説明

水性潤滑剤

本発明は、水性潤滑剤に関する。特に本発明は、駆動エレメント中での摩擦相手の潤滑のための水性潤滑剤の使用並びにその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性潤滑剤に関する。特に本発明は、駆動エレメント中での摩擦相手の潤滑のための水性潤滑剤の使用並びにその使用に関する。
【0002】
新規の潤滑剤の開発は、潤滑剤組成物の新たでかつより高い要求がなされる技術の一般的な更なる発展を伴わなければならない。これは、特に環境保護の観点で及び二酸化炭素の排出量の観点でもある。この要求を、鉱油又は合成油をベースとする公知の潤滑剤はもはや対応できない。
【0003】
潤滑剤は、特に、駆動エレメント、例えばチェーン、ギア、転がり軸受及び滑り軸受又は回転軸のシーリングにおいて使用される。この潤滑剤は、鉱油又は合成炭化水素をベースとする。特に、転がり軸受及び滑り軸受において、この潤滑剤は、互いに滑るか又は転がる部材の間に、互いに隔てかつ荷重を伝達する潤滑膜を構築するために利用される。従って、前記金属表面同士は接触せずかつそれにより摩耗が生じないことが達成される。従って、この潤滑剤は、
− 摩擦箇所の冷却、
− 極端な駆動条件、例えば極めて高い回転数及び極めて低い回転数、
− 高い回転数及び高負荷による及びそれに伴う内部発熱及び外部発熱により引き起こされる高温、
− 寒冷環境での極めて低い温度、
− 作動特性に関する使用者の特別な要求、例えばわずかな摩擦、低騒音、
− 途中で再注油なしでの極端に長い運転時間、
− 生分解性
に関して高い要求を満たさなければならない。
【0004】
WO 2007/098523 A2からは、作動可能なギア、このようなギア用の作動液及びこのギアの作動開始方法は公知である。この作動液は、水と、固体潤滑剤として黒鉛粒子が懸濁されている脂肪族炭化水素との混合物からなる。この固体潤滑剤は、50μm未満の粒度を有するフレーク状の黒鉛粒子の形で存在する。この潤滑剤及び冷却剤の他の成分は、分散添加剤、消泡剤、腐食防止剤である。この作動液の欠点は、固体状又はフレーク状の形で存在する黒鉛粒子であり、この黒鉛粒子は一方で懸濁液から沈降し、それにより潤滑させるべく作動部材を接着させかねない。他の欠点は、黒鉛含有潤滑剤と接触する部材の取れにくい汚れである。運転中での潤滑油の濾過が必要な場合には、この黒鉛はフィルター孔を閉塞させかねない。さらに、この作動液は極めて低い粘度を有し、この極めて低い粘度が高負荷では潤滑膜の破綻を生じさせかねない。
【0005】
従って、本発明の根底をなす課題は、上記の要求に合致し、特に生分解性でありかつ二酸化炭素の産生を著しく低減することに寄与する水性潤滑剤を提供することであった。
【0006】
前記課題は、本発明により、水、水溶性ポリアルキレングリコール、水溶性乳化剤及び潤滑剤に通常の添加剤からなる潤滑剤を使用することにより解決される。この水溶性ポリアルキレングリコールは、統計的に分布したポリオキシエチレン単位及びポリオキシプロピレン単位及び/又は1つ以上のヒドロキシ末端基を有する他のポロキシアルキレン構成要素、ポリオキシエチレン単位及び/又はポリオキシプロピレン単位及び/又は他のポリオキシアルキレン構成要素からなるブロックポリマーの群から選択される。乳化剤として、アニオン性界面活性剤、例えばスルホン酸塩、非イオン性界面活性剤、例えば脂肪アルコールエトキシラート若しくはNPE又はカチオン性界面活性剤、例えば第4級アンモニウム化合物、水溶性若しくは水に乳化可能なカルボン酸エステルが使用される。
【0007】
意外にも、水性(水含有率>10%)の所定の調製剤が、通常の潤滑剤の潤滑効果を上回り、摩擦係数を有意に低減することが見出された。それにより及び良好な固有の冷却作用により、トライボシステムにおいてわずかな発熱を引き起こす。このような水性潤滑剤は生分解性がよく、水生環境中で環境に調和する。更に、この調製剤はゴム弾性材料と良好に適合することにより優れている。
【0008】
適用に応じて、例えば水性潤滑剤の低温挙動は、不凍剤、例えば低分子グリコール、グリセリン、塩又はイオン液体の添加により著しく改善することができる。
【0009】
さらに、この潤滑剤の特性に適切に影響を及ぼすために添加剤を添加することができる。これらは、溶解した形又は分散した形、コロイド状の形又はナノスケールの形で存在することができる。
【0010】
望ましい場合には、水性潤滑剤は、起泡するように調製することもできる。スプレーフォームとしての適用は、この場合に特に重要である、それというのもそれにより潤滑剤塗布の視覚的なコントロールが可能となるためである。繊維材料又は機械部材が水性潤滑液で汚染された場合には、この潤滑液を容易に清浄化できる。
【0011】
鉱油ベースの又は合成油ベースの潤滑剤を着色するためには、大抵は健康に有害な及び/又は環境毒性の着色剤が必要である。水性潤滑剤の場合には、多数の毒物学的に懸念のない水溶性の着色剤から食品着色料まで使用することができる。
【0012】
本発明による「基油」は、セッケン粉末又は尿素粉末、層状ケイ酸又は他の常用の潤滑剤増粘剤と混合することにより潤滑グリース又は潤滑ペーストに変えることもできる。
【0013】
本発明による水性潤滑剤の有利な実施態様は、次のものを含有する:
統計的に分布したポリオキシエチレン単位及び/又はポリオキシプロピレン単位及び/又は他のポリオキシアルキレン構成要素、ポリオキシエチレン単位及び/又はポリオキシプロピレン単位及び/又は他のポリオキシアルキレン構成要素からなるブロックポリマーからなる群から選択される水溶性ポリアルキレングリコール 5〜80質量%、
アニオン性界面活性剤(例えばスルホン酸塩)、非イオン性界面活性剤(例えば脂肪アルコールエトキシラート又はNPE)又はカチオン性界面活性剤(例えば第4級アンモニウム化合物)又は水溶性若しくは水に乳化可能なカルボン酸エステルの種類からなる起泡性又は非起泡性の乳化剤 0.5〜20質量%、
アルキレングリコール、グリセリン、塩又はイオン液体からなる群から選択される不凍剤 0.5〜50質量%、
防食添加剤、例えばアルカノールアミン、ホウ酸誘導体又はカルボン酸誘導体 0.05〜10質量%、
起泡を抑制するための添加剤、例えばポリジメチルシロキサン又はアクリラートポリマー0.001〜1質量%及び
摩耗防止剤 0.05〜5質量%
水100質量%まで。
【0014】
更に、潤滑剤組成物は次の成分を含有することができる:
殺生物剤、例えばソルビン酸0.001〜0.5質量%及び/又は
ナノ粒子 0.05〜5質量%。
【0015】
更に、この潤滑剤組成物は、
モノカルボン酸及び/又はジカルボン酸からなる金属セッケン、尿素、層状ケイ酸、固体潤滑剤及びアエロジルからなる群から選択される潤滑剤増粘剤0.5〜40質量%を含有することができる。
【0016】
実施例
実施例1
ギアオイルの製造のために、次の成分を混合した:
蒸留水 45.0質量%
プロピレングリコール 20.0質量%
高分子ポリエチレングリコール 25.0質量%
アルコールポリグリコールエーテル 5.0質量%
アルカノールアミン及びホウ酸誘導体 2.0質量%
硫化脂肪酸 3.0質量%。
【0017】
僅かな起泡傾向を有するISO VG 32の実際に無色透明の溶液である。この潤滑剤は、−35℃の温度で液状のままである。
【0018】
慣用の潤滑剤と比較して著しく低減された摩擦レベルは、明らかに改善されたエネルギー効率並びに運転中での低い騒音レベル及び延長された耐用時間を引き起こす。鉱油又は前記鉱油に相当する基油を水と交換することにより、この潤滑剤の持続性に関する利点が生じる。
【0019】
このように構成された潤滑剤は、特に、固体潤滑剤不含のコンセプトにより、この潤滑剤を持続的に濾過する適用、例えば風力発電装置中のギアのために適している。
【0020】
表1中には、鉱油ベースの製品と比較した実施例調製剤1の特性が記載されている。
【表1】

【0021】
実施例2
高負荷可能なギアオイルを製造するために、次の成分を相互に混合する:
蒸留水 38.0質量%
プロペングリコール 20.0質量%
高分子ポリエチレングリコール 24.644質量%
アルコールポリグリコールエーテル 5.0質量%
カルボン酸誘導体M−528、Cortec 10.0質量%
硫化脂肪酸 2.3質量%
酸化セリウムナノ粒子 0.05質量%
ソルビン酸 0.003質量%
アクリルコポリマー 0.003質量%。
【0022】
ここでも、実施例1中で既に記載された潤滑剤の利点が存在する。ナノ粒子の添加により、更に高い摩耗保護が保証される。
【0023】
表2中には、鉱油ベースの生成物と比較した実施例調製物2の特性が記載されている。明らかに低い粘度にもかかわらず、この水性調製物は、ライヒェルト(Reichert)による明らかに改善された摩耗保護(より高い達成可能な接触圧力)を有する。
【表2】

【0024】
実施例3
オイルフォームは次の成分からなる:
蒸留水 50.0質量%
プロピレングリコール 15.0質量%
高分子ポリエチレングリコール 25.0質量%
起泡性脂肪アルコールエトキシラート 5.0質量%
アルカノールアミン及びホウ酸誘導体 2.0質量%
硫化脂肪酸 3.0質量%。
【0025】
ここでも、既に実施例1に記載された潤滑剤の利点が存在し、この調製剤の流動点は−20℃である。
【0026】
この組成物は、高い起泡を示し、このことはフォームとしてのスプレー/ポンプスプレーを用いた適用を可能にする。
【0027】
この種の適用は、最小量潤滑の場合であっても、適用直後に、例えば品質管理の点で、表面上の潤滑剤を視覚的に良好に検出することができるという利点を有する。フォームとしての適用の更なる利点は、トライボシステムの全体の表面の改善された濡れ性であり、このことは短縮された慣らし運転時間及び改善された慣らし挙動を可能にする。
【0028】
図1は、最初の120分間の運転時間の間での、起泡した(非水性)潤滑剤を備えた転がり軸受の明らかに低いトルクを示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】潤滑剤Aで潤滑された転がり軸受の電力消費
【0030】
灰色の曲線:標準適用
黒色の曲線:フォームとしての適用。
【0031】
実施例4
次の成分を有する低温適性を有する水性脂肪の製造:
蒸留水 32.0質量%
プロペングリコール 15.0質量%
高分子ポリエチレングリコール 15.0質量%
ヒドロキシステアリン酸Li 35.0質量%
セバシン酸Na 3.0質量%。
【0032】
表2中に、実施例調製物4の特性が記載されている。
【表3】

【0033】
実施例5
潤滑剤は次の成分からなる:
蒸留水 27.5質量%
高分子ポリアルキレングリコール 50.0質量%
アルキレングリコール 10.0質量%
カルボン酸誘導体M−528、Cortec 2.0質量%
水溶性カルボン酸エステル 10.0質量%
アクリルコポリマー 0.5質量%。
【0034】
この潤滑剤は、回転する軸のシーラントの潤滑のために適しており、かつ鉱油又は合成炭化水素からなる公知の潤滑剤とは反対に、良好に生分解可能であり、従って環境に優しく廃棄することができる。この潤滑剤は、低い摩耗、良好な冷却作用、ゴム弾性材料との良好な適合性により優れており、水質汚染の可能性が低い。有利に、この潤滑剤は、水による希釈の際に粘度はあまり変化しないため、効果的な潤滑膜の形成が可能である。
【0035】
本発明による水性潤滑剤は、チェーン、ギア、転がり軸受及び滑り軸受中の駆動エレメントの潤滑のため、又は回転軸のシーラントの潤滑のために、改善された表面濡れ性及び薄い潤滑膜の改善された検出性の点で、スプレー装置又はポンプスプレー装置を用いて適用される、フォーム、スプレー又はエマルションの形で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
統計的に分布したポリオキシエチレン単位及び/又はポリオキシプロピレン単位及び/又は他のポリオキシアルキレン構成要素、ポリオキシエチレン単位及び/又はポリオキシプロピレン単位及び/又は他のポリオキシアルキレン構成要素からなるブロックポリマーの群から選択される水溶性ポリアルキレングリコール 5〜80質量%、
アニオン性、非イオン性又はカチオン性界面活性剤、水溶性又は水に乳化可能なカルボン酸エステルの種類からなる起泡性又は非起泡性の乳化剤 0.5〜20質量%、
アルキレングリコール、グリセリン、塩又はイオン液体からなる群から選択される不凍剤 0.5〜50質量%、
コロイド添加物 0.05〜10質量%、
起泡を抑制する添加剤 0.001〜1質量%及び
摩耗防止剤 0.05〜5質量%
水100質量%まで
を有する水性潤滑剤。
【請求項2】
更に、殺生物剤 0.001〜0.5質量%及び/又は
ナノ粒子0.05〜5質量%を含有する、請求項1記載の潤滑剤。
【請求項3】
更に、モノカルボン酸及び/又はジカルボン酸からなる金属セッケン、尿素、層状ケイ酸、固体潤滑剤及びアエロジルからなる群から選択される潤滑剤増粘剤 0.5〜40質量%を含有する、請求項1又は2記載の潤滑剤。
【請求項4】
チェーン、ギア、転がり軸受及び滑り軸受中の駆動エレメントの潤滑のため又は回転する軸のシーリングの潤滑のための、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性潤滑剤の使用。
【請求項5】
改善された表面濡れ性及び薄い潤滑膜の改善された検出性の点で、スプレー装置又はポンプスプレー装置を用いて適用されるフォーム、スプレー又はエマルションの形の、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性潤滑剤の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−503922(P2013−503922A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527218(P2012−527218)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005157
【国際公開番号】WO2011/026576
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(509350664)クリューバー リュブリケーション ミュンヘン コマンディートゲゼルシャフト (6)
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D−81379 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】