説明

水溶性セルロースエーテルの乾燥方法

【課題】乾燥機用の広い据え付け面積が必要なく、熱効率が良いためコストが安く、水溶性セルロースエーテルの水含有量を管理することができ品質低下を防止できる水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を提供する。
【解決手段】気流乾燥機により水分含量を35〜50質量%にした水溶性セルロースエーテルを溝型撹拌乾燥機の容器内に連続的に投入し、該容器内で大気圧以上の蒸気を流入して回転翼を105〜200℃に加熱しながら回転させて連続的に乾燥させる水溶性セルロースエーテルの乾燥方法であって、上記投入される水溶性セルロースエーテルが、5〜40℃である水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を提供する。水溶性セルロースエーテルは、好ましくは、メチルセルロースと、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、ヒドロキシエチルメチルセルロースとからなる一群から選ばれる少なくとも一種類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、食品用バインダー、崩壊剤、各種溶媒の増粘剤、建築材料用保水剤、押し出し成形製法におけるバインダー、懸濁安定剤などとして使用される水溶性セルロースエーテルを乾燥する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースを水溶性にするために、セルロースの水酸基をエーテル化したものとして水溶性セルロースエーテルがある。水溶性セルロースエーテルは、各種溶媒の増粘剤、セメント、漆喰等の建築材料用保水剤、さらにセラミックス、セメント系の押し出し成形製法におけるバインダーとしてなど多くの分野で大量に使用されている。
【0003】
水溶性セルロースエーテルは、一般にセルロースに苛性ソーダを吸着させてアルカリセルロースとし、アルキル化剤やヒドロキシル化剤を反応させ、洗浄、脱水、乾燥、粉砕工程を経て製品となる。
【0004】
乾燥工程では、一般に気流乾燥機、水蒸気加熱管付円筒回転乾燥機が使用されている(特許文献1〜3)。しかしながら、気流乾燥機は、熱効率が50〜60%と低いため乾燥コストが高くなる他、水溶性セルロースエーテルの水含有量の管理が難しかった。水蒸気加熱管付円筒回転乾燥機は、広い据え付け面積が必要であり、熱効率が悪く、機内に水溶性セルロースエーテルが付着して凝集熱変物の生成による異物が混入してしまう。さらに、発信器付温度計を装着できないので機内の処理品の温度を常時計測することができず、このため水溶性セルロースエーテルの水含有量の管理が不充分となり過乾燥による晶質低下を起こしたり、未乾燥品の排出等を起こしてしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−73501号公報
【特許文献2】特開平8−259601号公報
【特許文献3】特開2001−233961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の課題を解決するためなされたもので、乾燥機用の広い据え付け面積が必要なく、熱効率が良いためコストが安く、水溶性セルロースエーテルの水含有量を管理することができ、品質低下を防止できる水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、気流乾燥機により水分含量を35〜50質量%にした水溶性セルロースエーテルを溝型撹拌乾燥機の容器内に連続的に投入し、該容器内で大気圧以上の蒸気を流入して回転翼を105〜200℃に加熱しながら回転させて連続的に乾燥させることを特徴とする水溶性セルロースエーテルの乾燥方法であって、上記投入される水溶性セルロースエーテルが、5〜40℃である水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によリ水溶性セルロースエーテルを乾燥すると、乾燥機用の広い据え付け面積が必要なく、熱効率が良いためコストが安い。しかも水溶性セルロースエーテルの水含有量を管理することができ、凝集熱変物の生成による異物が混入してしまうことがなく、品質低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用する水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を実施するための溝型撹拌乾燥機を示す側面図である。
【図2】図1のA−A線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
本発明の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を実施するための溝型撹拌乾燥機としては、据え付け面積が少なく、熱効率が良く、熱風による熱伝達の必要がない乾燥機として、図1〜2に示す溝型撹拌乾燥機10が挙げられる。図1と図2は、溝型撹拌乾燥機10の側面図及び断面図を示す。
溝型撹拌乾燥機10は、容器15内で同転翼21〜24を加熱しながら回転させて撹拌する乾燥機であり、被乾燥品の体積充満率がほぼ100%であるために充分な滞留時間が得られ、機内の単位体積当たりの均質な撹拌状態が維持される。なお、体積充満率とは、乾燥機の有効容積に対する処理物の機内充填容積の比率である。
【0011】
図1と図2に示す溝型撹拌乾燥機10について、更に詳しく説明する。
上部カバー11及び下部ジャケット12から乾燥用の容器15が形成され、上部カバー11には原料供給口1、キャリアガス供給口2及びキャリアガス排気口3が設けられており、下部ジャケット12にはキャリアガス供給口4及び製品排出口5が設けられている。製品排出口5には発信器付き温度計20が固設されている。下部ジャケット12には外部ジャケット13が固設されて容器内温度調節用の熱媒体を流すための空間14を形成しており、外部ジャケット13には熱媒体供給口6及び熱媒体排出口7が設けられている。
【0012】
外部ジャケット13には2本の中空回転軸16〜17が貫通しており、その原料供給口1側には中空回転軸16〜17内に加熱用の蒸気を流すための蒸気供給口8が、製品排出口5側には蒸気排出口9が設けられている。また、中空回転軸16、17にはそれぞれ歯車18がはめられて互いに噛み合っており、中空回転軸16にはベルトを介してモータ25に接続され、モータ25が駆動すると中空回転軸16〜17は互いに逆向きに回転するようになっている。
【0013】
また、容器15内部では、中空回転軸16〜17にそれぞれ懊型の中空回転翼21〜24が固設され、中空回転軸16〜17の内部空問と中空回転翼21〜24の内部空間との間には蒸気が流通できるように管26〜27がそれぞれ貫設されている。
【0014】
図1の溝型撹拌乾燥機10を使用する場合を例として、本発明の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法を実施する。
まず、中空回転軸16〜17に加熱用の蒸気を送りながらモータ25を駆動して中空回転翼21〜24を回転させておく。すると、中空回転翼21〜24は、蒸気が中空回転軸16〜17から流入することにより加熱される。
この状態の容器15に、水含有量35〜90質量%の水溶性セルロースエーテルを原料供給口1から連続的に投入すると、水溶性セルロースエーテルは加熱された中空回転翼21〜24と接触を繰り返しながら、鎖線矢印のように欠損部28を通って移動し、連続的に乾燥されてゆく。乾燥処理後は、製品排出口5から連続的に排出される。加熱中に容器15内に発生した水蒸気は、キャリアガス供給口2、4から導入された僅かな量のキャリアガスにより容器15内の上部を流れてキャリアガス排気口3から連続的に排気される。また、乾燥品の水分管理は、乾燥機に滞留している処理物の製品排出口5付近の温度を制御することにより可能である。
【0015】
本発明によれば、容器15内で回転翼21〜24を100℃以上、好ましくは105〜200℃に加熱しながら回転させて連続的に乾燥品を得る。105℃未満では充分な乾燥を行うことが困難な場合があり、200℃を超えると水溶性セルロースエーテルが熱分解してしまう場合がある。
回転翼の加熱は、熱媒体を内包可能な回転翼内に大気圧以上の蒸気を流入して行うことが好ましい。
【0016】
投入する水溶性セルロースエーテルの水分含量は、35〜90質量%である。35質量%未満では乾燥機内で過乾燥になりやすく、乾燥品が焦げる場合があり、90質量%を超えると回転翼や乾燥機内面に水溶性セルロースエーテルが付着して過乾燥部分ができてしまう場合や乾燥に要する時間が増大して効率的な乾燥ができない場合がある。
【0017】
投入する水溶性セルロースエーテルの水分含量は、好ましくは35〜50質量%である。水分含量50質量%を超える水溶性セルロースエーテルをこのまま溝型撹拌乾燥機10に投入して乾燥処理を行うと、機内の部品や内壁に水溶性セルロースエーテルが付着してフィルムを形成し、伝熱性が低下すると共にフィルムが増大して乾燥処理を継続するのが困難になってしまう場合がある。このような場合には、水溶性セルロースエーテルを投入する前に、水分含量を35〜50質量%に調製しておくことが好ましい。
水分含量を35〜50質量%に調製する必要がある場合には、この調製を気流乾燥により行うと良い。かかる乾燥機の加熱は、熱媒体を内包可能な回転翼21〜24内に大気圧以上の蒸気を流入して行うと良い。
【0018】
本発明に用いる水溶性セルロースエーテルは、特に限定されないが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる一群から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0019】
乾燥機に投入する水溶性セルロースエーテルの温度を、好ましくは5〜40℃にすることによって、水溶性セルロースエーテルが低温域において溶解しやすいという性質を利用することができる。溶解に近い状態とした後に乾燥することで、乾燥後の粉砕において水溶性セルロースエーテルが流動性の良い粉体となるので好ましい。この温度が40℃より高いと、乾燥後に粉砕された水溶性セルロースエーテル粉は流動性が悪い嵩高いものになってしまう場合がある。また、この温度を5℃未満とすると、乾燥工程での昇温や乾燥に時間がかかり、効率的な乾燥が行われない場合がある。
【0020】
本発明に使用する溝型撹拌乾燥機10の容器15内の処理物の温度を制御することにより、水溶性セルロースエーテルの過乾燥による品質低下や、未乾燥品の排出を防止でき、気流乾燥機単独で最後まで乾燥したときに比べ、使用蒸気量を20〜50%低減できる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
メトキシル基の置換度1.45、ヒドロキシプロポキシル基のモル置度度0.185のヒドロキシプロピルメチルセルロースを洗浄して水分を遠心分離機で55質量%まで脱水した。なお、前記DS及びMSは、どちらも1グルコースユニット当たりに導入された置換基数を示すものである。
奈良機械製作所社製の溝型撹拌乾燥機であるパドルドライヤーNPD1.6W型(総伝熱面積2.7m)を使用し、中空回転軸16〜17に圧力3kg/cInの蒸気を流入して中空回転翼21〜24を133℃に加熱しながら、品温20℃のヒドロキシプロピルメチルセルロースの脱水品を48kg/hrで供給し、3時間運転した。
そして、溝型撹拌乾燥機内が安定した状態で、製品排出口でヒドロキシプロピルメチルセルロースの体積充満率及び水含有量を測定した。その結果、体積充満率が95%、水含有率が2質量%と良好であった。
これをホソカワミクロン社ビクトリーミルVP−1で粉砕したところ、粉砕品は流動性の良いものであった。
【0022】
比較例1
実施例1で使用したものと同じヒドロキシプロピルメチルセルロースを脱水後、気流乾燥機で水分を30質量%とし、実施例1と同じ装置を使用し、同様に蒸気を流入して気流乾燥品を1.5kg/hrで供給した。
乾燥品は綿状であり、これをホソカワミクロン社ビクトリーミルVP−1で粉砕したところ、粉砕品は綿状で極めて流動性が悪かった。
【0023】
実施例2
実施例1で使用したものと同じであって水分含量70質量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。実施例1と同じ装置を使用し、品温10℃のヒドロキシプロピルメチルセルロースの脱水品を48kg/hrで供給し、製品排出口5の温度が131±1℃になるように蒸気の圧力を調整して溝型撹拌乾燥機内が安定した状態で、製品排出口でヒドロキシプロピルメチルセルロース水含有量を測定した。その結果、水含有率は2±1質量%と良好であった。また、原料供給口付近の内壁面並びに乾燥機内にヒドロキシプロピルメチルセルロースの付着は観察されなかった。
【0024】
本願の原出願の特許請求の範囲には、以下が記載されていた。
[請求項1]水分含量が35〜90質量%の水溶性セルロースエーテルを溝型撹拌乾燥機の容器内に連続的に投入し、該容器内で回転翼を100℃以上に加熱しながら回転させて連続的に乾燥させることを特徴とする水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
[請求項2]上記投入される水溶性セルロースエーテルが、5〜40℃である請求項1に記載の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
[請求項3]上記水分含量が、35〜50質量%である請求項1又は請求項2に記載の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
[請求項4]上記回転翼の加熱が、熱媒体を内包可能な回転翼内に大気圧以上の蒸気を流入して行う請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
[請求項5]上記水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる一群から選ばれる少なくとも一種類である請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
【符号の説明】
【0025】
1 原料供給口
2 キャリアガス供給口
3 キャリアガス排気口
4 キャリアガス供給口
5 製品排出口
6 熱媒体供給口
7 熱媒体排出口
8 蒸気供給口
9 蒸気排出口
10 溝型撹拌乾燥機
11 上部カバー
12 下部ジャケット
13 外部ジャケット
14 空間
15 容器
16 中空回転軸
17 中空回転軸
18 歯車
20 発信器付き温度計
21 中空回転翼
22 中空回転翼
23 中空回転翼
24 中空回転翼
25 モータ
26 管
27 管
28 欠損部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流乾燥機により水分含量を35〜50質量%にした水溶性セルロースエーテルを溝型撹拌乾燥機の容器内に連続的に投入し、該容器内で大気圧以上の蒸気を流入して回転翼を105〜200℃に加熱しながら回転させて連続的に乾燥させることを特徴とする水溶性セルロースエーテルの乾燥方法であって、
上記投入される水溶性セルロースエーテルが、5〜40℃である水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。
【請求項2】
上記水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシエチルメチルセルロースからなる一群から選ばれる少なくとも一種類である請求項1に記載の水溶性セルロースエーテルの乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132920(P2010−132920A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30264(P2010−30264)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2004−50655(P2004−50655)の分割
【原出願日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】