説明

水性樹脂組成物及びそれを含む建築外装トップコート用塗料

【課題】揮発性有機化合物含有量が少なく、低温造膜性が良好で、しかも硬度や耐水性、光沢等に優れた皮膜を形成し得る水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、上記多層構造エマルション粒子は、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が該内層を構成する重合体の構成単位とは異なる水性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂組成物に関する。より詳しくは、建築外装トップコート用塗料等の分野で有用な水性樹脂組成物に関し、揮発性有機化合物量が少なく、造膜性が良好で、かつ、硬度、耐汚染性、耐水性等の特性に優れた皮膜を形成し得る水性樹脂組成物及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物用塗料としては、環境への悪影響を懸念して、有機溶剤型塗料から水性塗料への転換が進んでおり、中でもエマルション型樹脂組成物が多用されるようになってきた。このエマルション型樹脂組成物は、水が揮散して樹脂粒子同士が融着することで塗膜を形成する。加熱乾燥を行える場合は、樹脂粒子が柔らかくなるため融着が容易であり、水も揮散しやすいが、例えば、建築物の外壁に塗装する場合等は常温での乾燥となるので、エマルションの造膜性が問題となってくる。
【0003】
すなわち、塗膜の耐汚染性、耐磨耗性等の特性を考慮すると、比較的硬い樹脂を塗膜構成成分とすることが望ましいが、硬い樹脂はガラス転移温度(Tg)が高いため、常温では樹脂粒子同士の融着が起こりにくく、造膜性に劣る。この低造膜性の問題を解決するために、樹脂粒子を可塑化させて融着・塗膜化を促進させる有機溶剤を、エマルション中に存在させる手段が採用されていた。
【0004】
しかしながら、近年、環境問題が重視されており、シックハウス症候群対策としての建築物内装用塗料はもとより、外装用塗料においても揮発性有機化合物(VOC)を含まない(VOCフリー)塗料が求められ、上記した成膜助剤的な有機溶剤の使用が容認されなくなってきた。
【0005】
従来のエマルションとしては、例えば、多段乳化重合法によりエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られるエマルション粒子を含有する水性被覆材であって、粒子の最外層より内側にある層が最外層よりもガラス転移温度が高いものに特定されたものが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。エマルションをハードコア/ソフトシェル型とすることにより低温造膜性を高められたものであるが、未だ硬度は不充分である。またこのようなハードコア/ソフトシェル型アクリルエマルションは、光沢等の物性に劣り、更に塗膜特性が改善されるようにする工夫の余地があった。また複層型重合体エマルションであって、3つの層のガラス転移温度をそれぞれ異なるものとするものが開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。更に、(メタ)アクリル酸エステルと該(メタ)アクリル酸エステルに対し0.1〜20重量%のスチレンを含有する単量体組成物を乳化重合するエマルションの製造方法が開示されている。(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、これらのエマルションにおいては、低温造膜性や硬度が充分でなく、上述した特性を全て満たすエマルションとするための工夫の余地があった。
このように、エマルションの低温造膜性と硬度等の塗膜性能とのバランスを充分に満たすようにし、低温造膜性を付与すると硬度等の性能を充分に発現させることができないという課題を克服することが望まれるところであった。
【特許文献1】特開2005−247922号公報(第2、18頁等)
【特許文献2】特開2002−256202号公報(第2、5頁等)
【特許文献3】特開2004−59623号公報(第2、5頁等)
【特許文献4】特開2004−250607号公報(第2、11頁等)
【特許文献5】特開2000−327722号公報(第2、11頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、揮発性有機化合物含有量が少なく、低温造膜性が良好で、しかも硬度や耐水性、光沢等に優れた皮膜を形成し得る水性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、水性樹脂組成物について種々検討したところ、エマルションを使用することにより、耐水性等の有利な性能を発揮することができることに着目し、多段乳化重合により得られる多層構造エマルション粒子とし、多層構造が少なくとも3段の乳化重合によって形成され、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が該内層を構成する重合体の構成単位とは異なるものとすることにより、低温造膜性を発現しながら、硬度や耐水性等の特性に優れた皮膜を形成し、更に光沢にも優れるという有利な効果を発揮することを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また多層構造エマルション粒子において、外層のガラス転移温度が−50〜0℃であり、中間層のガラス転移温度が50〜150℃であると、低温造膜性と硬度とを両立する本発明の好ましい効果を更に充分に発揮することができることを見いだした。更に、エマルション全体のガラス転移温度を適切に設定したうえで、多層構造エマルション粒子を構成する外層のガラス転移温度を低く設定し、その膜厚(外層を形成する単量体成分の割合)を適切に設定しても、硬度が低いアクリルエマルションと同等又はそれ以上の低温造膜性を維持しながら、硬度が高く耐摩耗性等の特性に優れる本発明の有利な効果を発揮することを見いだした。そして、このような水性樹脂組成物が建築外装トップコート用塗料として好適であることを見いだし、本発明に到達したものである。
このような本発明の好ましい形態としては、多層構造エマルション粒子にスチレン系単量体やシクロヘキシル(メタ)アクリレート由来の構成単位を特定量有する形態が挙げられる。外層にスチレン系単量体やシクロヘキシル(メタ)アクリレート由来の構成単位を特定量有する形態もまた本発明の好ましい形態である。
【0008】
すなわち本発明は、3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、上記多層構造エマルション粒子は、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が該内層を構成する重合体の構成単位とは異なる水性樹脂組成物である。
本発明はまた、3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、上記多層構造エマルション粒子は、多段乳化重合によって形成されるものであり、該多段乳化重合は、前段乳化重合工程、中段乳化重合工程、後段乳化重合工程を含み、中段乳化重合工程は、重合される単量体の組成が前段乳化重合工程とは異なり、中段乳化重合工程によって後段乳化重合工程よりもガラス転移温度が高い重合体層が得られる水性樹脂組成物でもある。
本発明は更に、上記水性樹脂組成物を含む建築外装トップコート用塗料でもある。
なお、本明細書中、「水性樹脂組成物」とは、水とエマルションとを必須成分として含むものをいう。エマルションは、1種含んでいても2種以上含んでいてもよく、また他の成分を含んでいても含んでいなくてもよい。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
上記多層構造エマルション粒子は、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が該内層を構成する重合体の構成単位とは異なるものである。
このような多層構造エマルション粒子を必須とすることにより、本発明の水性樹脂組成物は、低温造膜性が良好で、しかも形成される皮膜の硬度等が優れたものとなる。低温造膜性が良好となる効果を発揮する理由は、中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものとすることにより、外層が低温で変形しやすく、低温造膜性に優れたものとなるためであると考えられる。また硬度が優れる皮膜を形成することができる理由は、外層に加えて中間層とはその重合体の構成単位が異なる内層を存在させることにより、ガラス転移温度の高い層が多層構造エマルション粒子中においてより外側に引き出されることのために、ガラス転移温度の高い中間層によって硬度が高められること、外層のガラス転移温度が低い層が薄くなり、その内にあるガラス転移温度の高い中間層が硬度に与える影響が大きくなることが考えられる。
よって、多層構造エマルション粒子が上述したようなものに特定されることにより、本発明の水性樹脂組成物は、低温造膜性、形成される皮膜の硬度等の物性により優れたものとなる。
【0010】
上記中間層を構成する重合体の構成単位が内層を構成する重合体の構成単位とは異なるとは、中間層よりも内側にある内層は中間層とは異なる単量体組成から形成されるものであり、すなわち、中間層と内層とを構成する単量体単位が全体的に互いに相違したものであればよく、例えば、異なった単量体単位が少なくとも1つあるか、又は、同じ単量体単位であれば単量体単位の比率が異なっていればよく、また中間層と内層とにおいて特性上の違いが生じると技術的に考えられる程度に異なればよい。
上記内層よりも内側に一つ又は複数の層が形成されていてもよく、中間層と内層との間に一つ又は複数の層が形成されていてもよく、外層と中間層との間に一つ又は複数の層が形成されていてもよく、外層よりも外側に一つ又は複数の層が形成されていてもよい。
本発明の水性樹脂組成物が含む多層構造エマルション粒子は、外層、中間層及び内層を有するものであるが、これらが相溶して区別できない均質部分があってもよい。
なお、本発明の水性樹脂組成物を構成する化合物やその原料等は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
上記中間層は、内層よりもガラス転移温度が高いものであることが好ましい。
これにより、本発明の効果を更に充分に発揮することができる。
【0011】
上記多層構造エマルション粒子の乾燥塗膜の示差走査熱量測定(DSC測定)によってガラス転移温度の異なる2種以上の重合体の存在が確認でき(図1)、更に原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)のフェイズ(Phase)モードにて高ガラス転移温度を有する中間層を構成する重合体の存在を確認することができる(図2)。
フェイズ(Phase)モードでハードコア/ソフトシェル/ハードシェルとの違いは、フェイズ(Phase)モードでは硬さの要素が大きく影響し、相対的に硬い方が白のコントラストとして描写される。
【0012】
本発明の水性樹脂組成物は、多段乳化重合により得られる多層構造エマルション粒子を必須とするものであることが好ましい。
上記多層構造エマルション粒子における多層構造は、通常少なくとも3段の乳化重合によって形成されるものである。
上記少なくとも3段の乳化重合は、内層を形成する1段の乳化重合、中間層を形成する1段の乳化重合、外層を形成する1段の乳化重合を含むものであることが好ましい。これら乳化重合は、内層を形成する乳化重合、中間層を形成する乳化重合、外層を形成する乳化重合の順で行なわれるものである。
上記少なくとも3段の乳化重合は、内層を形成する乳化重合の前に1段又は複数段の乳化重合を行うものであってもよく、内層を形成する乳化重合と中間層を形成する乳化重合との間に1段又は複数段の乳化重合を行うものであってもよく、中間層を形成する乳化重合と外層を形成する乳化重合との間に1段又は複数段の乳化重合を行うものであってもよく、外層を形成する乳化重合の後に又は複数段の乳化重合を行うものであってもよい。またこれらの組み合わされたものであってもよい。
【0013】
上記重合反応においては、原料(水性媒体、乳化剤及び単量体成分)を単に混合したものから重合を始めてもよいし、原料を機械撹拌により乳化させ、プレエマルションとしておいて重合を始めてもよいし、原料のうちの一部(例えば、水性媒体、単量体成分のうちの1種又は2種以上等)を単に混合したものを仕込んでおき、残りをプレエマルションとして添加しながら重合を始めてもよい。
また各段の重合反応で用いる単量体成分は、単独で添加してもよいし、水性媒体や乳化剤とともにプレエマルションとして添加してもよいし、一部をプレエマルションとし残部とともに混合したものを添加してもよい。また、各段の重合反応における添加方法としては、一括添加、分割添加、連続滴下等のいずれでもよく、各段階で添加方法が同じであっても異なっていてもよい。
上記多層構造エマルション粒子は、単量体成分を重合することにより形成されるものであることが好ましいが、単量体成分を重合中又は重合した後に、重合以外の反応により形成されるものであってもよい。
【0014】
上記多層構造エマルション粒子のガラス転移温度(Tg)の調整は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)(絶対温度;K)と単量体の質量分率から、下記計算式を用いて求めることができる。この計算Tgを目安にして、単量体組成を決定することが好ましい。
【0015】
【数1】

【0016】
式中、Tgは求めるポリマーのガラス転移温度(K)を示し、W、W、…Wは、各単量体の質量分率を示し、Tg、Tg、…Tgは、対応する単量体のホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す。なお、表等においては、各モノマー名を次のように略記した。右の数字は、計算に用いたホモポリマーのガラス転移温度(K)の値である。
MMA:メチルメタクリレート 378K
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート 203K
St:スチレン 373K
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート 356K
IBMA:イソボルニルメタクリレート 453K
NVP:N−ビニルピロリドン 448K
AA:アクリル酸 368K
MAA:メタクリル酸 403K
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート 328K
HALS:「アデカスタブ(登録商標)LA−87」(商品名、旭電化工業社製:4−メ
タクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)
403K
IBA:イソボルニルアクリレート 367K
t−BMA:tert−ブチルメタクリレート 380K
BA:ブチルアクリレート 217K
また、ポリマーのガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって測定可能である。
後述するガラス転移温度は、上記式を用いて求めるものである。例えば、多層構造エマルション粒子全体のガラス転移温度は、多段乳化重合で用いた全ての単量体成分における各単量体の質量分率及び対応する単量体のホモポリマーのガラス転移温度から求めるものである。
【0017】
上記多層構造エマルション粒子が、エマルション全体のガラス転移温度が−20〜30℃であることが本発明の好ましい形態である。
ガラス転移温度を−20℃未満とすると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣るおそれがあり、30℃を超えると、低温造膜性に劣ることになるおそれがある。
【0018】
本発明の水性樹脂組成物における上記多層構造エマルション粒子は、外層のガラス転移温度が−50〜0℃であり、中間層のガラス転移温度が50〜150℃であることが好ましい。
また、前記多層構造エマルション粒子は、内層のガラス転移温度が−50〜0℃であることが好ましい。
このようなガラス転移温度とすることにより、低温造膜性と硬度とを両立する本発明の優れた効果をより充分に発揮することができる。
外層及び/又は内層におけるガラス転移温度が−50℃未満であると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣るおそれがあり、0℃を超えるとすると、低温造膜性に劣ることになるおそれがある。−40℃以上であることがより好ましい。
中間層のガラス転移温度が50℃未満であると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣るおそれがある。150℃を超えるとすると、低温造膜性に劣ることになるおそれがある。70℃以上であることがより好ましい。更に好ましくは、85℃以上である。更に好ましくは、90℃以上である。
また、本発明の水性樹脂組成物において、上記多層構造エマルション粒子は、内層のガラス転移温度が中間層のガラス転移温度よりも低いことが好ましい。
これにより、乾燥して粒子が融着する際の内部応力緩和によって造膜性が向上する。また平滑な塗膜表面又は皮膜表面が得られ光沢が向上する。
【0019】
本発明の水性樹脂組成物において、上記多層構造エマルション粒子は、内層を構成するポリマーが中間層を構成するポリマーよりも溶解度パラメーターが低いことが好ましい。
これによって、硬い中間層が得られて高い塗膜硬度又は皮膜硬度が発現する。内層の溶解度パラメーターの方が中間層よりも低くなると、系中が水のために親水性(溶解度パラメーターが高い、言い換えれば、高SP[Solubility Parameter])ポリマーの方が粒子界面に存在し易いことから、中間層を構成するポリマーと入れ換わる現象が起き難くなると考えられる。
なお、外層はエマルションが乾燥して粒子が融着する際の実質的な融着層であり、室温より低Tgであることが好ましい。
上記内層を構成するポリマーと中間層を構成するポリマーとの溶解度パラメーター差は、0.1以上であることが好ましい。
【0020】
計算溶解度パラメーターは、「ポリマーエンジニアリングアンドサイエンス(POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE)」、1974年、Vol.14、No.2、p.147−154に記載の方法によって計算される値である。以下にその方法(溶解性度パラメーター計算方法)を概説する。
単独重合体の溶解度パラメーター(δ)は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(Δei)及びモル体積(Δvi)に基づいて、下式の計算方法により算出される。
δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei:i成分の原子又は原子団の蒸発エネルギー
Δvi:i成分の原子又は原子団のモル体積
共重合体の溶解度パラメーターは、その共重合体を構成する各構成単量体のそれぞれの単
独重合体のΔeiとΔviを、それらの構成単量体のモル分率を乗じて合算したものから上記式にて算出される。
【0021】
なお、下記表1に代表的なホモポリマーの溶解度パラメーターを示す。
下記表1は、左欄に記載された単量体のホモポリマーの溶解度パラメーター(SP値)を右欄に示したものである。本明細書中、2EHAは、2−エチルヘキシルアクリレートを表す。AAは、アクリル酸を表す。BAは、ブチルアクリレートを表す。BMAは、ブチルメタクリレートを表す。CHMAは、シクロヘキシルメタクリレートを表す。EAは、エチルアクリレートを表す。HEMAは、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを表す。MAAは、メタクリル酸を表す。MMAはメチルメタクリレートを表す。Stは、スチレンを表す。t−BMAは、tert−ブチルメタクリレートを表す。
【0022】
【表1】

【0023】
本明細書中、重合体全体の質量割合に対する外層の質量割合は、多段乳化重合で用いた単量体成分全体の質量に対する外層を形成する乳化重合で用いた単量体成分の質量から求めるものである。
【0024】
本発明の水性樹脂組成物における上記多層構造エマルション粒子は、それを構成する重合体全体を100質量%とすると、外層が40〜84質量%、中間層が15〜45質量%、内層が1〜25質量%であることが好ましい。
本明細書中、重合体全体の質量割合に対する中間層の質量割合、内層の質量割合は、上述した外層の質量割合と同様に、多段乳化重合で用いた単量体成分全体の質量に対しての、中間層を形成する乳化重合で用いた単量体成分の質量、内層を形成する乳化重合で用いた単量体成分の質量からそれぞれ求めるものである。
上記多層構造エマルション粒子をこのような質量割合とすることにより、低温造膜性に優れるうえに、樹脂組成物により形成される皮膜の硬度を高いものとする効果を両立することができる。
【0025】
上記外層が40質量%未満であると、低温造膜性等に劣るおそれがある。また84質量%を超えるものとすると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣ることになるおそれがある。50質量%を超えることがより好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。また80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。
上記中間層が15質量%未満であるとすると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣るおそれがある。また45質量%を超えると、低温造膜性等に劣るおそれがある。25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。また42質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
上記内層が1質量%未満であると、硬度が低くなり、形成される皮膜の耐汚染性、耐摩耗性等に劣るおそれがある。また25質量%を超えると、低温造膜性等に劣るおそれがある。2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。また12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0026】
また、多段乳化重合により得られる多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、上記多層構造エマルション粒子は、多層構造が少なくとも3段の乳化重合によって形成され、多層構造エマルション粒子を構成する重合体全体を100質量%とすると、ガラス転移温度が0℃以下である外層が40〜80質量%であり、エマルション全体のガラス転移温度が−20〜30℃である水性樹脂組成物も本発明の一つの好ましい実施形態である。
上記多層構造エマルション粒子を上述した構成のものとすると、上記特定された外層により低温造膜性が高められ、更に、エマルション全体のガラス転移温度が上記のように特定されているために、形成される皮膜の硬度等が充分高められたものとなる。特に、多層構造が少なくとも3段の乳化重合によって形成されているために、水性樹脂組成物の核、すなわち水性樹脂組成物の中心部分である層が存在し、そのためにガラス転移温度の高い中間層が多層構造エマルション粒子中においてより外側に引き出され、ガラス転移温度の高い中間層によって硬度が高められることになる。
この場合、中間層と内層とのガラス転移温度差は、特に限定されず、同一であってもよいが、中間層が内層よりもガラス転移温度が高いものが好ましい。また中間層は、外層と内層よりもガラス転移温度が高いものがより好ましい。
上記外層のガラス転移温度の上限は、−10℃であることがより好ましく、−20℃であることが更に好ましい。
上記外層の質量割合及び上記エマルション全体のガラス転移温度の好ましい形態は、上述した本発明の水性樹脂組成物の好ましい形態と同一である。
例えば、本発明の水性樹脂組成物における上記ガラス転移温度が0℃以下である外層は、50質量%を超えるものであることが好ましい。このような範囲に設定することにより、組成物が充分な低温造膜性を発揮することができる。
【0027】
上記多層構造エマルション粒子は、平均粒子径が70〜450nmであることが好ましい。平均粒子径が70nm未満であると、水性樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎたり、また、分散安定性を充分に保持できずに凝集したりするおそれがあり、450nmを超えると、耐水性に劣る場合がある。より好ましくは、80〜400nmであり、更に好ましくは、100〜350nmである。
平均粒子径は、動的光散法により求めることが可能であり、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法によるNICOM P Model 380(粒度分布測定器、商品名、パーティクル サイジング システムズ[Particle Sizing Systems]社製)でウインドウズベースのソフトウェア(Windows(登録商標) Based Software)を用いて測定することにより求めることが好ましい。解析方法は、ボリューム−ウエイテッド ガウシアン ディストリビューション アナリシス(VOLUME−Weighted GAUSSIAN DISTRIBUTION Analysis)(固体粒子[Solid Particle])により行うことが好ましい。
なお、本発明の水性樹脂組成物は、上記多層構造エマルション粒子以外のエマルションを含んでいてもよいが、水性樹脂組成物全体としての平均粒子径もまた、上記範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明の水性樹脂組成物の合成に用い得る単量体成分は、ラジカル重合性単量体であることが好ましい。
上記ラジカル重合性単量体は、特に限定されないが、水性樹脂組成物の酸価を上記好適範囲に調整するには、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性アクリレート(例えば「プラクセルFA」シリーズ;ダイセル工業社製)、カルボキシル基末端カプロラクトン変性メタクリレート(例えば「プラクセルFMA」シリーズ;ダイセル工業社製)等のカルボキシル基含有単量体を使用する。これらは2種以上を併用してもよい。中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
上記多層構造エマルション粒子が、多層構造アクリルエマルション粒子である形態が本発明の好ましい形態である。多層構造アクリルエマルション粒子とすることにより、充分な耐水性を発揮することができる。多層構造アクリルエマルション粒子とは、多層構造エマルション粒子であって、該粒子を構成する重合体が(メタ)アクリル酸由来の構成単位を必須成分とするものを意味する。
【0029】
その他の使用可能な単量体としては、以下のラジカル重合性単量体類が好適なものとして挙げられる。
【0030】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレ−ト、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシルカルビトール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルまたはシクロアルキルエステル単量体類。
【0031】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業株式会社製の「プラクセルF」シリーズ等)等のヒドロキシル基含有単量体類。
メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルコキシアルキルエステル類。
【0032】
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシラン等のヒドロキシシランおよび/または加水分解性シラン基含有ビニル系単量体類。
【0033】
(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルサクシンイミド、N−ビニルメチルカルバメート、N,N−メチルビニルアセトアミド、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有単量体類。
(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチル等のアジリジニル基含有単量体類。
【0034】
グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジルアクリレート、α−メチルグリシジルメタクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製の「MGMA」)、グリシジルアリルエーテル、オキソシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製の「サイクロマー(登録商標)A400」等)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製の「サイクロマー(登録商標)M100」等)等のエポキシ基含有単量体類。
ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体類。後述するスチレン及び/又はスチレン誘導体(芳香族ビニル単量体類であるものとそうでないものがある)。
【0035】
アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホウミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(ビニルエチルケトン等)、(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニルアクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレートアセチルアセテート等のカルボニル基含有単量体類。
【0036】
パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート類。
【0037】
4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(例えば、旭電化工業社製「アデカスタブ(登録商標)LA−87」)、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン(例えば、旭電化工業社製「アデカスタブ(登録商標)LA−82」)、4−(メタ)アクリロイル−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性単量体類。
【0038】
2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−べンゾトリアゾール、−2−[2−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−[2,−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5′−tert−オクチルフェニル]−2H−べンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−3′−t−ブチル−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−t−ブチル−3′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3′−t−ブチルフェニル]−4−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体類。
【0039】
2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]プロポキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体類。
;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0040】
上記スチレン誘導体としては、例えば、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−エトキシスチレン、m−エトキシスチレン、p−エトキシスチレン、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、o−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。また、スチレン誘導体は、ベンゼン環が、メチル基やtert−ブチル基等のアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等の官能基で置換されていてもよい。
上記スチレン及び/又はスチレン誘導体の中でも、スチレンが好ましい。
【0041】
また本発明の水性樹脂組成物においては、上述のような重合性を有する紫外線吸収性単量体や紫外線安定性単量体を単量体成分とする重合体を含有していてもよいが、重合性不飽和結合基を有しない添加型の化合物である紫外線吸収剤や紫外線安定剤を含有していてもよい。
上記重合体としては、耐水性向上のためにシランカップリング剤を用いて得られるものであることが好適であり、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等の重合性不飽和結合基を有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0042】
上記多段乳化重合において用いられる乳化剤は特に限定されず、公知のアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤等を用いるとことができる。
上記アニオン性乳化剤としては、例えば、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルフォネート(例えば、花王製「ペレックスSSL」)、アンモニウムドデシルスルフォネート、ナトリウムドデシルスルフォネート等のアルキルスルフォネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルフォネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルフォネート等のアルキルアリールスルフォネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製「ハイテノール18E」、花王社製「ラテムルE−118B」等);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレート等の脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業社製「アデカリアソープSR−10」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等が好適である。
【0043】
上記ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業社製「ナロアクティーN−200」、第一工業製薬社製「ノイゲンTDSシリーズ」、「ノイゲンSDシリーズ」、花王社製「エマルゲン1118S」、花王社製「エマルゲン1108S」等)ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの縮合物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシアルキレンデシルエーテル(第一工業製薬社製「ノイゲンXLシリーズ」)、ポリオキシエチレンスチレン化フェノールエーテル(第一工業製薬社製「ノイゲンEAシリーズ」);エチレンオキサイドと脂肪族アミンの縮合生成物;アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等が好適である。
【0044】
上記カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド等のアルキルアンモニウム塩等が好適である。
上記両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤等が好適である。
上記高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する重合性単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体等が好適である。
【0045】
上記乳化剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができ、原料単量体100質量%に対して0.01〜10質量%程度使用するとよい。なお、多層構造エマルション粒子の重量平均分子量を調整するためには、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を用いる。これらは、多層構造エマルション粒子の原料単量体100質量%に対して、0.01〜10質量%使用するといい。多すぎると、形成される皮膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0046】
上記水性媒体としては、通常、水が使用されるが、必要に応じて、例えばメタノールのような低級アルコール等の親水性溶媒を併用することもできる。水性媒体の使用量は、得ようとする多層構造エマルション粒子の所望の樹脂固形分や粘性を考慮して適宜設定すればよい。水性媒体の添加時期については、予め反応釜に仕込んでおいてもよいし、本重合反応の際にプレエマルションとして投入してもよい。また、水性媒体は、必要に応じて、冷却、洗浄、固形分調整、粘度調整等の工程で用いてもよい。
【0047】
上記多段乳化重合において用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。
上記重合開始剤の使用量としては、全重合性不飽和結合基含有化合物使用量に対して0.01〜1質量%とするのが好ましい。0.01質量%未満であると、重合速度が遅くなって未反応の単量体成分が残存するおそれがあり、1質量%を超えると、形成される皮膜の耐水性が低下するおそれがある。より好ましくは、0.05〜0.8質量%とすることであり、更に好ましくは、0.1〜0.5質量%とすることである。
また添加方法は、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下等のいずれの方法であってもよい。更に、重合の完了を速めるためには、最終段の単量体成分の滴下終了前後に、重合開始剤の一部を添加してもよい。
【0048】
上記重合工程においては、重合開始剤の分解を促進する目的で、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤や硫酸第一鉄等の遷移金属塩を添加してもよい。また、必要に応じて、pH緩衝剤、キレート剤、連鎖移動剤、成膜助剤等の添加剤を添加してもよい。
【0049】
上記重合温度としては、0〜100℃であることが好ましい。より好ましくは、40〜95℃である。重合温度は一定であってもよいし、重合途中で又は各段階によって変化させてもよい。重合時間についても、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合開始から終了まで2〜8時間とするのが好ましい。重合時の雰囲気については、重合開始剤の効率を高めるため窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが一般的である。
【0050】
上記重合工程においては、得られる重合体のもつ酸性基の一部又は全部を中和剤で中和してもよい。中和を行う時期としては、最終段の単量体成分の添加後に行ってもよいし、例えば2段重合形態の場合、1段目の重合反応と2段目の重合反応の間に行ってもよい。また、初期反応終了時に行うことも可能である。
上記中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸化物;アンモニア、モノメチルアミン等の有機アミン等のアルカリ性物質を用いることができる。これらの中でも、特に耐水性を重視する場合には、アンモニア等の揮発性をもつアルカリ性物質が好ましい。
【0051】
上記多層構造エマルション粒子は、少なくとも1層以上がシクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の単量体単位を有する重合体によって形成されるものであることが好ましい。
上記多層構造エマルション粒子を構成する重合体における上記単量体単位の合計量は、多層構造エマルション粒子を構成する重合体における単量体単位の全量に対して5質量%以上であることが好ましい。5質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮することができなくなるおそれがある。
上記「多層構造エマルション粒子を構成する重合体における上記単量体単位の合計量は、多層構造エマルション粒子を構成する重合体における単量体単位の全量に対して5質量%以上である」とは、例えば、多層構造エマルション粒子が内層、中間層及び外層のみによって構成される場合は、上記内層、中間層及び外層のいずれか1つ又は2つ以上が上記特定単量体単位を含むかに関わらず、上記内層、中間層及び外層を構成する重合体における上記特定単量体単位の合計量が内層、中間層及び外層を構成する重合体における単量体単位の全量に対して5質量%以上であればよい。より好ましくは、10質量%以上である。
例えば、上記多層構造エマルション粒子は、少なくとも1層以上がシクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の単量体単位を有する重合体によって形成され、該多層構造エマルション粒子を構成する重合体における該単量体単位の合計量は、多層構造エマルション粒子を構成する重合体における単量体単位の全量に対して5質量%以上であることは本発明の好ましい実施形態である。
このような多層構造エマルション粒子を必須とすることにより、本発明の水性樹脂組成物は、低温造膜性が良好で、しかも形成される皮膜の硬度等が優れたものとなる。
中でも、上記多層構造エマルション粒子は、少なくとも1層以上がシクロヘキシルメタクリレート、スチレン及びt−ブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の単量体単位を有する重合体によって形成されるものであることがより好ましい。
【0052】
本発明はまた、3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、上記多層構造エマルション粒子は、多段乳化重合によって形成されるものであり、該多段乳化重合は、前段乳化重合工程、中段乳化重合工程、後段乳化重合工程を含み、中段乳化重合工程は、重合される単量体の組成が前段乳化重合工程とは異なり、中段乳化重合工程によって後段乳化重合工程よりもガラス転移温度が高い重合体層が得られる水性樹脂組成物でもある。
上記多段乳化重合は、前段乳化重合工程、中段乳化重合工程、後段乳化重合工程を含み、この順で行なわれるものであり、それぞれの重合工程により得られる重合体によって多層構造エマルション粒子における層が形成されることになる。この形態においては、上記前段、中段、後段工程を必須とすればよく、その他の乳化重合工程を前段の前、前段と中段との間、中段と後段との間、後段の後に含んでいてもよい。
このような多層構造エマルション粒子を必須とすることにより、本発明の水性樹脂組成物は、低温造膜性が良好で、しかも形成される皮膜の硬度等が優れたものとなる。
上記前段乳化重合工程、上記中段乳化重合工程、上記後段乳化重合工程によって得られる重合体により形成される層の好ましい形態は、それぞれ、上記内層、上記中間層、上記外層の好ましい形態と同様である。また上記水性樹脂組成物の好ましい形態は、上述した本発明の好ましい形態と同様である。
【0053】
本発明の水性樹脂組成物は、最低造膜温度が10℃以下であることが好ましい。
最低造膜温度(以下、MFTともいう。)が10℃を超えると、造膜助剤等の有機化合物を少量配合する必要が生じる。また外気の中で塗装する際に実用的でなくなるおそれがある。
MFTは、5℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。
MFTは、JIS K6828−2(2003)に準じて測定され、適当な温度勾配を有する平板の上に帯状にエマルションを塗布したときの造膜した部分と造膜していない部分との境界温度であり、「亀裂のない均一皮膜が得られる最低温度」と定義される。本発明では、MFTテスター(テスター産業社製「TP−801 LT型」)を用い、ステンレス鋼製の溝なし平板上に250μm(ウェット)の皮膜をアプリケーターで作製して、測定温度範囲−5℃〜+30℃で最低造膜温度(℃)を測定することができる。皮膜の亀裂の有無は、上記JIS K6828−2に準じて目視で判定することができる。
【0054】
本発明の水性樹脂組成物を23℃で24時間乾燥することにより得られる皮膜は、そのケーニッヒ(KOENIG)硬度が4回以上となることが好ましく、ケーニッヒ硬度は9回以上がより好ましい。なお、この皮膜は、本発明の水性樹脂組成物のみから形成された膜を指し、本発明の水性樹脂組成物に塗料用添加剤等を配合した後の塗料から得られる「塗膜」ではない。本明細書中では、便宜上、本発明の水性樹脂組成物のみから得られる膜を「皮膜」と、本発明の建築外装トップコート用塗料から得られる膜を「塗膜」という。
本発明の水性樹脂組成物は、上記皮膜のケーニッヒ硬度が4回以上となるものが好ましい。上記皮膜のケーニッヒ硬度が4回未満では、本発明で目的とする優れた硬度を有する塗膜を得ることができないおそれがある。
【0055】
上記ケーニッヒ硬度は、振り子式硬度計(ケーニッヒ式;モデル299;エリクセン(独)社製)を用いて測定する値を採用する。具体的には、ガラス板状にアプリケーターで水性樹脂組成物の250μm(ウェット;固形分濃度40〜60質量%)の皮膜を作製し、23℃で24時間放置した後、この塗装板を上記振り子式硬度計にセットし、測定開始角度を6°とし、測定終了角度が3°を下回るまでの振り子(タングステンカーバイド鋼球)の往復回数をケーニッヒ硬度(回)とする。塗膜にタックがあれば、振り子が止まってしまうため、この回数が多いほど、硬度が硬く、性能がよいことを示す。
【0056】
本発明はまた、上記水性樹脂組成物を調製する水性樹脂組成物の製造方法でもある。
本発明の製造方法により、揮発性有機化合物量が少なく、耐水性が向上され、かつ耐候性にも優れ、しかも環境的に有利であり、例えば建築建材用、建築外装用塗料等の種々の用途において好適に用いることができる水性樹脂組成物を簡便に製造することが可能となる。
本発明の水性樹脂組成物の製造方法の原料、重合条件、添加剤等の好ましい形態は、上述した本発明の水性樹脂組成物における好ましい形態と同様である。
【0057】
本発明は更に、本発明の水性樹脂組成物を含む建築外装トップコート用塗料でもある。
本発明の建築外装トップコート用塗料は、低温造膜性に優れ、これにより形成される塗膜が硬度等の特性を発揮することができ、建築建材用、建築外装用塗料等の種々の用途において好適に用いることができるものである。また、上記水性樹脂組成物を含むものであるため、有機化合物が低減されたものとしても低温造膜性に優れるものである。
本発明の建築外装トップコート用塗料中の本発明の水性樹脂組成物の含有割合は、建築外装トップコート用塗料100質量%に対して、例えば10質量%以上、90質量%以下が好ましい。より好ましくは15質量%以上、85質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以上、80質量%以下である。10質量%未満であったり、90質量%を超えると、本発明の建築外装トップコート用塗料として適当なものでなくなるおそれがある。
上記建築外装トップコート用塗料は、その質量を100質量%とすると、総揮発性有機化合物の量が1質量%以下であることが好ましい。本発明の建築外装トップコート用塗料をこのようなものとすることにより、塗料としての特性を維持したうえで、より環境に負荷をかけることのない塗料とすることができる。
なお、本発明の水性樹脂組成物を含む塗料も本発明の一つであるが、本発明の建築外装トップコート用塗料は、このような本発明の水性樹脂組成物を含む塗料の一つの好ましい実施形態であるといえる。
【0058】
本発明の建築外装トップコート用塗料は、必要に応じて添加剤等を含有していてもよく、上記添加剤等としては、例えば顔料、骨材等を挙げることができる。
上記顔料としては、例えば、無機顔料として酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華、リトポン、鉛白等の白色顔料、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、ベンガラ等の着色顔料等を挙げることができ、また、有機顔料としてベンジジン、ハンザイエロー等のアゾ化合物やフタロシアニンブルー等のフタロシアニン類等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。塗膜の耐候性を低下させることのないように、耐候性の良好なものを選択することが好適であり、例えば、白色顔料である酸化チタンに関してはアナタース型の酸化チタンを用いるよりもルチル型の酸化チタンを用いる方が塗膜の耐候性の面で好ましい。また、ルチル型としては、硫酸法酸化チタンよりは塩素法酸化チタンのほうが長期に耐候性を維持発現させることができるので好ましい。
【0059】
上記骨材としては、透明骨材であっても着色骨材であってもよく、透明骨材としては長石、硅砂、硅石、寒水砂、ガラスビーズ、合成樹脂ビーズ等を挙げることができ、また、着色骨材としては大理石粉、御影石粉、蛇紋岩、蛍石、着色硅砂粉、有色陶磁器粉等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記顔料や骨材等の添加剤を含む場合、その効果を充分に発揮するためには、本発明の建築外装トップコート用塗料中のその含有割合は、クリアー塗料等に用いる場合は40質量%未満が好ましい。また、エナメル塗料等に用いる場合は、好ましくは5〜80質量%であり、より好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは20〜60質量%である。
また、上記顔料や骨材以外に、更に、充填剤、レベリング剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、染料、酸化防止剤等を含有していてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
上記建築外装トップコート用塗料は、単独で一層に塗工される形態でもよいし、二層以上に重ね塗りする形態でもよい。また、二層以上に重ね塗りする場合には、その一部の層のみが本発明の建築外装トップコート用塗料により形成される形態でもよいし、全部の層が本発明の建築外装トップコート用塗料により形成される形態でもよい。
上記重ね塗りの方法は、例えば、プライマー処理やシーラー処理等を施した塗装対象物に、第1層(下塗り層)の塗料を塗布して乾燥させ、続いて第2層(上塗り層)の塗料を上塗りして乾燥させる方法等を挙げることができる。塗料を塗布する方法としては、スプレーやローラー、ハケ、コテ等を用いることができる。
【0061】
本発明における水性樹脂組成物及びそれを含む建築外装トップコート用塗料は、種々の用途に用いることができ、例えば、プラスチック成形品用、家電製品用、鋼製品、大型構造物、車両用(例えば、自動車補修用のソリッドカラー用やメタリックベース用、クリヤートップ用)、建材用、建築内・外装用、瓦用、木工用等の各種下塗り、中塗り、上塗り等に利用できるものである。特に、建材用、建築内・外装用として好適に用いることができるものであり、更に好ましくは、建築建材用、建築外装用として用いることができる。更に、好ましくは、石材調塗料用クリアートップコート用に用いることができる。このような本発明の水性樹脂組成物を用いる建築建材トップコート用水性樹脂組成物もまた、本発明の一つの好ましい実施形態である。更に好ましくは、建築建材クリヤートップ用水性樹脂組成物である。
本発明の水性樹脂組成物及びそれを含む建築外装トップコート用塗料を、建築建材用として用いる場合、その基材としては、例えば、スレート板、フレキシブルボード、セメントスラグ抄造板、セメントスラグ成形板、硬質木片セメント板、押出成形セメント板、金属板、プラスチック板、セラミック板、ケイ酸カルシウム板、木板、金属部品鋼板等を挙げることができ、これらの基材上に塗布することにより塗膜を形成することができる。また、建築外装用として用いる場合、その基材としては、例えば、コンクリート、PCパネル、セメントモルタル、ALCパネル、コンクリートブロック、スレート板、石綿セメント系サイディング等を挙げることができ、これらの基材上に塗布することにより塗膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の水性樹脂組成物は、上述の構成よりなり、揮発性有機化合物量が少なく、耐水性が向上され、かつ耐候性にも優れる皮膜を形成できるものであり、しかも環境的に有利なものであり、例えば、建築建材用、建築外装用塗料等の種々の用途において好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0064】
<実施例1>
滴下ロート、撹拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに脱イオン水460部と乳化剤「アクアロン(登録商標)KH−10」(アニオン系反応性界面活性剤[ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)の25%水溶液8部を仕込み、緩やかに窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に78℃まで昇温した。
昇温後、8%濃度に調整した乳化剤「アクアロン(登録商標)KH−10」の水溶液で表2に示される1段目モノマー組成(1段目プレエマルション組成)混合溶液がモノマー濃度として67%になるようによく混合して調整したプレエマルション15部(モノマーとして10部)をフラスコに一気に投入した。フラスコ内温が75℃で安定した後に、3%の過硫酸カリウム水溶液100部を添加して重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し20分間維持した。ここまでを1段目重合反応とした。
1段目重合反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、8%濃度に調整した乳化剤「アクアロン(登録商標)KH−10」の水溶液で表3に示される2段目モノマー組成(2段目プレエマルション組成)混合溶液がモノマー濃度として67%になるようによく混合して調整したプレエマルション600部(モノマーとして400部)を60分間にわたって均一滴下したのち80℃にて60分間熟成した。ここまでを2段目重合反応とした。
2段目重合反応終了後、反応系内を80℃に維持したまま、8%濃度に調整した乳化剤「アクアロン(登録商標)KH−10」の水溶液で表4に示される3段目モノマー組成(3段目プレエマルション組成)混合溶液がモノマー濃度として67%になるようによく混合して調整したプレエマルション881部(モノマーとして590部)を120分間にわたって均一滴下したのち80℃にて120分間熟成した。ここまでを3段目重合反応とした。
室温まで冷却し、pHが8.5となるように25%アンモニア水を投入した。更に固形分濃度が50%となるように脱イオン水を投入したのち、100メッシュの金網でろ過して、エマルション1を得た。
【0065】
(エマルション物性評価)
得られたエマルション1の最低造膜温度(MFT)及びケーニッヒ硬度を測定し、結果を表7に示した。
(塗料化と塗料物性評価)
次に、得られたエマルション1を表6に示す配合で粘度が80KUとなるように増粘剤量を調整して塗料化を行い、塗料1を得た。
得られた塗料1の最低造膜温度(MFT)とケーニッヒ硬度及び耐水性と光沢を測定し、結果を表7に示した。
【0066】
以下のそれぞれの実施例におけるモノマー組成は、下記表2〜5に示す1段目プレエマルション組成〜4段目プレエマルション組成に示した通りである。
<実施例2>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルション量を「45部(モノマーとして30部)」とし、2段目の乳化剤を「ハイテノール(登録商標)18E」(アニオン性界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)に変更し、プレエマルション量を「640部(モノマーとして430部)」と変更し、3段目のプレエマルション量を「800部(モノマーとして540部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0067】
<実施例3>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルション量を「75部(モノマーとして50部)」とし、2段目の乳化剤を「ラテムル(登録商標)PD−104」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、花王社製)に変更し、プレエマルション量を「522部(モノマーとして350部)」と変更し、3段目のプレエマルション量を「900部(モノマーとして600部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0068】
<実施例4>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目の乳化剤を「ハイテノール(登録商標)18E」(アニオン性界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)に変更し、プレエマルション量を「150部(モノマーとして100部)」とし、2段目の乳化剤を「Antox MS−60」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、旭電化社製)に変更し、プレエマルション量を「373部(モノマーとして250部)」と変更し、3段目の乳化剤を「ラテムル(登録商標)PD−104」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、花王社製)に変更し、プレエマルション量を「970部(モノマーとして650部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0069】
<実施例5>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目の乳化剤を「ハイテノール(登録商標)18E」(アニオン性界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)に変更し、プレエマルション量を「373部(モノマーとして250部)」とし、プレエマルション373部の内、150部をフラスコに一気に投入した。フラスコ内温が75℃で安定した後に、3%の過硫酸カリウム水溶液100部を添加して重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し20分間維持した。更に残りのプレエマルション150部を60分かけて滴下した。ここまでを1段目重合反応とした。次に2段目の乳化剤を「Antox MS−60」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、旭電化社製)に変更し、プレエマルション量を「300部(モノマーとして200部)」と変更し、3段目の乳化剤を「ラテムル(登録商標)PD−104」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、花王社製)に変更し、プレエマルション量を「820部(モノマーとして550部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0070】
<実施例6>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目の乳化剤を「ハイテノール(登録商標)18E」(アニオン性界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)に変更し、プレエマルション量を「150部(モノマーとして100部)」とし、2段目の乳化剤を「Antox MS−60」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、旭電化社製)に変更し、プレエマルション量を「373部(モノマーとして250部)」と変更し、3段目の乳化剤を「ラテムル(登録商標)PD−104」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、花王社製)に変更し、プレエマルション量を「970部(モノマーとして650部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0071】
<実施例7>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルションを45部(モノマーとして30部)と変更し、2段目のプレエマルションを641部(モノマーとして430部)と変更し、3段目のプレエマルションを450部(モノマーとして300部)を60分にわたって均一滴下したのち80℃にて60分間熟成し、更に3段目重合終了後、反応系内を80℃に維持したまま、8%濃度に調整した乳化剤「KH−10」の水溶液で表5に示される4段目モノマー組成(4段目プレエマルション組成)混合溶液がモノマー濃度として67%になるようによく混合して調整したプレエマルション358部(モノマーとして240部)を60分間にわたって均一滴下したのち80℃にて120分間熟成した。ここまでを4段目重合反応とし、室温まで冷却した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0072】
<実施例8>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルションを45部(モノマーとして30部)と変更し、2段目のプレエマルションを150部(モノマーとして100部)と変更し、3段目のプレエマルションを522部(モノマーとして350部)を60分にわたって均一滴下したのち80℃にて60分間熟成し、更に3段目重合終了後、反応系内を80℃に維持したまま、8%濃度に調整した乳化剤「KH−10」の水溶液で表5に示される4段目モノマー組成(4段目プレエマルション組成)混合溶液がモノマー濃度として67%になるようによく混合して調整したプレエマルション780部(モノマーとして520部)を60分間にわたって均一滴下したのち80℃にて120分間熟成した。ここまでを4段目重合反応とし、室温まで冷却した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0073】
<実施例9>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルションを75部(モノマーとして50部)とし、2段目の乳化剤を「PD−104」に変更し、プレエマルションを522部(モノマーとして350部)と変更し、3段目のプレエマルションを900部(モノマーとして600部)に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0074】
<実施例10>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルションを45部(モノマーとして30部)とし、2段目の乳化剤を「ハイテノール18E」に変更し、プレエマルションを640部(モノマーとして430部)と変更し、3段目のプレエマルションを800部(モノマーとして540部)に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0075】
<比較例1>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目の乳化剤を「ハイテノール(登録商標)18E」(アニオン性界面活性剤[ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩]、商品名、第一工業製薬社製)に変更し、プレエマルション量を「450部(モノマーとして300部)」とし、プレエマルション450部の内、150部をフラスコに一気に投入した。フラスコ内温が75℃で安定した後に、3%の過硫酸カリウム水溶液100部を添加して重合を開始した。この時に反応系内を80℃まで昇温し20分間維持した。更に残りのプレエマルション300部を60分かけて滴下した。ここまでを1段目重合反応とした。次に2段目の乳化剤を「Antox MS−60」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、旭電化社製)に変更し、プレエマルション量を「373部(モノマーとして250部)」と変更し、3段目の乳化剤を「ラテムル(登録商標)PD−104」(アニオン系反応性界面活性剤、商品名、花王社製)に変更し、プレエマルション量を「670部(モノマーとして450部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
【0076】
<比較例2>
1〜3段目のプレエマルション組成を表2〜4に示すとおりとし、1段目のプレエマルション量を「150部(モノマーとして100部)」と変更し、2段目のプレエマルション量を「373部(モノマーとして250部)」と変更し、3段目のプレエマルション量を「970部(モノマーとして650部)」に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。1段目と2段目の組成が同じであり、粒子層としては2層である。
【0077】
<比較例3>
1、2段目のプレエマルション組成を表2、3に示すとおりとし、1段目のプレエマルションを150部(モノマーとして100部)と変更し、2段目のプレエマルションを1343部(モノマーとして900部)を180分にわたって均一滴下したのち80℃にて120分間熟成して室温まで冷却に変更し、3段目としては作製しなかった以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。1段目と2段目の組成が同じであり、粒子層としては1層である。
【0078】
<比較例4>
1〜3段目のプレエマルション組成を表1〜3に示すとおりとし、1段目プレエマルションを150部(モノマーとして100部)と変更し、2段目のプレエマルションを373部(モノマーとして250部)と変更し、3段目のプレエマルションを970部(モノマーとして650部)に変更した以外は実施例1と同様に重合及び評価を行った。
なお、本明細書中、IBAは、イソボルニルアクリレートを表す。IBMは、イソボルニルメタクリレートを表す。HALSは、アデカスタブ(登録商標)LA−82(光安定剤、商品名、株式会社アデカ製)を表す。表7中、「CHMA、St、t−BMA 総量(%)」は、多層構造エマルション粒子を構成する重合体における単量体単位の全量に対する該多層構造エマルション粒子を構成する重合体におけるシクロヘキシルメタクリレート、スチレン及びt−ブチルメタクリレート由来の単量体単位の合計量を表す。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
(エマルション皮膜のケーニッヒ硬度の評価基準)
◎:10回以上
○:7〜9回
Δ:4〜6回
×:0〜3回
(塗料塗膜のケーニッヒ硬度の評価基準)
◎:16回以上
○:13〜15回
Δ:10〜12回
×:0〜9回
【0086】
(塗料塗膜の耐水性の評価基準)
○:異常なし
Δ:5%未満の面積でフクレ・剥がれが見られる
×:5%以上の面積でフクレ・剥がれが見られる
(塗料塗膜の光沢の評価基準)
○:78以上
Δ:70以上、78未満
×:70未満
【0087】
(ケーニッヒ硬度の測定)
ケーニッヒ硬度は、振り子式硬度計(ケーニッヒ式;モデル299;エリクセン(独)社製)を用いて測定した。具体的には、ガラス板状にアプリケーターで水性樹脂組成物の250μm(ウェット;固形分濃度40〜60質量%)の皮膜を作製し、23℃、湿度50%の恒温室の風が直接あたらない場所で24時間乾燥した後、この塗装板を上記振り子式硬度計にセットし、測定開始角度を6°とし、測定終了角度が3°を下回るまでの振り子(タングステンカーバイド鋼球)の往復回数をケーニッヒ硬度(回)とした。
【0088】
(最低造膜温度の測定)
最低造膜温度(MFT)は、JIS K6828−2(2003)に準じて測定した。MFTテスター(テスター産業社製「TP−801 LT型」)を用い、ステンレス鋼製の溝なし平板上に200μm(ウェット)の皮膜をアプリケーターで作製して、測定温度範囲−5℃〜+30℃で最低造膜温度(℃)を測定した。皮膜の亀裂の有無は、上記JIS K6828−2に準じて目視で判定した。
【0089】
(示差走査熱量測定)
ガラス転移温度として、0℃以下の低温サイドと100℃以上の高温サイドとに2つのピークが認められた。
示差走査熱量測定(DSC測定)においては、例えば以下の条件で測定を行った。
本体:DSC220(商品名、セイコー社製)
温度プログラム:
20℃〜200℃:20℃/分、
200℃〜−100℃:10℃/分(測定前処理段階)、
−100℃〜200℃:20℃/分(測定)、
200℃〜20℃:10℃/分(冷却)。
上記温度プログラムは、それぞれの温度範囲における単位時間当たりの温度変化を示す。
なお、図1において、「Temp Cel」はセル温度(℃)を示す。「DSC」は、示差走査熱量測定を示し、「DDSC」は、温度変調示差走査熱量測定を示す。図1は、実施例3において得られた本発明の建築外装トップコート用塗料から形成された塗膜を用いて測定を行ったものである。
【0090】
(塗膜のフェイズ検出)
フェイズ検出とは主に振幅検出時に、加振信号と検出信号との位相差信号をフィードバック信号とする検出方法であり、摩擦、粘弾性、磁気、表面電位等のわずかな振幅変化を捉えることができる。このため、サンプル組成に分布がある場合、特性差(主にTg差)でコントラスト(高Tgが白、低Tgが黒)がつき描写観測される。また、表面観測ではあるが深さ方向、すなわち粒子内部の影響も受けることが知られている。
実施例では、約150nmの粒子が造膜した塗膜において1つの粒子に高Tgポリマー成分が中間層として存在していることが認められる。
図2は、実施例3において得られた本発明の建築外装トップコート用塗料から形成された塗膜についてフェイズ検出結果を示したものである。
(原子間力顕微鏡[Atomic Force Microscope:AFM]による測定)
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)による測定は、以下の条件で行った。
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM):走査型プローブ顕微鏡(ビーコ[Veeco]社製)
アプリケーション:タッピングモードAFM、
マイクロスコープタイプ:D3100EX、
SPMプローブ:単結晶Si探針NCH−10V
スキャン条件:スキャンサイズ(Scan Size):1.0μm、スキャン速度(Scan Rate):0.8Hz、スキャンライン(Scan Line):512、デイトスケール高さ(Date Scale height):50nm、デイトスケールフェイズ(Date Scale phase):50。
【0091】
(平均粒径の測定)
平均粒子径は、例えば、エマルションを蒸留水で希釈し充分に攪拌混合した後、ガラスセルに約10ml採取し、これを動的光散法によるNICOM P Model 380(粒度分布測定器、商品名、パーティクル サイジング システムズ[Particle Sizing Systems]社製)でウインドウズベースのソフトウェア(Windows(登録商標) Based Software)を用いて測定することにより求めることができる。解析方法は、ボリューム−ウエイテッド ガウシアン ディストリビューション アナリシス(VOLUME−Weighted GAUSSIAN DISTRIBUTION Analysis)により行うことができる。
【0092】
(耐水性の測定)
ノザワフレキシブルシート(JIS K−5410:1990に規定される試験板、スレート板、商品名、ノザワ社製)にDAN透明シーラー(日本ペイント製)を130g/m刷毛で塗装し、1日乾燥したシーラー板に、6ミル(mil)のアプリケーターで本塗料を塗装し、室温で1日乾燥したのち、23℃の水に浸漬し、7日後の塗膜状態を観察し、基準に基づき判定した。
【0093】
(光沢値の測定)
ガラス板に6ミル(mil)のアプリケーターで本塗料を塗装し、室温で1日乾燥したのち、光沢計にて60°光沢値を測定した。
【0094】
上述した実施例及び比較例では、多層構造エマルション粒子として3層のもの及び4層のもののみが開示されているが、該多層構造エマルション粒子が、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が内層を構成する重合体の構成単位とは異なるものである形態である限り、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち、水性樹脂組成物において該水性樹脂組成物に必須とされる多層構造エマルション粒子を上記構成のものとするところに本発明の本質的特徴があり、この多層構造エマルション粒子が同様の物理的特徴、化学的特徴等を有するものであれば、この実施例で示されるような効果を奏することになる。したがって、本発明における多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物とすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の建築外装トップコート用塗料から形成された塗膜の示差走査熱量測定(DSC測定)の結果を示す図である。
【図2】本発明の建築外装トップコート用塗料から形成された塗膜の原子間力顕微鏡を用いたフェイズ検出結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、
該多層構造エマルション粒子は、中間層、中間層よりも外にある外層、中間層よりも内にある内層を含み、該中間層が外層よりもガラス転移温度が高いものであり、該中間層を構成する重合体の構成単位が該内層を構成する重合体の構成単位とは異なる
ことを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記多層構造エマルション粒子は、多層構造アクリルエマルション粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
前記多層構造エマルション粒子は、外層のガラス転移温度が−50〜0℃であり、中間層のガラス転移温度が50〜150℃である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
前記多層構造エマルション粒子は、それを構成する重合体全体を100質量%とすると、外層が40〜84質量%、中間層が15〜45質量%、内層が1〜25質量%である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
前記多層構造エマルション粒子は、少なくとも1層以上がシクロヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン及びt−ブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の単量体単位を有する重合体によって形成され、該多層構造エマルション粒子を構成する重合体における該単量体単位の合計量は、多層構造エマルション粒子を構成する重合体における単量体単位の全量に対して5質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性樹脂組成物。
【請求項6】
3層以上の多層構造エマルション粒子を必須とする水性樹脂組成物であって、
該多層構造エマルション粒子は、多段乳化重合によって形成されるものであり、該多段乳化重合は、前段乳化重合工程、中段乳化重合工程、後段乳化重合工程を含み、中段乳化重合工程は、重合される単量体の組成が前段乳化重合工程とは異なり、中段乳化重合工程によって後段乳化重合工程よりもガラス転移温度が高い重合体層が得られることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性樹脂組成物を含むことを特徴とする建築外装トップコート用塗料。
【請求項8】
前記建築外装トップコート用塗料は、その質量を100質量%とすると、総揮発性有機化合物の量が1質量%以下である
ことを特徴とする請求項7に記載の建築外装トップコート用塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−191228(P2009−191228A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36139(P2008−36139)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】