説明

水性硬化型防汚塗料組成物、防汚性塗膜及び水中構造物

【課題】 防汚塗料としての優れた機能を発揮する水性硬化型防汚塗料組成物、それにより得られる防汚性塗膜及びそれを有する水中構造物を提供する。
【解決手段】 硬化性を有する水性バインダー成分及び防汚剤を含有し、得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものであることを特徴とする水性硬化型防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性硬化型防汚塗料組成物、防汚性塗膜及び水中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、漁網、その他の水中構造物には、フジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物が付着しやすく、それによって、船舶等では効率のよい運行が妨げられ燃料の浪費を招く等の問題があり、また漁網等では目詰まりが起こったり、耐用年数が短くなる等の問題が生じる。これら水中構造物に対する生物の付着を防止するために、水中構造物の表面に防汚性塗膜を形成することが行われている。このような防汚性塗膜の形成に使用される防汚塗料としては、非硬化型樹脂を含有する溶剤系の塗料組成物が知られている(例えば特許文献1〜5参照)。
【0003】
近年、多くの塗料分野において有機溶剤の使用量の低減が求められており、各種水性塗料が開発、使用されてきている。しかし、防汚塗料組成物においては、水性化の試みは少なかった。それは以下の理由によるものである。すなわち、水性塗料では水を媒体とするため、それに含まれるバインダーは溶剤型塗料に含まれるものに比べて親水性が高く、そのままでは塗膜が水に溶解してしまうという問題を有する。一方、その問題を解決するため、塗膜を硬化させれば耐水性は確保できるが、今度は硬化した膜から防汚剤が溶出できなくなるので、塗膜が防汚性を有しなくなるという別の問題点が発生する。このように、防汚塗料を水性化することは、技術的にかなり困難であった。
【0004】
特許文献6,7には、2価の金属を含有する樹脂と水と塩基性化合物とを含有する組成物が記載されている。しかし、このような樹脂は非硬化型であり、得られる塗膜の耐水性が充分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−52803号公報
【特許文献2】特開平11−172159公報
【特許文献3】特開2000−109729号公報
【特許文献4】特開2003−49123号公報
【特許文献5】特開2003−277680号公報
【特許文献6】特開2002−371166号公報
【特許文献7】特開2003−49123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み、防汚塗料としての優れた機能を発揮する水性硬化型防汚塗料組成物、それにより得られる防汚性塗膜及びそれを有する水中構造物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、硬化性を有する水性バインダー成分及び防汚剤を含有し、得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものであることを特徴とする水性硬化型防汚塗料組成物である。
上記硬化性は、水又は空気により制御されるものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分の硬化したものは、水により分解するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系及びアルコキシシリル縮合系のうち少なくとも一種の硬化系を有することが好ましい。
上記水性バインダー成分は、エマルション樹脂及び硬化剤からなり、上記エマルション樹脂は、上記硬化剤が有する官能基と反応しうる基を有するものであることが好ましい。
【0008】
上記水性バインダー成分の硬化したものは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有していてもよい。
上記水性バインダー成分は、酸化重合により硬化するものであることが好ましい。
上記酸化重合は、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものであることが好ましい。
上記水性バインダー成分は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂及びドライヤーからなることが好ましい。
上記エマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体の共重合体であることが好ましい。
【0009】
本発明は、上述の水性硬化型防汚塗料組成物により得られることを特徴とする防汚性塗膜でもある。
本発明は、上記防汚性塗膜を有することを特徴とする水中構造物でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、塗料の水性化を図りつつ、防汚塗料として要求される性能を発揮する塗膜を形成することができるものである。
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、硬化性を有する水性バインダー成分および防汚剤を含有している。
【0011】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物に含まれる水性バインダー成分は、硬化性を有するものであれば特に限定されず、水溶性樹脂を溶解した溶液、水分散性樹脂を分散させたエマルション樹脂、乳化剤等によって樹脂を強制的に分散させた分散樹脂からなるものであってよい。耐水性、防汚性能等の各種性能という観点から、水分散性樹脂を分散させたエマルション樹脂からなることが特に好ましい。
【0012】
上記エマルション樹脂は、水に分散・乳化するための官能基及び硬化官能基を含有するものである。上記水に分散・乳化するための官能基としては特に限定されず、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基やアミノ基等の塩基性基を挙げることができる。上記水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、これらの酸性基は、エマルション樹脂の酸価として、300mgKOH/g以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは1〜20mgKOH/gである。上記酸性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。塩基性基の場合にも、酸性基と同様にして設定することができる。更に、ポリエチレンオキサイドユニットを付加して水に分散・乳化することもできる。
【0013】
上記水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、上記エマルション樹脂に塩基を、上記水に分散・乳化するための官能基が塩基性基である場合、上記エマルション樹脂に酸を加えて中和することにより、水に分散・乳化することができる。
【0014】
上記水性バインダー成分の硬化性は、塗料の使用形態を考慮すると、常温で硬化するものが好ましい。常温で硬化するものは通常、塗布後、自然乾燥または80℃程度の強制乾燥によって、硬化反応が進行するものであり、当業者によく知られている。
【0015】
本発明において、上記常温硬化性は、水又は空気により制御されるものであることが好ましい。ここで水又は空気により制御されるというのは、乾燥によって水が除去されることによって硬化反応が進行する、又は、乾燥によって空気中の酸素と接触することによって硬化反応が進行する等の状態を指すものである。
【0016】
また、上記水性バインダー成分については、そのものが硬化したものが、水により分解する性質を有していることが好ましい。このような性質を有していることで、上記水性バインダー成分を含有する塗料から得られる塗膜が水中に浸漬されることにより分解されるので、自己研磨性を発現することができる。
上記水により分解する性質を有する硬化系としては、脱水縮合反応を例示することができる。すなわち、この場合、上記水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化することになる。
上記脱水縮合反応は、水を発生する平衡反応であることから、乾燥によって水が除去されることによって硬化反応が進行するものである。更に、脱水縮合反応で硬化した塗膜を水中に浸漬した場合、多量の水が存在することにより、硬化反応の逆反応である分解が進行する。
【0017】
また、上記水性バインダー成分については、そのものが硬化したものが、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有していてもよい。この場合、防汚剤の共存下で得られた硬化膜から、防汚剤が溶出しやすくなるため好ましい。これは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造は他の硬化系により得られる架橋構造に比べて、緩やかな網目状になっているためであると考えられる。なお、上記長鎖炭化水素基同士が架橋した構造とは、長鎖炭化水素基の不飽和結合と別の長鎖炭化水素基の不飽和結合とが直接的又は間接的に結合したものである。上記間接的な結合の例として、下記の酸化重合反応における酸素原子が介在した結合を挙げることができる。
【0018】
上記長鎖炭化水素基同士が架橋した構造が得られる硬化系としては、酸化重合反応を例示することができる。
上記酸化重合反応とは、不飽和結合に酸素が吸収されることにより、重合が進行していく反応であり、ドライヤーを併用することによって速乾性に優れるという特徴を有する。なお、ウレタン硬化系等の上述した特徴を有しない水性バインダー成分を使用する場合、長期の防汚性に劣るおそれがある。
【0019】
上記水性バインダー成分が脱水縮合により硬化する場合、その硬化系として、例えば、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系、アルコキシシリル縮合系等を挙げることができる。これらは、公知の硬化系であり、公知の樹脂及び硬化剤の組み合わせを使用することができる。
【0020】
上記水性バインダー成分がカルボニル/ヒドラジド系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、カルボニル基含有樹脂と硬化剤としてヒドラジド化合物からなることが好ましい。
【0021】
上記カルボニル含有樹脂としては少なくとも1のアルド基及び/又はケト基を有する樹脂であれば特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(アルキッド樹脂を含む)、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、それらの変性体/複合体等を挙げることができる。なかでも、耐水性、塗膜物性等の点からアクリル樹脂が好ましい。
【0022】
カルボニル含有樹脂がカルボニル含有アクリル樹脂である場合、アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られるエマルション樹脂を使用することが好ましい。
【0023】
上記アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等を挙げることができる。
【0024】
上記アルド基及び/又はケト基を含むエチレン性不飽和単量体は、得られた樹脂中におけるアルド基及び/又はケト基が0.005〜20mmol/(樹脂固形分1g)となる割合で使用することが好ましい。0.005mmol以下であると、硬化反応性が不充分になるため耐水性が充分に得られないおそれがあり、20mmolを超えると、かえって他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0025】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は上述の範囲となる酸価を有することが好ましく、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体を所望量含有する単量体組成物を重合することによって得られる。上記カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸の半エステル化物等を挙げることができる。
【0026】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、アミン等の塩基により中和されていることが好ましい。その中和率は、300%以下であることが好ましく、10〜100%であることがより好ましい。
【0027】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、数平均分子量が3000以上であることが好ましい。上記数平均分子量が3000未満であると、耐水性が低下するおそれがあるため好ましくない。上記数平均分子量は、10000以上であることがより好ましい。上記数平均分子量は、連鎖移動剤を使用したり、重合開始剤量、重合温度等を調整して樹脂の重合を行うことにより適宜目的とする範囲に調整することができる。
【0028】
上記カルボニル含有アクリル樹脂は、上記単量体の他にその他の単量体を使用することができる。上記その他の単量体としては、エチレン性の不飽和単量体を挙げることができ、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル〔以後単に(メタ)アクリル酸エステルのように表すことがある。〕、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等がある。さらに種々の官能性単量体、例えば、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン、(ポリ) オキシエチレンモノ(メタ) アクリレート、(ポリ) プロピレングリコール(メタ) アクリレート、(メタ) アクリル酸アリル、(ポリ) オキシエチレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0029】
上記アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等を挙げることができる。
【0030】
上記カルボニル基含有樹脂は、上述のようにエマルション樹脂であることが好ましい。エマルション樹脂を得るための手段としては、従来公知の乳化重合が好ましい。その理由は、導入する官能基量の制御が容易であり、この方法で得られる樹脂の分子量が比較的高いため、硬化反応による高分子量化の効果が大きく、耐水性の向上及び高固形分化への対応も可能になるためである。上記従来公知の乳化重合としては、具体的には、上記単量体組成物を、例えば、水、又は、必要に応じてアルコール等のような有機溶剤を含む水性媒体中で反応性乳化剤を用いて予め乳化しておき、これを加熱攪拌下、重合開始剤とともに滴下する方法等を挙げることができる。上記反応性乳化剤としては特に限定されず、アニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれであってもよい。上記反応性乳化剤としては、例えば、エレミノールJSシリーズ(三洋化成社製)、ラテムルS及びKシリーズ(花王社製)、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等の市販の製品を使用することができる。
【0031】
上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系の油性化合物、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)等の水性化合物、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等のレドックス系の油性過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水性過酸化物等を挙げることができる。
【0032】
上記カルボニル基含有樹脂がエマルション樹脂である場合、例えば、平均粒子径が50〜600nmのものを挙げることができる。上記平均粒子径が上記範囲外であると、分散性が低下し、水性硬化型防汚塗料組成物の安定性が不充分となる等のおそれがある。
【0033】
上記水性バインダー成分が上記カルボニル/ヒドラジド系の硬化系を有する場合、硬化剤としてヒドラジド化合物を含有する。上記ヒドラジド化合物としては特に限定されず、ヒドラジド基又はセミカルバジド基を複数有する化合物を使用することができる。
【0034】
上記分子中にヒドラジド基を複数有する化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、グルタン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド等の炭酸ポリヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジド、4、4’−オキシベンゼンスルホニルヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマーヒドラジド等を挙げることができる。上記化合物としては、なかでも、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0035】
上記分子中にセミカルバジド基を複数有する化合物としては特に限定されず、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1′,1′−テトラメチル−4,4′−(メチレン−ジ−P−フェニレン)ジセミカルバジド、ビュレットリートリ(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)等のセミカルバジド類を挙げることができる。これらの化合物は、単独であっても、又は、2種類以上を併用して使用してもよい。
【0036】
上記カルボニル基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/0.05〜1/10の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.05未満であると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10を超えると、未反応のヒドラジド化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.1〜1/0.6の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0037】
上記水性バインダー成分がアセトアセトキシ/アミン系の硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、アセトアセトキシ基含有樹脂、及び、硬化剤としてのアミン化合物からなるものであることが好ましい。上記アセトアセトキシ基含有樹脂としては特に限定されないが、上記カルボニル含有樹脂と同様にアクリル樹脂であることが好ましい。上記アセトアセトキシ基含有アクリル樹脂としては特に限定されず、例えば、アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られる樹脂を挙げることができる。
【0038】
上記アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アセトアセトキシ基を有するアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類が挙げられる。具体的には、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0039】
上記アセトアセトキシ基含有樹脂は、上記カルボニル基含有樹脂と同様にエマルション樹脂であることが好ましい。重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル基含有樹脂と同様の方法により得ることができる。
【0040】
上記アミン化合物としては特に限定されず、例えば、2−メチルペンタメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、フェニレンジアミン、ピペラジン、2,6−ジアミノトルエン、ジエチルトルエンジアミン、N,N−ビス(2−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン等のジアミン基又はポリアミン基を有する化合物を挙げることができる。
【0041】
上記アセトアセトキシ基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と上記硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/0.05〜1/10の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.05未満であると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10を超えると、未反応のアミン化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.1〜1/0.6の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0042】
上記水性バインダー成分がアルコキシシリル縮合系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分はアルコキシシリル基含有樹脂からなるものである。上記アルコキシシリル基としては特に限定されず、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロピオキシシリル基、ブトキシシリル基等を挙げることができる。なお、Si原子は4価であるため、上記アルコキシシリル基は、ジアルキルモノアルコキシシリル基、モノアルキルジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基等といった官能基を構成する単位要素であると見なすことができる。なお、本明細書におけるアルコキシシリル基とは、Si原子とそれに結合した1個のアルコキシル基とを意味する。よって、例えば、トリアルコキシシリル基は、アルコキシシリル基を3個有していることになる。
【0043】
上記アルコキシシリル基含有樹脂としては特に限定されず、例えば、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得られる樹脂を挙げることができる。上記アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレン等を挙げることができる。
【0044】
上記アルコキシシリル基含有樹脂は、上記カルボニル基含有樹脂と同様にエマルション樹脂であることが好ましい。上記不飽和モノマー混合物の重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル基含有樹脂と同様の方法により得ることができる。
【0045】
上記水性バインダー成分がアルコキシシリル縮合系による硬化系を有する場合、上記水性バインダー成分は、更に、酸及び/又は塩基を含有することが好ましい。
上記酸及び塩基としては特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の酸基を有する樹脂、アミノ基等の塩基性基を有する樹脂を挙げることができる。上記酸基を有する樹脂としては、触媒活性が強いことからリン酸基又はスルホン酸基を有する樹脂が好ましく、官能基導入の容易さからリン酸基を有する樹脂が特に好ましい。上記アミノ基としては、2個のアルキル基が窒素原子に結合した3級のものが好ましく、上記アルキル基は同一でも異なっていてもよいが、炭素数1〜8のものが特に好ましい。このようなアミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジオクチルアミノ基等を挙げることができる。上記酸基又は塩基性基を有する樹脂としては特に限定されず、例えば、少なくとも1の酸基又は塩基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の重合によって得られるものを挙げることができる。
【0046】
上記アルコキシシリル含有樹脂に含まれるアルコキシシリル基量と上記酸及び/又は塩基とのモル比は、1/0.01〜1/10の範囲内であることが好ましい。上記モル比が1/0.01未満であると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比が1/10を超えると、未反応の酸及び/又は塩基の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。上記モル比は、1/0.1〜1/0.6の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0047】
上記脱水縮合重合による硬化系の中で、硬化反応の逆反応の進行による自己研磨性が良好であることからカルボニル/ヒドラジド系が好ましく、その中でも硬化反応性に優れることから、カルボニル/セミカルバジド化合物の組み合わせが特に好ましい。
【0048】
上記水性バインダーが酸化重合による硬化系を有する場合、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものであることが好ましい。高級不飽和脂肪酸由来基における不飽和結合が酸化重合することによって、先に述べた、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造が得られるためである。
【0049】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂として、例えば、アルキッド樹脂を挙げることができるが、アクリル型のエマルション樹脂であることが好ましい。このような高級不飽和脂肪酸由来基を有するアクリルエマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物の乳化重合によって得ることができる。
【0050】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、高級不飽和脂肪酸とグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体との反応によって得られるもの等を挙げることができる。上記高級不飽和脂肪酸としては特に限定されず、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等を挙げることができる。更に、亜麻仁油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米糠油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、綿実油脂肪酸、トール脂肪酸等の非共役二重結合を有する乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸等を挙げることもできる。なお、桐油脂肪酸等の共役二重結合を有する脂肪酸を一部併用することができる。
上記高級不飽和脂肪酸の炭化水素部分の平均炭素数は、13〜23であることが好ましい。
【0051】
上記グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0052】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体のヨウ素価は、60〜180であることが好ましく、70〜150であることがより好ましい。
【0053】
上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂の重合方法としては特に限定されず、例えば、上記カルボニル基含有樹脂と同様の方法により得ることができる。また、上記高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂のヨウ素価は、5〜100であることが好ましい。上記ヨウ素価が100を超えると、塗膜表面の乾燥が早過ぎるため、充分な効果が得られない。
【0054】
上記水性バインダー成分は、酸化重合反応による硬化系を有する場合、更にドライヤーを含有することが好ましい。上記ドライヤーは、上記高級不飽和脂肪酸由来基の不飽和結合を架橋させるための働きをするものである。上記ドライヤーとしては、通常、塗料用として慣用されているものであれば特に限定されないが、なかでもコバルト、バナジウム、マンガン、セリウム、鉛、鉄、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、セリウム、ニッケル、及び、スズ等のナフテン酸塩、オクチル酸塩、樹脂酸塩等を挙げることができる。上記ドライヤーの配合量は、通常、樹脂固形分100質量部に対して0.005〜5質量部である。
【0055】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、更に防汚剤を含有するものである。上記防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0056】
上記防汚剤としては特に限定されず、例えば、亜酸化銅、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルカーバーメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバーメート、ロダン銅、4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N′−ジメチル−N′−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩及び銅塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン塩、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、ラウリルアミン−トリフェニルボロン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらは組み合わせて使用することが、その機能を充分に発現させる点から好ましい。
【0057】
上記水性硬化型防汚塗料組成物において、上記防汚剤の含有量は、塗料固形分中、下限0.1質量%、上限80質量%が好ましい。0.1質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。下限1質量%、上限60質量%であることがより好ましい。
【0058】
上記防汚剤は、水溶性分散樹脂と防汚剤とからなる防汚剤ペーストとして配合してもよい。このような防汚剤ペーストとすることにより、水中での防汚剤の放出が容易となり、優れた防汚性を得ることができる。ウレタン硬化系等の上述した特徴を有しない水性バインダー成分を使用する場合、上記防汚剤ペーストを使用することが好ましい。
【0059】
上記水溶性分散樹脂としては特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等公知の分散樹脂を使用することができるが、酸価が10〜300mgKOH/g、数平均分子量が1000〜20000の範囲内であることが好ましい。
【0060】
上記酸価が10mgKOH/g未満であると、水溶性が低下して安定性が損なわれることがある。一方、酸価が300mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高くなりすぎて、塗膜の耐水性が低下することがある。上記上限は、100mgKOH/gであることがより好ましい。
【0061】
上記数平均分子量が1000未満の場合、分子量が低すぎて充分に防汚剤を分散させることができないおそれがある。また、数平均分子量が20000を超える場合は、水溶性が確保できなくなったり、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になるおそれがある。上記下限は、5000であることがより好ましく、上記上限は、15000であることがより好ましい。
【0062】
上記防汚剤ペーストにおいて上記水溶性分散樹脂と上記防汚剤の混合比は、固形分で1:99〜50:50の範囲内であることが好ましい。上記混合比が範囲外であると、防汚剤ペーストの分散粘度が高くなりすぎたり、防汚剤の分散性が低下したりして安定性が不充分となるおそれがある。
【0063】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、上述の成分以外に、可塑剤、顔料等の慣用の添加剤を添加することができる。
上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルスズラウリレート、ジブチルスズラウリレート等の有機スズ系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記顔料としては、例えば、沈降性バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト等の体質顔料;酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化スズ、カーボンブラック、黒鉛、ベンガラ、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドン等の着色顔料等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記のほか、その他の添加剤としては特に限定されず、例えば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳等;水結合剤、タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤等を挙げることができる。
【0066】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、例えば、水性バインダー成分に防汚剤、可塑剤、塗膜消耗調整剤、顔料等の慣用の添加剤を添加し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。また、防汚剤を防汚剤ペーストとして使用する場合、防汚剤と水溶性分散樹脂、更に、顔料、可塑剤、その他の添加剤を予めサンドグラインダーミル等を用いて混合した後、水性バインダー成分と混合することにより調製することができる。このような防汚剤ペーストを使用することが、防汚性の観点から好ましい。
【0067】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、不揮発分量が10〜90質量%であることが好ましい。上記不揮発分量が10質量%未満であると、厚膜化が困難となる場合がある。上記不揮発分量が90質量%を超えると、塗装時の粘度調整が困難となるおそれがある。
【0068】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、PWCが50〜90質量%であることが好ましい。上記PWCが50質量%未満であると、常温乾燥性が低下するおそれがある。一方、上記PWCが90質量%を超えると、造膜が困難になるおそれがある。
【0069】
上記水性硬化型防汚塗料組成物は、常法に従って被塗物の表面に塗布した後、常温下で水を揮散除去することによって乾燥塗膜を形成することができるものである。このようにして得られる塗膜は、水中構造物の汚染を抑制する効果を有するものである。上記水性硬化型防汚塗料組成物を塗布することにより得られる防汚性塗膜も本発明の1つであり、上記防汚性塗膜を有する水中構造物も本発明の一つである。
【0070】
上記防汚性塗膜は、例えば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装等の従来公知の方法により上記水性硬化型防汚塗料組成物を塗布することによって形成することができる。上記防汚性塗膜の乾燥膜厚は、下限30μm、上限500μmの範囲内であることが好ましい。上記乾燥膜厚が上記範囲内であると、耐水性と防汚性のバランスが良好であるため好ましい。
【0071】
上記防汚性塗膜における樹脂固形分と防汚剤との質量比は、1:7〜1:1であることが防汚効果の点から好ましい。また、硬化反応の逆反応の進行による自己研磨性を有する場合、上記防汚性塗膜に含まれる硬化官能基量は、樹脂固形分に対して0.00015〜8mmol/gの範囲内であることが耐水性及び防汚性の点から好ましい。なお、上記硬化官能基量は、塗料配合から計算されうるものである。
【0072】
上記水中構造物としては特に限定されず、例えば、船舶、配管材料、漁網等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0073】
本発明により、耐水性に優れ、かつ良好な防汚効果を有する水性硬化型防汚塗料組成物を得ることができた。上記水性硬化型防汚塗料組成物により得られる防汚性塗膜は、上述の効果を有するため、幅広く水中構造物に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0075】
製造例1
脱水縮合用アセトアセトキシ基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部、メタクリル酸メチル30部、アクリル酸エチル20部、アクリル酸n−ブチル30部、スチレン9部、メタクリル酸1部からなるモノマー混合物を、イオン交換水60部とアクアロンHS−10(第一工業製薬社製アニオン系反応性乳化剤)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、モノマー混合物のプレエマルションを得た。また、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水17部に溶解させ、開始剤水溶液を得た。
【0076】
滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水70部にアクアロンHS−10を2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。次に、得られたプレエマルションと開始剤水溶液とを別個の滴下ロートから3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、同温度でさらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部とジメチルエタノールアミン1部とからなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られたカルボニル基含有エマルション樹脂は、固形分40質量%、平均粒子径が90nmであった。
【0077】
製造例2
脱水縮合用アセトアセトキシ基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をアセトアセトキシエチルメタクリレート10部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてアセトアセトキシ基含有エマルション樹脂を得た。得られたアセトアセトキシ基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒子径が90nmであった。
【0078】
製造例3
脱水縮合用アルコキシシリル基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をKBM−503(信越化学社製メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)10部に変更したこと以外は製造例1と同様にしてアルコキシシリル基含有エマルション樹脂を得た。得られたアルコキシシリル基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒子径が90nmであった。
【0079】
製造例4
酸化重合用高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂の製造
ダイアセトンアクリルアミド10部をグリシジルメタクリレートの大豆油脂肪酸付加体10部に変更したこと以外は製造例1と同様にして高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂を得た。得られた高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂は、固形分質量40%、平均粒子径が90nmであった。
【0080】
製造例5
防汚剤ペーストの製造
脱イオン水20部に対し、亜酸化銅40部、ジンクピリチオン5部、亜鉛華5部、ベンガラ5部、タルク5部を加え、更に、顔料分散剤としてのBYK−190(ビックケミー社製)20部及び消泡剤としてBYK−019(ビックケミー社製)を加え、サンドグラインダーミルで分散することにより、固形分76.5質量%、PWC92%、粒度20μmの防汚剤ペーストを得た。
【0081】
実施例1
製造例1で得られたカルボニル基含有エマルション樹脂100部、ハードナーSC(旭化成社製セミカルバジド硬化剤、固形分50質量%)4部、製造例5で得られた防汚剤ペースト200部、PUR−2150(アクゾ・ノーベル社製ウレタン会合型増粘剤、固形分35質量%)3部を、ディスパーで分散することにより、水性硬化型防汚塗料組成物を得た。
【0082】
この塗料組成物は、PWC72質量%、固形分64質量%、硬化官能基量/カルボニル基:0.12mmol/g、セミカルバジド基:0.047mmol/g、酸価1.0mgKOH/gである。
さらに、得られた塗料組成物を25℃におけるストーマー粘度計での粘度が90KUとなるようにイオン交換水にて粘度調整した。
【0083】
この塗料組成物を、サンドペーパー(粒度240)で目荒らししたFRP板(100×300×3mm、ゲルコート処理あり)に、乾燥膜厚が400μmとなるように刷毛で塗装を行なった。塗装後、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に1日放置することにより試験塗板を得た。
【0084】
実施例2〜6
製造例2、3、4で得られたアセトアセトキシ基含有エマルション樹脂、及び、アルコキシシリル基含有エマルション樹脂、高級不飽和脂肪酸由来基含有エマルション樹脂、及び、ウォーターゾール3060(大日本インキ化学工業社製水性アルキッド樹脂)、バイヒドロールA145(住化バイエルウレタン社製水性ポリウレタン用ポリオール)を使用し、表1に示した組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、それぞれ、水性硬化型防汚塗料組成物を得た。更に、実施例1と同様にして試験塗板を得た。
【0085】
比較例1
表1に示した組成に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の水性非硬化型防汚塗料組成物を製造するとともに、試験塗板を得た。
【0086】
得られた各試験塗板について、以下の基準により耐水性、及び、防汚性を評価した。
〈耐水性及び防汚性〉
試験塗板を岡山県玉野市・日本ペイント株式会社臨海研究所において海中筏から水深1mに垂下浸漬し、1ヶ月、6ヶ月、12ヶ月後の塗膜の表面状態を目視にて観察した。結果を表1に示す。
耐水性に関しては以下の基準で評価した
○:異常なし
△:わずかにフクレが見られる
×:全面にフクレが見られる
【0087】
防汚性については以下の基準で評価した。
◎:付着生物なし
〇:除去容易なスライムのみ付着
△:試験板面積の10%未満に動植物付着
×:試験板面積の10%以上50%未満に動植物付着あり
××:試験板面積の50%以上に動植物付着あり
【0088】
得られた水性硬化型防汚塗料組成物について、以下の方法で自己研磨性を評価した。
〈自己研磨性〉
得られた水性硬化型防汚塗料組成物をサンドペーパー(粒度240)で目荒らししたFRP板(ゲルコート処理あり)に、乾燥膜厚が約240μmとなるようアプリケーターで塗装を行なった。塗装後、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に1日放置することにより試験塗板を得た。この試験塗板を海水に設置した回転ドラムに取り付け、周速10ノットで回転させ、3ヶ月間毎の消耗膜厚(μm)を測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1より、実施例により得られた塗膜は、耐水性に優れるとともに、防汚性も優れていることが確認できた。ただし、ウレタン硬化系の実施例6では、耐水性には問題がなかったものの、長期の防汚性が他の実施例に比べ劣っていた。これに対して、非硬化系である比較例1では、塗膜が海水中で溶解してしまうというように耐水性で大きな問題があることが明らかになった。また、実施例において、脱水縮合により硬化する水性バインダー成分を使用したものは、酸化重合により硬化する水性バインダー成分を使用したものより、防汚性に優れていることが確認され、特に硬化系としてカルボニル/ヒドラジド系を用いた実施例1が防汚性に優れていた。なお、この防汚性の発現は自己研磨性に関連していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の水性硬化型防汚塗料組成物は、硬化性を有する水性バインダー成分及び防汚剤からなるものであるため、耐水性に優れ、かつ防汚効果も良好な塗膜を形成することができることから、幅広く水中構造物に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性を有する水性バインダー成分及び防汚剤を含有し、
得られる塗膜が使用時に水中に存在する用途において使用されるものであることを特徴とする水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項2】
硬化性は、水又は空気により制御されるものである請求項1記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項3】
水性バインダー成分の硬化したものは、水により分解するものである請求項1又は2記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項4】
水性バインダー成分は、脱水縮合により硬化するものである請求項3記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項5】
水性バインダー成分は、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系及びアルコキシシリル縮合系のうち少なくとも一種の硬化系を有する請求項3又は4記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項6】
水性バインダー成分は、エマルション樹脂及び硬化剤からなり、前記エマルション樹脂は、前記硬化剤が有する官能基と反応しうる基を有するものである請求項3、4又は5記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項7】
水性バインダー成分の硬化したものは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造を有する請求項1又は2記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項8】
水性バインダー成分は、酸化重合により硬化するものである請求項7記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項9】
酸化重合は、高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものである請求項8記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項10】
水性バインダー成分は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエマルション樹脂及びドライヤーからなる請求項9記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項11】
エマルション樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体の共重合体である請求項10記載の水性硬化型防汚塗料組成物。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の水性硬化型防汚塗料組成物により得られることを特徴とする防汚性塗膜。
【請求項13】
請求項12記載の防汚性塗膜を有することを特徴とする水中構造物。

【公開番号】特開2006−182955(P2006−182955A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379673(P2004−379673)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】