説明

水棲動物の飼育方法及び硝酸性窒素の除去方法

【課題】水に白濁現象が生じ難く、硝酸性窒素を含む多くの水を脱窒処理できる硝酸性窒素の除去方法、及び飼育水に白濁現象が生じ難く、飼育水の交換回数を少なくできる水棲動物の飼育方法を提供することを目的とする。
【解決手段】水棲動物を飼育している水槽又は池の飼育水W1を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材23に接触させて、飼育水W1に溶存している硝酸性窒素を除去し、除去後の処理水W2を戻した飼育水W1の中で水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている脱窒材23が充填されている処理槽21に流入する飼育水W1の一日分の体積を脱窒材23の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であり、処理槽21から流出する処理水W2の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする水棲動物の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶存している硝酸性窒素を除去する方法、及び飼育水に溶存している硝酸性窒素を除去して水棲動物を飼育する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚類等の水棲動物を飼育する、水族館、観賞魚水槽、活魚水槽、観賞魚池、養殖魚池等においては、水の交換(換水)の回数を少なくするため、砂等を用いたろ過や微生物による浄化等により水の処理が行われている。このうち、残餌や魚類等のふん尿等から発生する窒素成分については、微生物により、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素へと酸化されることで、より安全な窒素形態に変化して処理されている。しかし、溶存酸素の濃度が高い環境では、硝酸性窒素は増え続けることから、動物の適応濃度を何れは超えてしまう。そのため、水棲動物に障害が起こらないよう、水の交換が行われている。
【0003】
ところで、硝酸性窒素を除去する方法としては、嫌気性条件の処理槽にメタノール等の水素供与体を投入して生物脱窒する方法がある。しかし、この方法では、メタノール等の水素供与体を多く使用することから、処理費用が高いものとなっていた。
【0004】
そこで、処理費用が安い方法として、特許文献1に記載の硫黄と炭酸カルシウムとからなる脱窒材を用い、この脱窒材が充填されている処理槽に流入する水量を少なく(例えば、一日に流入する海水量を脱窒材の重量の約20倍以下)にすることで、処理槽内の溶存酸素量を少なくして嫌気性状態にして硝酸性窒素を除去(脱窒)する方法が特許文献2、3に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3430364号公報
【特許文献2】特許第4562935号公報
【特許文献3】特開2002−370097号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】新日鐵化学株式会社技術開発本部開発企画部編「硫黄カルシウム剤による脱窒法」化学工業日報社、2004年4月28日、p59−60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2、3の方法は、脱窒処理された水に白濁現象が生じることがあった(表1の比較例2、3参照)。その上、硫化水素を発生することがあり、水棲動物を弱らせたり、死滅させたりするおそれがあった。また、単位時間当りに脱窒処理される水の量が少ないことから、多くの脱窒材及び大きな処理槽が必要となっていた。特に、魚類等の水棲動物を飼育している水槽等の水の脱窒処理に用いる場合には、硝酸性窒素が増えないよう、日々の給餌量に見合うだけの脱窒処理をする能力が最低限求められているが、特許文献2、3の方法では、脱窒処理される水の量が少ないことから、脱窒処理しきれないおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、水に白濁現象が生じ難く、硝酸性窒素を含む多くの水を脱窒処理(溶存している硝酸性窒素を窒素ガスにして水から除去する処理)できる硝酸性窒素の除去方法、及び飼育水に白濁現象が生じ難く、飼育水の交換回数を少なくできる水棲動物の飼育方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
硫黄と炭酸カルシウムとを含む脱窒材を用いた硝酸性窒素の脱窒は、硫黄酸化細菌によって行われることから、硫黄酸化細菌が硝酸性窒素の酸素を取り込むよう、雰囲気を嫌気性状態にする、即ち、処理される水を嫌気性(溶存酸素濃度1mg/L未満)にすることが好ましいとされている(非特許文献1)。そのため、魚類等の水棲動物を飼育している水槽等の水を脱窒処理する場合には、従来は、脱窒材が充填されている処理槽へ流入する水の量を少なくしたり、処理槽へ流入する前に水を嫌気性にする等して、処理槽内が嫌気性状態になるようにしていた。
【0010】
しかし、本発明の発明者らは、脱窒材が充填された処理槽内の水の溶存酸素濃度を低くして、処理槽内の雰囲気を嫌気性状態にすることが、白濁現象を生じさせる原因であると推測した。
【0011】
そこで、本発明の発明者らは、処理される水を好気性(溶存酸素濃度を3mg/L以上)にしたまま処理槽に流入させて、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを共存させることで、白濁現象が生じないことを見出した。
【0012】
また、処理槽内の雰囲気を好気性状態にすることから、多くの水を処理槽に流入させることができ、多くの水を脱窒処理できることを見出した。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の第1の硝酸性窒素の除去方法は、硝酸性窒素が溶存している水を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽から流出する、硝酸性窒素が除去された水の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2の硝酸性窒素の除去方法は、硝酸性窒素が溶存している水を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽に流入する前記水の一日分の体積を前記脱窒材の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の第3の硝酸性窒素の除去方法は、硝酸性窒素が溶存している水を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽に流入する前記水の一日分の体積を前記脱窒材の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であり、前記処理槽から流出する、硝酸性窒素が除去された水の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の第1の水棲動物の飼育方法は、水棲動物を飼育している水槽又は池の飼育水を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて、前記飼育水に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水を戻した前記飼育水の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽から流出する前記処理水の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第2の水棲動物の飼育方法は、水棲動物を飼育している水槽又は池の飼育水を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて、前記飼育水に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水を戻した前記飼育水の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽に流入する前記飼育水の一日分の体積を前記脱窒材の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の第3の水棲動物の飼育方法は、水棲動物を飼育している水槽又は池の飼育水を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材に接触させて、前記飼育水に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水を戻した前記飼育水の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材が充填されている処理槽に流入する前記飼育水の一日分の体積を前記脱窒材の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であり、前記処理槽から流出する前記処理水の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする。
【0019】
本発明の硝酸性窒素の除去方法及び水棲動物の飼育方法の各要素の態様を以下に例示する。
【0020】
1.脱窒材
脱窒材は、特に限定されないが、硫黄の含有量が炭酸カルシウムの含有量より少ないことが好ましい。これは、処理槽内の雰囲気が嫌気性状態になったときに、硫酸イオンが有機物と反応して硫化水素を発生する危険性があり、その硫化水素により、水棲動物が死滅するおそれがあるからである。硫黄の含有量と炭酸カルシウムの含有量との質量比(硫黄:炭酸カルシウム)は、特に限定されないが、上記理由により、30〜49.9:70〜50.1が好ましく、40〜49:60〜51がより好ましい。
【0021】
脱窒材の粒度は、特に限定されないが、5〜200mmであることが好ましい。これは、5mm未満では、脱窒材間の隙間が狭くなるため、水中を浮遊する固形物や有機物等が嵌り込むことにより、又は、脱窒材の表面に生息する微生物により、目詰まりを生じ易くなり、脱窒処理の効率が低下するとともに、局所的な嫌気性状態が生じ易くなって硫化水素が発生し易くなる。一方、200mmを超えると、表面積が小さくなり、脱窒処理の効率が低下する。硫黄酸化細菌と好気性微生物とが共存し易くなり、脱窒処理の効率が高くなることから、10〜50mmであることがより好ましい。
【0022】
2.処理水(硝酸性窒素が除去された水)
処理水の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることで、処理槽内の雰囲気が好気性状態になり、脱窒材に生息している好気性微生物を活性化する。これにより、水に白濁現象が生じないようにできる。好ましくは、5mg/L以上である。処理水の溶存酸素濃度の上限は、特に限定されないが、敢えて言うならば、8mg/L以下が例示できる。なお、処理水の溶存酸素濃度は、処理槽から流出した処理水を温度や圧力を操作することなく測定した値である。
【0023】
3.流入水量
流入水量が50L/Kg日以上であることで、処理槽内の雰囲気を好気性状態にでき、脱窒材に生息している好気性微生物を活性化する。これにより、水に白濁現象が生じないようにできる。また、多くの水の脱窒処理が行えることから、処理槽に充填する脱窒材の量を少なくでき、処理槽を小さくすることができる。脱窒材の量が同じであれば、従来に比べて脱窒処理する水の量を多くすることができる。流入水量の上限は、特に限定されないが、敢えて言うならば、10000L/Kg日以下が例示できる。
【0024】
4.飼育水(硝酸性窒素が溶存している水)
飼育水は、特に限定されないが、海水であってもよいし、淡水であってもよい。また、処理槽に流入する前に溶存酸素濃度を高める操作をしなくてもよいことから、好気性(溶存酸素濃度が3mg/L以上)のものであることが好ましく、水棲動物が飼育し易いことから、溶存酸素濃度が5mg/L以上のものであることがより好ましい。溶存酸素濃度の上限は、特に限定されないが、敢えて言うならば、8mg/L以下が例示できる。また、飼育水の温度は、特に限定されないが、水族館等で水棲動物を飼育している水槽の水温、例えば、15〜30℃が挙げられる。
【0025】
飼育水の量は、特に限定されないが、入れ替えを行わず繰り返し使用する場合には、発生する硝酸性窒素の量にも因るが、処理槽に一日に流入する水の量の10倍以下であることが好ましい。10倍を超えると、発生した分の硝酸性窒素が処理できなくなるおそれがある。
【0026】
5.水棲動物
水棲動物としては、特に限定されないが、魚、海獣、貝、タコ、イカ、カニ、エビ、ヒトデ、サンゴ、ハナギンチャク、イソギンチャク等が例示できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、水に白濁現象が生じ難く、硝酸性窒素を含む多くの水を脱窒処理できる硝酸性窒素の除去方法、及び飼育水に白濁現象が生じ難く、飼育水の交換回数を少なくできる水棲動物の飼育方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】脱窒能力試験の試験設備の図である。
【図2】飼育試験の試験設備の図である。
【図3】飼育試験に用いた処理槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1)硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化
硫黄酸化細菌と好気性微生物とが表層に生息している脱窒材を得るために、硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化を脱窒材へ行った。
この硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化が行われた脱窒材を、後述する実施例及び比較例の脱窒材として用いた。
【0030】
海水、脱窒材及び活性汚泥には次のものを用いた。
海水には、水族館において、魚介類や哺乳類等の海洋動物を飼育している水槽から採取した、硝酸性窒素濃度が56.6mg/Lのものを用いた。
脱窒材には、硫黄と炭酸カルシウムとの質量比(硫黄:炭酸カルシウム)が45:55、粒度が10〜50mm、見かけ比重が1.35Kg/Lのものを用いた。
活性汚泥には、下水処理場のばっき槽に浮遊しているものを用いた。
【0031】
脱窒材への硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化は、次のように行った。
10L(容量)のポリ容器に、10Kgの脱窒材を充填した後、100mLの活性汚泥を上から脱窒材に振り掛けた。
その後、約150Lの海水(硝酸性窒素濃度が56.6mg/L)が入れられた水槽(W450mm×L900mm×H450mm)から、ポンプを用いて、海水を6L/minの流量でポリ容器に常時通水した(なお、海水は、ポリ容器内の脱窒材充填層を上向流で通水され、ポリ容器から溢れ出たものを水槽へと戻し、循環させた)。
そして、海水の硝酸性窒素濃度が1mg/L以下になるまで(5日目に硝酸性窒素濃度が1mg/L以下になった)通水を続けた。
【0032】
その後、全ての海水(約150L)を硝酸性窒素濃度が56.6mg/Lのものに入れ替えた後、再度、ポリ容器への通水(流量が6L/min)をし、この海水の硝酸性窒素濃度が1mg/L以下になるまで通水を続けた。
そして、海水の入れ替えを三回繰り返すことで、約450Lの海水(硝酸性窒素濃度が56.6mg/L)をその硝酸性窒素濃度が1mg/Lになるまでポリ容器に通水して、脱窒材への硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化を行った。
【0033】
2)脱窒能力試験
上記、硫黄酸化細菌及び好気性微生物の馴化を行うことにより、硫黄酸化細菌と好気性微生物とが表層に生息している脱窒材を用い、この脱窒材が充填されている処理槽に流入する海水の量(流入水量)を変えた3種類の実施例と3種類の比較例とにより、それぞれの脱窒能力と水の白濁状態とを評価し、その結果を表1に示す。また、それぞれの流入水量及び溶存酸素濃度も表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
海水には、水族館において、魚介類や哺乳類等の海洋動物を飼育している水槽から採取した、硝酸性窒素濃度が約40〜70mg/Lのものを用いた。
【0036】
試験方法
硫黄酸化細菌と好気性微生物とが表層に生息している10Kgの脱窒材13を、側面上部に処理水出口12が穿設された10L(容量)のポリ容器11に充填した。このポリ容器11が処理槽である。
そして、図1に示すように、約150Lの海水W1が入れられた水槽10(W450mm×L900mm×H450mm)内に、水槽10内の海水W1がポリ容器11内に直接流入しないようにするとともに、処理水出口12から溢れ出た海水が水槽10に戻るよう、処理水出口12が水面より上方に位置するようにして、ポリ容器11を配設した。
吸入ホース16の先端部を水槽10内の海水W1中に入れた、送水能力が6L/minのポンプ15により海水W1を汲み上げてポリ容器11内に入れた。
【0037】
そして、ポンプ15を間欠運転(5分間の運転と2〜360分間の停止とが1サイクル)することで、水槽10内の海水W1をポリ容器11内に送るとともに、脱窒処理されて溶存している硝酸性窒素が除去された処理海水W2を処理水出口12から溢れ出させて海水W1へと戻し、海水W1の脱窒処理を行った。ポンプ15の停止時間を変えることで、ポリ容器11に流入する海水の一日分の量(体積)を変え、この一日分の海水の体積をポリ容器に充填された脱窒材の質量で割った値である流入水量を変えた。なお、試験中は、エアレーションにより、海水W1に酸素を供給した。また、海水に対して温度調整を行わなかったことから、海水W1及びW2の温度は室温(約25℃)であった。
【0038】
評価
脱窒能力
試験開始時及び試験開始3日後の水槽10内の海水W1の硝酸性窒素濃度を測定した。そして、試験開始3日後の測定値を基に、◎:5mg/L以下、○:5〜20mg/L、△:20mg/L超と評価した。
【0039】
白濁状態
試験開始3日後の水槽10内の海水W1の白濁現象の程度を目視で判断し、白濁がない場合をなしと、白濁が少しある場合を少しと、白濁が濃い場合を濃いと評価した。
【0040】
溶存酸素濃度
試験開始3日後における2〜360分間の停止後にポンプを運転した直後の処理水出口12の海水を、温度及び圧力を操作することなく、測定した。
【0041】
表1に示すように、実施例は、3日後には、硝酸性窒素濃度が3.2mg/L以下であり、脱窒する能力が高かった。溶存酸素濃度が3.5mg/L以上であり、白濁現象が生じなかった。流入水量が66.5L/Kg日以上と大きいことから、硝酸性窒素の脱窒処理される海水の量を多くできた。一方、比較例は、3日後には、硝酸性窒素濃度が7.6mg/L以上であり、脱窒する能力が十分ではなかった。溶存酸素濃度が2.2mg/L以下であり、白濁現象が生じた。これは、流入水量が34.6L/Kg日以下と小さいことから、ポリ容器内に海水が滞留する時間が長くなってしまった。そのため、脱窒菌による酸素消費が高くなり、海水の溶存酸素濃度が低くなって、白濁状態になりやすくなったと考えられる。
【0042】
3)飼育試験
水棲動物を飼育している水槽の飼育水に本発明の実施例の硝酸性窒素の除去方法を用いて、溶存している硝酸性窒素の除去を行った。具体的には、次にように行った。
【0043】
図2に示すように、円筒状の水槽20(直径:1000mm、水深600mm)に入れられた約570Lの海水W1を、32Kgの珊瑚レキ22(ろ過材)が充填された処理槽21(W800mm×L450mm×H450mm)に流下させるとともに、処理槽21内の海水W1を、ポンプ25により、水槽20に汲み上げることで、水槽20と処理槽21との間で海水W1を循環させた。なお、水槽20内の海水W1には、エアレーションにより、酸素を供給した。
【0044】
この循環を詳述すると、所定の容量を超えた分の水槽20内の海水W1は下降管27内を流下する。そして、図3のaに示すように、処理槽21内に放出され、上方から珊瑚レキ22に掛けられて、ろ過処理等が行われる。その後、処理槽21内に溜まった海水W1は、処理槽21の底付近からポンプ25により20L/minの流量で汲み上げられ、上昇管28内を通って上方へと送られ、上方から水槽20内へと吐出される。
【0045】
そして、10日間循環させた後、ポンプ25による海水W1の循環を続けたまま、イヌザメ(TL(全長)60cm、BW(体重)850g、オス)1尾を水槽20に入れて飼育を開始した。なお、この日が飼育開始日(飼育日数0日)である。餌として、シシャモや甘エビを10〜15g/日給餌した。
飼育開始から32日目(飼育日数32日)に、サンゴトラザメ(TL(全長)45cm、BW(体重)400g)1尾とルリスズメ(TL(全長)25mm、BW(体重)1g)20尾とを水槽20に入れ、飼育開始から33日目(飼育日数33日)に、ヒメハナギンチャク2個体を水槽20に入れて飼育した。餌として、シシャモや冷凍エビを20〜30g/日と、ルリ用フレークを0.5〜1g/日と給餌した。
なお、海水の温度は、25〜26℃を保つよう、ヒーター・クーラー26で調整した。
【0046】
この期間の海水中の各成分の濃度を表2に示す。なお、それぞれの濃度の測定は、上昇管28の吐出口で、温度及び圧力を操作することなく、行った。
この期間は、飼育日数が増えることで、硝酸性窒素濃度は上昇し、硝酸性窒素が蓄積された。また、残渣や水棲動物(イヌザメ、サンゴトラザメ、ルリスズメ、ヒメハナギンチャク)からのふん尿による窒素は、処理槽21で全て硝酸性窒素に硝化されていた。そのため、水槽の海水W1は常に透明度が高く、有機物も処理槽21に生息する好気性微生物によって除去できていた。
【0047】
【表2】

【0048】
次に、上記の飼育を継続したまま(従って、飼育条件等は変更していない)、処理槽21の珊瑚レキ22の上に、1)の馴化により、硫黄酸化細菌と好気性微生物とが表層に生息している脱窒材23を10Kg入れた網袋24(5mmメッシュ)を置いて、処理槽21に脱窒材23を充填し、海水W1の硝酸性窒素の除去を行った。これが本発明の実施例の水棲動物の飼育方法である。このときの流入水量は、10Kgの脱窒材が充填された処理槽21に20L/minの流量で海水W1が流入され、循環されていることから、2880L/Kg日であった。なお、処理槽21の珊瑚レキ22の上に網袋24を置いた日が、脱窒処理開始日(脱窒日数0日)である。
【0049】
この循環を詳述すると、所定の容量を超えた分の水槽20内の海水W1は下降管27内を流下する。そして、図3のbに示すように、海水W1は、処理槽21内に放出され、上方から脱窒材23に掛けられて、脱窒処理された後、珊瑚レキ22でろ過処理等が行われ、溶存している硝酸性窒素が除去された処理海水W2になる。その後、処理槽21内に溜まった処理海水W2は、処理槽21の底付近からポンプ25により20L/minの流量で汲み上げられ、上昇管28内を通って上方へと送られ、上方から水槽20内へと吐出されて、海水W1に戻された。
【0050】
この期間の海水中の各成分の濃度を表3に示す。なお、それぞれの濃度の測定は、上昇管28の吐出口で、温度及び圧力を操作することなく、行った。
処理槽21に脱窒材23を設けることで硝酸性窒素の除去が進み、脱窒日数9日には、硝酸性窒素の濃度が1mg/L程度となった。そして、それ以後、硝酸性窒素濃度が上昇することはなく、同レベル(約1mg/L前後)を推移し、白濁現象も生じなかった。また、水棲動物も餌喰も良く、健康に飼育できた。
【0051】
【表3】

【0052】
以上より、本実施例の水棲動物の飼育方法によれば、溶存酸素濃度が5.8mg/L以上の高い状態で水槽20に入れられた海水W1の硝酸性窒素を除去でき、水槽20で飼っている水棲動物を安全に飼育できた。また、海水W1に硝酸性窒素の増加蓄積がなく、換水を減らすこともできた。さらに、従来行われていた、処理層内の溶存酸素濃度を低位に嫌気性条件を維持管理することと、水棲動物に影響する硫化水素の発生を抑制すること等をしなくてよくなった。
【0053】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【符号の説明】
【0054】
10 水槽
11 ポリ容器
13 脱窒材
20 水槽
21 処理槽
23 脱窒材
W1 海水
W2 処理海水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水棲動物を飼育している水槽(20)又は池の飼育水(W1)を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(23)に接触させて、前記飼育水(W1)に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水(W2)を戻した前記飼育水(W1)の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(23)が充填されている処理槽(21)から流出する前記処理水(W2)の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする水棲動物の飼育方法。
【請求項2】
水棲動物を飼育している水槽(20)又は池の飼育水(W1)を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(23)に接触させて、前記飼育水(W1)に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水(W2)を戻した前記飼育水(W1)の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(23)が充填されている処理槽(21)に流入する前記飼育水(W1)の一日分の体積を前記脱窒材(23)の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であることを特徴とする水棲動物の飼育方法。
【請求項3】
水棲動物を飼育している水槽(20)又は池の飼育水(W1)を、硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(23)に接触させて、前記飼育水(W1)に溶存している硝酸性窒素を除去し、前記除去後の処理水(W2)を戻した前記飼育水(W1)の中で前記水棲動物を飼育する水棲動物の飼育方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(23)が充填されている処理槽(21)に流入する前記飼育水(W1)の一日分の体積を前記脱窒材(23)の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であり、
前記処理槽(21)から流出する前記処理水(W2)の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする水棲動物の飼育方法。
【請求項4】
前記脱窒材(23)は、前記硫黄の含有量が前記炭酸カルシウムの含有量より少ない請求項1〜3のいずれか一項に記載の水棲動物の飼育方法。
【請求項5】
前記脱窒材(23)は、粒度が5〜200mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の水棲動物の飼育方法。
【請求項6】
硝酸性窒素が溶存している水(W1)を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(13、23)に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(13、23)が充填されている処理槽(11、21)から流出する、前記硝酸性窒素が除去された水(W2)の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする硝酸性窒素の除去方法。
【請求項7】
硝酸性窒素が溶存している水(W1)を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(13、23)に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(13、23)が充填されている処理槽(11、21)に流入する前記水(W1)の一日分の体積を前記脱窒材(13、23)の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であることを特徴とする硝酸性窒素の除去方法。
【請求項8】
硝酸性窒素が溶存している水(W1)を硫黄と炭酸カルシウムとを含んでなる脱窒材(13、23)に接触させて前記硝酸性窒素を除去する硝酸性窒素の除去方法であって、
硫黄酸化細菌と好気性微生物とを生息させている前記脱窒材(13、23)が充填されている処理槽(11、21)に流入する前記水(W1)の一日分の体積を前記脱窒材(13、23)の質量で割った流入水量が50L/Kg日以上であり、
前記処理槽(11、21)から流出する、前記硝酸性窒素が除去された水(W2)の溶存酸素濃度を3mg/L以上にすることを特徴とする硝酸性窒素の除去方法。
【請求項9】
前記脱窒材(13、23)は、前記硫黄の含有量が前記炭酸カルシウムの含有量より少ない請求項6〜8のいずれか一項に記載の硝酸性窒素の除去方法。
【請求項10】
前記脱窒材(13、23)は、粒度が5〜200mmである請求項6〜9のいずれか一項に記載の硝酸性窒素の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−63036(P2013−63036A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203504(P2011−203504)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】