば凍結乾燥、又はスプレー乾燥で)相応するポリマー粉末が手に入る。本発明により得られるこのポリマー粉末は、同様に接着剤、封止剤、プラスチックモルタル、紙用塗工液、繊維フリース、塗料、及び有機基材のための被覆材を製造する際の成分として、並びに無機結合剤の変性のために使用することができる。
【0050】
本発明を、以下の非限定的な実施例に基づいて説明する。
【0051】
実施例
a)水性ポリマー分散液の製造
実施例1(B1)
供給装置と温度制御装置を備える重合槽で、20〜25℃(室温)で窒素雰囲気下、
脱イオン水307.0g、及び
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液168.0g
を装入し、撹拌しながら87℃に加熱した。この温度に達したらメチルメタクリラートを25g添加し、そして30秒間乳化させた。引き続きこの温度を維持しながら、給送物3を2.9g加え、そして5分間重合させる。この後同時に開始して、給送物1を120分以内に、かつこれに並行して給送物3の残量を165分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。給送物1の終了後、給送物2を45分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。
【0052】
給送物1は、
脱イオン水578.4g、
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液34.0g、
n−ブチルアクリラート492.0g、
メチルメタクリラート184.2g、
50質量%のアクリルアミド水溶液8.4g、
メタクリル酸7.5g、及び
メチルメタクリラート中で25質量%のウレイドメタクリラート溶液a)47.1g
から成る均一な混合物である。
【0053】
給送物2は、
脱イオン水118.3g、
15質量%のナトリルムラウリルスルファート水溶液12.0g
メタクリル酸6.8g
メチルメタクリラート中で25質量%のウレイドメタクリラート溶液a)30.1g、及び
メチルメタクリラート203.1g
から成る均一な混合物である。
【0054】
給送物3は、
脱イオン水26.6g、及び
ナトリウムペルオキソジスルファート2.0g
a)は、Roehm GmbH社のPlex(登録商標)68444−O)
から成る均一な溶液である。
【0055】
給送物2と3の終了後、重合混合物をさらに30分間87℃で後反応させる。これに引き続いて重合混合物に、同時に開始して別々の給送管を介して5質量%の過酸化水素水溶液16g、及びアスコルビン酸1.4gと脱イオン水67gとから成る溶液を60分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。
【0056】
引き続き得られた水性ポリマー分散液を室温に冷却し、25質量%のアンモニア水溶液8.4gで中和し、そして125μmのフィルターで濾過した。
【0057】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が42.2質量%であった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、44nmであった:多分散性DW50/DN50は、1.07と測定された。脱イオン水により固体含分が40質量%に希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率が26%だった。
【0058】
固体含分は一般的に、定義された量の水性ポリマー分散液(約1g)を、内径が約5cmのアルミニウム製るつぼ内で、140℃で乾燥棚において一定の質量になるまで乾燥させることにより測定した。2つの別個の測定を行った。実施例で記載された値は、その都度のこれらの2つの測定結果の平均値である。
【0059】
質量平均粒子直径と多分散性の測定は一般的に、超遠心分離分析法によって行う(これに関して、S.E.Hardingら著、Analytical Ultracentrifugation in Biochemistry and Polymer Science,RoyalSociety of Chemistry,ケンブリッジ、英国、1992年、第10章、Analysis of Polymer Dispersions with an Eight−Cell−AUC−Multiplexer: High Resolution Particle Size Distribution and Density Gradient Techniques,W.Maechtle,第147頁〜第175頁を参照のこと)。
【0060】
光透過率は一般的に、脱イオン水によりポリマー固体含分を40質量%に希釈した、水性ポリマー分散液の試料を、分光分析計(ドイツのHach社のDR/2010)を用いて測定した。
【0061】
比較例1(V1)
比較例1の製造は実施例1の製造と同様に行うのだが、その相違点は装入物における水の量が307.0gではなく287.0gであり、給送物1における水の量が578.4gではなく599.4gであり、メチルメタクリラートの量が給送物1において184.2gではなく209.2gであり、かつこうして得られる給送物1を46g、純粋なメチルメタクリラート25gの代わりに装入したことである。
【0062】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が42.3質量%であった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、42nmであった;多分散性DW50/DN50は、1.11と測定された。脱イオン水により希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率が11%だった。
【0063】
実施例2(B2)
実施例2の製造は実施例1と同様に行うのだが、その相違点は、
脱イオン水304.7g、及び
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液50.0g
を装入し、撹拌しながら87℃に加熱し、そしてこの温度に達したらメチルメタクリラート25gを添加し、そして30秒間乳化させ、そして給送物1として
脱イオン水736.3g
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液46.0g
50質量%のアクリルアミド水溶液8.2g
アクリル酸14.6g
メタクリラート中で25質量%のウレイドメタクリラート溶液77.2g
メチルメタクリラート471.2g、及び
2−エチルヘキシルアクリラート407.9g
から成る均質な混合物を、165分以内に一定の流量で連続的に計量添加したことである。
【0064】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が45.2質量%であった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、57nmであった:多分散性DW50/DN50は、1.09と測定された。脱イオン水により希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率が12%だった。
【0065】
比較例2(V2)
比較例2の製造は実施例2と同様に行うのだが、その相違点は、メチルメタクリラート25gの代わりに給送物1を42.5g装入し、そして給送物1でメチルメタクリラートを471.2gではなく496.2g使用したことである。
【0066】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が45.2質量%であった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、62nmであった;多分散性DW50/DN50は、1.20と測定された。脱イオン水により希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率がたった2%だった。
【0067】
実施例3(B3)
供給装置と温度制御装置を備える重合槽で、室温で窒素雰囲気下、
脱イオン水593.0g、及び
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液117.0g
を装入し、撹拌しながら82℃に加熱した。この温度に達したらn−ブチルアクリラートを35g添加し、そして30秒間乳化させた。引き続きこの温度を維持しながら、7質量%の過硫酸ナトリウム水溶液40gを添加し、そして5分間重合させた。これに引き続いて、給送物1を120分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。給送物1の終了後、給送物2を45分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。
【0068】
給送物1とは、
脱イオン水623.8g
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液23.3g
50質量%のアクリルアミド水溶液10.9g
メタクリル酸9.8g
メチルメタクリラート339.0g、及び
n−ブチルアクリラート661.0g
から成る均質な混合物であり、
給送物2とは、
脱イオン水152.9g
15質量%のナトリウムラウリルスルファート水溶液8.4g
50質量%のアクリルアミド水溶液99.3g
メタクリル酸14.0g、及び
メチルメタクリラート332.0g、
から成る均質な混合物である。
【0069】
給送終了後、この重合混合物をさらに30分間、82℃で後反応させる。これに引き続いて重合混合物に、同時に開始して別々の給送管を介して5質量%の過酸化水素水溶液22.4g、及びアスコルビン酸2.0gと脱イオン水93.8gとから成る溶液を60分以内に一定の流量で連続的に計量供給した。
【0070】
引き続き得られた水性ポリマー分散液を室温に冷却し、25質量%のアンモニア水溶液9.5gで中和し、そして125μmのフィルターで濾過した。
【0071】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が43.1質量%だった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、44nmであった;多分散性DW50/DN50は、1.08と測定された。脱イオン水により希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率が33%だった。
【0072】
比較例3(V3)
比較例3の製造は実施例3の製造と同様に行うのだが、その相違点は装入物における水の量が593.0gではなく570.6gであり、給送物1における水の量が623.8gではなく646.2gであり、n−ブチルアクリラートの量が給送物1において661.0gではなく696.0gであり、かつこうして得られる給送物1を57.5g、純粋なn−ブチルアクリラート35gの代わりに装入したことである。
【0073】
得られた水性ポリマー分散液は、固体含分が42.6質量%であった。ポリマー粒子の質量平均粒子直径は、45nmであった;多分散性DW50/DN50は、1.12と測定された。脱イオン水により希釈された水性ポリマー分散液は、光透過率が15%だった。
【0074】
b)適用技術調査
水性ポリマー分散液は、脱イオン水により37.5質量%の固体含分に希釈した。この希釈した水性ポリマー分散液163gにつき、室温で結合剤として
脱イオン水22.4g
Mergal(登録商標)S96(Troy Chemie GmbH社の殺真菌剤)2.0g
AMP(登録商標)90(Angus Chemical Company社の中和剤)0.2g
Silikontensid(登録商標)Byk 346(Byk−Chemie GmbH社の湿潤剤)0.2g
Tego Foamex(登録商標)810(Tego Chemie Service GmbH社の消泡剤)0.4g
Coatex(登録商標)100P(Cognis Deutschland GmbH&Co KG社の粘稠剤)1.0g
Luconyl(登録商標)Gelb fluessig(BASF AG社の顔料)6.0g
Texanol(登録商標)(Eastman Deutschland社の溶剤)5.0g
から成る、刷毛塗り可能な塗料調製物を添加し、そして均一に混合した。
【0075】
得られた刷毛塗り塗料を、室温で塗布装置により300μmのギャップ幅で均一、均等に、事前に研磨した15cm×7cmの未処理のマツ材板(厚さ0.5cm)表面に塗布した。こうして得られた塗装板を引き続き、空調室内で23℃、かつ相対空気湿度50%で24時間乾燥させた。木材表面に塗布した刷毛塗り塗料を、湿潤状態と乾燥状態で色の濃さと明度を視覚的に評価した。ここで学校の評点に従った評価を行い、1は特優、2は優、3は良、4は可、5は不可である。個々の評価で得られる結果は、以下の表にリスト化されている。
【0076】
【表1】

【0077】
これらの結果から明らかに見て取れるように、本発明によるポリマー分散液を使用して製造した着色塗料の色の濃さと明度は、とりわけ湿潤状態でよりよく評価された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の分散剤と、少なくとも1のラジカル開始剤の存在下、エチレン性不飽和モノマーのラジカル開始水性乳化重合によって水性ポリマー分散液を製造する方法において、乳化重合のために、
20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたり溶解度が≧200gである、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー[モノマーA]を0.1〜10質量%、及び
20℃、かつ1気圧(絶対気圧)で脱イオン水1000gあたり溶解度が≦100gである、少なくとも1のエチレン性不飽和モノマー[モノマーB]を90〜99.9質量%、
使用し、かつ前記モノマーAとBが合計で100質量%になり、この際水性重合媒体中でまず単に、
少なくとも1のモノマーBの全体量の0.1〜10質量%を装入し、そして重合させる(重合工程1)、
そしてこれに引き続き少なくとも1のモノマーAの全体量、ならびに少なくとも1のモノマーBの残量を水性重合媒体に重合条件下で添加し、そして重合させる(重合工程2)、水性ポリマー分散液の製造方法。
【請求項2】
前記モノマーAとBを重合工程2に連続的に計量供給することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマーAとBを重合工程2にモノマー混合物として計量供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
重合工程1で、少なくとも1つのモノマーBの全体量の1質量%≧、かつ≦8質量%を装入し、そして重合させることを特徴とする、請求項1から3までいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
重合工程1で分散剤の量が、モノマーB10gあたり≧2mmolであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマーAが、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−(2−メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N−(2−アクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、2−アセトアセトキシエチルアクリラート、2−アセトアセトキシエチルメタクリラート、ジアセトンアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリラート、ヒドロキシプロピルアクリラート、2−ヒドロキシエチルメタクリラート、及びヒドロキシプロピルメタクリラートを含む群から選択されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記モノマーBが、メチルアクリラート、エチルアクリラート、n−ブチルアクリラート、t−ブチルアクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、2−プロピルヘプチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルメタクリラート、n−ブチルメタクリラート、t−ブチルメタクリラート、2−エチルヘキシルメタクリラート、2−プロピルヘプチルメタクリラート、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−n−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルを含む群から選択されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
分散剤として乳化剤を使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分散剤として非イオン性の、及び/又はアニオン性の乳化剤を使用することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
モノマーA及び/又はモノマーBの添加を、重合工程2で勾配法、又は段階法に従って行うことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法により得られる、水性ポリマー分散液。
【請求項12】
請求項11に記載の水性ポリマー分散液の乾燥により得られる、ポリマー粉末。
【請求項13】
接着剤、封止剤、プラスチックプラスター、紙用塗工液、繊維フリース、塗料、及び有機基材のための被覆材の製造のため、並びに無機結合剤の変性のための、請求項11に記載の水性ポリマー分散液又は請求項12に記載のポリマー粉末の使用。

【公表番号】特表2010−529272(P2010−529272A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511607(P2010−511607)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057161
【国際公開番号】WO2008/152017
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】