説明

水晶振動片の製造方法

【課題】 バリを無くし、CI値を向上させる。
【解決手段】 ウェットエッチングを用いて水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける水晶振動片の製造方法であって、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間を、前記水晶ウェハの厚みが貫通するまでにかかる時間の3.5倍以上とし、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間をTp、水晶ウェハの厚みをt1、単位時間当たりにウェットエッチングにて削れる水晶の厚みをt2、としたとき、前記水晶ウェハをエッチャントに浸す時間をTp≧3.5×t1/t2としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子に用いられる水晶振動片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器には、例えば、水晶振動子が用いられている。その従来の水晶振動子の一例としては、素子搭載部材と水晶振動素子と蓋部材とから主に構成され、素子搭載部材に設けられた凹部内に水晶振動素子を搭載して蓋部材で気密封止した構造のものが知られている。ここで、水晶振動素子は、水晶片の両主面に励振電極が形成されている。また素子搭載部材は、凹部内に水晶振動素子を搭載するための搭載パッドが設けられている。また、蓋部材は、平板状に形成された金属板が用いられ、凹部を気密封止するために素子搭載部材に接合される。また、素子搭載部材に設けられた凹部の封止には、例えば、Au−Snを用いた封止、シーム溶接による封止などが用いられる。
【0003】
この水晶振動子に構成される水晶片は、種々の形状が提案されている。
例えば、平板構造の水晶片としては、平面視四角形状のもの(例えば、特許文献1参照)と、平面視円形状のもの(例えば、特許文献2参照)が知られており、平板構造以外の水晶片としては、例えば、音叉構造のもの(例えば、特許文献3参照)が知られている。また、平板状の素子には、その主面に凸部を設けてこの凸部の主面に電極を設けた構造のもの(例えば、特許文献4参照)や、凹部を設けてその凹部の主面に電極を設けた構造のもの(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
なお、これら電極は、引回しパターンと電気的に接続しており、この引回しパターンにより水晶片の端部まで引回されている。
【0004】
これらのような平面視四角形状の水晶片、平面視円形状の水晶片、音叉形状の水晶片は、ウェットエッチングを用いて水晶ウェハから形成される。
例えば、平面視四角形状の水晶片の主面に凸部が形成された構造の水晶振動素子の場合、凸部の主面が所定の面積を有し、平面視四角形状に形成されている。この凸部は、ウェットエッチングなどにより形成される。
この凸部主面に電極を形成し、この電極と向かい合うように反対側にも電極を設けて水晶振動素子が構成される(例えば、特許文献4参照)。
このような凸部を設ける理由は、水晶振動素子の振動エネルギーが凸部内で閉じ込められるようにするためである。これにより、平板状の水晶振動素子よりもクリスタルインピーダンス値(以下、「CI値」という)の低い優れた特性を得ることが期待できる。

CI値が低いということは、安定した振動でありながら、振動エネルギーが凸部内で閉じ込められた状態であるといえる。
また、振動エネルギーを閉じ込めることを目的とした素子の他の例として、コンベックス加工された水晶片やベベル加工された水晶片も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−142975号公報
【特許文献2】特開2005−197801号公報
【特許文献3】特開2004−205426号公報
【特許文献4】特開2007−053820号公報
【特許文献5】特開2004−088137号公報
【特許文献6】特開2007−013571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ウェットエッチングを用いて水晶ウェハから水晶振動片を製造する場合、水晶ウェハの側面にバリが残されてしまう。このバリの発生を予測して水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける場合、隣り合う水晶振動片の間隔を広くする必要があり、1枚の水晶ウェハから製造される水晶振動片の数を増やすことができなかった。
また、このバリは、水晶振動片に励振電極を形成したときにCI値が高くなる原因となり、所望する特性が得られなくなる場合がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、バリの発生を防ぎ、CI値を向上させる水晶振動片の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、ウェットエッチングを用いて水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける水晶振動片の製造方法であって、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間を、前記水晶ウェハの厚みが貫通するまでにかかる時間の3.5倍以上としたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、ウェットエッチングを用いて水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける水晶振動片の製造方法であって、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間をTp、前記水晶ウェハの厚みをt1、単位時間当たりにウェットエッチングにて削れる水晶の厚みをt2、としたとき、前記水晶ウェハをエッチャントに浸す時間をTp≧3.5×t1/t2としたことを特徴とする
【0010】
また、本発明は、前記水晶振動片が、平板構造、振動部とこの振動部を囲う枠部とからなる構造のいずれかから選択された構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような水晶振動片の製造方法によれば、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに水晶ウェハを浸す時間を、水晶ウェハの厚みが貫通するまでにかかる時間の3.5倍以上としたことにより、水晶ウェハの側面にバリの発生を防ぐことができる。従って、本発明の水晶振動片の製造方法は、バリの発生を防ぎ、CIを向上させることができる。
【0012】
また、このような水晶振動片の製造方法によれば、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間をTp、水晶ウェハの厚みをt1、単位時間当たりにウェットエッチングにて削れる水晶の厚みをt2、としたとき、水晶ウェハをエッチャントに浸す時間をTp≧3.5×t1/t2としたことにより、水晶ウェハの側面にバリの発生を防ぐことができる。従って、本発明の水晶振動片の製造方法は、バリの発生を防ぎ、CIを向上させることができる。
【0013】
また、水晶振動片が、平板構造、振動部とこの振動部を囲う枠部とからなる構造のいずれかから選択された構造であることで、種々の水晶振動片の製造に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る水晶振動片の製造方法で製造される水晶片の一例を示し、(a)は平板構造の水晶振動片に一例を示す概念図であり、(b)は、振動部とこの振動部を囲う枠部とからなる構造の水腫振動片の一例を示す概念図である。
【図2】(a)は水晶ウェハから形成された水晶振動片の厚みの一例を示す側面図であり、(b)は水晶ウェハをエッチャントに浸した状態の一例を示す概念図である。
【図3】実施例1における−X方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図4】実施例1におけるZ´方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図5】比較例1における−X方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図6】比較例1におけるZ´方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図7】比較例2における−X方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図8】比較例2におけるZ´方向の側面の状態の一例を示す図である。
【図9】CI値に対する製造された水晶振動片の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各構成要素について、状態をわかりやすくするために、誇張して図示している。
【0016】
本発明の実施形態に係る水晶振動片の製造方法で製造される水晶振動片は、例えば、図1(a)、(b)に示すように、平板構造、振動部とこの振動部を囲う枠部とからなる構造のいずれかから選択された構造となっている。なお、水晶は、それぞれが直交するX軸とY軸とZ軸とからなる結晶軸を有している。また、この水晶を所定の結晶軸に対して所定の角度で切断したときの新たな軸をX´軸、Y´軸、Z´軸というときがある。また、主面は、平面視で面積が他の面より広い面を主面とする。また、側面は、主面と交叉する面とする。なお、X軸は、+X方向と−X方向があり、+X方向は、X軸に平行であり、−X方向とは正反対の方向を指す。
【0017】
ここで、平板構造の水晶振動片は、例えば、図1(a)に示すように、平面視四角形状で板状に形成されており、その中央部分が振動部110aとなり、振動部110aを囲う部分のうち一方の端部部分が保持部120aとして構成されている。
この平板構造の水晶振動片110aは、厚み方向をY軸、長辺方向をX軸、短辺方向をZ´軸と平行に形成される。例えば、平板構造の水晶振動片110aは、ATカットとなっている。
【0018】
この平板構造の水晶振動片100aは、例えば、両主面に凸部111a、111bが設けられていても良い。この平板構造の水晶振動片100aは、それぞれの凸部111a、111bの表面に励振電極(図示せず)が設けられると水晶振動素子となる。
【0019】
凸部111a、111bは、平面視においてだ円形状で形成されている。
これら凸部111a、111bは、互いに大きさが異なっている。例えば、水晶振動片100aの一方に設けられる凸部111aは、他方の主面に設けられる凸部111bよりも表面積が小さく形成されている。
なお、平板構造の水晶振動片は、凸部を有さない平面状に形成されていてもよい。
【0020】
また、図1(b)に示すように、例えば、振動部110bこの振動部110bを囲う枠部120bとからなる構造の水晶振動片100bは、振動部110bと保持部となる枠部120bとが所定の間隔をあけて設けられており、振動部110bと枠部120bとが一体で形成されつつ、前記した平板構造の水晶振動片100aと同様の軸方向で形成されて構成されている。
【0021】
前記のような水晶振動片は、ウェットエッチングを用いて平板状の水晶ウェハW(図2(b)参照)から製造される。なお、水晶振動片が平板構造となる場合について説明する。
例えば、まず、水晶ウェハに耐食膜を設けた後に感光性のレジストを塗布する工程を行う。次に、水晶振動片の形状となるようにマスクを介して露光し、後に現像する工程を行う。水晶振動片の形状が残るように余分なレジストを除去し、露出した耐食膜を除去する工程を行う。次に、露出した水晶ウェハの水晶部分をウェットエッチングにて化学的に削り水晶振動片の形状を形成する。
【0022】
ウェットエッチングは、例えば、図2(b)に示すように、水晶を削ることができるエッチャントEを用い、所定の容器CにエッチャントEを充填しておき、この容器C内のエッチャントEに水晶ウェハWを浸すことで水晶振動片の形状を形成する。
水晶ウェハWは、所定の治具(図示せず)により固定した状態で全面がエッチャントEに浸るように容器Cに入れる。
【0023】
ここで、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに水晶ウェハを浸す時間をTp、水晶ウェハが厚み方向に貫通するまでにかかる時間Tn、水晶ウェハの厚みをt1(図2(a)参照)、単位時間当たりにウェットエッチングにて削れる水晶の厚みをt2、としたとき、水晶ウェハが厚み方向に貫通するまでにかかる時間Tnは、以下の式1で表される。
Tn=t1/t2・・・(式1)
【0024】
したがって、本発明の実施形態に係る水晶振動片の製造方法において、ウェットエッチングで用いられるエッチャントに水晶ウェハを浸す時間Tpは、以下の式2で表される。
Tp≧3.5×Tn=3.5×t1/t2・・・(式2)
つまり、水晶ウェハをエッチャントに浸す時間を、水晶ウェハが厚み方向に貫通するまでにかかる時間の3.5倍以上としている。
【0025】
この本発明の第一の実施形態に係る水晶振動片の製造方法によれば、水晶ウェハの側面にバリの発生を防ぐことができる。このバリの発生を防ぐことで、振動する振動部において、バリによる不要な振動の発生を防ぎ、不要振動との振動結合も防げるので、CI値を低くすることができる。したがって、本発明の水晶振動片の製造方法は、バリの発生を防ぎ、優れたCI値に向上させた水晶振動片を製造することができる。
【実施例】
【0026】
まず、比較例について説明する。
比較例1は、水晶ウェハの厚みが49μmであり、Tp=2.8×Tnの条件でウェットエッチングを行って水晶振動片を製造し、CI値を測定したものである。
このとき、図9に示すように、横軸をCI値(Ω)、縦軸を分布(%)としたときのグラフにおいて、CI値が100Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約75%が分布する結果となった。また、CI値が50Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約20%が分布する結果となった。
また、Z´軸側にバリが発生し(図6参照)、−X軸側にも突起が発生した(図5参照)。このバリと突起が振動結合を起こさせる原因となり、CI値が50Ωを下回る水晶振動片が少なかったと考察される。
【0027】
比較例2は、水晶ウェハの厚みが49μmであり、Tp=3.0×Tnの条件でウェットエッチングを行って水晶振動片を製造し、CI値を測定したものである。
このとき、図9に示すように、横軸をCI値(Ω)、縦軸を分布(%)としたときのグラフにおいて、CI値が100Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約60%が分布する結果となった。また、CI値が50Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約5%が分布する結果となった。
また、Z´軸側にバリは発生せず(図8参照)、−X軸側に比較例1よりも小さい突起が発生した(図7参照)。
【0028】
次に、実施例について説明する。
実施例1は、水晶ウェハの厚みが49μmであり、Tp=3.5×Tnの条件でウェットエッチングを行って水晶振動片を製造し、CI値を測定したものである。
このとき、図9に示すように、横軸をCI値(Ω)、縦軸を分布(%)としたときのグラフにおいて、CI値が100Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約95%が分布する結果となった。また、CI値が50Ωを下回る水晶振動片は、製造された総水晶振動片の約70%が分布する結果となった。
また、Z´軸側にバリは発生せず(図4参照)、また、−X軸側に突起は発生しなかった(図3参照)。水晶振動片の側面にバリや突起が発生しなかったことがCI値を低くさせた要因となったものと考察される。
【0029】
ここで、実施例1は、比較例2に対して突起が発生しなかったことが、CI値が低くなった要因と考えられる。
【0030】
また、CI値が50Ωを下回る水晶振動片が製造される場合、実施例1では約70%であり、比較例1では約20%であった。このことより、実施例1は、CI値が50Ωを下回る水晶振動片を多く製造できるため、多種の電子機器に用いることができる。また、実施例1は、歩留まりが改善されて製造コストを下げることができる。
【0031】
また、CI値が50Ωを下回る水晶振動片が製造される場合、比較例2では約5%であり、比較例1では約20%であった。このことより、実施例1は、CI値が50Ωを下回る水晶振動片を多く製造できるため、多種の電子機器に用いることができる。また、実施例1は、歩留まりが改善されて製造コストを下げることができる。
【0032】
また、実施例1は、比較例1に対してバリが発生せず、また突起も発生しなかったため、バリや突起が発生した比較例1よりも低いCI値となったと考えられる。
【0033】
これにより、実施例1は、比較例1、比較例2と比較して突起の発生がなく、また、CI値を低くすることができた。
【符号の説明】
【0034】
100a、100b 水晶振動片
110a、110b 振動部
120a、120b 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェットエッチングを用いて水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける水晶振動片の製造方法であって、
ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間を、前記水晶ウェハの厚みが貫通するまでにかかる時間の3.5倍以上としたことを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項2】
ウェットエッチングを用いて水晶ウェハに複数の水晶振動片を設ける水晶振動片の製造方法であって、
ウェットエッチングで用いられるエッチャントに前記水晶ウェハを浸す時間をTp、

前記水晶ウェハの厚みをt1、
単位時間当たりにウェットエッチングにて削れる水晶の厚みをt2、
としたとき、
前記水晶ウェハをエッチャントに浸す時間を
Tp≧3.5×t1/t2
としたことを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項3】
前記水晶振動片が、平板構造、振動部とこの振動部を囲う枠部とからなる構造のいずれかから選択された構造であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水晶振動片の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−74859(P2012−74859A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217392(P2010−217392)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】