説明

水栓金具

【課題】 本発明では、水栓金具の平坦面における水の滞溜による水垢の発生を極力防止することを目的とする。
【解決手段】 本発明では、上記課題を解決すべく、親水性微粒子を水栓金具表面に分散し、その表面に親水性を付与した水栓金具であって、前記水栓金具は、平坦面となる上面部と、前記上面部と連設配置され、下向きに傾斜する側面部とを有し、前記上面部表面には、前記親水性微粒子が、その上面部の側面部方向つまりは端部に向かって、微粒子の分布量が傾斜的に増加するように分散配置されていることを特徴とする水栓金具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水あかなど水起因の汚れ付着を防止する防汚性を有する水栓金具に関する。より詳しくは、水栓金具表面に親水性微粒子を分散させた水栓金具に関する。
【背景技術】
【0002】
水道の蛇口に代表される水栓金具は、長期使用すると、その表面に次第に白っぽい汚れ(水あか)が付着し、外観美が損なわれる。時間の経過と共に強固に固着したその汚れは通常の清掃方法では容易に除去することができない。
【0003】
そこで、水栓金具表面の水あか付着を抑制することを目的とし、表面に水滴を形成させないようにめっき表面に親水性付与もしくは撥水性付与する方法が知られており、例えば、それらの親水性や撥水性を有する微粒子を添加した複合めっき技術が一般的に知られている。めっき表面に撥水性付与する方法としては、PTFE(polytetrafluoroethylene)等の撥水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
一方、めっき表面に親水性付与する方法としては、TiO2などの光触媒親水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−317298号公報
【特許文献2】特開平11−158694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撥水性を付与する方法は、水栓金具表面に極力水滴を残さないようにすることで、その水滴に溶存している水垢成分を残留させないようにして水垢の生成を防止するものであるが、撥水性の効果は、経時的に低下してしまうという課題を有していた。また、親水性を付与する方法は、金具表面に非常に薄い水膜を形成することで、溶存している水垢成分を分散させ、強固な水垢成分を形成させないで、外観美を損なわせないようにするものであり、撥水性を付与するものよりも経時的変化が少ないというものである。
しかしながら、従来の以上述べた方法は、水栓金具表面に親水性微粒子を均一に分散させる仕様であるが、それでは、水栓金具において、平坦面を有する構造には、その中央部付近の水が滞溜しやすく、そのためどうしてもその面に水分(水滴)が残留し水あかが付着・固着してしまい、その防汚性能(水あか付着防止性能)の十分な効果を発揮できなかった。
本発明では、水栓金具の平坦面において、水の滞溜による水垢の発生を極力防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記課題を解決すべく、親水性微粒子を水栓金具表面に分散し、その表面に親水性を付与した水栓金具であって、前記水栓金具は、平坦面となる上面部と、前記上面部と連接連設配置され、下向きに傾斜する側面部とを有し、前記上面部表面には、前記親水性微粒子が、その上面部の側面部方向に向かって、微粒子の分布量が傾斜的に増加するように分散配置されていることを特徴とする水栓金具とする。
【0007】
本発明によれば、親水性微粒子を水栓金具平坦面の中央部より縦面を形成する側面部となる端部に向かって増加するように傾斜分布するようにする。そうすることで、中央部に比べ端部付近での保水能力が高くなり、水滴の移動が促進される。端部に達した水滴は、重力の影響により、縦面に移動し、流れ落ちることができるので、水栓金具平坦面での水滴の滞溜を極力防止でき、水垢の発生を防止できるものとなる。
【0008】
本発明の好ましい態様において、親水性微粒子は、イオン結合性が30%以上であり、かつ等電点が4以上であることを特徴とする。
本発明によれば、イオン結合性が強いほど、水との親和性が強く、親水性を示すと言われており、更に、等電点が4以上とすることで、プラス電荷の水垢成分であるシリカやカルシウム化合物や表面の濡れ性を低下させるリンス付着を防止できるため、水垢の発生防止には効果的である。
【0009】
更に、本発明の好ましい対応において、親水性微粒子は、Al、ZrO、TiO、SnO2、CuOのいずれかを少なくとも1つ以上含むものとした。これらの金属酸化物は、イオン結合性が30%以上であり、かつ等電点が4以上の物質である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水栓金具平坦面側から縦面側への水の誘導を可能にしたことで、平坦面を構成する上面部(天板部)の残留水の存在量が減少し、水あかの付着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細について、説明する。
図1は、水栓金具の外観を示す図であり、b図は、a図のA方向から見た外観図である。
図1は、洗面所などで利用される水栓金具1であるが、ハンドル2、スパウト3及びデッキ4のそれぞれの上面部は、平坦面2a、3a、4aが形成されている。また、それぞれの平坦面2a、3a、4aの両端部から略鉛直方向に傾斜する側面部2b、3b、4bが、それぞれ形成されている。
図に示すように平坦面が両端に向かって若干の曲率を持って形成されている場合であってもその端部を除く中央部付近に水滴が残留することとなる。もちろん、図2に示すように完全に平坦面5aを有するものの場合は、残留の度合いは顕著である。即ち、本発明における平坦面とは、図1のように若干の曲率を持っているものでも良く、本発明は、従来水滴が残留するような面に対して、好適に適用できるものである。また、側面部は、鉛直方向に限らず、傾斜を有していれば、水滴の自重にて下方にその水滴を落下できるので、傾斜の角度は問わないものである。
【0012】
水栓金具1表面には、親水性微粒子が分散されているが、その分散の状態は、平坦面2a、3a、4aの端部側、即ち、平坦面が形成されている上面部から側面部に変わる境の上面部付近にて密となるように分散されている。
【0013】
親水性微粒子は、イオン結合性が強いほど、水との親和性が強く、親水性を示すと言われており、イオン結合性が30%以上の粒子が好適に利用できる。例えば、TiO2、SiO2、ZrO2、Al2O3、MgO、SnO2、CuO、などの金属酸化物が好適に利用できる。粒子は、平均粒子径0.1〜10μmであることを特徴とする。そうすることで、微粒子の持つ親水効果やそれ以外に微粒子の分布により生じる微粒子間の微細凹凸が有する保水効果(微細な凹凸がたくさんある、つまりは微粒子が密に分布している方が保水効果は高い)が十分に発揮され表面の親水効果が促進される。
更に、前記親水性微粒子は、等電点が7以上のものを使用することで、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性を飛躍的に高めることができる。微粒子は水中において表面電荷が変化するが、等電点が7以上の微粒子の場合は水道水や井戸水などのpHが7の中性水中においては、表面電荷がプラスとなる。すなわち、等電点が7以上の微粒子をめっき表面に分散させると、めっき表面の電荷をプラス側に大きくすることができ、同じプラス電荷の水垢成分であるシリカやカルシウム化合物、また、リンスを付着し難くする。これより、表面の濡れ性を低下させるリンス付着を防止できるため、長期間めっき表面の濡れ性を維持でき、長期間汚れの付着を防止できる。例えば、TiO2、SiO2、ZrO2、Al2O3、MgO、SnO2、CuOなどの金属酸化物が好適に利用できる。
【0014】
図3は水栓金具10の平坦部における親水性微粒子20の分布状態をあらわすモデル図である。
ここで、平坦部とは完全に水平ではなく、Rがかかった曲面も含むものとする。加えて、中央部とは、平坦面の中央点を示すのではなく、図中の斜線領域を表すものと定義する。
平坦部モデル図の下側および右側に示したラベル30は、微粒子の分散分布濃度量を表すものであり、濃色部ほど微粒子の分布量が多い。
a図に示すように、微粒子の分散分布状態は、中央部から側面部方向つまりは端部に向かって、微粒子の分布量が傾斜的に増加するように分散分布している。
【0015】
b図はa図を断面横方向から見た図であり、水滴40が端部に向かって移動する作用効果を表すモデル図である。
図中、右側が中央部近傍、左側が端部近傍を表している。親水性微粒子の分散分布状態は端部が最も密となっているため、端部では水をひきつける力が中央部に比べて相対的に大きくなり、結果水滴が端部へと移動する。また、端部では親水性微粒子が形成する微細凹凸が中央部に比べて密になるため保水効果がより促進される。
【0016】
次にそれらの親水性微粒子を水栓金具表面に付与する方法について説明する。
水栓金具表面に上記した親水性微粒を分散配置される方法としては、塗料やめっき液中に親水性微粒子を添加して通常の塗布、めっき被膜中に微粒子を分散共析される複合めっき処理の手法に準じて行えば良い。
以下は、水栓金具に広く利用されてるめっき処理について、以下に説明する。
本発明においては、めっき被膜中に微粒子を分散共析される複合めっきを利用する場合には、複合めっき被膜の金属マトリックスとなる金属は、めっきが可能な金属であれば特に限定されず、例えば、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、鉄や、またそれらの合金などが挙げられるが、最外表面層をなすめっき皮膜は装飾性、耐食性の観点でCrめっき皮膜であることが望ましい。
【0017】
金属マトリックスとなる金属は、めっき液中に溶解し、イオン化して存在可能な塩として提供され、めっき液に添加される。そのような塩としては、無水クロム酸、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、硫酸銅、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、ほうふっ化鉄(II)、スルファミン酸鉄(II)などが挙げられる。
【0018】
また、複合めっき皮膜の皮膜母相はNiめっき、もしくはNi合金めっきとすることで、最外表面層のCrめっき被膜の定着性や被膜厚み薄く形成できるので、望ましい。また、複合めっき膜の形成がNi複合めっきの方は形成しやすい利点があるので、このNiめっき被膜に複合Niめっき層を形成して、最外表面層から親水性微粒子の一部が突出するようにしても良い。
【0019】
Niめっき浴には、無光沢Ni浴、ワット浴、スルファミン酸Ni浴、硫酸Ni浴、塩化Ni浴、無電解Niめっき浴などがあり、更にはこれらを基本浴としたNi合金めっき浴があり多種多様である。これらNiめっき及びNi合金めっきを利用すれば、めっき浴の種類によって、めっき浴のpHを酸性からアルカリ性まで変えることができる。
利用する親水性微粒子の等電点にあわせたNi めっき及びNi合金めっき浴を選定すれば、親水性微粒子の共析量を制御することができ、目標とする親水性微粒子の量を分散させためっき皮膜を容易に形成することが可能である。
【0020】
上記したNiめっき浴は、Niイオンを0.5〜2.2mol/l含み、かつ親水性微粒子を5〜500g/l混入させためっき浴とすることが望ましい。
めっき浴への親水性微粒子の添加量は5g/l未満でも、めっき表面に親水性微粒子が分散しためっき皮膜を形成させることは可能であるが、Niめっきの電析速度を極端に遅くする必要があるため、生産性が低下する。そのため、めっき浴への親水性微粒子の添加量は5g/l以上とすることが望ましい。また、500g/l以上ではめっき皮膜中に取り込まれる親水性微粒子の量は飽和状態に達するため、それ以上混入させてもめっき皮膜に取り込まれる親水性微粒子の量は向上しない。
【0021】
電解Niまたは無電解Ni合金めっきの場合においては、電流密度はより低いほうが多くの親水性微粒子を取り込むことが可能である。
電流密度が2mA/cm2未満であると、Ni電析速度が極端に遅くなり製膜に時間がかかるため生産性が低下する。従って電流密度は2mA/cm2以上とすることが望ましい。一方で、電流密度が60mA/cm2を超えると、Niの電析速度は速くなり、短時間で厚いめっき皮膜を得ることができるが、親水性微粒子がめっき皮膜に取り込まれる時間的余裕がなく、めっき表面に親水性微粒子が十分に共析した皮膜を形成させることが難しくなる。
【実施例】
【0022】
以下に種々の実施例を示し、本発明による代表的な実施形態の防汚性めっき皮膜の形成方法及び評価試験の結果を具体的に説明する。
(1)複合めっき
Niめっき浴組成を硫酸Ni0.3〜2.2mol/l、塩化Ni0〜0.5mol/l、ホウ酸0.3〜1.0mol/lとし、炭酸Niと10%硫酸水溶液でpH4.0または4.5に調製して、浴温度を50℃とした電気Niめっき浴、及びメルテックス(株)製エンプレートNC−4732の無電解Ni-Co-P合金めっき浴(浴温度83℃、pH8.2)を基本浴とした。前者の電気Niめっき浴においては、めっき浴中のNiイオン総和が0.5〜2.2mol/lとなるように硫酸Niと塩化Niの量を調整した。これら基本浴に親水性粒子として、平均粒径0.05〜1μmのZrO2を5〜500g/l混入させて、めっき浴とした。めっき皮膜を形成させる電極材(陰極材)には金属Cu製の水栓金具を用い、対極(陽極)にはNi板を用いた。電流密度は2〜60mA/cm2とし、めっき浴の攪拌はエアー攪拌を使用した。得られた水栓金具は平坦面中央部と平坦面端部で微粒子の分布濃度に差が見られるもの(実施例)と、分布濃度に差がなく微粒子が均一に析出しているもの(比較例1)、平坦面端部にのみ微粒子が析出しており平坦面中央部に微粒子が析出していないもの(比較例2)、表面に微粒子が殆ど析出していないもの(比較例3)の4種である。
(2)仕上げめっき(Crめっき)
無水クロム酸を200〜260g/l、硫酸を無水クロム酸に対して1/100g/l含んでなるサージェント浴(浴温度60℃、pH1以下)を使用した。上記実施例1〜4にCrめっきを施した。対極(陽極)には鉛棒を用い、電流密度は300〜500mA/cm2とした。電解時の攪拌は行わなかった。
【0023】
上記、実施例Niめっき浴中に親水性微粒子を添加しないNiめっき浴にてめっきを形成し、(2)の仕上げめっきを施した水栓金具を比較例4とした。
【0024】
得られた水栓金具は表面の観察を行った。観察で得ためっき表面の写真画像は、画像処理を行い、めっき部分と露出している親水性微粒子部分の其々の投影視野における面積比率を求めて、得られた親水性微粒子の面積比率を親水性微粒子の分散量(%)とした。
【0025】
また、得られた水栓金具サンプルは、水あか汚れ付着防止性を評価するため、実使用条件下の浴室水栓金具の位置に設置した。清掃無しの条件で2週間放置した後、水あか汚れ付着防止性を評価した。評価結果を表1に示す。評価基準は以下の通り。
評価基準
:水あか汚れが殆ど目立たない。
:良く見ると水あか汚れが多少付着している。
:水あか汚れは付着しているが、通常の現行めっきに比べると明らかに少ない。
×:水あか汚れが付着しており、通常の現行めっきと大差がない。
また、水あか汚れ付着防止性の評価後に、水あか汚れの清掃除去性も評価した。食器洗い用スポンジに十分に濡らし、浴室用中性洗剤を含ませ、人が清掃する際の平均的な力の入れ具合に相当する100g/cm2、摺動回数を10往復として評価を行った。評価結果を表1にしめす。評価基準は以下の通り。
評価基準
:清掃除去試験後、水あか汚れが除去でき、初期表面に回復した。
:若干水あか汚れはあるが、初期に近い状態まで回復した。
:水あか汚れは残存しているが、明らかに現行めっきよりも水あか汚れが除去できている。
×:水あか汚れがあまり除去できず、通常の現行めっきと大差がない。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に適用される水栓金具の外観を示す図であり、b図は、a図のA方向から見た外観図
【図2】本発明に適用される他の水栓金具の外観を示す図であり、b図は、a図のA方向から見た外観図
【図3】本発明に適用される水栓金具の平坦部における親水性微粒子の分布状態をあらわすモデル図 b図は、a図を断面横方向から見た図であり、水滴が端部に向かって移動する作用効果を表すモデル図
【符号の説明】
【0028】
1…水栓金具、2a、3a、4a、5a、6a、7a…平坦面、2b、3b、4b…側面部、
10…水栓金具基材(表面)、 20…親水性微粒子、 30…微粒子分散濃度量
40…水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性微粒子を水栓金具表面に分散し、その表面に親水性を付与した水栓金具であって、前記水栓金具は、平坦面となる上面部と、前記上面部と連設配置され、下向きに傾斜する側面部とを有し、前記上面部表面には、前記親水性微粒子が、その上面部の側面部方向に向かって、微粒子の分布量が傾斜的に増加するように分散配置されていることを特徴とする水栓金具。
【請求項2】
前記親水性微粒子は、イオン結合性が30%以上であり、かつ等電点が4以上であることを特徴とする。
【請求項3】
前記親水性微粒子は、Al、ZrO、TiO、SnO、CuOのいずれかを少なくとも1つ以上含むことを特徴とする。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106487(P2008−106487A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289401(P2006−289401)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】