説明

水溶性抗菌剤組成物

【課題】優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を備えた、幅広い用途に使用可能な抗菌組成物を提供する
【解決手段】(1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を含有する酸性の水溶性抗菌剤組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性抗菌剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、食品、化粧品、医薬品などの製品工程では、微生物の混入による品質の劣化を防ぐ目的で、殺菌剤が使用されている。例えば、食品等の殺菌剤としては食品等の添加物としてその使用が許可されているものしか使用できない。しかしながら、これらの殺菌剤は一般に効力が低いため、食品、化粧品、医薬品の製造工程用の殺菌剤としては効力が不十分である。
【0003】
このため、施設環境、包装・容器・設備、空間環境及び作業者の殺菌としては、アルコール、次亜塩素酸ナトリウム、ヨードホール、四級アンモニウム塩、アルキルジアミノエチルグリシル塩酸塩、クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩等が用いられる。これらの殺菌剤は比較的安全であるとされているが、実用上では安全性の確保、排水低負荷、環境汚染の排除に配慮する必要がある。また、食品の洗浄目的には、次亜塩素酸ナトリウムが使用されるが、これは有機物が存在すると速やかに効果を消失するという問題点を有する。
【0004】
安全面において改良が加えられた抗菌剤としては、脂肪酸モノグリセリドを有効成分としたものが知られており、食品の日持向上剤や食品製造環境の抗菌剤として使用されている。特に、炭素数が8〜12の脂肪酸モノグリセリドは、食品分野で日持ち向上剤として幅広く使用されている(例えば、特許文献1〜3)。しかしながら、脂肪酸モノグリセリドはエステル結合の構造を有するため、微生物に対する十分な抗菌性を有していない。
【0005】
また、グリセリンとアルキル基を、微生物分解を受け難い結合とすることによって抗菌活性を高める取り組みがなされている。例えば、アルキルチオ−1,2−プロパンジオール、アルキルアミノ−1、2−プロパンジオール、1,2−アルカンジオール等のジオール化合物を含む多価アルコール系抗菌物質が報告されている(特許文献4)。しかしながら、これらのジオール化合物は総じてグラム陰性細菌に対しては抗菌活性が低いとの課題を有している。
【0006】
さらに、これらの多価アルコール系抗菌物質は、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸四ナトリウム塩、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、グルコン酸、クエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、等を挙げることができる。好ましくは、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸等のキレート剤を併用することで抗菌作用が相乗的に高まり、且つ抗菌スペクトルも広がるため、グラム陰性菌に対しても抗菌効果を発揮することが報告されている。しかしながら、単にキレート剤を添加しても、多価アルコール系の抗菌剤の殺菌活性は食品、化粧品、医薬品の製造工程に使用するには不十分である。
【0007】
この多価アルコール系抗菌物質とキレート剤を併用した場合の抗菌効果は、浸透圧を高めることによって飛躍的に向上することが知られている(特許文献5)。しかしながら、浸透圧を高めるためには塩化ナトリウムや糖等を多量に添加する必要があり、用途によっては実用上の課題が多い。
【0008】
このような現在の技術水準を背景として、安全性に優れ、幅広い微生物に対して効果的であり、さらに実用性の高い抗菌剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−207179号公報
【特許文献2】特開平4−21608号公報
【特許文献3】特開平3−67573号公報
【特許文献4】特開平7−126243号公報
【特許文献5】特開2009−161518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような状況の下、本発明の解決しようとする課題は、優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を備えた、幅広い用途に使用可能な抗菌組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、酸性下に(1)多価アルコール系抗菌物質と、(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種(以下、「キレート剤等」ということがある)とを併用することによって、グラム陰性細菌等の種々の微生物に対して高い抗菌活性を示すことを見出した。さらに、本発明者は、幅広い用途に使用可能な弱酸性下であっても、多価アルコール系抗菌物質とキレート剤等を併用することによって、グラム陰性細菌等の種々の微生物に対して高い抗菌活性を示すことを見出した。
【0012】
本発明者は、前記特許文献5の出願時にも、高浸透圧を付与する溶質、多価アルコール系抗菌物質を含む抗菌剤にクエン酸、梅酢等を加えることを種々検討していた。しかしながら、特許文献5の実施例に記載のように、何れの場合も、中性(pH7)に設定していたために、酸性下に多価アルコール系抗菌物質とキレート剤等とを併用することによって、高浸透圧を付与する溶質を使用しなくても、抗菌作用が著しく向上することは見出していなかった。本発明において、本発明者は、酸性下に多価アルコール系抗菌物質とキレート剤等とを併用することによって、高浸透圧を付与する溶質を使用しなくても、グラム陰性細菌等の種々の細菌に対して高い抗菌活性が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成したものであり、以下の態様の水溶性抗菌剤組成物及び抗菌方法を提供する。
【0013】
項1. (1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を含有する酸性の水溶性抗菌剤組成物。
項2. さらにpH調整剤を含む項1に記載の水溶性抗菌剤組成物。
項3. 水溶性抗菌剤組成物が水溶液である、項1又は2に記載の水溶性抗菌剤組成物。
項4. 水溶性抗菌剤組成物が水に溶解すると酸性を示す固体である、項1又は2に記載の水溶性抗菌剤組成物。
項5. 多価アルコール系抗菌物質が、グリセリンモノアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキレングリコール、3−チオアルキル−1,2−プロパンジオール及び3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオールからなる群から選ばれる少なくとも一種である、項1〜4のいずれかに記載の水溶性抗菌剤組成物。
項6. 酸性下に、(1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を作用させることを特徴とする殺菌方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水溶性抗菌剤組成物は、安全性に優れ、広範な微生物に対して抗菌活性を有するため、食品、化粧品及び医薬品の製造工程の殺菌剤、設備環境や施設環境の殺菌に有効である。また、本発明の水溶性抗菌剤組成物は、弱酸性でも使用でき、さらに、高浸透圧を付与する化合物等を添加する必要が無いため、広範な用途、種々の態様に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の水溶性抗菌剤組成物及び抗菌方法について詳述する。
【0016】
1.水溶性抗菌剤組成物
本発明の水溶性抗菌剤組成物は、(1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を含有し、酸性であることを特徴とする。なお、本発明の水溶性抗菌剤組成物が酸性であるとは、水溶性抗菌剤組成物が液体である場合には、該液体のpHが7未満であることを示し、水溶性抗菌剤組成物が固体である場合には、該固体を水に溶解させて得られる液体のpHが7未満であることを示す。
【0017】
多価アルコール系抗菌物質
本発明の水溶性抗菌剤組成物に使用し得る多価アルコール系抗菌物質としては、例えば、グリセリンモノアルキルエーテル(モノアルキル基の炭素数6〜16、好ましくは6〜14)、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキレングリコール、3−チオアルキル−1,2−プロパンジオール又は3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオール等を挙げることができる。これらの多価アルコール系抗菌物質は、1種単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0018】
本発明の水溶性抗菌剤組成物を食品用等に使用する場合、これらの中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルカンジグリコール、3−チオアルキル−1,2−プロパンジオール、3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオール等が好ましい。
【0019】
モノアルキル基の炭素数が6〜16であるグリセリンモノアルキルエーテルとしては、例えば、グリセリンモノヘキシルエーテル、グリセリンモノオクチルエーテル、グリセリンモノデシルエーテル、グリセリンモノドデシルエーテル、グリセリンモノテトラデシルエーテル等が挙げられる。
【0020】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノカプリリン、モノカプリン、モノラウリン等のグリセリンと炭素数6〜16の脂肪酸とのエステルを挙げることができ、好ましくは、モノカプリン等を挙げることができる。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、テトラグリセリンモノカプリレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート等のグリセリンと炭素数6〜16の脂肪酸とのエステルが挙げられる。
【0022】
蔗糖脂肪酸エステルとしては、例えば、蔗糖モノカプリレート、蔗糖モノラウレート等の蔗糖と炭素数6〜16の脂肪酸とのエステルが挙げられる。
【0023】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0024】
アルキレングリコールとしては、例えば、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール等アルキレン部分が炭素数6〜16のアルキレンであるアルキレングリコールを挙げることができ、好ましくは、デカメチレングリコール等を挙げることができる。
【0025】
オクタメチレングリコールとしては、1,2−オクタンジオール、1,3−オクタンジオール等を挙げることができ、好ましくは、1,2−オクタンジオール等を挙げることができる。
【0026】
デカメチレングリコールとしては、1,2−デカンジオール、1,3−デカンジオール、等を挙げることができ、好ましくは、1,2−デカンジオール等を挙げることができる。
【0027】
ドデカメチレングリコールとしては、1,2−ドデカンジオール、1,3−ドデカンジオール、等を挙げることができ、好ましくは、1,2−ドデカンジオール等を挙げることができる。
【0028】
3−チオアルキル−1,2−プロパンジオールとしては、例えば、チオグリセリンモノオクチルエーテル、チオグリセリンモノデシルエーテル、チオグリセリンモノドデシルエーテル、チオグリセリンモノヘプチルエーテル等のチオアルキル部分が炭素数4〜12のチオアルキルである3−チオアルキル−1,2−プロパンジオールを挙げることができ、好ましくは、チオグリセリンモノヘプチルエーテルを挙げることができる。
【0029】
3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオールとしては、例えば、3−アミノドデシル−1,2−プロパンジオール、3−アミノデシル−1,2−プロパンジオール、3−アミノテトラデシル−1,2−プロパンジオール等のアミノアルキル部分が炭素数6〜16のアミノアルキルである3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオールが挙げられる。
【0030】
多価アルコール系抗菌物質の中でも、特にモノカプリン、モノラウリン、1,2−デカンジオール等の食品添加物や化粧品原料として認可されているものが好ましい。
【0031】
キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩
本発明においては、(1)前記多価アルコール系抗菌物質と、(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種とを併用する。
【0032】
本発明の水溶性抗菌剤組成物に使用し得るキレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸及びグリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、並びにこれらの塩類等のアミノポリカルボン酸系キレート剤;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸、イミノジメルホスホン酸及びアルキルジホスホン酸、並びにこれらの塩類等のホスホン酸系キレート剤;オルトリン酸、ピロリン酸、トリリン酸及びポリリン酸等のリン系キレート剤;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、イタコン酸、アコニット酸、ピルビン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、フタル酸、トリメリット酸及び没食子酸、並びにこれらの塩類等のカルボン酸系キレート剤;リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、乳酸、アスコルビン酸、並びにこれらの塩類のヒドロキシカルボン酸系キレート剤;ジグリコール酸等のエーテルポリカルボン酸系キレート剤等が挙げられる。キレート剤としては、これらの酸の塩も使用できる。キレート剤として使用できるこれらの酸の塩としては、上記酸のナトリウム塩、カリウム塩挙げられる。
【0033】
また、1価のカルボン酸及びその塩としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ソルビン酸等、及びこれらの塩が挙げられる。1価のカルボン酸の塩としては、これらのカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩挙げられる。
【0034】
安全性の面から、特に酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、乳酸、アジピン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、ポリリン酸、及びこれらの塩等、食品添加物や化粧品原料として認可されているものが好ましい。
これらのキレート剤、1価のカルボン酸及びその塩は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
pH調整剤
本発明の水溶性抗菌剤組成物は、前記多価アルコール系抗菌物質及び前記キレート剤等を含み、かつ、酸性であることが重要である。本発明の水溶性抗菌剤組成物は、前記多価アルコール系抗菌物質、キレート剤等に加えて、水溶性抗菌剤組成物を酸性にすることを目的として、pH調整剤を含んでいてもよい。
【0036】
本発明の水溶性抗菌剤組成物に使用し得るpH調整剤は、特に限定されず、種々の無機酸、有機酸、無機アルカリ、有機アルカリが使用可能である。安全性の面からは食品添加物であることが望ましい。また、抗菌活性は、pHの影響を大きく受ける。よって、クエン酸―クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム―リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム―リン酸二ナトリウム、酢酸―酢酸ナトリウム、フタル酸水素カリウム―水酸化ナトリウム、クエン酸―リン酸ニナトリウム等の緩衝作用を有する組成であることが特に好ましい。これらのpH調整剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
本発明において、多価アルコール系抗菌物質とキレート剤等を酸性下に作用させることによって著しく抗菌作用が高まり、且つ抗菌スペクトルも広がるため、グラム陰性菌に対しても優れた抗菌効果を発揮する。また、本発明の水溶性抗菌剤組成物は、弱酸性であっても著しく抗菌作用が高まるため、幅広い用途に使用できる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において使用される抗菌剤溶液のpHは酸性であれば特に限定されないが、幅広い用途に使用できるという観点からは、例えばpH3〜6、好ましくはpH3〜5程度の弱酸性であることが好ましい。
【0039】
本発明の抗菌剤組成物の使用用途及び態様は、微生物に対する抗菌作用を目的とするものであれば特に限定されないが、例えば食品、化粧料・医薬品・食品の製造工程、医療用洗浄料、食器用殺菌洗浄料、口腔用洗浄料、手指用殺菌洗浄剤に配合して使用することが挙げられる。
【0040】
上記のような使用目的に応じて、本発明の抗菌剤は、抗菌力を向上させるために他の安全性が高い抗菌物質、例えば安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸イソブチル、パラヒドロキシ安息香酸イソプロピル、パラヒドロキシ安息香酸エチル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、プロピオン酸、プロピオン酸カルシウム、ブロピオン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、蟻酸、リゾチーム、アルコルビン酸、グリシン、ポリリジン、キトサン、ナイシン、グレープ種子抽出物、ユーカリ抽出物等を添加することができる。また、その抗菌作用を損ねない範囲内で他の添加剤と適宜組合せて使用することができる。好ましい実施形態において、本発明の抗菌剤は、例えば、界面活性剤、着色料、香料等を更に配合した手指用殺菌洗浄剤や口腔用洗浄剤;界面活性剤、消泡剤、染料、香料等を更に配合した医療器具類の洗浄料や食品・化粧品・医薬品の製造工程用抗菌洗浄料とすることができる。
【0041】
上記以外にも、抗菌剤の分野において一般的に使用されている添加剤が、本発明の抗菌剤の抗菌作用を損ねない範囲内で、特に制限なく本発明の抗菌剤組成物と併用することができ、例えば、溶剤や可溶化剤等を添加剤として使用できる。
【0042】
上記のような添加剤と併用することで、本発明の水溶性抗菌剤組成物は溶液、クリーム、ペースト、ゲル、ジェル、固形物、粉末等の各種形態の水溶性抗菌剤組成物として使用することができる。
【0043】
以下に、本発明の抗菌剤組成物と併用することができる添加剤のより具体的な例を以下に列挙する。
【0044】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0045】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸(例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、高級アルキル硫酸エステル塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、POE−ラウリル硫酸トリエタノールアミン、POE−ラウリル硫酸ナトリウム等)、高級脂肪酸アミドスルホン酸塩(例えば、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム等)、リン酸エステル塩(例えば、POE−オレイルエーテルリン酸ナトリウム、POE−ステアリルエーテルリン酸等)、スルホコハク酸塩(例えば、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、リニアドデシルベンゼンスルホン酸等)、高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩(例えば、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等)、N−アシルグルタミン酸塩(例えば、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等)、硫酸化油(例えば、ロート油等)、POE−アルキルエーテルカルボン酸、POE−アルキルアリルエーテルカルボン酸、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0046】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等)、アルキルピリジニウム塩(例えば、塩化セチルピリジニウム等)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、POE−アルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミノアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0047】
両性界面活性剤としては、例えば、イミダゾリン系両性界面活性剤(例えば、2−ウンデシル−N,N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(例えば、2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)が挙げられる。
【0048】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等)、グリセリンポリグリセリン脂肪酸類(例えば、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POE−ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノステアレート、POE−ソルビタンテトラオレエート等)、POE−ソルビット脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビットモノラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、POE−ソルビットモノステアレート等)、POE−グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、POE−グリセリンモノステアレート、POE−グリセリントリイソステアレート等)、POE−脂肪酸エステル類(例えば、POE−ジステアレート、POE−モノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等)、POE−アルキルエーテル類(例えば、POE−ラウリルエーテル、POE−オレイルエーテル、POE−ステアリルエーテル等)、プルロニック類、POE・POP−アルキルエーテル類(例えば、POE・POP−セチルエーテル、POE・POP−モノブチルエーテル、POE・POP−グリセリンエーテル等)、テトロニック類、POE−ヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体(例えば、POE−ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油モノイソステアレート等)、アルカノールアミド(例えば、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等)、POE−プロピレングリコール脂肪酸エステル、POE−アルキルアミン、POE−脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0049】
溶剤としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール(例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、バチルアルコール、イソステアリルアルコール等)、低級アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0050】
また可溶化剤としては、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、γシクロデキストリン等が挙げられる。
【0051】
増粘剤としては、例えば、アラビアガム、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVA、ポリアクリル酸ナトリウム、グアーガム、タマリントガム、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ベントナイト、ヘクトライト、ラポナイト等が挙げられる。
【0052】
保湿剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等が挙げられる。
【0053】
着色料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸鉄、黄酸化鉄、黄土、黒酸化鉄、コバルトバイオレット、チタン酸コバルト、群青、パール顔料、金属粉末顔料、有機顔料、クロロフィル、β−カロチン等が挙げられる。
【0054】
香料としては、ジャコウ、ライム、ビャクダン、ハッカ、バニリン、シトロネラール、オイゲノール、リナロール、クマリン、ケイ皮酸エチル等が挙げられる。
【0055】
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
【0056】
本発明の抗菌剤組成物は、以上に列記した添加剤の1種以上と適宜併用することで、各目的により適した水溶性抗菌剤組成物とすることができる。これらの添加剤の含有量は特に限定されず、本発明の水溶性抗菌剤組成物の使用用途及び形態に応じて適宜設定すればよい。
【0057】
本発明において、多価アルコール系抗菌物質とキレート剤等の使用割合は、特に限定されないが、前記多価アルコール系抗菌物質1重量部に対して、キレート剤等を通常1〜40重量部程度、好ましくは2.5〜20重量部程度使用すればよい。
【0058】
本発明の水溶性抗菌剤組成物に含まれる多価アルコール系抗菌物質の含有量は、その使用用途及び形態等に合わせて適宜調整されるため、特に限定されない。例えば、水溶性抗菌剤組成物が液体である場合、水溶性抗菌剤組成物中、最少有効濃度として0.001重量%以上、好ましくは0.01〜0.1重量%含有することが好ましい。0.001重量%未満では、生育阻害効果が得られず、また0.1重量%を超えると濃度に比例したより高い静菌効果を得ることができないため、好ましくない。
【0059】
また、水溶性抗菌剤組成物が固体である場合、多価アルコール系抗菌物質の含有量は、水溶性抗菌剤組成物中、通常2.5〜50重量%程度、好ましくは5〜40重量%程度とすればよい。水溶性抗菌剤組成物が固体である場合には、水で薄めて上記液体の多価アルコール系抗菌物質の含有量となるように設定して使用できる。
【0060】
本発明の水溶性抗菌剤組成物に含まれるキレート剤等の含有量は、その使用用途及び形態等に合わせて適宜調整されるため、特に限定されない。例えば、水溶性抗菌剤組成物が液体である場合、キレート剤等の含有量は、水溶性抗菌剤組成物中、通常0.025重量%以上、好ましくは0.1重量%以上とすればよい。また、通常1.5重量%以下、好ましくは0.5重量%以下とすればよい。水溶性抗菌剤組成物が固体である場合、キレート剤等の含有量は、水溶性抗菌剤組成物中、通常50〜97.5重量%程度、好ましくは60〜95重量%程度とすればよい。水溶性抗菌剤組成物が固体である場合には、水で薄めて上記液体のキレート剤等の含有量となるように設定して使用できる。
【0061】
本発明の水溶性抗菌剤組成物は、多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤等を水に溶解することによって、水溶液として用いる。本発明の水溶性抗菌剤組成物において、水の含有量は、通常95〜99.8重量%程度、好ましくは98〜99.8重量%程度である。
【0062】
なお、本発明の水溶性抗菌剤組成物は、前記多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤等の使用割合となるように設定した濃縮液とし、各種用途に使用する際に、水で薄めて前記液体における各成分の含有量となるように設定して使用することもできる。
【0063】
本発明の抗菌剤組成物は、低浸透圧下で対象物に作用させることが好ましい。すなわち、本発明の抗菌剤組成物には、高浸透圧を与える溶質が多量に含まれないことが望ましい。高浸透圧を与える溶質としては、特に限定されず、例えば、水溶性無機塩、水溶性有機酸塩、アミノ酸、ペプチドおよびたんぱく質、尿素等が挙げられる。また、エチレングリコール、プロピレングリコール、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、蔗糖、ソルビトール、グリセロール、ペンタエリスリトール等も高浸透圧を与える溶質として例示できる。
【0064】
水溶性無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、燐酸一水素ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸一水素カリウム、燐酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、燐酸一水素アンモニウム、燐酸二水素アンモニム等を挙げることができる。
【0065】
水溶性有機酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等を挙げることができ、好ましくは、クエン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0066】
アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等を挙げることができる。
【0067】
本発明の水溶性抗菌剤組成物中に含まれ得る溶質濃度は、溶質の分子量によって異なるが、例えばクエン酸の場合には、通常2.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。溶質濃度は0重量%であることが最も好ましい。
【0068】
また、本発明において、上記溶質のモル濃度は、0〜0.1Mであるのが好ましく、0〜0.05Mであるのがより好ましい。
【0069】
2.抗菌方法
本発明の殺菌方法は、酸性下に、多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤等を作用させることを特徴とする。本発明の殺菌方法において、多価アルコール系抗菌物質、キレート剤等としては、前記と同じものが使用できる。また、これらの使用量、前記水溶性抗菌剤組成物における各成分の含有量と同じである。
【0070】
また、本発明の殺菌方法は、酸性下にすることを目的として、必要に応じて前記のpH調整剤を作用させてもよい。pH調整剤の種類及びその使用量は、前記と同じである。
【0071】
さらに、本発明の殺菌方法においては、必要に応じて、前記各種添加剤を作用させてもよい。
【0072】
本発明の殺菌方法においては、前記本発明の水溶性抗菌剤組成物を作用させることによっても、同様に優れた抗菌作用を奏する。
【0073】
本発明の殺菌方法の使用用途及び態様は、微生物に対する抗菌作用を目的とするものであれば特に限定されず、本発明の水溶性抗菌剤組成物の使用用途及び態様と同じ用途及び態様に使用できる。なお、本発明の水溶性抗菌剤組成物が固体である場合、水溶性抗菌剤組成物が液体である場合の各成分の前記各含有量となるように水と配合することにより、前記用途及び態様に使用できる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、菌数の測定には、寒天平板培養法を使用した。
【0075】
実施例1〜9及び比較例1〜6
5mMクエン酸緩衝液(pH4)及び10mMクエン酸緩衝液(pH4、5、6及び7)をそれぞれ調製し、これらにモノカプリンを0〜1000mg/Lとなるように添加して水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた各組成物20mlにPsudomona aeruginosa NBRC3080株(緑膿菌)の培養液をそれぞれ菌数が105〜106/mlとなるように添加した。各菌を水容性抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表1〜4に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1より、pH4下において多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)及びキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物が、pH4下において多価アルコール系抗菌物質を含まない場合に比して、極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0078】
また、実施例1〜3の組成物は、緑膿菌の代わりにEsherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)を105〜106/mlとなるように添加した場合にも、菌数を5.0×102、<10、<10にまで減少させることができた。一方、比較例1の組成物を使用した場合は、測定値が>105となり、抗菌効果は確認できなかった。
【0079】
【表2】

【0080】
表2より、pH5下において多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)及びキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物が、pH5下において多価アルコール系抗菌物質を含まない場合に比して、極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0081】
また、実施例1〜3と同様、実施例4〜6の組成物は、緑膿菌の代わりに前記大腸菌を添加した場合にも、菌数を104〜105、1.2×102、8×101にまで減少させることができた。一方、比較例2の組成物を使用した場合は、測定値が>105となり、抗菌効果は確認できなかった。次に、pH6とした場合の結果について下表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3より、pH6下といった酸性度の低い条件においても、多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)及びキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物が、pH6下において多価アルコール系抗菌物質を含まない場合に比して、極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0084】
また、実施例1〜6と同様、実施例7〜9の組成物は、緑膿菌の代わりに前記大腸菌を添加した場合にも、菌数を104〜105、1.5×102、1.7×102にまで減少させることができた。一方、比較例3の組成物を使用した場合は、測定値が>105となり、抗菌効果は確認できなかった。次に、pH7とした場合の結果について下表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表3より、pH7の中性条件においては、モノカプリンとクエン酸を併用しても、高い抗菌活性を示さないことが確認された。
【0087】
また、pH7の中性とした比較例4〜6の組成物は、緑膿菌の代わりに前記大腸菌を添加した場合についても、いずれも測定値が>105となり、抗菌効果は確認できなかった。
【0088】
さらに、実施例2及び比較例1の水溶性抗菌剤組成物に大腸菌を添加した場合について、経時的に液を採取し、0.1mlをSCD寒天培地に植菌して25℃にて培養し、寒天培地上に形成したコロニーから大腸菌の生菌数を測定した。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
表5より、菌数の経時的変化についても、酸性下において多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)及びキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物が、酸性下において多価アルコール系抗菌物質を含まない場合に比して、極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0091】
以上、表1〜5に示した実施例及び比較例の結果より、酸性下において多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)及びキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物が、酸性下において多価アルコール系抗菌物質を含まないものや、中性下において多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤を含むものよりも高い抗菌活性を有することがわかる。このように、酸性下に多価アルコール系抗菌物質とキレート剤を併用することによって大腸菌や緑膿菌に対する抗菌力が著しく高まることが確認された。
【0092】
実施例10〜12、比較例7〜9
下記表6に示すように、クエン酸をEDTA、1−ヒドロキシエタン―1,1―ジホスホン酸又は乳酸に置き換えた以外は、前記実施例1〜9、比較例1〜6と同様にして、水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた組成物を用い、実施例1〜9及び比較例1〜6と同様にして、Esherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)の培養液をそれぞれ菌数が105〜106/mlとなるように添加した。各菌を水容性抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表6に示す。
【0093】
【表6】

【0094】
表6に示した実施例及び比較例の結果より、多価アルコール系抗菌物質(モノカプリン)とキレート剤(EDTA、1−ヒドロキシエタン―1,1―ジホスホン酸又は乳酸)を含む抗菌剤組成物は、弱酸性下において、多価アルコール系抗菌物質を含まないものよりも極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0095】
実施例13、比較例10〜11
下記表7に示すように、モノカプリンを1,2−デカンジオールに置き換えた以外は、前記実施例1〜9、比較例1〜6と同様にして、水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた組成物を用い、実施例1〜9及び比較例1〜6と同様にして、Esherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)の培養液をそれぞれ菌数が105〜106/mlとなるように添加した。各菌を水容性抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表7に示す。
【0096】
【表7】

【0097】
表7に示した実施例及び比較例の結果より、多価アルコール系抗菌物質(1,2−デカンジオール)とキレート剤(クエン酸)を含む抗菌剤組成物は、弱酸性下において、多価アルコール系抗菌物質を含まないものや、中性下において多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤を含むものよりもよりも高い抗菌活性を有することがわかる。
【0098】
実施例14〜15、比較例12〜15
表8に示すように、前記実施例1〜9及び比較例1〜6と同様にして、水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた組成物20mlにStaphylococcus aureus JCM20624株(黄色ぶどう球菌)の培養液を菌数が105〜106/mlとなるように添加した。各菌を抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表8に示す。
【0099】
【表8】

【0100】
表8に示した実施例及び比較例の結果より、多価アルコール系抗菌物質とキレート剤を含有する弱酸性の抗菌剤組成物は、グラム陽性細菌である黄色ぶどう球菌に対しても抗菌力を有することがわかる。
【0101】
また、Staphylococcus aureus JCM20624株(黄色ぶどう球菌)の代わりに、Candida albicans JCM1542(カンジダ・アルビカンス)の培養液を菌数が104〜105/mlとなるように添加したこと以外は、同様にして実施例14及び15及び比較例13〜15の抗菌剤組成物にカンジダ菌を添加した直後の生菌数を測定した。その結果、pH4とした実施例14及び15の抗菌剤組成物を用いた場合は、カンジダ菌はそれぞれ2.7×103、2.7×103にまで減少した。一方、pH7とした比較例13〜15の抗菌剤組成物を用いた場合は、いずれも測定値が>104となり、抗菌効果は確認できなかった。
【0102】
実施例16〜17及び比較例16〜18
10mM酢酸溶液(pH4及び7)を調製し、これらにモノカプリンを0〜1000mg/Lとなるように添加して水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた組成物20mlにEsherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)、Staphylococcus aureus JCM20624株(黄色ぶどう球菌)の培養液を菌数がそれぞれ105〜106/mlとなるように添加した。各菌を水容性抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表9に示す。
【0103】
【表9】

【0104】
表9に示した実施例及び比較例の結果より、キレート剤の代わりに1価のカルボン酸である酢酸を使用した場合にも、本発明の抗菌剤組成物は、大腸菌及び黄色ぶどう球菌に対しても抗菌力を有することがわかる。
【0105】
さらに、実施例16及び比較例18の水溶性抗菌剤組成物に黄色ブドウ球菌を添加した場合について、経時的に液を採取し、0.1mlをSCD寒天培地に植菌して25℃にて培養し、寒天培地上に形成したコロニーから黄色ブドウ球菌の生菌数を測定した。結果を表10に示す。
【0106】
【表10】

【0107】
表10より、菌数の経時的変化についても、酸性下において多価アルコール系抗菌物質及びキレート剤として酢酸を含む抗菌剤組成物が、中性下における場合に比して、極めて高い抗菌活性を有することがわかる。
【0108】
また、Esherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)や、Staphylococcus aureus JCM20624株(黄色ぶどう球菌)の代わりに、Candida albicans JCM1542(カンジダ・アルビカンス)の培養液を菌数が104〜105/mlとなるように添加したこと以外は、同様にして実施例16及び17並びに比較例16及び17の抗菌剤組成物にカンジダ菌を添加した直後の生菌数を測定した。その結果、実施例16及び17の抗菌剤組成物を用いた場合は、カンジダ菌はそれぞれ4.8×103、2.6×103にまで減少した。一方、多価アルコールを配合しなかった比較例16及び17の抗菌剤組成物を用いた場合は、いずれも測定値が>104となり、抗菌効果は確認できなかった。
【0109】
実施例18〜19、比較例19
10mMプロピオン酸溶液(pH4)を調製し、これらにモノカプリンを0〜1000mg/Lとなるように添加して水溶性抗菌剤組成物を得た。得られた組成物20mlにEsherichia coli K12 IFO3301株(大腸菌)、Staphylococcus aureus JCM20624株(黄色ぶどう球菌)の培養液をそれぞれ菌数が105〜106/ml、、Candida albicans JCM1542株(カンジダ・アルビカンス)の培養液を菌数が104〜105/mlとなるように添加した。各菌を水容性抗菌剤組成物に添加した直後の生菌数を測定した。結果を表11に示す。
【0110】
【表11】

【0111】
表11に示した実施例及び比較例の結果より、キレート剤の代わりに1価のカルボン酸であるプロピオン酸を使用した場合にも、本発明の抗菌剤組成物は、大腸菌、黄色ぶどう球菌、カンジダ菌に対しても高い抗菌力を有することがわかる。一方、プロピオン酸単独では、抗菌作用は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を含有する酸性の水溶性抗菌剤組成物。
【請求項2】
さらにpH調整剤を含む請求項1に記載の水溶性抗菌剤組成物。
【請求項3】
水溶性抗菌剤組成物が水溶液である、請求項1又は2に記載の水溶性抗菌剤組成物。
【請求項4】
水溶性抗菌剤組成物が水に溶解すると酸性を示す固体である、請求項1又は2に記載の水溶性抗菌剤組成物。
【請求項5】
多価アルコール系抗菌物質が、グリセリンモノアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキレングリコール、3−チオアルキル−1,2−プロパンジオール及び3−アミノアルキル−1,2−プロパンジオールからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性抗菌剤組成物。
【請求項6】
酸性下に、(1)多価アルコール系抗菌物質、並びに(2)キレート剤、1価のカルボン酸及びその塩からなる群から得らばれる少なくとも1種を作用させることを特徴とする殺菌方法。

【公開番号】特開2011−116712(P2011−116712A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276547(P2009−276547)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】