説明

水洗便器

【課題】 衛生機器として最良な固定トラップ式の水洗便器で、ボウルの溜水水位を任意の水位に精度良く設定可能な水洗便器を実現するものである。
【解決手段】 瞬間供給能力の異なる少なくとも2つの洗浄水供給手段を有し、前記ボウル水位測定手段の水位測定結果に基づいて、瞬間供給能力の大きい第1給水手段で供給を開始し、途中でより瞬間供給能力の小さい第2給水手段で供給することにより、前記トラップから溢流する溢流水位より低く、封水水位より高い前記ボウルの溜水水位(目標水位)を形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器に係り、特にボウルの溜水水位を任意の水位に精度良く設定可能な水洗便器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
水洗便器のボウルの溜水は次回の排便時のボウル面への便付着を防止するために排便後の便器洗浄工程において形成されるものであるが、他方では排便時の溜水からのおつりという現象とも関係し両者の発生状態は溜水水位に対して相反する。ここで、使用者の排便形態には個人差があり前記の現象もその状態に応じて変化するため、これらの現象の発生を防ぐための適切な溜水水位も使用者毎に異なる。その対応策の一つとして、溜水水位を個別の状況に応じて適切な任意の水位に形成する方法が考えられる。
【0003】
更に、近年は、従来の便器として使用するだけでなく、便器のボウルを被験者の排泄する尿の収集容器として利用し、ボウルの溜水水位の変化量を測定して健康管理指標としての尿量・尿流率を算出する尿量・尿流率測定便器としての用途も考えられている。
【0004】
この場合、測定できる尿量の範囲は、排尿を開始する前の溜水水位とトラップから下水配管に溢流する溢流水位間のボウル内容積できまる。水洗便器には、下水管を水封するために必要な溜水水位である封水水位と、トラップを超えて下水配管に溢流を始める溢流水位があり、尿量測定範囲を大きく確保するためには、排尿前の溜水水位を封水水位以上で、できるだけ低い水位に精度良く設定することが必要である。
【0005】
ボウルの溜水水位を給水制御により任意の水位に設定するものとして、例えば特許文献1が有る。これは、給水手段の給水時間や給水量を制御しボウルの溜水水位を任意の水位に設定するものである。公報の実施例には、洗浄水供給路に設けた弁の開閉時間を制御して目標水位を設定する方法や、水洗便器のリム部に超音波センサーなどを取り付け、ボウルの水位を監視しながら目標水位を設定する方法が記載されている。
【0006】
ここで、水洗便器の便器洗浄工程は便器上端部に設けられたリム吐水口から吐水してボウル面を洗浄するボウル洗浄工程と、ボウル内の排泄物を含んだ溜水を下水管に排出する汚物排出工程と、ボウル内に所定量の溜水を形成する溜水形成工程とからなる。ボウル洗浄工程ではボウル内面に付着した汚物を洗い落とすため、使用する給水手段は一般には最低でも20L/min程度の大きな瞬間流量が必要とされている。また汚物排出工程では汚物を完全に排出するため、さらに大きな瞬間流量が必要とされ、そのため給水手段の瞬間流量を増幅させる様々な工夫がなされている。
【0007】
また、溜水形成工程では下水管からの異臭発生を防止するため、排泄物を含んだ溜水を下水配管に排出後、速やかに溜水を形成して下水配管との接続部を水封する必要があるため、通常はボウル洗浄工程と同じ給水手段によってほぼ同じ大きな瞬間流量で給水されている。
【0008】
特許文献1に記載されている便器も以上述べた構成の給水手段を使用している。従って、使用する給水手段の瞬間流量が大きいため、ボウルの溜水水位を検知しながら開閉弁を制御しても弁の応答性のばらつきなどの原因によって実際に供給される給水量のばらつきも大きくなり、その結果、ボウルの溜水水位を精度良く設定することができない。
【0009】
【特許文献1】特開平3−090746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、従来の便器の機能を維持しながらボウルの溜水水位を任意の水位に精度良く設定可能な水洗便器を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、使用者の排泄物を受けるボウルと、前記ボウルと下水管とを連通し、この下水管を水封する溜水を便器内に形成するためのトラップと、前記ボウル内に水を供給する給水手段とを備え、前記給水手段により前記溜水の水位を溜水が前記下水管に溢れる水位である溢流水位以下の任意の目標水位に形成する溜水形成工程を有する水洗便器において、
前記給水手段は前記溜水のボウル水位を測定するボウル水位測定手段と、瞬間供給能力の異なる複数の給水運転モードとを有し、前記溜水形成工程における前記ボウルへの給水を、所定の切替水位までは前記複数の給水運転モードの中で瞬間供給能力が最も大きい第1給水運転モードで行ない、その後、前記ボウル水位測定手段の水位測定結果に基づいて、前記瞬間供給能力が前記第1給水運転モードより小さい第2給水運転モードで行なうことにより、前記目標水位に溜水水位を形成することを特徴とする。
【0012】
そのことにより、溜水形成に必要な給水供給を高速で行なう高速運転モードと供給量制御の容易な低速運転モードとを組み合わせ、且つ、目標水位との水位差を計測しながら給水供給制御を行なうため、ボウルの溜水水位を任意の水位(目標水位)に短時間で且つ精度良く形成できる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は請求項1に記載の発明において、前記切替水位が、便器の前記ボウルに開口されたトラップ口が完全に水没する最低水位である封水水位以上に設定されていることを特徴とする。
【0014】
そのことにより、封水水位までは、給水手段の瞬間供給能力が互いに異なる複数の給水運転モードのうち、瞬間供給能力の最も大きい第1給水運転モードで供給するため、汚物排出からトラップ口が封水されるまでの時間が短くなり、トラップ口からの下水管異臭の逆流を少なくできる。
【0015】
また、請求項3記載の発明は請求項1又は2に記載の発明において、前記第1給水運転モードによる前記切替水位までの給水動作を、前記ボウル水位測定手段が所定の閉止水位を検知することによって停止させることを特徴とする。
【0016】
そのことにより、ボウルの溜水水位を直接測定し、第1給水運転モードの運転を制御するため、ボウル断面積の個体間ばらつきや、第1給水手段の個体間差による供給量の再現性のばらつきに影響を受けないで、切替水位の形成が可能となるため、溜水形成に必要な給水量に占める第1給水運転モードでの供給量の割合を大きくすることができる。その結果、目標水位に近い水位に切替水位を形成することが可能となり、溜水水位を目標水位に形成する時間を短くすることができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明は請求項1又は2に記載の発明において、前記第1給水運転モードによる前記切替水位までの給水動作を、給水開始から所定の閉止時間が経過することによって停止させることを特徴とする。
【0018】
そのことにより、切替水位の形成のための制御が簡単な構成で行うことが可能となる。
【0019】
また、請求項5記載の発明は請求項1乃至4の何れか1項に記載の発明において、ボウル水位と溜水量との対応関係を求めた関係式を有し、前記第1給水運転モードによって形成された前記切替水位の水位を前記ボウル水位測定手段で測定して得られた測定水位と前記目標水位との水位差に相当する溜水量を前記関係式から求め、求められた前記溜水量を追加給水量として前記第2給水運転モードによって給水することを特徴とする。
【0020】
そのことにより、形成された切替水位を測定するだけで目標水位を精度よく形成できる。
【0021】
また、請求項6記載の発明は請求項1乃至4の何れか1項に記載の発明において、前記第2給水運転モードによる前記目標水位までの給水動作を、前記ボウル水位測定手段が目標水位近傍の水位に設定される所定の閉止水位を検知することによって停止させることを特徴とする。
【0022】
そのことにより、第2給水運転モードで形成される目標水位を監視しながら第2給水運転を制御するため、目標水位を精度よく形成できる。
【0023】
また、請求項7記載の発明は請求項1乃至6の何れか1項に記載の発明において、前記溜水形成工程における給水動作終了後、形成された水位と前記目標水位との水位差が所定の範囲を超える場合は、前記第2給水運転モードによる補水動作と溜水水位測定とを前記水位差が所定の範囲内になるまで繰り返し行なう補水工程を有することを特徴とする。
【0024】
そのことにより、給水圧力の急変等の溜水形成工程における給水量に影響を与える想定外の要因が発生した場合でも目標水位を精度よく形成できる。
【0025】
また、請求項8記載の発明は請求項1乃至7の何れか1項に記載の発明において、前記給水手段は、前記第2給水運転モードの給水動作において経過時間と共に瞬間流量を小さくする瞬間流量変更手段を備えたこと特徴とする。
【0026】
そのことにより、ボウルの溜水水位精度に対して、支配的な第2給水運転モードの動作完了付近の瞬間流量をより小さくすることができるため、目標水位を精度よく形成できる。
【0027】
また、請求項9記載の発明は請求項1乃至8の何れか1項に記載の発明において、前記給水手段は、前記第2給水運転モード給水時は、前記切替水位より下方に設けられた吐水口から前記ボウルに給水することを特徴とする。
【0028】
そのことにより、第2給水運転モード時のボウルの波立ちを抑えることができ、より精度よくボウルの溜水水位の測定ができ、目標水位を精度よく形成できるようになる。
【0029】
また、請求項10記載の発明は請求項1乃至9の何れか1項に記載の発明において、前記給水手段は、前記目標水位を変更可能な目標水位変更手段を備えたことを特徴とする。
【0030】
そのことにより、各現場毎や使用者毎に適切なボウルの溜水水位設定ができる。
【0031】
また、請求項11記載の発明は請求項1乃至10の何れか1項に記載の発明において、前記ボウルの溜水水位から溜水量を求めるための溜水量演算手段を有し、前記目標水位を形成後、前記ボウル水位測定手段によって測定される排尿による溜水水位の変化より使用者が前記ボウルに排泄した少なくとも尿量を含む排尿情報を得ることを特徴とする。
【0032】
そのことにより、排泄前後のボウルの溜水水位差より、排泄によるボウルの容積変化を測定することができ、ボウル内に排泄した尿量を算出できる。また、排泄中の単時間当たりの溜水水位差を測定することにより、尿の排泄速度(尿流率)を算出できる。
【発明の効果】
【0033】
大便時のおつりに対する最適なボウルの溜水水位や、男子小便時の水はねに対する最適なボウルの溜水水位は、使用者によるところが大きい。万人が満足できるボウル水位を設定するのではなく、使用者毎に最適なボウルの溜水水位に設定可能な本構成は、大便時のおつりや男子小便時の水はね対策としては有効な手段となる。また、溜水水位を任意の設定水位に厳密に形成する必要がある尿量・尿流速測定用便器にも有効な手段となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(第1実施例)
以下に図面を参照して本発明の第1実施例を具体的に説明する。図1は、第1実施例における水路系を構成を示すの水路構成図を、図2は、第1実施例における溜水形成工程の経過時間とボウルの溜水水位の関係を示すグラフを、図3は、第1実施例における便器洗浄における給水手段の動作フロー示すフローチャートを、図4は、第1実施例における便器洗浄における給水手段の動作タイミングと、各流路の瞬間流量やボウル溜水水位の関係を示したタイミングチャートを示す。
【0035】
まず、図1を参照して第1実施例における構成を説明する。本実施例で使用している便器51は、使用者の排泄物(尿・大便)を受けるボウル1と、下水配管を水封し溜水を形成するためのトラップ2と、トラップ2と下水配管を接続する排水ソケット3とからなる排水路と、ボウル1内面の洗浄とボウル1の溜水形成を行うためボウル1の上端部に配設された吐出口を有するボウル給水路4と、トラップ2に向けて水を噴出してサイホンを発生させ汚物を排出するゼット吐水口16に連絡されたゼット給水路5と、を有している。
【0036】
さらに本実施例では、便器のボウル面に洗浄水等の水を供給する給水手段はボウル給水路4又はゼット給水路5へ大きな瞬間流量(単位時間当たりの流量)で給水可能な第1給水手段と、第1給水手段より小さな瞬間流量の供給能力を持つ第2給水手段と、ボウル1の溜水の水位を確認するためのボウル水位測定手段と、それらの各手段を制御する図示しない制御手段とを備えている。以下にその構成の詳細を述べる。
【0037】
第1給水手段は、ボウル給水路4とゼット給水路5に連結された第1供給流路11の途中に設けられた、定流量弁20aと、定流量弁20aの2次側に連設したパイロット式ダイヤフラム弁からなる開閉弁9cと、開閉弁9cの2次側に連設され給水を供給する流路をボウル給水路4又はゼット給水路5へ切替える流路切替弁12とを備えている。
【0038】
流路切替弁12は1ヶの入水ポート13と2ヶの出水ポート14a、14bを有する2方向切替弁で、一方がボウル給水路4に他方がゼット給水路5に連絡するものである。待機状態では入水ポート13と出水ポート14aとが連通している。
【0039】
ボウル1に供給される第1給水手段の給水供給量は、定流量弁20aにより管理される瞬間流量と、制御部により管理される供給時間と、から決まる。ここで、開閉弁9cとして水圧を利用して小さな駆動エネルギーで大流量の開閉を行なうため使用している略20L/minの瞬間流量の開閉を行うパイロット式ダイアフラム弁は、弁本体のパイロット室内の昇圧時間がばらつくため、通常の単純な構造を持つ開閉弁に比べて閉止動作時間のばらつきが大きい。
【0040】
第2給水手段は、第1供給流路11と並列に設けられ給水源から分岐して給水タンク21と連絡する第2供給流路15と、第2供給流路15の途中に設けられた定流量弁20bと、定流量弁20bの2次側に連設された開閉弁9dと、開閉弁9dからの洗浄水を一時的に貯水する給水タンク21と、給水タンク21内の水位を検知する水位センサー22a、22bと、給水タンク21とゼット流路5の最下端部を連絡するゼット口連結路15aと、ゼット口連結路15aの開閉を行う開閉弁9a、9eとからなり、ボウル1の溜水の水面と給水タンク21の水面とのヘッド差を利用してボウル1に給水する。
【0041】
ボウル1に供給される第2給水手段の給水供給量は、給水タンク21の流出口に設けられた固定オリフィス26により略3L/minに管理された瞬間流量と、制御部により管理される供給時間とから決まる。定流量弁20bは、給水タンク21内への洗浄水の瞬間流量を制限するもので、瞬間流量は略2L/minに設定されている。
【0042】
また、開閉弁9dの駆動を制御する水位センサー22abには、給水タンク21水位上限を検知する水位センサー22aと、給水タンク21水位下限を検知する水位センサー22bとがある。水位センサー22aは、給水タンク21の水量を管理するもので、水位センサー22aがOFF状態になると、開閉弁9dに開弁信号が送られタンク給水が開始され、水位センサー22aがON状態になると、制御から開閉弁9dへ閉止信号が送られ、タンク給水が停止する。また、水位センサー22bは、タンク水が空になり、ゼット口連結路15a内への空気混入を防止するもので、水位センサー22bがOFF状態になると、制御部から開閉弁9dへ閉止信号が送られ、ゼット口連結路15aを遮断し、空気混入を防止する仕組みになっている。
【0043】
さらに、給水タンク21内には、オバーフロー管23が設けられており、水位センサー22aが検知し、開閉弁9dが制御部からの給水停止信号を受けたにもかかわらず、給水が停止しない場合は、洗浄水はオバーフロー管23を通り、トラップを備えた第2排水路10から排水ソケット3の下水管側へ導かれ排水される。
【0044】
ボウル水位測定手段は、ボウル1の溜水水位によって生じる圧力を測定する圧力センサー8と、ゼット口連結路15aの開閉弁9aと開閉弁9eの間から分岐して圧力センサー8にボウル1の溜水水位による圧力を伝える測定流路7と、測定流路7の途中に設けられ測定時以外の配管圧から圧力センサー8を保護するための開閉弁9bとを有している。また、圧力センサー8の出力を校正するために一端が圧力センサー8に接続され、他端が大気開放された校正管6aを内蔵した校正管ユニット6と、校正管6aから校正管ユニット6内に溢れる水を排水ソケット3へ導く第2排水路10とからなる。
【0045】
校正管ユニット6はボウル1の溜水水位の基準となる水位を創成するもので、校正管6aの満水水位時の圧力センサー出力値Aを基準とし、この出力値Aとボウル1の溜水水位測定時の圧力センサーの出力値Bとの差を測定することにより、ボウル1の溜水水位を算出するものである。また、校正管6aの満水水位は、トラップ2から溢流する溢流水位より高い位置に配置されている。これは、開閉弁9aと開閉弁9bを開弁し、ボウル1の溜水水位を測定する際、ボウル1内の汚水が校正管6a側へ流れ込まないように配慮しているためである。
【0046】
制御手段は、便器の動作を制御する制御部だけでなく、使用者が動作を指示する図示しない操作スイッチや、溜水水位の設定水位(目標水位)の変更を行なうための目標水位変更手段として後述する目標水位変更ダイヤルをも備えている。
【0047】
次に、本実施例の溜水形成工程における給水制御の方法を説明する。図2は溜水形成工程における経過時間とボウルの溜水水位の関係を示したグラフであり、縦軸は溜水形成工程における水位を、横軸は、便器洗浄工程内の溜水形成工程へ移行後の経過時間を示している。ここで、グラフの実線が本実施例の場合であり、破線は後述する本発明の別な実施形態の場合を示すものである。なお、図中の空水位の位置は図1に記載のボウル底部の溜水水位である。
【0048】
本実施例では、溜水形成工程において形成される溜水水位である目標水位の設定値に応じて、便器51のトラップの封水位以上の水位に切替水位を設定し、切替水位まではボウル1部への給水を定流量弁20aにより略20L/minの瞬間流量に設定された第1給水手段を制御して行なう第1給水運転モードで供給する。そして切替水位からは、固定オリフィスとヘッド差を利用したタンク給水により略3L/minの瞬間流量に設定された第2給水手段を制御して行なう第2給水運転モードで供給することにより、ボウル1の溜水水位を封水水位より高く、トラップ2から溢流する溢流水位より低い範囲に設定される所定の目標水位を形成する。
【0049】
このように切替水位までは、給水手段の瞬間供給能力が互いに異なる複数の給水運転モードのうち、瞬間供給能力の最も大きい第1給水運転モードで供給するため、汚物排出から封水水位に達するまでの時間が短くなり、トラップが破封している時間を短くすることができる。また、切替水位からは、溜水の水位をボウル水位測定手段で測定した結果に基づき第1給水運転モードより瞬間供給能力の小さい第2給水運転モードで供給するため、第1給水運転モードで行なった給水で形成された溜水水位の形成誤差を吸収できるだけでなく、瞬間供給能力が小さいことによりこの時使用する給水手段の瞬間流量や応答性のばらつきに起因する給水供給量のばらつきも相対的に小さくなる。その結果、ボウルの溜水水位を封水水位から溢流水位の範囲で任意の水位(目標水位)に精度良く設定できるようになる。
【0050】
なお、切替水位は、給水手段の前述した各種ばらつきを配慮し目標水位を超えない範囲で目標水位に近づけて設定することによって目標水位の形成精度を維持したままで形成時間を短くすることができる。
【0051】
また、本実施例では使用する便器51がトラップ式の便器のため、下水配管からの汚臭逆流を考慮して切替水位は封水水位以上に設定することとして形成される目標水位も封水水位以上としているが、汚物排出管路に開閉弁を設けた便器を使用する場合や、別途脱臭手段を設ける場合は本発明を適用することによってボール内の任意の水位に切替水位及び目標水位を設定可能である。
【0052】
図3に示すフローチャートと図4に示すタイミングチャートを用いて、本実施例におけるボウル1部の動作について説明する。図4の縦軸は、給水手段を構成する各要素の動作と、その結果である各流路の瞬間流量やボウル水位を示し、横軸は経過時間を示す。
【0053】
使用者が図示しない便器洗浄スイッチを押すと(S11)、まず、開閉弁9cが開弁し、流路切替弁12の入水ポート13と出水ポート14aが連通し、洗浄水はボウル給水路4へ供給されボウル1面の洗浄を行うボウル給水が開始される(S12)。またこの時、開閉弁9bと開閉弁9eが開弁され、給水タンク21内の水が校正管6aに導かれる校正管給水が同時に開始される(S31)。校正管6aが満水になった後、開閉弁9bと開閉弁9eが閉弁され、その時の校正管水位(基準水位)でのセンサー出力値Aを記録するセンサー校正が行なわれる(S32)。
【0054】
開閉弁9cの開弁から所定のT1時間経過すると(S13)、流路切替弁12が駆動し、入水ポート13と出水ポート14bが連通し、洗浄水はゼット流路5へ供給されるゼット給水が開始され(S14)、汚物排出工程に移行する。このゼット給水により、サイホンが発生し、排泄物を含んだボウル1内の溜水は下水管へ排出される。
【0055】
次に、開閉弁9cの開弁からT2時間経過後(S15)、流路切替弁12が駆動し入水ポート13と出水ポート14aが連通し、洗浄水はボウル給水路4に導かれ、ボウル1内に溜水を形成するボウル給水が開始され(S16)、溜水形成工程に移行する。
【0056】
溜水形成工程へ移行してからt1時間経過後(S17)、制御部から開閉弁9cに閉止信号が、また開閉弁9aと開閉弁9bには開弁信号が送られ、第1給水手段の給水停止動作が開始されるとともに、ボウルの溜水水位を確認するためのセンサー8のセンシングが開始される(S18)。その後、第1給水手段による給水が完全に停止し、ボウル1の溜水の波立ちが収まることを事前に実験で求めたt2時間が経過すると(S19)、センサー8の出力値の監視により溜水の水位が安定していることを確認して(S20)、その時のセンサー8の出力値Bを読み取り、ボウル洗浄工程で確認した校正管6aの満水時のセンサー8の出力値Aとの出力値差C(C=B−A)より、この時点でのボウルの溜水水位が算出される(S21)。この場合、t2時間が経過した時点でセンサー8の出力値の安定が認められないと、何らかの異常があると判断してその旨報知するなどの適宜な異常対応を行なう(S41)。
【0057】
次に、事前に求められている溜水水位差(校正管水位と溜水水位との水位差)と溜水量との関係式である検量線に基づいて、この時得られたボウル1の溜水水位と目標水位との水位差に相当する溜水量を求めこれを追加給水量とし、さらにこの求められた追加給水量と次に使用する第2給水手段の瞬間供給能力とから、目標水位に到達するために必要な開閉弁9eの開弁時間t3を演算する(S22)。
【0058】
次に、開閉弁9bを閉弁するとともに開閉弁9eが開弁され、給水タンク21内の水がゼット給水路5を介してゼット吐水口16よりボウル1内へ給水されるゼット給水が開始される(S22)。この第2給水手段による給水開始からt3時間後(S24)、制御部から開閉弁9aと開閉弁9eに閉弁信号が送られ、さらにt4時間経過して開閉弁9eが完全に閉止して給水路内の残水も含めたゼット給水が完全停止し(S25)、溜水水位は目標水位(H2)となり全ての便器洗浄動作が完了する。
【0059】
従って、溜水形成工程の切替水位を決める第1給水運転モードで使用する第1給水手段の動作時間t1時間は、得られる切替水位がこれらの各種のバラツキによっても目標水位を超えないで極力目標水位に近い水位に、目標水位に応じて予め設定する。このように設定することにより、第1給水運転モードから第2給水運転モードへ切り替える切替水位を最適に設定することが可能となる。
【0060】
また、第2給水手段の動作時間t3時間もt1時間同様、これらの各種のバラツキを考慮して、上記のばらつきと切替水位を確認し成立する動作時間を設定することにより、目標水位を精度良く形成することが可能となる。
【0061】
本実施例では、目標水位に応じて、第1給水手段と第2給水手段の動作時間(t1、t3)を設定して各給水運転モードでの給水の制御を行なっているが、第1給水手段や第2給水手段に積算流量センサーを備えて、各給水運転モードの積算給水供給量を直接監視しながら給水手段を制御して水位形成を行なっても良い。
【0062】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例の動作について図5に示すフローチャートと図6に示すタイミングチャートを用いて説明する。本実施例は、溜水形成工程の動作のみ先に説明した第1実施例と異なり、その他の工程での動作及び装置の基本構成は同じものである。即ち、第1実施例の溜水形成工程においては、第1給水運転モードから第2給水運転モードへの切り替えを予め決められた時間であるt1時間で行なっているが、本実施例ではその切り替えを所定の水位で行なう点と、第2給水運転モードの終了を水位測定結果に基づいて行なう点とが異なる。従って、以下の説明はボウル溜水の溜水形成工程を中心に行ないその他の説明は適宜省略する。
【0063】
本実施例では使用者が図示しない便器洗浄スイッチを押すと、汚物排出工程終了までは第1実施例と同様に進行し、その後、溜水形成工程が開始され第1給水手段によるボウル給水が開始される(S56)と共に、開閉弁9aと開閉弁9bが開弁し、ボウルの溜水水位を確認するセンサー8のセンシングが開始される(S57)。このセンサー出力値Bとボウル洗浄工程で確認した校正管6aのセンサー出力値Aの出力値差C(C=B−A)より、溜水形成工程でのボウルの溜水水位が算出される。センサー出力値差Cの情報からボウルの溜水水位が切替水位になると予想される水位(h1)が観測された時(S58)、制御部から開閉弁9cに閉弁指示が送られ開閉弁9cが閉弁されボウル給水が停止される(S59)。
【0064】
開閉弁9cが閉弁してから、第1給水手段による給水が完全に停止しボウル面の波立ちが収まる時間として求められた所定のt2時間が経過すると(S60)、再び溜水水位を求めて(S61)所定の切替水位(H1)となっているか確認する(S62)。溜水水位が切替水位の許容範囲内の水位でない場合は溜水を一旦輩出した後に再度溜水工程をやり直すなどの異常処理を行う(S91)。
【0065】
溜水水位が切替水位の許容範囲内の水位である場合は、事前に求められている溜水水位差(校正管水位と溜水水位の水位差)と溜水量との関係式である検量線に基づいて、この時得られたボウル1の溜水水位と目標水位との水位差に相当する溜水量を求め追加給水量とし、さらにこの求められた追加給水量と次に使用する第2給水手段の瞬間供給能力とから、目標水位に到達するために必要な開閉弁9eの開弁時間t3を演算する(S63)。
【0066】
開弁時間t3が求められると開閉弁9bが閉弁されるとともに開閉弁9eが開弁され、タンク21内の洗浄水がゼット口連結路15aとトラップ給水路5を経由して吐水口16よりボウル1内へ供給され、第2給水手段によるゼット給水が開始される(S64)。
【0067】
第2給水手段による給水開始から所定のt3時間経過すると(S65)開閉弁9bが開弁されるとともに開閉弁9eが閉弁され、給水を停止させて(S66)センサー8によって溜水水位を測定する(S67)。次に、測定された溜水水位(h2)と目標水位(H2)との水位差を求め所定の範囲内かチェックする(S68)。
ここで所定の時間t3は、第2給水手段を構成する各要素の、瞬間流量に影響を及ぼす各種のばらつきを最大限に考慮しても目標水位をオーバーしない時間として予め求めておいたものを使用する。
【0068】
ここで、求められた水位差が所定の範囲内であれば目標水位に到達したと判断して全ての便器洗浄動作が完了するが、求められた水位差が所定の範囲より外れて目標水位より低い溜水水位の場合は以下に述べる補水動作を行なう。
【0069】
即ち、求められた水位差から予め求められている関係式である検量線を利用してこの水位差に相当する溜水量を求めて追加給水量とし、この追加給水量と第2給水手段の瞬間流量より追加給水に必要な追加給水時間t5を求める(S69)。次に、開閉弁9bが閉弁されるとともに開閉弁9eが開弁され第2給水手段による給水が再開され(S70)追加給水時間t5が経過するまで継続される(S71)。その後開閉弁9bが開弁されるとともに開閉弁9eが閉弁され、再びセンサー8による溜水水位の測定を行ない(S67)、再び目標水位との水位差の確認を行なう(S68)。この水位差が所定の範囲内になるまでこの一連の動作を繰り返した後、溜水水位が目標水位に達するとボウルの溜水形成工程は終了し、全ての便器洗浄動作が完了する。
【0070】
本実施例では、切替水位を形成する第1給水運転モード運転において、使用する給水手段(第1給水供給手段)の動作の停止制御を形成される溜水水位によって行なうため、ボウル断面積の個体間ばらつきはキャンセルされて給水手段の動作ばらつきのみとなり、第1給水運転モードによって形成される切替水位の形成ばらつきを小さくすることができる。その結果、第1給水運転モードでの給水手段(第1給水供給手段)の動作の停止制御を時間で行なう第1実施例の場合に比べて、目標水位により近づけて切替水位を設定することが可能となる。言い換えれば、溜水形成工程における給水供給能力の大きい第1給水運転モードでの供給割合を大きくすることができるため目標水位の形成時間が短くなる他、溜水の形成所要時間が限定される場合でもより高い水位に目標水位を設定することが可能となる。
【0071】
更に目標水位に関しても、第2給水運転モードで形成された溜水水位を測定して目標水位となっているか確認し、所定の許容範囲になっていない場合は再度、第2給水運転モードにおける給水を行なう補水機能を備えているため、ボウル断面積の個体間ばらつきや、第1給水運転モードで使用する給水手段の瞬間流量の個体間ばらつきを排除することができ、目標水位をより精度よく設定できるようになる。
【0072】
また、ボウルの溜水水位を形成する第2給水運転モード時は、切替水位より下方のボウルの底部に設けられたゼット吐水口16を吐出口とする瞬間流量の小さな給水運転モードで給水するため、給水に伴う溜水の波立ちを抑えることができる。そのため、圧力センサー8による水位測定がより精度良く行なえ、その結果として、ボウルの目標水位をより精度よく形成できる。
【0073】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例におけるボウルの溜水形成工程の目標水位形成について説明する。本実施例は、ここまで述べてきた第1実施例及び第2実施例とは溜水形成工程に関わる水路構成が一部異なりその動作も異なるが、その他のボウル洗浄工程と汚物排出工程に関わる構成は同じで、その動作も同じである。従って、溜水形成工程に関わる水路構成とその動作について図7、図8、図9を用いて以下に説明する。
【0074】
図7は本実施例の水路系の構成を示す水路構成図である。ここまで述べてきた第1実施例及び第2実施例では給水タンク21からのゼット連結路15aをゼット給水路5に接続して、第2給水運転モードでの給水をゼット吐水口16から吐出する構成としていたが、本実施例では、ボウル1の底部に開口させた専用の吐水口17をボウル連結路17aを介して給水タンク21に接続して、吐水口17から第2給水運転モードでの給水を行う構成としている。また第1実施例及び第2実施例では、圧力センサー8で水位を測定するための測定流路7をこの連結路15aを介してゼット給水路5に接続しているが、本実施例ではこの測定流路7を直接ゼット給水路5に接続している。
【0075】
このように構成することによって、第1実施例及び第2実施例では第2給水運転モードでの給水と圧力センサー8での水位測定とは流路を一部共用化しているため、両者の動作を同時に行なえなかったが、本実施例では両者の動作は平行して行なうことが可能な構成となっている。即ち、ボウルの溜水水位を測定・監視しながらの第2給水運転モードでの給水が可能である。
【0076】
図8に示す動作フローチャートと図9に示す動作タイミングチャートを用いて、本実施例の動作について説明する。図9の縦軸は、給水手段を構成する各要素の動作と、その結果である各流路の瞬間流量やボウル水位を示し、横軸は経過時間を示す。なお、本実施例は溜水形成工程の動作のみ先に説明した第1実施例及び第2実施例と異なり、その他の工程での動作は同じものである。従って、以下の説明はボウルの溜水形成工程を中心に行ないその他の説明は適宜省略する。
【0077】
本実施例では使用者が図示しない便器洗浄スイッチを押すと、汚物排出工程終了まで第1実施例及び第1実施例と同様に進行し、その後、溜水形成工程が開始され第1給水手段によるボウル給水が開始される(T16)。
【0078】
溜水形成工程へ移行してからt1時間経過後(T17)、制御部から開閉弁9cに閉止信号が、また開閉弁18aには開弁信号が送られ、第1給水手段の給水停止動作が開始されるとともに、ボウルの溜水水位を確認するためのセンサー8のセンシングが開始される(T18)。その後、第1給水手段による給水が完全に停止し、ボウル1の溜水の波立ちが収まることを事前に実験で求めたt2時間が経過すると(T19)、センサー8の出力値の監視により溜水の水位が安定していることを確認して(T20)、その時のセンサー8の出力値Bを読み取り、ボウル洗浄工程で確認した校正管6aの満水時のセンサー8の出力値Aとの出力値差C(C=B−A)より、この時点でのボウルの溜水水位が算出される(T21)。この場合、t2時間が経過した時点でセンサー8の出力値の安定が認められないと、何らかの異常があると判断してその旨報知するなどの適宜な異常対応を行なう(T41)。
【0079】
次に、開閉弁18bが開弁され、給水タンク21内の水がボウル連絡路17aを介して吐水口17よりボウル1内へ給水される第2給水能力モードでの給水が開始され(T22)るとともに、センサー8による溜水水位の測定も開始される(T23)。この給水と測定は溜水水位が目標水位の所定範囲内になるまで継続され(T24)、溜水水位が目標水位(H2)から所定量だけ低い水位(h2)になると制御部から開閉弁18bに閉止信号が送られて閉弁が開始される。その後、開閉弁18bが完全に閉止されて給水タンク21からの給水は停止し(T25)、溜水水位は目標水位(H2)となり全ての便器洗浄動作が完了する。
【0080】
本実施例では、ボウルの溜水水位を直接測定して第2給水運転モードでの給水供給量を制御するため、ボウル断面積の個体間のばらつきや、第2給水手段の給水供給量の再現性や個体間ばらつきを排除することができ、目標水位をより精度よく設定できるようになる。
【0081】
次に、ここまで述べてきた第1〜第3実施例において使用される本実施例の目標水位変更について図10の目標水位変更ダイヤルの外観図を参照しながら説明する。目標水位変更ダイヤル19には溜水形成工程で形成されるボウルの溜水水位(目標水位)に対応して図示のように、目盛り0を中心に5mm間隔で−30mm〜+30mmの範囲とMAXとMINの目盛りが付されており、この範囲でボウル1部の溜水水位の調整が可能である。ここで、水位設定範囲の基準水位となる目盛り0に対応する溜水水位は、便器ボウル内のトラップ口28が封水される水位である最低封水水位から50mm上方の水位(封水深50mm)が設定されている。これは、建築基準法令記載の下水配管接続用器具の最低封水深50mm以上という規格に準拠している。
【0082】
この目標水位変更ダイヤル19による設定がMAX位置の場合は、形成される溜水水位が最低封水水位から溜水水位までの深さである封水深が最大となる便器の溢流水位となるように設計されている。そしてこの設定を選択した場合は、溜水形成工程では第2給水手段は使用されず、第1給水手段の給水による第1給水運転モードでの運転のみによりボウルの溢流水位以上となる給水量が供給され、余分な量の水は下水配管に溢流して溜水水位は溢流水位に形成される。
【0083】
また、MIN位置の場合は、第1給水手段の給水による第1給水運転モードでの運転のみで溜水水位が形成される点はMAX位置の場合と同じであるが、この時使用する第1給水手段の給水量のばらつきを考慮して、溜水水位が最低封水水位以上且つ最小封水深となるように設計されている。即ち、第1給水運転モードでの運転において封水水位で開閉弁9cに閉弁信号が送られて閉弁されボウルへの給水は停止する。この場合ボウルの溜水水位は、開閉弁9cが閉弁信号を受けてから実際に弁流路が完全に閉じられるまでの遅延時間のバラツキにより、封水水位以上の任意な水位となる。
【0084】
以上述べた目標水位選択において、−30mm〜0の範囲又はMINの位置が選択された場合は、ボウルの溜水水位が基準水位(封水深50mm)以下のため、所定時間経過すると、いったん便器洗浄動作を行なってボウルの溜水を排出後、ボウルの溜水水位を待機時の基準水位以上の所定の待機水位に変更する待機水位復帰動作が自動的に行われる。
【0085】
このように、指定水位が基準水位(封水深50mm)以下の場合は、使用後所定時間が経過したときは、ボウルの溜水水位を基準水位以上に変更する便器洗浄が自動的に行われるため、衛生性の面も配慮された構成となっている。
【0086】
なお、待機時に何らかの理由でボウルの溜水水位が待機時の基準水位(封水深50mm)以下に減少してしまった場合も同様に、所定時間後、いったん便器洗浄動作を行なった後、ボウルの溜水水位を待機開始時の指定水位に復帰させる待機水位回復動作を行なうように構成されている。
【0087】
以上述べたように溜水水位の設定は、目標水位変更ダイヤル19にて目標水位を直接指定するため使用勝手が良く、特に第2実施例及び第3実施例においては、指定された水位に相当するセンサー出力値を第2給水運転モードにおける水位制御部の制御対象として制御しているため、供給量や供給時間を制御して間接的に目標水位を形成する場合に比べ、実際に形成される溜水水位のばらつきを小さくすることができる。また、ステップ式に目標水位が変更されるので、目標水位設定の再現性が良い。
【0088】
ここまで述べてきた第1〜第3実施例においては、第1給水手段は、水道直圧式の給水システムを前提に説明したが、変形例として、タンク式の給水システムでも同様に実現できる。すなわち、第1〜第3実施例の第1給水手段の定流量弁20aを給水タンクに置き換えた構成としてタンク排出量を切替水位に相当する給水量に制御する構成とすれば良い。
【0089】
但しこの場合、開閉弁9cをボールタップとしてタンク排出量制御対象としてボールタップの開閉時間を用いるとボールタップの開閉時間はバラツキが大きいため、タンク排出量もバラツキが大きくなり、このバラツキを考慮するとボウルの溜水水位の設定可能範囲が小さくなることが懸念される。そのため、ボールタップ機構を採用する場合は、排出量制御として水位センサー等でタンク内の溜水容積を管理してその全量を流出させる構成とした方が好ましい形態と言える。
【0090】
また、一般的な水洗便器のタンク式給水システムにおいても、タンク内の洗浄水で汚物を排出後、タンク内の洗浄水が満水になるまで、タンク内とボウル内へ洗浄水(リフィール水)を供給する流路を備えている。したがって、前記した本実施例の変形例のさらに変形例として、このボウル内へ給水するリフィール水の流路に本実施例での開閉弁9a、開閉弁9eの機能に相当する開閉弁を備えることにより、ボウルの溜水水位の第2給水運転モードにおける水位を制御することができようになる。このように構成することによって、第2給水供給手段にタンクを備える必要が無くなり、タンク式給水システムにおいては、最良な構成と言える。
【0091】
また、本実施例で使用する給水運転モードは第1給水供給手段と第2給水供給手段の供給能力(瞬間供給量)を各々固定したまま使用する第1給水運転モードと第2給水運転モードの2種類であるが、さらに多くの給水運転モードを使用して、最も大きな給水運転モードからより小さな給水運転モードへ順次切り替えて使用する形態も考えられる。そうすることにより、より短時間で高精度の目標水位形成が行なえる。
【0092】
なお、このように複数の給水運転モードを使用する場合は、本実施例のように使用する給水運転モード数分だけ瞬間流量の異なる洗浄水供給手段を用意しても良いが、任意の一つの洗浄水供給手段の瞬間流量を複数段階に切り替え可能として一つの洗浄水供給手段が複数の給水運転モードを担うように構成しても良い。
【0093】
図2の破線部は、瞬間流量の異なる給水運転モードを3種類使用する例を示すもので、第2給水運転モードの瞬間流量を給水時間の経過途中で10L/minから1.5L/minに変更した場合の経過時間と水位の関係を示している。
【0094】
この場合は本実施例では第2給水運転モードにおいて使用する第2給水手段は給水タンク21水位とボウル1部の溜水水位のヘッド差を利用し、洗浄水をボウル1部内に供給しているが、ゼット口連結路15aの途中にポンプを配設して第2給水手段での瞬間流量をポンプ能力分だけアップした瞬間流量で供給する構成とすることによって3種類の給水運転モードを有する構成とすることも可能である。
【0095】
この場合、ボウルの溜水水位の最終位置を決定する第2給水手段の給水動作が完了する直前の瞬間流量をより小さくすることによって、目標水位をより精度よく設定できる。
【0096】
また、ここまで述べてきた第1〜第3実施例においては、水位制御に際して使用するボウル水位と溜水量との関係式として、任意の水位と溜水量との関係を求めた検量線を使用しているが、本発明においてはこのような検量線に代えて、センサー出力値と溜水量との対応式やセンサー出力値と各給水運転モードの運転時間との対応式などを使用して間接的にボウル水位と溜水量との関係式を利用することも含むものである。
【0097】
さらにまた、ここまで述べてきた第1〜第3実施例においては、第1給水運転モードは第1給水手段だけでの給水の終了までとしているが、変形例として第1給水手段での給水終了以前に第2給水手段での給水も合わせて開始して第1給水手段の給水の終了までを第1給水運転モードとし、その後第2給水運転モードとすることも考えられる。具体的には、流路切替弁12に代えて第1給水手段と第2給水手段の流路に各々開閉弁を設けて互いに独立制御可能な構成とするか、あるいは流路切替弁12に代えて両方の給水手段に同時に給水可能な開口部を有するロータリー弁を使用する。この形態では、給水源の給水能力を限度として第1給水運転モードでの瞬間供給量を増大できるため、溜水形成時間を短縮できるとともに、切替水位を封水水位以上に設定した場合は、破封時間が短くなり下水管汚臭の逆流も少なくなる。
【0098】
(第4実施例)
以下に図11、図12、図13を参照して本発明の第4実施例を具体的に説明する。本実施例の水洗便器は、ボウル水位測定手段で測定される水位測定値から溜水量を求めるための溜水量演算手段を有し、目標水位を形成後、排尿前後の溜水水位の変化量を測定し、使用者が前記ボウルに排泄した少なくとも尿量を算出するものである。
【0099】
図11は、第4実施例における水路系の構成を示す構成図を、図12は、第3実施例における溢流水位からポンプによる排出した排出水量〜センサー出力値差Cの関係を示すグラフを、図13は、第4実施例における尿量測定時の各構成部品の動作を示すタイミングチャートを示す。
【0100】
溜水量演算手段は、ゼット口連結路15aから分岐し、ボウル1内の水を吸引する吸引流路24と、吸引流路24の途中に開閉弁9fと正確な容量の水を吸引できる吸引ポンプ25を備えたボウル形状確認手段と、このボウル形状確認手段で得られた溜水水量とセンサー出力値差Cの関係と、排尿前後のボウル水位測定手段のセンサー出力値差Cから排尿量を算出する制御部に組み込まれた演算手段とからなる。
【0101】
水洗便器のボウル形状の個体間ばらつきや施工時の水洗便器の施工傾きによる溜水水位と溜水量との関係のばらつきを排除するため、本実施例では、次の手順でボウル1の水位と溜水量との関係を補正曲線として求めて記憶する。まず、水洗便器を施工後、全ての流路への給水と校正管6aを満水にするための給水を実施して流路配管内のエア抜きを行なう。次に、ボウル1内の水位が溢流水位となるまで給水し、全ての給水動作を一度停止させる。
【0102】
この段階では、校正管6aは満水の状態になっており、この水頭圧をセンサー8の出力値Aとして記録する。その後、開閉弁9aと開閉弁9bと開閉弁9fを開弁し、吸引ポンプ25を動作させてボウル1内の溜水を一定量排出する。排出が完了した時点でのセンサー出力値Bとセンサー出力値Aの出力値差Cを記録する。この一連動作を封水水位付近まで複数回繰り返し、開閉弁9aと開閉弁9bと開閉弁9fを閉弁する。
【0103】
このようにして記録された複数回のセンサー出力値差Cと、吸引ポンプ25の吸水量から推定される排出水量とから、図12に示すような排出水量とセンサー出力値差Cとの関係である補正曲線が求まる。この場合、溢流水位付近では、溜水の表面張力によりボウル1の溜水量がばらつくため、そこでのセンサー出力値差Cは測定しない。
【0104】
上記補正曲線を作成後、第1実施例又は、第2実施例と同じ給水シーケンスで便器洗浄が行なわれ、ボウル水位は測定を開始するときの水位である測定開始水位に設定される。次に、使用者が測定開始SWを押すと、センサーの出力を校正する測定準備工程が開始される。即ち、開閉弁9bと開閉弁9eが開弁し、給水タンク21内の洗浄水が校正管ユニット6へ導かれ、校正管6aを満水にする。この後、開閉弁9bと開閉弁9eが閉じられ、校正管水位のセンサー出力値A1が記録される。記録が完了すると、開閉弁9aと開閉弁9bが開弁し、排尿前のボウル水位のセンサー出力値B1と校正管水位のセンサー出力値A1との出力値差C1が記録され測定準備動作を終了する。
【0105】
測定準備動作終了後、センサー8による圧力測定が開始され、使用者はボウル1内に排尿を開始する。使用者が測定終了SWを押すとその時のセンサー出力値B2と校正管センサー出力値Aとの出力値差C2が記録される。その後、開閉弁9aと開閉弁9bが閉弁すると共に、記録されたC1値とC2値と、前述した補正曲線とにより、制御部にて演算した排尿量を表示し測定工程が完了する。なお、測定中は、開閉弁9aと開閉弁9bは開弁しており、常時センサー出力値差Cをサンプリングしており、尿流率(排尿速度)の測定も可能である。
【0106】
測定工程完了後、便器洗浄SWを押すと、第1実施例と同じ便器洗浄を行なった後、ボウル1の溜水水位は測定開始前の測定開始水位に設定される。なおこの場合、便器洗浄終了後所定時間内に、もう一度測定開始SWが押されると、その時のボウル1部の溜水水位を測定開始水位として確認後、前述した校正管6aでセンサー出力値を確認するセンサー校正動作は省かれて直ちに測定工程に移行される。
【0107】
またここでは被験者の一回の排尿量を測定するものとして、ボウル1部の測定開始水位は、通常の便器洗浄動作と同様な動作で設定するため、建築基準法令記載の使用待機時の封水深(封水下限からの距離)50mm以上の水位としている。本実施例の変形例として、全量測定SWを別途に設けてそのSWを押した場合は、一度便器洗浄を行なった後にボウルの溜水水位(目標水位)を封水水位から封水深20mm以下の範囲に再設定する測定範囲拡大モードを組み込むようにすると、被験者の1日の排尿量の全量測定も可能となる。
【0108】
尿量測定可能な最大尿量は、測定前のボウル1部の測定開始水位と溢流水位(約80mm)間のボウル容積により決まるが、測定開始水位として形成される水位がばらつくと測定可能な最大尿量も変化するため、製品仕様として採用できる最大測定可能尿量はばらつきを考慮した最小値とならざるを得ない。従って、ボウル1部の溜水水位を精度良く設定可能な本発明によれば、測定前のボウル1部の溜水水位ばらつきを小さくすることができるため、結果として測定可能尿量の大きい仕様を持つ尿量測定便器が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】第1及び第2実施例における水路系の構成を示す水路構成図である。
【図2】第1実施例における溜水形成工程の経過時間とボウルの溜水水位の関係を示す図である。
【図3】第1実施例における水路系各部の動作順序を示すフローチャートである。
【図4】第1実施例における水路系各部の動作タイミングと、各流路の瞬間流量とボウル水位変化を示すタイミングチャートである。
【図5】第2実施例における水路系各部の動作順序を示すフローチャートである。
【図6】第2実施例における水路系各部の動作タイミングと、各流路の瞬間流量とボウル水位の変化を示すタイミングチャートである。
【図7】第3実施例における水路系の構成を示す水路構成図である。
【図8】第3実施例における水路系各部の動作順序を示すフローチャートである。
【図9】第3実施例における水路系各部の動作タイミングと、各流路の瞬間流量とボウル水位の変化を示すタイミングチャートである。
【図10】第1〜第3実施例における目標水位変更ダイヤルの外観図である。
【図11】第4実施例における水路系の構成を示す水路構成図である。
【図12】第4実施例における排出水量〜センサー出力値差Cの関係を示すグラフである。
【図13】第4実施例における尿量測定時の構成部品の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0110】
1・・・・ボウル
2・・・・トラップ
3・・・・排水ソケット
4・・・・ボウル給水路
5・・・・ゼット給水路
6・・・・校正管ユニット
6a・・・校正管
7・・・・測定流路
8・・・・圧力センサー
9a・・・開閉弁
9b・・・開閉弁
9c・・・開閉弁
9d・・・開閉弁
9e・・・開閉弁
9f・・・開閉弁
9g・・・開閉弁
10・・・第2排水路
11・・・第1供給流路
12・・・流路切替弁
13・・・入水ポート
14a・・出水ポート
14b・・出水ポート
15・・・第2供給流路
15a・・ゼット口連結路
16・・・ゼット吐水口
17・・・吐水口
17a・・ボウル連結路
18a・・開閉弁
18b・・開閉弁
19・・・目標水位変更ダイヤル
20a・・定流量弁
21・・・給水タンク
22a・・水位センサー
22b・・水位センサー
23・・・オーバーフロー管
24・・・吸引流路
25・・・吸引ポンプ
26・・・固定オリフィス
27・・・リム吐水口
28・・・トラップ口
51・・・便器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の排泄物を受けるボウルと、前記ボウルと下水管とを連通し、この下水管を水封する溜水を便器内に形成するためのトラップと、前記ボウル内に水を供給する給水手段とを備え、前記給水手段により前記溜水の水位を溜水が前記下水管に溢れる水位である溢流水位以下の任意の目標水位に形成する溜水形成工程を有する水洗便器において、
前記給水手段は前記溜水のボウル水位を測定するボウル水位測定手段と、瞬間供給能力の異なる複数の給水運転モードとを有し、前記溜水形成工程における前記ボウルへの給水を、所定の切替水位までは前記複数の給水運転モードの中で瞬間供給能力が最も大きい第1給水運転モードで行ない、その後、前記ボウル水位測定手段の水位測定結果に基づいて、前記瞬間供給能力が前記第1給水運転モードより小さい第2給水運転モードで行なうことにより、前記目標水位に溜水水位を形成することを特徴とする水洗便器。
【請求項2】
前記切替水位が、便器の前記ボウルに開口されたトラップ口が完全に水没する最低水位である封水水位以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗便器。
【請求項3】
前記第1給水運転モードによる前記切替水位までの給水動作を、前記ボウル水位測定手段が所定の閉止水位を検知することによって停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の水洗便器。
【請求項4】
前記第1給水運転モードによる前記切替水位までの給水動作を、給水開始から所定の閉止時間が経過することによって停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の水洗便器。
【請求項5】
ボウル水位と溜水量との対応関係を求めた関係式を有し、前記第1給水運転モードによって形成された前記切替水位の水位と前記目標水位との水位差に相当する溜水量を前記関係式から求め、求められた前記溜水量を追加給水量として前記第2給水運転モードによって給水することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項6】
前記第2給水運転モードによる前記目標水位までの給水動作を、前記ボウル水位測定手段が目標水位近傍の水位に設定される所定の閉止水位を検知することによって停止させることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項7】
前記溜水形成工程における給水動作終了後、形成された水位と前記目標水位との水位差が所定の範囲を超える場合は、前記第2給水運転モードによる補水動作と溜水水位測定とを前記水位差が所定の範囲内になるまで繰り返し行なう補水工程を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項8】
前記給水手段は、前記第2給水運転モードの給水動作において経過時間と共に瞬間流量を小さくする瞬間流量変更手段を備えたこと特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項9】
前記給水手段は、前記第2給水運転モード給水時は、前記切替水位より下方に設けられた吐水口から前記ボウルに給水することを特徴とする1乃至8の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項10】
前記給水手段は、前記目標水位を変更可能な目標水位変更手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の水洗便器。
【請求項11】
前記ボウルの溜水水位から溜水量を求めるための溜水量演算手段を有し、前記目標水位を形成後、前記ボウル水位測定手段によって測定される排尿による溜水水位の変化より使用者が前記ボウルに排泄した少なくとも尿量を含む排尿情報を得ることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の水洗便器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−138432(P2007−138432A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330319(P2005−330319)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】