説明

水性塗料組成物及び塗装方法

【課題】無機質基材または木質基材に対する水分の浸入を抑制するとともに、水分が浸入した場合にはその水分を効率よく外部に拡散させることによって、塗膜の膨れ、剥れ、割れ等を効果的に抑制することができる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】反応性シリル基を有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)、及び前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)を必須成分とし、前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記水分散型撥水剤(B)を固形分で1〜100重量部混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性塗料組成物、及び該水性塗料組成物を用いた塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物や土木構造物等においては、コンクリート、モルタル、サイディングボード、ALC板等の無機質基材や、造作材、集成材・積層材、普通合板、木質繊維板・パーティクルボード等の木質基材が汎用的に使用されている。このうち、コンクリート、モルタル等は、通常、建築物等の施工現場で、セメント、水等を混練したものを硬化させることによって得られる。サイディングボード、ALC板等の無機質建材は、主に、セメント系材料を抄造法、押し出し成形法、注型法等の方法で板状に成形することによって製造されている。
【0003】
しかし、このような無機質基材では、セメントと水等による水和反応が成形時に完結しきれず、活性な成分が残存している場合がある。このような無機質基材に対して降雨等によって外部から水分が浸入すると、基材中に残存した活性成分と水との反応が進行し、基材にひび割れ等が発生するおそれがある。板状の基材においては、反り、寸法変化等が生じるおそれもある。さらに、寒冷地においては、このような無機質基材に外部から水が浸入し凍結融解を繰り返すと、基材内部が破壊される場合がある。また、雨水が酸性化している場合は、セメントの中性化を引き起こし、基材強度を低下させるおそれもある。一方、木質基材に対して外部から水が浸入した場合には、基材の膨張や腐朽等を引き起こすおそれがある。
【0004】
無機質基材や木質基材の表面に塗膜を設けることで、水分の浸入をある程度抑制することは可能である。例えば、特開平10−101458号公報(特許文献1)には、ALC板等の無機質建材の表面に対して、防水性を有する弾性塗材を塗装することが記載されている。また、特開平8-90513号公報(特許文献2)には、木質基材に対してポリウレタン系塗料を用いて塗装を行うことが記載されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献のような塗料で表面塗装を施した無機質基材や木質基材においては、基材の裏面や側面等から水分が基材中に浸入してしまった場合、その水分を効率良く外部に逃がすことができず、塗膜に膨れ、剥れ、割れ等が生じるおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開平10−101458号公報
【特許文献2】特開平8-90513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、基材に対する水分の浸入を抑制するとともに、水分が浸入した場合にはその水分を効率よく外部に拡散させることによって、塗膜の膨れ、剥れ、割れ等を効果的に抑制することができる水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの課題を解決するため本発明者は鋭意検討を行い、バインダーとして反応性シリル基を有する合成樹脂エマルションを使用するとともに、このバインダーに対して反応性を示す水分散型撥水剤を併用した水性塗料組成物に想到し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0009】
1.反応性シリル基を有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)、及び
前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記水分散型撥水剤(B)を固形分で1〜100重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。
2.反応性官能基として、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基から選ばれる少なくとも1種以上と、反応性シリル基とを有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)、及び
前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記水分散型撥水剤(B)を固形分で1〜100重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。
3.前記合成樹脂エマルション(A)、前記水分散型撥水剤(B)に加え、さらに顔料(C)を含有し、顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とする1.または2.に記載の水性塗料組成物。
4.無機質基材または木質基材に対して、1.〜3.のいずれかに記載の水性塗料組成物を塗付することを特徴とする塗装方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性塗料組成物によって無機質基材または木質基材に塗装を施すことにより、水分に起因する塗膜の膨れ、剥れ、割れ等を効果的に抑制することができ、さらに、その効果を長期にわたり持続させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をその実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明の水性塗料組成物は、
反応性シリル基を有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)(以下「(A)成分」という)、及び
前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)(以下「(B)成分」という)を含有するものである。本発明組成物は、このような成分を必須成分とすることにより、透湿性、密着性、撥水持続性等において優れた性能を発揮することができ、無機質基材や木質基材の塗装に適している。
【0013】
本発明組成物における(A)成分は、バインダーとして作用するものである。この(A)成分は、塗膜の透湿性、密着性、耐候性等を高める機能を有している。さらに本発明では、この(A)成分と後述の(B)成分が相互に反応性を有することにより、優れた撥水持続性を発揮することができる。
【0014】
このような(A)成分は、反応性シリル基含有化合物(以下「a成分」という)を必須成分として得られるものである。a成分としては、例えば反応性シリル基含有モノマー、シラン化合物、シランカップリング剤等が使用できる。(A)成分において、a成分を導入する方法としては、特に限定されず各種の方法を採用することができるが、例えば、
[1]反応性シリル基含有モノマーと、該モノマーと共重合可能なモノマーを共重合する方法。
[2]反応性シリル基含有モノマーと、該モノマーと共重合可能なモノマーを共重合した後に、シラン化合物を反応させる方法。
[3]樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を反応させる方法。
[4]樹脂中の官能基と、該官能基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を反応させた後に、シラン化合物を反応させる方法。
等が挙げられる。
【0015】
反応性シリル基としては、珪素原子にアルコキシル基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン、水素原子等が結合したものが挙げられる。
【0016】
[1]、[2]における反応性シリル基含有モノマーとしては、反応性シリル基と重合性二重結合を含有する化合物であり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテル等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0017】
[2]、[4]におけるシラン化合物としては、反応性シリル基を一分子中に2個以上有するものが用いられ、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能アルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルコキシシラン類;テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン等のクロロシラン類;テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン等のアセトキシシラン類等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、反応性シリル基を一分子中に1個有する化合物を併用することもできる。
【0018】
[3]、[4]における官能基の組み合わせとしては、水酸基とイソシアネート基、アミノ基とイソシアネート基、カルボキシル基とエポキシ基、アミノ基とエポキシ基、反応性シリル基どうし等があげられる。シランカップリング剤は、例えば、一分子中に、少なくとも1個以上の反応性シリル基とそのほかの置換基を有する化合物であり、具体的には、β−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート官能性シランなどがあげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
(A)成分のシリカ残量比率は、(A)成分の樹脂固形分中に0.1〜30重量%であることが望ましく、さらには1〜10重量%であることが望ましい。(A)成分では、シリカ残量比率がこのような範囲内となるようにa成分を導入する。シリカ残量比率が0.1重量%より少ない場合は、透湿性、密着性等において十分な効果が得られにくくなる。また、耐汚染性、耐候性等の塗膜物性向上効果も得られにくい。シリカ残量比率が30重量%より多い場合は、塗膜に割れが生じやすくなる。また、塗料の貯蔵安定性の確保が難しくなる。
【0020】
なお、シリカ残量比率とは、Si−O結合をもつ化合物を、完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO)となって残る重量分にて表したものである。一般に、アルコキシシランやシリケート等は、水と反応して加水分解反応が起こりシラノールとなり、さらにシラノールどうしやシラノールとアルコキシにより縮合反応を起こす性質を持っている。この反応を究極まで行うと、シリカ(SiO)となる。これらの反応は一般式、
RO(Si(OR)O)R+(n+1)HO→nSiO+(2n+2)ROH
という反応式で表されるが、この反応式をもとに残るシリカ成分の量を換算したものである。
【0021】
本発明における(A)成分としては、上記の反応性シリル基以外に、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基から選ばれる少なくとも1種以上の反応性官能基を有するものが好適である。(A)成分がこのような態様である場合は、透湿性、密着性、撥水持続性等の塗膜物性をいっそう高めることができる。
【0022】
(A)成分にアミノ基を生成させるためには、(A)成分を構成するモノマーとしてアミノ基含有モノマーを使用すればよい。アミノ基含有モノマーとしては、例えば、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等が挙げられる。
【0023】
(A)成分にカルボキシル基を生成させるためには、(A)成分を構成するモノマーとしてカルボキシル基含有モノマーを使用すればよい。カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等、あるいはこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。このうち、特にアクリル酸、メタクリル酸から選ばれる1種以上が好適である。
【0024】
(A)成分にエポキシ基を生成させるためには、(A)成分を構成するモノマーとしてエポキシ基含有モノマーを使用すればよい。エポキシ基含有モノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。このうち、特にグリシジル(メタ)アクリレートが好適である。
【0025】
アミノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、エポキシ基含有モノマーの各々の使用量は、(A)成分を構成する全モノマー量に対し、通常0.1〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%である。
【0026】
(A)成分において、上記モノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されないが、アクリル系モノマーを好適に用いることができる。アクリル系モノマーとしては、、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリルなどのニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;等があげられる。
【0027】
(A)成分においては、この他に、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などのスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレンなどの塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどの水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテルジエチレングリコールモノアリルエーテルなどのアルキレングリコールモノアリルエーテル;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどのビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテルなどのアリルエーテル等を用いることもできる。この他、エチレン性不飽和二重結合含有紫外線吸収剤、エチレン性不飽和二重結合含有光安定剤等を用いることもできる。
【0028】
(A)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、フィード乳化重合、フィード分散重合、シード乳化重合、シード分散重合等を採用することができる。また、多段階重合を行うこともできる。
【0029】
(A)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は、通常−60〜80℃(好ましくは−40〜60℃)程度である。Tgが低すぎる場合は、汚染物質が付着しやすくなる。Tgが高すぎる場合は、塗膜に割れが発生しやすく、遮水効果が低下するおそれがある。なお、本発明におけるTgは、(A)成分を構成するモノマーの種類とその構成比率から、Foxの計算式によって求められる値である。
(A)成分の平均粒子径は、通常0.05〜0.4μm程度である。
【0030】
本発明組成物における(B)成分は、上述の(A)成分と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤である。本発明では、(B)成分が含まれることにより、形成塗膜に撥水性を付与することができ、外部から基材内部への水の浸入を防止することができる。さらに、(A)成分と(B)成分が相互に反応性を有するため、長期にわたり撥水性能を維持することが可能となる。
【0031】
(B)成分の官能基は、(A)成分の官能基と反応可能なものであれば特に限定されない。(A)成分と(B)成分における反応性官能基の組合せとしては、例えば、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、反応性シリル基どうし等があげられる。(B)成分の官能基は、このような組合せの中から、(A)成分の官能基の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0032】
本発明では、特に(B)成分の官能基として、反応性シリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基から選ばれる1種以上が好適である。このうち、(B)成分が反応性シリル基を有する場合、(A)成分としては少なくとも反応性シリル基を有するものを使用すればよい。(B)成分がアミノ基を有する場合、(A)成分としては反応性シリル基とエポキシ基とを有するもの使用すればよい。(B)成分がカルボキシル基を有する場合、(A)成分としては反応性シリル基とエポキシ基とを有するものを使用すればよい。(B)成分がエポキシ基を有する場合、(A)成分としては反応性シリル基と、カルボキシル基及び/またはアミノ基とを有するものを使用すればよい。この中でも、(B)成分がアミノ基を有し、(A)成分が反応性シリル基とエポキシ基とを有する場合が特に好適である。
このような(B)成分は、通常下記式(1)、(2)で示される単位を有するものである。
【0033】
【化1】

【化2】

(式中、Rは同一または異なって、アルキル基、アリール基、アラルキル基を示し、Rはアルキレン基、オキシアルキレン基を示す。Xは反応性シリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基を示す。m,nは1以上の整数である。)
【0034】
このうち(B)成分の官能基としては、アミノ基が好適である。アミノ基としては、例えば−NH、−NHCH、−N(CH、−NH(CHNH、−NH(CHNHCH、−NH(CHN(CH等が挙げられる。
【0035】
(B)成分の形態は、水中に分散した形態であれば特に制限されず、界面活性剤を用いた強制乳化型エマルション、あるいは自己乳化型エマルションのいずれであってもよい。
【0036】
(B)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で通常1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。(B)成分が1重量部より少ない場合は、十分な撥水性能を得ることができない。(B)成分が100重量部より多い場合は、塗膜の耐汚染性が低下するおそれがある。
【0037】
本発明組成物における顔料(C)(以下「(C)成分」という)としては、着色顔料及び/または体質顔料が使用できる。
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、陶土、チャイナクレー、シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪砂、珪石、珪藻土、水酸化アルミニウム、樹脂ビーズ等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0038】
このような(C)成分は、形成塗膜における顔料容積濃度が通常10〜90%、好ましくは30〜90%、より好ましくは40〜80%、最も好ましくは45〜75%となるように配合する。このような顔料容積濃度であれば、形成塗膜の透湿性と強度が高まり、塗膜の膨れ発生、剥れ発生等を十分に抑制することができる。また、耐汚染性に優れた塗膜を形成することもできる。顔料容積濃度が10%より小さい場合は、塗膜に膨れ、剥れ等が発生しやすくなる。また、耐汚染性が低下する傾向となる。顔料容積濃度が90%より大きい場合は、塗膜に割れが発生しやすく、遮水効果が低下するおそれがある。
なお、本発明における顔料容積濃度は、乾燥塗膜中に含まれる(C)成分の容積百分率であり、下記式によって算出される値である。(B)成分は実質的に造膜性能を有さないため、顔料容積濃度算出の際には除外しておく。
【0039】
<式>顔料容積濃度(%)=[(c/cρ)/{(a/aρ)+(c/cρ)}]×100
(式中、aは(A)成分固形分の混合重量、aρは(A)成分固形分の比重、cは(C)成分の混合重量、cρは(C)成分の比重を示す。)
【0040】
本発明では、(C)成分として、
平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度−60〜60℃の重合体からなる有機質体質顔料(c−1)(以下「(c−1)成分」という)、及び/または、平均粒子径が0.1〜100μmであり、ガラス転移温度30℃未満の重合体からなるコア部とガラス転移温度30℃以上の重合体からなるシェル部を有する有機質体質顔料(c−2)(以下「(c−2)成分」という)を使用することが望ましい。このような(c−1)成分及び/または(c−2)成分の使用により、艶消し効果を得つつ、耐割れ性を高めることができる。特に(c−2)成分を使用した場合は、顕著な効果を得ることができる。
【0041】
(c−1)成分、(c−2)成分は、各種重合性モノマーを共重合することによって形成されるものである。使用可能な重合性モノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー等が挙げられる。分子内に2個以上のビニル基を有する多官能モノマー等も使用可能である。
【0042】
(c−1)成分のTgは、通常−60〜60℃、好ましくは−50〜50℃、より好ましくは−40〜40℃である。また、(c−2)成分のコア部のTgは、通常30℃未満、好ましくは−60〜20℃、より好ましくは−60〜10℃であり、シェル部のTgは、通常30℃以上、好ましくは50〜140℃、より好ましくは60〜130℃である。(c−1)成分、(c−2)のTgは、重合体を構成するモノマーの種類や比率を適宜設定することによって調整できる。Tgが高すぎる場合は、耐割れ性において十分な効果を得ることができず、Tgが低すぎる場合は、耐汚染性等の点で不利となる。
(c−1)成分、(c−2)の平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。
なお、(c−1)成分、(c−2)成分は、いずれも非造膜性の粉体であり、造膜性を有する(A)成分とは別異の材料である。
【0043】
(c−1)成分及び/または(c−2)成分の混合比率は、(C)成分全体に対し、通常合計で5体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上である。このような混合比率であれば、艶消し効果と耐割れ性の両性能が十分に発揮できる。
【0044】
本発明では、(C)成分として光触媒(以下「(c−3)成分」という)を含むこともできる。本発明では、このような(c−3)成分を混合することにより、形成塗膜表面に種々の汚染物質(特に有機系汚染物質)が付着した場合に、それらを分解することが可能となり、耐汚染性をいっそう高めることができる。さらに、本発明では(B)成分が必須成分として含まれるため、(c−3)成分による(A)成分の劣化を抑制することもできる。(c−3)成分としては、例えばTiO、ZnO、Bi、BiVO、SrTiO、CdS、InP、InPb、GaP、GaAs、BaTiO、BaTiO、BaTi、KNbO、Nb、Fe、Ta、Ta、KTaSi、WO、SnO、NiO、CuO、SiC、MoS、RuO、CeO等の他、これらと金属、金属酸化物、多孔体、層状化合物等との複合体等が挙げられる。
【0045】
本発明組成物においては、上述の成分の他に、通常塗料に使用可能な成分を含むこともできる。このような成分としては、例えば、染料、繊維、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、触媒、架橋剤等が使用可能である。このうち、架橋剤としては、(A)成分と反応可能な官能基と、(B)成分と反応可能な官能基を併有する化合物を使用することもできる。
【0046】
本発明組成物は、建築物内外壁や土木構築物等の表面に対して塗装することができる。塗装の対象となる基材は特に限定されないが、無機質基材または木質基材が好適である。
【0047】
無機質基材としては、特にセメント系無機質基材が好適である。本発明組成物をセメント系無機質基材に塗装した場合には、本発明の効果を十分に発揮することができる。このようなセメント系無機質基材は、セメントを必須成分として得られる材料である。セメント以外の成分として、例えば、珪砂、珪石、フライアッシュ等の骨材、パルプ、ガラスウール等の繊維類等が含まれていてもよい。
具体的に、セメント系無機質基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、石綿セメント板、ALC板、サイディング板等が挙げられる。このうち、コンクリート、モルタル等の基材は、通常、施工現場で水等と混練したものを硬化させることによって得られる。ALC板、サイディング板等の無機質建材は、抄造法、押し出し成形法、注型法等の各種方法によって板状に成形されたものである。セメント系無機質建材に本発明組成物を塗装した場合は、基材の割れ、反り、寸法変化等を十分に抑制できる点で特に好適である。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、パテ、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものでもよい。
【0048】
木質基材としては、例えば、ブナ、ヒノキ、すぎ、なら、チーク、ラワン等の造作材、集成材・積層材、普通合板、木質繊維板・パーティクルボード等が挙げられる。これらは、難燃処理したもの等であってもよい。また、基材表面に、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、パテ、フィラー等)が施されたものでも、既に塗膜が形成されたものでもよい。
【0049】
本発明組成物を建築現場等において塗装する場合は、新築、改装を問わず適用することができる。板状の建材に対しては、建築現場等に搬入される前(すなわち建材の成形時ないし成形後)に塗装を行うこともできる。また、部分補修に適用することもできる。
本発明組成物を塗装する際には、スプレー、ローラー、鏝、刷毛等の各種塗装器具を使用することができる。
塗装の際には、水を用いて希釈することも可能である。水の混合量は、塗装器具の種類、塗装下地の状態、塗装時の温度等を勘案して適宜設定すればよいが、通常は塗料100重量部に対し0〜20重量部程度である。
本発明組成物の塗付量は、通常0.2〜2kg/m程度である。また、本発明組成物を塗装した後の乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。乾燥時間は、通常、常温で0.5〜4時間程度である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0051】
(塗料組成物の製造)
樹脂A200重量部、撥水剤A50重量部、顔料A100重量部、顔料B45重量部、造膜助剤18重量部、水50重量部、分散剤6重量部、増粘剤33重量部、消泡剤1重量部を常法により混合・攪拌することによって試験例1の塗料組成物を製造した。
次いで、表1に示す配合に従って各塗料組成物を製造した。なお、原料としては下記のものを使用した。
【0052】
・樹脂A:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸−γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン−グリシジルメタクリレート共重合体のメチルトリメトキシシラン・ジメチルジメトキシシラン付加物、Tg2℃、固形分50重量%、シリカ残量比率3重量%)
・樹脂B:反応性シリル基含有アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート−n−ブチルアクリレート−アクリル酸−γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン共重合体のメチルトリメトキシシラン・ジメチルジメトキシシラン付加物、Tg2℃、固形分50重量%、シリカ残量比率3重量%)
・撥水剤A:水分散型撥水剤(アミノ基含有ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体、固形分50重量%)
・撥水剤B:水分散型撥水剤(エポキシ基含有ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体、固形分50重量%)
・撥水剤C:水分散型撥水剤(ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体、固形分50重量%)
・顔料A:酸化チタン(平均粒子径0.2μm、比重3.9)
・顔料B:クレー(平均粒子径8μm、比重2.6)
・顔料C:アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、Tg20℃、比重1.0)
・顔料D:コアシェル型アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、コア部Tg−54℃、シェル部Tg105℃、比重1.0)
・顔料E:アクリルポリマー粉体(平均粒子径8μm、Tg105℃、比重1.0)
・造膜助剤:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤(固形分30重量%)
・増粘剤:ヒドロキシエチルセルロース3重量%水溶液
・消泡剤:鉱物油系消泡剤
【0053】
(試験方法)
(1)鏡面光沢度
ガラス板(200×100×2mm)の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて各塗料組成物を塗り、塗面を水平に置いて標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で48時間乾燥して試験体を作製した。得られた試験体の鏡面光沢度(測定角度60度)を、JIS K5600−4−7:1999に規定される鏡面光沢度計にて測定した。評価基準は以下の通りである。
A:鏡面光沢度5未満
B:鏡面光沢度5以上10未満
C:鏡面光沢度10以上
【0054】
(2)撥水持続性
150×70×0.8mmのアルミニウム板2枚にSK#1000プライマー(エポキシ樹脂系プライマー;エスケー化研株式会社製)を、乾燥膜厚が約30μmとなるようにスプレー塗装し、温度23℃・相対湿度50%下(以下、標準状態)で8時間乾燥させたものを試験体基材とした。
次に、試験体基材に作製した塗料組成物を乾燥膜厚が約15μmとなるようにスプレー塗装し、標準状態で7日間乾燥し試験体とした。作製した試験体の塗膜表面に、0.2ccの脱イオン水を滴下し、滴下直後の接触角を協和界面科学株式会社製CA−A型接触角測定装置にて測定し、これを初期接触角とした。次いで、試験体を23℃の水中に3時間浸し、標準状態で1時間乾燥後、同様に接触角を測定した。
撥水持続性については、水浸漬後の接触角が、初期接触角に対しどの程度低下したかを確認することによって評価した。
・評価方法
◎:初期接触角と水浸漬後の接触角との差が5度未満
○:初期接触角と水浸漬後の接触角との差が5度以上10度未満
△:初期接触角と水浸漬後の接触角との差が10度以上15度未満
×:初期接触角と水浸漬後の接触角との差が15度以上
【0055】
(3)耐湿潤冷熱繰返し性
150×70×3mmのサイディング板に、作製した塗料組成物を乾燥膜厚が40μmとなるようにスプレー塗装し試験体を作製した。標準状態で14日間養生後、作製した試験体をJIS K 5660 6.14に準じ、23℃の水中に18時間浸した後、直ちに−20℃に保った恒温槽にて3時間冷却し、次に50℃に保った別の恒温槽で3時間加温した。この操作を8回繰り返した後、標準状態に約1時間置いて、塗膜表面の状態を目視にて観察した(表1では「耐湿潤冷熱繰返し性A」と表記)。
また、23℃水中18時間、−20℃3時間、80℃3時間を1サイクルとした場合についても、上記と同様の方法で試験を行った(表1では「耐湿潤冷熱繰返し性B」と表記)。
・評価方法
◎:割れ、剥れが全く発生しなかった。
○:割れ、剥れがほとんど発生しなかった。
△:割れ、剥れが部分的に発生した。
×:割れ、剥れが著しく発生した。
【0056】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。試験例1〜4では、撥水持続性、耐湿潤冷熱繰返し性において良好な結果が得られた。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性シリル基を有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)、及び
前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記水分散型撥水剤(B)を固形分で1〜100重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
反応性官能基として、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基から選ばれる少なくとも1種以上と、反応性シリル基とを有し、シリカ残量比率が0.1〜30重量%である合成樹脂エマルション(A)、及び
前記合成樹脂エマルション(A)と反応可能な官能基を有する水分散型撥水剤(B)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記水分散型撥水剤(B)を固形分で1〜100重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項3】
前記合成樹脂エマルション(A)、前記水分散型撥水剤(B)に加え、さらに顔料(C)を含有し、顔料容積濃度が10〜90%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
無機質基材または木質基材に対して、請求項1〜3のいずれかに記載の水性塗料組成物を塗付することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2006−52297(P2006−52297A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234342(P2004−234342)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】