説明

水溶性重合体組成物の製造方法

【課題】皮膚刺激性が格段に低減され安全性に優れた洗剤ビルダーに適した水溶性重合体組成物を重合するための製造装置を提供する。
【解決手段】少なくとも内部にステンレス鋼を用いた反応槽を備えていることを特徴とする水溶性重合体組成物の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性重合体組成物の製造装置および製造方法、並びにその製造方法により得られる水溶性重合体組成物、およびその用途に関するものである。詳しくは、洗剤ビルダーや洗剤組成物の用途に好適に用いられる、皮膚刺激性が低減され安全性が高く、かつ分散能、キレート能、耐ゲル性に優れた(メタ)アクリル酸(塩)系重合体、マレイン酸系重合体などの低分子量の水溶性重合体組成物の生産に適した製造装置および製造方法、並びにその製造方法により得られる水溶性重合体組成物、およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗剤ビルダーに好適に用いられるものとして、ポリアクリル酸やポリマレイン酸などの水溶性重合体のうち低分子量のものが知られている。このような低分子量の水溶性重合体組成物を得る方法としては、たとえば、特許文献1や特許文献2等に開示されている。
【0003】
上記特許文献1、2に代表される従来公知の製法方法では、1種または2種以上の水溶性の単量体成分、さらには重合開始剤や連鎖移動剤などの添加剤成分を、反応系内に予め仕込み(単に、初期仕込みともいう)重合温度まで加熱しておいた溶媒中に個別に所定時間かけて連続して滴下し、その後、さらに一定の時間(熟成時間)をかけて重合を完結するというものである。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2に代表される製造方法により得られる重合体組成物には、重合条件等により残存量の多寡はあるものの、過酸化物等の重合開始剤成分等が残存する。かかる重合組成物を洗剤ビルダーに使用する場合には、重合体組成物中に残存する過酸化物等の重合開始剤成分に皮膚刺激性があるため、安全性に問題が生じるおそれがある。また、重合開始剤成分量を制限する場合には、重合体組成物中の残存単量体成分量が増加し毒性が強くなったり、生産効率の低下を招くなど、新たな問題を生じることにもなっていた。
【特許文献1】特開平11−315115号公報
【特許文献2】特開2000−80396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を解決し、皮膚刺激性が格段に低減され安全性に優れた洗剤ビルダーに適した水溶性重合体組成物を重合するための製造装置および製造方法、並びにその製造方法により得られる水溶性重合体組成物、およびその用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記技術的課題を解決すべく鋭意検討した結果、重合反応に必要な重合開始剤量を低減することなく、得られる水溶性重合体組成物中に残存する過酸化物等の重合開始剤量を格段に低減する上で、重合体組成物中に極微量重金属を含有させることが有用かつ効果的であることを知得すると共に、工業上の利用性(生産性、経済性を含む)に優れた規模な装置において、腐食処理加工を施すことなく、ステンレス鋼製の反応槽を用いることで、重合中にステンレス鋼の構成成分である重金属が極微量だけ溶け出し、重合体中にその成分が適量含まれることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、下記(1)〜(5)に記載の、洗剤ビルダーの性能を損なうことなく、高い安全性を保持させることのできる洗剤ビルダーに適した水溶性重合体組成物を重合するための製造装置および製造方法、並びにその製造方法により得られる水溶性重合体組成物、およびその用途である洗剤ビルダーおよび無機粒子の処理方法により達成されるものである。
【0008】
(1) 水溶性重合体組成物を製造する方法において、少なくとも反応槽内部にステンレス鋼を用いた反応槽を用いて重合を行い、水溶性重合体組成物中の固形分量に対して鉄およびニッケル成分が、0.1〜2000ppmになるように重合を行うことを特徴とする水溶性重合体組成物の製造方法。
【0009】
(2) ニッケル成分の含有量が0.1〜100ppmである上記(1)に記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【0010】
(3) 過酸化水素および/または過硫酸塩を有する重合開始剤を用いて重合することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【0011】
(4) 少なくともカルボキシル基含有単量体を含む単量体成分を重合することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【0012】
(5) 重量平均分子量500〜2000000のカルボキシル基含有共重合体と、ニッケル成分0.1〜100ppmを含む水溶性重合体組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、重合に用いる反応槽(とりわけ工業上の利用性に優れた0.1〜50mの体積を有する反応槽)の内部にSUSを使用することで、洗浄力および安全性の高い洗剤ビルダーの主原料として極めて有用な水溶性重合体組成物を製造することのできる装置およびこれを用いた製造方法を提供することができる。その結果、洗浄力および安全性の高い洗剤ビルダーの主原料として好適に用いられる分散能、キレート能、耐ゲル性および安全性(皮膚刺激性など)に優れた水溶性重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の水溶性重合体組成物の製造装置は、少なくとも内部にステンレス鋼(以下、単にSUSとも略記する)を使用した反応槽を用いることを特徴とするものである。本発明の水溶性重合体組成物の製造装置は、さらに撹拌機の反応槽内に位置する部位がSUSを使用していることが好ましい。
【0015】
本発明の装置では、腐食性の高い反応液に対して、反応槽内部をグラスライニング加工などの耐食性処理を施すことなく、腐食を受けるSUSを使用した反応槽を用いることにより、重合中に反応槽から微量のSUSの成分である重金属成分を溶出するので、SUSを使用した反応槽を用いて重合して得られる重合体にはSUSの成分の重金属成分を微量含むことになる。かかるSUSの成分の重金属成分が微量含まれていると、該重金属成分により過酸化物等の重合開始剤が分解され、重合体中に残存する過酸化物等の重合開始剤の量を格段に低減することができる。その結果、該重合体組成物を洗剤ビルダーとして用いた場合に、過酸化物等が格段に低減されていることで、皮膚刺激性などの問題が解消され安全性が大幅に高められることになる。そのため、市販の洗剤などにより、使用後に十分に手洗いしても、肌の弱かったり使用頻度が高かったりすることで、肌荒れして困っている多くの人の症状を大幅に改善できるなど極めて肌に優しい洗剤ビルダーを提供することに大いに貢献し得るものである。
【0016】
ここで、上記反応槽とは、重合反応を行うことができる容器であって、少なくとも内部にステンレス鋼が使用されているものであれば特に制限されるものではない。
【0017】
反応槽の内部の材質としては、ステンレス鋼、好ましくは重合体中への溶出量が適度であり、かつ比較的耐食性が高く十分な耐用年数を確保でき、さらに材料の加工およびメンテナンスの面からJISステンレス鋼のSUS304、304L、316、316Lが望ましい。
【0018】
これらのSUSの成分(質量%)を下記表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上記表1に示すように、SUSの成分は、鉄、クロム、ニッケル、モリブデンなどであるが、SUSの反応槽を用いて重合して得られる重合体組成物中に溶出する重金属成分は、鉄およびニッケルであり、クロムおよびモリブデンは、検出限界以上の溶出は認められず、易溶出性の鉄およびニッケル成分により残存する過酸化物等が有効に分解されることがわかったものである。
【0021】
また、反応槽全体にステンレス鋼を使用してもよいし、反応槽の内部にステンレス鋼を用い、外部には別の材質、例えば、炭素鋼などを使用してもよい。また、反応槽の少なくとも内部にSUSを使用するとしたのは、該反応槽を用いて重合することにより得られる重合体組成物中の重金属成分が、水溶性重合体組成物中の固形分量に対して適量含有されるように、その接触面積や材質などを適宜調整すればよい為である。したがって、重合体組成物中に適量の重金属が含有されるのであれば、反応槽の内部の全てにステンレス鋼を使用しなくてもよく、一部に使用するだけでもよい。この場合、残る部分には、グラスライング加工をするなどして反応液中への重金属成分に溶出を防止するのが望ましい。ただし、反応槽の体積(内部容積)としては、後述するように0.1〜50mの大きさのものを使用する場合には、反応槽の内部の全てにステンレス鋼を使用しても上記に規定する範囲の重金属を重合体組成物中に含有させることができることから、製造コストや製作容易性の点から、反応槽全体にステンレス鋼を使用するのが望ましいといえる。
【0022】
反応槽の形状は、特に制限されるものではない。多角型、円筒形などがあるが、撹拌効率、取り扱い性、汎用性などの点から円筒型が好ましい。また、邪魔板は問わない。
【0023】
反応槽の体積(内部容積)としては、0.1〜50mであることが好ましい。さらに好ましくは0.2〜45m、特に好ましくは0.5〜40mである。反応槽の体積が0.1m未満の場合には、生産規模が小さく、生産効率が十分でなくなるために工業的に大量生産を行うのが困難な場合がある。一方、50mを超える場合には、反応槽内の反応温度、濃度の均質化を図るのが難しくなる。
【0024】
なお、本発明の製造装置では、上記に規定するSUS製の反応槽を用いるものであればよく、その他の装置構成としては、特に制限されるべきものではなく、例えば、図1に示すような装置構成のものなどが挙げられるが、これらに制限されるべきものでなく、さらに重合の際に必要な温度、圧力、流量などの測定装置、制御装置などが設けられていることが望ましい。
【0025】
図1は、SUS製の反応槽を備えてなる製造装置を模式的に表した概略図である。図1に示すように、重合用の反応槽101として、0.1〜50mの体積(内容積)を有するSUS製の反応槽が設置されている。
【0026】
また、反応槽内から生じる留出物を凝縮液化させるためのコンデンサ103が設けられている。反応槽101の塔頂部には、反応槽内で発生した留出物を槽外のコンデンサ103に導くための留出用ライン105が連結されており、留出用ライン105の他端がコンデンサ103の管内流体入口107と連結されている。さらにコンデンサ103で凝縮された留出物を反応槽101内に戻すための還流用ライン109がコンデンサ103の管内流体出口111と連結されており、該還流用ライン109の他端が反応槽101の反応液の液面よりも高い位置に連結されている。
【0027】
また、コンデンサ103には、冷却液を導入するための管外流体入口113と、熱交換後の冷却液を排出するための管外流体出口115が設けられている。冷却液としては、特に制限されるべきものではないが、経済性、安全性の点から、好ましくは水である。
【0028】
なお、コンデンサとは、反応槽から生じる留出物を凝縮液化させる装置であり、凝縮液化は、冷却液である管外流体と留出物とを熱交換させることにより行われる。反応槽内から生じる留出物とは、重合中に反応槽内で蒸発した反応液をいう。
【0029】
コンデンサの形状は、特に制限されるものではないが、同じ伝熱面積を得る上で装置の小型化が図れる点で多管式が望ましく、また複数の伝熱管を管束として胴内部に収納する際の配置の効率性、汎用性などの点から円筒型が好ましいことから、多管式円筒型がより好ましい。
【0030】
コンデンサの材質としては、JISステンレス鋼のSUS304、304L、316、316L等のステンレス鋼製や炭素鋼などの公知のものが使用できる。
【0031】
反応槽の体積とコンデンサの伝熱面積の比率としては、0.5〜10m−1、好ましくは0.7〜7.5m−1、より好ましくは1.0〜5m−1の範囲である。反応槽の体積とコンデンサの伝熱面積の比率が0.5m−1未満の場合には、反応槽に対してコンデンサの能力が不足するため、反応槽からの留出物の凝縮を十分に行うことができない場合があり、生成物の水溶性重合体の分子量の制御ができなくなるおそれがある。一方、10m−1を超える場合には、生成物の水溶性重合体の分子量の制御ができなくなるおそれがあるほか、コンデンサの設備費用およびランニングコストがかかりコストアップにつながるなど経済的でなく工業上の利用性が低くなる。
【0032】
さらに、図1に示す製造装置では、重合中に反応槽101内の液温が均一に維持され、重合反応が均等になされるように、該反応槽101内の反応液を撹拌するための撹拌機117が反応槽101に設けられている。
【0033】
該撹拌機117の材質としては、特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、好ましくはJISステンレス鋼のSUS304、316、316Lである。また、撹拌機のうち、反応槽の内部の位置する撹拌翼等の表面にはグラスライニング加工等が施され反応原料および生成物に対して不活性なものとしてもよい。これは、反応槽から溶出する重金属量で、重合体中に残存する過酸化物などの重合開始剤を十分に分解できる場合には、撹拌機から溶出する重金属による更なる作用効果は得られず、装置の耐久性、耐食性向上の点から、グラスライニング加工等を用いるのが望ましいためである。
【0034】
また反応槽101の本体外周部には、反応温度、すなわち反応槽内の液温を調節する目的で、熱媒を通じることのできる外部ジャケット119が設けられている。該熱媒には、スチーム、熱油など従来公知のものを利用することができる。
【0035】
また、該反応槽101には、重合に用いる重合用組成物の各成分ごとにフィードライン121がそれぞれ連結されている。図1では、便宜上、1つの単量体成分のフィードラインのみを図示するが、実際には、重合に用いる成分ごとにフィードラインが設置されている。
【0036】
各フィードライン121の先端部のノズル123が、反応槽101塔頂部内部にそれぞれ挿通されている。反応槽内にノズル123を設けることで、供給する成分が反応槽の内壁面を伝って流下するのを防止することができ、内壁面を伝って流下する際に単量体成分などが外部ジャケットからの熱を受けて重合物やゲル物を生成する危険性を回避することができる。該重合物およびゲル物は、生成物の水溶性重合体とは分子量などが異なるため性能及び品質面からみて不純物となる。
【0037】
各フィードライン121の他端は、各成分の貯蔵タンク(図示せず)とそれぞれ連結されており、これらの成分ないしその成分溶液が、各貯蔵タンクからそれぞれのフィードライン121を通じて反応槽101内部に所定時間をかけて先端ノズル123から供給、好ましくは連続的に滴下できるように、流量調整バルブやポンプ(共に図示せず)が設けられている。
【0038】
また、本発明の装置には、単量体成分を供給した後にフィードライン内部に残存した単量体により重合物やゲル物が生成するのを防止することができように、(1)フィードライン121に溶媒および/または不活性ガスを導入するためのラインが形成されていてもよいし、(2)フィードライン121を冷却する装置が備えられていてもよい。
【0039】
次に、本発明に係る水溶性重合体組成物の製造方法は、少なくとも内部にステンレス鋼を用いた反応槽を用いて重合を行うことを特徴とするものである。これにより、得られる水溶性重合体組成物中に残存する過酸化物等の重合開始剤成分を、反応槽から溶出したSUSの成分により、効果的に分解することができるため、皮膚刺激性が低減され安全性が高く、かつ分散能、キレート能、耐ゲル性に優れた(メタ)アクリル酸(塩)系重合体、マレイン酸系重合体などの低分子量の、重金属成分を含有する水溶性重合体組成物を製造することができるものである。
【0040】
以下、本発明の製造方法の好適な実施形態につき説明するが、本発明はこれらに制限されるものではなく、本発明の製造装置である、上述した少なくとも内部にステンレス鋼を用いた反応槽を用いて重合を行うことで、低分子量の水溶性重合体組成物を得ることができるものであればよく、例えば、特開平11−315115号公報や特開2000−80396号公報等、現在までに提案されている水溶性重合体組成物の製造方法にも幅広く適用し得るものである。
【0041】
<重合用組成物>
本発明の製造方法において、まず重合体組成物の原料である重合用組成物としては、単量体成分のほか、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤等が必要に応じて、適宜用いられるものである。以下、各成分ごとに説明する。
【0042】
<単量体成分>
本発明の製造装置により水溶性重合体組成物を製造する際に用いることのできる単量体成分としては、特に制限されるべきものではなく、重合体の種類に応じて適宜決定されるべきものである。水溶性重合体組成物の製造に用いられる単量体成分の例としては、以下の(1)〜(4)に示すものが挙げられる。
【0043】
(1) カルボキシル基を含有する単量体
カルボキシル基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、α−ヒドロキシアクリル酸等のモノエチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、フマル酸、シトラコン酸等のモノエチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体、これらの塩および無水物が挙げられる。
【0044】
ここで、塩とは、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等の有機アミン塩等が挙げられ、これらは単独で使用されるか、併用される。以下では、これらを単に塩とのみ表記することがある。
【0045】
(2) スルホン酸基を含有する単量体
スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ブテンスルホン酸等のモノエチレン性不飽和スルホン酸系単量体およびこれらの塩が挙げられる。
【0046】
(3) 水酸基を含有する単量体
水酸基を含有する単量体としては、例えば、3−メチル−2−ブテン−1−オール(以下、プレノールともいう)、3−メチル−3−ブテン−1−オール(以下、イソプレノールともいう)、2−メチル−3−ブテン−2−オール(以下、イソプレンアルコールともいう)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノイソプレノールエーテル、ビニルアルコール等のモノエチレン性不飽和水酸基含有系単量体が挙げられる。
【0047】
(4) その他の単量体
その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のカチオン性単量体、(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸等の含リン単量体が挙げられる。
【0048】
これら単量体(1)〜(4)は、単独で用いられるか、併用される。共重合体を得る場合は、必要に応じ、得られる重合体の水溶性を損なわない範囲で、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等の疎水性単量体を併用してもよい。
【0049】
本発明では、重合により得られる重金属を含有し残存する過酸化物等の重合開始剤量が格段に低減されてなる水溶性重合体組成物を、その特徴を活かして、洗剤ビルダーに有効に利用するものであるが、この他にも無機顔料分散剤、スケール防止剤、キレート剤、洗剤組成物、繊維処理剤、木材パルプ漂白助剤等の幅広い用途に用いることができるものであり、こうした使用目的に応じて、その他の重合体原料を配合すればよい。
【0050】
以下に好ましい単量体配合を示す。いずれも、単量体成分全量を100mol%とする。
【0051】
(a)単量体(1)を好ましくは50mol%以上、より好ましくは80mol%以上、最も好ましくは100mol%用いる。単量体(1)の中では、(メタ)アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)およびこれらの無水物が特に好ましい。アクリル酸(塩)/マレイン酸(塩)共重合体の場合、両単量体のモル比は40〜60/60〜40が好ましい。なお、当該(a)の配合例では、上記単量体(1)以外の成分およびその配合比率については、特に制限されるものではなく、例えば、上記単量体(2)〜(4)を適当な配合比率にて適宜組み合わせて用いてもよいし、さらに他の成分(例えば、疎水性の単量体成分)などを加えて適当な配合比率にて適宜組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(b)単量体(1)を50mol%以上、単量体(2)を30mol%以下で含む配合である。単量体(1)、(2)の合計で80mol%以上が好ましく、100mol%がより好ましい。この場合、単量体(1)の中では、(メタ)アクリル酸(塩)、マレイン酸(塩)または無水物が、単量体(2)の中では3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、スルホエチル(メタ)アクリレート(塩)が特に好ましい。なお、当該(b)の配合例でも、上記単量体(1)、(2)以外の成分およびその配合比率については、特に制限されるものではなく、例えば、上記単量体(3)〜(4)を適当な配合比率にて適宜組み合わせて用いてもよいし、さらに他の成分(例えば、疎水性の単量体成分)などを加えて適当な配合比率にて適宜組み合わせて用いてもよい。
【0053】
なお、上記単量体成分の反応槽への供給形態としては、制限されるものではなく、後述する溶媒、好ましくは水に溶解して単量体溶液、好ましくは単量体水溶液の形態で供給するのが望ましいが、単量体成分のみ、すなわち、無溶媒の形態で供給してもよい。
【0054】
単量体溶液として用いる場合の濃度としては、各単量体成分により異なるため、使用用途に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるものではない。よって単量体(1)溶液の濃度としては、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑とならないように、適当な濃度を適宜決定すればよい、特に制限されるものではない。また、単量体(2)溶液の濃度としても、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑とならないように、適当な濃度を適宜決定すればよい、特に制限されるものではない。さらに、単量体(3)溶液の濃度としても、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑とならないように、適当な濃度を適宜決定すればよい、特に制限されるものではない。さらに、単量体(4)溶液の濃度としても、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑とならないように、適当な濃度を適宜決定すればよい、特に制限されるものではない。また、これらを併用する場合であって、予め混合して添加する場合の単量体混合物の濃度は、上記各単量体の濃度に基づいて適宜決定すればよい。
【0055】
上記単量体成分の反応槽への供給方法としては、反応槽内に単量体成分のフィードラインを通じて供給、好ましくは連続的に滴下するのが好ましい(図1参照のこと)。反応槽内への供給方式としては、滴下方式以外にも、流下、噴霧、吹出など如何なる方式であってもよい。また、単量体成分が2種以上の場合には、別々のフィードラインを通じてそれぞれの単量体成分を供給するのが好ましいが、別々のフィードラインを途中で合流させ、各単量体成分を混合して反応槽内に供給するようにしてもよし、供給元の貯蔵タンク内で予め各単量体成分を混合して1つのフィードラインを通じて供給するようにしてもよい。また、反応槽内に実質的に連続的に滴下する量は、使用目的に応じて適宜決定すればよく、特に制限されるべきものではないが、100質量%とすることが最も好ましい。なお、全単量体成分使用量を連続的に滴下しない場合とは、残る単量体成分を何度かに分けて断続的に滴下する場合、あるいは残る単量体成分を重合初期に反応槽内に仕込んでおく場合などが挙げられる。
【0056】
<溶媒>
溶媒としては、有機溶媒でもよいが、水などの水性の溶媒であることが好ましく、特に新鮮水が好ましい。水を用いる場合でも、単量体の溶媒ヘの溶解を良くするために、重合に悪影響を及ぼさない範囲で水に有機溶媒を適宜加えることがある。特に製造装置として、上記したように反応槽の体積とコンデンサの伝熱面積の比率が0.5〜10m−1の反応槽とコンデンサを用いることにより、優れた冷却効果を得ることができるので、当該溶媒の還流が起こる高温での重合が可能となることから、高沸点溶媒も好適に利用することができるなど、使用できる溶媒の選択範囲が広くなる点で有利である。
【0057】
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等の低級ケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;等が挙げられ、これらは単独で用いられるか、併用される。
【0058】
上記溶媒の使用量としては、使用目的に応じて適宜決定されるべきものであり、特に制限されるべきものではない。
【0059】
上記溶媒の反応槽への供給時期及び供給形態としては、制限されないが、該溶媒の多くまたは全量を重合初期に反応槽内に仕込んでおいてもよいし、溶媒の一部については、単独で重合中に反応槽内に溶媒用フィードラインを通じて適当に供給、好ましくは連続的に滴下するようにしてもよいし、あるいは単量体成分や開始剤成分やその他の添加剤を予め溶媒に溶解させた形で、これらの成分と共に重合中に反応槽内に適当に添加するようにしてもよい。こうした溶媒は、SUSの腐食性がないため、重合初期に反応槽内に仕込んでおいても、反応槽からの重金属成分の溶出量に影響しないためでもある。
【0060】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、限定されないが、ラジカル重合開始剤が好ましい。過酸化水素、過硫酸塩またはこれらの併用が特に好ましい。本発明では、皮膚刺激性のある重合開始剤であっても、得られる重合体組成物中への残存量を格段に低減できるため、特別な処理や使用量の制限等を行わなくても、安全性に優れた水溶性重合体組成物を得ることができる点で有利である。
【0061】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノパレリン酸、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物、及び過酸化水素が挙げられる。これらは、単独で用いられるか、併用される。これらの中では、末端や側鎖にスルホン酸基を定量的に導入し、分散能やキレート能に加えて耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体組成物が得られ、反応槽から溶出するSUS成分である鉄成分やニッケル成分により分解され皮膚刺激性などを有しない化合物になるほか、水溶性である点から、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩や過酸化水素が好ましい。
【0062】
重合開始剤の使用量は、上述したように特に限定されるものではないが、単量体の残存量が大幅に増大する傾向があったり、重合開始剤の添加効果はあまり向上せず、却って経済的に不利であるほか、反応槽から溶出するSUS成分量では、重合開始剤量が多い分、得られる重合体組成物中に有害な形で残存するおそれが生じないように、適用な使用量を適宜決定すればよい。
【0063】
重合開始剤の供給形態としては、制限されるものではなく、重合中に上記溶媒に溶解して重合開始剤溶液の形態で供給するのが望ましいが、重合開始剤のみ、すなわち、無溶媒の形態で供給してもよい。
【0064】
重合開始剤溶液として用いる場合の濃度としては、使用目的に応じて適宜決定されるべきものであり、特に制限されるべきものではない。
【0065】
重合開始剤の反応槽への供給方法としては、特に限定はされないが、反応槽内に重合開始剤用のフィードラインを通じて供給、好ましくは連続的に滴下するのが好ましい。また、重合開始剤成分が2種以上の場合には、別々のフィードラインを通じてそれぞれの重合開始剤成分を供給するのが好ましいが、別々のフィードラインを途中で合流させ、各重合開始剤成分を混合して反応槽内に供給するようにしてもよし、供給元の貯蔵タンク内で予め各重合開始剤成分を混合して1つのフィードラインを通じて供給するようにしてもよい。また、重合開始剤の分解性等に鑑みて、実質的に連続的に滴下する量を全使用量の50質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがより好ましく、100質量%とすることが最も好ましい。なお、連続的に滴下する量が全使用量の50質量%未満
であっても、本発明の範囲を外れるものではない。また、全使用量の100質量%を連続的に滴下しない場合とは、残る重合開始剤を何度かに分けて断続的に滴下するようにしてもよいし、残る重合開始剤を重合初期に反応槽内に仕込んでおいてもよい。
【0066】
重合開始剤の供給時間は、過酸化水素等の比較的分解が遅い重合開始剤成分の場合、後述する重合温度、重合pHにおいて、単量体成分の供給終了時間よりも早く終了することが好ましい。単量体成分の供給終了時前で終了しても、反応そのものに悪影響はなく、また本発明では、こうした重合終了時点で残る重合開始剤成分が格段に低減できる効果があるため、添加した重合開始剤成分が重合終了時点で残る無駄が生ずるおそれは格段に低く、残存する重合開始剤が得られる重合体組成物の安全性(皮膚刺激性など)や熱的安定性に悪影響を及ぼす恐れはないものといえる。
【0067】
なお、ここでいう単量体成分の供給終了時間は、単量体成分を2種以上用いる場合には、全ての単量体成分を供給し終えた時点をいう。したがって、連続的に滴下する場合であっても、断続的に何回かに分けて供給する場合であっても、最後の単量体成分を供給し終えた時点となる。また、重合開始剤、連鎖移動剤その他の添加剤成分の供給終了時間についても、単量体成分の供給終了時間と同様に定義できる。また、重合終了時点とは、重合の際に用いられる重合用組成物を全て反応槽内に供給し終えた時点、あるいは、熟成時間を設定する場合はその終了時点をいう。熟成時間とは、重合用組成物を全て反応槽内に供給し終えた時点から、その後所定時間にわたって重合を継続する時間をいう。
【0068】
他方、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等、比較的分解の早い重合開始剤成分の場合は、単量体成分の供給終了時間まで供給することが好ましく、単量体成分の供給終了よりも遅く終了することがより好ましい。得られる水溶性重合体組成物中の単量体残量を減じることが出来るからである。単重体成分の供給終了時または供給終了前にこれら重合開始剤成分の供給を終了した場合には、重合反応に悪影響はないが、単量体残存の問題がある。
【0069】
重合開始剤の供給の開始は適宜で良い。例えば、単量体成分の供給開始前でも良い。重合開始剤併用系の場合は、―つの重合開始剤の供給を開始したのち、一定時間経過してから、あるいは一つの重合開始剤の供給を終了してから、別の開重合始剤の供給を開始するようにしても良い。要するに、反応槽から溶出する重金属成分の漸増量を勘案した上で、重合開始剤の分解速度、単量体の反応性に応じて適宜設定すれば良いのである。
【0070】
<連鎖移動剤>
本発明にて水溶性重合体組成物を製造するには、重合反応に悪影響を及ぼさない範囲内で、連鎖移動剤を重合開始剤と併用しても良い。連鎖移動剤としては、例えば、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、次亜リン酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、重合開始剤である過硫酸塩に加えて、重亜硫酸塩を連鎖移動剤として併用することで、得られる重合体組成物が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体組成物を効率よく製造することができる点で有利である。これらは単独で用いられるか、併用される。
【0071】
連鎮移動剤の使用量としては、質量比で重合開始剤量の2倍以内であることが好ましい。2倍を越えて使用しても、もはや添加効果は現れず、却って共重合体の純分の低下を招き、好ましくない。
【0072】
連鎮移動剤の反応槽への供給形態としては、制限されるものではなく、上記溶媒に溶解して連鎮移動剤溶液の形態で添加するのが望ましいが、連鎮移動剤のみ、すなわち、無溶媒の形態で供給してもよい。
【0073】
連鎮移動剤溶液として用いる場合の濃度としては、使用目的に応じて適宜決定されるべきものであり、特に制限されるべきものではない。
【0074】
連鎖移動剤の供給方法としては、重合中に反応槽内に連鎖移動剤のフィードラインを通じて供給、好ましくは連続的に滴下するのが好ましい。すなわち、単量体成分や重合開始剤とは異なるフィードラインを通じて滴下ノズルより反応槽内に滴下するのが望ましい。
【0075】
連鎖移動剤の供給時間は、限定されず、場合に応じて適宜に設定すれば良い。
【0076】
<その他の添加剤>
本発明では、必要に応じて、pH調整剤など他の重合用組成物を適宜利用してもよい。
【0077】
<重合方法>
重合方法としては、例えば、装置的には、SUS製の反応槽を備えてなるものであればよく、攪拌重合等が挙げられ、方法的には、溶液重合、懸濁重合、逆相懸濁重合、乳化重合等が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明の特徴を最大限に活用する上で、攪拌溶液重合が好ましい。また、溶液重合には、その溶媒の種類の観点から、溶剤系重合、水系重合があるが、溶媒の還流が起こる高温での重合が可能となる点、さらに安全性の点から水系重合が好ましい。従って、最も好ましい重合方法は攪拌溶液水系重合である。
【0078】
攪拌溶液水系重合について、以下詳細に説明する。
【0079】
不飽和ジカルボン酸系単量体の場合、全単量体使用量の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは全量を反応槽内に初期仕込みする。初期仕込量が50質量%未満であると未反応物が多くなり好ましくない。
【0080】
不飽和モノカルボン酸系単量体の場合、全単量体使用量の70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは全量を、実質的に連続的に滴下することにより反応槽内に供給するのが望ましい。滴下による供給の割合が70質量%未満、すなわち、初期仕込量が30質量%以上であると、非常に高分子量化しやすい。また、共重合体系の場合は、重合初期にブロック的に重合し、好ましくない。
【0081】
反応槽への単量体成分の供給時間は、単量体成分の重合性を考慮して適宜設定すれば良いが、好ましくは30〜240分間、より好ましくは60〜180分間である。供給時間が30分間より短いと、単位時間内における単量体成分の添加量が多くなり、高濃度化が起きて、非常に高分子量の重合体を生成する。また、共重合の場合は、単量体がブロック的に重合してしまう恐れがある。240分を越えると、生産性が著しく落ちて、経済上好ましくない。
【0082】
なお、かかる単量体成分の供給時間は、重合の際に用いる全ての単量体成分のうち、最初に添加し始めた単量体成分の添加開始時点から、最後に添加し始める単量体成分の添加終了時点までに要した時間をいう。
【0083】
さらに、供給開始時点は、(1)最初に添加し始める単量体成分が連続的に添加される場合には、該単量体成分を添加し始める時点をいい、(2)最初に添加し始める単量体成分を何度かに分けて断続的に添加する場合には、初回分を添加し始める時点をいう。添加終了時点は、(1)最後に添加し終える単量体成分が連続的に添加される場合には、添加を終える時点とし、(2)何度かに分けて断続的に添加される場合には、最終回分を添加し終えた時点とする。なお、不飽和ジカルボン酸系単量体のようの全量初期仕込みするものだけの場合には、該単量体の供給時間は0分間ということになる。本発明ではかかる実施形態を排除するものではない。
【0084】
<重合時のpH>
重合時のpHについては、使用目的に応じて適宜決定されるべきものであり、特に制限されるべきものではないが、例えば、不飽和ジカルボン酸系単量体を用いる場合については以下の通りとするのが好ましい。
【0085】
不飽和ジカルボン酸系単量体を用いる場合は、前述の通り、その全使用量に対して50質量%以上を初期仕込みするが、初期仕込終了時(供給開始直前あるいは重合開始直前)のpHは5〜13であり、好ましくは5〜12である。その後、他の添加物(他の単量体、開始剤、連鎖移動剤、pH調整剤等)の供給開始により、重合が開始され、重合が進行するに連れ、徐々にpHが低下していくように設定されるのが好ましく、供給終了時点でpH4〜8に調整されるのが好ましい。これは以下の理由による。
【0086】
―般に、不飽和ジカルボン酸系単量体は、例えば、不飽和モノカルボン酸系単量体に比べ、重合性が著しく低いため、初期仕込の段階で多く添加するのであるが、そのため、重合初期では不飽和ジカルボン酸系単量体の濃度が非常に高く、ブロック的に重合してしまう恐れがある。そこで、このジカルボン酸系単量体の重合性を制御する必要がある。ジカルボン酸系単量体は、カルボキシル基の双方ともが酸型、―方が酸型(すなわち半中和型)、双方ともが中和型と、3種類存在する。この中で、半中和型が反応性に最も富むことが知られている。そこで、この半中和型の存在量を制御することにより、ジカルボン酸系単量体の重合性を制御することが出来るのである。すなわち、重合初期段階ではある程度存在量を制限して重合性をある程度制御し、重合が進行しジカルボン酸系単量体の濃度が低減していくと、重合性も落ちてくるので、半中和型存在量を増大させていく必要がある。これらのことに鑑み、上記pHの設定を行う。
【0087】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。これらは単独で用いられるか、併用される。これらの中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。本明細書では、これらのものを単に「pH調整剤」あるいは「中和剤」と言う場合がある。
【0088】
<重合温度>
重合温度は、25℃から反応液の沸点の範囲であればよいが、重合開始時点から重合終了時点までは、重合開始から終了までの全反応時間の少なくとも10%以上の時間、好ましくは50%以上の時間、さらに好ましくは80%以上の時間、最も好ましくは反応時間中常時、反応液の沸点とするのが好ましい。特に、本発明では、適切な体積と伝熱面積との比率の反応槽とコンデンサを用いることにより、優れた冷却効果を得ることができるので、反応液の沸点(この温度では溶媒の還流が起こる)という高温での重合が可能となるものである。さらに、反応液の沸点で行うことは、温度制御が非常に容易となり、そのため、得られる重合体の品質が非常に安定したものとなる点で好ましいものといえる。
【0089】
沸点でない時間においては、反応液の沸点近傍の温度とすることが好ましく、少なくとも80℃以上とすることが好ましい。80℃未満とすると、重合開始剤の使用効率が悪くなり、得られる水溶性重合体組成物の単量体残存量が増大して、好ましくない。なお、重合温度の下限を25℃としたのは、常温(25℃)から重合を開始してもよいためである。
【0090】
ここで、重合終了時点は、上記に規定したように、重合に用いる全ての成分の供給が終了した時、あるいは、熟成時間を設定する場合はその終了時をいう。
【0091】
初期仕込時および重合終了後のpH調整や濃度調整を行う際には、その温度は、特に限定されず適宜設定すれば良い。
【0092】
<重合濃度>
重合濃度は、限定されず、必要に応じて適宜設定するが、不飽和ジカルボン酸系単量体を使用する場合には、好ましくは初期仕込時で35〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%である。35質量%未満では、不飽和ジカルボン酸系単量体の反応性が非常に悪く、75質量%を越えると、単量体の水溶性がなくなって反応液がスラリー状となり、沈澱物が生じ、均一重合となり難い。重合終了時の濃度は35〜65質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。これに見合うように添加物の濃度調整を行う。重合終了時濃度が35質量%未満であると、結果的に重合中の単量体濃度が非常に低くなり、反応性が低くなって、得られる重合体中の単量体残存量が多くなり易い。65質量%を越えると、非常に高粘度となり、均一重合とならず、またハンドリング面からも好ましくない。アクリル酸を70モル%以上含有する水溶性重合体を製造する際には、重合終了時15〜30質量%となるようにして重合反応を行い、その後濃縮工程を設けることが、色調良好な水溶性重合体を得る上で好ましい。
【0093】
<重合圧力>
重合圧力は、得られる重合体組成物の使用目的によって、適宜最適な圧力条件を設定すればよく、常圧(大気圧)、加圧、減圧のいずれでも良いが、本発明の装置では、上記したように反応系内を密閉して行う必要がある。好ましくは、重合中、亜硫酸ガスの放出を防ぎ、低分子量化が可能であることから、反応系内を密閉し、常圧下または加圧下で行うのがよい。また、溶媒の還流が起こる高温での重合が可能なように装置設計されてなる装置特性を有効に活用でき、また加圧装置や減圧装置を併設する必要がなく、耐圧製の反応槽や配管を用いる必要がないなど点から、反応系内を密閉し、常圧(大気圧)下で行うのがよい。
【0094】
<重合雰囲気>
また、反応系内の密閉した内部の雰囲気は、空気雰囲気のままで行ってもよいが、不活性雰囲気とするのがよく、例えば、重合開始前に反応系内を窒素などの不活性ガスで置換することが望ましい。これにより、反応系内の雰囲気ガス、例えば、酸素ガスなどが液相内に溶解し、重合禁止剤として作用し、開始剤である過硫酸塩が失活することにより低減するのを防止することができることから、より低分子量化が可能となる点で有利である。
【0095】
<重合体組成物の生産方式>
本発明では、上記重合反応を回分式または連続式のいずれによっても行ないうるが、回分式で行うようにするのが好ましい。
【0096】
また、本発明の製造方法では、内部をグラスライニング加工した反応槽を用いて重合を行う際に、重合中および/または重合後に、反応槽内の溶液中で重金属成分を形成し得る添加剤を添加して残存する重合開始剤成分を分解するようにしてもよい。
【0097】
≪水溶性重合体組成物≫
次に、本発明の製造の方法により得られてなることを特徴とする、重金属成分を含有してなる水溶性重合体組成物の種類は、限定されるものではないが、重合体の種類が水溶性重合体である場合が、本発明の効果が最も顕著であるので好ましい。特に好ましくは、洗剤ビルダーに好適に用いることのできる、多くのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系重合体、マレイン酸系重合体、またはこれらの共重合体、あるいはこれらにスルホン酸基や水酸基等が導入された水溶性重合体組成物である。
【0098】
なお、本発明の水溶性重合体組成物とは、重合により得られた水溶性重合体を含む溶液、好ましくは水溶性重合体水溶液そのものであってもよいし、さらに固形分濃度を調整するために水などの溶媒を適量添加ないし除去してなるものであってもよいし、該溶媒を除去し乾燥して固形物としたものであってもよい。さらに必要に応じて、重合により得られた水溶性重合体の性能に影響を与えない範囲で、適当な添加剤、例えば、保存安定剤(紫外線吸収剤や抗酸化剤など)、着色剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、難燃化剤、発泡剤などを加えてなるものであってもよいなど、水溶性重合体を含むものであればよく、その形態や成分組成などに関しては特に制限されるべきものではない。このように、本発明の水溶性重合体組成物は、その名称に拘泥されることなく最も広義に解釈されるべきものであり、単に水溶性重合体溶液だけに狭く解釈されるべきものではない。製造工程の簡素化の観点からは、重合により得られた水溶性重合体を含む溶液をそのまま、洗剤ビルダーやその他の分散剤、スケール防止剤等として利用するのが望ましい。また、製品の品質安定化、保存安定性、輸送コスト低減の観点からは、水溶性重合体水溶液のようにかさばる形態ではなく、固形物として輸送し、洗剤ビルダーやその他の分散剤、スケール防止剤等としてそのまま使用または配合する際に、必要に応じて水溶液化してもよいなど、使用用途に応じて適宜最適な形態や成分組成にすればよいといえる。
【0099】
<重合体組成物の重量平均分子量>
本発明の製造方法により得られる重合体組成物は、その使用目的に応じて、所望する重量平均分子量の水溶性重合体組成物を得ることができるが、重量平均分子量500〜2000000、好ましくは1000〜1000000の重合体組成物を得るのに適している。本発明では、これらの重量平均分子量の範囲を外れる重合体組成物を得ることもできるが、重量平均分子量が500未満であるとキレート能が低下するものとなるおそれがあり、2000000を越えると分散能が低下するものとなるおそれがある。
【0100】
<重合体組成物の分散度>
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物は、その使用目的にもよるが、分散度が1.5〜5.0であるのが良く、好ましくは2.0〜5.0、より好ましくは2.0〜4.0、さらに好ましくは2.5〜4.0である。分散度が上記範囲であれば、洗剤ビルダーとして使用した場合の再汚染防止能に優れる。とりわけ分散度が1.5以上である方が、(メタ)アクリル酸(塩)系重合体溶液等の低分子量の水溶性重合体組成物の製造が繁雑とならず、生産性が良好であり、カルシウムイオン捕捉能も上昇するため好ましく、5.0以下であるとカルシウムイオン捕捉能、クレー分散能、スケール防止能などの性能が高くなるため好ましい。
【0101】
<重合体組成物中の重金属濃度>
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物は、重金属成分が水溶性重合体組成物中の固形分量に対して0.1〜2000質量ppmの範囲で含有されていることを特徴とするものである。水溶性重合体組成物中の重金属量は、上記表1に示すように使用する反応槽のSUSの種類や反応槽の内壁面積、重合条件や反応液の腐食力等により異なるが、該重金属が0.1質量ppm未満の場合には、重合体組成物中に残存する過酸化物等の重合開始剤量を十分に低減することができず、洗剤ビルダーなどに使用する上で、皮膚刺激性などの安全性を格段に向上することができないおそれがある。一方、重金属成分が2000ppmを超える場合には、重合体組成物中に残存する過酸化物等の重合開始剤量を十分に低減するこはできるものの、得られた水溶性重合体組成物の着色が大きく、用途によっては使用できないことがあるほか、毒性が強くなるおそれがある。
【0102】
重金属成分の量は、0.1〜1000質量ppmであることが好ましく、0.1〜100質量ppmであることがより好ましい。
【0103】
上記重金属成分の中で、ニッケル成分の含有量が特に重要であり、ニッケル成分が0.1〜100質量ppmであることがより好ましく、0.1〜5質量ppmであることが更に好ましく、0.1〜2質量ppmであることが最も好ましい。
【0104】
<残存重合開始剤量>
水溶性重合体組成物中に残存する重合開始剤量は、本発明によれば非常に少なくすることが出来る。特に残存する重合開始剤量を純分換算において5000ppm以下にすることで、水溶性重合体組成物を洗剤ビルダーに用いても、皮膚刺激性などの問題が無く、安全性に優れたものにできる。
【0105】
<残存単量体量>
水溶性重合体組成物中の残存単量体量は、本発明によれば非常に少なくすることが出来るが、純分換算において5000ppm以下、好ましい実施形態では4000ppm以下とすることができる。
【0106】
<本発明により得られる水溶性重合体組成物の好適な用途>
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物は、その特徴を活かして、洗剤ビルダーに好適に利用することができるほか、無機顔料分散剤、スケール防止剤、キレート剤、洗剤組成物、繊維処理剤、木材パルプ漂白助剤等の用途に用いることができ、それぞれの使用目的に応じて、その他の配合成分を混合すればよい。
【0107】
(洗剤ビルダー)
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物の好適な用途である洗剤ビルダーは、当該水溶性重合体組成物を含有してなるものであればよい。これにより、水溶性重合体組成物の分子量が制御できており、また残存する単量体や重合開始剤などの不純物量が格段に低減されているため、水溶性重合体組成物が本来有する極めて優れた分散能、キレート能、耐ゲル性を発現できる安全性に優れた水溶性の洗剤ビルダーを提供できる。そのため、洗剤ビルダーとして使用した場合の再汚染防止能に優れるものである。さらに長期間保存しても性能低下や低温保持時の不純物析出なども生じることのない極めて高品質で高性能で安全性(皮膚刺激性など)、安定性に優れた洗剤ビルダーを提供できる。
【0108】
なお、本発明の洗剤ビルダーにおいては、上記水溶性重合体組成物以外の他の配合成分や配合比率に関しては、特に制限されるべきものではなく、従来公知の洗剤ビルダーに有効に適用されてなる各種成分およびその配合比率に基づき、洗剤ビルダーとしての作用効果を損なわない範囲で、適宜適用(利用)することができるものであるが、好ましくは、本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物のみからなるものである。
【0109】
(洗剤組成物)
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物の他の用途の1つである洗剤組成物においては、本発明により得られる水溶性重合体組成物の配合量が洗剤組成物全体の1〜20質量%であり、界面活性剤の配合量が洗剤組成物全体の5〜70質量%であると好ましく、場合により酵素を5質量%以下の範囲で添加しても良い。
【0110】
本発明により得られる水溶性重合体組成物の配合量が1質量%未満であると添加効果が現れず、また20質量%を超えるともはや添加した効果が洗浄力の向上につながらず経済的にも不利となり好ましくない。また、洗剤組成物の主剤である界面活性剤の量が上記の範囲を外れると、他の成分とのバランスが崩れ洗剤組成物の洗浄力に悪影響を及ぼす恐れがあり好ましくない。酵素を配合した場合、洗浄力の向上に寄与するが、5質量%を超えると、もはや添加した効果が現れず経済的にも不利となり好ましくない。
【0111】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤およびカチオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを使用することができる。アニオン界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩、アルキルまたはアルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和または不飽和脂肪酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルまたはアルケニルリン酸エステルまたはその塩等を挙げることができる。
【0112】
ノニオン界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等を挙げることができる。
【0113】
両性界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、カルボキシ型またはスルホベタイン型両性界面活性剤等を挙げることができ、カチオン界面活性剤としては、特には限定されないが、例えば、第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0114】
本発明における洗剤組成物に配合される酵素としてはプロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等を使用することができる。特にアルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼおよびアルカリセルラーゼが好ましい。
【0115】
さらに、上記洗剤組成物には、必要に応じて、公知のアルカリビルダー、キレートビルダー、再付着防止剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟剤、蛍光剤、漂白剤、漂白助剤、香料等の洗剤組成物に常用される成分を配合してもよい。また、ゼオライトを配合してもよい。
【0116】
アルカリビルダーとしては、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩等を用いることができる。キレートビルダーとしては、ジグリコール酸、オキシカルボン酸塩、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、クエン酸等を必要に応じて使用することができる。あるいは公知の水溶性ポリカルボン酸系ポリマーを洗剤組成物としての効果を損なわない範囲で使用しても良い。
【0117】
(水処理剤)
水処理剤は、好ましくは、本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物のみからなり、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸塩、ホスホン酸塩、防食剤、スライムコントロール剤、キレート剤を配合した組成物とすることもできる。いずれの場合でも、冷却水循環系、ボイラー水循環系、海水淡水化装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜等でのスケール防止に有用である。また、性能、効果に影響しない範囲で公知の水溶性重合体を含んでもよい。
【0118】
(無機粒子の処理)
無機粒子の処理用としては、好ましくは、本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物のみからなり、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩、ポリビニルアルコールを用いても良い。
【0119】
無機粒子としては、重質ないし軽質炭酸カルシウム、クレイ、タルク、ベントナイト、セメント、酸化セリウム、酸化チタン、ジルコニア、シリカ、セリア、アルミナ、チタニア等を使用することができる。これらの無機粒子を本発明の水溶性重合体組成物で処理した剤は、製紙用コーティング剤、成型材料、機械研磨用分散体等に使用出来る。例えば、本発明の水溶性重合体組成物を無機粒子に少量添加して水中に分散することにより、低粘度でしかも高流動性を有し、かつ、それらの性能の経日安定性が良好な、高濃度炭酸カルシウムスラリーのような高濃度無機顔料スラリーを製造することができる。
【0120】
水溶性重合性組成物の使用量は、無機粒子100質量部に対して0.01〜30質量部が好ましい。使用量が0.01質量部より少ないと、充分な分散効果が得られず、逆に30質量部を超えると、もはや添加量に見合った効果が得られず経済的にも不利となる恐れがあるため好ましくない。また、本願発明の水溶性重合体を用いて分散した無機粒子を用いて製造した紙は、白色度が高く、経日後の着色も低い特徴をもつ。
【0121】
その際に、水溶性重合体中の金属イオン含有量は、0.1質量ppm以上5質量%以下が好ましく、0.1質量ppm以上1.5質量%以下がより好ましく、0.1質量ppm以上100質量ppm以下が最も好ましい。
【0122】
その際の金属イオンとしては、特に制限はないが、クロム、バナジル、マンガン、銅、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ナトリウム、カリウム等の金属イオンがあげられる。
【0123】
無機粒子の処理剤として使用する場合には、水溶性重合体の組成として、(メタ)アクリル酸の含有量が、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、分散性向上の観点より90モル%以上が最も好ましい。
【0124】
(繊維処理剤)
繊維処理剤は、本発明の製造方法により得られる低分子量の水溶性重合体組成物を単独で使用してもよいが、染色剤、過酸化物、および界面活性剤等の添加剤を配合した組成物として使用することもできる。上記添加剤としては、繊維処理剤に通常使用されるものが挙げられる。本発明により得られる水溶性重合体組成物と上記添加剤の比率は特に限定されるものではないが、本発明により得られる水溶性重合体組成物1質量部に対して、上記添加剤を、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.2〜80質量部、さらに好ましくは1〜50質量部という割合で配合する。上記添加剤の配合量が0.1質量部未満であると、添加効果が不十分になる傾向があり、100質量部を超えると、本発明の水溶性重合体組成物の持つ性能が十分に発揮できない傾向がある。また、本発明により得られる水溶性重合体組成物を含む繊維処理剤は、性能や効果を阻害しない範囲で、さらに、本発明により得られる水溶性重合体以外の重合体を含んでいてもかまわない。繊維処理剤中の本発明により得られる水溶性重合体組成物の含有量は、特に限定はされないが、繊維処理剤全体に対して、好ましくは1〜100質量%、より好ましくは5〜100質量%である。
【0125】
本発明の製造方法により得られる水溶性重合体組成物を含む織維処理剤を使用できる織維は、特に限定はされないが、例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維;ナイロン、ポリエステル等の化学繊維;羊毛、絹糸等の動物性繊維;人絹等の半合成繊維およびこれらの織物および混紡品などが挙げられる。
【0126】
本発明の製造方法により得られる低分子量の水溶性重合体組成物を含む繊維処理剤を精錬工程に利用する場合には、本発明により得られる水溶性重合体組成物とアルカリ剤および界面活性剤とを配合することが好ましい。漂白工程に適用する場合では、本発明により得られる水溶性重合体組成物と過酸化物とアルカリ性漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤とを配合するのが好ましい。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本実施例において、特に断りが無ければ、「部」は「質量部」を表わし、「%」は「質量%」を表すものとする。
【0128】
実施例1
温度計、撹拌機、還流冷却器を備えたSUS316L製反応器に、純水1800部を仕込み、攪拌下、沸騰温度(100℃)まで昇温した。次いで攪拌下、沸騰状態の重合反応系中に80%アクリル酸水溶液540部、15%過硫酸アンモニウム水溶液320部、35%過酸化水素水溶液80部、純水600部をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、180分とした。滴下終了後、さらに30分に渡って反応液を沸騰状態に保持し重合を完結させた。得られた水溶性重合体の重量平均分子量は、5800であり、分子量分布は、2.4であった。
【0129】
得られた水溶性重合体から濃縮工程としてエバポレーターを用いて、水分を留去し、固形分35%の水溶性重合体を得た。
【0130】
重量平均分子量および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。カラムには、東ソー株式会社製のG−3000PWXL(商品名)を用いた。
【0131】
移動相としては、りん酸水素二ナトリウム12水和物34.5gおよびりん酸二水素ナトリウム2水和物46.2gに純水を加えて全量を5000gとし、その後0.45μmのメンブランフィルターでろ過した水溶液を用いた。
【0132】
水溶性重合体中の金属イオン量、重金属イオン量、ニッケルイオン量をICP分析法により分析し、表2に記載した。
【0133】
実施例2
温度計、撹拌機、還流冷却器を備えたSUS316L製反応器に、純水250部を仕込み、攪拌下、沸騰温度(100℃)まで昇温した。次いで攪拌下、沸騰状態の重合反応系中に80%アクリル酸水溶液540部、15%過硫酸ナトリウム水溶液640部、35%過酸化水素水溶液80部をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、180分とした。滴下終了後、さらに30分に渡って反応液を沸騰状態に保持し重合を完結させ、固形分35%の水溶性重合体を得た。得られた水溶性重合体の重量平均分子量は、6200であり、分子量分布は、2.7であった。
【0134】
実施例1と同様に分析を行った。結果を表2に記載した。
【0135】
比較例1
温度計、撹拌機、還流冷却器を備えたガラス製反応器に、純水1800部を仕込み、攪拌下、沸騰温度(100℃)まで昇温した。次いで攪拌下、沸騰状態の重合反応系中に80%アクリル酸水溶液540部、15%過硫酸ナトリウム水溶液320部、35%過酸化水素水溶液80部、純水600部をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、180分とした。滴下終了後、さらに30分に渡って反応液を沸騰状態に保持し重合を完結させた。得られた水溶性重合体の重量平均分子量は、5500であり、分子量分布は、2.5であった。
【0136】
得られた水溶性重合体からエバポレーターを用いて、水分を留去し、固形分40%の水溶性重合体を得た。実施例1と同様に分析を行った。結果を表2に記載した。
【0137】
【表2】

【0138】
表2に記載のとおり、本実施例に記載の水溶性重合体は、皮膚刺激性が低く、洗剤ビルダー、無機粒子処理剤として使用したときの安全性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の重合体組成物の製造装置を模式的に表した概略図である。
【符号の説明】
【0140】
101 反応槽、
103 コンデンサ、
105 留出用ライン、
107 管内流体入口、
109 還流用ライン、
111 管内用流体出口、
113 管外流体入口、
115 管外流体出口、
117 撹拌機、
119 外部ジャケット、
121 フィードライン、
123 ノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性重合体組成物を製造する方法において、少なくとも反応槽内部にステンレス鋼を用いた反応槽を用いて重合を行い、水溶性重合体組成物中の固形分量に対して鉄およびニッケル成分が、0.1〜2000ppmになるように重合を行うことを特徴とする水溶性重合体組成物の製造方法。
【請求項2】
ニッケル成分の含有量が0.1〜100ppmである請求項1記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
過酸化水素および/または過硫酸塩を有する重合開始剤を用いて重合することを特徴とする請求項1または2記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
少なくともカルボキシル基含有単量体を含む単量体成分を重合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
重量平均分子量500〜2000000のカルボキシル基含有共重合体と、ニッケル成分0.1〜100ppmを含む水溶性重合体組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−336025(P2006−336025A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259208(P2006−259208)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【分割の表示】特願2002−75428(P2002−75428)の分割
【原出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】