説明

水浄化システム及び水浄化方法

【課題】
逆浸透膜を用いた水浄化システムにおいて、被処理水中に含まれる有機物が膜表面に吸着・堆積することによるファウリング(目詰まり)が課題である。
【解決手段】
被処理水と半透膜を隔てて下流側にファウリング原因物質を含まない循環水を循環する閉鎖水路を持つことを特徴とする水浄化システムを提供する。ファウリングが起こりにくい正浸透膜を通して有機物を含む被処理水から水を循環水に回収したのちに、有機物濃度の低い循環水を逆浸透膜処理することにより、ファウリング原因物質が逆浸透膜に接触することを防止してファウリングを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,海水や排水などから浄化された水を得る浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として特開2010−149123号公報(特許文献1)がある。この公報には、「逆浸透膜装置を用いたろ過処理によって海水を淡水化する海水淡水化方法であって、有機性廃水を生物処理して得られる生物処理水を希釈水として、塩濃度が1.0〜8.0質量%である海水に混合する混合工程と、該混合工程により得られた混合水を前記逆浸透膜装置に供給してろ過処理する混合水処理工程とを実施して海水を淡水化することを特徴とする海水淡水化方法を提供する」手段が記載されている。
【0003】
この方法により、塩濃度が希釈され、従来の海水淡水化で必要となる逆浸透膜装置への加圧を低く抑え、省エネルギーで海水の淡水化を行うことができる。
【0004】
また、米国特許出願公開第2006/0144789号(特許文献2)には、正浸透(Forward Osmosis)膜を用いて、海水の塩濃度を希釈する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−149123号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0144789号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、生物処理水により海水を希釈し、希釈後の水を逆浸透膜処理することで淡水を得ることが記載されている。しかし、生物処理水には生物が分解しきれずに残った難分解性有機物が含まれており、難分解性有機物の一部は逆浸透膜表面に吸着や堆積してファウリング(目詰まり)を起こす。
【0007】
ファウリングが起きると同じ量の浄化された水を得るために運転圧力を増加する必要があり、運転のエネルギー消費を増加させる。さらにファウリングが進んだ場合は膜洗浄を行うためシステム稼働率低下を引き起こす。また、洗浄を繰り返すことで膜性能が劣化し、膜交換につながる。これらのことからファウリングは造水コスト(ランニングコスト)を増加させる課題となっている。
【0008】
特許文献2には、正浸透膜を通して海水や脱塩後の濃縮水の塩濃度を下水(WW:Waste Water)や海水で希釈する工程が記載されている。この方法では、正浸透膜を隔てることにより、下水に含まれるファウリング原因物質の逆浸透処理への流入を防ぐことが可能な一方で、海水中に含まれるファウリング原因物質については考慮がされていない。海水中には、プランクトンなどの微生物の代謝物や前処理工程で除去しきれない微生物などが含まれ、これらがファウリング原因となる課題がある。
【0009】
本発明では、ファウリング原因物質を逆浸透膜工程に持ち込みを抑えてファウリングを防止する水浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、被処理水と逆浸透膜の間に半透膜を隔てて閉鎖された水溶液の流路を持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,逆浸透膜に逆浸透膜のファウリング原因物質を多量に含む被処理水が直接触れることがないため、逆浸透膜のファウリングを防止して、造水コストを低下することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例にかかる水浄化システムの処理ブロック図である。
【図2】従来の海水淡水化システムの処理ブロック図である。
【図3】図1の閉鎖水路中の各位置での高浸透圧溶液の濃度変化を示す図である。
【図4】本発明の実施例2の水浄化システムの処理ブロック図である。
【図5】図4の閉鎖水路中の各位置での高浸透圧溶液の濃度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
本実施例の海水淡水化の処理フローを図1に、また、従来の海水淡水化の処理フローを図2に示す。図1と図2の違いは、前処理後の被処理水(海水)と逆浸透膜との間に正浸透処理が存在する場合と存在しない場合である。本実施例では海水淡水化を例として説明するが、逆浸透膜処理を含む水浄化システムであれば、下水や排水の再生処理、純水製造処理等、被処理水に限定を加えるものではない。
【0015】
図1は、本実施例にかかる水処理システムの概略図である。本実施例の水処理システムでは、ポンプ6と、正浸透膜モジュールと1、逆浸透膜モジュール3と、前処理装置5とを備えており、これらは水路により相互に接続されている。正浸透膜モジュール1は正浸透膜(半透膜)1aを有し、その片側に被処理水入口と出口を有して被処理水が流れており、反対側は循環水入口と出口とを有して循環水4が流れている。逆浸透膜モジュール3は、逆浸透膜(半透膜)3aを有し、その片側に循環水入口と出口とを有して循環水が流れており、反対側は浄化水出口を有して浄化水を取り出している。
【0016】
ポンプ6、逆浸透膜モジュール3、正浸透膜モジュール1は、導水路で結ばれている。ポンプ6は、正浸透膜モジュール1と通った循環水を加圧し、逆浸透膜モジュール3に送り込む。
【0017】
本実施例の水処理システムの動作を説明する。非処理水(例えば、海水)は前処理装置5にて処理され、正浸透膜モジュール1に送り込まれる。正浸透膜モジュール1内では、被処理水と循環水が正浸透膜1aを挟んで対向しているが、ここでは被処理水よりも循環水の方が溶質濃度が高くなっている。したがって、浸透圧により、被処理水内の水分子が、半透膜1aを透過して循環水側に移動する。溶質は正浸透膜1aを超えて移動しないので、被処理水は濃縮され、濃縮排水として排水される。
【0018】
正浸透膜モジュール1と通った循環水は、ポンプ6により加圧されて、逆浸透膜モジュール3に送り込まれる。
【0019】
逆浸透膜モジュール3内では、循環水と浄化水とが逆浸透膜3aを挟んで対向している。循環水は浄化水よりも圧力が高いので、循環水中の水分子は逆浸透膜3aを透過し、溶質濃度が極めて小さい浄化水となり、水処理システムから取り出される。逆浸透膜モジュール3中で水分子が浄化水に移動するが溶質は半透過膜3aを透過しないため、循環水は濃度が高くなり、正浸透膜モジュール1へ移動する。
【0020】
各構成での処理を詳述する。正浸透膜モジュール1では、正浸透処理を行う。ここで、正浸透処理とは、溶質を通さず溶媒である水分子のみを透過する半透膜1aを介して上流側(被処理水側)よりも下流側(循環水側)に溶質濃度の高い高浸透圧の循環水4を配置し、正浸透膜1aを通して点線矢印の方向に水分子が下流側の循環水4に回収される処理を指す。ここでは浸透圧差を利用して水分子の移動を行うために、理論的には動力が不要な処理である。実用的には、水分子の移動を効率よく行うため、上流側(被処理水側)に加圧することも有りうる。
【0021】
正浸透膜1aは酢酸セルロース、ポリアミドなどを主成分とするものが知られているが、材質に限定を加えるものではない。また、逆浸透膜として市販されている半透膜も正浸透処理に用いることが可能である。
【0022】
正浸透膜1aを介して海水の下流側に配置する循環水4には、ファウリング原因となりうる有機物を排除した水溶液を用いる。例えば、超純水で調製したイオン性物質の水溶液などがある。溶質はファウリング原因となる有機物は極めて低濃度に抑える。イオン性物質としては、スケール原因となる二価の正イオンなどよりも、1価のイオンを用いたほうが望ましいが、とくに限定するものではない。すなわち、循環水4は、有機物濃度が極めて低く、イオン濃度が高い溶液が望ましい。
【0023】
具体的には、有機物量がTOC換算で0.1mg/L以下であり、イオン性物質の濃度が正浸透膜上流側で海水の2〜4倍の電荷等量の溶液が望ましい。2倍以上でないと十分な浸透圧差がなく、4倍以下でないと逆浸透膜膜の負担が大きすぎる。食塩水の場合は6〜12%、他のイオン性物質を使う場合、1価のイオンの場合に正電荷(全体として中性なので負電荷も同数ある)が1〜2mol/Lの間となる。すなわち、n価のイオンが発生する場合は元のイオン性物質は1/n〜2/n mol/L溶解する。本実施例では、3.2%の塩濃度の海水に対して、十分な浸透圧差が得られる10%のNaCl水溶液を超純水で調製して循環水として用いた。
【0024】
高浸透圧溶液4は海水側は正浸透膜1aを隔てて、逆浸透膜側は逆浸透膜3aを隔てて、上流、下流と切り離された閉鎖水路2内に保持されている。有機物の阻止能の高い半透膜を用いることにより、循環水には有機物が外部から浸入することがない。逆浸透膜3aに接する循環水及び浄化水は、いずれも有機物濃度が低いため、ファウリングが発生しにくい。また、正浸透膜モジュール1の正浸透膜1aは、被処理水中には有機物が含まれているが、被処理水を強く加圧しているわけではないので、ファウリングは起こりにくい。また、ファウリングが発生したとしても、正浸透処理では濃度差によって浸透が起こるものであるので、運転圧力に及ぼす影響は少ない。
【0025】
逆浸透膜モジュール1では、逆浸透処理を行う。ここで、逆浸透処理とは、溶質を通さず溶媒である水分子のみを透過する逆浸透膜(半透膜)3aを介して上流側(循環水側)を下流側(浄化水側)よりも高い圧力にすることで、循環水は浄化水よりも高浸透圧にもかかわらず、循環水4内の水分子が逆浸透膜3aを通して点線矢印の方向に水分子が下流側の浄化水に回収される処理を指す。ここでは浸透圧差に逆らって水分子の移動を行うために、動力が必要となる。そのため、もし半透膜3aに目詰まりが発生した場合には、動力の損失が大きくなるが、本実施例では、半透膜3aは有機物濃度の低い循環水と浄化水との間にあるため、ファウリングが発生しにくくなっている。
【0026】
図2に示す従来の水処理システムでは、逆浸透膜3aが有機物を含む被処理水に触れ、かつ、ポンプにより加圧された水が当たる位置にあるため、逆浸透膜3aに被処理水中の有機物が付着してファウリングが発生し、運転中に動力が増加してしまう。
【0027】
本実施例の水処理システムにおいて、海水を砂ろ過、限外ろ過膜で処理して溶液中の夾雑物(不溶成分)を除去したところ、被処理水にはTOC(全有機炭素量)換算で10mg/Lの溶解有機物成分が存在した。被処理水を正浸透膜処理したところ、循環水4である10%のNaCl水溶液は5%まで希釈され、また、正浸透膜1a近傍の循環水を採取してTOCを測定したところ、0.1mg/L以下であった。
【0028】
5%のNaCl水溶液を逆浸透膜処理し、浄化水を得た。但し、逆浸透膜処理にかかるポンプ動力は図2に示す従来の動力が6MPaであるのに対して、8MPaにあげて透過水量を確保した。
【0029】
逆浸透膜3aのファウリングは抑制され、同一透過水量を得るための運転圧力の増加は二週間の間で見られなかった。一方、海水に直接触れる正浸透処理の半透膜表面は、加圧することがないのでファウリング物質が圧力によって押し付けられることがなく、ファウリングは生じにくい状態を保っていた。
【0030】
逆浸透膜処理により、逆浸透膜処理により循環水は濃縮され、再び10%の濃度となって、正浸透膜モジュール1側に返送される。高浸透圧溶液の各処理位置での濃度変化を図3に示す。ここで、横軸のA〜Dは図1中のA〜Dの位置を示す。
【実施例2】
【0031】
実施例1に加えて、さらに従来の海水淡水化に比べて省エネルギーや海水の取水量低減の効果も得られる方法として実施例2のシステムを図4に示す。実施例1との相違は、正浸透膜モジュールを複数備えている点である。
【0032】
図4においては、実施例1と同様に第一の被処理水である塩濃度3.2%の海水から第一の正浸透膜モジュール1を介して循環水4に水を回収して5%の濃度のNaCl溶液を得たのち、第二の被処理水である下水の生物処理水(塩濃度0.3%)から第二の正浸透膜モジュール8を介して5%の濃度のNaCl溶液側に水を回収して2%のNaCl溶液を得る。次に、2%のNaCl溶液をポンプ6で加圧し逆浸透膜モジュール3で処理して浄化水を得る。ここでは便宜上、閉鎖された水路内の水をどの状態でも循環水と呼ぶ。逆浸透膜処理を多段で行って浄化水の回収率を上げ、高浸透圧溶液の濃度を10%まで回復し、第一の正浸透膜モジュール1に返送する。このときの循環水の濃度の変化を図5に示す。
【0033】
海水に含まれる有機物量はTOC換算で10mg/L、生物処理水中に含まれる有機物量はTOC換算で4mg/Lだったが、循環水中のTOC量は0.1mg/L以下に保たれ、逆浸透膜のファウリングに対する効果は実施例1と同様に得られた。
【0034】
さらに、逆浸透膜の運転圧力は従来の図2の方法では6MPaであったところ、逆浸透膜近傍では高浸透圧溶液が2%まで希釈されたため、4MPaで十分な透過水量を得ることができた。これにより従来よりも省エネルギーの海水淡水化が可能となる効果が得られた。
【0035】
さらなる効果として、単位淡水量に対する海水取水量および濃縮海水排出量を低減することができ、環境に与える影響を低減する効果も得られた。
【0036】
本実施例においては、第二の被処理水を下水の生物処理水としたが、塩濃度が海水濃度以下であれば、河川水、井戸水、産業排水の一次処理水等を用いることが可能であり、とくに限定するものではないが、第二の処理水の塩濃度は十分な浸透圧差を得るために1%以下であることが望ましい。
【0037】
本実施例では、被処理水を2つとしたが、3つ以上の浸透圧の異なる被処理水を浸透圧が高い順に配置し、正浸透膜モジュールを介して水を回収するシステムも設計できる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・正浸透膜モジュール,1a・・・正浸透膜(半透膜),2・・・閉鎖水路,3・・・逆浸透膜モジュール,3a・・・逆浸透膜(半透膜),4・・・循環水,5・・・前処理装置,6・・・ポンプ,7・・・生物処理槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を処理して浄化水を得る水浄化システムにおいて、
被処理水を取り入れる正浸透膜装置と、
ポンプと、
浄化水を取り出す逆浸透膜装置と、
前記正浸透膜装置と、前記ポンプと、前記逆浸透膜装置と、をそれぞれ接続する導水路とを備え、
溶質を有する循環水が、前記ポンプ、前記逆浸透膜装置、前記正浸透膜装置の順で、循環する循環水路を形成し、
前記循環水路は、前記循環水の溶質について、閉鎖された水路であることを特徴とすることを特徴とする水浄化システム。
【請求項2】
前記逆浸透膜装置は、半透膜の片側に設けられ、前記循環水が出入りする循環水出入口と、前記半透膜の反対側に設けられ、浄化水を取り出す浄化水出口と、を有し、
前記正浸透膜装置は、半透膜の片側に設けられ、前記循環水が出入りする循環水出入口と、前記半透膜の反対側に設けられ、前記被処理水が出入りする被処理水出入口と、を有することを特徴とする請求項1に記載の水浄化システム。
【請求項3】
循環水中の濃度は、有機物量がTOC換算で0.1mg/L以下であり、前記逆浸透膜装置から前記正浸透膜装置へ移動するときのイオン濃度が、1価のイオンの場合には1〜2mol/L、n価のイオンの場合には1/n〜2/n mol/Lであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水浄化システム。
【請求項4】
循環水中の濃度は、有機物量がTOC換算で0.1mg/L以下であり、前記正浸透膜装置で処理を行う前の電荷等量が、前記被処理水の当該処理前の電荷等量の2〜4倍であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水浄化システム。
【請求項5】
被処理水のいずれか1つが海水であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水浄化システム。
【請求項6】
被処理水を処理して浄化水を得る水浄化方法において、
被処理水と循環水とを正浸透膜処理する工程と、
前記正浸透膜処理した循環水を、ポンプで加圧する工程と、
前記加圧した循環水を、逆浸透膜処理する工程と、
を含み、
前記循環水は、有機物量がTOC換算で0.1mg/L以下であり、イオン性物質の濃度が、1価のイオンの場合には1〜2mol/L、n価のイオンの場合には1/n〜2/n mol/Lであることを特徴とする水浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13838(P2013−13838A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146948(P2011−146948)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】