説明

水溶性ビタミンB類配合総合輸液

【構成】 亜硫酸イオンを含まないアミノ酸輸液と糖輸液の2液からなり、そのいずれか一方に水溶性ビタミンB類が配合されてなる用時混合型の輸液であって、水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが酸性に調整され、混合時には中性になるよう構成されてなる総合輸液。
【効果】 上記の総合輸液は、従来、総合輸液中に配合できないとされていた水溶性ビタミンB類を、輸液中で長期間安定に保存することができる為、水溶性ビタミンB類を予め含有した総合輸液の実用化を可能にしたものであり、又、患者に投与する際、煩雑な操作が不要の為、微生物及び微粒子による汚染を起こさずに投与できるという利点も有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はアミノ酸、糖及び水溶性ビタミンB類を含有せしめた、長期間安定な総合輸液に関する。
【0002】
【従来の技術】経口的に栄養摂取が出来ない患者に対しては、アミノ酸、糖、電解質等の必要な栄養素をすべて静脈より補給する必要があり、この方法は完全静脈栄養法(TPN)と呼ばれている。TPNで用いられる総合輸液としては(1)糖、アミノ酸、脂肪及び電解質を配合した総合輸液(特開平1−186822、特表昭61−501558、欧州公開第399341号)、(2)アミノ酸と脂肪からなる注射用乳剤(特開昭61−74637)、(3)総合輸液の成分を2液に分け、一方の液にグルコースと電解質を、他方の液にアミノ酸をそれぞれ配合した総合輸液(特開昭57−52455、同61−103823)等が知られている。
【0003】TPNでは、通常、高濃度の糖を含む輸液を投与し、糖が解糖系においてエネルギーとして利用される際に補酵素として働くビタミンB1 が消費されるため、長期に渡ってTPNを行うと、患者はビタミンB1 が欠乏し、乳酸が生成し、甚だしきは重篤な乳酸アシドーシスによって呼吸困難などに陥ることがあり、TPNに際しては、水溶性ビタミンB類(とりわけビタミンB1 )の併用が不可欠であることが知られている。しかしながら、ビタミンB1 は、アミノ酸輸液等に安定化剤として配合されている亜硫酸イオンにより急速に分解されるため、水溶性ビタミンB類を予め含む総合輸液は実用化されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、アミノ酸、糖及び水溶性ビタミンB類を含み、安定で栄養効果に優れた総合輸液を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、総合輸液を亜硫酸イオンを全く含まないアミノ酸輸液と糖輸液の2液に分け、糖輸液に水溶性ビタミンB類を配合して酸性に調整し、アミノ酸輸液を中性付近に調整して、2液混合時に中性となるようにした場合には、水溶性ビタミンB類、アミノ酸輸液及び糖輸液が長期間安定であること、またアミノ酸輸液に水溶性ビタミンB類を配合して酸性に調整し、糖輸液を中性付近に調整して、2液混合時に中性となるようにした場合にもこれらを含む輸液は長期間安定であることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0006】すなわち、本発明は、亜硫酸イオンを含まないアミノ酸輸液と糖輸液の2液からなり、そのいずれか一方に水溶性ビタミンB類が配合されてなる用時混合型の輸液であって、水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが酸性に調整され、混合時には中性になるよう構成されてなる総合輸液である。
【0007】本発明において「中性」なる語は、人体に対し投与可能なpHであることを意味し、具体的にはpH約4〜8までの種々の液性を意味する。また「酸性」なる語は、水溶性ビタミンB類を含有する輸液中において、該ビタミンB類が安定に存在しうるpHであることを意味し、具体的にはpH約2〜4までの種々の液性を意味する。
【0008】本発明において、アミノ酸輸液としては、輸液の技術分野において使用されるアミノ酸輸液であれば、特に限定されず、具体的には、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−スレオニン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−アラニン、L−プロリン、L−セリン、グリシン、L−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−システイン、L−シスチン、L−オキシプロリン等を含む輸液があげられ、これらのアミノ酸は遊離のものであってもよく、種々の塩を形成しているものであってもよい。
【0009】これらアミノ酸の配合比率は特に限定されず、通常、この技術分野で既知の指標(■1944年ローズらが決定した必須アミノ酸必要量に基づくVuj−N処方のもの、■1957年FAOの特別委員会報告によるもの、■1965年FAO/WHOの共同委員会報告による人乳又は全卵アミノ酸組成に基づくもの、■血漿中アミノ酸組成のフィッシャー比等)に従って、種々の必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比率(所謂、E/N比)、或いは全アミノ酸に対する必須アミノ酸の比率(所謂、E/T比)を変化させ配合したもの、或いは分岐鎖アミノ酸を、必須アミノ酸または非必須アミノ酸に対する比率を考慮しつつ、適宜配合したものなどが用いられる。
【0010】かかるアミノ酸組成の具体例を、非限定的にあげるとすれば、例えば、術後患者用アミノ酸組成(特開昭55−33446、同55−36457)、必須アミノ酸を多く含むアミノ酸組成(特開昭56−8312)、分岐鎖アミノ酸を29〜33%含み、新生児期に必須であるL−システインの含量を増やしたアミノ酸組成(特公平1−19363)、L−チロシンとL−フェニルアラニンの重量比が1:12〜17でL−リジンの配合量を全アミノ酸の9.5重量%以上と多くした新生児や肝機能低下患者用アミノ酸組成(特公平3−28403)、筋タンパクの崩壊を抑制する為の分岐鎖アミノ酸のみの組成(特公平4−14646)等があげられる。
【0011】これらのアミノ酸は、上記各特許明細書に記載されている組成だけに限らず、これらに基づいて、アミノ酸の内の数種の組成を改変したもの(例えば、栄養学的に顕著な相違をもたらさない範囲で必須アミノ酸もしくは非必須アミノ酸を増減させたもの、或いは必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比を維持しつつ必須アミノ酸もしくは非必須アミノ酸を増減したもの)、組成パターンを維持しつつ濃度やアミノ酸全量に対する比率をかえたもの、更には栄養学的に等価と理解され得るアミノ酸を相互に置換したもの(例えば、含硫アミノ酸におけるシステイン、シスチン、メチオニン、芳香族アミノ酸におけるフェニルアラニンとチロシンなど)であっても本発明のアミノ酸輸液として好適に使用することが出来る。
【0012】とりわけ、特公平1−19363や同3−28403には栄養学的に優れたアミノ酸輸液組成が記載されており、これらの明細書中に具体的に記載されたアミノ酸組成やアミノ酸パターンを持つアミノ酸輸液、或いはその栄養学的に同等な範囲で改変されたアミノ酸輸液を好適に使用することが出来る。
【0013】アミノ酸輸液中のアミノ酸濃度は、特に限定されないが、投与時に、アミノ酸全体として、約2〜10重量%となるよう調整可能なものであるのが好ましい。
【0014】本発明において、もう一方の輸液である糖輸液に含有せしめる糖としては、生体内でカロリー源として、代謝・利用されるものであればよく、特に限定されないが、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖、キシリトール、ソルビトール、グリセロール等の糖アルコールがあげられ、とりわけ、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖が好ましい。これらの糖は単独もしくは適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】糖輸液中の糖濃度は目的、投与患者の年齢、栄養状態、疾患の種類等、種々の状態を勘案して決定すればよいが、約15〜60重量%程度であるのが好ましい。
【0016】本発明において、配合される水溶性ビタミンB類としては、ビタミンB1 (チアミン)、ビタミンB2 (リボフラビン)、ビタミンB6 群(ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン等)、ビタミンB12類(シアノコバラミン等)、ナイアシン(ニコチン酸、ニコチンアミド)、パントテン酸、ビオチン、コリン、ホラシン(葉酸等)等があげられるが、とりわけビタミンB1 が重要であり、必ず配合されなければならない。
【0017】本発明の総合輸液には、所望により、電解質をアミノ酸輸液及び糖輸液のいずれか一方又は両方に配合することができる。
【0018】本発明における電解質としては、生体に必須の電解質であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル、リン等があげられる。
【0019】本発明において、ナトリウムの供給源としては、例えば、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、有機酸のナトリウム塩、アミノ酸のナトリウム塩等、カリウムの供給源としては、水酸化カリウム、塩化カリウム、有機酸のカリウム塩、アミノ酸のカリウム塩等、マグネシウムの供給源としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、有機酸のマグネシウム塩、アミノ酸のマグネシウム塩等、カルシウムの供給源としては、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム等、クロルの供給源としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、アミノ酸の塩酸塩等、リンの供給源としてはリン酸等、リン及びナトリウム又はカリウムの供給源としては、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム等が使用できる。
【0020】なお、リンの供給源あるいはpH調整のためにリン酸を用いる場合、中性の輸液中ではリン酸カルシウムの結晶が析出することがあるため、電解質は酸性である水溶性ビタミンB類が配合されている輸液に全て加えるか、又は、リン酸イオン供給源とカルシウムイオン供給源を別々の輸液に加えることが好ましい。
【0021】これらの電解質は、生体内での必要量を考慮して、過剰とならないよう量を配合すればよく、例えば、総合輸液1リットル当たりナトリウムが約0〜100ミリEq、カリウムが約0〜100ミリEq、マグネシウムが約0〜40ミリEq、カルシウムが約0〜40ミリEq、クロルが約0〜300ミリEq、リンが約0〜1000mg程度配合されているのが適当である。
【0022】本発明においては、糖輸液を酸性に調整し、アミノ酸輸液を中性付近にすれば輸液を混合時中性とすることができ、またアミノ酸輸液を酸性に調整する際は、糖輸液により多くの電解質を加えて中性付近に調整することにより、輸液を混合時中性とすることができる。
【0023】このような輸液としては、例えば水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが2〜4であり、他方の輸液のpHが5〜8であって、混合時にはpHが4〜8である総合輸液、好ましくは水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが2.5〜4であり、他方の輸液のpHが6〜8であって、混合時にはpHが5〜7である総合輸液、更に好ましくは水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが3〜4であり、他方の輸液のpHが6〜7.5であって、混合時にはpHが5〜6である総合輸液があげられる。
【0024】電解質配合方法の好例としては、水溶性ビタミンB類が配合される輸液にリン酸イオン供給源を加え、他方の輸液にカルシウムイオン供給源を含む残りの電解質を加えるか、又は、水溶性ビタミンB類が配合される輸液にカルシウムイオン供給源を加え、他方の輸液にリン酸イオン供給源を含む残りの電解質を加える方法がある。
【0025】更に、水溶性ビタミンB類が配合される輸液としては、糖輸液が好ましく、糖輸液に水溶性ビタミンB類、及び、リン酸イオン供給源又はカルシウムイオン供給源を加えて酸性に調整し、アミノ酸輸液に残りの電解質を加えて中性付近に調整することがとりわけ好ましい。
【0026】なお、本発明では、酸性の輸液にビタミンB1 を配合し、他方の輸液にビタミンB1 以外の水溶性ビタミンB類を配合することも可能であり、又、要すれば、水溶性ビタミンB類以外のビタミン類及び微量元素を一方或いは両方の輸液に適宜配合することができる。
【0027】pH調製に際しては、輸液のpH調製に常用される種々の有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を適宜使用することが出来る。
【0028】本発明の総合輸液は、所望により、脂肪をアミノ酸輸液及び糖輸液のいずれか一方又は両方に配合することができる。
【0029】本発明における脂肪としては、例えば綿実油、ゴマ油、落花生油、オリーブ油、紅花油、大豆油等の精製植物油、魚油、或いは中鎖脂肪酸トリグリセリド(パナセート/日本油脂製)等、通常脂肪乳剤に使用される脂肪であれば、好適に使用することができ、又これらの脂肪は、単独もしくは適宜組み合わせて使用することができる。
【0030】脂肪輸液中には、脂肪を微粒子とし、安定化するため、乳化剤や乳化補助剤等の添加物を、適当量配合することもできる。乳化剤としては、例えば卵黄リン脂質や大豆リン脂質等があげられ、乳化補助剤としては、高級乃至中級脂肪酸、塩基性アミノ酸などがあげられる。これらの乳化剤、乳化補助剤は、単独もしくは適宜組み合わせて配合することが出来る。
【0031】本発明において、アミノ酸輸液ならびに糖輸液を、用時混合せしめ得るようにするには、容器の材質、形状を問わず、患者に投与する際、微生物及び微粒子汚染をおこさず、煩雑な操作なしに2液を1液となしうる構造の容器を用いればよい。
【0032】このような容器の例としては、例えばアミノ酸輸液と糖輸液が、連結された別々の容器に充填され、かつ両輸液は該容器の連結部に設けられた旋回容易なコック、押圧により破断容易な隔壁、さらには押圧もしくは屈曲により切断容易なピン等、外力を加えることにより容易に破壊される分離手段により隔てられている構造のものがあげられる。
【0033】本発明の輸液を充填する容器としては、ガラス、軟質プラスチック、硬質プラスチック等の素材で、バッグ、ボトル等の形状に成形せしめたものであれば特に限定されないが、とりわけ軟質プラスチックバッグ、硬質プラスチックボトル等の形状のものが好適である。
【0034】軟質プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリオレフィン、ポリスチレンの如きビニルポリマー;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルアセトアセタール、アクリル酸、アクリル酸エチル、メタクリル酸、無水マレイン酸の如きビニルモノマーとエチレンとの共重合体;ポリカーボネート;ポリエステル;ナイロン;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;フッ化エチレン−塩化ビニリデン共重合体;塩化ビニリデン被覆ナイロン等からなるフィルムがあげられる。或いは、これらフィルムとポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとの共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリビニルアルコールの如きビニルポリマー;アルミニウムの如き金属箔;ナイロン;セロハン等を、適宜、二層ないし多層に積層した複合フィルム等があげられる。
【0035】これらのうち、ポリエチレンとポリプロピレンとの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、架橋エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン/ポリビニルアルコール/ポリエチレン、ナイロン/ポリビニルアルコール/ポリエチレン、塩化ビニリデンコートナイロン/ポリエチレン等からなるフィルムを好適に使用することができる。
【0036】又、硬質プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ四フッ化エチレン、ポリカーボネート、アセチルセルロース、FRペット等があげられる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が好ましい。
【0037】本発明の好ましい一例を示せば、例えば、2室が連結され且つ分離手段で隔離された空気透過性の軟質プラスチックバッグにおいて、アミノ酸輸液を一方の室に、糖輸液を他方の室に充填し、これを更に気密性容器中に封入せしめた構造のものがあげられる。
【0038】このような空気透過性容器としては、上記の軟質プラスチックのうち、空気透過度が20℃、65%RHで、50〜1000ml(STP)/m2・24h である高分子フィルムで構成されたものが好適に使用でき、又、気密性容器としては、例えば気密性を酸素透過度で表した場合、20℃、60%RHで、5ml(STP)/m2・24h 以下、好ましくは1ml(STP)/m2・24h 以下であるような高分子フィルムで構成されたものであれば好適に使用できる。
【0039】本発明においては、この二重包装形態の気密性容器と輸液を充填したバッグの間を窒素ガスで置換し、脱酸素剤を配合することもでき、この場合には、より保存安定性を向上させることができるので、好都合である。
【0040】脱酸素剤としては、例えば、■炭化鉄、鉄カルボニル化合物、酸化鉄、鉄粉、水酸化鉄又はケイ素鉄をハロゲン化金属で被覆したもの、■水酸化アルカリ土類金属もしくは炭酸アルカリ土類金属、活性炭と水、結晶水を有する化合物、アルカリ性物質又はアルコール類化合物と亜二チオン酸塩との混合物、■第一鉄化合物、遷移金属の塩類、アルミニウムの塩類、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含むアルカリ化合物、窒素を含むアルカリ化合物又はアンモニウム塩と亜硫酸アルカリ土類金属との混合物、■鉄もしくは亜鉛と硫酸ナトリウム・1水和物との混合物又は該混合物とハロゲン化金属との混合物、■鉄、銅、スズ、亜鉛又はニッケル;硫酸ナトリウム・7水和物又は10水和物;及びハロゲン化金属の混合物、■周期律表第4周期の遷移金属;スズもしくはアンチモン;及び水との混合物又は該混合物とハロゲン化金属との混合物、■アルカリ金属もしくはアンモニウムの亜硫酸塩、亜硫酸水素塩又はピロ亜硫酸塩;遷移金属の塩類又はアルミニウムの塩類;及び水との混合物などを用いることができる。また、市販のものを好適に使用することができ、かかる市販の脱酸素剤としては、例えば、エージレス(三菱瓦斯化学製)、モデュラン(日本化薬製)等があげられる。
【0041】なお、上記の脱酸素剤は、粉末状のものであれば、適当な通気性の小袋にいれて用いるのが好ましく、錠剤化されているものであれば、包装せずにそのまま用いてもよい。
【0042】本発明の総合輸液は、通常のアミノ酸輸液及び糖輸液製造法で得られた輸液を、上記に示す容器に封入することにより製造することができるが、かかる製造例の一例をあげるならば、アミノ酸及び糖を、それぞれ、所望の配合量となるよう注射用蒸留水に溶解又は加温溶解し、得られたアミノ酸輸液又は糖輸液の一方に水溶性ビタミンB類を加え、電解質等をアミノ酸輸液又は糖輸液の一方又は両方に加え、所望の有機酸、無機酸、有機塩基又は無機塩基等でそれぞれpHを調整する。次いで、得られたアミノ酸輸液及び糖輸液をそれぞれミリポアフィルターを用いてろ過し、2液を1液となしうる構造の容器の別々の室に分注し、輸液及び空間部を窒素置換した後、密封し、窒素気流中で加熱滅菌を行う。滅菌後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム内に密封することにより、本発明の総合輸液を得る。
【0043】以下、本発明を実験例及び実施例により、更に詳細に説明する。
【0044】
【作用】
実験例1(実験方法)
(1)表1記載のアミノ酸輸液(300ml)に、ビタミンB1 (1.5mg)を溶解し、ビタミンB1 配合アミノ酸輸液A〜Dを調製した。調製に際して、輸液C及びDには亜硫酸ナトリウム(150mg)を加え、輸液A及びCはpH3に、輸液B及びDはpH4に塩酸を用いて調整し、メンブラン・フィルター(孔径:0.22μm)でろ過を行った。
【0045】
【表1】


【0046】(2)上記で得られた輸液A〜Dを、高密度ポリエチレン製バッグに25mlずつ充填し、105℃で10分間高圧蒸気滅菌を行った。
【0047】(3)上記で得られた各輸液中のビタミンB1 の含有量を高速液体クロマトグラフィーにより定量し、未滅菌の輸液と比較し、残存率を求めた。
【0048】(結果)結果を表2に示す。
【0049】
【表2】


【0050】上記表2に示す通り、亜硫酸ナトリウムを含有するアミノ酸輸液C及びDは、加熱滅菌によりビタミンB1 の含有量は減少し、とりわけpH4の輸液Dでは、滅菌後のビタミンB1 含有量は検出限界以下となるまで減少した。それに対し、本願発明の亜硫酸ナトリウムを含まないアミノ酸輸液A及びBでは滅菌後もビタミンB1 の含有量にほとんど変化がなかった。
【0051】実験例2(実験方法)
(1)下記表3記載の処方成分を注射用蒸留水に溶解(又は加温溶解)し、輸液Eはコハク酸を、輸液F〜Hは塩酸を用いてpH3に調整し、メンブラン・フィルター(孔径:0.22μm)でろ過することにより輸液E〜Hを得た。
【0052】
【表3】


【0053】(2)上記で得られた輸液E〜Hを、高密度ポリエチレン製バッグに25mlずつ充填し、輸液及び空間部を窒素置換した後、密封し、105℃で10分間高圧蒸気滅菌を行った。
【0054】(3)ガスバリアー製のフィルム内に上記で得られた各バッグ、脱酸素剤を入れ、窒素置換後、密封した。
【0055】(4)50℃、75%RHで40日間保存した後、輸液中のビタミンB1 の含有量を高速液体クロマトグラフィーにより定量し、冷所保存品と比較し、残存率を求めた。また、透過率測定(波長:400nm)及び外観観察により安定性を調べた。
【0056】(結果)結果を表4に示す。
【0057】
【表4】


【0058】上記表4に示す通り、亜硫酸イオンを含まない輸液E〜Hは、長期間(50℃/75%RH/40日間)保存した後も高濃度でビタミンB1 を含有しており、又品質も良好であることがわかる。
【0059】実験例3(実験方法)
(1)ブドウ糖(120g)に、ビタミンB1 (5mg)、リン酸(395mg)及び注射用蒸留水適量を加え全量を700mlとし、塩酸でpHを2.5、3.0、3.5又は4.0に調整し、糖輸液X1〜X4を得た。
【0060】(2)表1記載の処方成分のアミノ酸輸液(300ml)に、L−乳酸ナトリウム(3.362g)、グルコン酸カルシウム(1.906g)、塩化ナトリウム(1.169g)、酢酸カリウム(1.168g)、水酸化カリウム(0.459g)、塩化マグネシウム(1.017g)、塩化カリウム(0.746g)及び硫酸亜鉛(5.8mg)を順次溶解し、塩酸でpHを6.0、6.5、7.0又は7.5に調整し、アミノ酸輸液Y1〜Y4を得た。
【0061】(3)上記で得られた糖輸液X1〜X4(700ml)とアミノ酸輸液Y1〜Y4(300ml)を混合し、pHを測定した。
【0062】(結果)結果を表5に示す。
【0063】
【表5】


【0064】上記表5に示す通り、pH2.5〜4.0のビタミンB1 含有糖輸液と、pH6.0〜7.5の電解質含有アミノ酸輸液を混合した場合、総合輸液のpHは5.6〜6.7となり、体内に投与するのに適当なpHであることがわかる。
【0065】
【実施例】
実施例1(1)L−システインを除く表6記載の成分aを注射用蒸留水800mlに加熱溶解し、冷却後、L−システインを溶解し、コハク酸でpHを7とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を1000mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0066】(2)塩酸チアミンを除く表6記載の成分bを注射用蒸留水800mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、コハク酸でpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を1000mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注して密封した。
【0067】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(105℃/10分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0068】
【表6】


【0069】実施例2(1)L−システイン及び塩酸チアミンを除く表7記載の成分aを、注射用蒸留水400mlに加熱溶解し、冷却後、L−システイン及び塩酸チアミンを溶解し、リンゴ酸でpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0070】(2)表7記載の成分bを注射用蒸留水400mlに加温溶解し、冷後、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンでpHを6.0とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注して密封した。
【0071】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(100℃/15分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0072】
【表7】


【0073】実施例3(1)L−システインを除く表8記載の成分aを、注射用蒸留水400mlに加熱溶解し、冷却後、L−システインを溶解し、リンゴ酸でpHを7とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0074】(2)塩酸チアミンを除く表8記載の成分bを注射用蒸留水400mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンでpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注し、密封した。
【0075】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(100℃/15分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0076】
【表8】


【0077】実施例4(1)表9記載の成分aから大豆油、卵黄レシチン、オレイン酸及びリジンを除いたものを、注射用蒸留水200mlに加熱溶解し、さらに注射用蒸留水を加えて全量を250mlとした後、ミリポアフィルターでろ過してアミノ酸輸液を得た。
【0078】(2)上記で除いた表9記載の成分を注射用蒸留水200mlに加え、ホモミキサーにて分散させた後、さらに注射用蒸留水を加え全量を250mlとして得られた粗乳化液を、高圧乳化機にて乳化し(60℃、500〜600kg/m3 、10回サイクル)、ミリポアフィルターでろ過して脂肪乳剤を得た。
【0079】(3)(1)で得られたアミノ酸輸液に、(2)で得られた脂肪乳剤を加え、リンゴ酸でpHを8とし、輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0080】(4)塩酸チアミンを除く表9記載の成分bを注射用蒸留水400mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、リンゴ酸でpHを4とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注し、密封した。
【0081】(5)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(100℃/15分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0082】
【表9】


【0083】実施例5(1)L−システインを除く表10記載の成分aを、注射用蒸留水400mlに加熱溶解し、冷却後、L−システインを溶解し、リンゴ酸でpHを7とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0084】(2)塩酸チアミンを除く表10記載の成分bを注射用蒸留水400mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、リンゴ酸でpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注し、密封した。
【0085】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(100℃/15分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0086】
【表10】


【0087】実施例6(1)表11記載の成分aを、注射用蒸留水400mlに加熱溶解し、冷却後、コハク酸でpHを7とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0088】(2)塩酸チアミンを除く表11記載の成分bを注射用蒸留水400mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、コハク酸でpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を500mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注し、密封した。
【0089】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(105℃/10分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0090】
【表11】


【0091】実施例7(1)L−システインを除く表12記載の成分aを、注射用蒸留水800mlに加熱溶解し、冷却後、L−システインを溶解し、コハク酸でpHを7とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を1000mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して輸液用軟質プラスチック(架橋EVA)製バッグの第一室に分注し、密封した。
【0092】(2)塩酸チアミンを除く表12記載の成分bを注射用蒸留水800mlに加温溶解し、冷後、塩酸チアミンを溶解し、コハク酸でpHを3.5とし、さらに注射用蒸留水を加えて全量を1000mlとした後、ミリポアフィルターでろ過して、前述のaを充填したバッグの第二室に分注して密封した。
【0093】(3)得られた輸液入バッグを、加熱滅菌(105℃/10分間)した後、脱酸素剤と共に酸素バリアー製のフィルム(ポリビニルアルコール系樹脂)中に密封し、本発明の総合輸液を得た。
【0094】
【表12】


【0095】
【発明の効果】本発明の総合輸液は、従来、総合輸液中に配合できないとされていた水溶性ビタミンB類を、輸液中で長期間安定に保存することができるため、水溶性ビタミンB類を予め含有した総合輸液の実用化を可能にしたものである。このため、本発明の総合輸液は、従来の水溶性ビタミンB類を併用投与する際の煩雑な操作が不要になり、微生物及び微粒子による汚染を起こさずに投与できるという利点を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 亜硫酸イオンを含まないアミノ酸輸液と糖輸液の2液からなり、そのいずれか一方に水溶性ビタミンB類が配合されてなる用時混合型の輸液であって、水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが酸性に調整され、混合時には中性になるよう構成されてなる総合輸液。
【請求項2】 水溶性ビタミンB類が配合される輸液のpHが2〜4であり、他方の輸液のpHが5〜8である請求項1記載の総合輸液。
【請求項3】 水溶性ビタミンB類が配合される輸液が糖輸液である請求項1又は2記載の総合輸液。
【請求項4】 アミノ酸輸液又は糖輸液のいずれか一方又は両方に、更に電解質が配合されてなる請求項1、2又は3記載の総合輸液。
【請求項5】 リン酸イオン供給源とカルシウムイオン供給源がアミノ酸輸液と糖輸液に別々に配合されてなる請求項1、2又は3記載の総合輸液。
【請求項6】 水溶性ビタミンB類がビタミンB1 である請求項1、2、3、4又は5記載の総合輸液。