説明

水性錆除去剤の再生方法

【課題】本発明は、脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の新規な再生方法を提供する。
【解決手段】脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の再生方法であって、
(a)銅錆除去に用いた後の水性錆除去剤に酸を添加することにより、銅を含む沈殿を生じさせる工程1、
(b)前記沈殿を固液分離により除去する工程2、
(c)前記沈殿を除去することにより得られる液体のpHを6〜9に調整する工程3、
を含むことを特徴とする再生方法、並びに、
(A)鉄錆除去に用いた後の水性錆除去剤に、酸性リン酸エステルを含有する有機溶剤を添加・撹拌することにより有機相と水相に分画するとともに、前記有機相に鉄成分を抽出する工程1、
(B)前記有機相を除去する工程2、
を含むことを特徴とする再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錆除去に使用した水性錆除去剤(「廃液」とも言う)を再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪族低級メルカプタンを有効成分として含有する水性錆除去剤が知られている。上記水性錆除去剤は、被処理物の表面に形成された銅錆(特許文献1)、又は鉄・スズの錆(特許文献2)を除去する用途に用いられている。そして、使用後の廃液は、液相部分を希釈して廃棄するとともに、スラッジ部分は焼却後に埋め立て処理がなされている。
【0003】
近年の環境保護の意識の高まり及び省資源化の要請から、上記水性錆除去剤から金属を分離し、水性錆除去剤として再生させることが望まれている。かかる再生が可能となれば水性錆除去剤を繰り返し使用できる点で効率的であるとともに、回収金属を有効利用することができる点において有意義である。
【0004】
これに関連し、廃液中に含まれる金属成分を回収する技術としては、特許文献3には、金属錆の処理後の廃液に、アルカリを添加することにより金属を分離する方法が開示されている。この方法を、脂肪族低級メルカプタンを含有する水生錆除去剤の再生に適用した場合には、未反応と反応済みの有効成分の分離が困難な上、アルカリ添加時に中和熱による発熱反応を起こすことで作業に危険性が伴う。更にフロッグ(懸濁物質が凝集された固まり)が生成され、銅の沈殿が生じにくく作業効率が悪いという問題点も生じる。従って、特許文献3に記載の方法を用いることでは不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−263286号公報
【特許文献2】特開平1−168883号公報
【特許文献3】特開昭64−11928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の新規な再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の廃液に特定成分を添加することにより廃液中の金属成分を除去し、水性錆除去剤を再生できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の水性錆除去剤の再生方法に関する。
1. 脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の再生方法であって、
(a)銅錆除去に用いた後の水性錆除去剤に酸を添加することにより、銅を含む沈殿を生じさせる工程1、
(b)前記沈殿を固液分離により除去する工程2、
(c)前記沈殿を除去することにより得られる液体のpHを6〜9に調整する工程3、
を含むことを特徴とする再生方法。
2. 前記工程1において、前記水性錆除去剤に酸を添加することによりpHを5以下にする、上記項1に記載の再生方法。
3. 前記水性錆除去剤が界面活性剤を含有し、前記工程3において、前記沈殿を除去することにより得られる液体の10〜40重量%を、銅錆除去に用いる前の水性錆除去剤と置換し、その後にpHを6〜9に調整する、上記項1に記載の再生方法。
4. 脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の再生方法であって、
(A)鉄錆除去に用いた後の水性錆除去剤に、酸性リン酸エステルを含有する有機溶剤を添加・撹拌することにより有機相と水相に分画するとともに、前記有機相に鉄成分を抽出する工程1、
(B)前記有機相を除去する工程2、
を含むことを特徴とする再生方法。
5. 前記工程1において、前記水性錆除去剤のpHを4.5〜8.0に調整した後に前記有機溶剤を添加・撹拌する、上記項4に記載の再生方法。
6. 前記工程1及び前記工程2を複数回繰り返す、上記項4に記載の再生方法。
【0009】
以下、本発明の水性錆除去剤の再生方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いる水性錆除去剤の有効成分である脂肪族低級メルカプタンとしては、例えばチオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸ジエタノールアミン、チオグリコール酸トリエタノールアミン等のチオグリコール酸誘導体、チオリンゴ酸モノエタノールアミン、チオリンゴ酸ジエタノールアミン、チオリンゴ酸トリエタノールアミン等のチオリンゴ酸誘導体、チオ乳酸などが挙げられる。これらの脂肪族低級メルカプタンは、被処理面の銅錆又は鉄錆を除去するための有効成分として作用する。
【0011】
上記水性錆除去剤のpHは、通常6.0〜9.0であり、好ましくは7.5〜8.5であり、最も好ましくは、8.0〜8.5である。
【0012】
上記水性錆除去剤には、界面活性剤が含まれていても良い。界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0013】
非イオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシアルキレンラウリルエーテル、フッ素系、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、特殊エーテル、高級脂肪酸アルキロールアミドなどが挙げられる。
【0014】
上記水性錆除去剤に含まれる界面活性剤の含有量は、0.05〜10重量%が好ましく、0.05〜5重量%がより好ましく、0.05〜1重量%が最も好ましい。
【0015】
上記水性錆除去剤には、脂肪族低級メルカプタンの臭気を緩和するため、必要に応じて、香料が含まれていても良い。また、着色剤が含まれていてもよい。着色剤を含む場合には、使用程度に応じた水性錆除去剤の変色程度を把握しやすくなり、再生処理に適した時期を認識し易くなる。
【0016】
以下、(1)銅錆除去後の廃液、(2)鉄錆除去後の廃液、の再生方法を説明する。
【0017】
銅錆除去に用いた後の廃液(銅含有廃液)の再生方法
上記水性錆除去剤による銅錆除去処理は公知の方法に従って行うことが出来る。具体的には、水性錆除去剤の主成分である脂肪族低級メルカプタンの働きによって、錆である金属酸化物(銅酸化物)や金属水酸化物(銅水酸化物)を還元し(脂肪族低級メルカプタン自身は、チオール基が酸化されてジスルフィド結合を形成する)、最終的には金属錯体を形成して除去される。
【0018】
より具体的な例を下記に説明する。上記の脂肪族低級メルカプタンとしてチオグリコール酸アンモニウム、錆を形成する成分が酸化銅(I)及び(II)である場合、例えば、下記化学反応に従って、銅錆が除去される。
【0019】
【化1】

【0020】
銅錆除去を行った後の銅含有廃液は、そのまま本発明の再生方法に供してもよいが、予め不可避的に混入する金属片などの不溶画分を固液分離によって除去することが好ましい。不溶画分を固液分離する方法は限定されないが、静置して上清を回収する方法や、遠心分離に供して分離する方法、ろ過によって処理する方法などが挙げられる。ろ過を用いる際は、適当なフィルターを用いて自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、真空ろ過などの方法を用いることが出来る。好ましくは、減圧ろ過である。
【0021】
本発明の銅含有廃液の再生方法は、
(a)銅錆除去に用いた後の前記水性錆除去剤(銅含有廃液)に酸を添加することにより、銅を含む沈殿を生じさせる工程1、
(b)前記沈殿を固液分離により除去する工程2、
(c)前記沈殿を除去することにより得られる液体のpHを6〜9に調整する工程3、
の上記1〜3の工程を含む。以下に、各工程について説明する。
【0022】
工程1について
工程1で添加する酸としては硫酸、塩酸、硝酸、蟻酸、シュウ酸、酢酸などが挙げられる。工業的なコスト面を考慮すると硫酸、塩酸、硝酸などが好ましく、銅の沈殿生成の効率の点や、添加処理時における安全面を考慮すると硫酸がより好ましい。
【0023】
上述の酸の添加量は、酸が銅成分と反応することで十分量の沈殿を生じさせるものであれば問題ないが、全ての銅成分を沈殿させることが出来る量がより好ましい。酸の量は、酸の種類や濃度に応じて適宜調整できる。
【0024】
pHの観点から見れば、酸の種類によって変動はあるものの、例えばpH5以下に調整する方法が好ましい。より好ましくは4以下のpHである。かかるpHの調整によって、実質的にすべての銅成分を沈殿させ、廃液から銅成分を除去することが可能である。
【0025】
本工程にて生成される銅の沈殿とは、脂肪族低級メルカプタンと銅の化合物、例えば、チオグリコール酸銅等が挙げられる。
【0026】
工程2について
沈殿を固液分離する方法は特に限定されないが、工程1の処理の後に液を静置する方法や、遠心分離による処理に供して分離する方法または、ろ過工程によって処理する方法などが挙げられる。処理後液を静置する方法であれば、酸を添加することで沈殿を生じさせてから、1分以上静置することが好ましい。より好ましくは5分以上、最も好ましくは30分以上である。かかる静置処理の後に、上清を分取することで、沈殿を分離することが出来る。
【0027】
ろ過工程を用いる際は、適当なフィルターを用いて自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、真空ろ過などの方法を選択することが出来る。好ましくは、減圧ろ過である。フィルターの例は、ポリエステル繊維、ナイロン−6繊維、ポリポロピレン繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アクリル繊維などから適宜選択して用いることが出来る。
【0028】
除去される沈殿に含まれる銅成分は、回収した後に還元精錬法や湿式精錬法などの公知の精錬方法を用いることで新たな金属源として精錬し、再利用することが出来る。
【0029】
工程3について
工程3において調整するpHは、水性錆除去剤の使用前のpHに戻すための操作であり、pHをアルカリ側に戻す工程である。この工程では、アンモニア水や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウムなどを用いてpHを調整することが好ましく、より好ましくはアンモニア水を用いて調整する。ここで、調整するpHは6.0〜9.0であることが好ましく、より好ましくは、8.0〜8.5である。
【0030】
工程3においては、pHを6.0〜9.0に調整する工程の前に、前記沈殿を除去することにより得られる液体の一部を、銅錆除去に用いる前の水性錆除去剤(即ち、新品の水性錆除去剤)と置換する工程が含まれていても良い。置換する水性錆除去剤は、前記沈殿を除去することにより得られる液体を100重量%としたときの10〜40重量%が好ましく、より好ましくは20〜30%である。この工程は、水性錆除去剤繰り返し再生させることに伴って、上記工程1で添加する酸に由来する塩(塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩など)が、再生後の水性錆除去剤に蓄積することを防ぐ効果を有する。さらに、工程2で除去される沈殿に含まれる界面活性剤などの任意成分を補充する役割も有する。
【0031】
本発明の工程1〜3に記載の方法によって得られる銅含有廃液の再生液は、含まれる銅成分が十分に除去されていれば、再生液を用いた銅錆除去に際して問題となることはなく、このとき主成分となる脂肪族低級メルカプタンの残存率は、70%以上となっていることが好ましい。更に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0032】
上記の銅含有廃液には、銅化合物のほかに、再生液を再度銅錆除去に利用するに障害とならない微量の亜鉛、鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、鉄、ストロンチウム、マグネシウム、スズ、セレン、金、白金、ベリリウム、リチウム、ホウ素、リン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、モリブテン、バナジウム、パラジウム、インジウム、カドミウム、アンチモン及びバリウムからなる群より選ばれる一種類以上の金属もしくはその金属イオンが含まれていても許容される。一例として銅含有廃液に含まれる銅の成分が0.5重量%の場合に、上記の他の金属成分の総量が0.2重量%以下が好ましい。
【0033】
鉄錆除去に用いた後の廃液(鉄含有廃液)の再生方法
上記水性錆除去剤による鉄錆処理は公知の方法を用いて行うことが出来る。具体的には、水性錆除去剤の主成分である脂肪族低級メルカプタンの働きによって、錆となる金属酸化物(鉄酸化物)や金属水酸化物(鉄水酸化物)を還元し(脂肪族低級メルカプタン自身は、チオール基が酸化されてジスルフィド結合を形成する)、最終的には金属錯体を形成して除去される。
【0034】
より具体的な例を下記に説明する。上述の脂肪族低級メルカプタンとしてチオグリコール酸アンモニウム、錆を形成する成分が酸化鉄(II)及び(III)である場合、下記化学反応に従って、鉄錆が除去される。
【0035】
【化2】

【0036】
上記の方法によって鉄錆除去処理を行った液の処理後液(鉄含有廃液)に不可避的に混入する金属片などの不要画分は、予め固液分離によって除去し、残った液体相を本発明の再生方法に供することが出来る。固液分離は、銅含有廃液の再生と同様に実施できる。
【0037】
本発明の鉄錆含有廃液の再生方法は、
(A)鉄錆除去に用いた後の前記錆除去剤(鉄含有廃液)に酸性リン酸エステルを含有する有機溶剤を添加・撹拌することにより有機相と水相に分画するとともに、前記有機相に鉄成分を抽出する工程1、
(B)前記有機相を除去する工程2、
を含む。以下、各工程について説明する。
【0038】
・工程1について
工程1にて使用する酸性リン酸エステルは、モノエステル又はジエステルのどちらでも良いが、モノエステルを用いることが好ましい。具体的な酸性リン酸モノエステルの例としては、2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシルエステル(PC−88A)などがあげられ、酸性リン酸ジエステルの例としては、ジ−2−エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)などが挙げられる。
【0039】
本工程において有機相と水相に分画する方法は、上記の酸性リン酸エステルを含有する有機溶剤と鉄含有廃液とを混合し、撹拌した後に静置して有機相と水相に分離する工程である。例えば10〜15分の撹拌時間が挙げられる。この操作によって、水相の廃液中に含まれる鉄成分は、酸性リン酸エステルを含む有機溶剤中の方が安定に存在できるために、有機相へ抽出される。
【0040】
工程1にて用いる酸性リン酸エステルは、水槽と有機相に分離させるために必要な有機溶剤で希釈される。ここで、有機溶剤は特に限定はされないが、ケロシン、トルエン、キシレン、ベンゼンなどがあげられる。好ましくは、ケロシンである。また、有機溶剤中に含まれる酸性リン酸エステルの濃度は1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。更に好ましくは14〜16%である。
【0041】
工程1において、鉄含有廃液に予め酸を加えてpHを4.5〜8.0に調整することによって、鉄成分の抽出効率を上昇させることが可能となる。より効率を上昇させるためには、予め5.5〜7.5のpHに調整することが好ましく、最も好ましくは6.0〜7.5の範囲である。ここで、pHの調整には前記銅含有廃液の再生方法にて列挙した各種の酸を使用することが出来る。酸は、銅含有廃液の再生の場合と同じものが使用できる。
【0042】
鉄成分の抽出の度合いは、水相と有機相の相平衡が安定した後の水相のpHを指標にして確認することが出来る。一例として、水相のpHが4.8〜5.6の範囲であれば、およそ60%以上の鉄成分が有機相に抽出され、5.2〜5.4の範囲のpHであれば、およそ70%の鉄成分が有機相に抽出されることが確認できる。
【0043】
工程1において、有機溶液に含まれる酸性リン酸エステルが2−エチルヘキシルスルホン酸(PC-88A)であれば、2−エチルヘキシルリン酸(EAP)を併用することで、鉄成分の抽出にかかる時間を早めること、及び鉄成分の抽出効率を高めることが可能となる。このとき、PC-88A:EAPのモル比は5:1〜1:1の範囲で設定することが好ましい。
【0044】
本発明の再生方法では、上記の工程1及び2を繰り返すことで、より鉄を効率的に除去することが可能となる。
【0045】
上記の鉄錆除去に用いた後の鉄含有廃液には、鉄化合物のほかに、再生液を再度鉄錆除去に利用するに障害とならない微量の亜鉛、鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、銅、ストロンチウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる一種類以上の金属もしくはその金属イオンが含まれていても許容される。例えば、鉄廃液中に含まれる鉄の成分が0.15%であれば、上記の他の金属成分の総量が0.06%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0046】
本発明の再生方法によって、これまでに廃棄処分していた水性錆除去剤の使用後の廃液を再生し、再利用に供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】銅の沈殿及び残存する硫黄分濃度におけるpHの影響の結果を表す図
【図2】処理後の廃液から、0.5mol/cm3のPC-88Aを用いて鉄イオンを抽出した結果を表す図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0049】
下記の実施例にて用いた銅錆除去剤及び鉄錆除去剤の廃液は、錆除去の有効成分として20〜25%のチオグリコール酸アンモニウム、0.05〜0.1%の界面活性剤、香料、着色料を有する錆除去剤の廃液である。
【0050】
実施例1(銅錆除去後の再生)
銅廃液再生の実験結果1
本実施例において、銅錆除去後の廃液には、0.5重量%の濃度で銅が溶け込んでいる廃液を用いて実験を行った。この廃液に精製硫酸を滴下し、銅が100%除去されるまでpHを酸性領域に低下させて、チオグリコール酸と銅の錯体沈殿を形成させた。
【0051】
図1に示す結果から、廃液のpHが5付近において銅はほぼ100%沈殿しており、廃液のpHが4.0〜4.5においては100%の銅が沈殿していることが明らかになり、上清の有効成分と銅沈殿分を分離することが可能となった。また、錆除去の有効成分であるチオグリコール酸に含まれる硫黄成分は、pH4において80%以上が残存していた。
【0052】
銅廃液再生の実験結果2
続いて、上清の液体画分に有効成分がどの程度含まれるのかを確認するために、酸化還元滴定を実施した。上清をろ紙またはフィルターにてろ過した後、25%アンモニア水を添加して、pHを8.0〜8.5に調整した後に、ヨウ素を用いた酸化還元滴定法によってチオグリコール酸の残存量を測定した。表1に示す結果の通り、銅錆除去前の新液と比較して、再生液中には90%以上の有効成分が含まれていることが明らかになった。これらの有効成分などを含む水性錆除去剤は、十分に再利用可能であることが明らかになった。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例2(鉄錆除去後の再生)
鉄含有廃液に関して、水性鉄錆除去剤との化合物よりも安定度の高いFe2+錯体を形成させて、これを有機相に抽出することによって除去をおこなった。
【0055】
鉄廃液再生の実験結果1
pHが7.7の水性銅錆除去剤に0.117%の濃度で銅が溶け込んでいる廃液に、塩酸を加えてpHを6付近に設定した後に、ケロシンで希釈したPC-88と体積比1:1(10cm:10cm)で混合・撹拌して相分離処理を行った。更にその後、水相を取り出して、PC-88ケロシン希釈液を加えて、混合・撹拌処理を繰り返し行った。図2に示す結果のように、抽出操作が増すにつれてFe2+の抽出率が増加し、1回の抽出操作で、71.5%、2回の抽出操作で、84.9%、4回目の抽出操作で94.6%の抽出率となった。一方、再生操作後の水溶液中の硫黄濃度は、1回の抽出操作で、1.2%、2回の抽出操作で2.3%、4回の抽出操作で6.5%だけ減少した。よって、大部分の有効成分(チオグリコール酸アンモニウム)が溶液中に残存していることがわかった。
鉄廃液再生の実験結果2
分離した水相に有効成分がどの程度含まれるのかを確認するために、酸化還元滴定を実施した。その結果を表2にまとめる。表2の結果から、鉄錆除去前の新液と比較して、再生液中には70重量%以上の有効成分が含まれていることが明らかになった。このように再生された有効成分などを含む水性錆除去剤は、十分に再利用可能であることが明らかになった。
【0056】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の再生方法であって、
(a)銅錆除去に用いた後の水性錆除去剤に酸を添加することにより、銅を含む沈殿を生じさせる工程1、
(b)前記沈殿を固液分離により除去する工程2、
(c)前記沈殿を除去することにより得られる液体のpHを6〜9に調整する工程3、
を含むことを特徴とする再生方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記水性錆除去剤に酸を添加することによりpHを5以下にする、請求項1に記載の再生方法。
【請求項3】
前記水性錆除去剤が界面活性剤を含有し、前記工程3において、前記沈殿を除去することにより得られる液体の10〜40重量%を、銅錆除去に用いる前の水性錆除去剤と置換し、その後にpHを6〜9に調整する、請求項1に記載の再生方法。
【請求項4】
脂肪族低級メルカプタンを含有する水性錆除去剤の再生方法であって、
(A)鉄錆除去に用いた後の水性錆除去剤に、酸性リン酸エステルを含有する有機溶剤を添加・撹拌することにより有機相と水相に分画するとともに、前記有機相に鉄成分を抽出する工程1、
(B)前記有機相を除去する工程2、
を含むことを特徴とする再生方法。
【請求項5】
前記工程1において、前記水性錆除去剤のpHを4.5〜8.0に調整した後に前記有機溶剤を添加・撹拌する、請求項4に記載の再生方法。
【請求項6】
前記工程1及び前記工程2を複数回繰り返す、請求項4に記載の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58017(P2011−58017A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205522(P2009−205522)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【特許番号】特許第4540738号(P4540738)
【特許公報発行日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(591192720)佐々木化学薬品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】