説明

水性顔料分散体、水性インク及び水性顔料分散体の製造方法

【課題】 分散安定性に優れ、普通紙において発色の高い水性インクを提供し、更に、該インク用の水性顔料分散体を提供する.
【解決手段】 顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合させて得た(メタ)アクリル共重合体Bを1種類以上含む水性顔料分散体、水性インク、及び、界面活性剤の不存在下において、(1)顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に20℃における水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を含浸させる工程と、(2)水溶媒中、前記粒子A内で前記重合性モノマー組成物を重合させる工程とを有する水性顔料分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として顔料を使用した水性インクに有用な水性顔料分散体、該水性顔料分散体の製造方法及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録用水性インクには、色材に染料を用いた染料インクが使用されている。染料インクは、保存安定性に優れ、インクジェットプリンターのノズルを詰まらせにくく、更に得られる印刷物は光沢に優れるといった数々の利点がある。しかし、耐候性の不良により印刷物の長期間の保存ができないといったことや、耐水性、耐光性に劣るといった、染料由来の欠点が指摘されており、近年では、耐候性、耐水性、耐光性に優れた顔料を用いたインクジェット記録用水性インク(以下、顔料水性インクと略す)の開発が進められている。
【0003】
顔料水性インクは、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を水性溶媒中に分散させた顔料分散体を水または水性溶媒で希釈し、これに必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、あるいはその他の添加剤を添加して調製する。しかし、製造工程における顔料の分散安定性を確保しながら諸添加剤を使用してインクジェット記録用インク適性、特に発色性を付与するのは容易ではなかった。また顔料粒子は、記録媒体の表面状態や分散剤の影響を受けやすい欠点があった。例えば、普通紙や再生紙等の表面コーティングされていない紙のような記録媒体では、分散剤の種類によって顔料粒子が該紙繊維の間に入り込んでしまい、紙表面上に残りづらく、顔料本来の高発色が得られない場合が多い。また、該紙繊維の構成やサイズ剤等の処理剤の影響によりにじみや色むらが発生しやすく、にじみや色むらの程度もまちまちであるため、均一な品質を提供することが難しい。また、写真印刷等に使用するインクジェット専用紙等の表面コーティングを有する記録媒体では、顔料粒子が繊維間に入り込まないため印刷濃度は保たれるが、光沢性は十分でなく、印字dutyが異なる部分での光沢性に差があることがあった。
【0004】
これに対し、顔料をポリマー粒子に内包させ、顔料分散体を得る方法がいくつか提案させている。例えば、顔料とポリマーとを予め混練させた粒子をコアとし、乳化剤や親水性モノマーを使用して、周囲にシェル層を設けたコーティング顔料を使用した例が知られている(例えば特許文献1参照)。また、顔料を、水不溶性着色剤を分散した場合には分散安定性を示し、かつ、該分散剤のみの存在下で該ビニルモノマーを重合した場合には生じるラテックスの安定性が乏しいような性質を有する低分子量分散剤(具体的にはスルホン酸基)の存在下で水系媒体中に分散させた後にビニルモノマーを添加して重合させた例が知られている。(例えば特許文献2参照)また、親水性ポリマー、疎水性ポリマーおよび顔料を含有する顔料内包ポリマー粒子を使用した例も知られている。(例えば特許文献3参照)しかし、これらいずれの方法も、分散安定性が良好であり、且つ、特に普通紙における発色性に優れる顔料水性インクを得ることは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−238872
【特許文献2】特開2003−34770
【特許文献3】特開2004−277507
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、色剤として顔料を使用したインクジェット記録用水性インクであって、分散安定性に優れ、普通紙において非常に発色の高いインクジェット記録用水性インクを提供し、更に、該インク用の水性顔料分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、普通紙での発色の要因について鋭意検討し、分散剤として使用するポリマーの酸価が発色に影響すること、分散剤の樹脂酸価が低いほど、普通紙における発色が高くなることを見いだした。
しかしながら、分散剤の酸価が小さくなると溶媒である水に対する分散性が下がり、製造工程における顔料の分散安定性が著しく低下してしまう。
本発明者らは、製造時の顔料の分散工程においては、分散粒子として安定して存在できるような酸価を有し、且つ、インクジェットインクに供する際には、普通紙での発色の高い酸価であるような顔料分散体を提供することで、本発明の課題を解決した。
【0008】
即ち本発明は、水、及び、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子を有する水性顔料分散体であって、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、20℃における水に対する溶解度(以下、水に対する溶解度とは20℃における溶解度とする。)が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合させて得た(メタ)アクリル共重合体Bを1種類以上含む水性顔料分散体を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記記載の水性顔料分散体を使用する水性インクを提供する。
【0010】
また、本発明は、水、及び、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子を有する水性顔料分散体の製造方法であって、界面活性剤の不存在下において、
(1)顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を含浸させる工程と、
(2)水溶媒中、前記粒子A内で前記重合性モノマー組成物を重合させる工程と
を有する水性顔料分散体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性顔料分散体は、分散安定性に優れる。本発明の水性顔料分散体を水性インク、特にインクジェット記録用水性インクに供した場合、普通紙において非常に高い発色が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細について説明する。
(水性顔料分散体)
本発明の水性顔料分散体は、水、及び、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子を有する。
【0013】
(水)
本発明において、水は、分散媒の役割をする。例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等、pH6.5〜7.5かつ遊離イオンを含有しない水が好ましい。
【0014】
(顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子)
本発明において「顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子」とは、少なくとも、顔料及び(メタ)アクリル共重合体とを有する粒子を指す。また、本発明において「(メタ)アクリル共重合体A」とは、親水性(メタ)アクリル共重合体とする。従って本発明において「顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子」とは、少なくとも、顔料及び親水性(メタ)アクリル共重合体の樹脂粒子を示すものとする。
【0015】
「顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子」の製造方法としては、例えば、
(1)(メタ)アクリル共重合体Aの重合過程において、顔料の水系分散液を添加する方法、
(2)界面活性剤を用いて顔料を分散させた水中で(メタ)アクリル共重合体Aの乳化重合又は析出重合を行う方法、
(3)(メタ)アクリル共重合体Aと顔料とを水中で混練分散させる方法
等の方法で得ることができる。本発明においては、界面活性剤の使用量をできるだけ少なくできることから、(3)の混練分散方法により得た粒子を使用するのが好ましい。以下、(3)の方法により得た顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子を使用する方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明で使用する顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の形状は、真球状のものから不定形を有するものまで、水性インク成分として使用できる形態であるならば特に限定なく使用できる。
また粒子径は、用途により決定される。例えば、本発明の水性顔料分散体をインクジェットインクとして使用する場合は、200nm以下が好ましい範囲とされる。また、グラビアインクとして使用する場合は、500nm以下が好ましい範囲とされる。
【0017】
(顔料)
本発明で使用する顔料としては、公知慣用の有機顔料がいずれも使用出来る。具体的には例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、インダンスレン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等が挙げられる。
【0018】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体Aにおいて、親水性基はカルボキシル基であることが好ましい。カルボキシル基は、(メタ)アクリル共重合体Aの1gあたりのモル数が1.2mmol〜3.5mmol(但し、該モル数は中和されたカルボキシル基のモル数を含み、以降のカルボキシル基数についても同様とする。)であると、分散安定性のバランスがとれ好ましく、さらに1.2mmolから2.7mmolの範囲がなお好ましい。これは、酸価に換算すると、67から196の範囲であることが好ましく、67から151の範囲がなお好ましい。該モル数が低すぎる場合には顔料分散性が低下し、特にインクジェットインクを調製した場合に、印字安定性が悪くなる傾向にある。該モル数が高すぎる場合には、着色画像の耐水性が低下するのでやはり好ましくない。
(メタ)アクリル共重合体Aと顔料とを水中で混練分散させる際には、カルボキシル基は、塩基性物質で中和して使用する。
【0019】
(メタ)アクリル共重合体Aの原料となる、カルボキシル基を有する重合性化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー等が挙げられる。該重合性化合物は、1種または複数種を混合して使用してよく、配合比は、得られる(メタ)アクリル共重合体A1gあたりのカルボキシル基数が前記範囲内となるようにすればよい。
【0020】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体Aは、上記カルボキシル基を有する重合性化合物を使用する以外は特に限定はなく、公知の重合性化合物を使用することができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、原料となる上記重合性化合物の反応率等は略同一と考えて、各単量体の仕込割合を、各単量体の重合単位の質量換算の含有割合と見なすものとする。前記(メタ)アクリル共重合体Aは、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤、界面活性剤及び消泡剤を併用することも出来る。
【0022】
前記(メタ)アクリル共重合体Aは、共重合体中のカルボキシル基が塩基性物質で中和されることで、水に対しての溶解性や分散性が確保される。共重合体中の中和量は、全カルボキシル基量に対して通常30〜100%、特に70〜100%の範囲であることが好ましい。この中和された基の割合はアニオン性基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。
【0023】
前記(メタ)アクリル共重合体Aを中和する塩基性物質としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアの様な無機塩基性物質や、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性物質を用いることが出来る。
【0024】
前記(メタ)アクリル共重合体Aの分子量としては特に制限されないが、重量平均分子量5,000〜50,000であることが好ましい。
【0025】
(顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子)
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子において、顔料と(メタ)アクリル共重合体Aとの割合は、質量基準で、〔(メタ)アクリル共重合体Aの不揮発分〕/有機顔料が0.1〜2.0であることが好ましく、0.1〜1.0であることが最も好ましい。該比率が低すぎる場合、着色画像の耐擦過性や、得られる水性インク自体の分散・保存安定性が低下することがあり、高すぎる場合、得られる水性インクの粘度が高くなることがあり、特にインクジェットインクの場合は吐出安定性が損なわれる場合がある。
【0026】
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子を上記(3)の方法で製造する場合、具体的には、顔料、(メタ)アクリル共重合体、塩基性物質及び水を有する混合物を混練分散させる。分散に用いる液媒体は、水100%であるのが最適ではあるが、水と有機溶剤との混合物であって、質量換算で水を少なくとも60%以上含有する水性媒体であっても良い。この場合の有機溶剤は、水溶性の有機溶剤であることが好ましい。水に水溶性有機溶剤を併用することにより、分散工程における液粘度を低下させることが出来る場合があるので、分散工程における粘度が高すぎる場合には、溶媒に水溶性の有機溶剤を適宜添加すると効果的である。
【0027】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、前記共重合体溶液として用いられても良く、別途独立に分散工程中において前記混合物中に含有させても良い。
【0028】
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の調製において、最も好ましい比率は、質量換算で、顔料100部に対し、(メタ)アクリル共重合体Aが10〜100部(但し、不揮発分換算である)、(水溶性有機溶媒を含んでいてもよい)水媒体が200〜290部である。
【0029】
顔料と(メタ)アクリル共重合体Aとを分散させる際に使用出来る分散装置としては、既に公知の種々の方式による装置がいずれも使用出来る。例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式、等の分散方式の分散装置を挙げることが出来る。具体的な分散装置としては、RED DEVIL社製ペイントコンディショナー、東洋精機(株)製の試験用分散機、三井鉱山(株)製SCミル SC100/32型、淺田鉄工(株)製プラネタリーミキサーPVM−5、ウィリー・エ・バッコーフェン社(WAB社)製ダイノーミル等が上げられる。
【0030】
前記分散工程後、必要に応じて、水溶性有機溶剤を蒸留等で留去させてもよい。該留去は、後述の、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合中または重合させた後に、行っても良い。
【0031】
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子は、保存時における平均粒子径が変化しないことが好ましい。具体的には、条件Qにおける平均粒子径の変化率が、0.9〜1.1であることが好ましい。但し、条件Qとは、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子が20部、水が80部である水溶液を70℃の恒温槽中で3日間貯蔵させることであり、平均粒子径の変化率は、条件Q後の平均粒子径を条件Q前の平均粒子径で除した値とする。
この範囲以外の変化率を有する場合、後述の、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合させる際、沈殿が生じる場合がある。
【0032】
((メタ)アクリル共重合体B)
本発明においては、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合させて得た(メタ)アクリル共重合体Bを1種類以上含むことが特徴である。
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下とは、具体的には、該粒子内部で、水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物(以下、重合性モノマー組成物Cと略す)を重合させることを意味する。
【0033】
本発明の課題である普通紙の発色は、分散体として使用するポリマーの酸価、例えばカルボキシル基量(モル数)が影響すると考えられる。
前記(メタ)アクリル共重合体Aが有する酸価は、製造工程における顔料の分散安定性を良好に保つことができる量であるが、普通紙における高い発色性を得るには多すぎる量である。
本発明では、顔料を安定に分散させた後、水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマー組成物Cを重合させることによって得た(メタ)アクリル共重合体Bを共存させることで、系中に存在する(メタ)アクリル共重合体全量の酸価の絶対値を下げている。これにより、製造安定性や保存安定性と、インク化した際の普通紙における発色性とを両立させることができる。
【0034】
系中に存在する(メタ)アクリル共重合体全量の酸価の絶対値の下げ率を定量することは困難であるが、例えば(メタ)アクリル共重合体Aがカルボキシル基を有する場合は、「最終カルボキシル基モル数(理論値)」により定量が可能である。「最終カルボキシル基モル数(理論値)」は、水性顔料分散体中に含まれる樹脂((メタ)アクリル共重合体A+(メタ)アクリル共重合体B)1gあたりのカルボキシル基のミリモル数を表したものである。「最終カルボキシル基モル数(理論値)」と、使用する(メタ)アクリル共重合体Aのカルボキシル基量(ミリモル数)との差が0.3mmol以上となるように、重合性モノマー組成物Cの添加量を決定することで、より発色性に優れる水性インクを得ることができる。
【0035】
具体的には、重合性モノマー組成物Cを、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子中の顔料10部に対して0.5部〜10部となるように使用することが好ましく、中でも1部〜5部となるように使用するのが好ましい。
【0036】
重合性モノマー組成物Cとして使用できる、水に対する溶解度が5重量%以下である重合性モノマーとは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン、ネオペンチルグリコールジ(メタ)クリレート、エチレングリコールジ(メタ)クリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0037】
また、重合性モノマー組成物Cとして5質量%未満の範囲内で使用できる重合性モノマーとしては、上記(メタ)アクリル共重合体Aの原料で述べた汎用の重合性モノマーを使用できる。
【0038】
(製造方法)
本発明の水性顔料分散体は、具体的には、界面活性剤の不存在下において、
(1)顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に重合性モノマー組成物Cを含浸させる工程と、
(2)水溶媒中、前記粒子A内で前記重合性モノマー組成物Cを重合させる工程とを経て製造することができる。
【0039】
本発明においては界面活性剤を使用しない。その理由は、重合性モノマー組成物Cは顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に完全に含浸させ、該粒子中で重合させて得るからである。界面活性剤が存在すると、(メタ)アクリル共重合体A粒子外で重合性モノマー組成物Cがミセルを形成し重合を行なうので好ましくない。
なお、本発明において界面活性剤とは、乳化重合等の分野で使用される低分子の界面活性剤や反応性界面活性剤、具体的には、エマール10、エマルゲン404、 ラテムル S−180〔花王(株)製〕、アクアクロンKH−10〔第一工業製薬(株)製〕、エレミノール ES−30、エレミノール RS−30〔三洋化成(株)製〕、アデカリアソープSE〔旭電化(株)製、ニューコール 210、アントックス MS−60〔日本乳化剤(株)製〕等を示すものであり、狭義の意味で使用される、酸価を有する(メタ)アクリル共重合体やポリエステル等の数平均分子量1000を超える高分子重合体の界面活性剤は含めないものとする。
【0040】
前記工程(1)において、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に重合性モノマー組成物Cを含浸させる工程とは、具体的には、水溶媒中で、好ましくは室温にて数時間混合攪拌することである。この際、加圧下で行なっても問題ないが、装置及び操作の煩雑さを考慮すると常圧下で行なうことが好ましい。混合攪拌の方法は、公知の方法及び装置を使用すればよい。例えばホモディスパー、超音波分散機等が挙げられる。この工程により、モノマーの液面への浮遊がなくなる。
【0041】
ラジカル重合開始剤は、上記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に重合性モノマー組成物Cを含浸させる工程時に添加してもよいし、混合後に添加してもよい。ただし、油溶性開始剤を使用するときは(メタ)アクリル共重合体Aからなる顔料内包粒子と前記重合性モノマー混合物と同時に混合したほうが良い。この場合、添加した水溶性開始剤を使用するときは20℃から80℃で混合攪拌するのが好ましく、油溶性開始剤を使用するときは30℃から50℃で混合攪拌するのが好ましい。
【0042】
次に、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に重合性モノマー組成物Cを含浸させた水分散液を、必要に応じて昇温攪拌させ、重合性モノマー組成物Cを重合させる(工程2)。
該工程で用いるラジカル重合開始剤には、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、アゾビスシアノ吉草酸などの水溶性開始剤や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸メチル)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ビス(4−tert−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジtert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等の油溶性開始剤を使用することができる。
前記ラジカル重合開始剤の使用量は、前記重合性モノマー混合物100部に対して0.1部から20部が好ましく、中でも1部から10部が好ましい。
ラジカル重合の反応条件は、40℃から90℃が好ましく、中でも60℃から90℃が好ましい。反応時間は1時間から20時間が好ましく、中でも3時間から15時間が好ましい。
【0043】
さらに、水性顔料分散体中で(メタ)アクリル共重合体Bを重合する場合は、上記重合が終了した後室温まで冷却し、別の重合性モノマー混合物を添加する。その後は、上記の前記工程(1)及び前記工程(2)と同様の操作を繰り返せばよい。
【0044】
本発明の水性顔料分散体は、各種水性インキ用の分散体として使用する場合は、公知の添加剤、液媒体を含有させることができる。例えば、インクジェット記録用水性顔料インクとして使用する場合は、本発明の水性顔料分散体を質量基準で、顔料固形分1〜10%となる様に水やその他の液媒体で希釈することで、インクジェット記録用水性顔料インクとすることが出来る。粗大粒子や過小粒子の除去や、分散粒子の粒子径分布を調整するために、超遠心分離やミクロフィルターによる濾過を更に行っても良い。
【0045】
こうして得られたインクジェット記録用水性顔料インクは、公知慣用の被記録媒体に印字記録することが出来る。この際の被記録媒体としては、例えば、PPC紙の様な普通紙、写真用紙(光沢)、写真用紙(絹目調)等の様なインクジェット用専用紙、OHPフィルムの様な合成樹脂フィルム、アルミニウム箔の様な金属箔等の各種フィルム・シートが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、いずれも質量基準である。
【0047】
((メタ)アクリル共重合体Aの合成)
<合成例1>(共重合体P−1の合成)
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を備えた4つ口フラスコにメチルエチルケトン(以下、MEKと略す)550部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ベンジル400部、メタクリル酸100部および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)30.0部の混合液を2時間30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で11時間反応を継続させた。滴下が終了した時点から3時間後と6時間後に、「パーブチル(登録商標)O」を2.5部ずつ添加した。反応終了後、MEKの一部を減圧留去し、カルボキシル基モル数が2.33mmol、酸価130、重量平均分子量25,500、ガラス転移温度(計算値)69℃の(メタ)アクリル共重合体P−1の50%MEK溶液を得た。
【0048】
<合成例2>(共重合体P−2の合成)
合成例1のメタクリル酸ベンジル400部、メタクリル酸100部をメタクリル酸ベンジル439部、メタクリル酸61部とする以外は合成例1と同様にして、カルボキシル基モル数が1.42mmol、酸価80、重量平均分子量25,500、ガラス転移温度(計算値)63℃の(メタ)アクリル共重合体P−2の50%MEK溶液を得た。
【0049】
<合成例3>(共重合体P−3の合成)
合成例1のメタクリル酸ベンジル400部、メタクリル酸100部をメタクリル酸ベンジル462部、メタクリル酸38部とする以外は合成例1と同様にして、カルボキシル基モル数が0.88mmol、酸価50、重量平均分子量23,100、ガラス転移温度(計算値)60℃の(メタ)アクリル共重合体P−3の50%MEK溶液を得た。
【0050】
<合成例4>(共重合体P−4の合成)
合成例1のメタクリル酸ベンジル400部、メタクリル酸100部をメタクリル酸ベンジル450部、メタクリル酸50部とする以外は合成例1と同様にして、カルボキシル基モル数が1.16mmol、酸価65、重量平均分子量25,900、ガラス転移温度(計算値)61℃の(メタ)アクリル共重合体P−4の50%MEK溶液を得た。
【0051】
(顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子を含む分散液の製造)
なお、分散液Cはブルーであり、分散液Mはマゼンタであり、分散液Yはイエローである。
【0052】
<製造例1>(分散液C1の製造)
ファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料 C.I.ピグメント ブルー15:3〕4部と、合成例1で得た共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部、MEK12部および水12.66部を仕込み、ペイントコンディショナー(直径0.5mmのジルコニアビーズ使用)で2時間分散した。分散終了後、ジルコニアビーズを除いて得られた液をエバポレーターでメチルエチルケトンを留去した後、遠心分離処理にて粗大粒子を除いた。この時の収率は91.7%であった(以下単に収率と略す)。
水で調製を行い、不揮発分22%の分散液C1を得た。
【0053】
<製造例2>(分散液M1の製造)
製造例1のファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料 C.I.ピグメント ブルー15:3〕を、ファーストゲン(登録商標)スーパーマゼンタ RY〔大日本インキ化学工業(株)製C.I.Pigment Red 122〕とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分22%の分散液M1を得た。遠心分離処理後の収率は82.6%であった。
【0054】
<製造例3>(分散液Y1の製造)
製造例1の製造例1のファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料 C.I.ピグメント ブルー15:3〕を、ファスト(登録商標)イエロー7413〔山陽色素(株)製〕とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分22%の分散液Y1を得た。遠心分離処理後の収率は84.7%であった。
【0055】
<製造例4>(分散液C2の製造)
製造例1の共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部および水12.66部を、それぞれ合成例2で得た共重合体P−2溶液1.6部、20%水酸化カリウム水溶液0.32部および水12.88部とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分22%の分散液C2を得た。遠心分離処理後の収率は86.4%であった。
【0056】
<製造例5>(分散液C3の製造)
ファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料 C.I.ピグメント ブルー15:3〕4部と、合成例1で得た共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部、MEK12部および水12.66部を仕込み、ペイントコンディショナー(直径0.5mmのジルコニアビーズ使用)で2時間分散した。分散終了後、ジルコニアビーズを除いて得られた液を水で調製し、不揮発分18%の分散液C3を得た。遠心分離処理後の収率は98.0%であった。
【0057】
<製造例6>(分散液C4の製造)
合成例1の共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部および水12.66部を、それぞれ合成例3で得た共重合体P−3溶液1.6部、20%水酸化カリウム水溶液0.20部および水13.00部とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分12%の分散液C4を得た。しかし、使用する共重合体P−3のカルボキシル基量が0.89と低いため、遠心分離処理後の収率は50%と低かった。
【0058】
<製造例7>(分散液C5の製造)
製造例1の共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部および水12.66部を、それぞれ合成例4で得た共重合体P−4溶液1.6部、20%水酸化カリウム水溶液0.26部および水12.94部とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分15%の分散液C5を得た。しかし、使用する共重合体P−3のカルボキシル基量が1.16と低いため、粒子の収率は70%とやや低かった。
【0059】
<製造例7>(分散液M2の製造)
製造例1のファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料 C.I.ピグメント ブルー15:3〕、共重合体P−1溶液1.6部、20%水酸化カリウム0.54部および水12.66部を、ファーストゲン(登録商標)スーパーマゼンタ RY〔大日本インキ化学工業(株)製C.I.Pigment Red 122〕、共重合体P−2溶液1.6部、20%水酸化カリウム水溶液0.32部および水12.88部とする以外は、製造例1と同様に分散、調製を行い、不揮発分22%の分散液M2を得た。
【0060】
(本発明の水性顔料分散体の製造方法)
<実施例1>(水性顔料分散体C1−aの合成)
製造例1で得られた分散液C1を167部、水23部、メタクリル酸ベンジル(水に対する溶解度 0.14質量%)3部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.03部を水2部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.03部を水2部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過し、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−aを得た。
【0061】
<実施例2>(水性顔料分散体C1−bの合成)
製造例1で得られた分散液C1を167部、水35部、メタクリル酸ベンジル6部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.06部を水2部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.06部を水2部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過し、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−bを得た。
【0062】
<実施例3>(水性顔料分散体C1−cの合成)
実施例2のメタクリル酸ベンジル6部を、メタクリル酸メチル(水に対する溶解度 1.72質量%)6部とする以外は合成例6と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−cを得た。
【0063】
<実施例4>(水性顔料分散体C1−dの合成)
実施例2のメタクリル酸ベンジル6部を、スチレン(水に対する溶解度 0.03質量%)6部とする以外は合成例6と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−dを得た。
【0064】
<実施例5>(水性顔料分散体C1−eの合成)
製造例1で得られた分散液C1を167部、水45部、メタクリル酸ベンジル9部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.09部を水3部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.09部を水3部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過し、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−eを得た。
【0065】
<実施例6>(水性顔料分散体C2−aの合成)
製造例4で得られた分散液C2を166部、水26部、メタクリル酸ベンジル3部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.03部を水1部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.03部を水1部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過し、不揮発分20%の水性顔料分散体C2−aの合成を得た。
【0066】
<実施例7>(水性顔料分散体C3−aの合成)
製造例5で得られた分散液C3を170部、水12部、メタクリル酸ベンジル5部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.05部を水1.5部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.05部を水1.5部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過した後、エバポレーターでメチルエチルケトンを留去した。遠心分離処理にて粗大粒子を除き、水で調製を行い、不揮発分18%の水性顔料分散体C3−aを得た。
【0067】
<実施例8>(水性顔料分散体M1−aの合成)
実施例2の分散液C1を、分散液M1とする以外は合成例3と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体M1−aを得た。
【0068】
<実施例9>(水性顔料分散体Y1−aの合成)
実施例2の分散液C1を、分散液Y1とする以外は合成例3と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体Y1−aを得た。
【0069】
<実施例10>(水性顔料分散体C1−fの合成)
製造例1で得られた分散液C1を170部、水36部、メタクリル酸ベンジル5.7部、メタクリル酸(水に対する溶解度 無限)0.3部及び20%KOH水溶液1部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。40℃で2時間攪拌した後、80℃まで昇温した。80℃になった時点で、過硫酸カリウム0.06部を水1.8部に溶解した溶液を添加した。80℃で10時間加熱した。なお、80℃になった時点から3時間後と5時間後に、過硫酸カリウム0.06部を水1.8部に溶解した溶液を添加した。反応終了後、200メッシュのナイロン製ろ布でろ過した後、エバポレーターでメチルエチルケトンを留去した。遠心分離処理にて粗大粒子を除き、水で調製を行い、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−fを得た。
【0070】
<実施例11>(水性顔料分散体M2−aの合成)
合成例10のC2分散液を、M2分散液とする以外は合成例10と同様の操作をした。
【0071】
<比較例1>(水性顔料分散体C1−gの合成)
合成例6のメタクリル酸ベンジル6部を、メタクリル酸ベンジル4.8部、反応性界面活性剤アクアクロンKH−10(水に対する溶解度 10質量%以上)1.2部とする以外は合成例3と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−gを得た。
【0072】
<比較例2>(水性顔料分散体C1−hの合成)
合成例6のメタクリル酸ベンジル6部を、メタクリル酸ベンジル6部、乳化剤エマール10(水に対する溶解度 10質量%以上)0.3部とする以外は合成例3と同様の操作をし、不揮発分20%の水性顔料分散体C1−hを得た。
【0073】
<比較例3>(水性顔料分散体C1−iの合成)
合成例14の水36部、メタクリル酸ベンジル5.7部、メタクリル酸0.3部及び20%KOH水溶液1部を、水36.3部、メタクリル酸ベンジル4.8部、メタクリル酸1.2部及び20%KOH水溶液3.9部とする以外は合成例3と同様の操作をした。水に対する溶解度が5%以上であるメタクリル酸をモノマー全量に対して20%含むために、多量のブツが発生し、顔料を含んだ樹脂粒子が沈殿してしまった。濾過した後の収率は30%以下であり、使用可能な顔料分散体を得ることができなかった。
【0074】
<比較例4>(水性顔料分散体C1−jの合成)
製造例1で得られた分散液C1を334部、水44部をセパラブルフラスコに仕込み、温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管をセットした。仕込み後すぐに80℃まで昇温し、メタクリル酸ベンジル12部及び過硫酸カリウム0.06部を水30部に溶解した溶液をそれぞれ2時間かけて滴下した。滴下途中に多量のブツが発生し、顔料を含んだ樹脂粒子が沈殿してしまった。濾過した後の収率は30%以下であり、使用可能な顔料分散体を得ることができなかった。
【0075】
表1に、実施例1〜12及び、比較例1〜2をまとめたものを示す。なお、表1には、製造例1〜8で得た顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子(表中では、「顔料・(メタ)アクリル共重合体A」と略してある)の、条件Qにおける平均粒子径変化率を示した。条件Qを以下に示す。
<条件Q>
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子が20部、水が80部である水溶液を70℃の恒温槽中で3日間貯蔵させることであり、平均粒子径の変化率は、条件Q後の平均粒子径を条件Q前の平均粒子径で除した値であるとする。
下記インク組成で70℃の恒温槽中で3日間貯蔵後に、粒径の変化率(条件Q後の平均粒子径を条件Q前の平均粒子径で除した値)を測定し、0.9〜1.1を○、それ以外を×で表した。
【0076】
また、表1には、(メタ)アクリル共重合体Aのカルボキシ量、及び、実施例1〜11及び比較例1〜4で得られた水性顔料分散体の最終カルボキシル基モル数(理論値)を示した。最終カルボキシル基モル数(理論値)は、水性顔料分散体中に含まれる樹脂((メタ)アクリル共重合体A+(メタ)アクリル共重合体B)1gあたりのカルボキシル基のミリモル数を表したものである。
【0077】
実施例1〜10より、本発明の方法で得られた顔料分散体は、皆収率が80%を越えており、安定に得られた。実施例11では、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の条件Qにおける平均粒子径変化率が0.9〜1.1の範囲からはずれる例であるが、これは重合中に凝集体が生じることが判った。そのため、他の分散体に比べ収率が低下した。
一方、界面活性剤を使用した比較例1及び比較例2に関しては、収率が80%を越えており、安定に得られた。
比較例3より、重合性モノマー組成物Cの1材料として水への溶解性が高いメタクリル酸を5%を超えて使用すると、重合中に多量の凝集体が生じることが判った。また比較例4より、重合前に重合性モノマー組成物Cを含浸させる工程を得ないものも、多量の凝集体が生じることが判った。
【0078】
【表1】

【0079】
(インクジェット記録用水性顔料インクの作成、評価)
<実施例12>(ピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクの適性評価)
特開平7−228808号公報記載の実施例1を参考にして、ピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製した。インク組成を以下に示す。
【0080】
水性顔料分散体C1−a 26.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 48.2部
【0081】
(インクジェット記録用水性顔料インクの性能評価)
上記実施例12にて調製したインクジェット記録用水性顔料インクを、市販のピエゾ方式インクジェットプリンタ(MJ−8000C型、セイコーエプソン(株)製)のカートリッジに充填し、各種の被記録媒体に印字した。
【0082】
(普通紙発色評価)
普通紙である、記録紙Xerox 4024〔富士ゼロックス(株)製〕への印刷物のベタ部濃度をマクベス反射濃度計スペクトルアイで光学濃度を測定して、普通紙特性として、発色性を評価した。表中にODとして表示した。
【0083】
<実施例13>
実施例12のインキ組成を、
水性顔料分散体C1−b 28.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 46.2部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0084】
<実施例14>
実施例13の水性顔料分散体C1−bを水性顔料分散体C1−cに変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0085】
<実施例15>
実施例13の水性顔料分散体C1−bを水性顔料分散体C1−dに変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0086】
<実施例16>
実施例12のインキ組成を、
水性顔料分散体C1−e 30.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 44.2部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0087】
<実施例17>
実施例13の水性顔料分散体C1−bを水性顔料分散体C1−fに変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0088】
<実施例18>
実施例12のインキ組成を、
水性顔料分散体C3−a(合成例7) 31.1部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 43.1部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0089】
<実施例19>
実施例12のインキ組成を、
水性顔料分散体C2−a 26.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 48.2部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0090】
<実施例20>
実施例12のインキ組成を、
水性顔料分散体M1−a 42.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 32.2部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0091】
<実施例21>
実施例13の水性顔料分散体M1−aに代えて、水性顔料分散体Y1−aを用いて、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0092】
<比較例5>
製造例1で得られた分散液C1を用いてピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製した。インク組成を以下に示す。
分散液 C1 21.8部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 52.4部
評価方法は実施例12と同様の評価を行なった。
【0093】
<比較例6>
比較例5の分散液C1に代えて、製造例4で得られた分散液C2を用いて、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、同様に評価した。
【0094】
<比較例7>
実施例13の水性顔料分散体C1−bを水性顔料分散体C1−gに変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0095】
<比較例8>
実施例13の水性顔料分散体C1−bを水性顔料分散体C1−hに変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0096】
<比較例9>
比較例6のインキ組成を、
分散液M1 32.7部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 41.5部
に変更して、実施例12と同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、評価した。
【0097】
<比較例10>
比較例9の分散液M1に代えて、分散液Y1を用いて同様にピエゾ方式インクジェット記録用水性顔料インクを調製し、実施例12と同様に評価した。
【0098】
これらの各評価項目の測定結果は、まとめて表2〜4に示した。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
上記表2〜4からわかる通り、本発明の水性顔料分散体含有組成物から得られるインクジェット記録用水性顔料インクは、全てO.D.値が1.20以上と高く(シアンでは1.20以上、マゼンタは1.25以上、イエローは1.27以上)と、優れた発色性を有することがわかった。
これに対し、乳化剤を使用した比較例7、8のインクジェット記録用水性顔料インクは、O.D.値が1.20未満でありかつ印字表面にインクがのっていない白い部分が所々にあり、実施例に比べて優れた発色性は有していなかった。また、比較例5、6、9及び10は、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に、(メタ)アクリル共重合体Bを含まない例であるが、これはO.D.値が1.18以下と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明による水性顔料分散体は、インクジェット記録用水性顔料インクや水性グラビアインキなどの印刷インキ、筆記用インク、カラーフィルター用インキ等の水性インク材料の他、自動車用や製缶用などの水性塗料としても好適に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、及び、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子を有する水性顔料分散体であって、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の存在下で、20℃における水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物を重合させて得た(メタ)アクリル共重合体Bを1種類以上含むことを特徴とする水性顔料分散体。
【請求項2】
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の、条件Qにおける平均粒子径の変化率が、0.9〜1.1である請求項1に記載の水性顔料分散体。(但し、条件Qとは、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子が20部、水が80部である水溶液を70℃の恒温槽中で3日間貯蔵させることであり、平均粒子径の変化率は、条件Q後の平均粒子径を条件Q前の平均粒子径で除した値である)
【請求項3】
前記(メタ)アクリル共重合体Aがカルボキシル基を有し、共重合体1gあたりのカルボキシル基のモル数が1.2mmol以上である、請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル共重合体Bは、前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子の内部で重合される、請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項5】
前記顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子中の顔料100部に対して、前記(メタ)アクリル共重合体Bを5〜100部含む、請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性顔料分散体を使用することを特徴とする水性インク。
【請求項7】
水、及び、顔料を含む(メタ)アクリル共重合体粒子を有する水性顔料分散体の製造方法であって、界面活性剤の不存在下において、
(1)顔料を含む(メタ)アクリル共重合体A粒子に20℃における水に対する溶解度が5質量%以下である重合性モノマーの1種もしくは複数種を95質量%以上含有する重合性モノマー組成物Cを含浸させる工程と、
(2)水溶媒中、前記粒子A内で前記重合性モノマー組成物Cを重合させる工程と
を有することを特徴とする、水性顔料分散体の製造方法。




【公開番号】特開2007−186569(P2007−186569A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4741(P2006−4741)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】