説明

水性分散液、被覆体及び水性分散液の使用

a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有し、有機溶剤を含有しない水性分散液が開示される。a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する水性分散液の支持体表面上への塗料としての使用であって、該塗料を塗布した後の該表面が、該表面上の水滴に対して>120°(好ましくは>135°、最も好ましくは>150°)の平衡接触角を示す該使用も開示される。該水性分散液を支持体に接触させることを含む該支持体の被覆方法も開示される。該塗料は1工程での塗布が可能であり、食品包装に対して毒性がなくて安全であり、また、環境に優しくて安価である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高疎水性及び超疎水性の塗料(coating)の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性、高疎水性及び超疎水性の塗料は多種多様な表面に対して使用されている。当該分野においては、高疎水性塗料を製造するために多くの方法が使用されている。
【0003】
特許文献1には光沢性塗料が開示されており、該塗料においては、例えば、粒径が0.2〜0.5μmの顔料を有機化合物で被覆することによって該顔料を疎水性にしている。該顔料を乳化させることによって該塗料を疎水性にしている。顔料としてはTiOが挙げられている。顔料を被覆するために使用される有機化合物としては脂肪酸が挙げられている。
【0004】
特許文献2には、疎水性表面を被覆するために親水性物質と疎水性物質を併用する方法が開示されている。塗料中に配合できる成分としては脂肪酸の塩と疎水性及び/又は親水性の顔料が例示されており、また、バインダーも開示されている。
【0005】
特許文献3には、TiO、シリカ、脂肪酸、界面活性剤及びアクリルラテックスバインダー等の成分を含有していてもよい塗料が開示されている。
【0006】
特許文献4には水性インキと塗料が開示されており、これらの組成物は、アクリル樹脂分散液20〜60重量%、顔料5〜30重量%、アルコール0.5〜10重量%、水性溶剤20〜75重量%及び植物由来の水素化ワックス0.5〜5重量%から実質上構成されている。顔料としては炭酸カルシウムが例示されており、また、ワックスとしてはステアリン酸が例示されている。
【0007】
特許文献5には、炭酸カルシウムを含有する組成物が挙げられており、また、充填剤含有組成物で被覆された紙が開示されている。1つの実施態様においては、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、アクリルエマルション及び水を含有する紙用塗料ペーストが挙げられている。
【0008】
特許文献6には、被覆紙と紙用塗料が開示されている。1つの実施態様においては、該塗料は顔料、脂肪酸又はその塩、スチレンのコポリマー及び水を含有する。
【0009】
特許文献7にはインキが開示されており、特に1つの実施態様においては、該インキは沈降炭酸カルシウム、ポリマー及び界面活性剤を含有する。該文献には、脂肪酸を用いて粒子を処理できることも開示されている。
【0010】
特許文献8には、高い水密性を有する織物シート様構造体とその製造法が開示されている。この繊維改質法には溶剤が必要である。
【0011】
特許文献9には、疎水性塗料に適した水性ラッカー分散液が開示されている。主原料はカルボキシル化ポリスチレン顔料であり、該ポリスチレンのカルボキシル基の一部は、脂肪族のフッ素化アルコールを用いてエステル化される。
【0012】
特許文献10には、疎水性の複合材料と凝結体(aggregate)の製造法が開示されている。この方法にはいくつかの加工工程が必要であり、また、連続的な塗膜を調製するためには適していない。
【0013】
特許文献11には、表面を処理して該表面を超疎水性にするための水性組成物が開示されており、該水性組成物は、水性エマルション中の熱可塑性ポリマー及び粒径が5〜500μmの無機粒子を含有する。無機物としては炭酸カルシウム、石英、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム及び硫酸カルシウム等が例示されている。ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリビニルブチラール及びポリウレタン等が例示されている。
【0014】
特許文献12には、例えば金属酸化物と炭酸塩の粒子を含有する構造を有する紙又は紙に類似する材料が開示されている。これらの粒子は、バインダーと撥水剤を用いる湿式堆積法によって紙へ固定されている。
【0015】
特許文献13には、疎水性ポリマー又は永続的に疎水化された材料から製造された突起部(elevation)を含む自己清浄性表面が開示されている。
【0016】
特許文献14には、突起と窪みを有する疎水性材料製層を具有する自己清浄性物品が開示されている。該層には、疎水性物質と液体を含有する溶液、分散液又はエマルションが塗布され、該液体は塗布後に蒸発処理に付される。この混合物は他の固体状粒子を含有していてもよい。
【0017】
特許文献15には、疎水性複合材、特に疎水性粒子とさらさらした凝結体及びその利用方法が開示されている。
【0018】
高疎水性の湿式塗布法は2種類の塗布処理法、即ち、溶剤型塗布処理法と水型塗布処理法に大別される。溶剤型塗布処理法は、一部の国々においては、法的規制及び/又は制御規制を受ける。一方、水型塗布処理法においては、疎水性被膜を得るための操作は一般的にはより困難となる。このため、水性相中における安定な塗料分散液及び最終的な被覆層の乾燥状態における疎水性という2つの要求に起因して、溶剤型塗布処理法よりも多くの制約を受ける。
【0019】
特に、超疎水性塗料の塗布に際しては、異なる工程において表面構造と低表面エネルギー被膜を構築することに起因して、しばしば複数の工程を必要とする。さらに、疎水性種のカプセル化と分散のために標準的な水中油型エマルションを用いる方法は、乾燥時の被覆表面上に乳化剤(例えば、界面活性剤)を残存させるために該表面のぬれ性(wetting)を高める。
【0020】
従来技術による方法の別の問題点には、使用する塗料が毒性の成分を含有することがあるという問題点、及び該塗料はコスト高な原料を用いて調製されるために、既存の方法や装置を用いて、例えば、紙等に対して簡便に塗布することができないという問題点が含まれる。
【0021】
高疎水性塗料に関連する従来技術における別の問題点には、シラン処理及び/又はフッ素化処理した成分を使用するという問題点が含まれる。この種の成分はコスト高であるだけでなく、この種の成分の製造及び該成分を含有する塗料のライフサイクル(life cycle)の両方の観点から環境に対して悪影響を及ぼす。
【0022】
従来技術におけるさらに別の問題点は、疎水性塗料を塗布するためには複数の工程を必要とするということである。この場合、しばしばより多くの原材料の使用及び塗布に際してのより複雑なプロセスが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第3940385号明細書
【特許文献2】独国特許公報DE 1033561
【特許文献3】米国特許公報US 2002/0002932
【特許文献4】国際公開公報WO 2005/042655
【特許文献5】英国特許公報GB 1452674
【特許文献6】米国特許第2576914号明細書
【特許文献7】日本国特開平2005−036173号公報
【特許文献8】米国特許公報US 2006/0141223 A1
【特許文献9】国際公開公報WO 2001/062863 A1
【特許文献10】米国特許公報US 2006/0257643 A1
【特許文献11】仏国特許第2852966号明細書
【特許文献12】米国特許第6712932号明細書
【特許文献13】米国特許第6660363号明細書
【特許文献14】米国特許公報US 2005/0136217 A1
【特許文献15】米国特許公報US 2006/0257643
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従って、従来技術における上述の諸問題をもたらすことなく、表面の疎水化に有効な代替塗料が要請されており、本願発明はこのような要請に応えるためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
即ち、本願発明は、疎水性塗料を製造するために適した水性分散液であって、a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有し、有機溶剤を含有しない該水性分散液に関する。
【0026】
また、本発明は、本発明による水性分散液を支持体(substrate)と接触させることによって該支持体が該水性分散液により少なくとも部分的に被覆された被覆体であって、該被覆体の表面が、該表面上の水滴に対して>120°(好ましくは>135°、より好ましくは>150°)の平衡接触角を示す該被覆体にも関する。
【0027】
さらに、本発明は、a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する水性分散液の支持体表面上への塗料としての使用であって、該塗料を塗布した後の該表面が、該表面上の水滴に対して>120°(好ましくは>135°、最も好ましくは>150°)の平衡接触角を示す該使用にも関する。
【0028】
さらにまた、本発明は、本発明による水性分散液を支持体と接触させることを含む該支持体の被覆方法にも関する。
【0029】
本発明の種々の実施態様は、特許請求の範囲の従属項に記載されており、これらの従属項の記載内容も、本願明細書の一部を成すものとして、本願明細書に組み込まれる内容である。
【0030】
従来技術における上述の少なくともいくつかの問題点を解消すること並びに水性分散液、該水性分散液で被覆された物品及び該水性分散液の使用法を提供することも本願発明の目的である。
【0031】
本願発明の利点には、塗料の一段階での塗布が可能であるということ、食品包装に対して毒性がなくて安全であるということ、環境に対して比較的優しいということ、及び安価であるということが含まれる。また、本願発明の別の利点は、塗料の塗布のために既存の工業的な塗布方法が利用できることである。本願発明のさらに別の利点は、シラン又はフッ素化成分を使用することなく、高疎水性又は超疎水性の塗料を得ることが可能であるということである。
【0032】
定義
本願発明を詳細に開示して説明する前に、本願発明が、本願明細書に開示されている特定の成分、形状、方法の段階、支持体及び材料に限定されないということが理解されているべきである。何故ならば、この種の成分、形状、方法の段階、支持体及び材料はある程度変更させてもよいからである。また、本願明細書において使用する専門用語は、特定の実施態様のみを記載する目的で使用するものである。何故ならば、本願発明の範囲は、本願の「特許請求の範囲」とその均等範囲によって限定されるからである。
【0033】
本願明細書と特許請求の範囲において使用されている不定冠詞及び定冠詞によって修飾される単数表現には、その前後の記載において特に明記されていない限り、複数の指示物も包含される。
【0034】
本願明細書と特許請求の範囲において記載されている数値に関連して使用される「約」という用語は、真の値が表示値よりも10%高い値までの値でありうること、又は表示値よりも10%低い値までの値でありうることを意味する。
【0035】
特に定義されない限り、本願の明細書と特許請求の範囲において使用されている用語と科学的専門用語は、本願発明が属する技術分野の当業者によって一般液に理解されている意味を有するものである。
【0036】
以下の用語は本願の明細書と特許請求の範囲を通じて使用される。
「針状(acicular)」という用語は、針のような形状を示すために使用される。
「酸化防止剤(antioxidant)」という用語は、酸化の防止、遅延及び/又は抑制を可能にする物質を示すために使用される。
「見掛け密度(apparent density)」という用語は、当該物質に固有の気孔を含む該物質の単位体積中の乾燥質量を示すために使用される。
「水性分散液(aqueous dispersion)」という用語には、水を含有する混合物が包含される。
【0037】
「アラゴナイト(aragonite)」という用語は、炭酸カルシウムの天然に一般的に存在する2つの多形体のうちの一方の炭酸塩鉱物を示す。他方の多形体は鉱物質カルサイトである。アラゴナイトの結晶格子はカルサイトの結晶格子とは異なるために、異なる結晶形態(針状結晶を有する斜方晶系)がもたらされる。反復する双晶化(twinning)によって、疑似六方晶形態がもたらされる。アロゴナイトは柱状又は繊維状の形態を有していてもよく、場合によっては、分枝状の鍾乳石状形態(stalactitic form)を有していてもよい。
【0038】
「殺生物剤(biocide)」という用語は、生存生物の増殖の防止、遅延及び/又は抑制を可能にする物質を示すために使用される。
「融合助剤(coalescence agent)」という用語は、融合を惹起するか、又は促進する薬剤を示すために使用される。
「架橋(crosslink)」という用語は、1つのポリマーを別のポリマーと結合させる結合を示すために使用される。
【0039】
「D50」という符号は、粒子の質量−加重粒度分布の第50百分位数(percentile)を示すために使用される。従って、無機粒子の50%はD50よりも大きな粒度を有し、無機粒子の50%はD50未満の粒度を有する。粒度は、粒子が大きな凝集塊になるように凝集しないときには、一次粒子に対して測定されるが、粒子が凝集して大きな凝集塊になるときには、凝集塊のサイズが測定される。
【0040】
「脱泡剤(deforming agent)」という用語は、発泡の防止、遅延及び/又は抑制を可能にする物質を示すために使用される。
「殺真菌剤(fungicide)」という用語は、真菌の増殖の防止、遅延及び/又は抑制を可能にする物質を示すために使用される。
【0041】
「高疎水性の」という用語は、表面上の水滴に対する平衡接触角が120°〜150°の表面を示すために使用される。
「超疎水性の」という用語は、撥水性を示すために使用される。疎水性の表面は、接触角が90°よりも大きくて120°よりも小さな表面である。
【0042】
「無機粒子」という用語には、いずれの形態を有する無機粒子も包含される。
「蛍光増白剤(optical brightener)」という用語には、電磁スペクトルの紫外領域と紫色領域において光を吸収し、青色領域において再発光する染料が包含される。
「高分子量バインダー」という用語は、ポリマーであるバインダーを示す。
「流動性調節剤(rheology modifier)」という用語は、流体の流動性を調節することができる物質を示す。
【0043】
「偏三角面体」という用語は、斜方六面体系に属するピラミッド形角錐体であって、各面が不等辺三角形である12個の面によって包囲される該角錐体を意味する。
「物質」という用語は、純粋な又は不純な化合物又は化合物の混合物を意味する。例えば、鉱物はこの用語に包含される。
「超疎水性表面」という用語は、当該表面上の水滴に対して150°よりも大きな平衡接触角を示す表面を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明によれば、a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する水性分散液であって、有機溶剤を含有しない該水性分散液が提供される。
【0045】
この場合、「有機溶剤を含有しない」ということは、該水性分散液が有機溶剤を実質上含有しないということを意味する。この場合、有機溶剤とは、炭素を有する化学物質である。有機溶剤を実質上含有しないということは、非常に少量の有機溶剤は存在していてもよいということを意味する。このような少量の有機溶剤は外部から添加されるものではなく、配合成分の不純物に起因して存在していてもよいものである。
【0046】
場合によっては存在することもある有機溶剤の量としては、特に限定的ではないが、0.001〜0.01重量%が例示される。1つの実施態様においては、水性分散液中の有機溶剤の量は0.01重量%未満であり、別の実施態様においては、有機溶剤は全く存在しない。水性分散液が有機溶剤を含有しないということは、環境に優しくて食品用の用途に対して安全であるという観点から有利である。
【0047】
本発明によれば、a)アラゴナイト含有無機粒子であって、20μm未満のD50を有する該無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する水性分散液が提供される。
【0048】
無機粒子の含有量は、1つの実施態様においては、水性分散液の約20重量%〜約55重量%であり、別の実施態様においては、約30重量%〜約45重量%であり、さらに別の実施態様においては、約30重量%〜約40重量%である。
【0049】
少なくとも1種の脂肪酸又はその塩の含有量は、1つの実施態様においては、水性分散液の約0.1重量%〜約2重量%であり、別の実施態様においては、約0.5重量%〜約1重量%であり、さらに別の実施態様においては、約0.7重量%〜約0.8重量%である。
【0050】
高分子量バインダーの含有量は、1つの実施態様においては、水性分散液の約5重量%〜約20重量%であり、別の実施態様においては、約8重量%〜約15重量%であり、さらに別の実施態様においては、約10.5重量%〜約12重量%である。
【0051】
水と所望による添加剤は100重量%までの残りの量を占める。
【0052】
1つの実施態様においては、本発明による無機粒子は、約0.30g/ml〜約4g/mlの見掛け密度及び約1〜20m/gのBET比表面積を有する。
【0053】
本発明の1つの実施態様においては、無機粒子は以下の特性を有する:
1)見掛け密度:約0.30g/ml〜約2.7g/ml、好ましくは約0.30g/ml〜約0.80g/ml、最も好ましくは約0.30g/ml〜約0.65g/ml。
2)BET比表面積:約1〜20m/g、好ましくは>約3m/g、より好ましくは>5m/g。
3)D50:約20μm未満、好ましくは約1〜約1μm、最も好ましくは約2〜5μm。
【0054】
本発明の別の実施態様においては、無機粒子は以下の特性を有する:
1)見掛け密度:約1g/ml〜約4g/ml、好ましくは約2g/ml〜約3.5g/ml、最も好ましくは約2.5g/ml〜約2.9g/ml。
2)BET比表面積:約1〜20m/g、好ましくは>約6m/g、より好ましくは>9m/g。
3)D50:約10μm未満、好ましくは約0.1〜約5μm、最も好ましくは約0.2〜2μm。
【0055】
本発明において使用される無機粒子は、異なる特性を有する異なる無機粒子の混合物を含有していてもよい。
【0056】
1つの実施態様においては、本発明において使用される無機粒子は、アナターゼ、焼成クレー、カオリン、及び塩基性表面を有するタルクから成る群から選択される少なくとも1種の物質を含有する。
【0057】
別の実施態様においては、本発明において使用される無機粒子は、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、方解石、硫酸カルシウム、ドロマイト、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネサイト、二酸化トタン(ルチル)及びバテライト(vaterite)から成る群から選択される物質を含有する。
【0058】
さらに別の実施態様においては、本発明において使用される無機粒子は、紅亜鉛鉱、コランダム、ヘマタイト、マグネタイト、チタン鉄鉱及びスズ石から成る群から選択される少なくとも1種の物質を含有する。
【0059】
さらにまた別の実施態様においては、本発明において使用される無機粒子は、ディスポア(dispore)、ベーム石、針鉄鉱、燐鉄鉱、菱マンガン鉱、菱鉄鉱、重土、ストロンチアナイト、リン灰石、長石及び蛍石から成る群から選択される少なくとも1種の物質を含有する。
【0060】
他の実施態様においては、本発明において使用される無機粒子はSiOを含有する。
【0061】
無機粒子は、好ましくは炭酸カルシウム、より好ましくは沈降炭酸カルシウム、最も好ましくはアラゴナイトを含有する。
【0062】
1つの実施態様においては、無機粒子は脂肪酸又はその塩を用いて表面処理される。1種又は複数種の脂肪酸を使用することの利点には、脂肪酸はシランに比べて安価であるということ、容易に入手できるということ、及び多くの産業において利用されているということが含まれる。適当な方法により、脂肪酸は炭酸カルシウム含有無機粒子と相互作用させることができ、また、多くの脂肪酸は、食品と接触することに対して認可されている。脂肪酸又はその塩を含有する水溶液または水性分散液を無機粒子と接触させることによって該無機粒子は脂肪酸又はその塩によって被覆される。
【0063】
1つの実施態様においては、脂肪酸又はその塩を含有する水溶液又は水性分散液は、バインダーをさらに含有する。
【0064】
別の実施態様においては、該被覆処理は、脂肪酸又はその塩を含有する個別の水溶液又は水性分散液中でおこなわれる。
【0065】
1つの実施態様においては、無機粒子の被覆処理は個別の水溶液又は水性分散液中でおこなわれる。
【0066】
1つの実施態様においては、無機粒子は、数種の異なる脂肪酸又はこれらの塩を用いて被覆される。この場合、所望により、被覆処理は数段階でおこなってもよい。
【0067】
1つの実施態様においては、脂肪酸又はその塩は無機粒子の全表面上に被覆層を形成するか、あるいは脂肪酸又はその塩は無機粒子の表面を部分的に被覆する。
【0068】
1つの実施態様においては、塗料は少なくとも1種の界面活性剤を含有する。
【0069】
脂肪酸又はその塩の含有量は、無機粒子を水中へ分散させるために十分な量にすべきである。
【0070】
1つの実施態様においては、脂肪酸又はその塩の量は、無機粒子の表面上に二重分子層が形成される量に相当する。
【0071】
このようにして、無機粒子は水中に分散可能となるか、又は水中への分散能が改善される。
【0072】
塗膜に適度な粗さを付与する比較的低い充填率(packing)を有する無機粒子が好ましい。1つの実施態様においては、粒度分布の狭い無機粒子が使用されるが、別の実施態様においては、凝集することによってより大きな二次粒子を形成した無機粒子が使用される。
【0073】
1つの実施態様においては、無機粒子は針状又は偏三角面体状である。しかしながら、無機粒子の形態はこれらの形態に限定されない。また、本発明による別の実施態様においては、他のとげ状形態、釘状形態及び針に類似する形態を有する無機粒子が使用される。その他の使用可能な形態には、特に限定的ではないが、クリの殻状形態が含まれる。
【0074】
1つの実施態様においては、粒径が小さく、密度が低く、高い比表面積を有する粒子が使用される。
【0075】
1つの実施態様においては、識別し得る程度の分散剤残渣を含まない無機粒子が使用される。一部の実施態様においては、アラゴナイト含有粒子の製造中に添加される分散剤が、該粒子表面上への脂肪酸又はその塩の吸着を妨げるということが判明している。この種の望ましくない分散剤としては、特に限定的ではないが、ポリアクリル酸ナトリウムのポリマー及びコポリマーが例示される。従って、一部の実施態様においては、分散剤を全く添加しないか、又は非常に少量添加した無機粒子を使用することが重要である。
【0076】
1つの実施態様においては、無機粒子として針状アラゴナイト、特に約0.1〜約20μm、好ましくは約0.2〜約10μmのD50を有する針状アラゴナイトが使用される。当該表面上の水滴に対して高い接触角を示す塗料がアラゴナイトによってもたらされることが判明している。
【0077】
別の実施態様においては、PCC(沈降炭酸カルシウム)及び/又はGCC(重質炭酸カルシウム)が使用される。
【0078】
飽和若しくは不飽和脂肪酸又はその塩が使用される。線状若しくは分枝状炭化水素鎖を有する脂肪酸又はその塩が使用される。脂肪酸又はその塩は、好ましくは8〜22個、より好ましくは10〜18個の炭素原子を有する。1つの実施態様においては、脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸及びパルミチン酸から成る群から選択される。
【0079】
別の実施態様においては、上記の脂肪酸の塩が使用される。脂肪酸塩の対イオンはいずれかの適当なイオンである。このような対イオンとしては、特に限定的ではないが、ナトリウムイオン及びアンモニウムイオンが例示される。この種の対イオンを含む塩は一般的で安価な塩である。
【0080】
1つの実施態様においては、脂肪酸とその塩は併用される。
【0081】
バインダーとしては、特に限定的ではないが、カルボキシル化ラテックス、スチレン−ブタジエンラテックス及びスチレンアクリレートが例示される。この種のカルボキシル化ラテックスは、主としてカルボキシル化によって安定化されたラテックス又はエマルションポリマーである。1つの実施態様においては、バインダーのガラス転移温度は約−40℃〜約50℃である。別の実施態様においては、バインダーのガラス転移温度は約0℃〜約50℃である。
【0082】
高分子量バインダーとしては、特に限定的ではないが、下記の市販品が例示される:
1)ドウ・ケミカル社製の「DL 940」(登録商標)及び実験ラテックス「Dow/HPQ73」(登録商標)、及び
2)ロジア社製の「ウルトラジア(Ultradia)(登録商標)7100」、「ウルトラジア7300」及び「ウルトラジア7400」。
【0083】
周知のように、合成ラテックスは、1種又は複数種のモノマーの乳化重合によって調製されるポリマー粒子の水性分散液である。
【0084】
1つの実施態様においては、ラテックスの調製に使用されるモノマー組成物は、約10〜95pphm の第1モノマー(A)、約40〜90pphmの第2モノマー(B)及び0〜約5pphmの機能性モノマー(C)を含有する。当業者には周知のように、「pphm」という単位は「parts per hundred monomer」の略語である。従って、使用するモノマーの全重量部は100重量部である。
【0085】
第1モノマー(A)は、アルキルアクリレート又はブタジエンを含む低いTgを有するモノマーである。低いTgを有するモノマーの使用量は約10〜約95pphm、好ましくは15〜40pphmである。
【0086】
低いTgを有するモノマーとしては、特に限定的ではないが、10℃未満のTgを有するモノマーが例示され、また、この種のモノマーとしては下記のモノマーが挙げられる:
アクリル酸のC〜C10アルキルエステル、α,β−エチレン性不飽和C〜Cモノカルボン酸のC〜C10アルキルエステル、α,β−エチレン性不飽和C〜Cジカルボン酸のC〜C10ジアルキルエステル、カルボン酸のビニルエステル(該ビニルエステルには、特に限定的ではないが、ビニルイソブチレート、ビニル−2−エチル−ヘキサノエート、ビニルプロピオネート、ビニルイソオクタノエート及びビニルヴェルサテートが含まれる)、及びブタジエン。
【0087】
低いTgを有するモノマーは、(メタ)アクリル酸のC〜C10アルキルエステル(即ち、アルキル(メタ)アクリレート)並びにマレイン酸、イタコン酸及びフマル酸のC〜Cジアルキルエステルから成る群から選択することができる。好ましくは、アクリル酸のC〜Cアルキルエステルを少なくとも1種使用する。低いTgを有する特に好ましいモノマーには、特に限定的ではないが、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ジブチルマレエート、ジオクチルマレエート及びブタジエンが含まれるが、ブタジエンが最も好ましい。第1モノマーの混合物を使用することができる。
【0088】
第2モノマー(B)は、10℃よりも高いTgを有するモノマー、例えば、2〜約13個の炭素原子を有するカルボン酸のビニルエステル及びスチレン等である。高いTgを有する代表的なコモノマーには、特に限定的ではないが、メチルメタクリレート、ジメチルマレエート、t−ブチルメタクリレート、t−ブチルイソボルニルアクリレート、フェニルメタクリレート、アクリロニトリル、10℃よりも高いTgを有するカルボン酸のビニルエステル及びスチレンが含まれる。
【0089】
この種のビニルエステルとしては、特に限定的ではないが、ビニルピバレート、ビニルネオデカノエート、ビニルネオノナノエート、及び分枝状ビニルエステル、例えば市販品「ヴェオバ(VeoVa)11」及び「エキサー(EXXAR)ネオ−12」が例示される。1つの実施態様においては、第2モノマーの使用量は約40pphm〜約90pphm、好ましくは60pphm〜85pphmである。高いTgを有するコモノマーの混合物を使用することができる。
【0090】
高分子量バインダー中には、少量の1種又は複数種の機能性コモノマー(C)を配合することが望ましい。適当な共重合性コモノマー(C)としては、特に限定的ではないが、次の化合物が例示される:アクリル酸;メタクリル酸;イタコン酸;フマル酸;マレイン酸の半エステル、例えばモノエチルマレエート、モノブチルマレエート及びモノオクチルマレエート;アクリルアミド;t−オクチルアクリルアミド;N−メチロール(メタ)アクリルアミド;N−ビニルピロリジノン;ジアリルアジペート;トリアリルシアヌレート;ブタンジオールジアクリレート;アリルメタクリレート等;C〜Cヒドロキシアルキルエステル、例えばヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート及び対応するメタクリレート。
【0091】
コモノマー(C)の一般的な使用量は、特定のコモノマーの性状に応じて、5pphm未満、好ましくは2.5pphm未満である。コモノマー(C)の混合物を使用することができる。
【0092】
さらに、バインダーの安定性を補助する共重合性モノマー、例えばビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルエーテル硫酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS)、2−スルホエチルメタクリレート及び2−スルホプロピルメタクリレート等を乳化安定剤として使用することができる。このような任意のモノマーを使用する場合、その添加量は非常に少量(0.1pphm〜約2pphm)である。
【0093】
合成ラテックスの調製方法は当該分野においては周知であり、いずれの方法も使用することができる。
【0094】
適当なラジカル重合開始剤は、乳化重合を促進することが知られている開始剤である。この種の開始剤には、特に限定的ではないが、水溶性酸化剤、例えば有機過酸化物(例えばt−ブチルヒドロ過酸化物、クメンヒドロペルオキシド等)、無機酸化剤(例えば過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)、及び水溶性還元剤によって水相中で活性化される開始剤が含まれる。この種の開始剤の使用量は、重合を惹起するために十分な量であり、一般的には、約0.1pphm〜約5pphmである。
【0095】
あるいは、特に重合を低温でおこなう場合には、レドックス開始剤を使用してもよい。例えば、上述の過硫酸塩及び過酸化物開始剤のほかに、還元剤を使用してもよい。代表的な還元剤には、特に限定的ではないが、次の還元剤が含まれる:ヒドロ亜硫酸のアルカリ金属塩、スルホキシル酸のアルカリ金属塩、チオ硫酸のアルカリ金属塩、亜硫酸のアルカリ金属塩、重亜硫酸のアルカリ金属塩、還元糖(例えば、グルコース、ソルボース、アスコルビン酸、エルトルビン酸等)。一般的には、還元剤の使用量は約0.01pphm〜約5pphmである。
【0096】
乳化剤は、乳化重合において一般的に使用されているものである。乳化剤は、アニオン性若しくはカチオン性の界面活性化合物又はこれらの混合物であってもよい。
【0097】
適当なノニオン性乳化剤には、特に限定的ではないが、ポリオキシエチレン縮合物が含まれる。使用することができるポリオキシエチレン縮合物としては、特に限定的ではないが、次の化合物が例示される:ポリオキシエチレンの脂肪族エーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリオキシエチレンオレイルエーテル;ポリオキシエチレンアルカリールエーテル、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル及びポリオキシエチレンオクリルフェノールエーテル;高級脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、例えば、ポリオキシエチレンラウレート及びポリオキシエチレンオレエート並びに樹脂酸/タル油酸とエチレンオキシドとの縮合物;ポリオキシエチレンアミド及びアミン縮合物、例えば、N−ポリオキシエチレンラウラミド及びN−ラウリル−N−ポリオキシエチレンアミン等;ポリオキシエチレンチオエーテル、例えば、ポリオキシエチレンn−ドデシルチオエーテル等。
【0098】
使用することができるノニオン性乳化剤には、特に限定的ではないが、BASF社から「プルロニック(Pluronic)」(登録商標)及び「テトロニック(Tetronic)」(登録商標)という商品名で市販されている一連の界面活性剤が含まれる。さらに、一連のアセチレン性グリコールのエチレンオキシド付加物であって、エア・プロダクツ社から「スルフィノール(Surfynol)」(登録商標)という商品名で市販されている製品はノニオン性乳化剤として適当である。
【0099】
代表的なアニオン性乳化剤には、特に限定的ではないが、アルキルアリールスルホネート、アルカリ金属アルキルスルフェート、スルホン化アルキルエステル及び脂肪酸セッケンが含まれる。具体的なこの種の乳化剤には、特に限定的ではないが、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸二ナトリウム、N−オクタデシルスルホサクシネート及びジオクチルナトリウムスルホサクシネートが含まれる。乳化剤は、水性相において十分な乳化を達成すると共に、所望の粒度と粒度分布を得るために十分な量で使用される。
【0100】
乳化重合における種々の特定の目的に対して有用な成分であるとして当該分野において知られているその他の成分、例えば酸、塩、連鎖移動剤、キレート化剤、緩衝剤、中和剤、脱泡剤及び可塑剤もポリマーの調製において使用してもよい。例えば、重合性成分がモノエチレン性不飽和カルオン酸モノマーを含む場合には、酸性条件下(pH:2〜7、好ましくは2〜5)での重合が好ましい。このような場合、所望のpH範囲において緩衝化系を形成させるために一般的に使用される既知の弱酸及びその塩を水性媒体中へ含有させることができる。
【0101】
上記の乳化剤の代わりに又は該乳化剤と共に、種々の保護コロイドを使用してもよい。適当な保護コロイドには、特に限定的ではないが、乳化重合技術の分野において知られているような次のコロイドが含まれる:カゼイン、ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸塩、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びポリエーテル等。この種のコロイドを使用する場合、該コロイドの一般的な使用量は、反応容器内の全内容物に基づいて0.05〜10重量%である。
【0102】
重合成分の配合法は、種々の既知のモノマー供給法、例えば連続的なモノマー添加法、漸増的なモノマー添加法、又はモノマーの全量を1回の装填で添加する方法等によっておこなうことができる。重合添加剤を含有する水性媒体の全量は、モノマーの導入前に、重合反応容器内に存在させていてもよく、あるいは、該水性媒体の全量又はその一部は、重合過程中において、連続的に又は漸増的に添加してもよい。
【0103】
ラテックスの最終的な粒度は30nm〜1500nmの範囲内で変化させることができる。
【0104】
バインダーの量は、塗料が所望の接着性、機械的強度及び疎水性を示すように十分に多くすべきであるが、塗料の疎水性が、無機粒子を沈降させるバインダーによって低下するほど過度に多くすべきではない。当業者であれば、この記載内容を考慮した上で、バインダーの量を、本願明細書に記載の範囲内において調整することができる。
【0105】
カルボキシル化ラテックスのカルボキシル化度は、塗料中の脂肪酸の量に対して適合させるべきである。バインダー中のカルボキシル基の総数を、脂肪酸のカルボキシル基の総数よりも多くすることは望ましくない。従って、一般に、低濃度の脂肪酸に対しては、カルボキシル化度の低いラテックスが最良の機能を発揮する。
【0106】
上記の塗料の調製法は、本願発明によるいくつかの方法によっておこなうことができる。1つの実施態様においては、該調製法には、高分子量バインダーの水性溶液を、脂肪酸と無機粒子との混合物と混合する工程が含まれる。別の実施態様においては、無機粒子を脂肪酸で被覆する工程が含まれる。該被覆過程は、脂肪酸と無機粒子との混合物中でおこなわれる。
【0107】
1つの実施態様においては、水性分散液は、高分子量バインダーの水性分散液を、無機粒子と少なくとも1種の脂肪酸又はその塩との混合物と混合させることによって調製される。
【0108】
1つの実施態様においては、無機粒子と少なくとも1種の脂肪酸又はその塩との混合物は、下記の工程a)〜c)によって調製される:
a)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を水と混合し、
b)無機粒子を水と混合し、次いで
c)上記の工程a)で得られた混合物と工程b)で得られた混合物を混合する。
【0109】
別の実施態様においては、無機粒子と少なくとも1種の脂肪酸又はその塩との混合物は、下記の工程a)及びb)によって調製される:
a)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を水と混合し、次いで
b)上記の工程a)で得られた混合物を無機粒子と混合する。
【0110】
1つの実施態様においては、少なくとも1種の脂肪酸又はその塩を無機粒子と混合した後、高分子量バインダーを該無機粒子と少なくとも15分間混合する。
【0111】
1つの実施態様においては、本願発明による水性分散液は界面活性剤をさらに含有する。水性分散液中において界面活性剤を使用する場合、界面活性剤は、脂肪酸又はその塩の添加前、添加と同時又は添加後に添加することができる。所望による界面活性剤は、高分子量バインダーの添加前、添加と同時又は添加後に添加することができる。界面活性剤としては、塗料に不都合な影響を及ぼさないものが選択される。カチオン性界面活性剤は好ましいものではない。界面活性剤としては、特に限定的ではないが、リン酸アルキルエステル界面活性剤、ジホスホネート界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフルオロ界面活性剤並びにこれらの塩等が例示される。
【0112】
1つの実施態様においては、水性分散液は添加剤をさらに含有する。添加剤としては、特に限定的ではないが、次の群から選択される少なくとも1種の添加剤が例示される:酸化防止剤、殺生物剤、融合助剤、有色無機粒子、架橋剤、脱泡剤、染料、殺真菌剤、滑剤、蛍光増白剤、流動性改質剤及びこれらの任意の混合物。この種の添加剤としては、水性分散液のその他の成分と混和性を示すものが好ましい。
【0113】
本発明は、次の工程a)及びb)を含む高疎水性又は超疎水性塗料を用いる支持体の被覆方法を提供する:a)水性分散液を調製し、次いでb)該水性分散液を支持体と接触させる。この被覆方法によって、支持体の表面に疎水性、高疎水性又は超疎水性が付与される。
【0114】
1つの実施態様においては、次の成分a)〜d)を含有する水性分散液を支持体と接触させることを含む支持体の被覆方法が提供される:a)アラゴナイトを含有する無機粒子であって、20μm未満のD50を有する該無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水。
【0115】
上記の水性分散液は、被覆されるべき支持体と接触させる。1つの実施態様においては、支持体に水性分散液を接触させた後、該支持体は乾燥処理に付される。1つの実施態様においては、支持体上の乾燥被膜の厚さは約3〜約40μmである。別の実施態様においては、支持体上の乾燥被膜の厚さは約8〜約25μmである。
【0116】
高分子量バインダーの含有量は、無機粒子の表面積を含むいくつかの可変因子によって左右される。強度特性の観点からは、該表面積が大きければ大きいほど、より多量の高分子量バインダーが必要となる。
【0117】
1つの実施態様においては、本発明による水性分散液を支持体と接触させた後、該支持体は加熱処理に付される。加熱処理は、短い乾燥時間と速い加工速度が要求される場合には特に有用である。1つの実施態様においては、高分子量バインダーの特性は、熱による硬化によって改善される。紙又は紙に類似する材料が支持体の場合、1つの実施態様においては、加熱処理は、被覆紙(coated paper)の含水量を低減させるためにおこなわれる。1つの実施態様においては、加熱処理は、いずれかの他の支持体の含水量を低減させるためにおこなわれる。
【0118】
別の実施態様においては、被覆された対象物は、付加的な加熱処理には付すことなく、乾燥処理に付される。1つの実施態様においては、乾燥処理と加熱処理が併用される。
【0119】
1つの実施態様においては、支持体の被覆方法には、次の群から選択される少なくとも1つの被覆法が含まれる:吹付塗布法、浸漬被覆法、ロール塗布法、自由噴流塗布法、ブレード計量化法(blade metering)、ロッド計量化法(rod metering)、計量化フィルムプレス被覆法(metered film press coating)、エアナイフ塗布法、流し塗布法(curtain coating)、フレキソ印刷法、ロール被覆法及び粉体被覆法。
【0120】
本発明による塗料は、多種多様な支持体へ塗布してもよい。
【0121】
本発明によれば、本発明による方法によって被覆された被覆体が提供される。
【0122】
医療用機器の塗装も可能である。
【0123】
1つの実施態様においては、本発明による塗料は高い疎水性を示す。即ち、該塗料は120°〜150°の平衡接触角を示す。別の実施態様においては、該平衡接触角は135°よりも大きくなる。本発明を利用する場合には、150°よりも大きな平衡接触角を示す超疎水性塗料を製造することも可能である。
【0124】
従って、本発明による水性分散液を支持体と接触させることによって少なくとも部分的に被覆された被覆体であって、該被覆体の表面上の水滴に対して>120°、好ましくは>135°、より好ましくは>150°の平衡接触角を示す該被覆体が提供される。
【0125】
1つの実施態様においては、塗装に使用される水性分散液は次の成分a)〜d)を含有する:a)アラゴナイトを含有する無機粒子であって、20μm未満のD50を有する該無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水。
【0126】
1つの実施態様においては、支持体は部分的に被覆され、また、別の実施態様においては、支持体は完全に被覆される。
【0127】
本発明の利点には、塗料による1工程での塗布が可能であること、非毒性であること、食品との接触が認可されていること、安価であること、環境に優しい方法による塗料の製造が可能であることが含まれる。また、本発明の別の利点は、既存の工業的塗装プロセスを利用することによって当該塗料を塗布することができるということである。さらにまた、本発明の別の利点は、スタンピング(stamping)又はエッチング(etching)を必要とすることなく、疎水性表面を形成させることができるということである。
【0128】
本発明は、本願明細書に記載されている特定の実施態様に限定されるものではない。以下の実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の範囲は、本願の特許請求の範囲及びこれと均等の範囲によって制限される。
【実施例】
【0129】
下記の方法は、以下の全ての実施例に適用される。
(1)乾燥染みサイズ(dry stain size)の測定
染み試験においては、ピペットを用いて自動的に採取した青色染料水溶液の正確な量の液滴(9μl、即ち、液滴の直径:2.58mm)5滴を被覆表面上へ滴下する(液滴の底部から被覆表面までの距離は1.9mmに固定する)。青色染料は、水を完全に蒸発させた後に残存する染みサイズの目視観察を容易にするために添加する。着色水の表面張力は、着色しない脱イオン水の表面張力と同一である。試料を温度が23℃で、相対湿度が50%の条件下で保存し、水を完全に蒸発させた後の乾燥染みの最終的な縦方向(MD)と横方向(CD)のサイズをスライド式計測器で測定する。
【0130】
以下に示す値は、これらの2方向において測定した5滴についての平均値である。これらの値は、接触前の液滴の直径(2.58mm)で染みの直径を割り算することによる無次元で表示される。この尺度は、長時間にわたる表面上の広がり及び上部被覆層と下層の内部における内層面上の浸透と広がりに対する支持体の全体的な耐性に関する。疎水性表面は、当初の液滴の直径よりも小さな染み直径をもたらす。この方法を利用することによって、疎水性に関する試料の性能をランク付けることができる。
【0131】
(2)初期接触角の測定
被覆シート上における脱イオン水(青色染料を含有しない脱イオン水)の短時間の接触角をラメ−ハルト測角計を用いて手動で測定する。この場合、上述の染み試験の場合と同じ自動ピペット、液滴及び手順(異なる場所に5滴を滴下する)を採用する。接触から増大する角度を測定するまでの時間は約10秒である。これは、最初の接触時の水滴に対する支持体の撥水能を反映する短時間の疎水性の標準的な尺度である。水滴は、高疎水性又は超疎水性の支持体との最初の接触時に転がったり跳ねたりするので、手動式の側角計の使用は簡便である。接触角の測定に関しては、次の文献に詳細に記載されており、該文献の全記載内容も本願明細書の一部を成すものである:ストロムら、J. Colloid Interface Sci. 、第123巻、第2号、第324頁〜第338頁、1988年。
【0132】
(3)ローリング角(rolling angle)の測定
水滴のローリング試験は、傾斜テーブルを利用しておこなう。染み試験の場合と同様にして、前記と同じ青色染料溶液を自動的にピペットで採取し、5つの角度(水平から2.5°、5°、10°、15°及び20°)に予め固定した被覆試料上に滴下する。自由なローリング(即ち、水滴が、試料のサイズの全範囲(約10cm)にわたって転がる)が発生するための最低角は、支持体に帰属される値である。20°において自由なローリングを示さない場合はスコアがないものとみなした(但し、試験を行わなかったより大きな角度、例えば垂直角においては自由なローリングが発生するかもしれない)。水滴のローリングが、増大する初期接触角に密接に依存しているということが予想される(前記の関連事項参照)。
【0133】
実施例1
電磁攪拌機を備えたガラス製ビーカー内において、沈降炭酸カルシウム(PCC)粒子を水及びオレイン酸ナトリウム溶液と混合した。PCCとしては、スペシャルティー・ミネラルズ社製の製品「スターカル(Sturcal)F」(登録商標)を使用した(粒度D50:約2.5μm、見掛け密度:0.32〜0.43g/ml、BET表面積:約6m/g、アラゴナイトの含有量:少なくとも50%)。水中の炭酸カルシウムの全含有量は30重量%であり、オレイン酸ナトリウムの含有量は、顔料の重量あたり1重量%である(乾量基準)。この懸濁液を、実質上均質になるまで混合した。さらに、オレイン酸ナトリウムと炭酸カルシウムを含有する上記の水性懸濁液中へ、顔料の重量あたり30重量%(乾量基準)のスチレン−ブタジエン(SB)ラテックス(ドウ・ケミカル社製の「DL 940」)を添加した。電磁攪拌機を用いてこの懸濁液をさらに混合することによって、実質上均質な混合物を得た。
【0134】
この水性分散液を紙(ストラ・エンソ社製の製品「ペルフォルマ・ナチュラ(Performa Natura)」(登録商標);255g/m)の上に塗布した。水性分散液の塗布はベンチ塗布機(RKプリント−コート・インストゥルメント社製)を用いておこなった。数枚の紙シートを塗布処理に付した後、70℃のオーブン内における乾燥処理に2分間付した。
【0135】
被覆紙上での水接触角をラメ−ハルト側角計を用いて測定した。被膜についておこなった分析に関しては既に十分に説明した。上記の被膜についての接触角は140°であり、正規化された染みのサイズは1.0であった。被覆された支持体のrms粗さを白色光干渉計プロフィルメーター「ニュービユー5010」(ジゴ・コーポレーション社製)を用いて測定したところ、次の長さ目盛(length scale)に対して1.2μm未満であった:0〜5μm、5〜10μm、10〜20μm、20〜40μm、40〜80μm及び80〜170μm。
【0136】
実施例2
実施例1における配合処方を改変し、SB−ラテックスバインダー「DL 940」(ドウ・ケミカル社製の製品)を、顔料の重量あたり30重量%ではなくて、50重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は120°であり、正規化された染みのサイズは1.4であった。rms粗さをジゴ・コーポレーション社製の白色光干渉計プロフィルメーターを用いて測定したところ、次の長さ目盛に対して1.2μm未満であった:0〜5μm、5〜10μm、10〜20μm、20〜40μm、40〜80μm及び80〜170μm。
【0137】
実施例3
実施例1における配合処方を改変し、SB−ラテックスバインダー「DL 940」(ドウ・ケミカル社製の製品)を、顔料の重量あたり30重量%ではなくて、17重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は145°であり、正規化された染みのサイズは2.5であった。
【0138】
実施例4
実施例1における配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムを、顔料の重量あたり1重量%ではなくて、2重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は142°であり、正規化された染みのサイズは0.8であった。水滴(9μl)は、15°の傾斜角においてローリングを示した。
【0139】
実施例5
実施例1における配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムを、顔料の重量あたり1重量%ではなくて、3重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は154°であり、正規化された染みのサイズは0.8であった。水滴(9μl)は、10°の傾斜角においてローリングを示した。
【0140】
実施例6
実施例1における配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムを、顔料の重量あたり1重量%ではなくて、2重量%使用した。さらに、実施例1における配合処方を改変し、SB−ラテックスバインダー「DL 940」(ドウ・ケミカル社製の製品)を、顔料の重量あたり30重量%ではなくて、40重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は146°であり、正規化された染みのサイズは0.9であった。水滴(9μl)は、20°の傾斜角においてローリングを示した。
【0141】
実施例7
実施例1の配合処方を改変し、PCCの別のタイプの顔料としてスペシャルティー・ミネラルズ社製の製品「スターカル(Sturcal)H」(登録商標)を使用した(粒度D50:4.0μm、見掛け密度:0.48〜0.61g/ml、BET表面積:約5m/g、アラゴナイトの含有量:少なくとも50%)。また、実施例1における配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムを、顔料の重量あたり1重量%ではなくて、2重量%使用した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は153°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、5°の傾斜角においてローリングを示した。
【0142】
実施例8
実施例7の配合処方を改変し、SB−ラテックスの代わりに実験グレードのSB−ラテックス「SB/HPQ73」(ドウ・ケミカル社製の製品)を、顔料の重量あたり30重量%使用した。塗装処理は市販の紙(ストラ・エンソ社製の製品「カップフォルマ・クラシック(Cupforma Classic)」(登録商標);230g/m)についておこなった。その他の塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は143°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、10°の傾斜角においてローリングを示した。
【0143】
実施例9
実施例8の配合処方を改変し、塗料中の固形分の総量を34重量%から51重量%へ増加させた。その他の塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は160°であり、正規化された染みのサイズは0.5であった。水滴(9μl)は、2.5°の傾斜角においてローリングを示した。
【0144】
実施例10
実施例8に記載の配合処方を改変し、市販のアンモニウムジルコニウム架橋剤「アルクロス(Allicross)(登録商標)AZC−R」(アリノヴァ社製)を添加した。この架橋剤の乾燥含有量は、乾燥バインダーの重量に基づいて4重量%とした。その他の塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は141°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、15°の傾斜角においてローリングを示した。
【0145】
実施例11
実施例9に記載の配合処方を改変し、市販のラテックス「ロドパス・ウルトラジア(Rhodopas Ultradia)(登録商標)7100」(ロジア社製)を添加した。このバインダーの含有量は、顔料の重量あたり30重量%とした(乾量基準)。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は155°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、2.5°の傾斜角においてローリングを示した。
【0146】
実施例12
実施例11に記載の配合処方を改変し、バインダーとして、市販のラテックス「ロドパス・ウルトラジア(登録商標)7300」(ロジア社製)を添加した。このバインダーの含有量は、顔料の重量あたり30重量%とした。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は154°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、10°の傾斜角においてローリングを示した。
【0147】
実施例13
実施例9に記載の配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムの代わりに、ジホスホネートアルキル界面活性剤を使用した。ジホスホネートアルキル界面活性剤の含有量は、顔料の重量あたり1重量%とした(乾量基準)。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は139°であり、正規化された染みのサイズは0.9であった。
【0148】
実施例14
実施例13に記載の配合処方を改変し、ジホスホネートアルキル界面活性剤を、顔料の重量あたり2重量%使用した。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は136°であり、正規化された染みのサイズは0.9であった。
【0149】
実施例15
実施例8の配合処方を改変し、「スターカル H」顔料の代わりに、PCC「オパカーブ(Opacarb)(登録商標)A40」(スペシャルティー・ミネラルズ社製)(粒度D50:0.4μm、見掛け密度:0.48〜0.61g/ml、BET表面積:12m/g)を使用した。「オパカーブA40」はアラゴナイトを含有する。配合物の全固形分含有量は30重量%とした。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この配合物を使用した場合の接触角は148°であり、正規化された染みのサイズは0.6であった。水滴(9μl)は、10°の傾斜角においてローリングを示した。
【0150】
実施例16
硫酸アルミニウムAl(SO・18HOを水と混合した。この溶液をカオリン(「カオリンC」;ECC社製)(粒度D50<2μm、密度:2.6g/ml、BET表面積:10m/g)と撹拌下で混合することによって実質上均質な混合物を得た。次いで、炭酸ナトリウムの10%溶液を添加し、得られた混合物を再び均質になるまで混合した。得られたスラリーにオレイン酸ナトリウムの5%溶液を添加した。この水性分散液中のカオリンの全含有量は29重量%であり、また、オレイン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム及びAl(SO・18HOの含有量は、顔料の重量(乾量基準)あたり、それぞれ2.4重量%、4.3重量%及び9.4重量%であった。
【0151】
この水性分散液を板紙(ストラ・エンソ社製の製品「カップフォルマ・クラシック」(登録商標);230g/m)の上に塗布した。水性分散液の塗布はベンチ塗布機(RKプリント−コート・インストゥルメント社製)を用いておこなった。数枚の紙シートを塗布処理に付した後、90℃のオーブン内における乾燥処理に2分間付した。得られた被膜における水との接触角は132°であった。
【0152】
実施例17
実施例16で得られた水性分散液中へスチレン−ブタジエンラテックスバインダー「HPQ 73」(ドウ・ユオロップ社製)を添加し、得られた分散液を均質になるまで撹拌処理に付した。ラテックスの含有量は、顔料の重量(乾量基準)あたり30重量%であった。塗装処理と分析は実施例16に記載のようにしておこなった。この被覆支持体に対する接触角は113°であった。
【0153】
実施例18
実施例17に記載の配合処方を改変し、「HPQ 73」の含有量を、顔料の重量(乾量基準)あたり30重量%まで増加させた。塗装処理と分析は実施例16に記載のようにしておこなった。この被覆支持体に対する接触角は90°であった。
【0154】
実施例19
電磁攪拌機を備えたガラス製ビーカー内において、沈降炭酸カルシウム(PCC)粒子を水及びオレイン酸ナトリウム溶液と混合した。PCCとしては、スペシャルティー・ミネラルズ社製の製品「スターカルH」(登録商標)(粒度D50:4.0μm、見掛け密度:0.48〜0.61g/ml、BET表面積:約5m/g、アラゴナイトの含有量:少なくとも50%)を使用した。水中の炭酸カルシウムの全含有量は30重量%であり、オレイン酸ナトリウムの含有量は、顔料の重量あたり2重量%である(乾量基準)。この懸濁液を、実質上均質になるまで混合した後、実施例16で得られた水性分散液中へ添加し、得られた混合物を均質になるまで撹拌混合した。PCC顔料とクレー顔料との割合は、PCCが70%で、クレーが30%であった。この水性分散液中へスチレン−ブタジエンラテックスバインダー(ドウ・ユオロッペ社製の「HPQ 73」)を添加し、得られた分散液を均質になるまで撹拌した。ラテックスの含有量は、顔料の重量(乾燥重量)あたり15重量%であった。塗装処理と分析は実施例16に記載のようにしておこなった。この被覆支持体に対する接触角は123°であった。
【0155】
実施例20
実施例19に記載の配合処方を改変し、PCC顔料とクレー顔料の割合を、PCC50%及びクレー50%とした(乾量基準)。塗装処理と分析は実施例16に記載のようにしておこなった。この被覆支持体に対する接触角は115°であった。
【0156】
実施例21
実施例1の配合処方を改変し、オレイン酸ナトリウムの濃度(顔料の重量あたりの濃度)を、実施例1で使用した1重量%ではなく、2重量%とした。さらに、「DL 940」の代わりに、別のSB−ラテックスバインダー(ドウ・ユオロップ社製の「SHY−7」)を30重量%使用することによって、実施例1の配合処方を改変した。この水性分散液を板紙(ストラ・エンソ社製の製品「カップフォルマ・クラシック」(登録商標)(230g/m)の上に塗布した。水性分散液の塗布はベンチ塗布機(RKプリント−コート・インストゥルメント社製)を用いておこなった。数枚の紙シートを塗布処理に付した後、90℃のオーブン内における乾燥処理に2分間付した。塗装処理と分析は実施例1に記載のようにしておこなった。この被覆支持体についての接触角は148°であり、正規化された染みのサイズは0.7であった。水滴(9μl)は、2.5°の傾斜角においてローリングを示した。
【0157】
実施例22(本発明による実施例ではなく、比較のための実施例)
比較のための配合物は、市販の分散剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製の「ディスペックス(Dispex)N40」)を使用して調製した。粒子としては、スペシャルティー・ミネラルズ社製の製品「PCCオパカーブA40」(登録商標)(粒度D50:0.4μm、密度:2.8g/ml、BET表面積:12m/g)を使用した。ディスペックスの含有量は顔料の重量あたり0.05重量%とし、脂肪酸又はその他の界面活性剤は添加しなかった。塗装処理と分析は実施例8に記載のようにしておこなった。この配合物を使用したときの接触角は71°であり、正規化された染みのサイズは2.1であった。水滴(9μl)は、いずれの傾斜角においてもローリングを示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有し、有機溶剤を含有しない水性分散液。
【請求項2】
a)アラゴナイトを含有する無機粒子(D50:20μm未満)、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する請求項1記載の水性分散液。
【請求項3】
無機粒子が、約0.30g/ml〜約4g/mlの見掛け密度及び約1m/g〜約20m/gのBET比表面積を有する請求項1又は2記載の水性分散液。
【請求項4】
脂肪酸又はその塩が8〜22個の炭素原子を有する請求項1から3いずれかに記載の水性分散液。
【請求項5】
高分子量バインダーが、カルボキシル化ラテックス、スチレン−ブタジエンラテックス及びスチレンアクリレートから成る群から選択される請求項1から4いずれかに記載の水性分散液。
【請求項6】
下記の群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含有する請求項1から5いずれかに記載の水性分散液:
酸化防止剤、殺生物剤、融合助剤、有色無機粒子、架橋剤、脱泡剤、染料、殺真菌剤、滑剤、蛍光増白剤、流動性調節剤及びこれらの任意の混合物。
【請求項7】
ジルコニウム架橋剤をさらに含有する請求項1から6いずれかに記載の水性分散液。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の水性分散液を支持体と接触させることによって少なくとも部分的に塗布された被塗布体であって、該被塗布体の表面が、該表面上の水滴に対して>120°(好ましくは>135°、最も好ましくは>150°)の平衡接触角を示す該被塗布体。
【請求項9】
a)無機粒子、b)少なくとも1種の脂肪酸又はその塩、c)高分子量バインダー及びd)水を含有する水性分散液の支持体表面上への塗料としての使用であって、該塗料を塗布した後の該表面が、該表面上の水滴に対して>120°(好ましくは>135°、最も好ましくは>150°)の平衡接触角を示す該使用。
【請求項10】
無機粒子が針状又は偏三角面体状の無機粒子である請求項9記載の使用。
【請求項11】
無機粒子が、重質炭酸カルシウム及び沈降炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種の粒子を含有する請求項9又は10記載の使用。
【請求項12】
無機粒子がアラゴナイトを含有する請求項9から11いずれかに記載の使用。
【請求項13】
支持体を水性分散液と接触させた後、熱処理に付す請求項9から12いずれかに記載の使用。
【請求項14】
請求項1から7いずれかに記載の水性分散液を支持体と接触させることを含む支持体の塗布方法。
【請求項15】
支持体を水性分散液と接触させた後、さらに熱処理に付す請求項14記載の方法。
【請求項16】
次の群から選択される少なくとも1つの被覆法を含む請求項14又は15記載の方法:吹付塗布法、浸漬被覆法、ロール塗布法、自由噴流塗布法、ブレード計量化法、ロッド計量化法、計量化フィルムプレス被覆法、エアナイフ塗布法、流し塗布法、フレキソ印刷法、ロール被覆法及び粉体被覆法。

【公表番号】特表2010−523753(P2010−523753A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501527(P2010−501527)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054108
【国際公開番号】WO2008/122617
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(509277154)ユーキ・ユトケミスカ・インスティテュテット・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】YKI, YTKEMISKA INSTITUTET AB
【Fターム(参考)】